横島が謎の三人組に襲われていた時、天界、魔界でも大きな混乱が起きていた。
「何故、人間界と通信が出来ないんだ!?」
数時間前に人間界との交信が途絶えたのだ。
原因は何者かの…いや、誰がやったのかも検討はついている。
間違いなく、アシュタロス一派が何かを使用して、人間界とのチャンネルを遮断したのだ。
そのため、人間界に行く事も、人間界から天界、魔界に戻る事もできなくなってしまった。
「復旧を急げ!! アシュタロスが何かをする前に止めねばならんのだ!!」
天界でもかなり上位に位置する神が、他の連中に的確な指示を出していく。
皆も、チャンネルが遮断されてから一度も手を休めずに、動いているが何ら成果を上げていない。
(くそっ!!……しかし、これなら悠闇にあの指令を送らずにすむな……不幸中の幸いとはこの事だ。)
この神の名を皆は竜神王と呼ぶ。
――心眼は眠らない その55――
始まり平安京。アシュタロスは見た。
横島が、人の身で超加速を使用した事を。
だが、本当に驚いた事はそんな事ではない。
横島の霊波砲はアシュタロスを足止めしたのだ。人間が魔神を足止めしたのだ。それがどれほどの事か、わかるだろうか?
あの時、アシュタロスは横島に殺意を覚えると同時に、横島に、人間に、初めて興味を覚えた。
あの人間は何者か?
あの人間はどうやって魔神を足止め出来るほどの力を手に入れたのか?
ここで一つの仮説が立てられた。
あの人間は、伝説の文珠使いではないのか?
文珠、それは使い方次第でどんな神魔も滅ぼす事が出来る代物。
人間という存在が持つ力で、魔神を足止めする力など限られてくる。
アシュタロスは横島と時空間を移動していた時、横島から同じ魂が二つある事を感じ取った。
アレは、先ほど殺した人間と同じでは?
その魂を吸収したというのか?
しかし前世の魂を吸収する事など、危険すぎる。自らの存在を否定する事に繋がりかねないのだ。
だが、文珠があれば吸収ではなく何か、補助的な役割を持たせる事も可能になる。
しかし文珠なくても、出来ない事もない。
様々な答えを導き出すが、情報が足りない。
結局、アシュタロスは横島が文珠使いの可能性があるという事だけにした。
アシュタロスは月日が経つ連れに横島の存在など忘れていった。
そして1582年6月2日、横島が本能寺で自分の部下を倒した時であった。
アシュタロスは土偶羅魔具羅(以下、土偶羅)と呼ばれる部下を燃え崩れようとしていた本能寺に向かわせ、蜘蛛の死体を回収させた。
横島の失敗は蘭丸にヒーリングをかける事に必死で、蜘蛛の死体をしっかり処理しなかった事だろう。この時、悠闇がいれば必ず、蜘蛛を消滅させたはずだ。
アシュタロスは、本来なら部下が死のうが回収は行わない。
しかしこの蜘蛛は別だった。普通の人間に倒せるはずはないのだ。
本体は地中に隠れて上には操っている人間がいる。あれを見破る事が出来るのは、霊視に特化している神魔でないと無理のはずだ。
となれば間違いなく神魔が動いたのだろう、アシュタロスは多少の危険は承知で、どのような神魔が蜘蛛を倒したのか、土偶羅に蜘蛛の死体を回収させて、死因の霊波や、蜘蛛の脳から記憶を読み取ったのだった。
そんな馬鹿な!?
