『んしょっと……おはよーございまーす』
キヌはビール缶ばかりが入ったゴミ袋を持ち、表へと出て行った。
そこでは丁度ゴミ収集車が来、袋を入れている所だった。
「おっ?おキヌちゃんじゃねぇか」
「幽霊なのに大変だねぇ」
普通に考えると、幽霊がゴミ出しに来ているのはおかしい。
だが……世の中悪霊退治で商売が出来るのだ。
これ位、日常茶飯事である。
『これも仕事ですからvそれに楽しいですし』
ニッコリ微笑み、ゴミ袋を差し出すキヌ。
『ん?』
何気なく向けたキヌの視線の先には一つのゴミ。
そこにあったのは……
「……なんだ?この不気味な壺」
一緒にゴミ出しを手伝っていた横島の言葉にキヌは『えへ』と笑う。
その手には険しい男の顔が刻まれた壺が。
『花瓶に丁度良いと思って』
持って来たゴミ袋を収集車に投げ込みつつ、横島の視線は壺へ。
「こんなのに入れたら、花が枯れないか?」
事務所への階段を登りつつ、横島の髪は赤から黒へと変わっていく。
『ほらほらv横島さん!これ花瓶に丁度良いでしょ?』
変わったのを見届け、キヌはもう一度チャレンジ。
赤髪は基本的に突っ込みだが、黒髪は……
「わぁ!これならきっと花もビックリして早く咲くよね!」
かなりのボケだ。
『えへへ……美神さん、帰ってきたらビックリしますよねぇ~』
現在美神は仕事の打ち合わせで出掛けている。
戻って来たら……色んな意味でビックリするだろう。
『それじゃあ、私は花を持ってきますね』
「はーい」
壁を通り抜けて行き、キヌは花を探しに行った。
残された横島は壺を見つめ。
「ん~……流石にゴミと捨てられてただけあって、汚いかも……
キヌ姉ちゃんが戻ってくる前に綺麗にした方が良いカナ?」
壺に問いかけるが、答えは勿論無い。
丁度現在美神は留守、風呂場を使っても平気だろう。
そう判断した横島は壺片手に立ち上がった。
お湯を出しつつ、横島は袖を捲る。
「よぉし!覚悟しろぉ!!汚れ!!」
気合十分、さぁ尋常に勝負!
そんな勢いで横島は壺の蓋へと手を伸ばした。
キュポン♪
何処か楽しげな音と共に、蓋は開けられた。
すると……壺の中から物凄い勢いで煙が噴出して来た。
「ふえ!?」
『はーはははははは!!我が名はイフリート!
全知にして全能!!聖なる壺の聖霊也!!』
大声で笑いながら、壺の中から大男が出現して来た。
「にゃー!!!」
その突然の出現に横島は叫ぶ。
驚きのあまり……瞳には涙も浮かんでいる。
『おっと失礼……驚かせてしまったかな?』
泣き出しそうな横島へイフリートと名乗った大男は軽く頭を下げた。
浮かんだ涙を大きな親指で拭い、イフリートは笑う。
大きいが気は優しそうな相手に横島は目を擦り、ジッと見上げた。
「……だ、誰?イフリート……さん?」
『うむ、わしはこの壺を開けた者の願いを叶えているのだ、一人につき三つまでだがな』
出っ放しだったお湯を止め、イフリートは説明を始めた。
「願い?三つ?」
『どうしたんですか?横島さ~ん』
頭上に巨大なハテナを出現させている横島へ、花片手に壁を抜けてくるキヌが声をかけた。
『……誰ですか?この人』
『うむ!我が名はイフリート!全知にして……』
先程の名乗りをもう一度始めてしまった。
壺からは『アンコールかい!?』と言わんばかりに煙が噴出し……
「げほげほげほ!!!」
『ごっほごほごほ!!!』
『あぁ~換気しなきゃ』
風呂場は目も開けられない程になっていた。
話場所を別の部屋に移し、一同は話を再開させた。
「ぐすっ……それで、何の用ですかぁ?」
煙で目をやられ、横島は涙目で問いかけた。
瞳を潤ませた横島に二人が頬を赤らめていたが……それは余談。
『わしはこの壺を開けた者の願いを叶えているのだ、今回はお主の願いを叶るぞ』
「ふえ?願い?」
イフリートの言葉に横島は驚きの声を上げる。
キヌの方は困った表情を浮かべ、持って来た花の置き場に困っていた。
『うむ、どちらにしろそちらの幽霊は駄目だがな……神の決めた事には逆らえぬ』
「え~?ケチー!じゃあキヌ姉ちゃんも願い事出来るよぉにするのが最初の願い!」
頬を膨らませ、横島は両手をジタバタさせた。
『よ、横島さん!大切なお願いなのに……私の為に……』
ジタバタさせる両手を後ろから止め、キヌは困惑する。
止められつつ横島は「うー」と唸る。
「だって~幽霊が駄目なんて、酷いじゃんか~」
『それが最初の願いで良いか?』
「おう!」
まだ揉めているのだが、イフリートはサクッとそれを受理する。
だが、すぐには願い事が無いキヌはオロオロと周囲を見回すだけ。
『えっと……えっと……』
しばし考え。
『じゃあ、花瓶下さい!!』
『心得た!』
そしてキヌ好みの花瓶が目の前に出現した。
ここに強欲な者が居ればきっと血の涙を流した事だろう。
『わぁ~有難う御座います~』
ルンルン気分で持っていた花を入れる。
入れられた花は何処か嬉しそうに揺れた。
何とも無欲な願い事ばかりだが、本人達は幸せそうなので……問題ないだろう。
『今回数を指定されなかったのでな……幽霊の方は一個だけだぞ』
「良かったね、キヌ姉ちゃん」
『はい!有難う御座います。横島さん』
ニコニコする二人につられ、笑顔になるイフリート。
『よし、二つ目の願いを言え!』
「んみゅ~??」
こちらも願い事が無いのか、迷う。
「そんな事言われても……ねぇ」
オロオロ辺りを行ったり来たりする横島、キヌはその後ろを花瓶を手に追いかける。
もしもここで別人格(赤髪)になれば、かなりの欲望が出てくるかもしれないが。
「ん~~~~~あっ!イフリートさんは何かお願いありますか?」
『へっ?』
頭をグルングルン回転させつつ、横島は問いかけた。
問われたイフリートは目を見開く。
『わ、わしか?』
「うん」
他に誰が居るの?と首を傾げる横島に驚きを隠せない。
『つ、壺に封じられてから千年……こんな事を聞かれたのは初めてだ!』
驚きと感動の余り、涙する。
その様子に横島は「願い事あるの?」と問いかける。
『うむ……実は、わしは大昔に悪さをしてしもうてな。
神によってこの壺に封印され、決められた数の人間の願い事を叶えねばならないのじゃよ。
しかし……その数は普通に叶えておったら恐ろしい程の時間がかかる!
