時刻は夕方の七時といったところか、
「何で、俺がこんな山奥まで来なきゃならんのだ!!」
『そう言うな。たまには一番弟子の様子を見に行っても、悪くないだろう。』
現在、横島と悠闇は人狼の里に向かっている途中で、山道を歩いていた。
最初は横島も、久しぶりにシロに会える事を少しは楽しみにしていたのだが、今は歩きつかれて、疲労の方が勝っているらしい。
「くそ〜〜〜。折角の休日だってのによ。」
『ほれ、そろそろ結界が見えてきたではないか。』
確かに悠闇の言うとおり、左前方の何もないところを霊視すると、空間の歪が見つかる。
横島はやっとついたかと、以前、フェンリル戦が終わったときに、もらった通行証を取り出す。
そしてそれを掲げる横島。
ピーーーー
通行証は結界に反応して、前方からトンネルが現れる。
「は〜〜〜。やっと着いたか。……とりあえず、飯だな。」
『……それより来るぞ。』
「はっ?」
横島がやれやれと下を向きながら歩いていくと、確かに前方から聞いた事がある声が聞こえる。
「せ〜〜〜ん〜〜〜せ〜〜〜〜!!!」
シロ、久しぶりの登場。
――心眼は眠らない その48――
「お味はどうですかな?」
「ほう、ほかほかひへるじゃん。(おう、中々いけるじゃん。)」
どうやら里に近づいた時点で、横島の存在を多くの者が感知していたようで、トンネルを抜けた先では、多くの人狼が待ち構えていた。
流石はフェンリル戦の立役者という事もあって、大そうな出迎えを受けた横島であった。
そして現在は、シロの父であるシロガネの家で、ご馳走を食べている途中である。
「ふ〜〜〜、食った、食った。」
腹を撫でながら、ご満悦の横島。
シロガネは横島が落ち着いたのを見計らい、訪問の理由を尋ねる。
「決まってるでござる!! 先生は拙者に会いに来たのでござるな!!」
「……? そういえば何で来たんだっけ?」
「せんせ〜〜〜〜。」
よく考えれば、今回の訪問の主な理由を知らない横島。
ただついでにシロに会えるな〜、と思っていたのは間違いではないが。
横島がボケをかましていると、悠闇が今回の訪問の理由を告げる。
『シロガネどの、シロを預からせて頂けないか?』
「は?……我が子をですか!?」
いきなりギアが入るシロガネ。
「という事は、横島どのと、我が子との祝言―――
『違う』む、残念ですな。」
一気にトップスピードに入りそうになったシロガネにであったが、そこは悠闇が華麗に止める。
伊達に横島のボケに付き合ってきているわけではないのだ。
『理由は……その前に今のシロはどれほどの実力を秘めているのだ?』
「実力ですか? そうですな。シロが成長してからは、拙者も剣の稽古を今まで以上に教えてきましたゆえ、今なら、拙者と戦っても五分五分といったところですかな。」
超回復後のシロは、まずは横島と実戦稽古によって、体捌きが磨かれていった。
それによって、相手を翻弄出来る動きを体得して、次にシロに足りないモノは攻め手であったのだが、満月まで時間がなくその時は、結局攻め手を覚える事はなかった。
だがフェンリル戦の後は、父親から直々に剣術に磨きをかけて、様々な攻撃方法を手に入れたシロは里で屈指の実力に成長したのであった。
「は〜、すげーな。シロ!! 流石、俺の一番弟子!!」
「いや〜〜、先生にそう言われると嬉しいでござるよ。」
シッポをパタパタとやかましい位に振り回すシロ。
『なるほど、シロガネどのと互角とはな。これは予想以上であった。……シロを預からして欲しい理由であるが……』
悠闇は、近頃魔族の動きが活発になっている事を告げて、近いうちに美神や横島にも被害が訪れる事を告げる。
ここで肝心なのは、人狼たちは仁義を重んじるので、横島の名を出す事によって、かなりの確立で協力してもらえることだろう。
『シロを選ぶ理由は、シロは現在成長期。シロガネどのは己と互角といったが、そうなると、ここで修行しても、これ以上シロは中々強くなれぬだろう。』
「む! それは―――」
シロガネにも誇りがあるだろう。
シロは鍛えるなら自分が、と言うだろうが、ここは交渉次第。
シロガネが師事しても強くはなるが、それだけではいけない事を伝える。
『シロガネどのが師事しても、シロは強くなる。しかしそれでは遅いのだ。相手は待ってくれぬ。もう時間は残されていない。』
