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「心眼は眠らない その54(GS)」

hanlucky (2005-03-04 23:28/2005-03-05 00:12)
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すでに日も暮れてよい子は寝る時間だという中、一人の女性が横島のアパートに向かっていた。

「今日は得をしたわね。たかがハイジャックを未遂に防いだだけで、料金タダにしてくれるなんて。……さて、そろそろ忠夫の住所も近いはずなんだけど……」

実はこの女性、横島に会いにわざわざナルニアから、帰国してきたのであった。
その飛行機の中、ハイジャックを企てようとした単独犯の男を見事気絶させて、旅行会社から御礼として、旅費をタダにさせるツワモノでもある。

「えぇと……あ! あれのようね。うちの馬鹿息子の家は……」

この女性、横島の母、横島百合子であった。


――心眼は眠らない その54――


現在、美神除霊事務所にて美神、西条、悠闇の三人が集まっていた。

「で、何の話なの? わざわざ人をこんな時間に集めて……」

美神は今日、自分と西条を呼び出した悠闇にどのような用件か聞き出す。
現在の悠闇は竜神化しており、横島はアパートでテレビでも見ているはずである。

「なに、対アシュタロスに向けて考えてきた策を、美神どのや西条どのには話しておいたほうがよいと思ったからな。」
「アシュタロス!? どういう事!?」
「前に、僕に頼んでいた事以外の事だね。」

アシュタロスという単語に過敏に反応する美神。
西条が言っている前とは、未来横島が来日した際の時の事である。
悠闇は美神が落ち着くのを待ってから話を進める。

「まぁ、質問は後にしてもらいたい……そうだな、まずは―――」

悠闇はシロの事、雪之丞、そして雪之丞を鍛えているメドーサの事、鬼道の事をまずは話していく。

「え〜〜〜〜!? あの年増ヘビ女が生きてるの!?」
「雪之丞を鍛えてもらうには、魔装術に精通して者が一番だからな、鬼道については定期的にアパートに来るのでな、その時に、助言などをしていた。」

何とか、メドーサが生きていた事を納得させて、次に西条に頼んでいたモノについて話す。

「西条どの、進行具合はどうなのだ?」
「効力を強め、副作用をなくすなんて無茶苦茶な条件だからね。いくら特定の人物専用の物といってもまだまだ時間がかかるよ。」
「何とか、アシュタロスが我らの前に姿を表す前に、最低でも横島の分だけは作ってもらいたい。」

悠闇がそのモノの事を知ったのは、横島が悠闇と出会う前の事を話してくれた時であった。
それは横島が以前、自分で使用して自爆したモノで、使うにはリスクが高いものであったが、副作用さえなければ、十二分のメリットがあったのだった。
西条は悠闇にこの事を持ちかけられた時、美神を守るためになるならばと、その開発のためにカオスや、囚人である南部グループの茂流田や須狩といったオカルト開発に精通した連中の力を借りることにした。
また、副作用を伴わずに効力を強めるなんて、条件を達成するために他の部分を削る、例えば特定の者にしか使えないといった等の制限をつけたのだ。
特定の者にしか使えないようにというのは、例えば横島の場合、血液(いろいろな所でよく鼻血を出したり、美神の折檻で血まみれになるので入手は簡単。)からどのようにすれば、最も副作用が出ないかと研究する事が出来る。
そうする事によって、横島にしか使えないのではなく、横島が使うのに最も適したモノになるのであった。

「―――それで、ワレが考えたアシュタロスを倒す方法なのだが―――」

悠闇は最後に、どうすればアシュタロスを倒せるか、己が考えてきた策を伝える。

「……なるほどね。おもしろいアイデアだと思うわ。でも何故? 何故、今になって教えるの? 西条さんに教えたのもつい最近なんでしょう?」
「そうなんだ、僕もその事について聞きたい。」

美神と西条は、悠闇が何故、自分一人で策を考えてきて、そして何故、今になって話すのかと問い詰める。

「アシュタロスは、必ずメフィストの転生である美神どのを狙う。これは間違いない。問題はいつ頃にアシュタロスが表れるかであったが、月を狙うといった大胆な行動を取って、しかもそれが失敗したのだ。残す策を殆どないはず。ならば美神どのの体内にある結晶を狙おうとするまで時間もないだろうな。」

だがそれならば、月の事件が終わった時点で話してもいいのではないか? と思われるのだが、そうもいかない。

「あの時はまだ漠然としか策は浮かんでいなかったのでな。形になったのは最近なので、とりあえずは美神どのと西条どのに知っておいてもらいたかったのだ。」

これは建前だ。
策士というのは、あらゆる立場になって物事を考えなければならない。
もし、アシュタロスの計画を知っていて倒す方法が考えつかないとしたら?
もし、アシュタロスの目的が美神の体内にある結晶を狙っている事を知っているとしたら?
もし、アシュタロスが結晶を奪うことが出来なくなれば滅ぶと知っていれば?

