「うえぇ!?共同作戦!?待ってよ!!そんな話聞いて無いわ!」
本日の仕事は新築マンションに集まって来てしまった悪霊の退治。
そう聞いて来たのだが……そこには知り合いが居た。
「私、一緒に仕事出来るの……楽しみにしてたのよぉ~?」
そう言って美神の髪の毛を握り締めた幼い雰囲気の少女。
何処か雰囲気が黒髪横島に似ている。
「め……冥子……」
どう言えばこの場から逃げられるかを考えつつ、美神は顔を引きつらせた。
「実は、千体以上も霊が集まって来てしまって……早急に除霊を進める為に二人にお願いしたんです」
依頼者が説明をしてくれる。
「私が令子ちゃんも呼んだ方が良いって言ったの~お願い~いいでしょう~?」
冥子は掴んでいる場所を服から腕へ移動させた。
「同業者は私以外にも居るでしょう?!」
「令子ちゃんが良いの~!令子ちゃんじゃなきゃい~や~!」
「あの~……」
まるで学校の様に手を上げて問いかける。
「取り込み中すみません、その人……誰ですか?」
頭と首に包帯を巻いた横島の質問。
先程まで赤髪だったので……美神の攻撃の痕が痛々しい。
「はじめまして~六道冥子です~」
「こちらこそ、横島忠夫です~」
双方頭を下げる、何処までも雰囲気が似ている。
まぁ……冥子に比べれば横島の方がしっかりしているが。
ゆっくりと頭を上げた瞬間、髪の毛が赤く染まって行った。
「ずっと前から愛していました!」
初対面の相手だが、横島は冥子の手を取った。
『さっき会ったばかりじゃないんですか?』
空中でこけるキヌの突っ込みに横島はにやりと笑った。
「ははは!!愛は時空をも越える!!愛し合いましょう!!」
頭と首に巻き着いている包帯を振りほどき、横島は冥子へと向かっていく。
が。
「今霊の気配でこの子達、気が立ってるんで~危ないですよ~」
冥子の忠告と同時に影から幾つもの何から飛び出してくる。
「でー!!?」
最初に影から飛び出してきたのはへたの無い林檎の様な物。
次にエイリアンの様な物や巨大な蛇の様な物。
「冥子は『式神使い』といってね、十二匹の鬼を自在に操る力を持ってるのよ」
黒の横島に頼まれていつもならばナンパすると止めに入る美神だったが……今回は傍観するのみ。
それは……今横島の顔に噛みついている式神が原因だった。
「あぁ~駄目ですよ~貴方達~」
横島を囲み、式神達は攻撃を仕掛けていた。
ちゃんと冥子が止めねば延々と攻撃を続けるだろうと思われたが……
「あう~??」
少しくぐもった声が式神の中からすると、すぐに攻撃は止んだ。
食べられていた口からどうにか解放された。
「ん~なぁに??」
少し目を潤ませつつ、横島は顔を上げた。
上目遣いの横島を見、式神は何処か楽しげに大人しくなった。
「??」
膝の上に『もふっ』と角の生えた毛玉が乗り、首を傾げる。
毛玉も同様に身体を傾けた。
「わ~v可愛い~」
まるで動くぬいぐるみ、子供は目を輝かせた。
ぎゅ~
苦しく無い程度に力いっぱい抱きしめる。
すると、毛玉からは煙が出てきた。
「わわ!!?」
毛玉がダウンすると、次は犬が近寄ってきて頬を舐め始めた。
「あはっ!くすぐったいよぉ!」
犬に頬を舐められつつ、肩に蛇が這う。
蛇はシャツの中を通って下から出、横島の顔を覗きこむ。
