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「歩む道(第三話――おキヌ)(GS)」

テイル (2005-03-04 13:09)
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 ある日の午後、ある都内のマンションの一室に五人の男が集まっていた。見るからにチンピラと思しきその五人の男は、下卑た笑いを浮かべながらビデオを眺めていた。男たちが自作したビデオだ。テレビの画面に映る出演者は男たちと、そして一人の少女だった。
 テレビの画面には無理やり犯される少女の泣き顔が映っていた。スピーカーから流れるのは、聞く者が聞けば耳を覆いたくなるほどの悲痛な悲鳴。それらを男どもは楽しそうに観賞していた。
 一人の男がテーブルに広げた写真の一枚を手に取った。そのほとんどが現在流しているビデオに映る少女の局部や、他の女性の汚物に汚れ虚ろな表情を浮かべた写真であるのに対し、その男が手に取ったものはある意味まともな写真だった。
 登校途中の女子高生の写真だ。
「どうよ、これ。次に考えてる奴ら。上玉だろ?」
「お、いい女じゃん。特にこいつ、お嬢様って感じでいいじゃねえか。こういう女を泣かせるのがたまんねえんだよな」
「その隣のも気が強そうでいいじゃねえか。こういうのが泣き叫ぶのも楽しいぞ?」
「俺は残りの女だな。気が弱そうだぜ。無理やり犯してやったらどんな泣き方すんだろうなぁ」
 男どもは楽しそうに笑いあった。どうやら心という物をどこかへ置き忘れた類の人間らしい。
「まあ落ち着けよ。こいつら単なる女じゃねえ。いつもみたいにワゴンに連れ込んで輪姦するってわけにいかねんだよ」
「どういうことだよ」
「こいつら六道女学院の霊能科ってのに通っててよ、霊能者なんだよ。あいつら不思議な能力を使うから一筋縄じゃいかねえだろ? まあやろうと思えばやれるけどよ、悪霊とか相手にしようって奴等だからな」
 男の言葉に他の男どもが納得する。つまりビデオ等の脅しに屈しない可能性がある女達というわけだ。
「なるほどな。でも六道女学院の生徒ってのは食指動くぜ?」
「じゃあよ、犯った後、埋めちまえばいいだろ」
 一人の男が当たり前のように言った。そして他の奴らが追随する。
「そうだな。それが後腐れなくていいよなぁ。何の問題も無いし」
「死体が見つからなきゃ行方不明扱いだからな。つーわけで異存なし。犯っちまおう」
 写真を持っている男が楽しそうに笑った。
「よし。じゃあ早速計画を練るか」
「まずこのおとなしそうなのをひっ捕まえてよ。で、他のやつらに言う事を聞かせて」
「セオリーだな。あとこいつらの霊能を封じるための道具が必要だぞ。変な力使われたら厄介だからな」
「埋めるのはこの辺にしとくか?」
「悪くないんじゃねえか。でも簡単に殺すなよ。犯り殺すくらい輪姦そうぜ。な」
「こいつら処女かな。処女は特にあの絶望の顔がたまらねえ。あ、興奮してきた」
「だいたい尻の穴は経験してるやつ少ないぜ。でも無理やりやったらこいつらの壊れちまうだろうな」
「かまわねえだろ。どうせ使い捨てなんだからよ」
「おー、言うね」
「いいんだよ。俺ら鬼畜だからよぅ」
 男たちがぎゃははと笑った。楽しそうに笑った。依然流れる自分たちが過去犯した少女の泣き声の中、本当に楽しそうに笑った。
 部屋の中に響く男どもの下品な笑いと少女の悲鳴……。それは耳にした者の魂を汚すかのごとく、穢れた笑い……絶望の悲鳴だった。
 ブレーカーが不意に落ちたのは、そんなときだった。テレビの電源も落ち、胸糞悪くなるBGMが途絶える。
「なんだぁ、停電か?」
「いや、ブレーカーが落ちたみたいだ。音がしたぜ」
「ああ、俺が直してくるわ」
 男の一人が立ち上がると廊下の奥に消えていく。すぐに、どさりと鈍い音が響いた。
「なんだ? こけたのか? だせーぞ」
「ぎゃははは」
 男どもが騒ぐ中、廊下から何かがごろごろと転がってきた。鮮やかな紅い跡をフローリングの床につけながら、こちらに向かって転がってくる。やがてそれは男どもが囲むテーブルの足にぶつかり、止まった。
「あ?」
 それが何なのか、一瞬男どもはわからなかった。いや、頭が理解しようとしなかったといったほうがいい。
 廊下から転がってきたもの。それは先ほどブレーカーを上げに行った男の、生首だった。
 虚ろな眼球が虚空をにらむ様を、男どもは唖然として見た。
「な、な、な、な」
 声にならない悲鳴を男どもが上げる中、廊下の奥からそいつは現れた。
 そいつは漆黒のフードつきマントに身をつつんでいた。フードから覗くやけに青白い顔の輪郭から、男だということがわかる。
「な、なん……おま……」
 慌てふためきながらも口を開こうとする男は、すぐに黙らされた。黒フードが凄まじい殺気を男どもにぶつけたからだ。
本当の地獄を経験した者のみ放てる研ぎ澄まされた刃のような殺気。それはまるで心臓を掠めるように冷たいナイフが突き立てられたかのようだった。そして裸で絶対零度の極寒地帯に放り出されたかのようでもあった。
 全員の腰が抜けた。失禁するものも出た。呼吸する事すら難しく、声を出すことも出来ない。
 フードの男から放れた殺気は、チンピラどもの心の……いや、魂の底から恐怖を湧きおこした。気が狂う一歩手前の恐怖は男どもの自由を奪い、思考を奪い、ただ絶望させた。
「嬉しいぞ」
 フードの男が静かな声で言った。
「お前たちに再び会えるなんて、な」
 フードの男は一人の男に歩み寄ると、その手に持った写真を抜き取った。その写真には楽しそうに笑う女子高生が三人写っている。男どもが襲うと先ほど騒いでいた女子高生だ。
 写真を見たフードの男から、さらなる殺気が放たれた。そのあまりの殺気はチンピラどもの心臓が動くことを拒否しそうなほど。
 このフードの男は誰なのか。再びとは、過去にあった事があるのか。チンピラにはわからなかった。
 だが本能的に悟ったことがある。頭がうまく働かないが、ただその事は理解した。
 ……俺たちはここで殺される。
「へえ?」
 フードの男はそのチンピラの表情から、その内面を読んだ。
「わかるか、お前たちがここで死ぬのが」
 フードの男の声はどこまでも冷たく、まるきり感情のこもらない無機質な声に聞こえた。淡々とただ決定している事実を述べている、ただそれだけの声に。
 男は今すぐ逃げ出したかった。しかし動けない。
 命乞いをしたかった。しかし声も出せない。
 男の右手から、“漆黒の霊波刀”がのびた。無造作に振るう。すぐそばにいたチンピラの首が、おもちゃのように取れた
 ごろんと転がる生首と、切断された首からまるで噴水のように迸る血液に濡れながら、それでも他の男どもは恐怖に悲鳴をあげる事もできない。ただあえぐだけだ。
「静かだな。遠慮なく叫んでいいんだぞ。近所迷惑にならないよう、しっかりと防音してあるからな」
 黒フードがつまらなさそうに言った。しかし男どもはまるで金魚のように、口をパクパクさせているだけだ。
 フードの男は、その紅の瞳で男どもを見回した。
「つまらないな。……もういい、死ね」
 真一文字に霊波刀が振るわれた。
 残りの男どもの首が、いっせいに落ちた。