(必ず考える者が現れるはずだ…………美神どのを殺害する事を。)

悠闇は、美神と西条にアシュタロスの事を話して、外部に話が漏れることを恐れたのだ。
かといって内密にしてもらうには、美神暗殺の可能性の事を言わなければならなかった。

(しかし未来で美神どのは生きていた。となると、考えられるのは、西条どのがうまく上層部を説得したか、アシュタロスを短期で倒したかのどちらかが高い。)

悠闇のこの考えについては、後に分かることなのだが外れていた。
もちろん情報の少ない現段階で、当てろと言う方が無理があるのだが。
とにかく悠闇はこの後、西条には美神殺害の可能性を伝えて、西条の判断に任せるつもりであった。

「しかし、よくここまで考えていたものね。」
「普段は暇なのでな。考える時間はいくらでもあった。」

だが、アシュタロスが美神暗殺を読んでいないといえるか?

(ヤツとて美神どのの暗殺は防ぎたいはず。そのためには何か策を練っているはずだが……今はわからぬ。もちろん、このまま放っておくつもりはないが……)

悠闇が現段階で考えられる事はそこまでだった。

(……本当はもう少し後で話したかったのだが……もう、そういうわけにはいかぬしな。)

タダスケが示した未来。自分はアシュタロスの事件の際、死ぬ。
しかし時期は分からない。死因も分からない。
最悪、アシュタロスが行動し出した直後に死ぬ可能性だってあるのだ。
死ぬ前に、自分の策が他の者に伝わっていなければ、自分の今まで用意してきた事が無意味になる。メドーサも悠闇の策を全て知っているわけではないのだ。

(とりあえず、これでワレがいつ消えても美神どのと、西条どのがうまく事を運んでくれるな。)


/*/


悠闇が、美神事務所にいる一方、横島は悠闇の予想に反して、未来横島に言われたような文珠の生成、念を籠める練習をしていた。
横島は文珠を覚えてからは、生成しては《還》《元》する事で文珠の生成分の霊力を9割以上を自分に還元する事を行ってきた。
そうすることによって文珠を扱う練習を何度でも行えるからであった。

(やっぱ心眼が居る時と違って、多少難しく感じるな……はぁ〜……俺って心眼に頼りっぱなしだったって改めて思うな。)

未来横島が来て以来、一人で外出する事が多くなった悠闇。
横島は、悠闇は何も話さないけど、必要になったら話してくれるだろうと、相棒である悠闇を信じていた。

(心眼が何かやってるんなら、俺だって心眼が知らないうちに成長してやる!! そして……俺の密かに成長した姿を見せて惚れさせてやる!!」

横島が途中から声を出し、高笑いを上げていると、チャイムが鳴る。

「誰だよ、この霊波は心眼じゃねえし……」

ガチャ

「はい?……ぬぉ!?」

玄関の向こうに居た、人物、百合子に驚き速攻ドアを閉める。

「こら!! 母親がはるばる来たってのに、それでも息子か!?」
「何で急におふくろが居るんだよ!?」

動転する横島。ドアの向こうでは、なにやら百合子は横島の父親、大樹と別れてきたらしい。
横島はその事に驚いて、ドアを再び開ける。

「別れた!? 離婚するのか!?」
「ええ、だから、これ以上父さんに付き合って外国に住む必要もないのよ!」

それから、百合子は今日から横島と一緒に住む事を告げる。

「そんな事、急に言われても―――折角の自由が―――!?」

包丁が横島に迫る。

「うお!? 危ねえ〜……」
「え!?……忠夫、少しは成長したじゃない。」

百合子はもちろん狙いを横島の顔から外していて脅すだけのつもりだったのだが、横島はすぐに後ろに飛びのいて百合子から距離を取る。
百合子は横島の俊敏な動きに、驚くがすぐに冷静さを取り戻す。伊達に大樹の妻をしているわけではないのだ。
すぐに横島を睨みつけて、自分のペースに持っていく。

「忠夫……あんたまさか父さんにつくなんて言わないわよね? おまえは母さんと暮らすのよ。」

そのあまりの剣幕に頷く事しか出来ない横島だった。

「さてと……おかしいわね。思ったより部屋が綺麗じゃない。」

百合子はそのまま、横島の部屋に入っていくが、部屋が思っていた以上に綺麗なので驚いていた。


/*/


西条と話を終えた悠闇は、ようやくアパートの前まで帰ってきていた。
が、部屋に居るのが横島だけじゃない事を気配や霊視で悟る。

(……誰だ? 見た事無い霊波のようだし、というよりGSとかではないな。)