そんな状態なのでへそが露出してしまっている。
膝に毛玉。
頬に犬。
身体に蛇。
皆横島に懐いている様。
「はぁ……仕方ないわねぇ!一緒にやるわよぉ!」
横島が式神達に懐かれている間、美神と冥子の間で話がついたらしい。
「だから令子ちゃん好きぃ~v」
悪霊まみれのマンションの前にて……ほのぼのとした空間が発生していた。
『何だかんだ言っても、優しいんですよね。美神さんって』
口元を押さえ笑うキヌに美神は頬を痙攣させる。
「おキヌちゃんは式神使いの怖さを知らないから……もごもごっ……まぁ良いわ」
何か言いたそうにするが、口には出さず……美神は依頼者からマンションの見取り図を貰いに行く。
それを他の者達は照れ隠しと取っていた。
「あら~?皆懐いちゃってる~?凄いわー横島さん」
式神達に群がられ、横島は潰れていた。
と言っても、上に乗っているのは軽い者ばかりで重くは無い。
「ほら!サッサと式神達を戻しなさい?作戦会議よ」
「は~い、皆戻ってー」
一言で群がっていた者達は冥子の影へと戻っていく。
その場に残された横島は怪我が完治していた。
『大丈夫ですか?横島さん』
「うん、ちょっとビックリしたけど……楽しかったよ」
無邪気に笑う横島に二人を頬を染め。
「あれれ~?冥子熱かなぁ~??何だか熱い~」
冥子も頬を染めていた。
一番最初に横島から顔を逸らしたのは美神だった。
「このマンションに集まった悪霊、これは最上階のアンテナが鬼門に向かってるのが問題ね。
これじゃあ何度祓っても意味無いから、結界を作りましょう」
受け取った見取り図を見ながら美神がまとめる、と言っても他に口を挟んで来る者が居なかっただけだが。
「結界を作って~侵入を止めれば除霊で済むもんね~」
両手をポンと合わせ、冥子が合意する。
「おキヌちゃんはここで待機、横島君は一緒に来て鈴で祓って」
「『はい!』」
話を素早くまとめ、一同は動き出した。
「お願いしますよ?」
依頼者は何処か不安げに声を上げた。
「は~い、それじゃあバサラちゃん」
不安げな依頼者に笑顔で答え、冥子は影から巨大な式神を呼び出した。
出てきたバサラは少し窮屈そうにマンションの入り口へと向かう。
ベコッ!!!
新築マンション、入り口の一部破壊。
「あぁ!!?」
「冥子……マンションの中で呼びなさいよ!」
「あう~怒っちゃ嫌ぁ~」
前途多難だ。
マンションの中へ入った瞬間、そこは悪霊がたむろしていた。
『誰だ!?』
『近寄るな!!近寄れば……殺す!!』
一斉に生きている者へと体当たりしようとする悪霊達。
美神と横島が動く前に……
『ンモー!!!』
召還されたバサラが大きな口を開け、悪霊達を一斉に吸い込んでいく。
「相変わらず凄いわねぇ……」
「巨大掃除機みたいですねー」
バサラのふわふわの毛に顔を埋めつつ、横島は嬉しそうに笑う。
何気なく……頬ずりした瞬間、バサラの吸引力が上がった。
「あう?」
「インダラ~出ておいで~」
冥子に呼ばれ、影から角の生えた馬が出現する。
これから最上階へ向かわねばならない、だがエレベーターを使用するのは危険なので階段を使う。
相手は弱いが、とにかく数が多い。
出来るだけ体力は温存した方が良いだろう。
「一緒に乗らないの~?八階まで行くのよ~?」
