「さて、どの辺からから話すか・・・うん、じゃあデミアンのあたりから行くか。これは、
俺が文殊を覚えたきっかけとなった事件で、アシュタロスとの戦いも大体この辺から始まって来るんだ。」
こうして彼は、ワルキューレの来訪から始まる事件の詳細について語り始めた。
まず彼女らを驚かせたのは、デミアンらに美神が狙われる理由となった、彼女の前世の話であった。普段目にするあの美神の前世が魔族だったなどという話は、想像を絶していた。
しかし、札束を加増手高笑いしている普段の彼女の姿を思い出すと、なんとなく納得できる気もする二人であった。
『しかし、美神と横島は前世での恋人同士だったなんて・・・』
普段の美神の態度から、美神と横島がくっつくのは当分の間無いと思っていた二人だが、油断は禁物と気を引き締めた。なにせ相手は魂レベルで惹かれているのだ。
タマモの前世でも何か関わり合いがあったかもしれないが、生憎こちらはさっぱり覚えていなかった。
話は事務所への魔族の襲来、妙神山での修行のあたりに進んだ。
妙神山での修行のことは、彼女らを大いに驚かせた。目の前の人間が、美神を守るために厳しい修行に赴き、あの斉天大聖孫悟空に直々に修行をつけてもらい、見事目的を果たしたというのだ。そのどれもが、彼女らの横島に対する印象を大きく変えていった。
「ねえ、その文殊って言う霊能力は、どんなものなの?話を聞くと、なんか魔族を倒せるような凄い物みたいなんだけど・・・」
「ああ。文殊ってのは・・・」
彼の大体の説明を聞いて、タマモは驚愕した。シロは深く考えずにただ感心していたが、タマモにはその能力が如何にとんでもないものだかわかったのだ。
文字を念じるだけで、込められた霊力の許す限りどんな現象をも具現化させることもできる・・・
そんな能力、反則としか言いようがない。彼ほどの霊力の持ち主なら、人界のあらゆる霊能力を使うことができるのだ。発火能力も、幻術も、具現化系もだ。今日の戦闘の様子を見るに、彼が本気になったら、自分とシロの二人掛かりでも倒せないだろう。
二人に尊敬のまなざしを向けられて照れたのだろう、横島はあわてて話を進めた。
さて、あまりにも奇想天外な話が続き、もう何があっても驚かないと決めていた二人だが、見通しが甘かったようだ。さすがの彼女らも、横島が月に行ったなどとは考えられなかった。その武勇伝が終わると、シロタマは思わず窓の外を見た。その日はちょうど満月であり、すっかり暗くなった空には真ん丸い月がうかんでいた。目の前でのんきに座っているこの少年が、あそこで魔族と戦った・・・
「あんたって、ほんとに波乱万丈な人生送ってるのね・・・」
「ああ、今考えるとそうだな。でその後に・・・」
ここで彼はいったん話をやめ、真剣な表情になった。その雰囲気に、シロタマもこれから語られるのが話の核心であり、彼の抱える悲しみの理由であることを悟った。彼らのテーブルに、しばし沈黙が降りる。
その沈黙を破って、横島は語りだした。
「ある日、俺のダチの雪乃丞ってやつが、おキヌちゃんの同級生の女の子とデートしてるときに、何者かに襲われたって知らせが入ったんだ。」
“デート”の部分に怒りを込めて言うが、目の前から冷ややかな視線を向けられ先を急いだ。
「それで病院に行って・・・あいつと出会った。」
「“あいつ”って?」
聞きながらもタマモは、それが女のことであると直感していた。シロも同様だったらしく、横島を見詰めている。
『しかし、女というのが正しかったとすると、彼が悲しんでいるのはなぜだろう?』
振られた、というのではないだろう。彼の悲しみはそんな薄っぺらな物ではなかった。ということは・・・聡明なタマモは、いやな予感を覚えた。
「そいつの名はルシオラ。初めて俺を好きだと言ってくれた、魔族の女だ。」
話しは続いてゆく。三人の魔族にさらわれたこと、そこでしばらく召使をやっていたこと、
美智恵に見捨てられ、いったんは相手の側に付いたこと。
この話をしたとき、彼は人類を裏切ったことに気まずそうな顔をしていたが、シロタマの反応はまったくの逆だった。二人はこの話を聞いて大いに喜んだ。
それも無理の無いことだ。彼女らは、姿こそ人間だが、本性は妖怪なのだ。その二人の想い人が、人類よりも一人の魔族を選んだのだ。
このことで、彼女らの横島に対する想いは、確固たるものになった。
なぜ彼女らが喜んでいるかわからない鈍感な彼は、ルシオラとの思い出を語っていった。
断末魔砲に巻き込まれそうになった彼女を助けたこと、そして、ルシオラのためにアシュタロスを倒すと誓ったこと。
とうとう、話は東京タワーでの場面にたどり着いた。
「それでルシオラは、ベスパの毒で死に掛けた俺を助けるために、自分の霊気構造を俺に流し込んで・・・死んだ。」
恋人の最後を途切れ途切れに話す彼の眼には、涙が伝っていた。
『横島・・・』『せんせえ・・・』
二人は、横島のあまりに悲しい過去に、言葉を失っていた。いつも底抜けに明るく振舞うこの少年にそんな心の傷があるなど、思いもよらなかった。
自分が同じ状況になったら、ルシオラさんと同じことができるだろうか?
