それは深夜、煩悩少年が住むアパートでの出来事から始まった。
「ぐ〜〜〜……う、う〜〜ん……ハーレム、ハーレムじゃ〜〜〜……」
深夜という事もあり、爆睡中の横島。
そして、今、一人の人間が横島の部屋に忍び込もうとしていた。
(―――!? 何だ? この気配は……)
当然、横島が気付かなくとも、悠闇が目覚めて、その者の気配を察する。
そして侵入者は窓から、そっと侵入して来る。どうやら大きなバッグを二つほど持っているようだ。
(殺気はない……というと、狙いは何だ?)
侵入者の殺気がない事から、悠闇は相手の様子を見ることにしたようだ。
それは下手に相手を刺激してしまっては、強引に横島を起こしても、寝ぼけている状態では危険すぎるからであろう。
(相手の実力は……なるほど、悪くはない。……すでに人を殺した事もあるだろう。)
侵入者の風貌等から、相当の修羅場を潜り抜けている事を見切る。
悠闇は唯のバンダナのふりをして、侵入者の動向を監視する。
侵入者は押入れを開けるた後、バッグを開く。中からは、
(大金!?……あぁ〜アレだけあれば好きなモノが……い、いかん!! いかんぞ。でも……)
悠闇が不埒な事を考えている間も、侵入者はバッグに入っている大量のお札を、押入れに入れる。
(20、25、30、35!? って何を数えておるのだ!!……50、55……)
一人でツッコミを入れている悠闇。でもすぐに数えている辺り、周りの人間に染まっている事がよくわかる。
そんな悠闇がアホな事をやっていると侵入者は全ての札束を押入れに入れ終わる。
(さて、次は何を……………………何をするか。この無礼者め。)
侵入者は部屋を見渡した後、予定通りとでもいうのか、バンダナ(悠闇)を見つけるとそのまま真っ直ぐ歩いてきて、手に持つ。
(非常に不愉快だが、この者が単独犯か複数犯か調べる必要があるな。それと、横島に少しくらいはあのお金を…………はっ!? 何を考えておるのだ!!)
元神様としては、非常に頂けない考えをしている内に、侵入者は悠闇を連れてそのままアパートを後にした。
(くっ、そうだ。これは美神どののせいだ!! あぁ、そうに違いない!!)
人のせいにするのは良くないだろう。
――心眼は眠らない その50――
悠闇の葛藤から、数時間後、横島も目覚める。
「う〜〜〜、久々にいい夢を見たな〜〜〜。」
目覚めた横島は、事務所に行く準備を始める。
「……? 心眼、珍しいな。まだ寝て…ん…の、か?……アレ、バンダナは?」
着替えている途中、いつものおはようがない事に気付いた横島はバンダナがない事に気付く。
「アレ? 何処いったんだ?」
横島は部屋を探し回るが、バンダナが見つからない。
(バンダナがない……って事は……何だ?)
横島の頭で、侵入者の存在に気づけというのは酷だろう。
それでも、無い知恵を絞って、理由を考えるが浮かばない。
しばらく考えた後、文珠を使うことを思いつく。
(さて……こういう場合には《探》《索》か? いや一個で出来るやり方を……)
横島が散々悩んでいると、
(横島……横島)
(―――!? あれ、心眼か!?)
(やっと起きたのか。いつもより起床が30分遅いぞ。)
悠闇からテレパシーが伝わってくる。
横島が起きるのが遅いというより、ただ今日は悠闇が起こせなかっただけである。
(……とりあえずいいか?)
(何だ?)
横島が純粋な疑問を悠闇にぶつける。
(俺たちテレパシーなんて出来たんか? 何で言わなかったんだ?)
(……普段ワレと会話しているのもテレパシーの一種だぞ。というより戦いの時、敵に聞かれたくない話をする際はしていただろう。)
(あ、そういえば……)
確かに戦いの時、自然に使っていた事を思い出す。なお、今回のように遠距離の場合は、悠闇から横島への一方通行でしか接続出来ないらしい。
また、テレパシーといってもタイガーのように相手に幻覚を見せるようなモノではなく最も弱いモノである。
(ついで言うと、竜神の状態ならおぬしのもとにのみテレポートする事も可能だぞ。)
(は〜〜〜知らんかった。)
(使う機会がなかったからな。ワレとおぬしが離れていた事など、おぬしが一人で時間移動した時ぐらいだろう。)
戦国時代の時は、ヒャクメが横島を見つけていたため、テレパシーもテレポートも使う機会はなかった。
悠闇と横島が離れて、横島がピンチだったのをそれぐらいだろう。
(まぁいいや。それで何で居ないんだ?)
