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「試しの大地  第10話  (除霊委員シリーズ外伝)(GS)」

犬雀 (2005-03-05 23:43)
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第10話   「神々の宴」


どこかで水の流れる音がする。
体にまとわりつく温かな湯の刺激が、ずっと以前、大妖としての意志を持つより前の母の胎内の記憶を揺り覚ます。
穏やかな時の流れに身も心も委ねていたタマモの目がゆっくりと開いた。

晴れ渡った空の下、木々のざわめきと川のせせらぎ、そして硫黄の香り漂う湯気。

「ここは…」

「気がついたか?子狐。」

「あなたは!」

彼女の前でゆったりと湯に浸かっているのは壮年の男。
眼光鋭い細い目と研ぎ澄まされた筋肉は彼が歴戦の戦士であることを匂わせている。
タマモは初対面ではあるはずのその男の気配に覚えがあった。

「そう…シュマリだ。もっとも神としての姿を見せるのは初めてだがな。」

頭に乗せた手ぬぐいで顔を拭きながらあっさりと言い放つ男。
その身からは先ほど死闘を演じていたときの殺気は霧散している。

それでも警戒し、シュマリから離れようとしてタマモは気がついた。
自分が一糸纏わぬ姿で湯に浸かっていることに…。

「な、ななななな、なんで私は温泉に入っているのよ!し、しかも混浴っ!!」

「ここは『カムイワッカ』。神の水と言われる地だ。ここの湯は霊体にも傷にもよく効くだろう。」

言われて見れば全部とは言わないまでも霊力が回復しているのを感じる。
痛む箇所もさほどないと言うことは傷もある程度は癒えたのだろう。

落ち着きを取り戻しあたりを見回す。
朦々たる湯気の中で滝のように流れ落ちてくる湯が硫黄の匂いを運んできていた。

「なんで助けてくれたわけ?」

「元々殺す気は無かった。いや…至れて居なければ死んでいたかも知れぬな。」

「至る?何のこと?」

「お前達の力を試させてもらっただけだ。本気でやらねば試しにはなるまい?」

「何ためにそんなこと!」

「それは全員が揃ってからにしよう。お前の仲間の狼もほれ…」

そう言ってシュマリが示す方を見れば素っ裸で湯の中にプカーと浮いているシロの姿。
口を開け平和そうな大イビキをかく相棒の様子にほっと胸を撫で下ろすタマモだったが…。

「し、シロ…あんたってば、そんな何もかもさらけ出して…」

「お前がそれを言うか?さっきまで同じ格好で浮かんでいたくせに…。」

「あ゛ぅ…」

笑いを含んだシュマリの言葉に耳まで赤くなる。

「ま、まさか…私たちに変なことを…」

「発情期も来てない子狐に欲情するほど飢えてはいない。」

「子狐とは何よ!私は立派な大人よっ!!」

「ろくに毛も生えてないくせによく言う…」

「毛…け、け、毛って…見たのねっ!!スケベっ!変態っ!ヨコシマっ!」

「最後のがよくわからんが…?」

「はっ!そういえばヨコシマはどこ?!!」

「ああ、あの小僧なら下の湯壷だ。」

言われて流れ落ちる湯に沿って見れば10メートルほど下の湯壷にシロのようにプカーと全裸で浮いている少年の姿が見えた。
思わず心の中で安堵の息を漏らすタマモを面白そうにシュマリは見やっている。

「あれがお前の仲間か?」

「え?…うん…そうね。ヨコシマは無事なの?」

「ああ、我ら最強のコタンコロカムイを倒したらしいが無事は無事だ。」

「あんたたちより強い神様が居るの?」

「俺より強いのはゴロゴロしている。ほれそこにも…」

シュマリに促されて見れば相変わらず浮いているシロの横で湯に浸かりながら酒を飲んでいる髭面の大男がいた。

「あの人は?」

「奴はキムンカムイ。山の神でヒグマの神だ。」

名を呼ばれて気がついたのか大きな酒徳利を持ちながらこちらに近寄ってくる大男。

「よう。お目覚めのようだな子狐。」

「だから子狐じゃないっ!!」

「毛も…「毛の話はもういいっ!!」…危ねっ!」

大男はタマモの放った狐火をすんででかわす。外れた狐火はプカーと浮いているシロを直撃した。

「うわっちゃ〜!!」

水面に出ていた僅かばかりの胸の膨らみを狐火に直撃されて浮かんだ状態から飛び上がるという離れ業を見せるシロ。
水しぶきとともに湯の中に落ち、ブクブクと沈んでいたかと思えばガバッと浮上してくるなりそっぽを向いて舌を出しているタマモにズカズカと近づいてくる。

