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「心眼は眠らない その49(GS)」

hanlucky (2005-02-24 04:13/2005-02-24 05:43)
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「小竜姫さま……起きましたか。」
「え?……何で横島さんが?」

現在の状況は、ここまで忍び込むことに成功した横島が小竜姫を押し倒しているところであった。
小竜姫は、突然の横島の訪問や、今、自分がどうなっているのか知ると顔を真っ赤にする。
しかし嫌がっていないのは、相手が横島だからなのかもしれない。

「さぁ!! 小竜姫さま。いざ禁断の関係を!!」
「あぁ、ダメです。横島さん。そん、な、でも……」

横島が小竜姫の寝巻きに手をかける。
小竜姫は口では、拒否しているように見えるが、その抵抗は微弱だ。
そして小竜姫の多少震えた声も、今は横島を興奮させるだけであった。

「お願いします。横島さん……その、やさしく……」
「しょ、小竜姫さまーーー!!!」

横島が小竜姫の寝巻きを強引に脱がそうとしたところで、フェードアウトする。


「……は!?……いいんや、今から正夢にしたる!!」


門の所で一歩も動かず、妄想全開の横島であった。


――心眼は眠らない その49――


妄想も終わったところで、横島は月での悠闇のセリフを思い出す。

”気配遮断の基本は、己の霊力を完全に消した後に、己の気配を隠す事から始まる。”

横島は己の霊波を、出来る限り抑える。
そして、門を潜る。

(小竜姫さま!! 今、あなたの横島が行きますよー。)

抜き足、

差し足、

忍び足。

”擬態、己自身を消すのではなく、周りの環境の合わす。”

横島は、今、正にそれを体現しようとしていた。
この状態で、悠闇のようにトップスピードで動く事は出来そうにないが、時間はまだまだある。
あせる必要などないのだ。

(落ち着け、落ち着くんや!! あせってはうまくいかん。折角のチャンス、これを生かさねば男じゃない。)

はやる気持ちを抑えつつ、横島は小竜姫のもとに向かう。
肝心の小竜姫の場所を分かっているのか、言いたいところだが、以前小竜姫が自分で妙神山を破壊した時に、横島は工事を一週間手伝っていたため、館の構造は覚えている。

(ぐふふふ、まさかあの時の経験がこんな時に役に立つとは。)

本能が、横島に気配遮断という曲技を体現させている。
全ては小竜姫の寝顔を、小竜姫の寝姿を小竜姫の……

(香港の時は、角なんて色気のない姿やったからな。今日こそは!!)

中庭をゆっくりと抜けて、横島は館に入っていく。

(父さん、母さん。忠夫は今日、漢になります。)

ある意味、漢かもしれない。
何故なら、神に夜這いを仕掛けようとしているのだから。

一歩進むごとに、煩悩が高まっていくが、悠闇の指導のおかげなのか、それともそれほどまでに小竜姫の寝顔が見たいのか、霊波を外に放出することはない。

(……着いた、この障子の奥に小竜姫さまが!!)

スーー

ゆっくりと繊細かつ大胆に障子を開ける横島。

ゴクッ

思わず唾を呑む。心臓の音すら、今は五月蝿く感じる。

(抜き足、差し足、忍び足……)

今の横島の気配遮断のレベルは、間違いなく悠闇クラスだろう。
真ん中に敷いてある布団が膨らんでいる。あの中に、愛しの小竜姫が眠っているのだ。

5M…

鼓動が早くなる。

4M…

部屋は暗い。唯一の明かりは、月が照らす月明。

3M…

小竜姫はこちらとは反対の方を向いているため、寝顔が見えない。

2M…

「う、う〜ん。」
「―――!?」

何かの夢をみているのだろうか?
微妙にうなって、

1M…

寝返りをして、寝顔が見えるようになる。

「………………」

その場で止まって、頬をポリポリと掻く。
何か、これ以上進んではならないと体が反応したのかもしれない。
といっても後で小竜姫にバレて怖いというわけではない。
横島がその場で止まったのは、そんなツマラナイ理由ではない。
横島が立ち止まった、それは……


(頂きます!!)