悠闇は深夜の出来事を語る。当然、自分の葛藤は話さないが。
「…………」
横島が押入れに近寄り、
ザッ
勢いよく開ける。
「た、た、た、た……」
この札束の山を前にして、震えが止まらない。
「大金やーーーー!!! これで俺も金持ちも一員か!?」
ネコババする気満々の横島、実に横島と悠闇が似ている事がよくわかる。
(ダメだ、ダメだ、ダメだ、ダメだ、ダメだ、ダメだ、ダメだ、ダメだ、ダメだ)
悠闇はテレパシーせずに己のうちで葛藤しなおす。
(こんな事はしてはいかぬ。そう、落ち着け……深呼吸、い〜ち、に〜〜……)
悠闇が一人で深呼吸をしている一方、横島は挙動不審な行動をしている。明らかに犯罪行為に走る前兆だろう。
(ひっひっふ〜。ひっひっふ〜。……ってこれはラマーズ法!!)
完全に大金の山によって壊れた悠闇と、いけない行為をしようとしている横島。
(横島……よせ……よすのだ。)
間違いなく、竜神状態なら血の涙を流している悠闇。その思いが伝わったのか、横島の動きが止まる。
(そう、人間真面目にコツコツ働いてこそ、意味があるのだ。そう、そうに決まっている!!)
横島の何処が真面目だ。GSの何処がコツコツだ、といろいろツッコミ所満載なセリフだが置いておこう。
(……ってよく考えればそれ所ではない!! 聞け、横島。このままではおぬしは公的に犯罪者になるぞ。)
(なんじゃそりゃ?)
公的に……つまり横島の覗きが、犯罪行為と自覚している証拠だ。
悠闇は深夜の侵入者が何をしようとしているか、横島に伝える。
(ちょっと待て!! それじゃソイツは俺の姿に化けて、殺人をしようとしているのか!?)
(あぁ、ワレとおぬしが離れている以上、霊波砲を放つこともろくに出来ぬ。すぐに来てくれ。)
竜神状態なら、離れていても戦えるが、あいにく今は、バンダナ状態。横島の額に巻かれて、はじめて横島の霊力を扱える。
(で、何処なんだ?)
(東京国際空港だ。時間がない。美神どのに連絡をして、すぐに来てくれ。)
(ど、どうやって!?)
(そうだな……おぬし、ここに来た事はあったな。すぐに《転》《移》で―――!? まず、いな。切るぞ。)
悠闇は、暗殺者にバレそうなので途中でテレパシーを切る。
当然、いきなり切られると慌ててしまう横島であった。
「お、おい!? どうした、心眼!?……くそ!!」
電話するのも忘れて。文珠を取り出す。
(イメージしろ……)
《転》《移》
シュンッ
(コヤツ!!)
今の悠闇は、完全にキレていた。
何故なら、自分であるバンダナを使って、空港の作業員の首を絞めているのだから。
(こうなったら、すぐに気絶させて!!)
悠闇は暗殺者にバレないギリギリのラインで、少ない霊力を使い、作業員を昏倒させた。
暗殺者は、作業員が気絶したことで、バンダナを緩める。
その後はすぐに、作業員の服装を奪って着替え始める。
なお、暗殺者は現在、ザンス製の変化マスクを使用して、横島ソックリに化けていた。
この暗殺者の目的は、本日、来日するザンス国王の暗殺らしい。
そして悠闇はすでに暗殺者が単独犯という事を理解していた。
(オ ボ エ テ オ レ〜〜。ワレを使って、このような行為!! 必ず後悔させてやろうではないか!!)
暗殺者は着替え終わったのか、バンダナをそのまま捨て置いて、何処かにいってしまう。
(行ったか……横島、横島!! 聞こえるか!!)
暗殺者が何処かに行くと、悠闇はすぐにテレパシーを始める。
(心眼か!? 今、何処に!?)
(おぬしこそ、今何処だ!? 順番にルートを教える。)
悠闇は先ほどまで、バンダナとして額に巻かれていたのでルートを覚えていた。
すぐに横島の現在地から、ここに誘導する。
(よし、そこの角を曲がってその中に入れ!!)
