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「試しの大地  第8話  (除霊委員シリーズ外伝)(GS)」

犬雀 (2005-01-29 20:52)
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第8話   「妖狐と巨狐」


月曜日夜明け前 牧草地


巨狐と対峙していたタマモは徐々にその距離を開いていった。
得意の幻術に効果がないならば狐火で倒すしかない。
タマモの体力と体術では格闘戦で倒せる相手ではないのは明白だった。

そんなタマモの思惑に気づいているのだろうが、巨狐は口を笑みの形に歪めたままその場を動こうとはしない。


「狐火!」


放たれた火球を横っ飛びに飛んでかわそうとする巨狐の前でそれは軌道を変えると彼の
顔で炸裂した。


「ギャン!」


苦鳴をあげて飛び退ると前足で焼かれた顔を拭う。
焼けた毛の放つ異臭とともに顔の皮膚がズルリとはがれ頬に垂れ下がった。


「なるほど…そのような使い方も出来るか…。なかなか驚かせてくれるな…」


これほどの火傷を負いながら巨狐の声に怯えは無い。むしろ楽しんでいるかのようにも見える。


「強がりは止めたら?今度は手加減しないわよ。」


「手加減されていたのか?見くびられたものだな…ならばお返しとは言わんが俺の技も
見せよう…」


大きく開けた巨狐の口から轟!と放たれる裂帛の気合にタマモの動きが止まる。
不可視の衝撃に打たれ硬直する彼女の前から巨狐の姿が掻き消えた。


「くっ!しまった!」


一瞬の隙をつかれ巨狐を見失ったタマモの頭上に影がさす。


「上っ!」
(殺られる!)


思わず覚悟を決め体を硬くしたタマモの前で唐突に発動する横島の心。


(『護』)


パキーーーーン!


「何っ!!」


突然タマモを包むように展開した不可視の障壁に弾き飛ばされ、地に叩きつけられた巨狐はクルリと体を翻すと再びタマモから距離をとる。


「今の珠は…そうか、アレが文珠か。子狐…貴様も文珠を使えるのか?」


わずかばかりの畏怖を込めた巨狐の言葉にタマモは答えない。


(今の文珠は…?…いったいいつの間に…)


記憶をたどって一つの場面を思い出す。
横島から離れる直前、自分とシロを抱きしめた少年。
おそらくその時にこっそりと『護』の文珠を自分たちの服に忍ばせたのだろう。
それを悟ったタマモの胸に暖かいものが満ちる。


「これは私の『仲間』がくれたのよ。」


「『仲間』か…。お前は人を仲間と呼ぶのか?」


「いけないかしら?…え?!」


思わず出た言葉に自分自身が驚く。
だが、今まで心の中でわだかまっていた想いが今、一つの形を見せ始めていた。
不思議と気分が高揚してくるのを感じる。
死をかけた闘いの中でタマモは自分の顔が笑みを浮かべていることに気がついた。


(仲間か…そうよね。それに…)


「面白いな。子別れすれば一人で生きていくのがキツネの宿命だろう?それを捨てる気か?」


「そうかもね。でも、私にとってヨコシマもシロもおキヌちゃんも美神も…みんな私の大切な仲間よ!」


「ふむ…そうか…『仲間』か…ふふふ…」


「何がおかしいのよ。」


「いや何な…お前にそこまで言わせたのはあの少年の力だろう…それが愉快でな…。」


「ちょっ!どうしてそこでヨコシマが出てくるのよ!」


夜目にもはっきりと紅潮するタマモの様子に巨狐はおかしげに笑った。


「ふはは。お前はあの少年とサカるつもりか?」


「サ、サカるって何よっ!」


「交尾にきまっているだろう…またの言い方を繁殖…」


「しないわよっ!!そ…そりゃあ先のことはゴニョゴニョ…って私は何を言っているのっ?!」


自分勝手に狼狽するタマモを見つめる巨狐の目には先ほどの殺気は無い。
しかし再びその目に暗い炎を宿らせ氷のごとき声音で彼女に告げる。


「まあいい…どうせお前の望みはかなわんのだしな…。なぜならお前はここで一人で死ぬのだからな…」


「死ぬもんですか!」


(そう…死ねない。アイツもバカ犬も戦っているはず。早く助けに行かなきゃ!)


