(注意・物語内では十二月です)
横島は基本的に自炊はせず、主食は米とカップラーメン。
マリアが少ない食材で色々作ってくれる事もあるのだが、基本的にカオスと共にバイトへ行っている。
幸は元鳥、料理など出来る筈も無く……むしろ台所を羽まみれにして立ち入り禁止を喰らっている。
そこで登場、事務所の癒し系パート二のキヌ。(一は黒髪)
『良いですか?ここでお塩を入れるんです』
「ふんふん」
横島の部屋の台所で料理を披露するキヌ。
その隣では紙とペンを装備して真剣な横島の姿がある。
『しばらく弱火で煮込んでから……好みで醤油を入れてくださいね』
「はーい」
キヌはボーナスを貰ってもカップラーメンばかり食べている横島の為、料理を作りに来ていた。
そのついでに料理を教えていた。
幽霊なので味見は出来ないが、とても美味しい物をキヌは作る事が出来る。
「これで出来上がり?」
『はい、後はお皿に盛れば出来上がりですよ』
大き目の皿を頭に乗せ、横島は嬉しそうに笑う。
「それじゃあ、そろそろ爺ちゃん達も帰ってくるから……入れて待ってよぉー!」
『お皿、割らないようにして下さいねー』
部屋へ向かう横島へ一言言い、キヌは楽しげに笑った。
「幸、そろそろご飯だから……にゃー!また羽まみれー!」
「わ、悪気は無いけど……仕方ないじゃん!!」
「今帰ったぞい、小僧!働いてきた者へ茶の一つも出せんのか!!」
「うるせぇ!こちとら今それどころじゃねぇんだ!爺は黙ってろ!」
「横島さん・ただいま・帰りました」
「おーおかえりー」
「うぬっ!!貴様!わしとマリアで態度が違いすぎるぞ!!」
「じゃかあしい!男と女で態度が違うのは当たり前だろーが!」
段々騒がしくなってきた部屋。
キヌは火を止め、喧嘩の仲裁に入りに行った。
あの山で幽霊をやっていた時期には考えられない位、楽しい今。
こんなに楽しくて……恵まれていて。
罰が当たったりしないかな?
「クリスマスパーティ?」
「おキヌちゃんがね、どっかでクリスマスの知識を仕入れたみたいで……皆でパーティをやろうって言い出したのよ」
次の日、キヌが表へ買い物に出ているのを見計らい……美神はそんな事を言い出した。
「彼女、私達にプレゼントするんだってはりきってたわ」
「ぷれぜんと……?」
そこで美神がワザとこのタイミングで言い出した理由が分かった。
心が幼くても男の子。
「よぉし!!オレも何かキヌ姉ちゃんにプレゼントするぞぉ!!」
「頑張んなさい、私の分はこれからも無断欠席無しって事で良いしv」
拳を作り、横島は立ちあがり。
「とりあえず、キヌ姉ちゃんの欲しい物をリサーチだぁ!!」
キヌが買い物に行った店へ、ダッシュして行った。
「頑張ってね……」
出て行った横島を見送り、美神は微笑を浮かべた。
キヌはいつも浮遊しているので、店の中でも一発で見つかった。
いつもは直球の横島だが、今回はすぐには聞かずに買い物の手伝いから始めた。
「んと……洗剤にモップに……ゴキブリホイホイに殺虫剤……」
『ふふっ……昔も今も、年末にする事は同じなんですね』
買った物を調べる横島を見つつ、キヌは嬉しそうに笑った。
「??なぁに」
微笑を浮かべるキヌへ首を傾げ、横島は問いかけた。
『いえ、くりすますって楽しそうだなぁって……生きてる時みたいにワクワクします♪』
「……そだね」
最後の言葉に横島は小さな笑みを返し、そのまま黙ってしまった。
キヌの方は様々な音楽が流れる街に夢中で、それに気が付く事は無かった。
『キヌ姉ちゃん……本当はもう……死んでるんだよね……』
そんな事を重いつつ、横島は歩く。
ポケットの鈴も何処か悲しげに鳴り響いた。
「……ごめんね」
キヌとの買い物を終え、横島はアパートへ戻った。
カオスとマリアはバイト。幸は鳥仲間に会い出ており……部屋には誰も居なかった。
辺りを確認し、横島は小さく謝罪し。
「……イフ兄ちゃん」
名を呼んだ瞬間、足元から煙が噴出。
そして煙の中から赤い肌の少年が出現した。
『おぉ!久しぶりに呼びよったな』
「ふえぇ!?どなたですか!?!」
親しげに声をかけられるが、横島は驚きで尻餅をついてしまった。
『ぬっ?そういえば……この姿ではまだ会っていなかったな』
長い髪を後ろで一つに結び、横島の頭一つ分大きい身長の少年。
『わしじゃよ、イフリートじゃ』
「えぇえ!!?」
笑う少年に横島は素っ頓狂な声を上げる。
少し会わなかっただけで随分縮んでしまったのか?
