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▽レス始

「横島日誌6(GS)」

マッキー (2005-02-24 22:12)
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目覚まし時計のベルがな鳴った。枕元から響くそのけたたましい音に、横島は目を覚ました。
時刻は午前7時30分。眠ったのは午前3時過ぎなので、眠ったのはほんの4時間程度だった。
しかし、眠りがよほど深かったのか、疲労はまったく残っていなかった。目覚ましを切って軽くストレッチをし、顔を洗う。その頃には、眠気は完全に消え去っていた。
彼がまず最初にしたことは、学校への連絡だった。妙神山は、行くだけで半日は確実にかかるような秘境にあるのだ。とてもじゃないが、学校になど行ってはいられない。このところの除霊日照りで学校には比較的まともに出席しているので、何とかなるだろう。

横島は何も見ずに、学校の電話番号を押していく。除霊などで欠席・遅刻は日常茶飯事だったため、学校の番号は完全に頭に入っているのだ。そんな自分に気付き苦笑しながらコール音を聞いていると、女の声が聞こえてきた。
彼は、その声に聞き覚えがあった。
そう、学校の美術の先生である暮井緑先生・・・のコピーだ。オカルトアイテムである
“ドリアン・グレイの絵の具”によって暮井から生み出された彼女?は、今も学校で教師として働いている。はじめはどうなることかと思ったが、結構まともに働いているようだった。
横島は、こいつに絵の中に閉じ込められた経験があるのだ。忘れようったって忘れられるものではない。


「横島なんだけど、俺の担任はいるかい?」

「いるけど・・・またサボるの?あんまりサボってばかりいると、また絵にするわよ。」

「今日は大事な用があるんだ。というわけで、替わってくれ。」


ややあって、受話器から彼の担任の教師の声が聞こえてきた。暮井から話を聞いたのだろう、休む理由を聞いてくる。

「おい横島、お前また休むのか?やっと最近ちゃんと来るようになったってのに・・・
で?今日の理由は何だ?除霊か?」

「まあそんなようなモンです。よろしくお願いします。」


本当の理由を言っても良かったのだが、その時間も惜しかった。それに、言ったところで、信じてはもらえないだろう。横島にまつわる話に常識は通用しないというのが学校の暗黙の了解であったが、流石に今回の話は突拍子もないものであった。
どこの世界に、「恋人を生き返らせることができるかもしれないので休みます。」なんて話を受け入れる教師がいるというのだ。もし居たら見てみたいものである。

電話を切ると、彼は着替えを始めた。今日の予定は、日本有数の峻岳への強行軍だ。服はなるべく頑丈なものにするに越したことはない。
と言っても、服などろくに持っていない彼のこと、結局はいつもと同じGジャンに決まった。
あとは荷物の準備なのだが、これは殆ど必要ない。いくら遅れても今日中には妙神山に着くだろうし、向こうでの滞在が多少長くなったとしても、服ぐらいは貸してくれるだろう。
方位磁石なんて滅多に使わないものは、もともとこの狭い部屋には置いていなかった。登山に使用する道具は、美神に借りることにした。
それらと食糧を入れる空のナップザックに財布を入れると、もうそれだけで支度は終わりだ。


準備万端整うと、彼はアパートを出発した。事務所に向かう前に、近所のコンビニに寄って食料を調達する。事務所の近くにもコンビニはあるのだが、この店舗は開店記念ということで、全品50円引きのセールをやっているのだ。
昨日の依頼でかなりまとまった報酬が出た彼だが、事務所に寄らずに帰ったので、まだ受け取ってはいない。そのため彼の財布の中身はかなり貧弱なものだった。
普通のパン屋などでは朝食分でやっとなくらいに・・・・


ともかく用事も済み、事務所へ向かう電車に乗る。平日の通勤ラッシュの時間帯なので、満員電車に揺られての道のりだったが、彼の気力はまったく衰えなかった。


事務所の前で、彼は入ることを躊躇っていた。悩むのは、タマモのことであった。

といっても、彼女を恨んでいるのでは決してない。確かに言われたことはショックであったが、それは自分を思うゆえの行動であったことがわかっている。それに、彼女は正しいことを言ったのだ。あの言葉がなければ、自分はルシオラの転生を信じて何もせずに生きることになったであろう。感謝こそすれ、恨む気持ちはこれっぽっちもなかった。

悩んでいたのは、彼女にどう接すれば良いのか判らなかったからだ。自分は今から、嘗ての恋人であったルシオラを復活させるための方法を探しに行くのだ。
そんなときに、自分を好きだと言ってくれたタマモに対して、何と言ったらいいのか?
考えても答えは出てこず、彼は一歩を踏み出せなかった。