 その日おキヌはいつもの元気が無かった。授業中も集中できず教師に叱られ、学友との触れ合いも心ここにあらずといった様子。親友である一文字魔理と弓かおりが心配そうに声をかけるも、その元気が戻ることは無かった。
 二人の気持ちは、おキヌにとってとても嬉しいものだった。自分を心配してくれる事が嬉しく、そして同時にありがたかった。
 二人が、「どうしたの?」と優しく声をかけてくれた時、いっそ全て話してしまおうかとも思った。どうせあれは夢なんだ。たかが夢なんだ。
 ……でも。
 結局二人に話すことは出来なかった。ただ夢見が悪かったとだけ伝えた。正直に話せば二人を不愉快にさせるだろう事は目に見えていたから。だから話さなかった。だが二人に話さなかったのは、それだけが理由ではない。
 それはリアルな夢だった。とてもリアルな、思い出すだけで震えそうなほど、恐ろしい夢だったのだ。
 口に出せば現実になってしまいそうな程、リアルだったのだ。
 結局一文字と弓はおキヌを美神所霊事務所まで送ってくれた。通常なら美神に会いたがる弓も、今回は遠慮して帰った。それほどまでに今日のおキヌはいつもと異なり、見ているものを不安にさせた。
 そして現在、おキヌは事務所のソファに身を預けている。
 六女の制服姿のまま天井を見上げるおキヌは、目に見えておかしい。ぼうっとした表情からは限りなく感情が抜け落ち、まるで呆けているかのようだ。いつも明るく周りの人を和ませるいつものおキヌは、今ここにはいない。
「あら、おキヌちゃん」
 部屋の入り口から声がかかった。おキヌがのろのろと視線を向けると、そこには彼女の大好きなこの事務所のオーナーと同じ髪の色を持った、妙齢の美人が立っていた。
「あ……美智恵さん」
 美神令子の母親、美神美智恵だ。珍しくひのめを連れていない。しかもこれまた珍しく彼女はスーツを身に纏っていた。これらのことはおキヌに、先ほどまで彼女が向かいのビルで仕事をしていた事を容易に想像させた。
「学校帰り?」
「はい。あの……美智恵さんは、どうして?」
「ああ。いえね、令子からさっき電話があって……」
 美智恵が眉根を寄せた。その顔は娘を心配する母親そのものだ。
「その声が消え入りそうなほど弱々しくて、すぐに会いたいから来てくれって、ね」
 美智恵は受話器から聞こえてきた娘の声を思い出し、そしてその言葉を思い出していた。
 美神令子は、美智恵に電話でこう言った。
『たすけて……まま』、と。そこに強がりは一切存在していなかった。
 母親が死んだと思って意地を張り始めて以来、美神があそこまで弱気に、そして純粋に他者に助けを求めた事は無い。それが実の母親とはいえ、あまりにらしくないのだ。美智恵が仕事をほっぽり出してすぐさま駆けつけたのも、今にも壊れてしまいそうなもろさを、受話器越しの娘から感じたからだった。
「一体何があったのか、おキヌちゃん知らない?」
「いえ……」
 表情を変えずおキヌは首を横に振った。その表情を見た美智恵は、そっとため息をつく。
 らしくないのが、ここにもいた、と。
 おキヌの顔に美神への心配の色が浮かんでいない。それは美神を実の姉のように慕うおキヌにはありえない反応だ。しかも漂わせる雰囲気とその表情は、例えるなら心を鋭利な刃物で切り裂かれ、しかしそれに気づいていないかのようにも見える。
(いえ、もしくは気づこうとしていないか……。なんにせよ令子と同時におキヌちゃんまでこれか……。何か要因でもあるのかしら)
 どうするべきか一瞬考えたが、何より娘に会うのが先決だろう。やっぱり実の娘は可愛いし、優先したい。それに何か要因があるのなら、会う事によってそれも見えてくるかもしれない。
「おキヌちゃんはまだここにいる?」
「……ええ」
 美智恵から視線をはずし、ぼうっとした視線を壁に送りながら、おキヌは呟くように返事をした。
「じゃあ私、令子に会ってくるから」
 そんなおキヌに声をかけつつ、美智恵は美神の寝室へと向かった。
(あれは重症ね。……まったく、横島くんはどこにいるのやら)
 いつもの活気がまるで存在しない美神除霊事務所内に、あの少年の霊波が存在しないことを確認しながら、美智恵は胸のうちで呟いた。
(こんなときこそ、男の子には頑張って欲しいのだけれど……)