「タマモ!いきなり何をするでござるかっ!」

「じ、事故よ事故っ!!」

慌てて言いつくろうタマモにシロはフフーンと鼻で笑う。

「さては…拙者のおっぱいに嫉妬したでござるな。」

「な!どこがっ!私とたいして違わないでしようがっ!」

「そうそう。どっちもまだ毛もろくに生えてないんだから乳だってこれからだって。」

「毛の話はもういいって言っているでしょうがぁぁ!!」

タマモの放った狐火は今度こそ横からいらん茶々を入れてきた大男を直撃した。


プカーと湯に浮かぶ横島に近づく全裸の女性。

霧香は傷だらけの体を湯に浮かべる横島に近づくとその真新しい傷の一つ一つに口付ける。
大梟に裂かれた傷は霧香が舌を這わすことで跡形も無く消えていった。
だが、その身に無数に刻まれた過去の戦歴は彼女の力をもってしても消えることは無い。
背中から引き締まった腹に何かが貫通したかのような大きな古傷を愛しむように舐めると少年の体がピクっと引きつり、閉じられていた口から軽いうめきが漏れた。

「ん…ここは…」

「横島さん気がつかれました?」

「え…霧香さん……ふおぉぉぉっ!」

ぼんやりと彼女に目を向ければ、豊な双乳とその上の桃色に輝く突起が目に入り慌てまくる横島。ちゃっかり霊力が最大レベルまで回復しているあたりがこの少年の特異性を端的に表している。

「な、な、な…」

「何で…ですか?お怪我をなさっていたのでここに…ここの湯は傷によく効きますし。」

「こ、こ、こ…」

「ここは…ですか?ここはカムイワッカと呼ばれる場所です。人間の観光地ですがここまで登ってこれる人はまずいませんのでご安心くださいな。」

「し、し、し、…」

「したい…ってそんな積極的な♪お姉さん困っちゃいますよ〜♪」

「違いますっ!!シロとタマモはどこっすか?」

「ちっ…」

(「ちっ」って言ったぁぁぁ!!)

心の中で絶叫する横島に気づいているのかいないのか霧香はあっさりと告げた。

「お二人は上の湯壷で体を癒しておられます。お二人ともご無事ですよ。」

「そっすか…」

ほーっと大きく安堵の息を吐く横島はそのまま顔を伏せるとブクブクと湯に潜り込んでいく。

「横島さんってば…ここのお湯は濁りがありますから潜っても見えませんよ?」

「何をっ!って言うか違いますって!!」

「はい?」

「いえ…結局、護れなかったんだなぁ…って思ったら情けなくなって…」

「護る?彼女たちをですか?」

「はあ…。」

力ない少年の言葉に霧香の顔も翳る。
だが、すーっと背後から横島に近づくとその膨らみを彼の背中に押し付けるようにかき抱いた。

「ちょっと…霧香さん。何を!ああっ乳が背中に…しかも生の感触でぇぇぇぇ」

「教えてくださいませんか?」

「何をですか?」

「あなたが「護る」ことにこだわる理由です…。」

その言葉に口ごもる横島だったが、意を決したかのように顔をあげあの戦いの話を語りだそうとする…が。

「あ、でも…皆さんにもお聞き頂いた方がいいかしら…」

「は?」

「横島さんのお仲間のシロちゃんとタマモちゃんですよ。」

「仲間…すか?」

「はい。シュマリさんが言ってました。タマモちゃんが横島さんたちを「仲間」と言って助けに行こうとしたって…」

「そっすか…」

あのタマモがなぁ…と横島の顔に笑みが浮かぶ。もっともそれ故に彼女らを護れなかったという思いも強まったが…。

「それとも彼女達には聞かせたくないですか?」

「いえ…いつかはわかることっすから…。」

「仲間」なら隠すわけにもいくまい。元々隠すつもりは無かった。
ただ自分から積極的に話す事ではないと、なんとなく思っていただけなのだ。
いい機会かも知れないと思う。

