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「心眼は眠らない その53(GS)」

hanlucky (2005-03-02 17:22)
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「それじゃ、準備が出来次第、時間移動するつもりだ。」
「がんばってね、信じているわよ。」

タダスケは病院のベッドで横になっている令子と軽いキスをしてから、病室を出ようとする。
だが、ドアを開けようとした時、令子がタダスケを止める。

「ねえ、心眼はどうするつもりなの?」
「―――!?……わからない。今は、お前を助けることしか考えていないからな。この十年の絆を俺は失いたくない。……それだけは本当だ。」

相変わらず、不器用なヤツね、と令子は笑いながら、タダスケにこちらに来るように言う。

「はっきり言ってあげるわ。例え心眼が生きていても、私はあなたと結婚するわ。私とあなたが結婚したみたいね……だから、迷う必要なんてないわよ。」

令子がタダスケと結婚できたのは、完全に令子の作戦勝ちだった。
タダスケと既成事実を作り、それから強引な搦め手で、結婚にまで至ったのだった。

「問題はどうやって、心眼を助けるか、よね。……う〜ん、ほら、アンタの考えを教えなさいよ!」
「え? あ、ああ。俺が考えていたのは―――」

完全に令子のペースに嵌ったタダスケ。
タダスケは今まで、悠闇を助けるには、その時期や、死因、きっかけを教えればを教えればすむと考えていた。
しかし令子はそれでは、あまり意味がないと言う。

「……それじゃ時期がずれるだけでしょうね。……それにもしあの時がきっかけだというなら……(避ける事は可能なの?)……」
「……それともう一つあるんだ。」

令子が悩んでいるとタダスケがもう一つの案について話す。
それは10年前、自分がやられたように横島を叩きのめすという事。
そうする事によって、横島の霊波の質を変えて、一気に成長を促すというモノだった。
その時にタダスケは、自分の未来タダスケの事については触れなかった。それはある理由で令子が未来タダスケの事を覚えていないからだ。

(ただ、俺の時はそれでも心眼を助ける事は出来なかった。……!? アレ? そういえばあの時の、未来の俺は心眼に伝えることを何故しなかったんだ?)

タダスケは自分と同じように、未来タダスケも悠闇に伝えようとしたが、それを悠闇は拒んだという事を知らない。
結果、タダスケの主観では未来タダスケは、タダスケに発破をかけただけにしか見えなかったのだろう。

(そうか!?……理由はわからないが、未来の俺はそれをしなかった!! だが俺は心眼に、あの時の事を伝える。それすれば―――心眼は救える。)

もし、タダスケが、未来タダスケと悠闇の会話をしっかり聞いていれば、未来タダスケが悠闇に伝えることをしなかったのではなく、出来なかったという事をわかっただろう。

「……とりあえず、アンタの案のように自分を鍛えたらどう? 心眼を救うんだったら、何かと都合がいいでしょ。」

もし令子が未来タダスケが来た時の記憶を持っていて、タダスケ自身が一度それをされている事を知っていたら、令子はこのような事を言わなかっただろう。

「あぁ、そうするよ。(10年前の痛み……思い出しただけでムカツクな。ちょうどいいや。俺と同じ目に合わせてやる。)」

そんなわけで横島からすれば、見に覚えの無い八つ当たりをさせる事が決定するのであった。

「後はその時に、適度に脅しも入れておけば、俺の目を覚ますには十分だろ。あの時の俺って心眼に頼りっぱなしだったしな。」
「本当にね。ちゃんと教育して来なさいよ。……しっかりして来なさいよ。私は心眼を倒してこそ真の勝利だと思ってるんだから。」

もう一度、キスをかわしてからタダスケは病室を……

「それじゃ!! 過去に行く前にいっぱ〜〜〜つ!!!」
「待たんかコラ!! こんな所で!!」

ルパンダイブ発動で令子を押し倒すタダスケ。

「だめ…人が…ぁ! だ、か…ら、ダメって―――いってるでしょうか!!」
「ぐぉぉぉぉ!? ボケただけなのに!!」

病に侵されても、そのツッコミの切れ味は健在だったらしい。

「ほら!! さっさと悪役にでもなってきなさい!!」
「痛い、痛いって!!」

ようやくタダスケが病室を出て、残された令子は一人呟く。

「私は美神令子よ……欲しいモノは必ず手に入れるんだから……」


――心眼は眠らない その53――


朝を迎える。
タダスケは昨日の事を一晩中が考え続けていた。

(未来の俺は、今の俺と同じ行動を取った……だが悠闇に邪眼で口を封じられ……最後まで伝えることは出来ず、代わりに横島に伝えようとするも、それでは令子を失ってしまう。)