そう、残された時間は悠闇からすればあまりにも短い。
『妙神山、シロをそこに連れて行きたい。』
「「妙神山!?」」
横島とシロガネがハモる。
シロは横島に褒められて、ご機嫌なため、全く人の話を聞いていない。
『そこでシロを徹底的に鍛え上げる。人狼族の年齢を考えれば、急ぐ必要はないだろうが、魔族が動き、魔族が勝利すれば、この世は終わるのだ。……わかってもらいたい。』
悠闇はさらに語り続ける。それに対してシロガネは沈黙を保っていたが、
「………………一晩、時間をもらえないだろうか。」
『あぁ、よく考えて欲しい。』
人狼族に伝わる、妙神山の伝承。簡単に言うと、
”鬼の門を通った者は生きて帰ってこぬ。”
……鬼門には勝っているらしい。
我が子を心配するのは、親として当然の事。
シロガネは一晩の猶予をもらって寝床に帰っていった。
「……なぁシロ。」
「なんでござるか?」
横島は今の父親の様子から、あることに気付く。
「お前、前に妙神山に行った事、言ってないだろ?」
「…………あっ。」
その後の展開が急がしすぎて、すっかり妙神山に行ったことを、シロガネに話していなかったシロであった。
「まぁ、いいや。親父さんには悩んでもらって、ダメならその時に、その事言えばあっさりOKもらえるだろう。」
「そうでござるな。」
気軽なお馬鹿師弟<コンビ>であった。
(は〜〜、これだからワレが苦労するのだ。)
そして、次の朝。
「おはようございます。横島どの、朝食の用意が出来てますぞ。」
「ん、ん〜〜〜〜。おっす。」
欠伸をしながら手足を伸ばして、起きようとする横島。
隣の部屋からはいい匂いがしている。シロがこちらに来ないのは、そこでご飯を食べているのだろう。
食事がある部屋に向かう横島。案の定、シロがそこで豪快に食事中であった。
「あっ!? おはようでござる、先生!!」
「さ、こちらへどうぞ。」
横島がいろりを囲んで座る。
そしてシロガネから茶碗を受け取り、食事を始める。
だが、シロガネはまだ食事を始めない。
「…………昨夜、考えた結果ですが……」
横島たちも箸を止める。
「……シロの事、よろしくお願いします。」
頭を下げるシロガネ。
『……ほれ、横島。』
「ん?……あ!? シロの事は、とりあえず俺が責任を持って預かるんで。」
「!? おーー、責任という事はつまり!!」
「つまり!!」
「『ちがーーーう!!!』」
横島の一言で急に元気になるシロガネ、それに乗っかるシロ。そして華麗にツッコミを入れる悠闇と横島。
結局、カエルの子はカエル。逆もまた然り。
「そうだ、シロ。精霊石の代わりに、コレをかけろ。」
「何でござるか?」
横島は月から持って帰った、月の石を首飾りに装飾された物をシロに渡す。
「―――!? こ、これは力が溢れて!?」
『それならば、人の姿を保っていても精霊石より、狼の時に負けないぐらい力を発揮できるはずだ。』
シロは、みなぎる力に興奮する。月の魔力を至近距離で受けているのだ。当然の結果だろう。
『……シロガネどの。後一つ、お願いが……』
悠闇は、シロガネにあるモノをシロに渡して欲しいと願う。
「そ、それは……長老と話をせねば、何とも言えませぬ。」
流石に一存で決めることは出来ないと、長老と話をさせて欲しい事を願い出る。
『頼む。それが、シロの切り札になるはずなのだから。』
「む、む、む……わかりました。何とか、皆を説得しましょう。」
愛しい娘のためならばと、皆の説得に向かうシロガネと、理由を話すために同行する悠闇、つまり横島も一緒。となると一緒に着いてくるシロ。
皆は長老の家に行き、シロガネは他の皆に集まるように呼びかける。
「……こんなもんかの。それで、頼みとは?」
皆が集まったのを確認した後、長老はシロガネに問う。
「はっ! 此度、シロが横島どのの同伴の下、妙神山に向かう事が決定いたしました。」
妙神山という言葉に、辺りが騒がしくなる。
シロガネはその後も、昨日悠闇から聞いた事を長老に伝える。
近いうち、魔族が横島たちと交戦する事を。
そして、仁義の下、シロを村の代表として、横島の手助けをさせると決意した事。
「……続けよ。」
「拙者は一度、魔族と交戦した事があります。あの時も、横島どの、伊達どの、鬼道どのの助太刀がなければ、どうなっていたかわかりませぬ。」