暫くすると、横島が現れる。
「え〜と……!? 心眼、無事か!?」
『横島、時間は!?』
すぐにバンダナを巻く横島。となりにパンツ一丁の男と、自分と同じ服があるが、今は悠闇が大切のようで無視している。
悠闇としては、ザンス国王が到着するまで、後何分か早く知らなければならない。
すぐに時計を探して、もう飛行機の到着の時刻だと知る。
『急ぐぞ!! こうなれば、まずは国王の命を守るのが先決だ!!』
横島が走り出す。冷静そうな悠闇であったが、
(その後は……ふっふっふ。)
かなりキテいた。
今、轟音を上げながら、飛行機が着陸した。
日本の外交関連の者や、空港のトップの人間がザンス国王が降りてくるのを待っている。
多くの取材陣が来ているのは、ザンス国王が主要先進国を訪問するのが、初めてだからだろう。
ザンス王国はオカルト技術で有名な国で、世界中の精霊石の80%はこの国から産出されているらしい。
また、美神が使っている神通棍、見鬼くんに使われている精霊石振動子もザンス製である。
そして今、飛行機のドアが開く。
「間に合ったか!?」
『まだだ、いつ来るかわからぬから気を引き締めよ。』
現在の横島は気配遮断を利用して、警察等にバレずに滑走路に来ていた。
まだまだ稚拙な気配遮断ではるが、一般人ではまず気付けないほどのモノである。
しかし小竜姫に対して出来た気配遮断には、かなり劣っていた。やはりあの集中力を生み出す何かが必要らしい。
『とにかく近づけ!! この距離ではろくに守れぬ。』
「あいあいさ!!」
飛行機を見れば、まずザンス国王のSPが出てきた。
(何処だ……何処にいる!!)
目がマジな悠闇。いつも真剣であったが、今回は殺気が混じっている。
思わず、身震いする横島であった。
SPの後から、ザンス国王が出てきて、その後ろからは王女のような者が出て来る。
国王はその場で、手を振り、感謝の意を示していた。
「これだけ警備が厳しかったから、諦め―――!?」
『来たぞ!!』
ドォォォォン
ザンス国王が階段を下りていると、階段の下から異形の化け物が現れる。
ゴァァァァァァ
異形の化け物はライオンの姿をしていて、ザンス国王に襲い掛かろうとする。
だが、
――サイキックモード・発動――
バァァァァァン
サイキックブレットを放つ。
狙いは化け物ではない。
「よし!!」
《護》
横島はサイキックブレットに文珠を含めて、ザンス国王周辺で結界が発動させる。
その結界は並みの魔族では、突破できない強度を誇る、
当然、あの程度の化け物などでは―――
ギャァァァァ
―――突破は不可能。
『今のうちに接近して、仕留めるぞ!!』
横島は気配遮断や、サイキックモードを解除して、一気に持ち前のスピードで迫る。
殆どの人間が、化け物と結界に気を取られているので、普通の人間では気付けない。
一方、結界に守られているザンス国王達はどのような反応していたかというと、
ゴァァァァァァ
「精霊獣!!」
「陛下!!」
精霊獣とは、精霊石の力を鬼神の姿に凝縮して、意のままに操る技である。
王女と、SP達がザンス国王を助けようと動く。
だが、国王自身も精霊獣を召還しようする。
「精霊獣……余の命を狙って―――!?」
《護》
ギャァァァァ
ライオンの精霊獣の突破は、横島の結界が許さない。
「結界!? 一体誰が!?」
ザンス国王は、あまりにも立派な結界の前に呆然としてしまう。
それほど、この結界はザンス国王に安心感を与えていたのかもしれない。
少し、放心してしまうが、すぐに国王は、自分の精霊獣を召還する。
カッ
正にランプの精のような精霊獣が現れる。
そのままライオンの精霊獣の頭を鷲掴みにして、
「おっさん!! ナイスアシスト!!」
ザンス国王をおっさん呼ばわり、いい根性している横島であった。
横島は足に霊波を纏い、一気にジャンプして、辿り着いたのだった。
「サイキックスマッシュ!!」
ゴォォォォォン
久しぶりねのサイキックスマッシュは、身動きが出来ない精霊獣に直撃する。
驚くのは、成長した横島が放ったその威力であった。
「な、何だね!? 君は!?」
そして、精霊獣が消えれば、次に問題になるのは横島であった。
周りからすれば、精霊獣を倒したからといって、味方と決め付けるのは、まだ早い。
そしてその間にも悠闇は辺りを警戒していた。
『(見つけた!!)横島、式神の準備を急げ!!』
「―――!?」
殺気だった悠闇の言われるがままに従う横島。
今日の悠闇は一味違うといったところか。
「先ほどの借り!! 返してやろう!!」
「ちょ、どうしたんだよ!?」
悠闇は、作業員に変装している暗殺者に向かう。
暗殺者はそれに気付いたようで、精霊獣を召還して、空に逃げる。
「くっ!!」
悠闇の殺気に気付き、軽やかに退却をする所を見ると、予想通り相当な実力者のようだ。
(横島のバンダナであのような事をした事、許すわけにはいかぬ……次は仕留める!!)