 相も変わらず、おキヌはぼうっと壁に視線を注いでいた。身智恵が立ち去ってから、その体勢はまったく変わっていない。ただ呆けたように、ソファにその身を深く沈めている。
『おキヌさん……』
 見かねて語りかけたのは、この館を管理運営している人工幽霊壱号だった。
『ご気分が、優れないのですか……?』
ゆるゆるとおキヌの視線が動く。
『昨晩の、夢のせいですか?』
 人工幽霊壱号の言葉に、初めておキヌの顔に表情が浮かんだ。
 こわばり、ひきつり、唇を振るわせたその表情は、まごう事なき恐怖の顔……。
『昨晩、うなされておいででした』
 美神達と同じように……とは、今は言わない。
『何か悪い夢でもご覧になったのでは――』
「人工幽霊壱号っ!」
 人工幽霊壱号の言葉を、おキヌの鋭い声が遮った。
『っ……。おキヌさん……』
「……テレビ」
『は?』
「テレビが見たいの。だから、静かにしてくれる?」
『………』
 完全な、拒否だった。
 人工幽霊壱号は心配していた。美神除霊事務所に所属する全ての所員を、人工幽霊壱号は心配していたのだ。
 この館に憑依する霊体として、その霊力源たる所員を心配しているのではない。ただ自分が仕える主として、そしておこがましくも友人として、彼女らを心配しているのだ。
 だが拒絶された。人工幽霊壱号に出来るのは、部屋に備え付けられているテレビの電源を入れることぐらいだった。
 悔しいという思いはある。今この事務所のメンバーには、何かが起こっている。それを知りながらも、何も出来ない。オーナーである美神令子の話は、きっと美智恵が聞き出すだろう。ならば自分がおキヌから話を聞く事ができれば、真相に近づく手助けになるはず。そう思っていたのだが……。
(やはり横島さんや美知恵さんに頼るしかありませんか。……いえ、この件に関しては美智恵さんに、ですか。どちらにしろ、私には見守ることしか出来ないのですね……)
 それでも、何もしないよりはましなはず。
 人工幽霊壱号は、気を取り直すとおキヌをしっかりと見た。それしか出来ないなら、それをやる、と。片時も意識を逸らさず、彼女達を見守った。それは人工幽霊壱号にとって、負担ではあったが苦ではなかった。
 そしてその成果はすぐさま現れた。
 人工幽霊壱号が見守る中、おキヌががたがたと身体を震わせ始めたのだ。
『おキヌさん?』
「なんで……どうして……」
 おキヌはがたがたと震え、いやいやするように首を横に振りながら、それでもその視線はテレビから離れない。