自分が取ってきた行動は、まんま未来タダスケと同じだったと悟ったタダスケ。
10年前の事なので今まで、細部の所まで覚えているわけではないが、そう考えれば多くの辻褄が合うのだから……

(令子……俺はお前を失いたくない……でもこのまま帰ったら……怒られるんだろうな……)

自分が最も愛する存在、自分が最も信頼した存在。
天秤にかけるにはあまりにも酷であった。

(何かあるはずなんだ……時間はまだある。考えるんだ……)
『お早う。よこ…タダスケはもう起きているのか?』
「あぁお早う。それじゃ…忠夫を起こすか。」

タダスケは横島をたたき起こして、呼び名を練習をさせる。ちゃんと練習しておかないと、ボロが出るからだろう。

「いいか? 今の令子が、事の次第を知ったら、どういう行動に出るか考えてみろ。下手すれば、殺させる可能性もあるんだからな、だから絶対正体がバレるわけにはいかないからな。」
「あぁ、わかった……タダスケおじさん…これでいいか?」

確認も終えた一同は事務所に向かう準備を始める。

「なぁ、心眼……今日の除霊だけど……俺に任せくれないか?」
『……ほう、相変わらず変わり身が激しいヤツだな。つまりワレの助言は要らぬという事か。……ならば、覚悟が必要だろう。タダスケ、式神を作ってくれ。』

タダスケは言われた通りに式神を作る。

「一つ、用事があってな……すまぬが今日の除霊は二人で行ってくれ。」
「え!? そんな事して万が一……わかったよ……俺が心眼の助けが無くても、やれるって事を証明してやる!」

一瞬、弱気になった横島だが、タダスケや悠闇と目が合って、覚悟を決める。

「そんなに心配することはなかろう。今日はタダスケも一緒なのだ。……タダスケ、横島を頼む。」
「あぁ、うまくやるさ。」

こうして、横島は悠闇の補助無しで除霊に向かうことになる。


/*/


「横島さん、遅いですね〜。やっぱり昨日の事気にしてるんじゃ……」
「あいつはそんなタマじゃないでしょ!」

そう言いながらも美神は昨日の事をきっかけに、少しでも横島が成長してくれればいいと思う。

「ちーす、美神さん。おはようございます。」

本来なら、美神が将来自分のモノになると考えると鼻血モノなのだが、今日はいつも頼りにしている悠闇が居ないため、若干緊張気味の横島だった。

「遅いわよ……誰?」

美神が横島の後ろに居るタダスケを見つけて、横島に誰か聞こうとする。

「(かわいい……しかも若い、いや今はそれ所じゃないな)……横島タダスケです! 忠夫がいつもお世話になっています。」

タダスケは、一瞬、若い美神にダイブをかましそうになるが、何とかそれを抑える。
そんなタダスケが葛藤している最中に、横島がタダスケの自己紹介をする。

「―――これ、いい神通棍、使ってますね。」
「え? ええ……」

除霊に同伴させてもらうためにも、あらかじめ自分の実力をある程度わからせておく必要がある。
タダスケは、除霊の際、武器を使うような事はほとんどしないが、決して使えないわけではなかった。

「―――!? (す、すごいわね……一体この馬鹿の家系はどうなってんのよ……)」
「忠夫がこちらでお世話になっているようですし……ぜひ、仕事を見学させていただけないでしょうか?」

タダスケの見事な神通棍の扱いに感心する美神。もちろんこれほどの実力ならば、除霊の最中にも邪魔にはならないので、了承する。

(本当に……横島クンといい、横島家って霊能を秘めた家系なのかしら?)