どんな神魔かと思えば、蜘蛛を倒したのは平安京で自分を足止めする事が出来た人間。
そして、等々その人間が、文珠使いという事を突き止めた。
そして、文珠の能力。
自分の目的は、新世界創造。全ての神、魔、人を支配する事。
それが出来ないのならば完全なる己の―――。
世界創造には、必ず抑止力が働くはず。その時、この人間は自分の前に現れるだろう。
それは理屈云々ではなく、直感だった。
消さねばならない。
……消す? 何を馬鹿な。消した所で新たな抑止力が働くだけなのだから無意味だ。
そうだ―――
全てが敵になるというのならば―――その全てを謀ってやろう。
/*/
「もう逃げられないでちゅよ!!」
目の前に少女が一気に目の前に来る。
横島はサイキックモードを発動させて、何とか少女の拳を掻い潜るが、
「ほら、後ろも忘れんじゃないよ。」
後ろから、横島好みの体をした女性まで蹴りを放ってきた。
「無茶苦茶やんけーーーー!!! ちくしょーーー!! こうなったら―――」
フシュゥゥゥゥゥゥ
「なんでちゅか!? べスパちゃん、そっちにいったでちゅか!?」
「何だ、この煙!?―――分からない、パピリオこそしっかり霊波の流れ―――くそ!! この煙自体が霊波を浴びて何もわからない!!」
《煙》
横島は辺り一面に、煙を発生させて、パピリオと呼ばれた少女と、べスパと呼ばれた女性から離れる事に成功する。
しかし―――
「居たわ!! べスパ、パピリオ!! 何、モタモタしてるのよ!!」
「分かってるよ!!」
「ルシオラちゃんは、カルシウムが足りてないんでちゅ。だから胸―――」
ドォォォォォン
ルシオラと呼ばれた、ちょっと胸がドンマイな女性がパピリオに霊波砲を放つ。
情けが感じられないのは、気のせいだろうか?
『連中はアホなのか?』
「何にせよ、今の内に逃げるに限るな!!」
煙の中から抜け出した途端、上空にいたルシオラに発見されてしまう横島。
本人は気配遮断をしていたのだが、まだまだ一般人程度しか騙せるモノでしかなかった。
それを考えるとあの時、小竜姫を押し倒したのは、今更ながら横島煩悩恐るべしといったところか。
(どうする!? 逃げたところで何ら解決にはならぬ。くそっ!! タイミングが悪すぎる!!)
何の前触れもなく、強襲。
実際は、人間界と冥界とチャンネルが閉じられるという事があったのだが、封印がかけられている悠闇にそれを気付く事は出来なかった。
(敵は横島の居場所を突き止めている。出なければ待ち伏せのような事は出来ぬ。)
前にタマモが横島のアパートを訪れた時は、人間界で暮らしの長いメドーサが人の探し方に熟知していたため、横島の住所を突き止める事も可能だった。
しかし今回は、横島は道を歩いているところに襲撃を受けた。
これは敵が、横島の居場所が分かっていなければ出来ない事だ。アパートから尾行していたならとっくに悠闇が気付いているのだから。
横島、悠闇はわかっていないが、横島の居場所が敵に知られているのは、本能寺の蜘蛛から採取した横島の霊波を利用して、横島発見器のような物をルシオラが作ったからだった。
これで、横島が何処にいようが連中には関係ない。
「さぁ、観念しなさい!!」
(上空に監視を置いて、逃がさないつもりか……しかし……気になるな……)
悠闇は一つ、気になった事があった。
それは先ほどの攻撃に殺意があまり感じられなかった事だ。
(連中の目的……まさか!?)
あの三人の目的、それは―――
「ほら!! パピリオ、べスパ!! アシュタロス様から、必ず生きて連れて来いって言われてるでしょ!!」
―――横島の捕獲。
「お、俺を捕まえる!? 何で!? 美神さんの居場所を吐かせるつもりなのか!?」
『いや、それはあまり意味がない。ここで暴れている時点で西条どの、Gメンが異変に気付くはず。ならば美神どのが匿われる可能性は十分にあるはずだ。』
しかしチャンスだった。対象を捕獲する事は、殺す事より遥かに難易度を上回っている。
「追いついたでちゅよ!!」
「抵抗しなきゃ、痛い目しないですんだのにね!!」
ここで《転》《移》を使えば逃げられない事もないが、ルシオラ達は横島の居場所を発見できる。下手すれば文珠を無駄に2個消費してしまう恐れがあった。
悠闇の失敗は、アシュタロス陣営の恐ろしいまでの技術力を考えに入れていなかった事だろう。
「抵抗しなきゃ、っていきなり殴りかかってきやがった癖に!!」
横島は必死に打開策を考えていた。相手の実力を考えれば文珠を使用しない限り、ダメージを与える事も出来ない。
かといって文珠の数は限られている。残りの文珠は8個。
月でメドーサと戦った時は、5個使用しても倒せなかった。
……結論。
「降参!!」
「「「…………はぁ〜?」」」
横島はその場で立ち止まって、両手を上げる。
その姿に横島に一番近かったパピリオも立ち止まったしまう。
「痛いのは嫌だから降参っす! 神でもアシュタロスでも連れっていいから、優しくして下さい!」
「あっさりしているわね。このまま連れて行かれた所で、殺されるなんて事を考えていないの?」
ルシオラが横島のもとまで降りてくる。
べスパもパピリオも横島に近づいてくる。
これが横島の狙いだと知らずに……
「何にせよ、これで任務完了でちゅね。」
「ルシオラ……別に大した事ないじゃん。」
「そうね……ちょっと拍子抜けかな。」
三人が横島に対して、横に並んだその時、
「喰らえ!!」
何時もよりかなり大き目のサイキックソーサーを展開して、真ん中にいるパピリオに投げつけようとするが、
「聞き分け悪い子でちゅね!!」
パピリオが巨大な魔力を放つ。生きて連れて来いという命令を覚えているのだろうか?