「それでしたら上に行かないと…」

「え?上っすか?」

霧香の指す方をみれば、ほとんど垂直に近い壁を流れ落ちる湯。
それが湧き出している場所は10メートルほど上にある。

額に湯のせいではない汗が滲む。

「あの…これを登れと…」

「ええ。横島さんなら簡単でしょ?」

「はあ…だったら霧香さんが先に行ってくれませんか?」

「まあ…下から覗こうだなんてマニアックな♪」

「ちゃいますっ!落ちたら危ないじゃないっすか!!」

「あはは。お優しいんですね。でもそれでしたら彼に頼みましょうか?」

他に誰か居るのかと訝しむ間もなく、霧香は空に向けて何事かを叫ぶ。
その声に応じたかのように天空に一つの点が現れ、ぐんぐんとこちらに近づいてきた。

「鷲?」

やがて湯壷の渕に降り立ったのは確かに一羽の大きな鷲であったが、服でも脱ぐように纏っていた羽根を落とす。その体の中から現れたのは鋭い目をした青年だった。

「呼んだか?トーコ…」

「今は雪代ですよ。カパッチカムイさん。」

「ああ、そうだったな。で、何の用だ?」

「この方を上まで連れて行ってくださいませ。」

「お安い御用だ。」

言うなり青年は脱ぎ捨てた鷲の体を再び纏い、一羽のオオワシと化して横島に飛びつくとその爪でがっちりと肩を掴み天空へと舞い上がった。

「うおぉぉぉぉぉぉ!!」

急に釣り上げられジタバタと暴れる横島に下から霧香ののほほんとした声が届く。

「横島さ〜ん。そんなにブラブラさせていると落ちますよ〜。」

「落ちるかぁぁぁぁぁ」

ドブン

どうやら無事に上の湯壷についた…と言うか落ちたらしい。
それを見届けた霧香はにっこり笑うと湯に溶けるように消えていった。


「のほぉぉぉぉ!!「きやっ!!」…ぬ?のおおっタマモ!シロっ!!」

「ちょっと!いきなり降ってくるってどういうつもりよ!!」

「先生!ご無事でござったか!」

鷲に落とされ湯壷でもがく横島だったが、そこに全裸のタマモとシロがいることに気がつくと固まった。
タマモの抗議もシロの安堵の声も聞こえないのか、呆然と少女達を見ている横島だったが突然飛び掛るかのように二人に近寄ると抵抗する間もなく二人をその胸に抱く。

「な、何をいきなり…え?」
「先生!そんな大胆な…先生?」

「無事だったか…良かった…。」

ドサクサ紛れにセクハラかますか?と狐火を用意するタマモと妙な期待に上気したシロに横島の呟きが聞こえてきた。
ただ言葉も無く愛おしむかのように抱きしめられ、タマモもシロも少年の体を抱き返す。
しばしの沈黙の時間が過ぎ、頬を染めたまま少年の体の温もりに酔う少女たちの心に彼の声が響いた。

「すまん…護ってやれんかった…」

その声に悔恨の色を感じタマモは彼の胸に顔を埋めて囁く。

「いいえ…ちゃんと文珠で護ってくれたわ…。そこから先は私の戦いよ。」

「けど…」

「私たちは仲間よ…。仲間ってのは全部を相手に依存するものじゃないでしょ?」

「それはそうだけど…」

「いいのよ。私はちゃんと護られたと思っているし、シロだって…シロ?」

振り返ると俯いて肩を震わせるシロが居た。
どうしたのかと見守る二人に涙に濡れた顔を上げると叫ぶ。

「ずるいでござるっ!!タマモには文珠をあげたのに拙者には!!」

「待て!お前の服にもちゃんと文珠を入れておいたぞ!!」

「へ?」

呆気にとられるシロの横に哀れむような顔で近づいてきたのは先ほどの大男。
その手に乗せられているのは紛れも無く『護』の文珠だ。

「お前…走り回っているうちに落としてたぞ…これ…」

そう言ってシロに手渡す。

「あ、あはははは…さすが先生でござるなぁ〜。」

「ほほう…言いたいことはそれだけか?馬鹿弟子…」

「キャイン!勘弁でござる〜」

謝ると同時に横島に飛びついてその胸に顔をスリスリとこすりつけるシロ。
ドサクサに紛れてちゃっかりタマモを吹っ飛ばしているあたりちょこっと狡猾になってきたかも知れない。