美神の推測は、結構当たっているかもしれない。何故なら横島の親父は気合で悪霊を倒すような男なのだから。

「それじゃ、これからすぐ仕事なんです。地下鉄で妖怪の仕業らしい失踪事件があって―――」
「それは、ぜひ……ご一緒させてください。」


/*/


地下鉄を歩く美神、おキヌ、そしてその二人の後ろを歩く横島とタダスケ。
ちなみに、悠闇が今日は居ない事は美神にすでに伝えてある。

「なぁ? もしかして、この仕事がそうなのか?」
「あぁ、思い出した! この仕事で間違いない。あの時も確か悠闇が―――!?」

タダスケはここで決定的な事を思い出す。

(そうだ、あの時も、確か悠闇はこの除霊に参加していなかった!! 完全に10年前と同じ事をしてるじゃないか!!)

あの時も、タダスケは悠闇に自分で除霊をさせてくれ、と頼んでいたことを思い出す。

(いや、落ち着け……今は令子を助けるのが先だ。こうなった以上、除霊がすんだ後に何とかするしかない!!)

いつまでも失敗したことを悔やんでいるわけにはいかない。
タダスケは気を引き締めなおす。

「忠夫、俺は文珠を使うわけにはいかない。それを覚えておけよ。」
「お、おう。……なぁ、歴史って簡単に変わるもんなのか?」
「ただ変えるだけじゃダメなんだ。……うまく変えてみせるさ。それに第一、あの時も―――!?」

そう、あの時も未来の自分は血清を持ち帰ることに成功したはずだ。
それは歴史が―――


(くそ!! 思い出すのが遅いんだよ!! 思い出せ、あの時、俺や未来の俺は、どんな行動を取っていた。)


―――繰り返されている証拠なのだろう。


「何、ブツブツ言ってるの? 敵の気配が近いんだから、しっかりしなさいよ。今回は心眼無しなんだから、いつもみたいに助けてもらえるわけじゃないんだからね。」
「う、うっす。」

タダスケが悩んでいる内に前方から、うめき声が聞こえる。
うめき声は、上から聞こえており、そこには多くの人間が、糸のようなモノで体中巻きつけられて動けないでいた。

「ほどけーーー!!! 私がいないと契約がーーー!!!」
「ンンーーーンーーーー」

妖怪に捕まっているというのに、契約云々言えるのは、最早立派と言うしかないだろう。
そして、その男の近くに妖怪である巨大な蜘蛛が卵を産んでいた。

「何かの理由で蜘蛛が変化した妖怪みたいね。あんなのが繁殖したら大変だわ。」

美神が冷静に蜘蛛の分析を始める。
そんな美神に、捕まっている人達が早く助けてくれ、と願う。

「……優先的に助かりたい人は金出してね♪」

美神のセリフと同時に、上からお札が大量に降ってくる。
どうやら捕まっている人達は、手は動かせるらしい。

「てなわけで、極楽へ―――」

美神が蜘蛛に向けて、銃を撃つ。弾は対妖怪専用のモノだろう。
その弾は蜘蛛に命中して、蜘蛛は美神たちのもとに落ちてくる。
美神はその隙を逃がさず、神通棍を鞭状にして、蜘蛛を叩こうとする。

「―――行かせてあげるわ!!」

しかし蜘蛛は玉砕覚悟で、美神に特攻を仕掛ける。あれでは、もし一撃で倒せねば、間違いなく蜘蛛の一撃をもらってしまうだろう。

(耐えろ!!、一度、令子が刺されてからなんだ!! それから―――)

タダスケは、令子が蜘蛛に刺された瞬間に、一気に勝負を決めるはずだった。
そのはずだったのだが……

「美神さん!!(ようは、美神さんが毒をもらわなきゃいいだよな!!)」
「え!?」

横島が美神を抱き寄せて、蜘蛛の爪から守る。
もちろん自分が喰らっては洒落にならないので、自分自身が喰らわずに細心の注意を払っての行動だった。

(あああああ!!! 何やってんだーーーー!!!)

昨日の夜の悠闇と自分の話を理解していると思ったのが失敗だった。
横島なりに考えての行動だったのだが、タダスケからすればありがた迷惑この上なかった。

「美神さん!! 怪我ないっすか!?」
「え? ええって何、邪魔してんのよ!! おかげ急所を外しちゃった―――」
「ダメだ!! 美神さん!!」
「きゃっ!?」

蜘蛛はその巨体からは考えにくいスピードで、美神に迫っていた。
横島を突き放した美神であったが、蜘蛛に気付いた横島が、再び美神を抱き寄せ地面に倒れこむ事で難を逃れる。

(もしかして……もう歴史は変わったのか?)