名無し魔族との交戦を語るシロガネ。
「はっきり申しましょう。魔族は強い。口惜しいですが、我ら人狼族が魔族に勝つには、秘宝「八房」が必要です!!」
八房、その一言で外野が一気に騒ぎ立てる。
それでもシロガネに突っかからないのは、ひとえにシロガネの人望からだろう。
「……八房、か。犬飼ポチの事を忘れたわけではあるまい。あの刀は持ち主を狂わせる。」
「舐めないでもらいたい!! 我が子、犬塚シロは、あのフェンリルとの戦いで、見事に八房を使いこなしていました。決してシロは、八房の強さに惑わされませぬ!!」
確かに、シロはあのフェンリル戦の時、八房を使いこなしていた。
だが長時間、八房に触れて、その魅力に、強さに、惑わされないと言えるかと言えば、わからない。
「……ちょっといいっすか?」
「何かな? 横島どの。」
「よくわかんねえんだけど……シロを信じたらいいじゃん。第一、このシロが、力に囚われる? んなわけあるか。そんな事、バトルマニアのアイツだけにしといてくれよ。」
「先生……」
一同は静まる。横島の次の言葉を待っているのだ。
「まぁ、何だ。この馬鹿犬が―――
「狼でござる!!」……確かに犬飼は狂ってたけど、それは刀のせいじゃないだろ。俺は、シロならぜってー八房に負けないヤツになれる。いや、俺がそうしてやる!!」
途中、無粋なツッコミがはいったが、横島は最後はノリノリで演説が終了する。
間違いなく横島は何も考えずに、語っただろう。
だが、どうやら結果オーライのようである。
「……もとより、あなたがいなければ、我らの命はありませんでしたな。皆!! 今、我らの命があるのは誰のおかげだ!!」
答えはしない。
何故なら皆は、わかっているのだ。
その名を上げるかわりに、皆は頷く。
「犬神族の秘宝「八房」、今、犬塚シロのその手に!!」
長老の掛け声で、数人の人狼が社に向かう。
そして一分もしない内に、刀を持って、帰ってきた。
「シロ!!……こちらへ。」
「はいっ!!」
シロは長老の前でひざまずく。
そして、顔を下に向けたまま、両手を前に差し出して、長老の動きを待つ。
「誓え、我ら、犬神族に恥じぬ者になる事を……」
「はい、拙者は横島の名の下に誓います。」
何時もの、ござる口調ではなく、勝手に横島の名を使うシロ。
横島としてツッコみたい所ではあったが、何とか我慢する。
そして、今―――
「ならば、秘宝「八房」、そなたに授ける。」
―――八房はシロの相棒となる。
「ふ〜〜、それ、お前も飲め!!」
横島たちが里を発ってから、しばし時間が経つ。
そしてシロガネは今、ある場所に来ていた。
「こうして、お前と酒を飲み交わせる日が再び来るとはな……」
シロガネは、語りかけるが、向こうから返事は返ってこない。
だがシロガネの砕けた口調から、相当相手とは親しい事が伺われる。
「我が子が八房の、か……父親としては何と言っていいやら。」
人狼族ならば、一度は夢見る八房の使い手。それが今や我が娘なのだ。
「まぁ、我が子の門出を祝ってくれ!! なぁ…………犬飼。」
そうして、シロガネはもう一度、酒を亡き親友の墓石にかける。
一向は、シロが八房を授かった後、そのまま直行で妙神山に向かう事にした。
「うぅ、電車賃が……」
その途中で貧乏性の男が泣いていたのは、言うまでもあるまい。
道中、シロが喧しかった事以外、特になにもなく順調に、妙神山に到着した一行であった。
「久しぶりでござるな〜。」
「お〜い、先に行くなよ。」
シロが鬼門の傍まで、横島を置いて走っていく。
すでに辺りは暗くなっているというのに流石である。
「前回は、拙者は見ているだけでござったな。」
八房を竹刀袋に入れて、担いでいるシロは、修行はまだかまだかと意気揚々である。
「何をはしゃいでおるか!! ここは神聖なる修業場、妙神山!! 我らはこの門を守る鬼、許可なき者我らをくぐる事まかりならん!!」
「この右の鬼門!!」
「そしてこの左の鬼門があるかぎり!! おぬしのような未熟者には決してこの門は開きはせん!!」
二人は決めゼリフを決めることに見事に成功する。
そして、今回は小竜姫がいきなり門を開けることもない。
((決まったーーーーー!!!))