「え、遠慮しとくわ」
苦笑いを浮かべる美神、横島はインダラでは無くバサラの頭の上に乗って楽しげにしている。
一応吸い切れなかった悪霊達を鈴で祓いつつ。
「そういえば~令子ちゃんと初めて会った時も、こーしてインダラに乗ってる時だったわー」
そう言って楽しげに冥子は目を閉じた。
頭の中はその時の情景が浮かんでいるのだろう。
「そうなんですか?」
「えぇ~そうよ~vゴーストスイーパーの資格を取りに国家試験を受けに行った時なの~」
丁度美神が資格を取りに行った時、横島は学校行事だったので応援に行けなかったのだ。
簡単な事は聞いているのだが、詳しい事は聞いていない。
「私に声をかけてくれる人ははじめてだったの~
だから嬉しくって~」
それから美神は冥子にすっかり懐かれてしまったのだろう。
「令子ちゃんにとってはどうって事無い事だったかもしれないけど~私は本当に嬉しかったの」
無邪気に微笑み、冥子は美神を見つめた。
「有難う、令子ちゃん」
「……これ位、どうって事無いわよ」
少し頬を赤らめ、美神は階段を二段飛ばしで進んで行った。
「仲良しだな~」
バサラの頭の上で、横島は足をぶらぶらさせつつ笑っていた。
「そうよ~私達、友達だもの~」
ほのぼの組はノンビリ笑っていた。
「ほら!!サッサと行くわよ!」
「「はーい」」
最上階にて、美神は札片手に気合を入れた。
「良い?私は結界を作るから。冥子は横島君を、横島君は冥子を守ってね」
「分かったわ~」
「頑張ります!冥子ちゃんを守る!」
気合を入れ、横島は悪霊を睨み付けた。
普段は年上には『姉』や『兄』とつけて呼ぶ横島だが、どうやら雰囲気が近いので『ちゃん付け』になった様子。
「お願いね。私の為にも……」
そう呟き、美神は札を貼りに走り出した。
悪霊達は焦っていた。
このままでは祓われてしまう、だが向かって行っても式神や鈴で祓われてしまう。
誰をターゲットにすれば良いか?
美神。
横島。
冥子。
一同を見回し、あまり動いていない冥子へ視線は行く。
連れている式神は強いが、冥子自身は強くない。
そう判断したのか、悪霊達は冥子へ向かって行った。
「きゃ?サンチラちゃ~ん」
影から蛇、サンチラを呼び出して向かってきた悪霊へ電撃を流す。
「れ、令子ちゃ~ん……私を狙ってきたんだけどぉー」
二枚目の札を貼った美神は足を止めず、叫んだ。
「もう少しでこっちは終わるわ!持ちこたえて!」
「けど~待てそうにないかも~」
そんな会話がされた瞬間、悪霊は冥子のすぐ隣を通り過ぎていく。
バサラに吸引されつつ、最後の力を使って冥子の頬へ小さな傷をつけた。
「あっ……血が」
自分の頬から流れた血、それを手で拭い……冥子は思いっきり眩暈を感じる。
「え”」
小さな声に美神は持っていた札を落としてしまう。
「ふ……ふぇ」
瞳に涙を貯め、冥子は震える。
美神は慌てて冥子へ声をかけた。
「馬鹿!泣いちゃ駄目よ!!式神のコントロールを……」
だが、それよりも早く。
「ふえええええん!!!!!!」
瞳からは涙が流れ、冥子の影からは式神全員が飛び出して来た。
式神達は悪霊や周辺を攻撃し続け、暴走を始めた。
「なっ……何!?」
「冥子は興奮すると式神が制御出来なくなるのよ!!
