無限の魔人 第二十八話 ~香港GSの対策~
昨夜の除霊の後、雪之丞と共に近くのホテルに泊まった。
もちろん別々の部屋に。
シャワーを浴びて、ベッドに寝転ぶ。
思い出すのはホテルに行く途中での事。
街灯が照らす道を二人で歩きながら、除霊中に思った事を雪之丞に言った。
「雪之丞、お主がこれからもGSとして例えモグリであろうと活動を続けるつもりがあるのなら、道具を、知識を使う事を覚える必要がある。霊的格闘に優れているのは良い。事務所を構え、チームで動くのなら霊的格闘のみでも、後は他の者達に任せれば良い事だから問題は無い。だが、これからも1人で退魔ないし除霊を続けるのであれば、今夜の事のようにお主1人だけの力では解決できない事が起こりえる。それはお主だけではなく、お主の周りにいる人達をも危険に晒す行為なのは理解できるであろう?」
雪之丞は悔しそうに歯を食いしばっていた。
恐らく自分でも良く解っているのだろう。
雪之丞程の実力があれば、別にGSでなくても活躍できるはず、だがそれでもGSとして活動を続けているのなら何か理由があるのだろう。
「っ・・・分ってる! あんたが言ってる事は正しい。俺だってもっとGSとして実力をつけてからやった方が良いってのは解ってる。俺はGSとしては未熟だし、世間的にも半端もんだ。だけど、目の前に居るやつらが助けを求めてたら何とかしてやりたい!! 俺が修行して力をつけるまでに何人が怪我をする?何人のやつらが死ぬ!? こんな俺でも助けられる奴が居るんだっ! 間違えちまった俺の出来る精
一杯の償いがこれなんだ」
雪之丞は自身の思いのたけをぶつけてきた。
それは激しく、強く・・・そして自身の力の無さを思い、悲しく。
星が綺麗に夜空を彩っていた。
冷たい、清涼な風が頬を撫でていった。
ふと思う。
自分も同じではないかと・・・・。
何が違う?
雪之丞と私の何処が違う?
いや・・・違わぬ、同じだ。
私はまだ人として未熟だ。知識はあっても経験が無い。世間的には存在すらしていない。
目の前ではないが、死ぬと分っている人間を助けたいと此処に居る。
そう・・・私は雪之丞と同じだ。
そう思ったら弾けた、頭が真っ白になって・・・・・・。
「ならば・・・・ならば早く!速く!強くなればいい! 助けを求める人が居るのなら、助けられるくらい強くなれば良い! 知識が足りないなら学べ、そして覚えよ! 能力が足りないなら道具を使い補え! 今出来ぬならこれから出来るようになれ!! 1つ1つから全てを学び、経験し、成長してみよ!! 強く! 強く在れ! 」
口から言葉が溢れた。
何を言っているのか・・。
熱くなった・・・雪之丞が余りにも自分と同じで・・頭に血が上った・・・頭に浮かんだ通りに口にしていた。
雪之丞に向けて言ったが、その実、自分自身に向けての言葉。
「ああ!!やってやる! 俺はもっと!もっと!強くなるッ!!」
雪之丞の熱く猛った心は、香港の冷たい風だけでは静まりそうには見えなかった。
「はぁ・・・・。」
出るのは溜息ばかり、なぜあんな事を言ったのだろうか。
雪之丞の今後を思えば、モグリのGSなど止めて真っ当に生きる道を説くべきだったのに・・・。
「界人・・・・。」
まだ離れてから一日も経っていないのに関らず、界人に会いたくなった。
界人なら雪之丞に何と言っただろうか・・・私は余計な事を言ってしまったかもしれない・・・。
迷いと後悔が後から後から湧いて出てくる。
こう言うとき界人なら・・・・。
「・・・・止めよう。考えても詮無き事だ。明日の為に寝るとしよう・・・。」
夢を見た。
浮いていた・・・・いや、漂っていた。
暖かい光に包まれ、何かの力に引き寄せられるように・・・遠くに見える影の元へ。
影は人の形になり、私を包んでいた光は影の後ろへと流れていった。
影は逆光の影ともなり、眩しい中にもはっきりと見えていた。
影は言った。
「龍美・・・・・お前がやりたいようにやれば良い。迷っても良い、後悔する事になっても良い。お前が経験する全てがお前の血となり、肉となる・・・・・お前が人として未熟なのは当たり前だ、恥じる事も、悔やむ事も無い。今はただ在りのままに感じるんだ、それだけで良い。」
影の言葉は優しく、心の中にいつまでも残った。
影に声を掛けようとしたが、言葉にはならなかった。
何を言おうとしたのか、それすらも解らなかった。
「そろそろ時間切れだ・・・じゃ、頑張れよ?」
影と私の距離が開いていく。
まだ言いたい事が有った、聞きたい事も有った。
だから手を伸ばした。
でも、距離はどんどんどんどん開いていき、そして――――見えなくなった。
ガバッ!