今、鬼門はこれ以上にない位、シンクロしていた。
(……何でこんなに燃えているのでござるか?)
相手との温度差があると、結構反応に困る。
「だ〜か〜ら〜急ぐなって……おう、久しぶりだな。」
「む、横島ではないか? とすると、この小娘は知り合いか?」
「知り合いの何も、前回お前らと会ってるはずだぞ。」
その時は、超回復前だったため、シロに気付かない鬼門。
「?……おお!? そうか、確かにいたな。あの子供がこんなに大きくなっているとはな。」
ようやく納得する鬼門。
「それで、今回はどうしたというのだ? 横島、おぬしならすでに最難関の修行をおえているのだが?」
「あぁ、ちがう、ちがう。今回、受けるのはシロの方だ。」
横島がシロを指差す。
「そんな事より、小竜姫さまを出せっての!! どうしたんだよ!? いつもみたいに俺を暖かく迎えてくれるんじゃないんか!?」
「時間を考えろ。小竜姫さまは今は、就寝中だ。」
ピクッ
確かに、日は暮れている。
事前に連絡も入れていない。
それならば、小竜姫が寝ている事も仕方ないだろう。
そして、この絶好のチャンスを逃がす横島ではない。
(小竜姫さまの寝顔小竜姫さまの寝姿小竜姫さまの寝巻き姿小竜姫さまの……)
すでに妄想全開の横島。
「まぁ、おぬしらが尋ねて来たのだ。今から起こして―――
「させん。」何?」
《昏》《睡》
妄想全開の横島が放った文珠。
その威力は強烈で、神族である鬼門すら眠らす。
といっても流石に不意打ちだったようで、全く霊的防御をしていなかっただけでもあるが。
『よ、よ、よこし……』
「せ、せん、せ……」
そして、同じく不意打ちを喰らった悠闇、シロ。
今、門の前で立っている者は一人、横島忠夫。
「許せ、皆。だって…だって―――」
門を開ける横島。
やはり鬼門が眠っているせいか、簡単に開いた。
「―――我慢はよくないよなーーーーー!!」
横島の夜這い(小竜姫編)が始まった。
雪之丞がメドーサと遭遇してから、すでに二週間近くの月日が経っていた。
始めの数日は、タマモに徹底的に痛めつけられては、メドーサのヒーリングのコンボであった雪之丞であったが、今では接近戦なら何とか互角以上の戦いができるようになっていた。
もちろん、それはタマモが狐火も幻術も使用しない事を前提であるが。
「待ちなさいよ〜〜〜〜。」
「うおおおおおおお!!!」
現在、雪之丞は一人のオカマに追いかけられていた。
「今日こそ観念しなさいよ〜〜〜。」
「誰が観念するか、くそったれが!!」
メドーサは雪之丞と出会ったその日、徹底的に雪之丞をボコッてから話し合いにはいった。
雪之丞はメドーサの力を借りるつもりはなかったが、悠闇の差し金だと知ると、少し態度が変わる。
そして、メドーサのこの一言が引き金になった。
”このままじゃアンタは一生、横島にも、式神使いにも勝てないね。”
メドーサが提示したモノは強敵(タモマ)と魔装術の裏技であった。
”裏技!?……それが使えれば俺は、……俺は勝てるのか? 横島や鬼道に勝てるのか!?”
そしてメドーサが止めの一言を放つ。
”横島? 鬼道? はっ!! 何、レベルの低い事を言ってるのさ!! はっきり言ってやるよ……私を倒す事も可能さ!!”
悠闇の差し金、
強敵や環境、
そして手に入る強さ。
”……頼む。”
すでに精神的に追い詰められていた雪之丞は、メドーサの教えを請うことにした。
「タマモ、陰念、勘九朗、決して雪之丞を休ませるんじゃないよ。」
雪之丞の修行が始まってから、数日後には、ぼろぼろの勘九朗と、元からぼろぼろの陰念が拉致されてきた。
それは陰念は即降伏したが、勘九朗はかなり抵抗したためである。
”とりあえずは……アンタ達はしばらく基礎からだね。”
二人は、いきなり今の雪之丞と対戦したところで瞬殺される事は間違いなので、スパルタでメドーサにしごかれる。
陰念は一度、魔物になった事が良かったのか、思いのほか早い期間で、魔装術を勘九朗レベルまで引き上げていった。
魔装術の姿は、イメージが固まってしまったのか、魔物と化したときと左程変わらないではあったが。
勘九朗の方はメドーサにある提案をしてからはやる気満々で修行に励み始めたようである。
もちろん、ある提案とは、
”あたしが勝ったら雪之丞を好きにしていいでしょうか?”