「本日未明、東京都○×区にあるマンションの一室で遺体が発見されました。
 被害者はそのマンションに住む二十三歳の大学生と、その友人を含めた男性五人です。
 遺体は全て首を切断されており、警視庁は殺人事件として捜査を進める模様です」

 被害者の写真が、テレビに映っている。下卑た顔をした、チンピラ然とした男達の顔写真が。
「うそよ。ゆめなんだから。どうしているの……げんじつにどうして」
 おキヌの息が荒くなっていく。心臓が口から飛び出そうなほど、激しく飛び跳ねる。全身から汗が吹き出た。
 彼女は頭を抱えうずくまる。
「いや、いやいや!! ひどいことしないで!!」
 彼女の耳には今、悲痛な悲鳴が聞こえていた。弓の悲鳴が。一文字の悲鳴が。そして同時に、自分の悲鳴が。
 脳裏に浮かぶのは、下卑た笑い声を浮かべながら、自由を奪われた自分にのしかかる男の顔だ。
 テレビに映る顔写真の男だった。
「やだ、やだあ! よこしまさん、よこしまさん! たす、け、て……」
 おキヌは白目をむくと、ソファの上にくたりと倒れてしまった。
『……あ』
 おキヌのあまりの取り乱しように呆然としていた人工幽霊壱号は、おキヌが倒れた事によりようやく我に返った。
『お、おキヌさん!? おキヌさん!?』
 返事はなかった。
 何が起こったのかわからない。しかしおキヌが倒れたという事実に、人工幽霊壱号は動揺した。
『ど、どうしましょう』
 この場合どうすればいいのか。脈拍や呼吸を調べるべき? それとも霊波の状態を視るべきか。はたまた人工呼吸や心臓マッサージ? 
 いくつもの選択肢が浮かんでは消えていく。そのどれもが実体を持たない自分には出来ないと、すぐには気づかなかった。
 なにをやっているのだろう。この場合、自分の取れる選択肢は一つしかないではないか。
 人工幽霊壱号は美智恵に助けを求めるべく、美神の寝室へ声を送った。
『美知恵さん!! おキヌさんが――!!』
 動揺している人工幽霊壱号の声は、切羽詰ったものだった。


 あとがき

 なかなか思った通りには書けないものですねぇ。
 精進精進です。


 感想ありがとうでございます。
 肯定的なものも、否定的なものも、どちらも物書きにとってはガソリンですw

>柳野雫様
 いろいろと伏線はりまくる今日この頃でございます。
 はたして成功しているのか、失敗しているのか……ってなもんですが。

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