「ふほほほほ。皆目覚めたようじゃの。」

羽音ともに現れたのはコタンコロカムイだった。
老人の姿に戻ると楽しげに横島たちをみやる。

「爺さん生きていたんか…良かった…」

安堵の思いを漏らす横島にその場に居た全ての神々の顔に笑みが宿った。
コタンコロカムイも楽しげに笑うと手を広げ山に向かって一声鳴く。

「さあ、試しはなされた!今日は宴といこうぞ。集まれ!シレトクに集うカムイたちよ!!」

コタコロカムイの声に応えるかのごとく山々あちこちから獣の鳴き声と草木のざわめきが起こり、横島たちの前に現れる老若男女たち。
それぞれが何らかの神なのだろう。
横島はその中に見覚えのある顔を見つけた。

「やっぱ爺さんも神様だったか。」

「フッキーと呼べと言うたじゃろ…わしは神と人の中をつなぐもの。コロポックルじゃよ。」

蕗下住人と名乗ったコロポックルが横島に近づいてくる。その手には彼らの荷物があった。
湯壷の脇にそれを置くと呆れたように笑う。

「だいたいじゃな…霊能者ならわしの名前でピンとくるじゃろうが…。」

「うう…。やっぱ勉強しないとダメかぁ…」

「しょうもない男じゃの…お主らの男は…」

自分たちに苦笑いを向けるコロポックルにタマモもシロも顔を赤く染めるだけで応えない。
そんな彼らにお構いなく湯壷の回りでは宴会の準備が整っていった。
フキの葉に盛られた山海の珍味や肉の焼ける匂いが横島たちの食欲を刺激する。

コタンコロカムイが再び叫ぶ。

「準備は整った。祝えカムイたち!!…ところでお主らはそのまま食うのか?」

「「「へ?」」」

言われてやっと自分達が全裸なのに気がつく少年達。

「きゃぁぁぁぁあ!!」

タマモの羞恥の叫びにカムイたちの笑い声が重なった。


宴の場は陽気なものだった。

様々な神々、カムイたちが入れ替わり立ち代りで横島たちの前に現れ、彼らの健闘を称えたり酒を注いだりしていく。

横島の右には妙齢の細身の美女が座り、白く濁った酒をお酌してくれていた。
エゾシカの神、ユクカムイと名乗るその美女の横に料理の乗ったフキの葉を持った少女が座って横島の前に料理を次々と継ぎ足していく。