そこで願い事を湾曲して叶えて来た……』
涙を何処からか出したハート柄プリントがされたハンカチで拭う。
「湾曲?」
『数人居る時は『俺が最初!』と言った事を第一の願いに承認。その言葉に『ふざけるな!取り消せ!』と言われ……第二が『ふざけない』第三が『第一の願いを取り消す』
これでサッサと次の人間の願いへ行っていたんじゃ』
小学生の『これあげようか?はい、あーげた』位レベルの低い話だ。
だがそれも早く壺から解放される為だった。
『聖霊さんも大変なんですねぇ……』
「そうだねぇ」
本当は大昔に悪さした罰なのだが、そこを思い出す者はここには居ない。
『頼む!!わしの封印を解くと願ってくれ!!そうすればわしは帰れるのじゃ!!』
「えっと……イフリートさんの封印を解いて下さい!」
何故か「なむなむ」と両手を合わせて願う横島、さり気無く頭も下げている。
つられてキヌも両手を合わせていた。
『承知!!』
嬉しさのあまり、涙を滝の様に流してイフリートは両腕を上げた。
すると身体中に電流が流れる。
「ひゃあ!?」
『感謝!!わしはこれで妻と子供の元に帰れる!!』
全身を軽く発光させ、イフリートは泣いて喜んでいる。
「そっか、良かったね」
『本当です』
既に足元は光が消え、姿もうっすらと消えかけている。
自分の世界へ戻ろうとしているのだろう。
『そういえば……まだ二つ目だったな。お前の三つ目の願いを言え!
わしの全ての力を使い、叶えよう!!』
「ふえぇ!?そういえばまだ合ったー!!」
まだ二つ目だった事を思い出し、横島は慌てる。
「えっと……えっと……えっと……」
先程同様、オロオロと辺りを見回す。けれど何処かに答えが貼ってある訳では無い。
『よ、横島さん。落ち着いて下さい』
このままでは変なお願いをしてしまうかもしれない。
キヌに頭を撫でられつつ。
「オレの友達になって下さい!?」
イフリートの胸の部分までが消えた時、横島は大声で疑問系で叫んだ。
その声の大きさに目をパチクリさせるが……すぐにこちらも負けぬ大声で笑う。
『ははははは!!!やはりお前は面白い人間じゃ!今までに無い願いばかりじゃ!
心得た!!!
これよりわしとお前は『友』だ!
封印を解いてくれた礼もある故、いつでも呼ぶが良い!!
では……さらばじゃ!!!』
そう言い残し、イフリートは姿を完全に消し……イフリートの壺と出した花瓶だけがそこに残された。
「……消えちゃったね」
『ですね、いつでも呼べって言ってましたけど……』
二人は顔を見つめ合い、苦笑を浮かべた。
「凄いや!オレ、幽霊と聖霊の友達が出来ちゃった」
『本当ですね!』
無邪気に横島は笑い、イフリートの壺を優しげに撫でた。
少しばかり手が汚れたが、構わず。
「よろしくね、イフ兄ちゃん」
軽く頬ずりをし、微笑んだ。
満面の笑みに……壺が一瞬だけ揺れた気がした。
「あぁ!!中の人格をどーにかしてって言えば良かったかも!!」
その日、寝る瞬間になってそれに気がついた横島は驚きの声を上げた。
第四話 終
奥歯にご飯が詰まってどうにも困ってしまいます。
走って十五秒の位置に歯医者があるのに面倒で全く行こうとしない。
そんな事を思いつつ書きました。(関係が無い)
今回はイフリートさん話。
書いてる最中、三つ願いを言え!と言われても困る事に気が付きました。
子供の時は色々と夢のある願い事があったんですが……今なら
『金・暇・萌え』
それが欲しいと言いそうな自分が嫌です。
でも最後の願い事をする自分はちょっと好き。
幼横島に少しでも萌えてくだされば幸いです!
その思いの丈をレスに込めて・・・
紫苑様>キャラによって呼び方を変えれば、ちょっとしたシーンで「このキャラだな!」と分かりますから。
夕飯は料理があまり出来ない人なので、あんな感じで。
後のフラグとしてあぁなりました。
柳野雫様>心配してくださって有難う御座います。奥歯は一部が欠けたので、よく物が詰まります。
第一話では狐、第三話では虎……まだまだ出てきます。
少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
頑張って柳野様の可愛い横島君を参考にします!!むしろぱくります!!(待て)
もしも『こんなシーンが見たい!』というのがありましたら、どうぞ教えて下さい。
現在ピートというキャラの扱いに困っているので……