タダスケも思わず呆然としてしまう。昨夜の悠闇のハッタリを信じれば、自分の居た時空が消える可能性も出てきたのだから。

「ななななに、人を抱きしめてんのよ!!」
「だってあのままじゃ美神さんが!!」

軽くパニック状態になる美神。
先ほどから横島に抱きしめられているのだから、恋愛初心者な美神には仕方ないことだろう。
横島については、今回の除霊はかなり真剣なようで、美神を抱きしめた時の感触に暴走する事はなかった。

(頑張れ俺の理性!! 我慢我慢やーーー!!)

といってもかなり理性を総動員していたようだ。

「きゃーーー!!!」
「「おキヌちゃん!?」」

横島と美神が漫才をしている内に、蜘蛛はおキヌを標的にしたらしい。
二人がおキヌの方を見ると、タダスケがおキヌを守っている状態であった。
はっきりいって蜘蛛はタダスケの敵ではない。倒そうと思えばいつでも倒せる。
しかし、美神がまだ毒に感染していない以上、どうすればいいか迷っていた。

「待ってて!! 今、助けるから!!」

横島と美神が駆けつけてくる前に、蜘蛛はこれ以上は無理か、と判断したのか後退していく。

「くっ!! 逃げられたわね……」

美神は、仕方ないか、とトンネルの上で、蜘蛛の糸によって体中を巻かれて動けない人達の救出作業をする。
数人救出すれば、後は各自で救出作業が出来るだろう。

「おい、おい忠夫!! ちょっと、こっちに来い!!」
「え? 何だってんだ?」

タダスケが美神達に話を聞かれないような場所に横島を引っ張っていく。

「少し言い忘れていた事がある……いいか、よく聞いてくれ。」

タダスケは横島に、美神が一度、毒に感染する必要がある事を告げる。

「必ず血清は手に入れて見せる!! だから俺を信じてくれ!! 頼む!!」

横島はその事に反発するが、タダスケが必死の形相にうんと言わされるしかなかった。

「それじゃ、俺は美神さんが刺された瞬間に、美神さんを連れて逃げたらいいんだよな?」
「あぁ……!? おい、呼んでいるようだぞ。さぁ、行こう。」


/*/


美神、横島、タダスケはおキヌを置いて、蜘蛛が逃げ込んだ奥に向かっていた。
おキヌを置いておいたのは、今回の敵のように強襲される恐れがあっては、危険と判断したらしい。

(……今日の横島クン。心眼が居ないせいか、いつもよりしっかりしているじゃない。……普段もこれぐらい頑張ってくれたら文句ないんだけどね。)

先ほどの横島の行為も冷静に考えれば、悪くない判断だったと、美神は今日の横島の働き振りを高く評価していた。

(思い出せ……俺の時はどうだった? あの時の未来の俺はどうやって血清を手に入れたんだ!?)

タダスケは歩きながら、必死に10年前の事を思い出そうとしていた。
それが油断に繋がろうとは、この時、誰が思っただろう。

「見鬼くんの反応が強いわね……もう近くに―――」

バキバキッ

「ゴァァァァァ!!!」

蜘蛛は壁を突き破り、タダスケの後ろを取った。
タダスケは思いに更けていたため、反応が遅れる。

「くそ!! っ!?」

何とか、その脚力で肌に爪が触れることはなかったが、代わりにスーツが破けてしまう。
美神と横島が駆けつけるが、蜘蛛が糸を吐いて、その隙にさらに奥に逃げていった。

「タダスケさん、大丈夫!?」
「タダス―――ああああ!?」
「え?……あああああああ!!!」

美神と横島がタダスケに近寄り、地面に落ちているモノを発見してしまう。
タダスケはすぐに落としたモノを拾おうとするが、糸に邪魔されてしまい、美神が先に手に取ってしまう。

「何こ…れ?……横島?……横島クン…あんた、横島クンなわけ!? しかも私と結婚している!?」
「しまったーーー!!!」

タダスケが落として、美神が拾ったモノ。
それはGS免許証と数枚の写真であった。

(まずいまずいまずいっていうか俺の時もバレたのか!? それなら何故、令子はその事を知らないんだ!?)
(私が横島クンと結婚!? 何で!? 確かに最近頼りになっているのは認めるわよ!! だからといって結婚なんて!?)
(……俺、死んだか?)