嵐の前の静けさだった。


ゾクッ

「……どうしたんでしょ? 何か感じたんですが……」

何かを感じたのか、突然目を覚ました小竜姫。
再び、辺りの様子を伺うが特に何か感じるわけではない。

(……気のせいですね。)

自分の実力に自信があるからこそ、大丈夫と言い切る小竜姫。
寝なおそうとするが、ある事に気付く。

(障子が開いている? しっかり閉めたはずなのですが……)

とりあえず布団から出て、障子を閉める。

「〜〜〜少し、冷え込んでいますね。」

寒い寒いと、どてらを羽織っているところを見ると思わず、アンタホンマに神様か!? とツッコミたい。

「さて、一眠り一眠り……と言いたい所ですが……」

小竜姫は腰に手をやり舌打ちをする。

(そういえば、剣はないのですか。)

だからといって、剣を取りに行っている暇はない。

「出てきなさい!! この小竜姫が葬ってあげます!!」

神剣がないから何だというのだ。
ここまでバレずに侵入して来た事から、相当の腕前だろう。
しかし、徒手空拳だろうが、負けるはずがない。

ザッ

「―――!? なっ!?」

小竜姫のどてらが、脱がされた。
しかしそのような事に驚く小竜姫ではない。
問題は、相手の動きが全くわからなかった事である。
敵は殺気を出さずに、自分に攻撃を仕掛けることが可能というのか!?
小竜姫は未だに、相手の居場所を探れない事で、相手の強さに驚愕した。

(しかし何故!? 敵は何故どてらを!?)

まぁ、敵の正体が横島と気付いていない小竜姫に、その真意を掴めというのは可哀想だろう。

(落ち着きなさい……今度、仕掛けてくるときに、発勁をお見舞いしてあげます!!)

直撃すれば、霊波を纏っていない横島は間違いなくご臨終だろう。

「はぁぁぁぁぁぁ。」

構えを取る小竜姫。
いつのも服装なら決まっているところだが、あいにく今は、可愛いパジャマ姿。

(さぁ、私の間合いに入った瞬間、止め―――)

捻転。

足から力を伝わらせ、腰を回転させる。

そして、狙いを定めて放つ。

「もらった!!」

ズサァァァァン

物凄い風切り音が鳴る。
それは小竜姫の強さを示していた。
そして、最高のかつ最大の一撃は相手を捉える。
小竜姫は手応えを感じて、構えを解いた瞬間―――


「小竜姫さまーーー!!!」
「え?」


―――横島が小竜姫を押し倒した。

小竜姫が先ほど放った相手は、もちろん横島が作った式神である。
そして、小竜姫が横島に反応できなかったのは、殺気がなかったからだろう。
気配遮断の弱点は、攻撃を仕掛けるとき殺気が生じて居場所がバレる事。
なら、殺気がなければどうなるのか?
結果は、横島が小竜姫を押し倒している事でわかるだろう。

正に煩悩パワー恐るべしといったところか。

「よ、横島、さん?」
「さぁ、小竜姫さま。神様と人間の禁断の恋を!!」
「え、え?、え!?」

もうたまらんです、絶好調の横島。
対する小竜姫は事態を掴めていない。
何故横島がここに居るのか?
何故横島は、今の一撃を受けて平気なのか?
何故横島に自分が押し倒されているのか?

(ちょっと落ち着いて!!…………これは、もしかして、よ、ば、い?・・・夜這いですかーーー!?

顔が真っ赤になる。
いくら強かろうと、まだまだ小竜姫は生娘。
こんな出来事に対処できる余裕はない。

「小竜姫さま……俺は…いいっすか!?」
「は、はい!?」
「オッケーっすか!!」
「ちょ、ちょっと待って!!」

”はい”の意味を誤解する横島。
そうして最後の引き金が引かれたようで、横島の手が小竜姫の肩に差し掛かる。
小竜姫は体がビクンと反応する。ただ、横島の行為にされるがまま。
抵抗出来ないわけではない。しようと思えば、いつでも横島を逆に押し倒す事も可能だ。

「よこ、しまさん。まって、ぁ、ぁっ!?」

横島の手が小竜姫の胸に差し掛かる。思わず、甘ったるい声を出してしまう。
横島はそのまま小竜姫の胸を揉み始める。
普段はサラシでも巻いているのか、思った以上の揉み応えであった。

「ん、ぁぁあ!! ダメ、です。はぁっ! よこしま、さん。今なら、許し、ますから……」

赤く染まった頬、潤んだ瞳、甘い声。その全てが横島を狂わす。

「はぁぁ、あっ!? これ以上は、んっ! 仏罰、が、下り、ますよ!」

仏罰が下ろうと、ここまで来て止まれる横島ではない。

が、

「小竜姫、ここに横島がきとるんじゃが、入るぞ。」
「「―――!?」」

どうやら宇宙意志のご褒美はここまでのようだ。
部屋の外には猿神、そして後ろにはシロがいた。

「「「…………」」」
「天界から帰ってみれば、鬼門がねとったからな。起こしてみれば、ここにいると聞いたんじゃが、全く何をやっとるんじゃ。」

唖然とする横島、小竜姫に絶句のシロ。そして空気を読めない猿。

「せ、せんせ〜〜〜〜!!! どういう事でござるか!?」
「あ、これはな!? その何だ、うん若さ故ってヤツで、その……小竜姫、さま?」
「こほん!! とりあえず、横島さんには仏罰を下す必要があります。」