できる、という自信が二人にはあった。彼が死んだら、この人情紙のごとき世の中で、自分を本気で愛してくれる人物は現れないだろう。そのまま孤独に生きるよりも、彼の心の中に住み続ける・・・
二人は、永遠に彼の心に残ったルシオラに嫉妬していた。
「やっぱりまだ、思い出すのはつらいな・・・」
「横島、ごめん、・・・」「申し訳ないでござる・・・」
「いや、いいよ。それに、ルシオラは完全に死んだんじゃないんだ。」
「どういうこと(でござるか)?」
「今言ったように、俺の体の中にはルシオラの霊気構造がある。それによって、俺の子供には、おそらくルシオラが転生するんだ。だから、俺に子供ができれば、またルシオラに逢えるんだよ。」
ルシオラにまた逢えるといった横島の顔には、もう悲しみの影は無かった。
その説明に納得したシロも、救われたような表情だ。しかし、喜ぶシロの隣では、タマモが浮かない顔でなにやら考え込んでいる。
心ここにあらずといったタマモにかまわず、先ほどの説明に意を決したシロが、行動を起こしていた。
「せ、せんせいっ!!」「え?」
何かを決心したようなシロの声に、横島がシロを見る。
まっすぐに自分の目を見詰めてくるその目に一瞬たじろぐが、隣を見ると、タマモはまだなにか考え込んでいて、聞こえてはいないようだ。高鳴る胸を押さえ、覚悟を決める。
「先生、あのっ・・・ルシオラさんは、拙者が生「ねえ。」
しかし、シロの一世一代の告白は、顔を上げたタマモの割り込みに邪魔された。
「何をするか女狐!!」
「ごめん、でも待って。ねえ横島、逢えるのは転生したルシオラさんだって言うけど、あなたはそれでいいの?」
「どういうことだ?」
「聞くけど、あなたは自分の前世がどんな人物だったか覚えてる?」
「ああ、さっきも話したろう。平安時代の・・・」
「そうじゃなくて、自分がその人物だったときのこと。」「そ、それは・・・」
「覚えてないでしょう?私も転生したからわかるのよ。転生した者が受け継ぐのは、あなたと美神みたいに、お互いの縁だけなのよ。ルシオラさんがあなたの子供に転生しても、あなたと過ごした記憶はないわ。まったくの別人と同じなのよ。」
「そんな・・・」
その言葉に絶句する横島に、彼女はさらに続ける。その目からは、涙があふれていた。
「私は横島が好き。あなたが望むなら、ルシオラさんの転生を生むこともできる。でも、それはルシオラさんじゃないのよ!」
「タマモ・・・」
彼女の突然の告白による驚きと、ルシオラに逢えないという思いで、彼はパニック状態になっていた。
しばらく、誰も一言も言葉を発しなかった。タマモに告白を邪魔されたシロも、息をつめて苦悩する横島を見守っている。
「すまない、落ち着いて考えさせてくれ・・・」
そう言うと、彼はテーブルに金を置いて店から出て行ってしまった。
「タマモ・・・」
横島を悲しませたことに怒ろうとしたシロも、タマモのあまりにも悲しげな姿に、何も言えなくなる。
「言わずには居られなかったの。生まれてくる子供がルシオラさんじゃないことに失望する横島を見たくなかったのよ。」
泣きながら話すタマモを、シロは何も言わずに抱きしめた。
つづく????
死ぬほど恥ずかしいです。もう自分でも書いてんだか・・・こんな文章書いてると同級生に知られたら生きていけません。穴があったら入りたいです。
(高校生ということに誰も触れないのですが、けっこう高校生でSS書いてる人いるんでしょうか?)
>D様
後に元の彼に戻ったことから、真剣に聞かれたら話すくらいには立ち直ったと思います。
最初にシロタマが聞くというのを思いついたので、こうしました。
>片やマン様
この時点ではつらいですね。でも、聞いて貰わないと話が進まないのです。