しかし、行かなくてはならない。昨日はショックのあまり、泣いているタマモを気にかけることができなかった。想い人を悲しませたと思っているであろう彼女のことを考えると、慰めてやりたい気持ちでいっぱいであった。
今すぐ会って、自分が恨んでなどいないことを伝えてやりたかった。

決心が付かずにしばし逡巡していると、入ってこない彼を不審に思った人工幽霊一号が声をかけてきた。

「横島さん、どうかしたのですか?」

「ああ、人工幽霊一号か・・・丁度良かった。ちょっと聞くが、タマモは今どんな様子だ?」

「ああ、昨晩帰ってきてから彼女の様子が変なのは、あなたが関わっているのですね。
ええ、なにやら落ち込んだ様子で、今も部屋から降りてきません。」

「そうか・・・」

その言葉に、彼はタマモに会う決心をした。告白の件はともかくとして、自分に掛けた言葉のことで傷ついている彼女を、放っては置けない。少なくとも、自分が恨んでなどいないということを伝えておかなくては。


「わかった。今からあいつと話しをするから、中に入れてくれ。」


事務所に入ると、玄関でいきなり美神につかまった。説明する間も有らばこそ、彼女は横島の胸倉をつかみ上げると、恐ろしくドスの利いた声で詰問してきた。


「あんた、タマモにいったいなにをしたの!?
泣き腫らして帰ってきたかと思ったら部屋に引っ込んじゃって、シロに事情を聞いても答えてくれないのよ!
まさかあんた、タマモに手ェ出したんじゃないでしょうね!?」

「し、死ぬ・・・死んでしまう・・・」

首をガクガク揺すりながら強烈に締め上げられて、彼の意識は危うく遠いお空の彼方へ飛んで逝きそうになる。腕一本で男一人を持ち上げるのは、流石というべきだろうか?
憐れ、このまま彼の人生も終わりかという瀬戸際・・・
すんでのところで、シロが止めに入った。
人工幽霊一号から横島の来訪を知らされ彼女は、美神の怒鳴り声を聞き、それがまったくの誤解であると気付いたのだ。
こういうのは普段ならおキヌの役割なのだが、生憎彼女は学校に行っていた。

「それは誤解でござる!とにかく先生を放してあげてくだされ!」

事情を知る彼女からの声に、美神は横島を開放した。床に落とされた彼はしばらくピクリとも動かなかったが、彼の不死身っぷりを良く知っている二人は、まったく心配していない。案の定、10秒ほどすると何事もなかったかのように立ち上がった。

「あー、死ぬかと思った。」

「それで、シロは誤解だって言ってるけど、昨日何があったわけ?返答次第じゃただじゃ置かないわよ。」


手こそ出してこないものの依然として剣呑な目つきの美神に、危うく怯みそうになった横島だが、何とかこらえた。応接間に移動して、美神に事情を説明する。といっても、告白云々はもちろん伏せてあったが・・・


予想外の事態に、流石の美神もしばし固まっていた。

話がルシオラに関することと聞いて、美神はどう対応していいか分からなかった。ルシオラを失った彼の涙は、今も彼女の心に刻み付けられている。(そのことに気をとられた美神は、横島にとってありがたいことに、タマモが泣いた理由については追求しなかった。)
ルシオラのことは、二人の間ではタブーとなっているのだ。

恐る恐る彼の顔を見る見ると、思ったほど悲しんでいる様子もないことに違和感を覚える。
今の彼の顔からは、なにか希望が感じられた。どう見ても、恋人を失って絶望している顔には見えない。


美神とシロの二人がそのことを問いただすと、彼は例の可能性について打ち明けた。なぜ横島と自分の記憶が消されているのかは分からなかったが、少なくとも試す価値はあるように思えた。
美神は彼の記憶を消した張本人なのだが、自らも文殊によって記憶を消しているので、話を聞いても彼と結婚云々についてはまったく思い出さなかった。
美神の隣に座っているシロも、ヨコシマの恋人が生き返るかもしれない、というのは複雑な心境だったものの、彼の立ち直りを喜んだ。

しばし考え、彼女は納得したようだ。

「大体の話は分かったわ。可能性があるかどうかは分からないけど、少なくとも試してみる価値はありそうね。よろしい、あんたの妙神山行きを許可するわ。
屋根裏に行って、タマモにも説明してきなさい。」