こうなったら周辺を全部破壊するか、冥子が落ち着くまで止まらないわ!!」
天井まで壊し出す式神から逃げる為、美神は頭を押さえる。
「えっと……落ち着かせれば良いんですか!?」
「今の冥子に声が届けばね!!」
過去数回、暴走中の冥子へ近寄ろうとしたが……必ず美神はボロボロになっていた。
「冥子ちゃ~ん、落ち着いてー!!」
横島は両手を上下に動かしつつ、近寄った。
何故かすぐ近くの悪霊達は攻撃されているのだが、横島だけは攻撃されない。
まるで見えないバリアでもあるかの如く。
「ふえ……ふぇぇえん!!」
中央で泣き続ける冥子のすぐ目の前まで、横島はやってきた。
「……何泣いてるんだよ」
何処か落ち着いた声、それは先程までの横島とは違う。
それは声だけではなかった。
短い髪は一瞬で腰の辺りまで伸び、肌は褐色へ変わっていた。
「どっかいてぇのか?」
冥子の頭へ手を伸ばし、顔を覗きこむ。
「ふえ……横島さん?」
まだ涙を流している冥子だが、目の前の見知らぬ相手に首を傾げた。
「ちょっと落ち着きな、それ位の傷で大泣きしたら……ガキに笑われるぜ?」
言葉は乱暴だが、声は何処までも優しかった。
泣きじゃくる冥子の顔を胸元へ引き寄せた。
冥子の頬へ柔らかい感触が伝わってくる。
女性独特の……柔らかさ。
聞こえてくる規則正しい心音。
「……あったかぁい」
その感触に冥子は段々と落ち着きだし、それに合わせて式神達も動きを止めていく。
「今だわ!」
美神はその隙に最後の札を貼り、結界を完成させた。
もう殆どの悪霊は式神で消えていた。
「ふぅ……どうにかマンション全壊は阻止出来たわ……けど」
額を汗を拭い、美神は深く溜め息をついた。
視線は冥子を抱きしめる『女性』へ向けられていた。
「……横島君の中には……まだ居たのね……しかも……女性体になってるし」
既にパッと見で横島と分かる事は不可能だろう、親しい人物ならかろうじて分かるかもしれないが……
「……横島君、貴方は一体……?」
迷うが、答えは出て来ない。
黒き純粋。
赤き煩悩。
金目の不良。
褐色の女性。
そして……銀の実力者。
「……まだ居たりして……ね、あははは……」
美神の霊感はそう感じていたが、今は怪我無しで冥子との共同除霊が終了した事を噛みしめていた。
落ち着いた冥子はその後、すぐに眠りについた。
力いっぱい泣いて疲れたのだろう、まるで幼児の様に……
そして……冥子に膝枕しつつ眠る横島。
あの後、美神が女になった横島に話かけようとした。
だがそれよりも前に……気を失ってしまったのだ。
倒れる瞬間、肌は一瞬で元の色へ戻り……髪の毛もビデオを巻き戻してるかの様に短くなっていた。
無邪気な微笑を浮かべ、眠る……二人の天使。
美神はその笑顔を見つめつつ、無意識の内に苦笑を浮かべていた。
第五話 終
黒髪と冥子はキャラが被っているかもしれない……
そんな危険性に気が付いた五話です。
そして、今回は新たな人格が出て来ました。
・・・美神は『まだ出る?』と不安がってます。
真相は……まだ闇の中。
大変だ、親分!!
親分「どうしたんでぇ!ルナ公!」
レスが沢山ついたんだ!!
親分「へぇ!!そいつは良かったなぁ!」
うっかり謎の親分を召還してしまう位に嬉しいですv
有難う御座います。
親分「ありがてぇな!!」
ま、まだ居たのか……?
Dan様>イフリートはこれからたまに出ます。
けど呼べるのは知ってる黒髪横島だけです。
……美神さんに知られたら、そこから地獄が始まる事でしょう……(遠い目)
AC04アタッカー様>初めてのレス、有難う御座います!
イフリートは美神さんにばれない程度に出てきて欲しいです。
けれど……戦闘になっても、技が無いので困った。
炎属性で何か作るべきか……悶々。
正統派ピートですか?……どんなキャラだったかなぁ??
原作は沢山出ているのに、特に目立ったシーンが無い。
けれど兄としての方向性もありですね!
紫苑様>男なんで、女にされる可能性が高いです。
そのままならば……『赤丸』かもしれません。(赤いから)
山神アキラ様>ホッとして頂き、嬉しいです。
ルナの存在自体は情緒教育にはあまり良くない人ですが……
黒髪はこれからもかなり”活躍”します。
どうぞ期待して下さい!!(期待通りになるとは限りませんが)
柳野雫様>黒髪は癒し系をコンセプトにしています。
癒されたのでしたら、嬉しいです。
ピートはどうやら良き兄路線が良いみたいですね。
……へたれ?(頑張ろうとしすぎてコケ)
選択肢が増えてしまいましたねぇ……
一体どうなるか、それは分かりませんが。
頑張りたいと思います!!
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