「もらい!!」
『横島!! 気付け!!』
「パピリオ、罠よ!!」
自分の力で倒せないのなら、相手の力を利用して倒すだけ。
横島は投げようとしたサイキックソーサーを盾をして扱い、文珠を掲げる。
イメージは単純でいい。
現在はサイキックモード中。ならば、サイキックソーサーにパピリオが放った魔力を合わせるのは難しくは無い。
そして当たって瞬間、そのまま弾かず、
《共》《鳴》
横島はサイキックソーサーに意識を集中させる。
そして、己の霊力と共鳴させ威力を高め―――
「きっっっ―――」
『横島!!』
《反》《射》
―――跳ね返す。
ドゴォォォォォン
この至近距離からの砲撃。かわす事など不可能。
相手は確かに真正面に居た。
なのに……
「今のはやばかったな……」
「ルシオラちゃんのおかげちゅね。」
「だから言ったのよ。油断しないほうがいいって。」
何故、いつの間に後ろにいるのだろうか?
「んな……いつの間……に?」
『おぬしがサイキックソーサーを展開させた時だ。……あの女、相当な幻術使いだ。』
ルシオラは横島がサイキックソーサーを展開させた瞬間に幻術を発動させて、二人を上空に引っ張り上げたのだった。
横島を侮っていなかったからこそ出来た芸当だ。
「やべ……こうなったら最後のきりふ―――」
『横島!! 首だ!!』
「え?」
チクッ
「―――!?」
横島の首にいたのは一匹の蜂。ただの蜂ではないだろう。
「今度こそ終わりだな。よく聞きなよ。私の眷属の毒は、個人差もあるけど死亡まで8週間から12週間。治すには大人しく……っていってももう動けないか。」
横島の体がふら付く。
それでも必死に意識を保ち、文珠を2個出して、
『横島、無理だ!! それはどんな毒か分かっていて初めて意味があるのだぞ!!』
《血》《清》
悠闇が止めるのを聞かずに飲み込む。
多少意識はしっかりしてきたが、それでも全快には程遠いようだ。
「もう、いい加減楽になるでちゅ。」
『なっ!?―――!?』
パピリオは悠闇に魔力を浴びせて気絶させる。
そして、横島に首輪のようなモノをつけて動きを操れるようにする。
「それじゃ帰るわよ。それにしてもアシュタロス様は何でこの男を連れて来いって言ったのかしら?」
「別にいいじゃん。これでアシュ様が喜んでいただけるならな。」
「そうでちゅよ。ルシオラちゃんは考えすぎでちゅから、全く胸が―――」
ルシオラの制裁がパピリオに下された後、ルシオラ達は横島を連れて亜空間へと消えていった。
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暗い牢獄。そこに一人の女性が両手足を特殊な鎖で繋がれ、壁に貼り付けられていた。
そんな牢獄に今、何者かが現れた。
その者が発するプレッシャーは強大で、並の者では息も出来なくなるだろう。
「……気分はどうかね?」
「……最悪だ。……で、何の用だ? 横島に何をするつもりだ?……答えろ、アシュタロス。」
鎖に繋がれた女性の名は悠闇。GS試験の時から、常に横島を導いてきた者。
そんな悠闇を見下す存在。名はアシュタロス。今や魔王と呼ばれるほどの力を持つ魔神。
「命を取るつもりはないさ。少年は私の大事な駒なのだから……」
「駒!? 貴様、何を考えている!! 横島に何をさせるつもりだ!?」
悠闇が現在、竜神の姿をしているのはアシュタロスが布切れと話すのは嫌だったらしく、無属性の人形でも作って強引に憑依させたらしい。
そして、特殊な鎖で繋がれた悠闇は横島と交信することも出来なかった。
「将棋を知らんかね? 優秀な駒を手に入れたのだから、こちらの味方になってもらうつもりだが。」
「何を言うかと思えば下らぬな。横島が貴様の味方になる―――」