そういって、彼を送り出した。
階段を上り、タマモのいる屋根裏部屋の前に立つ。ノックをすると、美神とでも思ったのか、「入らないで」という声が届いた。

「俺なんだけど・・入れてくれないか?」

しかし、来たのが横島だと分かると、タマモは慌てておきだしてきて、ドアを開けた。思い悩んでいた人物の来訪に、彼女はかなり戸惑ったようで、しばらくは混乱して何も言えなかった。

やっと落ち着くと、彼女は横島を部屋に招き入れた。自分のベッドに腰掛けると、横島にシロのベッドに座るよう進める。
横島がそれに従うと、タマモはいきなり横島に頭を下げた。

「昨日は本当にごめんなさい。あなたを傷つけるつもりはなかったの・・・」

「謝る事はないよ。タマモが言ったことは正しかったし、俺のためを思って言ってくれたんだろ?恨むなんてことはないよ。とにかく、顔を上げてくれ。」

顔を上げると、優しく笑う彼の顔が目に飛び込んでくる。

ボンッ!

顔を真っ赤にした彼女にどうしたのか聞く横島に、タマモは慌てて誤魔化した。告白はしたものの、あなたに見とれてましたなんて、恥ずかしくて言えやしない。
「本当に、私のこと、怒ってないの?」

「言ったろ?怒ってなんかいないさ。それどころか、タマモには感謝してるんだ。昨日言ってくれなかったら、俺はルシオラのために何もしないでいるところだった。」

「ルシオラさんを生き返らせる方法を見つけたの?」

例の件について説明されて、可能性があると知ったタマモは、いくらか救われた気分になった。

「それで・・・俺のことが、その・・・好きだって言うのは、本当なのか?」

彼は未だに信じられず、タマモに確認した。

「もちろんよ。私はあなたが好き。」

面と向かって断言されて、やっと信じたようだ。
それでも、長年女性にもてない日々を送ってきた彼は、自分を好きになった理由が判らなかった。

「俺なんかのどこがいいんだ?」

「あなたが優しいからよ。殺生石から出てきて、私を女として見てくれたのはあなただけだった。人間じゃないことを気にしないあなただから好きになったの。
あなたが魔族であるルシオラさんのために人間を裏切ったと聞いて、私がどんなに感動したか解る?魔族の女性のために魔神に戦いを挑んだと知って、どんなに嬉しかったか・・・」

「タマモ・・・」

彼女が本気だとわかり、彼はあの悩みを打ち明けた。

「もしもルシオラが復活したら、どうするんだ?」

それに対するタマモの言葉は、毅然としたものだった。

「ルシオラさんがいてもいなくても関係ない。私が好きなのはあなただけ。それは、何があっても変わらないわ。」

その言葉を聞いて、彼は感動に震えた。
目の前の少女は、そこまで自分を愛してくれているというのだ。
ここまで一途に自分を愛してくれる者を切り捨てることなど、選べるはずもなかった。

そういう人間だからこそ、ルシオラをはじめとする多くの女性が彼に惚れるのだ。ここでタマモを捨てるようなら、初めから彼を好きになどならない。
彼の魅力は、強さではない。その無限の優しさなのだ。

自分には、ルシオラもタマモも捨てることはできない。ならば、両方を愛する。それで駄目ならあきらめればいい。
彼は、タマモとルシオラの両方を愛する決断をした。優柔不断と言う者もいるだろうが、これが彼にできる唯一の決断だった。

「タマモ、俺にはどちらかを選ぶことはできない。両方とも愛するなんていう男でも良いのか?」


答えは、行動で示された。
タマモは横島の胸に飛び込んでゆく。横島は、彼女を抱きとめた。


「ありがとう・・・」

しばし、彼と見詰め合う。

やがて、タマモは顔を上げて、目を閉じる。

横島は何も言わずに、いっそう強く彼女を抱きしめると、その唇に自らの唇を重ねた。

タマモの閉じられた目蓋から、涙がこぼれ落ちる。タマモとして転生して初めて流す、喜びの涙だった。
今自分は、己のすべてを受け入れてくれる男と、確かな絆を結んだのだ。これからずっと、この限りなく優しい男の傍にいることができる。

今彼女は、幸せの絶頂にいた。


やがて、二人はどちらからともなく唇を離した。どちらも、興奮に頬を赤く染めている。
しばらくそのままでいると、横島は自分がベッドのすぐ傍にいることに思い至った。
女の子と口付けを交わし、ベッドの隣にいる・・・
自分のおかれている状況に、彼は己の鼓動が早まったのを感じた。