「界人ッ!!」
・・・・・。
「む・・・。」
夢・・・か。
夢の内容は・・・・あまり覚えて無い。
だが、妙に心がスッキリしているから、きっと良い夢だったのだろう。
「行くぞ雪之丞。」
「ああ、昨日たっぷり寝たから体調は万全だ。」
ホテルをチェックアウトし、協会へ向かう。
もちろん昨日買ったサングラスは既に掛けてある。
これも目立たない為の物だ。
しかし、これはどうやら失敗だったようだ。
確かに私を見る目は減ったが、逆に雪之丞を見る目が増えてしまった。
黒のコートで帽子、サングラス・・・・アッチ系の人と思われていたようだ。
まぁ、ナンパという物が無くなった分楽では有った。
「しかし暇だな・・・・こうして待ってるだけって言うのも。」
雪之丞はあくびを噛殺しながら香港GS協会の建物を眺めている。
昨日の会議での会話では、どこに集まるのか解らなかった為に今、こうして会議に出席していた幹部達がそこへ移動するのを待っている。
「仕方なかろう、会議の後で決まったようだし・・・・・ここでこうしていれば何れ動き出すであろう。」
「はいはい・・・・それよりも気になってたんだが・・・・。」
雪之丞が私を見つめながら疑問を口にする。
「うん?」
「あんた、何で日本でメドーサが暴れたって事を香港のGSより先に知ってたんだ?」
む・・・・これは不味い・・・ような気がする。
どう誤魔化すべきか。
出来るだけ表情に出さないように言う。
「簡単だ、日本のGSに知り合いが居るのでな。」
取り合えずこれで大丈夫か。
「へぇ・・・なんて奴だ?」
ちっ・・・思わず舌打ちしたくなった・・・こう来られるとは。
仕方ない、ここは後でフォローしておけば問題無いであろう。
「横島という新米だ。」
む・・・言ってから気づいたが、「横島と知り合い=美神令子とも知り合い」の構図になってしまう・
・・・横島の方は単純だから問題無いとしても、美神令子の方となると私1人では手に負えない・・・まぁ、二度と関らねば済む事ではあるし・・・今気にしても仕方がない。
「そうか・・・あいつを知ってるのか・・・そういえばあの時GS試験会場に居たんだったな、知ってて当然か。」
「うむ、お主が逃げ出した後にちょっとな。」
これ以上何も聞くで無い!