「ありがとう」と笑いかけた横島の目が少女の一点を見つめて凍りついた。

見た感じ小学校高学年くらいの童顔と幼い体型にアンバランスな巨大な乳。
スイカが二つくっ付いていると言えば解りやすいか。

横島の視線を感じながらも堂々としている少女の頭を叩きながらキムンカムイが横島に話しかけた。

「コイツはまだ新しいカムイでな。牛の神だ。名前もないんでな。お前がつけてやってくれ。」

「え?俺がっすか?」

「おう。」と頷くキムンカムイの下で期待に目を輝かせて横島を見る少女に、今ここにはいない妹分を思い出す。もっとも胸のボリュームは違いすぎるが。

「んじゃ…モモちゃんでどうですか?」

「モモカムイ…切り立つ崖の神か…ちょっと違う気もするが…どうするんだ?」

横島の言葉に少女はパッと輝かすとキムンカムイに促され横島の首にシパッと飛びついて喜びを表した。

「あんがと〜!タダッチ〜!ボクこの名前大事にすんね〜。」

「タダッチ?」

聞きなれない呼び名で呼ばれ、あげくに抱きつかれてその体に似合わぬ乳の圧力に喜んでいいのか困ればいいのか悩む横島。

「うわははははは。タダッチか。俺もそう呼ばせてもらうぜ。」

キムンカムイは笑いながら酒と肉を勧めてくる。
一礼して受け取ると良く焼けて芳醇な香りを放つ肉を口にした。

「この肉美味いっすね。何の肉っすか?」

「それ…さっきまでのあたしの体…ふふふ…」

横島の問いに答えたのはユクカムイ。鹿肉だったようだ。
気を取り直して酒を口に含む。
牛乳のような味がした。

「これは…」

「タダッチ。それはボクのお乳から作ったミルク焼酎だよ!」

「あう…」

「あ〜出したぁぁぁ!!」

思わず口に含んだ酒をダラダラとこぼす横島に乳をブンブン揺らしながらモモが抗議する。

「だってなぁ…」

「そっか!タダッチって生乳の方が好みなんだ!…もしかしてロリ?」

「ちゃうわい!!」

「ぐすっ…ヨコシマってやっぱり変態だったんだ…ぐすっ…私って変態の仲間だったんだぁぁぁぁ〜」

「何を言っているかっ!…タマモ…お前もしかして泣き上戸なんかっ?!」

「ふえぇぇぇぇぇぇん」

「あー。もうシロっなんとか…ってシロさん?」

見れば木で出来たカップをシュマリに突きつけているシロがいた。
その目はすわっているを通り越して胡坐をかいている。

「ういー…注げ!」

「あ、ああ…もうその辺にしたらどうだ?」

「狐の分際で拙者に意見するでこざるか?いいから注げでござる…」

「シロ…お前なんちゅー悪い酒なんだ…」

「ヒック…先生まで拙者に意見するでござるか…」

「ぐすっ…ヨコシマが構ってくれない…ぐすっ…」

「あああ…もう何がなんだかっ!!」


神々の笑いがあたりに響く。
それぞれの眷属なのか様々な動物も彼らの周りに集い、カムイワッカは獣と神々の歓喜に満ちた。

やがて獣の群れを割って霧香が現れる。

「横島さんお待たせしました。あれ?シロちゃんとタマモちゃんはどうしました?」

「酒に飲まれました…」

「しょうがありませんね。では…キムンカムイ頼めますか?」

「え?俺?」

「はい。究極の酔い覚ましを一発。」

「うーむ…気が進まねーけど。」

しぶしぶと立ち上がったキムンカムイはべそべそと泣き続けるタマモとシュマリに絡むシロの襟首を引っ掴むと硫黄の噴出し口にその頭を突っ込んだ。

「「熱いぃぃぃ臭いぃぃぃ!!」」

「なまじ鼻がいいだけに効きますねえ〜♪」

「霧香さん…あんたは鬼ですか…」

「鬼じゃありませんよう。ああ、そういえば私の正体ってまだ内緒でしたっけ?」

「ええ…あなたは一体何者ですか?」

「私ですか?ふふふ…あるときは美人のお姉さん。しかしてその実体は…」

「トーコロカムイって言う湖の神だ。」

ボソリと横から呟くシュマリの言葉に霧香さん愕然と顎を落とす。
やがてその体がプルプルと震えだすと、目から滝のような涙を流して絶叫した。

「ひ、酷いぃぃぃぃ!!」

「神様だったんすか…薄々そんな気はしてたんすけどねぇ…霧香さん?」

「えぐえぐ…見せ場がぁぁぁぁ。シュマリの馬鹿ぁぁぁ!!」

「そんなことより聞く事があったのだろう?」

「ぐっすし…そうでした…今の恨みは後でゆっくり晴らすとして…」

(晴らすんかい…)