完全にパニックに陥った美神とタダスケ。何気にこの中で一番冷静なのは横島かもしれない。

「これは……何年後の事なの?」
「じゅ、10年後……」

沈黙が辺りを支配する。
もし美神が横島に対して、親愛の情がもう少し浅ければ間違いなく、銃をぶっ放していたところだろう。
しかし予想に反して全く動かない美神が、タダスケと横島にはかえって恐ろしかった。

ダッ

「み、美神さん!?」
「うるさい!! ついて来るな!!」

いきなり奥に走っていく美神。
呆気にとられてしまい、横島とタダスケはそのまま美神を見失ってしまう。

「……は!? しまった!! おい、追いかけるぞ。」
「お、おう。」

パサッ

タダスケが走ろうとした瞬間、破れたスーツから、さらに何か落ちる。それを拾うタダスケ。

「……手紙。―――!?…………そうか、そういう事だったのか!! それにしても…………何でもお見通しってわけか。流石は俺の女房。」

タダスケは手紙を読んでいないが、その中に入っている、ある二つのモノの存在で、全てを理解した。
いや、正確いえば完全に閃きだったが、そんな些細なことはどうだっていい事だ。

(そうか……令子が未来の俺の事を覚えていなかったのも、俺の記憶があやふやなのも、そして―――!!)

タダスケの顔は、ようやく10年越しの借金が返せて満足そうな顔をする。

(悠闇、これなら文句ないだろ。)


/*/


(一体どうしろっていうのよ!?)

頭が回らない。
美神は今まで、自分が横島に助けられたシーンを思い返していた。横島に助けられたのは一度や二度ではない。
むしろ、横島が悠闇と出会ってからの回数なら、美神の方が多く助けられているはずだ。

(私は別にアイツなんて……なんなのよ!!)

自分自身にツッコミを入れるところを見ると、相当重症かもしれない。
完全に自分を見失っているのに、辺りの、蜘蛛の気配に気付くのは無理というものだろう。

「ゴァァァァァ!!」
「しまった―――っ!? かすった!?」

ここにきて美神は左腕に蜘蛛からダメージを受ける。
皮肉にもタダスケの望む展開になったという事だ。

ブシュゥゥゥゥ

蜘蛛が美神に糸を巻きつけて、身動きが取れなくさせる。
霊力を籠めて、引き千切ろうにも、蜘蛛の方が早い。

「やらせるかよ!!」

横島がようやく美神に追いつき、美神を抱えて、タダスケの元に走っていく。
どうやら美神が、毒に感染した所を見ていたらしい。

「横島クン、後ろ!!」
「えっ!?」

両手は美神を担いでいる上に、糸が巻き付いてしまい、使えない。

「シュルルルルルル!!」

手は使えない。

(くそ!! このままじゃ……そうだ!!)

横島は昨日のタダスケの姿を思い出す。
あの姿、足に霊波を集め、刃を作っていた時の姿を!!

ザシュッ

「ギュァァァァ!?」

横島の一撃は蜘蛛の足を数本ぶった斬るが、それでも蜘蛛は美神と横島に迫り来る。
しかし、もう大丈夫だろう。

「―――おつかれさん。後はまかせろ!!」


一閃。


こうしてタダスケは、血清の元となる妖怪の核を手に入れることに成功する。


/*/


タダスケは蜘蛛を倒し終えた後、すぐに手紙を取り出す。

「この手紙……未来の俺の妻から、君宛に……」
「え? 私に……?」

美神はタダスケから手紙を受け取る。

その手紙の内容は、未来は決まっているものではない。
未来の自分と今の自分は別物なのだから、という美神に対して助言のようなものであった。

(未来は……変えられる…か。……って後は殆ど惚気話じゃない!!)

顔を真っ赤にして、手紙を読んでいく美神。

(……はいはい、ごちそうさ―――コレは!?)