悠闇の怒りの要素は、他にも、横島を犯人に仕立てようとした事だろう。
で、肝心の横島であるが、
「僕、横島!! あなたにあえて光栄です!!」
王女をナンパしていた。
話は雪之丞たちに移る。
「いいかい、雪之丞。アンタの魔装術は、すでに勘九朗たちとは別物なんだ。」
「そりゃ、俺が魔物の力を借りているんじゃなくて、魔物の力を奪ったからだろう?」
メドーサは、雪之丞の答えにヤレヤレと、頭の悪いやつだという。
「そんなガキでもわかる答えを聞いちゃいないよ。いいかい? これまでの魔装術の概念を捨てな。」
概念を捨てる。つまり魔装術の共通することや、当たり前と言われているような事を捨てる。
「メドーサ様。難しいこと言ったってわかるわけないですよ。……馬鹿だし。」
「な、なんだと!!」
タマモが本当の事を言ってあげる。メドーサも違いない、と笑う。
「いいかい。今までは潜在能力を引き出すと、決まって全身が覆われていた。」
「あぁ、確かに全身が覆われていたな。」
魔装術は潜在能力を引き出す術であるが、同時に魔物となるという考えもある。
そうなると、本人が魔物をイメージしてしまい、結果的に魔物や、極めるとシャドウのようになってしまうのであった。
だが今の雪之丞は魔物を喰らったのだ。ならば、魔物になる必要はない。
「アンタが魔物になる必要はない。魔物の力を思うがままに使えるのだから。」
「いや、イマイチ意味がわかんね〜ぞ。」
そしてタマモがいちいち、馬鹿だしね、とダメだしする。
「真剣に聞きな。出ないと、勘九朗の出番―――
「俺が悪かった。」」
やはりそれだけは堪忍してもらいようだ。
勘九朗は、残念ね〜、と気持ち悪い事を言っている。
「簡単に言うよ。局所化。それが極意さ。」
「局所化?」
横島を例にいうと、横島が霊波を足に集めたり、サイキックソーサーのように一部に霊波を集中させる事だ。
「それが魔装術でも出来るっていうのかよ?」
「大切なのは認識する事さ。今のアンタは、魔物になる必要は無い。」
メドーサは最後にニヤリと笑って言う。
「囚われるな。」
現在、鬼道は冥子と一緒に第二の術の取得に励んでいた。
「冥子はん、頑張ろうや。」
「え〜〜、冥子疲れた〜〜。」
中々苦労人の鬼道である。
しかし、鬼道も慣れたようで、
「ふ〜〜、冥子はん。もう少し頑張ったら美味しい料理ごちそうするから、な?」
「マーくんの料理が食べれるの〜〜!?」
伊達に昔から苦労してきたわけではない。料理もこなす小粋な鬼道。
「それじゃ、がんばろか。」
「は〜〜い。」
雪之丞が見れば、殺意を抱くこと間違いないだろう。
――心眼は眠らない その50・完――
おまけ
時刻は、横島が滑走路に出るぐらいであろう。
「横島さん、遅いですね?」
「その内来るでしょ。2,30分の遅刻なんて前は珍しいことじゃなかったし。」
「ダメよ!! それじゃ、一分一秒が青春なのに!!」
昔とは、GS試験前の事を表している。
美神はおキヌと熱血の愛子を置いといて、ザンス国王のニュースを見ている。
『な、なんでしょうか!? 爆発が!?』
テレビでは、ちょうどライオンの精霊獣が現れたところであった。
美神がご丁寧に精霊獣の解説を、おキヌと愛子にする。
精霊獣がザンス国王に攻撃しようとするが、結界が張られる。
「すごい……相当な結界よ。」
美神が結界に感心している間に、ザンス国王が精霊獣を召還して、敵の精霊獣を捕らえる。
そして、
「なっ!? 何で横島クンがいるのよーーーー!!!」
横島参上であった。
あとがき
ザンス編入りました。
悠闇がちょっとキテるな〜と思ったんですが、流石に自分を道具にされたらキレます。
原作では美神が「精霊獣は精霊獣でしか倒せない」と、言ってますが、最後にパンチで精霊獣にダメージを与えているようなので自分は、精霊石が核な武器は通じないと解釈しました。
何か、矛盾があればご指摘の方、お願いします。
それと雪之丞のパワーアップは、いよいよ全貌を現しました。