とりあえず、部屋の前まで行く悠闇。こんな夜に訪れる者に何かを感じる悠闇であったが、このまま居るわけにはいかず、鍵を開け、中に入る。

「……帰ったぞ。横島、誰か居るのか?―――似ているな? もしかして、母親か?」
「な!? 何でこんな時間に!?」
「しまった!? 忘れてた!!」

百合子の登場で、悠闇が帰ってくる事を完全に忘れていた横島。
しかし、もう遅い。

「忠夫、説明してもらおうかしら……こちらのお嬢さんは?」
「あ……その……」

説明しろと言われても、説明しづらいだろう。
それを察した悠闇が、自分は横島の使い魔のようなモノだと言う。

「論より証拠。横島、戻るぞ。」
「お、おう。」

悠闇の式神は普通の紙に戻って、バンダナに結晶が宿る。

『これでわかってもらえたか?』
「わかってもらえたか、って! 忠夫、これは同棲よ!! 分かっているの!?」
「同棲?……あ、確かに。」

ずっと、普通に暮らして来たからそういう感覚が無くなっていた横島。
悠闇が竜神の姿で寝ていれば、毎夜燃えるが、バンダナ状態なので何ら進展はない。

『母上どの、とりあえず落ち着いて欲しい。ワレは心眼、本名は悠闇。母上どのは?』
「あ、こちらこそ。忠夫の母の横島百合子です。……とりあえず先ほどの姿になってもらえないでしょうか?」
「俺もそっちがいい。」

百合子が横島の目の上を見ているので、横島としてはあまりいい気分ではなかった。
すぐに式神に宿りなおす。

「とりあえず百合子どのは、横島とワレが同居している事を問題にしておるのだな?」
「悠闇さんですね。……失礼ですが、忠夫とはいつから?」

悠闇はGS試験の日からの日数を百合子に教える。
百合子は横島との関係を悠闇に聞いてくるが、

(……関係か。ワレは横島を守護する存在。そうだ……それ以上でも、それ以下でもないはずだ。)

もう迷いは振り切った。その以上の感情は己を狂わせる。
未来横島が告げた自分の死、アシュタロスの死、横島の生。
自分の未来は死ならば、これ以上の感情は不要。横島にも抱かせるつもりはない。

「ワレは、横島を守護する者。百合子どの、横島とワレの関係に女、男といったモノはない。……そのような事よりも、積もる話もあるだろう。……横島、ワレは事務所に戻る。―――また明日。」

悠闇はそう言い残して、アパートから事務所に戻っていた。

「……いいコね。母さん、ああいうコだったら認めてもいいんだけど。」
「そりゃ、俺の相棒だからな!」
「……この馬鹿息子は何もわかっていないわね。」


/*/


百合子来日から、次の日。
百合子は、横島が勤めている美神除霊事務所を来ていた。

「いつも息子がお世話になっています。」
「初めまして、どうもご丁寧に……」
「こ、こんにちは……」

一般的な普通の会話が流れる。おキヌが緊張しているのは、百合子の存在が原因だろう。愛子は学校のようだ。
その後は、百合子は横島の普段の行い、つまりセクハラについて謝罪して、今回の帰国の理由について語る。

どうやら百合子視点では大樹が結婚記念日をすっぽかした事になっているらしい。
その時の電話越しで大樹は、本当に武装ゲリラに社内を占拠させた事を百合子に伝えたのだが、過去4回全て嘘だった事が全く信じてもらえなかった。
そして百合子がゲリラに代わってくれと大樹に言ったので、大樹は目から下を布で隠したゲリラに電話を渡した所、そのゲリラが女性だったため、完全に誤解が発生したのだった。

「相変わらずの親父やな〜。」
「……というより、何故結婚を?」

美神がそんな男を結婚した理由を百合子に聞く。

「もともと、主人は職場で私の部下だったんですよ。当時から馬鹿でスケベでしたけど……なんとなく憎めなくてね〜〜。」

百合子と大樹=上司と部下=美神と横島。
大樹=馬鹿でスケベ=横島。

妙な方程式が美神の頭の中で出来上がっていく。
百合子は次々で、まるで美神と横島の事を暗示しているような事を言う。

(な、何で……何でそんな、似ているのよ……!?)

百合子は、今まで大樹の浮気癖も多少は大目に見てきたが、結婚記念日をすっぽかすのは我慢の限界だったらしい。今回の事で離婚は確定のようだ。

「ついては忠夫の事なんですが……」

百合子は先ほどのまでと違い、真剣な顔をして、美神に向き合う。

「これを機に、今日でバイトを辞めさしてもらいます。」
『何!?』
「―――!? 待てよ、母さん!! 何勝手なことを―――だからすぐ殴ろうとするな!!」

百合子の左ジャブを頭を捻ってかわし、右ストレートを後ろに跳んでかわす横島。
横島は、強くなってもボケてしまえば高確率でツッコミをもらう男だだ、ボケなければ美神の攻撃もかわせる。
ボケてツッコミを喰らうのは、大阪生まれの魂がそうさせるのだろう。