美神は手紙の中で何かを見つけたらしい。


/*/


事務所に帰った一同。現在は事情を知る三人が部屋に集まっていた。

「いろいろすまなかった。」

タダスケは、美神に血清を打つつもりはない。
何故ならその役目は、横島がするものであって自分がするものではないのだから。

「謝らなくてもいいわよ……そっちの美神令子は納得してあんたと結婚したんだから。」
「そ、それじゃ!! 俺たちの結婚も許してくれるんですねーーーー!!!」

横島が美神にダイブをする寸前、美神は横島に何かをぶつける。

《忘》

「うぎゃ!?」

何かとは文珠であった。
美神は文珠を使用して、タダスケに関係している事を忘れさせようとしたのだ。

「手紙の中に《忘》が2個入っていたわよ。多分、これで記憶を消せって事なんでしょうね。」
「そうか……(やはりな。)」
「本当に信じられないわよ!! 手紙にさんざん書いてあるわけよ!! あ、あんたの事が好きだって……今、幸せだって!!」
「え? そ、そうなのか……」

流石に手紙にそのような事が書かれている事は予想外だったらしい。
美神には劣るが、タダスケも顔を真っ赤になってしまう。

「本当に……私はね……未来なんか知らなくても、欲しいモノぐらい自分で手に入れるわ!!

美神はタダスケに手紙を渡す。どうやら、《忘》を使用して自分の記憶を消すらしい。

「……未来なんてわからないからおもしろいのよ。……まぁ、アンタの顔見ていたら怒る気も失せちゃったわ。」

そう言って美神は自分の額に文珠を近づけ発動させる。
タダスケは、美神のそんな様子を本当にらしいな、と思いつつ部屋を後にした。

(さて……残す仕事も後僅かだな。)


/*/


アパートに帰宅中の横島。頭を捻っていたのは、何かを思い出そうとしているからであった。

「う〜〜ん。何か忘れているんだよな……」

誰かを忘れている、しかしその誰かを思い出せない横島だった。

「さて、心眼は帰って……? アレ、もしかして……あ!? そうだ!! 何か忘れていると思ったら未来の俺じゃねえか!!」

部屋には二人分の気配が漂っていた。横島はその二人が誰か特定する事が出来た。何故なら、悠闇とタダスケなのだから。
横島は忘れていたタダスケを思い出してアパートに駆け出して行く。

(くそ〜〜何で忘れていたんだ? 確かアイツは……今日何してたんだ?)

ガチャ

「おい、聞きたい事があるんだけど!!」
「やっぱり思い出したか。予定通りだな。」

すぐに部屋に入って、横島はタダスケに質問をする。
何故、美神がタダスケの事を覚えていないのか?
何故、事務所から消えて、アパートに居るのか?
っていうより何故、まだ帰っていないのか?

「まぁ、待て。アパートに居る理由は、最後にお前に話しておきたい事があったからだ。」

タダスケは答えられる質問にだけ答えて自分の話を始める。

「今から話す事は、これからの文珠の鍛え方だ。……俺は悠闇が死んでから、2,3年で10文字同時制御をこなせるようになった。」

タダスケはそれから、文珠の制御数を増やすことではなく、一文字一文字に籠める霊力を鍛えてきたと言う。

「結果、どうなると思う。簡単に言うと、お前が《爆》《裂》や《爆》《発》を使用したとしよう。だが俺は《爆》という一文字でお前に勝つことが出来る。」
「それって単純に霊力の差じゃねえのか?」
「違う。実際、俺とお前の霊力の差はそこまで開いているわけじゃない。ようは文珠を生成から、念、霊力を籠める質を極限まで鍛えるんだ。だから昨日も、《眠》だけで悠闇を眠らすことが出来たんだよ。」

なるほど、と微妙な感心具合の横島。

「大体な、10文字以上扱えるなら、一つ一つの文珠の威力を上げたほうがよっぽど効率がいいんだよ。同時制御数増やしても、戦闘中じゃ実質制御できるのは7,8個ぐらいだしな。」
「ようは、これからは文珠の質を高めていけばいいんだな?」
「あぁ、同時制御数を増やすには時間がかかるからな……よっぽどそっちの方が効率がいい。……そうだ、横島。文珠を二つ譲ってくれないか?」

