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「試しの大地  第9話  (除霊委員シリーズ外伝)(GS)」

犬雀 (2005-02-02 16:22)
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第9話  「狼と羆、人と梟」


月曜日夜明け前  岩場


巨獣と対決していたシロも苦戦していた。

「なかなか頑丈でござるな…」

ヒグマから距離をとり息を整えるシロに対してヒグマはその獰猛な牙を光らせてニヤリと笑うと無造作に近づいてくる。

「くっ!」

ヒグマの脇をすり抜けざまにシロの横薙ぎがその胴を捕らえるがかすかな血飛沫かあがるものの致命傷とは程遠いことは明白だった。

「おいおい…痛てぇじゃないか…」

口ではそう言うがヒグマの動きには変化が無い。
むしろ楽しげでさえあった。

「よく言うでござるよ…ほとんど効いてはおらぬくせに…」

「当たり前だろ…意志無き刃が通るほどやわな体はしていないつもりだぜ。これでも山の神様なんだからな。」

「拙者の刃に意志が無いと言うでござるか!!」

巨獣の言葉に激昂するシロだったが次のヒグマの台詞に思わず言葉が詰まる。

「当てる意志はあるがな。確かに当てるのも避けるのも上手だ。だが斬る意志が無いわな。」

「斬る意志でござるか?」

「そうよ。お前、剣は必ず切れるもんとか思ってないか?」

「そんなことは思ってないでござる!どんな刃物でも引かねば切ることは無理!」

巨獣はシロを面白そうに見やってからポリポリと頭を掻く。

「そういうことを言っているんじゃねーんだけどな…。まあガキにはわからんか…」

「拙者は侍でござるっ!ガキではござらん!!」

再度、切りかかるシロの霊波刀をその爪で受けたヒグマは一声吠えた。

「斬れろ!」

ギュイン!


突然、鉄を切り裂くような音とともに羆爪が光りシロの霊波刀を斬り飛ばす。

「何っ!うぐっ!!」

支えを失って体勢を崩すシロをヒグマの豪腕が張り飛ばした。
岩に叩きつけれられ口から血を吐くシロ。

「熊殿も霊波刀を使えるでござるか…」

ヨロヨロと立ち上がるシロにさも呆れたという様子でヒグマが言う。

「お前なぁ…俺の爪が霊波を纏っていなければお前の剣を受けきれないだろうがよ…。お前の師匠はそんなことも教えてくれなかったのかよ…」

「先生をバカにするなっ!!先生は大切なことを拙者に教えてくれたでござるっ!!」

よろめく足で大地を踏みしめ吠えるシロ。切り飛ばされた霊波刀は再びもとの長さを取り戻した。

「へえ…どんなことだ?」

「それは…必要な時は何があっても諦めない心でござるっ!!」

その瞬間、シロの脳裏に少年の笑顔が浮かぶ。

悪霊に追われ逃げ惑う姿。

情け無い泣き顔を隠しもせずに折檻を受けている姿。

だが魔狼との戦いの時、自分を助けに飛び込んだあの姿。

そして除霊中にいつの間にか自分を助ける位置に立つその姿。

その全てが彼女に力を与えてきた。

そして自分が一番好きなあの笑顔を見るためににも…。

「拙者はここで果てるわけにはいかんでござるっ!!」

ギン!!


澄んだ音を立ててシロの霊波刀がその長さを増した。その様子を愉快そうにみていた巨獣はニヤリと笑うと爪を構える。
今度ははっきりとその爪に霊波の光を煌かせて。

「なるほどな…肝心なことは教わっているってことか…だがな、何度も言うが意志無き刃では俺は切れんぞ。」

「意志でござるか?」

「そうよ」

ヒグマは近くにあった岩にその爪先を当てる。
戦いの最中に何を?と訝るシロの前で再び吠えた。

「貫け!」

声と同時に羆爪は何の抵抗も無く岩を貫いた。

「それは…」

驚くシロに向き直り再びニヤリと笑う。

「爪の形だろうが刀の形だろうが元は霊波。その霊波に意志を乗せれば威力はあがる。それだけのことさ。」

「こうでござるか?」

シロも手近にあった岩に霊波刀を当てて叫んだ。

「斬れろっ!!」

ジャリッ


異音とともに霊波刀は岩にめり込んだが斬れると言うほどではない。
だがシロは確かに何かの手がかりを掴んだ気がした。

「なるほど…凄いでござるな…」

「別に凄かねぇよ。それにその程度じゃ俺は斬れないぜっと!!」

巨獣の豪腕が唸りを上げて再びシロに迫る。

頭上で風を切るその腕をかわしたシロは下から斜め上に霊波刀を切り上げた。
自分の腕を切り飛ばそうとする霊波刀をからくも爪で受け止める巨獣。
その爪と自分の霊波刀の力が拮抗した瞬間、シロが全霊を込めて叫ぶ!