「ち、すばしっこくなって……まぁいいわ。忠夫、アンタも聞きなさい。」
「な、なんだよ!?」

横島を張り倒す事を諦めた百合子は、美神にバイトを辞めさせる理由を話す。

「―――仕送りを切り詰めれば、音をあげると思ってたんですが……根性のない忠夫にしちゃよくがんばってます。学校もあまり行っているわけでもありませんし……母親としては放っておけません。」
「出席日数は足りてるよ!! だから―――!? 今度はケリかーーー!!!」
「伊達に緑豊かな場所で暮らしてきたんじゃないわよ!!」

時給を上げてもらってからは、多少は授業に出る事も出来る様になったので、留年確定ほどではないが、出席日数はギリギリのラインらしい。
ちなみに余ったお金は庶民らしく、貯金している横島だった。

「とにかくですね……GSになるにせよ、ならないにせよ、卒業してから改めて考えさせたいんです。」
「俺はGSになるって決めてるんだから、勝手な事しないでくれよ!!」

横島は必死に百合子を止めようとするが、美神、おキヌ、悠闇はまともな意見なので反論のしようがなかった。

「それにね……主人と別れたら私の身内はこの子だけでしょ。きちんと働き出したら男の子はもう一人前ですもの。せめてそれまでは手元において、ちゃんと卒業式に送り出してやりたいんですよ……」
(……お母さん…か。)

百合子の真剣な思いに思わず挫けそうになる横島。
そして美神は百合子から美智恵を連想していた。

「……っていかん、俺は事務所をやめんぞ!!」

横島が再び反撃しようとするが、美神によって制止される。

「横島クン……卒業するまであきらめなさい。お母さまを裏切ったりしたら許さないからね!」
「―――!?」
「美神さん!?」

美神は自分が出来なかった分、横島にはしっかり母親を大切にしてもらいたいのだろう。
その事を告げると、流石に横島も何ていったらわからなくなる。

「そ、そんな!? 俺は……美神さんは……俺が……」

俺がいなくて平気なんですか?

「俺が……何?」
「っ………………」

横島はそれ以上言えない。言って拒否されたら、それこそ終わりなのだから。
そうなると取るべき行動は……


「ち”ぎじょーーーーー!!!」


脱兎の如く逃亡。
流石にここから泣き逃げするとは思っていなかったらしく、全員唖然としている。

「……はっ!? 美神さん!! 横島さんを辞めさせちゃうんですか!?」

おキヌが我に返って、美神を問い詰めるが、美神は卒業まで一年半だし、たまには遊びに来るだろうとおキヌと説得する。

「大丈夫よ……お別れってわけじゃないんだから。……お母さんはこれからどうするんですか?」
「今から、前に働いていた会社に行こうと思ってます。そこで再就職させてもらえればと……」


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『……で、少しは気が紛れたか?』
「ぐぞ〜〜〜〜!!! 美神さんのアホーーーー!!! どうせ、美神さんは俺なんかいなくても平気だよなーーーー!!!」
『そう自分を卑下するな。』

居た堪れなくて、あそこから飛び出した横島だったが、ようやく少しは落ち着く事が出来たようだ。

「何で、心眼は言ってくれなかったんだよ? 第一、アシュタロスの事を考えれば、バイトしていた方がいいに決まってるだろ!?」
『アシュタロスが現れれば、嫌でもおぬしは戦いに借り出される。バイトがないのなら、その時間を文珠の扱いの特訓に割くというのも、それはそれで構わぬ。』

ここで問題になるのが、もし横島がいない間に美神のもとにアシュタロスが現れたら? であった。
しかしアシュタロス行動に移れば、必ず和平派の神魔族が気付けるはず。今は、それほどアシュタロスの動向に注意しているのだから。
そのために一応、妙神山のシロを、アシュタロスが行動を起こしたなら、こちらに送ってもらう手筈になっている。

第一、一日中美神の傍に居る事など出来るわけないのだ。
悪い言い方すれば、運が悪ければそれまでの戦いのなのだから。
最高の人材、最高のタイミング、そして運。全てがそろう事でようやくアシュタロスと戦う事が可能になるのだ。
もし悪い条件で戦いが発生したら? なんて考える必要はない。
そんな事態になれば敗北するだけの事なのだから。

「ちきしょー。何かいい方法がないもんか?」

横島が悩みながら当てもなく、街をうろついていると、後ろから声をかけられる。

「横島さん? 奇遇ですね、どうしたんですか?」
「魔鈴さん!? 聞いてくださいよ〜〜〜!!!」

どうやら横島は、いつの間にか魔鈴が経営するお店の近くまで来ていたらしい。
魔鈴はとりあえず、立ち話もなんだからと言って、店に誘い入れる。

「そうだったですか……という事は卒業まで学業一本に?」
「俺はGSになるって言ってるのに……あのババァは全く聞かんし!!」

魔鈴に今朝の出来事を話す横島。
正直な話、魔鈴としては横島がバイトを辞めてもらえる方が嬉しいだろう。

(どうせなら、こっちのお手伝いをしてくれないかしら……料理修行とか……)