心の叫びが徐々に大きくなっていく。
「て事は、あん「っ動きが有ったぞ、今は仕事が先だ。」っと、了解。」
はぁ・・・心臓に悪い・・・しかし、出鱈目で言ったが本当に動きが有ったのは運がいい。
後はこの話に繋げるようなミスをしなければ良いだけだ。
協会からぞろぞろと怪しい格好をした人物が出てくる。
大体が黒塗りのワゴンで移動するようだ。
およそその数10台。
あんな大人数が私達が来るより前から建物に居たとは・・・・・朝早くからご苦労な事だ。
ワゴンが続々と出発していく。
「なぁ、俺たちは何で追いかけるんだ?」
「もちろん走っていく訳には行くまい。目立ってしまう。」
「・・・・目立たなきゃ走って付いて行けるって聞こえるんだが?」
「勿論冗談だ。本気にするな。それよりもタクシーで追いかける、一台捕まえてくれ。」
サングラスを掛けなおしてワゴンを見失わないように動き出す。
「・・・・冗談に聞こえなかったんだが。」
等と聞こえた気がするが今は一刻も早く追う事である。
私がワゴンを見張り、雪之丞がタクシーを拾っている。
「おう!捕まえたぜ、さっさと乗れ!」
雪之丞の言葉で急いでタクシーに乗り、前のワゴンを追うように指示を出させる。
ワゴンはそれほど速いスピードではなかったので、すぐに追いつく事が出来た。
ワゴンが入っていったのは広い体育館っぽい建物だった。
市民体育館?な感じがする場所に黒塗りのワゴン10台はとても似合わない。
どうやらここで風水士とGSを集めて説明するのだろう。
ここまで来た以上堂々と入っていきたいのでは有るが、やはり香港側からも日本側からも不審者扱いさ
れてしまうだろう事は予測できる。
「雪之丞、また今回も身を隠しながら様子を窺うぞ。」
「またか・・・しかたねぇ。」
今回はどうせ警備なんてしていないだろうが、一応念のために周りに警戒しながら建物に入っていく。
風水士たちはどうやら既に集まっているようである。
中から多くの気配を感じる。
「ふーん、結構風水士ってのも結構多いんだな。」
「それだけ必要とされているのであろう。まぁ、日本のGSも決して多いとは言えないが、なりたい職業ではかなりの上位であると聞いたことがある。それと同じかも知れぬな。」
観光客相手にセコセコ稼ぐ輩も居れば、企業相手に大儲けする者も居る。
風水は自然の法則を表わしたもので有り、学問の1つでもある。
学ぼうと思えば誰でも学べるが、大成するのは一握りである。
水晶占いなどの占い師以外、何故そうなるのかが解らない結果よりもよっぽど信用できるだろうな。
「雪之丞、演説が始まったぞ。しっかり訳せ。」
「全部は無理だぜ?日常会話くらいしか聞き取れねー。」
現在私達二人は体育館?の2階、応援席にて階下の怪しい風水士の集団を見ている。
昨日確認した香港GS協会会長がマイクに向かって喋っている。
「雪之丞なんと言っている?」
言葉が解らないのは非常に不便だ。
「ああ、取り合えず今のところは唯の挨拶だな。優秀な香港GSがどうのこうのって感じだ。」
「そうか・・・しかし、さっさと本題に入れば良い物を。」
風水士達も面倒くさそうに隣と会話したり、目を瞑って・・・あれは寝ているのだろうか?・・をしている。
恐らくGS協会から電話が来て、この場に居るのだろうが・・・何か重大な事が有るだろうと思ってい
た所でこんな話では無理もないか・・・。
それからおよそ15分ほど1人で演説し、所々おざなりな拍手や苦笑を貰っていた。
会長の演説が終わると、皆バラバラに帰ってしまった。
「雪之丞もう終わりなのか?」
「ああ、そうみたいだな・・・話してた内容は協会内部で話し合ってた結果を伝えただけ、要するに、各自気をつけましょうって事だな。それと」
「それと?」
「この場所、つまりこの体育館を防衛地点にするらしい。一人目が襲われたら皆ここに来るように伝えていた。」
ふむ・・・・つまり、嘘かどうかはまだわからないから、一人目が襲われるまでは各自で注意せよ。
襲われる事が事実ならば速やかにここに集合し、GS側が全力を持って守る・・・と。
ワゴンに乗っていたGS達がワゴンから色々な道具を引っ張り出してきた。
霊的加護のある道具や寝袋、毛布にガスコンロ、食料にラジオ‥。
「一応やることはやるみたいで安心だな。・・・で、後は何をするんだ?」
「一番良いのは事件を起こそうとしてる者を見つけて叩くのが最高なのだが、広い街中を探したって見つかる訳も無い。ここは大人しく襲ってくるまで待っていよう。」
「て事は、1人は確実に見殺しにするんだな。」
「っ!!なっ!何を言う!!」
「だってそうだろ?1人襲われて、守りやすいように此処に集まった所で守った方が効率が良い。」
良いのかそれで?