「だから…私は死なない…あなたを倒して『仲間』のところへ行くわ!」


タマモのナインテールが逆立つ!
膨れ上がった霊圧に周囲の草が揺れた。
転生してから今までこれほどの霊圧を放ったことは無い。


高まる霊圧をそのまま狐火に変えて放つ。
10個にも及ぶ狐火は全方位から巨狐に襲い掛かった。


「それだけ食らえば骨も残らないわよ!避けれるものなら避けてみなさい!!」


おのれの身を焼くべく一斉に殺到する狐火に対して巨狐は動きを見せない。
かわりに軽く首を一振りしたのみ。

だが、それだけで10個の狐火はことごとく空中で散った。


「嘘っ?!」


驚くタマモに巨狐は再び口の端で笑う。


「無駄な力だな…」


「何が無駄よ!」


「俺を倒すために霊力をぶつけるつもりならそうすればいい…焼き殺すつもりならそれもいいだろう…だが…力を無駄にしすぎているのだよ…子狐…」


「どういう意味…?」


「狐火…と言ったか?力であり炎であり光でもある。無駄に過ぎん。敵を倒すならどれか一つで事足りる。」


「え?」


「こういうことだ…行け…」


気負うでもなく放たれた巨狐の言葉とともに彼の前に出現する10個の小さな光球。
自分の狐火に比べはるかに弱々しい光にも関わらずそれに込められた霊力はそれと同等であることにタマモは気がついた。

巨狐の言葉とともに現れた光球は真っ直ぐにタマモに突き進んでくる。
慌てて身をかわすタマモの周囲の土が光球の着弾と同時に大きく弾け飛んだ。


「今のは…」


「お前の技を借りたまでだ…」


「どこがよ!!」


「同じだろう。霊力の球なのだからな。だが俺は焼くことよりも光ることよりも「倒す」ことに霊力を集中したにすぎん…。要するにお前の狐火は中途半端なのだ…」


「炎が光るのは当然でしょ!!」


「炎ならばな…お前はアレが霊力の塊だということを忘れているのか?」


「そ…それは…」


「無駄な力を使ってまで炎の形にこだわるから俺ごときの霊力でも相殺できるのだ…。狐火という呪に縛られたな…」


「…くっ…」


「我ら『シュマリ』が何故『チロンヌプ』、お前達の言葉で「殺戮者」と言われるか…それは獲物を狩るのに無駄はしないからだ…。」


「無駄ですって…」


「そうだ。獲物を追い詰め、動きを封じ、その喉笛を引き裂く…それだけだ。そしてお前もそうなる。」


「死なないわ。ヨコシマにもバカ犬にも言わなきゃないことが出来たんですもの!」


「ならばかわしてみせろ!!」


再び放たれる光の球が今度は四方からタマモに襲い掛かった。
後ろに飛び数発をかわす、かわしきれないものは狐火で相殺する、そして反撃のために巨狐に視線を向けた瞬間、巨狐がまた轟と吠えた。

その衝撃によろめくタマモの前からまた巨狐の姿が消える。


「思い出した!上よ!!」


確信とともに見上げた空に月の光を背負って自分に襲い掛かる巨狐の影が見えた。
指を口に当て霊力を集中してタマモが放った必殺の火炎は落下する巨狐を空中で包み込んだ。

ギャオォォォォォォォォォ!!