しかし百合子のセリフからは、多分横島にバイトをさせる気はないのだろう。

「魔鈴さん、色々相談に乗ってもらってありがとうございました。また、試食楽しみにしてるっす。」
「えぇ、それじゃあまた今度ですね。」

だが、横島はアパートに帰って百合子からとんでもない事を知らさせる。


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「今、何て言った?」

百合子が帰って来るまでに色々言い訳を考えていた横島だったが、それより先に強烈な先制パンチをもらった横島だった。

「だから、母さんの勤務先がニューヨークになったから一緒に行こうって言ったのよ。」
「何でニューヨークやねん!! っていうより何で再就職出来てんねん!?」

普通な女性なら、百合子の年齢なら企業に就職する事はかなり難しいだろう。
しかし百合子は、横島を生むまでは<村枝の紅ユリ>と恐れられた伝説の女性。
その恐ろしさは、百合子が村枝商事に行くだけで株価が上がるほどであった。
一説では百合子無しでは今の村枝商事はなかったと言われ、会社の社長、通称ケンちゃんも頭が上がらないらしい。
そんなスーパーOLが再就職出来ないわけがなかった。そんな百合子はN.Y.支社を任されることになったらしい。

「兎に角、そんなわけらかわん地球の裏側になんて行かんぞ!!」
「しつこいわね、ほら、明日にでも引っ越すんだから今から準備始めるわよ。」

そんなわけで、何処から取り出したのかダンボール箱に物を入れていく。
その手際の良さは、流石は主婦であり、スーパーOLといった所か。

「心眼!! 何とか言ってくれ!!」
『う、うむ……そうだな。』

悠闇としては、流石に横島が海外に行くのは困るだろう。
幾らなんでも、それではアシュタロスが現れた時に対応が遅れる可能性が出てしまう。
文珠で《転》《移》を使えば、事務所に瞬間移動する事も可能だが、文珠二つとの交換は、敵はアシュタロスだけではなく部下もいるはずなのだからかなり痛手になる。

『百合子どの……流石にそれは―――』

悠闇が何か言おうとした時、チャイムが鳴る。
誰かが来たかと思えば、玄関にはおキヌがいた。

「ああ!! おキヌちゃん、いい所に来てくれた!! 実は―――」

横島はおキヌにも百合子に何とか言ってもらおうと、引越しの事を伝えるが、

「ニューヨークへ引越し!? お仕事の都合で!?」
「あ、ちょっと!? おキヌちゃん、カムバーーーーック!!!」

横島が止める間もなく、何処かに行ってしまう。
どうやら美神や、皆に今の事を知らせるつもりらしい。

「行っちゃったわね……さぁ、忠夫。アンタも手伝いなさい。」
「だっかっら!! 俺は行かん!! 行くなら母さん独りで行ってくれ!! 仕送りも、もういらん!!」

いよいよもって横島もキレ始めてきたようだ。
確かに学校の事は認めてないが、認めよう。だがN.Y.に行くのだけは真剣ゴメンだという事だ。
しかし、そんな興奮状態の横島を見ても百合子は動じない。
横島が行かない理由も検討がついているのだろう。

「…………よーするにどっちなの? おキヌちゃんってコ? それとも美神さん?」
「え?……ど、どっちって……あえて言うなら両―――!? ぬお!?」

いつの間にか、カッターが横島の目の前に存在していた。
照れていた為、反応が遅れる横島。そのまま百合子に詰め寄られる。

「父さんじゃあるまし、両方なんてチャランポランな答えは許さないわよ……」
「どっちったって……(他にも小竜姫さま、魔鈴さん、小鳩ちゃん、愛子…………)」

延々と知り合いの名前が浮かんでくる横島。大樹の息子なだけはある。

「……に、それに心眼だな。うん、どっちって言われたって―――」
『横島……声に出ているぞ。』
「はっ!?……母…さん?」

目の前には鬼が居た。
絶対的に生命の危機を感じたので即降伏して、許しを請う横島だった。
土下座が似合う男、横島忠夫だった。

「……まぁ、アンタのそれは遺伝だからね……そうね、母さんも鬼じゃないんだから、あんたの事を泣いて止めるコがいるなら考えてあげないこともないけど……」
「本当だな!? 俺を引き止めてくれるコがいたら行かなくていいんだな!?」

横島がチャンスとばかりに百合子に約束させる。
百合子はそんな横島を見て……

「……いいわよ……」
「何を哀れんでおる、このババァ!!」

哀れんでくれた。

「しかし今の言葉、心眼!! 俺の―――」
「あぁ、悠闇さんはダメよ。だって使い魔なんでしょ? 一緒に行くんじゃないの?」
『なるほど、確かに……』
「何を納得しとるかーーーーー!!!」