「斬れろっ!!」

「何っ!」

パキン


透き通った音とともに切り飛ばされ宙に舞う羆爪。
驚き瞬間動きの止まった羆の面前で大上段に霊波刀を振りかぶるシロは裂帛の気合を込めてそれを振り下ろした。

「斬!!」


受け止める間もあらばこそ、霊波刀は何の抵抗も無く巨獣の体をすり抜け地面にめり込んで止まる。

一拍の間をおいて巨獣の体は左右に別れドウッと重い響きとともに地に倒れた。
渾身の霊力を振り絞って巨獣を両断したシロも膝をつく。

緊張が解けたのか今になって羆に打たれたわき腹が激しく痛み出した。

「これは…肋骨が何本かいっているでござるな…」

それでも歯を食いしばり、師匠と同居人の狐の少女の下に赴こうとヨロヨロと立ち上がるシロの背後でガサリと何かが蠢く音がする。

咄嗟に振り返るシロの前、切り離された巨獣の胴体の真ん中から再び立ち上がるのは紛れも無く今まで死闘を繰り広げていたあの羆だった。

「な…」

ブン!


驚くシロに立ち上がり様に振り払われた巨獣の裏拳が炸裂し、軽量なシロはなすすべも無く数メートル吹き飛ばされるとゴロゴロと硬い岩場を転がり落ち、元は巨木であったろう木の切り株にぶつかってやっと停止する。

「グフッ!」

再び吐血しながらも意志の力を振り絞り何とか顔を上げるシロの前に羆は傷一つ無いままの姿で近寄ってきた。

「痛かったじゃねーか…まさか一度で出来るようになるとは思わなかったぜ。」

「な…なぜ…でござる…か…?」

痛みなど微塵も感じさせない巨獣の声。対照的にシロの声は今にも途切れそうだった。
羆はその目に優しげな色を滲ませ穏やかな声でシロに語りかける。


「イヨマンテって知っているか?」

「え?」

「この地の民族に伝わる祭りでな。全ての物に宿る神はな熊や鮭や鹿や狐などの血肉を纏って人里に遊びに来る。そして徳や勇気のある者だけがそれを倒すことで毛皮や肉を得る。倒された生き物の霊って言うか神だわな。それは再び神の国に帰り、またそれぞれの血肉を持って人間の世界に遊びに来る…人に恵みをもたらした動物達、その中でも俺たち熊の神を山に送り返す儀式。それがイヨマンテだ。」

「それが…何の関係が…あるでござるか…」

「わからねえか?お前が切ったのは俺の血肉に一つだ。それが倒されても俺の神としての体は再び羆としての血肉を得て何度でも蘇る。俺たちは一匹でもあるし、この地に住む全ての羆でもある。つまり…」

「つまり…」

「俺を殺したければこの地の羆を皆殺しにしなきゃなんねえってことだ。」

「そ…そんなこと…」

「出来ねぇよなぁ…。だから…」

血を吐きつつ何とか立ち上がろうとするシロにゆっくりと近づいてくる巨獣は彼女の前で立ち止まるとその右手を振り上げた。

「お前の負けだ…」


月曜日夜明け前  森林


怪鳥との闘いは横島の一方的に不利な展開のままで続いていた。
幾度となく霊波刀で切りかかってみても、怪鳥は時には人の姿、時にはフクロウに姿を変えて難なくかわしていく。
そして体勢の崩れた横島の皮膚をその獰猛な爪で引き裂いていく。
傷自体は対して深くはないが出血と痛みは徐々に彼の戦闘力と集中力を奪っていく。

「学習能力のない小僧じゃの…。」

「うるせー…ちょろちょろと避けやがって…」

巨木の枝に止まり呆れたように横島に声をかける怪鳥に反論する声にも元気が無い。

「だから言っておるじゃろ『視て』おるとな。」

「そりゃ見えるだろ…フクロウは夜目が利くしな…」

会話しながらも息を整える。逆転の方法を探しながら手の中にこっそりと文珠を用意して。

「ふむ…文珠か。」

「おいおい。これも見えるのか?」

「ああ。視えるよ。だが文珠を用意することは視えてもどんな文字かまでは視えんな…」

「だったら…行くぞ!」

文珠に込めた字は『飛』。発動と同時に怪鳥にめがけて真っ直ぐに飛び込んでいく。

ガン!