顔を赤くしながら、構えを取る小竜姫。
横島はすでに煩悩モードが解除されたようで、どうすることも出来ない。

「お仕置きです!!」
「そんな〜〜〜!! 途中からは小竜姫さまも―――」

ゴスッ

横島は最後まで言い切ることはなく散った。


日は昇り、妙神山は次の朝を迎えていた。

「シロちゃんの修行方針ですが……」
『徹底的に長所を伸ばした方がいいだろうな。……では早速鬼門と戦わせてみるか。』

現在、小竜姫と悠闇がシロの修行方法の話し合いをしていた。
ちなみに横島は、昨夜の出来事から小竜姫が目を合わせてくれないので、かなり落ち込んでいた。
横島の落ち込みように、悠闇も制裁を加える事が出来なかったほどだ。

(うぅぅ、仕方なかったんやーーー!! 小竜姫さまの寝顔見たら何も考えられへん!! あぁ、でも後悔してないぞ。あの小竜姫さまの胸の触り心地、たふん、たふんや!!」
「何が、たふん、たふんですか!!」
『声に出ているぞ。』
「堪忍やーーー!!! 小竜姫さまーーー!!」

別に小竜姫は横島を嫌って目を合わさないわけではなかったのだが、そんな事横島が気付くわけないだろう。

「……本当に反省してますか?」
「反省してます!!」
「「…………」」

二人の目が合う。

プイ

が、すぐに小竜姫が目を逸らした。

(恥ずかしい……)
「あぁーーー!!! やっぱり許してくれへんのかーーーー!!!」

小竜姫は頬を赤く染めているが、横島はそんな事気付かない。
悠闇はちょうどい薬だとあえて何も言わない。

「と、とりあえず鬼門との戦いを見せてもらいましょうか。」
『そうだな。おい、行くぞ、横島!』
「うぅぅ、どうせ、どうせ。」

泣きながらも付いていく横島。
鬼門の所まで行くと、そこではシロが準備運動をしていた。

「先生、準備はOKでござるよ!!」
「それでは、開始。」

あっさり開始の合図をする小竜姫。
それによって顔を除いた鬼門達が、シロに襲い掛かる。
そしてシロも腰に差してある刀を抜く。

「……今宵の八房は血に飢えているでござる。」

そう、八房というハンパじゃない刀を、何かのノリで構えるシロ。

『しまったな。八房を使うな、と言ってなかった。』
「なんですか、八房とは?」

小竜姫がシロ達を見ながら質問した瞬間。


ザザザザザザザザザッザン


八つの閃光は舞った。


「「ぐぉぉぉぉぉっ!?」」

もちろん、予想外の攻撃をかわせるわけもなく直撃して倒れる鬼門。
その斬撃はすでに犬飼に互角。

「……すごいですね。開始5秒ですか。美神さんの記録抜いてますね。」

流石に小竜姫は、八房のふざけた威力を見ても、多少驚く程度ですむ。
死にかけている鬼門にヒーリングを施して、今の戦いの考察をする。

「幼い頃から剣術をたしなんできたようですね。まだまだ荒削りですが、それはこれからの課題でしょう。」
「今の合格なんすか?」
「武器もその者の強さの一つといいますし、かまいません。」
『とりあえず、ここで八房を用いた戦いや、さらに全体的な底上げ等を頼みたい。』

今のシロは、ただ単に八房を普通の刀として振るっているのと、大して変わっていない。
この妙神山で妖刀である八房の使い手として精錬されれば、それは同時に霊力の扱い方も上達できる。

『とりあえず、用はすんだな。では帰るぞ、横島。』
「え〜〜〜〜。もう帰るでござるか!?」

シロがとやかく言っているが、学校やバイトもそう何日も休んでいる余裕ない。
横島は最後に小竜姫に、土下座してからシロを残して、妙神山を後にした。


「ぐああああああああ!!!」

現在の雪之丞であるが、雄叫びを上げていた。
それは別に勘九朗に追われているわけではない。

「気をしっかり持ちな。でないとそのまま魔物になるよ。」

メドーサが恐ろしい事を言う。だが雪之丞にはそんな事、耳に入らない。今はただ必死に抵抗していた。

「ああぁ!! ぐぁぁ!! おおおお!!」

体が侵食されている。今、少しでも気を抜けばそれで伊達雪之丞という人間は、この世から消えるだろう。

「メドーサ様、本当に成功するの?」
「さぁね。失敗すればそれまでだね。」

タマモがメドーサに聞くが、メドーサはどうでもいいのか、やる気のない返事をする。

「そろそろだね。タマモ! 勘九朗! 陰念! いつでも殺せるように準備しておきな。」
「「「はいっ!!」」」

今の雪之丞は魔装術を発動させているようだが、明らかにいつもと違う。

「ぐぐぐぐぉぉぉぉおおおおおおお!!!」

ゴォォォォォン

雪之丞が地面を殴りつけると、地面に小さなクレーターが出来る。

(なんてパワーだい。これは下手したら超加速を使用しないと勝てないかもね。)