普通に百合子の考えに納得してしまったため、悠闇に頼る事が速攻ダメになってしまった横島だった。


/*/


美神はN.Y.を独り歩いていた。
今回、N.Y.を訪れた目的、それは、

「――ー!? 横島クン!!」
「み、美神さん!?」

仕事のついでと言いながらも、N.Y.に来た本当の目的は、卒業間際になっても連絡を寄越さない横島に会う事だろう。
美神は横島にいつ頃、日本に帰国するのか聞くが、横島は黙ってしまう。

「……すみません。俺、もう戻らないつもりです。」
「え?」

意外な事言う横島にキョトンとしてしまう美神。
そんな二人に近づいてくる者がいた。

「美神どのではないか!! 懐かしい……」
「心眼!! 久し…ぶ…りって何抱き合ってんのよ!? キャラが変わってるわよ!!」

悠闇はそのまま横島に抱きつくと、横島も右手を悠闇の背中に回して、美神に向き合う。

「おふくろがコイツの事、気に入ってくれまして……この街にも大切な友達も出来ましたし……」
「すまぬな……美神どの…我らの事、祝ってくれるな?」

幸せ顔の二人。
沸々と美神は怒りが立ち込めてきた。
勝手にN.Y.に行って、いつの間にそんな関係になっているなんて……

でも…何て言ったらいいかわからない……

それでもこのままでは悔しいから最後に何か言ってやらねば。

「―――」

美神が何か言おうとした辺りが暗くなる。


「…………はっ!?……夢? 夢か……なんであんな夢見たのかしら……」

とりあえず落ち着くために、牛乳を飲もうとする。
何やら廊下から人が走っている音が聞こえる。どうやらおキヌが帰ってきたのだろう。

「美神さん!! 聞きました!!」

予想通り、おキヌだったのだが、何か慌てているようで勢い良くドアを開けて部屋に入ってくる。

「帰りがけに横島さんちに寄ってみたら、引っ越すって!! ニューヨークって何処ですか? 遠いんですか!?」
「ぶーーーーーー!?」

おキヌの発言に思わず、牛乳を噴いてしまう。

「よ、予知夢?……どういう事!? おキヌちゃん!!」

美神はおキヌに詰め寄り、詳しい話を聞こうとするが、おキヌも百合子の仕事の都合としか分かっていない。

(大体アンタが居なけりゃ策も何もあったもんじゃないでしょ!?)

アシュタロスを倒すには、横島の存在は必要不可欠。
横島が居て、初めて勝算がでてくるのだ。

(……でも、N.Y.っていっても、横島クンならすぐ帰ってこれるし。)

横島なら、文珠を使用すればすぐに美神のもとに駆けつける事も可能。

(あの時のお母さんの顔……一緒に居てあげた方が……いいにきまってるわよね。)

あの時、それは百合子が自分の身内は横島だけになると言った時である。

「はぁ〜〜……アレ、おキヌちゃんは?」

人工幽霊一号に聞くと、他の皆にも知らせにいったらしい。

「……大丈夫よ。横島クンが帰って来るまでの時間ぐらい、どうにでもなるわよ!」


/*/


現在<魔鈴>にて横島の送別会が開かれていた。もちろん、これは横島が計画した事である。
横島はこの送別会で、雰囲気を盛り上げて、誰かに引き止めてもらうつもりだったのだが、すでに多くの人がどんちゃん騒ぎを始めていて、それ所ではなかった。

(や、やばい……何で誰も止めてくれんのや!?)

魔鈴の場合、別に横島が何処に居ようが、魔法を使えばどうにでもなると考えているので、左程気にしていない。
愛子は青春云々で、すでに自分の世界に入っている。
小鳩は、美神同様に母親関連の問題に弱い。
西条はアシュタロスの事を知っているが、アシュタロスが行動を起こせば、何らかの前兆が現れると予想しているので止める気はない。
頼みのおキヌは、先ほど百合子の圧力に負けて、酒の勢いで突撃しようとしたが、そのまま寝込んでしまった。

「はぁ〜〜、ちょっと外出てくる……」

横島は隣に座っている百合子にそう言って、<魔鈴>から出る。

「なぁ、俺どうしたらいいと思う?」
『……行きたくないのだろ?』
「そらな……後は、美神さんに頼むしか……でもこればっかりはな〜〜。」

美神が横島に母親を大切にしてもらいたいと思っている気持ちが分かる以上、そんな事頼むわけにはいかない。

『……まぁ、考えはある。横島、式神の準備を……』
「え? 何か知らんが、わかった。」

横島が作った式神に悠闇が宿る。
その作業もすでに手馴れたもので、悠闇が霊力を使用しない限り、数日間はこれに宿る事も可能になっていた。

「まぁ、任せろ。おぬしがアメリカに居るのは、何かと不都合が多いからな。」
「おい……!? 何処行くんだよ!?」

悠闇は答えずに、何処かに消えていった。


/*/


話は現在、ゲリラに潜伏されている大樹の場面に移る。

「”ユリは朝7時N.Y.に出荷する”……何の暗号だ?」

大樹に銃を向けたまま、女ゲリラが、百合子が大樹宛に送ったFAXを読んでいた。

(それが最後のチャンスってわけか……)