「あだっ!!」

ポテッ…


暗い森の中で怪鳥に飛び掛ろうとした横島は怪鳥の止まっていた枝に頭をぶつけて地に落ちた。さすがに呆然とする怪鳥は再び老人の姿に戻ると倒れる横島の近くに下りた。

「お…おい…まさかこれで終わりじゃなかろうの…」

頭にでっかいタンコブを作り倒れたままピクリとも動かない横島に近寄ってくる老人の前でムクリと起き上がった横島がその両手を打ち鳴らす。

「サイキック猫だましっ!!」

「ぬおっ!」

暗闇の中で発動した圧倒的な光芒は老人の持つ猛禽の目を灼いた。
目を抑え仰け反る老人に霊波刀を叩きつける横島。
しかし手ごたえは無かった。

いつの間に移動したのか横島から数歩ほど離れたところで目を押さえながら笑う老人の姿に思わず舌打ちがでる。

「ちっ!見てるって言うから目を潰したんだけどな…決まらなかったか。」

「くくく…正直今のは驚いたぞ。その若さで色々と芸達者じゃの…」

「よく言うよ。さらりとかわした癖に…」

「いやいや際どかったぞ。お主の失敗はわしが目だけに頼っていると思ったことじゃろうな…」

「見ているなら目だろうが。」

「それが間違いじゃ。わしらフクロウの一族が暗闇の中、目だけを頼りに獲物を狩ると思ったか?」

「え?違うの?」

「違うな。ネズミの走る音、泳ぐ魚の起こす水の揺らぎ、空気の動き、そういったもの全て。すなわちわしらの『視る』とは五感全てを使うことじゃ」

「んー。わかるようなわからんような…」

「どれほど迅い動きでも空気を裂かずには動けん。地を蹴らずには走れん。そして筋肉を動かさなければ人は動けまい。」

「まあ、そうっすね…」

「お主が剣を振るう前にお主の目が、手の筋肉が、足の腱が、全てがその動きを伝えてくれる。故にわしはそれを『視て』避けることが出来る…理解できたか?」

「はあ…なんとなくっすけど…ていうかどこも動かさずって無理じゃないすか?」

「無理でもやらねばわしを倒せんぞ。それに…」

「それに?」

「仮にそこに至れてもな。それほど闘気をむき出しにしていれば、やはり同じことじゃ。」

「ち、ちょっと待って下さいよ。つーことは気配を殺して尚且つ動かずに相手を倒せってことっすか?!!」

「そういうことじゃな…」

「そんなん無理やぁぁぁ。俺はそんなに強くないんやぁぁぁ!!」

「わからんのう…文珠を使えるお主が自分の気配も隠せんと言うのか?」

「えーと…どうやるんすか?」

「普通、敵対している者に聞くか…?…まあ良いわい…まず闘気を消せ。「こうっすか?」…そうじゃ…」

「んで…霊波刀も消えたんすけど…まさか罠?!」

「今更、そんなセコイ罠を使うかっ!…ならばあたりの気配を感じてみろ。人ではないぞ森の、生き物の、岩の、その全ての気配じゃ…」

「よくわかんないっすけど…なんか重苦しい感じがしますね。」

「ふむ…では、己の身がそれに溶けていく様を思い浮かべよ。そして自分は木石だと思い込め。それが狩人のあり方じゃ…」

自分の言うことに忠実に従う横島の姿を興味深げに見やる老人。その皺だらけの顔に笑みが漏れる。だがしばしの時を待たずに彼の顔は驚愕の色に満ちた。

「まさか…こうも容易く至れるとはのう…。つくづく恐ろしい男じゃ…」

「え?」

マヌケな返答とともに再び老人の目は横島の姿を捉えることが出来た。

「いや…お主…今、完全に気配が消えていたぞ…自分で気づかなかったのか?」

「あ〜、ちょっと煩悩に夢中になってたもんすから…」

すんませんと頭を下げる横島の言葉にますます驚く。

「お主…煩悩によって気配を消したと言うのか!!」

「いや…風呂を覗く時とか便利かなぁと思ったらつい…」

「化け物じゃの…というか…そんな使い方をするでないっ!!」

「仕方ないんやぁ!煩悩は俺の霊力の源なんやぁぁ!!」

叫ぶ横島の姿にヤレヤレと頭を振る老人だったが、再びその目に真剣な光を湛えると杖を横島に向ける。