「横島さん。先ほどの続きですけど…」

「ああ、俺が護ることにこだわる理由でしたね。うまく言えないかも知れないけどいいっすか?」

「かまわんぞ。わしもお主のその力の意味が知りたいわい。」

「そっすか…今から一年ぐらい前に世界に大霊障があったことはご存知ですか?」

「ああ。知っている。この地にも様々な悪霊が現れ、我らは眷属を護るために必死となったものだ。」

酒を呷りつつ頷くシュマリの言葉に先を続ける。

「その大霊障の原因はアシュタロスと言う一人の魔神でした。そいつの望みはこの世界を新たなものに作り変えること。」

「タダッチ。作り変えるってどういうこと?」

「今いる神も人も生き物もすべて消して新しい世界を作るってことさ。」

「「「なんだと!!」」」

驚愕に彩られる神々達の顔。そんな彼らを優しく見回して横島は語りだす…彼が出会った蛍と恋の物語。
最終決戦のあの出来事…世界と恋人を天秤にかけたあの夜を…。

「結局、俺は…彼女を復活させることの出来るアイテムをこの手で壊しました…。俺は…自分のことだけで…彼女を護るどころか犠牲にした…だから…もう誰も失いたくないんです…」

あまりの告白に声を失う神々たち。時折漏れる悲しげな溜め息が彼らの思いを端的に告げていた。
シロとタマモも初めて聞く横島の過去に声も無く項垂れるだけ。
知らなかった…。知らぬままただ護られてきた…。
そんな日常が当然だと思ってきた。
それが…そんな自分達が悔しくて…。
二人は自然に手を握り合い、無言で涙した。

その中でユラリと立ち上がるキムンカムイ。

「気に食わねぇ…」

「え?」

「気に食わねぇって言っているんだよぉぉぉ!!」

咆哮をあげ近くの岩を殴りつける。
その怒気に気の弱い小さな獣の神たちは飛び退った。
横島は自嘲的に呟く。

「ですよね。惚れた女「そっちじゃねぇ!!」…」

「どうしたの?キムンカムイ…」

目に涙を浮かべつつ心配げに聞く霧香を睨みつけると天に向かって吠える。

「俺たちはなんだ?神だろうが!その神がこんな小僧に助けられ、それを知らずに今までこんな場所に引きこもっていただと!!そんな俺らが気に食わねぇんだょぉぉぉ!!」

「ヒグマ殿…」

「おい小僧!いやタダッチ!!すまねぇ!この通りだ!!」

キムンカムイは横島の前に倒れるように手をつき、その頭を地にこすり付けんばかりに詫びた。
その様子に戸惑い、頭を上げてもらおうと踏み出す横島の胸に飛び込んでくる少女。