相手がゲリラだろうが、やる時はやる男。
大樹の覚悟は決まった。


/*/


美神は送別会も終わり、酔いつぶれているおキヌを連れて事務所にようやく変えることが出来た。

「遅かったではないか……」
「心眼!? どうしてここに!?」

悠闇は横島と別れてから、事務所で美神が帰ってくるのを待っていた。
美神はおキヌを背中に背負って、とりあえずベッドに寝かせに行く。

「……それで、どうしたっていうの?」
「いやなに、唯の助言だ。少しは素直になってみては……と思ったのだがな。」
「……なにそれ。先生と同じ事言うのね。」

美神は<魔鈴>での唐巣に大切な事を決める時は、自分に正直にと助言されていた。

「横島が居なくても、平気なのか? 横島は美神どのや、おキヌどの、皆と別れる事を拒んでいるのだ。……離れてからでは遅いのだぞ。」
「………………」

悠闇が美神を選んだ理由は、未来横島の存在だろう。
美神なら横島を幸せにしてくれる。そんな結果が出ているのだから……
悠闇は美神がだんまりを決め込んだので、そのまま事務所を後にしようとする。

「……ねえ? 心眼はそれでいいの? 心眼は―――」
「ワレは横島を守護する者。そのためには、横島は美神どのの傍に居てもらった方が何かと都合がよいのでな……アシュタロスを倒す。そのためには横島が美神どのの傍に居る方が何かと都合がよい。」

最優先は横島の存命。アシュタロスが生きている限り、必ず横島の身に危険は迫る。
それならば、美神というアシュタロスが狙う標的の傍にいて、対抗した方が確率は高い。

「……夢。」
「え?」


「横島や美神どのと共に生きた時間、それは夢のような時間だった。それも残り僅かな時間しか見られない……最後までワレに夢を見せてくれぬか?」

夢、それは楽しかったり、悲しかった、様々なモノがある。

「……何で過去形なの?……でも…夢のような時間…か。」

だが全ての夢に共通する事がある。

(この夢……いつまで見れるのか……)

それは夢は、

「本当にいい夢だ……」

夢はいつか覚める。


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結局、<魔鈴>でも送別会で誰も引き止めてくれず、次の日、空港に居る横島親子であった。

「本当によかったの? 友達全員の見送り断っちゃって……」
「人数多いと引き止めにくいと思ってさ。」

横島はクラスメイトを始め、全ての知人の見送りを断っていた。

「引き止める? あんたを? 誰が?」
「美神さんに決まってんだろ!!」
「……理由は?」

相変わらずわけわからん息子の言動に、とりあえずその自身は何処からきているのか聞き出す。

「そりゃ〜……俺を愛しているから。」

百合子は飛行機の時間まで時間があったのでタバコを吸う事にしたようだ。

「無視すんじゃねーーー!!!」

キめたというのに、完全にスルーされた横島。

「まぁ、いいや。トイレ行ってくる。」

横島は百合子にそう言ってからこの場を離れる。
行き先は、人が殆どいない所で、辺りを確認してから何かを取り出す。

(くそ〜〜。心眼も結局帰ってこなかったし。アイツ今、何処に居るんだ?)

横島が取り出した物。それはザンス国王来日の際、テロリストを捕まえた時に使用したヘンゲリンαだった。
西条は、横島に一粒渡しただけだったのだが、後で隙を見て、何粒か盗んでいたようだ。

(確か効果は5分だったよな……これで美神さんに化けて……この横島忠夫!! 事態を成り行きにまかせるほど消極的ではないのだ!!」

途中から声丸出しで、高笑いする横島。当然、周りから変な目で見られているのだが、そんな状態で変身するつもりなのだろうか?

「―――全く、余計な事をするな。」
「なっ!?……心眼か。何処に行ってたんだよ?」

いきなり現れた悠闇に驚く横島。
悠闇は事務所を出てから、街を散歩していたらしい。

「そんな事せんでも大丈夫だろう。美神どのが動いてくれたからな……」
「え? 美神さんは俺が目覚まし止めて、まだ寝てるはずなのに……」
「その時ワレも一緒に居ただろうが……ワレが直しておいた。」

横島は、送別会が始まる前からこの変装を考えていたので、送別会前に美神事務所の目覚ましのセットを止めておいたのだった。
しかし、悠闇が美神を説得する前に、再び直していたのでそれを現在の美神は、百合子と話をしている最中である。

「美神さんが俺のために!? 美神さ〜〜ん!!」
「ま、待て!!」

その事を聞き、百合子のもとに走って行く横島。
たどり着いて見れば、確かに美神と百合子が何か言い合っていた。
二人の顔からは百合子が美神を押しているのかもしれない。

「美神さ〜〜ん!! 愛っすね!! やっぱ―――」

横島が美神に抱きつこうとするが、美神は携帯していた神通棍で叩き落とす。

「ぐぉぉぉ!? 愛が…愛が痛い……」
「な、何が愛よ!? 私は心眼が頼んだから、仕方なくアンタを引き止めてあげようと思っただけよ!!」

顔を真っ赤にして、神通棍で追撃する。

「大体、いい加減そのセクハラを―――」
「ちょっと美神さん、やりすぎじゃなくて?」

百合子が美神の神通棍を抑える。目の前で息子が乱暴されているのだから止めるのは当然だろう。

(今のしばきかた……かなり慣れているわね……身内でもないのにいつもこんな事やってきたわけ?)