見捨てる?
それが最善だ。
それだけは断言できる。
意味も無く香港を彷徨っても無意味だ。
敵も馬鹿では無い、簡単に見つかるようなことをやるわけも無い。
そう、これは最善。
しかし、感情がそれを否定する。
違う、それは唯の逃げだ。
最善ではなく、最高の結果を出せる可能性はある。
意味ならある、もしかしたら見つかるかもしれないという可能性。
敵も馬鹿では無いが、完璧ではない。
そう、これが最高の結果。
どうしたら良い?
どうしたら良い?
どうしたら良い?
どうしたら良い?
どうしたら良い?
どうしたら良い?
どうしたら良い?
どうしたら良い?
どうしたら良い?
どうしたら良い?
どうしたら良い?
どうしたら良い?
どうしたら良い?
どうしたら良い?
どうしたら良い?
どうしたらどうしたらどうしたらどうしたらどうしたらどうしたらどうしたらどうしたらどうしたらど
うしたらどうしたらどうしたらどうしたらどうしたらどうしたらどうしたらどうしたらどうしたらどう
したらどうしたらどうしたらどうしたらどうしたらどうしたらどうしたらどうしたらどうしたらどうし
たらどうしたらどうしたらどうしたらどうしたらどうしたらどうしたらどうしたらどうしたらうしたら
?
「・・い、お~いってば・・・いい加減にしろっ!!」
強烈な痛みが頬を襲った。
前を向けば雪之丞が手を振り切った格好で止まっていた。
「ったく、1人で悩むのも良いが折角俺も居るんだ、一緒に考えてやるから話せ。」
「あ・・・うむ。」
無限の魔人 第二十八話 ~香港GSの対策~
end
あとがき
皆様かなりお久しぶりです。リアルの事情により3月までは厳しい環境のもと日々を送っております。
停電で逝っちゃってから投稿し、さらに時間が空いてしまいました。
しかし、まだ完結した訳ではないので投稿を続けます。見捨てられても続けます。
レス返し~
>隆行さん
かなりの寸止めスイマセン。続きが気になる物ほど出るのって遅いんですよね・・・・いや、Mじゃないですよ?(殴
>リョウさん
「歌はいいね~・・」の人と一緒だとかなり脳内で気持ち悪い事になりそうで・・(((( ;゜Д゜)))ガクガクブルブル
>Danさん
搦め手はメドーサは得意でしょうが、書いてる私はそんなに得意じゃないのでメドーサの特性を生かしきれるかが問題です・・・(;´Д`)
>法師陰陽師さん
これからの方向性は全く検討もつきません・・・・これじゃー駄目だと思って現在最終話までの話の流れをフローチャートなんかで作ってみたりしてます。
ああ・・・・話が全然進んでない・・・。
>トレロカモミロさん
ハーピーは予想以上に好評なようで・・・・意外にこんなやつだったのかっ!?って自分でも驚いていたり。
>かれなさん
歴史介入さえしなければ原作通りで話の組み立てが楽なんですよ。(え
>とみぃさん
いえいえ、おかしくは無いです。守って光線を滲み出していると保護欲が掻き立てられます。私は主に猫に対してですが(蹴
>柳野雫さん
龍美対策は考えて居るのか界人君? そんなところが密かに楽しみだったり。
>れちさん
小動物を愛でる感覚が一番近いのか・・・・誰もが一度は経験した事のあるあの感覚ですね!