断末魔の悲鳴を上げて草叢に落下した巨狐はしばらく炎の中でのた打ち回っていたが、ゆっくりと立ち上がり一声吠えて崩れ落ちるとそのまま動かなくなった。

額の汗を拭い今や炭の塊と化した巨狐の亡骸を見るタマモが呟く。


「そうよね。キツネは獲物を追い詰めるとジャンプして止めを刺すわよね……あなたこそ『キツネ』に縛られていたんじゃない…」


そして体についた枯れ草を払う。


「さあ、バカ犬たちを助けにいかなきゃ…」


霊力をほとんど使い果たしながらも「仲間」の元に向かおうとするタマモの耳に背後から獣の声が聞こえる。


「行かせぬといっただろう…」


「え!」


振り向いたタマモの頬を張り飛ばすのは紛れも無く先ほど消し炭と化した巨狐の前足。
吹き飛ばされ木に叩きつけられたタマモは散ろうとする意識を必死にかき集めた。
朦朧とするタマモの目に映るのは傷一つない巨狐の姿。
消し炭と化したはずの金色の体毛も火傷の傷もそこには痕跡さえ見られない。


「ま…まさか…効いてないなんて…あなたも幻術を…?」


「いや…効いたよ…」


「じゃあ何で…?」


「言わなかったか…我らはお前と違って一人ではないのでな。」


「わたしだって一人なんかじゃないっ!」


「気づくのが遅かったな。さあ…終わりにしようか…」


「わたしは一人じゃない…一人じゃない!一人なんかじゃないっっ!!!」


絶叫とともにわずかに残った霊力にただ一つの意志だけを乗せて襲い来る巨狐に放つ。


「倒れろ!!」


最後の霊力を乗せた狐火は炎の形を取らず、ただタマモの意志にそって短い光の矢になると巨狐の口に飛び込み、その巨体を貫通して爆ぜた。


ドウ…!!


声も出さず重い響きをあげて倒れる巨狐はしばしピクピクと末期の痙攣を見せて動かなくなった。
先ほどまで暗い炎を湛えていたその目は濁ったガラスのような色に変わり、口からだらりと垂れ下がる鮮血にまみれた舌が地につく。


「や…やったの…?」


荒い息をつきながら目の前に倒れたままピクリとも動かない巨狐の姿を見つめ続けるタマモの前で、ゆっくりとその体を覆う獣皮がズルリと剥け、その中から再び立ち上がるのは傷一つ無い凶狐の姿。
驚愕のあまり蒼白になったまま見つめ続けるタマモの前で一つブルリと身震いすると再び口の端に邪笑を浮かべてタマモを見る。


「くくく…今のは効いたぞ。もう少し霊力が残っていればこの体ごと爆ぜたかも知れんな…。」


「う…嘘…」


霊力を使い果たし、背後の木にその背を預けズルズルと座り込むタマモに巨狐は皮肉な笑みを浮かべた。


「もう力もあるまい…これで終わりだったようだな…」


(死ぬ?私が?…いや…死ぬのはいや…死ぬのはいや…)


ゆっくりと体をゆすり体に纏わりついた血肉を払いのけながらタマモに近づいてくる巨狐。

(一人で死ぬのは嫌あぁぁぁぁ!!!!)


最後の力を振り絞って立ち上がり逃げようとするするタマモは草に足をとられて倒れる。

その背に乗せられる巨狐の前足。

タマモの骨がキリキリと軋む。


「すぐに仲間のところに連れてってやる…」


首筋で囁くような巨狐の声…。
そして身動きの取れないタマモの首に背後から剃刀の切れ味を持つ牙が迫った。


(ヨコシマ!!!)


その想いを言葉に出す前にタマモの意識は闇に飲み込まれた。


後書き

ども。犬雀です。
今回はキタキツネ対タマモ戦です。
うーん。戦闘シーン…色々と頑張って見ました(3回ほど書き直したりして…)

ちっとは緊迫感が伝わったでしょうか…宜しければ皆様のご指導お願いいたします。

では次回で…

>某悪魔様
シュマリは神としているコタンもあれば違うコタンもあるようです。
犬はちょっとオリジナルの能力を加えてみました。
まだ全ては出ていませんが。

>紫苑様
それぞれのカムイには一つだけ同じ能力があります。
今回はその一つが出てきました。あとは…秘密です。

>KEN健様
>作品と関係ない事を書いてしまってすいません
いえいえ犬はこうして皆様のレスから知識が増えることを喜びに感じております。どんどん犬に教えてくださいませ。

>斧様
カムイたちが横島に敵対する理由はまだ明かせません。伏線は貼っていたつもりですが、犬の筆力ではきっと伏線になってないと思います。(しょんぼり)

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