悠闇が最後まで話す前に、アシュタロスは信じられない事を言う。
「記憶を消さしてもらったよ……少年の絆は断ち切らせてもらった。」
それは、横島忠夫という人間を失わせるものであった。
「な、なに…を? 何をするのだ!? まさか横島を魔族にでもするつもりか!?」
「何を馬鹿な事を……少年は少年のままだから強いのだよ。人間のまま……人間のままだからこそ美しい。第一、魔族にでもして貴重な文珠が使えなくなってしまったらどうするのかね?」
アシュタロスが評価したのは、文珠使いとしての横島だ。
「そして堕ちていくのだよ……少年は人間のまま……人間のまま堕ちていく。そのために少年には監視ウィルスや多少の霊体ゲノムを移植させてもらったよ。」
堕ちる。それは何を表しているだろうか?
「少年は私の天地創造のための最大の敵になるはずだっただろう。……しかし今は、私の味方となった。最早、止める術はないのだよ。」
「嘘を言うな。横島が最大の敵になるというのは認めよう。だったら横島を殺せば問題ないはずだ。横島以上の抑止力なぞ存在しないのだから……貴様……何を考えている!?」
悠闇は抑止力も武器の一つと考えていた。
アシュタロスが行う事は、この世界を崩壊させる事に関係している。
ならば必ず、宇宙意志の反作用という抑止力が横島の手助けになると考えていたのだ。
「ふ……全てが私の敵になるというのなら、私はその全てを謀ってやろう。」
「どういう事だ?」
アシュタロスはそれ以上なにも答えず、牢獄から出ようとする。
しかし悠闇は自分を生かしている理由を尋ねる。
「君には万が一の時に私のために動いてもらう。」
「ワレが聞くと思うか?」
「聞かせるのだよ。そうそう……君にここまで話したのは、あの大戦、両親を犠牲にしても天界に勝利をもたらした君にだからこそだ。……邪眼竜、君はこちらに近い存在なのだから。」
アシュタロスは最後にそういい残し、牢獄を後にした。
「………………くそーーーー!!!」
悠闇の叫びは誰かに届いたのだろうか。
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悠闇との話を終えたアシュタロスは、全員を集めて土偶羅に横島の状態を聞きだす。
「土偶羅魔具羅、少年、いや、ヨコシマの記憶操作を終わったのか?」
「はい、これでヨコシマはアシュタロス様の僕になるはずです。」
土偶羅はすぐにアシュタロスの前に横島を連れてきて、挨拶させる。
「え〜と……よく分からんが、アンタの命令を聞けばいいのか?」
「これ!! 態度がでかいぞ!!」
「かわまん。ヨコシマ、これから君にしてもらうのは我が娘の手伝いだ。ここにいるのがルシオラ、べスパ、パピリオ。君の妹達だよ。ぜひ守ってあげてくれ。」
アシュタロスは順番に長女のルシオラ、次女のべスパ、三女のパピリオを紹介する。
「俺に妹が!? 仕方ねえ……何かあったらこの兄ちゃんに言えよ!」
「よろしくね、ヨコシマ。」
「よろしく、兄さん。」
「ヨコシマ、よろしくでちゅ。」
アシュタロスは後は土偶羅に任せる言って、何処かに行ってしまう。
「よし、これからは神魔共の拠点を一つずつ潰していくぞ。」
土偶羅は横島たちを、何かの操縦室に案内する。
「これより、アシュタロス様の天地創造が始まるのだ!! いくぞ―――逆天号発進!!」
――心眼は眠らない その55・完――
あとがき
記憶喪失、ここでなったりして。性格は変わってませんのでご安心を。
パピリオってヨコシマで合ってますよね?
原作の改心したところで言っていたのですが。
現在の時期は、原作でいう雪之丞、弓が襲われた数週間前です。(西条のセリフ参考)
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