美神の手馴れた折檻に苛立ちを覚える。
思わず、そのまま神通棍を床に倒れている横島にグリグリと押し付けてしまう。

「うちの息子を自分の所有物みたいに扱うのは感心しないわね。もうおたくの部下じゃないんだから、未練がましく身内ぶるのはやめてもらえないかしら?」

イヤミったらしく美神を口撃する百合子。
それにカチンときたのか美神は神通棍を奪い横島を突付きながら反撃する。

ゴゴゴゴゴゴゴゴ

二人の殺気が神通棍を通して、周囲に霊波を放っている。

「気持ち悪い〜〜〜お酒なんて読むんじゃ…な…か…た? 何、この異常な霊圧!?」
「おキヌどの、下手に近づくと巻き添えを喰らう。」
「悠闇さん!? どうなってるんですか!?」

ようやく気分も落ち着いたのか、おキヌが美神たちのもとに合流する。
しかし現在はおキヌが入っていける空気じゃないようだ。

「本人はイヤがってるじゃないですか……」

いや、横島がどう思っているかじゃない。大切なのは自分の、自分達の思い。

「それに横島クンは……」

横島を連れて行く事を認めるわけにはいかない。

「横島クンは……」

横島は自分達にとって大切な……

「横島クンは私達の―――」


ドゴォォォォン


空港に一機の飛行機が突っ込んできた。
その中からは、ふらふらの大機が出てきて、ゲリラに捕まっていたという浮気じゃない証拠と、結婚記念日としての指輪を見せる。

「もう来ちゃったの? もう、ひと息だったのに……」

百合子は大樹が来る事は分かっていたみたいで、美神に笑顔を向けて、横島の事をよろしく頼む。

(でも……忠夫を本当に思っている人が結構いるみたいだしね……これなら少しは安心できるわ。)

結局は百合子の貫録勝ちという事なのかもしれない。
美神は百合子に次こそは勝つ事を誓う。


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百合子が大樹と仲良く帰って、数日経ったある日。
横島はいつものように事務所に向かって歩いていた。

「そういえば、心眼。もし、あのままニューヨークに行く事になったらどうするつもりだったんだ?」
『行く事になったらか? 別に美神どのならうまくやるだろうと思っていたからな……まぁ、していえば魔鈴どのにいつでも日本に帰ってこれるような、異界をうまく繋げてもらうつもりだったが……』

アメリカの横島の自宅に、魔鈴の家がある異界に繋がるようにして、そこからさらに<魔鈴>に繋がるようにするといった感じだろう。
そうすることによって文珠の使用無しに、魔鈴といつでも連絡がつくなら一時間もしないうちに美神除霊事務所につく事が可能になる。

『まぁ、空港での百合子どのの顔を見ていたら、何となくああなるような気はしていたがな。』
「そんなもん―――!?」


ゾクッ


悪寒が走る。それは絶対的な死の予感を告げるモノなのかもしれない。


「おいおい、メドーサに匹敵してないか!?」
(馬鹿な!? これほどの連中を神魔が気付かないはずがない!!)


何故なら、目の前に、後ろに、空に、死神がいるのだから……


「ターゲット発見でちゅね。」


目の前に居る少女は何者だ?


「さっさと終わらせて帰ろうぜ。いくら黒竜将がついていようが、封印されているんだろ? だったら私達の敵じゃないよ。」


後ろにいる女性は何者だ?


「油断しない方がいいわね。アシュタロス様はこの男の存在を危惧したから、霊的拠点を潰すより優先させたんでしょ。」


空を飛んでいる女性は何者だ?


(標的? どういう事だ? 標的は美神どののはず。何故、横島が狙われねばならん!?)
「ど、どうするよ? 明らかに狙われているだが……」

まだ相手までは距離がある。
しかし相手の実力を考えれば、こんな距離など無きに等しい。
幾らなんでも分が悪すぎる。メドーサを三人同時に相手にするようなものだ。

『横島、逃げ―――』
「もう逃げられないでちゅよ!!」


その日、横島が事務所に行く事はなかった。


――心眼は眠らない その54・完――


あとがき

あんまり再構成できてないな……
途中で切ると変になりそうなので最後までいきました。

悠闇が西条に頼んだモノ。簡単に分かるモノですが、分かっても抽象的に言ってもらえる助かります。

それにしてもようやくアシュタロス編突入です。

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