メドーサも今の一撃で、本気になる。
このまま雪之丞が堕ちれば、それは新たな魔族の誕生であった。

「ぅぅぅぅぅううううううおおおおおおおおお!!!…………」

雪之丞を赤い光が包み込んだと、思えばそのまま雄叫びが止まる。

(どっちだ!?)

雪之丞を囲む四人に緊張が走る。
そして赤い光は消えて、中から立ったままで雪之丞が現れる。

「……雪之丞?」

勘九朗が声を掛けるが、全く反応しない。気絶しているのだろうか。

「……なるほどな。今ならアンタも倒せそうな気がするな。」

どうやら雪之丞は賭けに勝ったようだ。

「生意気言ってんじゃないよ。」

美神は言った。魔装術とは悪魔と契約した者が扱える術だと。
メドーサの血の飲む事で契約した三人は、それで魔装術を手に入れた。

猿神は言った。魔装術の極意とは、己を魔物に変えるではなく、潜在能力を意志で制御して引き出す事だと。
潜在能力を引き出す。つまり己の持つ霊力を限界まで引き出す事が出来る。

しかし、逆に考えれば己の限界以上の力を出す事は、不可能ということだ。
ならばそれ以上の力を得るにはどうすればいいか?

「魔物になるではなく、魔物を喰らう。それが魔装術の邪道。契約者に逆らいし邪法。」

簡単だ。喰らえばいい。

雪之丞が初めて契約した際に飲んだ、血の量はわずか一滴である。
だが今回の再契約とでもいうのか、その時に飲んだ血は、普通の人間、いや優秀な霊能力者でさえそれは致死量であった。
それだけの魔族の血を飲めば、仮に助かっても人間ではいられない。魔物となり、血の魔族の眷属となるのが普通だろう。
だがここで例外があるのは、すでにその魔族の血を飲んでいて、かつ、魔装術を体得している者の場合だ。
その者は、普通の物より遥かに耐性ができているため、死ぬことはない。普通は眷属に堕ちるだけ。

ではメドーサが雪之丞を警戒したのは何故か?

そのまま血の呪いに身をゆだねておけば、眷属に堕ちる。
だが抵抗の意志、反逆の意志を持てば話は別になる。
魔界では、子が親を喰らう事など珍しい事ではない。
生まれた時点で服従するつもりはない、という意志を持っていれば反逆を起こすのは必然。
雪之丞という人格がベースになって新たな人格が形勢されるのだから。

「とりあえず、これで準備は整ったか。次は魔装術の、本当の使い方を教えてやるよ。」

今、雪之丞の魔装術は、己の限界を超えた。


鬼道と六道女史の会話は続く。

「で、鬼道クンはどうしたいのかな〜〜?」

六道女史はテーブルに置いてあったお茶を飲みながら、鬼道の答えを待つ。

「教師の件、引き受けさしてもらいます。その代わり―――」
「その術のために協力して〜〜?」

六道女史は鬼道の答えを読んでいたようで、鬼道の答えを言う。

「……じゃあこちらも条件を言っていいかしら〜〜?」
「どうぞ。」

鬼道も条件の一つや二つ覚悟していたみたいで、今度は鬼道が六道女史の答えを待つ。

「今後、鬼道家は六道家の傘下に入る。構わないでしょう〜〜。」

そうする事によって鬼道家が六道家に脅威をもたらす事をなくし、式神使いとしても鬼道を駒にも出来る条件であった。
普通なら、そんな条件など簡単に呑めるわけはない。しかし、

「そんな事でいいんなら、かまいまへん。僕は御家復興より、大切な事がありますし。」
「……あら〜〜大切な事って何かしら〜〜?」

六道女史は、あっさり条件を呑む鬼道に驚きながらも、一応その大切な事を聞いてみる。

「横島はんの隣に立つ。そして、横島はんを越える!」

鬼道はそう言い放った。


話し合いが終わり、今、部屋にいるのは六道女史ただ一人。

「鬼道政樹……鬼道ちゃんと違って良い子ね〜〜。候補その2かしら〜〜。」


――心眼は眠らない その49・完――


あとがき

あやうく小竜姫ルート突入しかけました。
契約の際、魔族の血を飲むという解釈はどうだったでしょう?

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