『前は壺に封印された状態じゃったろう?あれは仮の姿なんじゃよ、こちらがわし本来の姿じゃ』
えっへんと胸を張るイフリートに横島は「ふえぇ~」と感心した声を上げた。
『なかなかいけてるじゃろ?』
「うん、格好良い~」
赤い肌に金色の髪、そして高い身長。
モデルと言っても誰も疑わないだろう顔立ち。
冗談交じりのイフリートの言葉に横島は素直に答えた。
(それに…こちらの姿ならば、こやつの笑顔を見ても赤いのが分からんし。便利じゃな)
『にしても……いつでも呼べと申したのに、なかなか呼ばぬからなぁ……
内心、忘れられておるのかと思ったぞい?』
壺から解放され、かなりの時間が既に経過している。
内心ではパシリに使われるかもしれない……とイフリートは思っていた。
だが、返って来た答えは全く予想していない物だった。
「だってイフ兄ちゃん、奥さんと子供が居るんでしょ?なら、団欒邪魔するかもしれないからあまり呼ばない方が良いかなぁって思って……」
『……』
甘かった。
赤い肌ならば分からないと思ったが……肌以上に頬が赤くなっていく。
『……そう、遠慮するでない。わし等は友なのだからな』
軽く咳払いをしつつ、イフリートは頭を撫でた。
視線は少し天井付近を見ながら。
「えへへ」
横島はまるで子猫の様に撫でる手に懐いた。
『それで?一体何か用事か?』
頬の赤みが少し引いてきた頃、イフリートは今回呼ばれた理由を問いかけた。
ここまで自分の事を思ってくれているのだ、きっとかなりの事なのだろう。
「うん……あのね?」
聞かされた内容。
それにイフリートは笑顔を止める事が出来なかった。
横島はキヌにクリスマスプレゼントをし、一時的にでも死んでいる事を忘れて欲しい。
その話にイフリートは笑顔で答えた。
『ならば、服を贈り物にすれば良い。
大抵の幽霊は死んだ時の服のままだからな、あの娘ならば喜ぶであろう』
「けど……幽霊さんの着れる服って……」
迷う横島、今からそんな特殊な服が見つかるだろうか?
そんな不安をイフリートは笑う。
軽く背中を叩きつつ、続けた。
『なぁに、心配は要らぬ!織姫の所へ行けば良いのじゃよ』
「おりひめ?ひこぼし……??」
脳内に空の『天の川』が出て来る。
さり気無く頭の中で彦星役が自分で織姫役はキヌだ。
『魔力を持った機を織る事の出来る一族の長の名じゃ』
横島の耳元へ口を寄せ、イフリートは小さく。
『一族の中で最も美しい女が長となり、世俗を捨てて険しい山で機を織り続けておる』
その言葉に反応し、髪の色が一気に赤へと変色を始める。
「最も美しいだと!?ふははははははは!!!」
唐突に笑い出す横島にイフリートは一瞬身体を強張らせる。
『な……なんじゃ、いきなり……』
一瞬で雰囲気が変わった友に驚きを隠せずにいた。
「何処だ!!その最も美しい女は何処に居るんだー!!!」
『地図を出してやろう、織姫は多くの服を作っておる故……気に入る服も一着位あるじゃろうて』
パチンと指を鳴らすと、空中から古びた地図が出現した。
それを瞬時に奪い去り……横島は部屋を飛び出した。
「待ってろよぉ!!織姫ぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!」
『……山の頂上まで、連れて行ってやろうと思ったのじゃが……行ってしもうたのぉ』
部屋に残され、イフリートは少し戸惑いつつも。
『まぁ……頑張るが良い、わしは汝の友……いつでも助けに来るからのぉ』
そう言い残し、自分の世界へと帰って行った。
赤髪横島が違う目的で山を登っている最中、美神の部屋は甘い匂いが漂っていた。
『……横島さん、どうしたんでしょう?別に予定が出来たんでしょうか』
「そんな事無い筈よ、もし赤髪になってても一時間で戻るんだし……」
そこに女が絡んでいれば、赤髪は暴走する。
だが美神は『そっちの横島に限ってそれは~』と思っていた。
『……』
「ふぅ……もうしばらく、待ちましょ」
悲しげなキヌを励ます為、美神は笑いながらお茶に口をつけた。
山はほぼ垂直で、壁と言っても過言ではなかった。
そんな所を横島は這い上がる、まるで虫の様に。
「っ!!見えた!!」
普通の人間ならば……かなり日にちがかかる所を、赤髪横島は根性と煩悩で二時間程で辿り着いた。
ここにワンダーホーゲル部員やロッククライミング部員でも居れば拍手喝采なのだろうが……この場には居ない。
「織姫様ー!!!」
背負っていた荷物を放り投げ、横島は織姫が住んでいる山小屋へと走った。
荷物を捨てたら、帰りは一体どうするんだ?と聞かれても無視する勢い。
ドアへ向かおうとするが……疲れはピークに来ていた。
つるんっ
「あが」
膝が笑い、滑ってしまい……そのままドアへとダイブしてしまう。
その瞬間……髪の色は黒へと。
ドゴッ!!!