「あの…「タダッチ〜!!」…うおっ!」

「タダッチごめん!!吸え!モモのオッパイ吸え!!モモそれしか出来ないもん!!」

「出来るかぁ!!」

泣きながら抱きつきその顔に似合わぬ巨乳を押し付けてくるモモと格闘している横島の前にシュマリが進み出ると膝をついた。

「横島殿…知らぬこととは言え我らの恩人たる君やその仲間に対し試しを行った我らが無礼許してくれ…」

「あ、いや…いいっすよ。みんな無事だったんだし…それに色々と教えてもらったし、俺からも頼みごとあるし…」

「我らで出来ることならなんでもしよう。だが…」

シュマリはそう言うと後ろを振り返る。
藪の中から彼の眷属であり移し身の一つでもある一匹の狐が輝く弓を咥えて進み出てくるとシュマリに渡した。

「これは我らが武器の一つ。君たちの言葉で光の弓と言う武器だ。君になら扱えるだろう。受け取ってくれ…」

「いや…そんな…「てめえ汚いぞ。自分ばっかり!!」…へ?」

「おい!タダッチ!受け取れ!!」

キムンカムイが戸惑う横島に差し出したのは一本の大きなヒグマの爪。

「これは?」

「その爪には俺の山の神としての護りを込めた。お前が生き物や草木とともにある限り山はお前を護るだろうぜ。」

「いいんすか?」

「おうよ!「俺も渡そう。」…なんだよ。カパッチカムイ」

「俺はこの羽を渡す。君が天にそむかぬ限り大鷲の翼は君とともにある。」

横島の前に一枚の羽を置く青年に続くように、彼の後ろに控えていた三人の男女が進み出る。

「我ら鳥の神は我らの力を与えよう。ハヤブサ、タカ、そしてオジロワシ…我らの意志は光となって君を守ろう。チカプと叫べ。我らは君の手足となって敵を討とう!」

「…私は…お肉…」、「んじゃモモっちはおっぱい!」

「いや、それはいいっすから…持って帰れないし。」

「残念…」、「えー」

再び鹿の体や牛の体に戻ろうとしたユクカムイやモモを慌てて止める。
厚意は嬉しいが生ものを貰っても持って帰るあてがない。

「んじゃクール便で送るっ!」

「血抜きもばっちり…ふふふ…」

その後もシャケの神だとかシシャモの神とかが現われ、横島たちに贈り物をする意志を示した。
お歳暮お中元はにぎやかなものになりそうだった。

その騒ぎも一段落し、ホッと胸を撫で下ろす横島の前に進み出るのはコタンコロカムイと名乗るあの老人。
手にした文珠にも似た光の珠を横島に差し出すと彼に握らせる。

「これは…」

「わしからの贈り物じゃ…わしの目、視る力をお主に与えよう。だがその力は鍛えぬうちは大した助けにはならぬ。精進するのじゃぞ。」

「ありがとうございます…。」

「礼には及ばぬ。我らが渡した力はこの地…我らの守りのある場所でしか使えぬのだ。」

「ああ…すまねえなタダッチ。俺らが神として再び神界に認められればどこでも使える様になるが…」

「わしらは古にこの国を去ったとされる神々ゆえ力及ぶのはこの地のみなのじゃよ…。だがお主が身に着けた技はそれとは関係無しに使えるがのう…」

「えーと。それなら神界に皆さんがここにいるとわかればもう一度神様として認められるってことっすか?」

「確かにそうだが…我らと神界との絆は切れている。今更、自然神に過ぎぬ我らを呼び戻そうとはなされぬだろう。」

「あの…だったら俺、神界に知り合いいるから聞いてみましょうか?」

「「「本当か!!」」」

「ちょっと待って下さい。」

そう言って横島は文珠を取り出すと『呼』と文字を込めそれに呼びかけた。

「おーい。いっつも暇している覗きの神様やーい。」

「誰が覗きの神様なのねー!!」

横島の呼びかけに答えるかのように発動した文珠の光から現れるのは神族の少女ヒャクメである。

「おー。来た来た。やっぱし覗いていたか。」

「ま、待つのね。私は覗いてなんか…」

「見てなきゃ俺の文珠ごときで呼び出せるかいっ!」

「うっ!」

横島の指摘にダラダラと汗をかき始めるヒャクメ。やっぱり覗いていたらしい。

「タダッチ。この人は?」

「ん。神界で「覗きを司る神様」のヒャクメだ。」

「司ってないのねー!!」

ヒャクメの抗議も空しく彼女に一斉に跪く自然神たち。彼らを代表して進み出るのはコタンコロカムイ。
恭しく彼女に礼をする。

「これは覗きの神様…お目にかかれて光栄でございます。」

「だから違うって言っているのねー!!!」

ヒャクメの泣き声が知床の山々にこだました。


後書き

ども。犬雀です。

うわぁぁぁぁ。すっかり遅くなった外伝の更新。
理由は…実は最初この話書いた時って思いっきり18禁になっちゃったんです。
それもいきなりの3P…。
さすがにそれはまずいだろ…と何度も書き直してやっと更新と相成りました。
犬のくどい文体で18禁は読む人引くだろうなぁ〜と…。
もう少し整理できればいいんすけどね。精進いたしますです。

さて、本編で横島が斉天大聖に見せた力はこうして与えられました。
神々は与えたつもりですが横島は借りたとしか思ってません。
その理由の一つが自然神の力を源にしているので「人工物の多いところ」では効力が薄いというのがありますです。
故に彼は自分の力という認識がもてないでいます。ってのが裏設定って奴ですね。

さて次回が最後の目的地となります。

では…


>斧様
確かに反則ですよね。まあ本来は気のいい神様たちと言うことでお許しください。

>とみぃ様
あくまでも神々にとって試しですのでこういう形で決着となりました。
謎は次回ですべて解きたいと思ってます。

>紫苑様
はい。こうして横島はパワーアップしたことになってます。
後一つパワーアップする予定です。

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