「それでもまだ半分じゃ。気配を殺すだけではわしは倒せんぞ!」

「んー。どうしてもやんなきゃ駄目っすか?」

「この期に及んで何を言うかっ!」

「でも…色々と教えてもらったし…それに爺さんが悪人とは思えないし…」

「くくく…愉快じゃ。こんなに愉快なのは久しぶりじゃ!…だが…わしを倒さねばあの娘供が死ぬぞ。……なんと!」

老人の台詞とともに横島から吹き上がる気配が変わる。それは殺気というには研ぎ澄まされ、なのにどこか暖かな空気を感じさせる気配だった。

「奇妙な気配よの…それほど守りたいか?」

「誓いましたから…」

下を向いた横島から低い返答がかえる。その言葉と同時に横島の放つ殺気が消え、周囲にはまったく別の気配が満ちた。

「ふむ…守りたいという意志の力か…だがわしの『視』を持ってすればお主の動き手にとるように…?」

老人の言葉はあまりにも無造作に近づいてくる横島の姿を認めて戸惑いを含んだものに変わる。
そして何の殺気も見せぬまま横島は老人の前で顔を上げポツリと呟いた。

「すみません…」

ズン…


「なんと………わしの目を持ってしても視えなかった……いや…直前…刹那のときまで闘気を感じなかった……まさか…ここまで至れるとはのう…」

体を貫く霊波刀に焼かれながら穏やかな笑みを浮かべて老人はゆっくりと崩れ落ち、その姿を一羽の巨大なフクロウの亡骸に変えた。
死せるフクロウに手を合わせる横島の耳に草を掻き分けて走りよってくる足音が聞こえそる。

再び霊波刀を出しながら身構える横島の前に現れたのは、彼らをここに導いた霧香のだった。深夜の森の中を走ったためかその髪は乱れ、顔は泥で汚れ、その服はあちこち裂けて胸の膨らみが一部覗いていたりする。

「き、霧香さん?」

「横島さん!横島さん!横島さん!!」

飛びついてくる霧香を抱きとめる横島。

「どうしたんすか?!」

横島に抱かれながら、その胸に顔を埋めていた霧香がゆっくりと顔をあげ横島の目を見る。その目に大粒の涙が光っていることが白み始めた森の光の中で彼には見えた。

「あ…あの…霧香さん?」

「横島さん……ごめんなさい…」

「え?…」

唐突に霧香が横島の唇を奪う。
混乱しながらも顔を赤くする横島の喉がゴクリと動いた途端、彼の視界は暗くなりその体から力が抜けるとその場に倒れた。

(シロ…タマモ…)

倒れ伏す横島の前に立ち尽くす霧香は、やがてゆっくりと跪くと血の気を失った彼の口にもう一度接吻をする。

「ふむ…しかし凄い男じゃったのう…」

霧香の後ろ、胸を貫かれ倒れていたはずのフクロウがムクリと起き上がった。
その声は相変わらず楽しげな色を含んでいたが。

「そうですね…」

対照的に悲しげな霧香の声。

「で?『キムンカムイ』と『シュマリ』の方はどうじゃった?」

「ええ…終わりました…」

「そうか…ならば行くぞ…」

「はい…」

だが、朝日を浴びつつ飛び去る怪鳥の方を見向きもせず倒れる横島を見つめ続ける霧香。

その頬を伝わる涙が横島の顔に落ちた。


後書き

ども。犬雀です。
なんつーか…今回も苦労しました。やはり犬は戦闘描写は苦手です。
でも本編とリンクさせつつ展開して来たこの話もあと数話で終わりです。
読んで下さる方が居ることを信じてこの話はなんとか終わらせてみますです。

>斧様
一応、タマモとかシロとか横島のパワーアップがありますです。

>紫苑様
はい。タマモ嬢パワーアップしましたです。んで今回、シロと横島ですね。
本編で横島が見せた技は実はフクロウから教わったものでした。

>KEN健様
脱皮というかコンティニューです。
ほとんど反則ですね。
タマモの技は一種の収束です。一応、光、破壊力、熱の三つに特化させようかなぁと考えてます。

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