「きゃあ!?」
まさかドアをダイブして開ける者が居るとは思わなかった。
中に居た一人の老婆を驚きの声を上げていた。
「もし……大丈夫ですか?」
「うぅん……織姫さまぁ……」
頭を打って意識が朦朧としている横島に名を呼ばれ、老婆は頬を染める。
「いやですわ……この山に篭って六十年、初めて殿方を目にしましたわ」
イフリートは確かに『美しい女性が長になる』と言った。
この老婆も……昔はとても美人だった。
だが、長い年月が彼女から美しさを奪って行った。
皺だらけの手で横島の髪を撫で、織られた服へ目をやった。
「貴方様の目に止まる服が一着でもあれば良いのですが……」
長い間一人で織り続けた服。
ここまで来てくれた者の望む品はあるだろうか?
「ほえ……?」
段々と意識がハッキリしてきた横島は目を開け、目の前の服達へ目をやる。
そこにあった服を見。
「……これ、下さい」
「えぇ……良いですとも、この山を登った者にはその権利があります」
そう言って微笑んだ老婆は、とても美しかった。
「キヌ姉ちゃん!!!」
『横島さん!!』
「って!どうしたの?そんなボロボロになって!」
山を降りる頃には朝になってしまう、そんな思いから横島はイフリートに頼み……部屋の前まで送って貰った。
「あのね!えっと……遅くなってごめんなさい!!オレ、キヌ姉ちゃんや美神さんに喜んで欲しくて、あのその……」
慌てすぎて、横島は自分が何を言っているのか分かっていなかった。
ただ持っていた包みを二人へ渡した。
『えっ……私に?』
「わ、私にも??」
「あの……えっと……はい」
頬を赤らめる横島の手から、包みを受け取り……中身を見てみる。
『わぁ!!お洋服!!』
キヌの包みに入っていたのは余所行きの可愛らしい洋服だった。
「これって……まさか織姫の所まで行ってたの?!」
歓喜の余り、涙を流すキヌ。
ちなみに、美神の包みの中には豪華なドレスが入っていた。
少し照れくさそうにしつつも、美神も嬉しそうだった。
二人の笑顔を見て横島は……
気を失ってしまった。
意識は違えど、使っている肉体は同じ。
疲労は限界を軽く超えていた。
『有難う御座います。有難う御座います……これ……私からのプレゼントです』
キヌが心を込めて編んだマフラーは暖かく、眠ってしまった横島の身体と心を温めた。
『来年も……一緒に頑張りましょう、横島さん』
「うん……キヌ姉……ん」
こんなに毎日幸せで……本当に罰が当たらないでしょうか?
そんな事を思いつつ、キヌは貰った服を思いっきり抱きしめた。
第九話 終
本当はクリスマス話に入らず、そのままピート話に行こうと思っていたのですが……
『いまここでやらなかったらやり忘れる!』
そう思いまして……こんな時期に十二月話です。
季節外れのクリスマスって事で。
様々な方のレス、本当に有難う御座います。
全ての人間に面白いと思ってもらうには……まだまだ力量不足ですが、ほんの少しでも楽しんで頂ければ……幸いです。
ゆきなり様>『今回』は十二匹出てまいりました。
ですが、過去のシーンとかを見てみると……出て居ない獣が居ます。
エミさんは原作片手に書きましたが、三分とありませんでした?
Dan様>あのキャラが出ると……他のキャラ出番が無くなるんで。
後々の展開の為、今は待機中なのです。
黒髪君の力は未知数って事で。
裏は色々あります、もったいぶってますが。
恋ちゃんの名前、有難く頂戴致します。
ど……どんな子が良いでしょう?リクエストありますか??
ケルベロス様>ネロ……月姫でしたっけ??
やった事が無いのでわかりませぬ……あうあう。
紫苑様>横島君の噂は冥子辺りが広めてるのでは?
黒髪は冥子とキャラを似せているので、暴走もこんな感じです。
ただし、冥子と違って獣に気が付いて居ない……(もっと達が悪い)
GSの世界の警官は男は捕まえるのに、女の時には全くやって来ない性質があるようで……
柳野雫様>色によって反応も突っ込みも多種多様です。
黒はズレた突っ込み、赤は原作の突っ込み……個人的には黒が一番書きやすいです。
エミさんの事務所って……妙に亜熱帯なイメージがあります。なんででしょう??
季節はとりあえず、原作の流れでよっぽどずれる物以外は気にしない事にしました。
やっぱ……夏に冬。冬に夏の内容はキツイですが。
MAGIふぁ様>ご指摘有難う御座います。
けれど赤髪以外の横島は違和感が無ければ駄目なんです。(この話では)
ハッキリ言って、美神さんは書くのが苦手です。
しかしながら……後に何故こんな風になっているのかをやります。(人格治す云々辺り)
出来るだけ見ていて不快にならないよう、頑張ります。