横島は何かわからないけど、とりあえずタダスケに文珠を渡す事にする。
タダスケは文珠を受け取った後、急に真剣な顔をする。

「……俺は悠闇が死ぬ事がわかっていながら、助けられなかった……と、シリアスは置いておいて。」

と真剣な顔もすぐに止めて、今度は逆に明るい感じで昨日の事を謝り始める。

「まぁ、俺も、未来の自分の半殺しされたからな、いやな、本当に八つ当たりなんだな、これが、はっはっは。」
「……はっはっはっ…じゃねえ!!」

本当に笑い事じゃないだろう。そんなわけのわからない事で半殺しにされたのだから。

「……正直、途中からお前や、自分自身にムカついてマジギレしたのも事実なんだけどな。……死ぬことがわかっていながら助けられなかった。わかるか?……このやるせなさが。」

手を握り締め、歯を噛み締める。

(……だがようやくわかった。)

タダスケが《忘》の文珠を見つけて悟ったこと。
未来令子が未来の横島を覚えていなかったのは、この文珠を使ったこと。
だが、自分は覚えていた。この矛盾。
未来令子は悠闇を助けようとしていた。それなのに全ての記憶を消してしまっては辻褄が合わない。
同じ《忘》を使われながら、美神と横島に出た違い、それは悠闇の生死を知っていたか否かであった。
タダスケは美神に正体をバラすわけにはいかない。そうなると悠闇の事も言うわけにはいかなくなる。
この些細な違いを未来令子は狙ったのであった。
仮に横島が思い出さなくても、再びタダスケが説明すればいいだけの話なのだが、再び横島に決意させる手間を惜しんだのだろう。
こうなると、タダスケの記憶があいまいだった事にも辻褄が合うのだ。
タダスケを見ることで、《忘》を使われた横島は、悠闇が死ぬことを知っていた事をきっかけに辛うじてタダスケ自身を思い出す事に成功した。
これは美神が文珠を使用する際、自分と横島の未来の関係を特に消したかった事を、未来令子が逆手に取ったのだろう。
そうすることによって、横島は未来の事だけはまず思い出す事はなくなった分、他の部分の記憶の忘れさすのが、ほんのわずかではあるが甘くなったのだ。
なお、辛うじてという事は、今日の除霊の際、どのような事が起きたかは、あやふやにしか思い出せないという事だった。

(未来の俺は、多分、俺と同じ事を思いついたんだろうな。)

未来タダスケがタダスケと同じ事を考えていたなら、これで自分の行動がループしてしていた事にも納得がいく。

(過去を変えることをしなくても、未来を変えることは出来るって事を……)

それはこの世界で実行しておきながら、タダスケが自らの時空に戻って、初めて影響を及ぼすモノだった。
悠闇が死ぬという過去が変えられないというなら、悠闇とまた出会える未来を作ればいいという事だ。

(よし、イメージは纏まった。成功する……いや、成功させる!!)

タダスケは二つの文珠に念を籠めて悠闇にぶつける。

「な、何をする!?」
「大丈夫だ。ただの呪い<まじない>だよ。」

これでやり残したことはない。
タダスケは立ち上がり、14個の文珠を取り出す。時間移動をするつもりのようだ。

「じゃあな。懐かしい自分や令子やおキヌちゃん、それに悠闇、お前たちに会えて楽しかったぞ。」

文珠が発動して、タダスケを光が包み込む。

(さて、これでここの横島は俺と同じように十年越しの借金を背負ったわけだ。……だが成功するさ。歴史が変わらない限り、俺たちは同じ行動を取るはずなんだから……)

ここの美神は血清を打っていない。つまり横島は10年後、タダスケと同じように時間を越える必要が出来たのだ。


(それにしても……まさか、あのクソヤロウのセリフがヒントになるなんてな……文珠とは本人のイメージ次第でどんな願いも叶えられるモノ…か。)


タダスケが悠闇にぶつけた二つの文珠、それは……


(また、会おうな……相棒。)


《再》《会》


――心眼は眠らない その53・完――


あとがき

タダスケの八つ当たり、二重の意味で八つ当たりだったりして(笑)
何かややこしい話になりましたが、早い話、タダスケと未来タダスケは同じ行動を取ったって事です。
う〜ん、もっと表現力が欲しい。

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