タマモもそのことに気付いたのだろう、上気した頬がさらに赤くなっていく。その顔は、幼い外見に似合わず、凄絶な色気をたたえていた。横島は、彼女を抱く腕に力を込めた。

そのことを感じても、彼女に拒む様子はまったくなかった。体の力を抜き、彼にその身を任せる。
彼と結ばれる・・・そのことに、恐怖はまったくなかった。今まで孤独な生を送っていた彼女は、人肌のぬくもりを求めていた。
横島と一つになることへの期待に、彼を見詰める視線に熱がこもる。

しかし・・・横島が彼女を押し倒すことはなかった。彼女を傷つけぬよう、そっと手を離す。


「横島・・・私じゃ、駄目なの?」

「今は美神さんもシロもいるだろ?また今度、二人っきりになったらしようぜ。」

そのことに気付いて、彼女は落ち着きを取り戻した。とりあえず、彼は自分を受け入れてくれたのだ。今日のところは、ここまでで満足すべきであろう。

・・・ウウゥゥゥ・・・

ふと、タマモは、かすかに聞こえてくる音に気付いた。横島は気付いていないようだったが、彼女の野生の聴覚はそれが唸り声であることを告げていた。この事務所に、唸り声を発するのは一人しかいない。

「シロ、入ってらっしゃい。」

動揺する気配が伝わってきて・・・案の定、バツの悪そうな顔をしたシロが入ってきた。
他桃の横島への想いを知っている彼女は、堪え切れなくなって様子を見に来たのだ。そして、二人の状態を確認して、ドアの前で唸っていたというわけだ。

「シロ、何か言いたいことがあるんじゃないの?」

「タマモ・・・いいのでござるか?」

「あんたなら良いわよ。ほら、言っちゃいなさい。」

そこまで言われて、決心が付いたようだ。シロは横島をみつめ、はっきりと言った。
今度は、誰も邪魔しなかった。

「先生・・・拙者も、先生のことが好きでござる。拙者を傍に置いてくだされ。」

これは夢か?
わずか二日の間に二人に告白された横島は、己の正気を疑っていた。それまでの人生が頭をよぎる。人生17年、まったく女にもてない人生だった。その自分が、いま告白を受けている。いったい何があったのだ?

困惑の表情を浮かべる彼に、自分が拒絶されていると思った彼女は、泣きそうになりながら言った。


「先生は、拙者が嫌いなのでござるか・・・?」

「そんなことはないよ。シロなら大歓迎さ。」

もちろん、そんなことはない。女の涙には滅法弱い彼は、慌てて否定した。


「ならば、証を見せてくだされ。」

そう言うと、シロは目を閉じた。その顔は、火を噴かんばかりだった。

横島がタマモを見ると、彼女はうなずいて返してくる。

彼は、シロに近づき、口付けを交わした。
こうして、彼はシロとも、決して切れぬ絆を結んだ。


シロが落ち着くのを待って、三人は一階に降りていった。
すでに玄関のところで、美神が荷物を準備してくれている。ナップザックにそれらを詰め込み、いよいよ出発だ。
玄関で、三人が見送りをする。

「道中気をつけてくだされ。」「がんばってね。」

美神は獣っ子コンビの横島を見る目が昨日とは違うのに気付いたが、彼らの間に何があったかは分からなかった。

「ルシオラを復活させる方法、見つかると良いわね。」


美神の言葉に励まされ、横島は事務所を出ていった。


つづく????


前回は話数を間違えてしまい、申し訳ございません。どうも睡眠不足のせいで、脳が腐っていたようです。
さて、今回はシロタマと横島がくっつきました。私は個人的にみんなくっつくというのが好きなので、これからもどんどんくっつく予定です。
手にネコが乗った状態で打ったので、タイプミスが多いかもしれませんが、ご容赦ください。(流石に8匹もいると大変です。)
いま時代はタマモだ!!とクラスメートに力説したら、なぜか変な目で見られました。


>通りすがり様
 またしてもうろ覚えでした。たびたびすみません。


>Dan様
お褒めいただき恐縮です。化学の授業があまりに詰まらんので
瞑想考えていたら、これ使えるかもとひらめきました。
あと、過去を変えた横島は元の時代に帰る予定です。


>一読者様
好きと言って貰うのはやはり嬉しいですね。
私も同意見です。


>綱原様
矛盾してないかちょっと不安なんですが、楽しみにしていてください。


>D様
自分の考えているルシオラを造る、と言うのではないので、それは有りません。


レスが増えるのは、やはり有難いですね。皆様これからもよろしくお願いいたしします。

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