”そうね……好きにしなさい。”
”待ちやがれ!!”
それからの勘九朗の成長をそら凄まじいモノだったそうな。
どうやらとあるお店で働き続けて、本格的にその道に走ったらしい。
”そろそろ、雪之丞には三人同時に相手をしてもらおうか。”
そんなわけでここ数日、タマモ、勘九朗、陰念を相手にしている雪之丞であった。
メドーサは三人をうまく指揮して、雪之丞を取り囲む。
(死ぬ、死ぬ、死ぬ、何が死ぬって男として死ぬ!!)
雪之丞はいつもの様に、腹をくくったのか、とにかく勘九朗だけは倒そうとする。
「あら、あたしの所に来てくれるなんて感激ね。」
「てめえだけは、ぜってーーー殺さねえとならねえ!!」
現在は雪之丞の方が実力が上なので、勘九朗を倒す事はそこまで難しい事ではない。
だがそれは、相手が勘九朗だけならの話である。
「俺を忘れんじゃねえ!!」
「うるせえ!!」
バシッ
横から陰念が迫ってきたが、一発でカウンターを合わせる。
そのまま、ふっ飛ぶ陰念だが、いつの間にか打たれ強くなったようで一発では中々沈まない。
その間に勘九朗は、雪之丞に向けて霊波砲を放つ。
ダァァァァン
「くそっ!!」
ドォォォォン
雪之丞も同じく、霊波砲を放って相殺する。
「私も忘れないでね。」
「しまっ―――」
ゴォォォォォォォ
タマモが雪之丞が霊波砲を放った瞬間に距離を詰めて、狐火を放つ。
見事直撃して、勘九朗の方に吹き飛ばされる雪之丞。
ゾクッ
鳥肌が立つ。理由はもちろん、
「今日こそ……い た だ い て あ げ る。」
「お前だけは死ねーーーーーーーー!!!!」
ドォォォォォンッ
最後の力を振り絞って勘九朗に霊波砲を直撃させる雪之丞。
「きゃーーーー!?」
気色悪い悲鳴を上げて、遠くまで飛ばされる勘九朗。
雪之丞は勘九朗の様子を伺うが、勘九朗は倒れたまま立ち上がらない。
「はぁ、はぁ、……ママ!! 今日も俺は生き延びたよ!!」
このように、白龍チーム再結成以来、常に貞操の危機に晒され続けていた雪之丞であった。
(……さて、遊びはこれまでにして、そろそろ本格的に取り掛かるとするか。)
雪之丞、メドーサに遊ばれていたらしい。
「失礼します。」
「どうぞ〜〜〜〜。」
この口調で六道女史か、冥子のどちらかがわかる。
「いらっしゃい、鬼道クン。何のようかしら〜〜?」
一人は鬼道、一人は六道女史のようだ。
「今回、来ました理由ですが……」
「もしかして〜〜〜。ついに教師になってくれる事を決心してくれた〜〜〜?」
鬼道は下を向いて深呼吸する。
そして、月での出来事を思い出す。
完敗だった。
押していたと思えば、完全に相手の手の内にいた。そして、横島はそんな相手に勝利しているだけではなく、その上司にも勝利しているのだ。
(僕は……僕は……)
鬼道は顔を上げて、六道女史と向き合う。
「鬼道家、西郷家、六道家によって生まれた術をご存知ですか?」
「―――!? そういう事ね〜〜〜。」
相変わらずポーカーフェイスの六道女史。
(僕は、やっぱりこの人が苦手や。……冥子はんがこんな風にならん事祈るわ。)
鬼道にとっては、六道女史自体が最難関のようだ。
――心眼は眠らない その48・完――
あとがき
思ったんですが、里だと皆、昼とか関係なく人型になってませんでした?
まぁ、これでシロ(妙神山でも修行+月の石+八房)コンボ発動です。
六道家については術は伝わっているが、横島達の事を伝わっていません。
1000年も経てば、書物のいくつかは失われますので。これで矛盾が生じないかな?