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▽レス始

「彼が選んだ道−19−(GS)」

リキミ・スキッド (2005-02-20 22:16)
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「いいか? よく聞いて覚えるんだ。お前はここから下山してすぐのところにある教会に駆け込むんだ。そしてこの手紙をそこにいる神父に渡しなさい。そしたらもう安全だ。あいつは結界だけは得意だから助かることが出来る。」

それはとても古い記憶。
彼が、彼として生きる原点ともいえる最初の時。
この時の自分は、目の前の男の心などなにも気にせずに、間違った道へと足を踏み入れようとしていた。
求めるものの結果だけを見つめて、そこに至る仮定などどうでもいいと思っていた愚かな自分。
愚かな自分の愚かな姿。
この記憶はいつまでも自分の心に罪を、後悔を刻み付けるための情景。
誰よりも自分のことを思ってくれた男の言葉を理解できず、反抗してそして殴られた記憶。

――やめてくれ。

どうしてこの時に気づかなかったんだろう。
どうしてこの時に理解できていなかったんだろう。
悔しくて、やりきれなくて、無様で。

――もういい。見たくない。

もしこの時、男の言う言葉の意味がわかっていたのなら自分は・・・・・・俺は・・・・・・・・・

――やめろって言ってんだろがぁ!!」

「はっ。」

雪乃丞はびっしょりとかいた寝汗の不快感と先ほどまで見ていた過去の出来事のせいで深夜に目を覚ました。
散らかり放題の部屋の中で額に手を当てて呼吸を整える。
目を瞑れば最悪の光景を見てしまいそうな気がして、ただ暗闇の一点に視線を向ける。
しばらくして呼吸が整うと雪乃丞は急に腹立たしくなって枕を殴りつけた。

「くそっ。くそっっ!!」

このまま殴りつづければ一階にすんでいる人間が文句を言いに来るのだが雪乃丞の頭にはそのことに対しての考慮など抜け落ちていた。
脳裏に過ぎるのは自分の無力さを痛感した過去の出来事と、
つい先日美神について妙神山という修行場に行ったのに関わらず自分は何の成果も得られなかったという事実。

「強くならないと。俺は強くならないといけねぇんだよっ。」

雪乃丞はただ一心に力を願うのだった。


―横島―

「ジョーカーって、珠姫ちゃんとキスしたの?」
「「はぁ?」」

魔界の雑魚寝部屋で横島と珠姫は真剣な顔で近づいてきたレイドルにそう聞かれて、疑問の声を上げた。

「なんで俺とジョーカーがキスするんだ?」

レイドルは横島と珠姫の不思議そうな顔に内心安心しながら、さりげなく横島の隣にぴったりと座る。

「あのね、ジョーカーと珠姫ちゃんは使い魔である上に眷属でもあるでしょう。眷族っていうのは己の分身みたいなものだから、知能を持たせる場合にはなんらかの呪を刻むのが普通なんだよ。」
「「ふむふむ。」」
『故に口付けという最も呪を刻みやすい行為をしていないのかとその女は問うたのだ。私も小竜姫によって、こうして精神体のジョーカーの眷属という変則的な立場にあるのだ。』

レイドルの説明をバンダナとなったファーブニルが補足する。
レイドルはいきなり割り込んできたファーブニルにむっとした視線を向けるがファーブニルは完全無視である。
というよりも、ファーブニルは位置的に横島の額にいるので、横島がレイドルに睨まれていると勘違いして首をかしげる。

「ちっ違うよ! 今のはジョーカーじゃなくて!!」
「あ、ああ。ファーブニルか。」

ファーブニル討伐から何日かたっていた。
横島のバンダナにファーブニルが宿ったことをギルミアに説明するとそのまま身につけていてもかまわないということで横島は身に付けたままでいる。
小竜姫はファーブニルの宿ったバンダナは竜神族が管理するといっていたのだが、横島は心眼が蘇ったようでうれしかったのでそれを拒否した。

『――――暇だな。そなたといれば怠惰だけは程遠いと思っていたのだが。』
「それは残念だな。」

基本的にファーブニルは横島としか喋らない。
レイドル・珠姫・ワルキューレ・リムル・ギルミアの言うことなど聞こえていないかのように無視する。
これは小竜姫が刻んだ呪により、横島を主として認めさせられているからだ。

「ジョーカー! ジョーカーはいるか!!」

横島は自分を呼ぶ声に反応して、声のするほうに視線を向けた。
レイドルと珠姫も視線を向けるとジークが立っていた。
他の魔族は少尉であるジークがわざわざ横島を呼びにきているという事実に眉をしかめる。
横島は強くなってはいるが、まだ仲間の魔族は半人前としか見られていないのである。
実力主義であるはずなのに、時間にも関心を傾ける魔族の矛盾である。

「ジークフリード少尉。御用ですか?」
「参謀殿がお呼びだ。ただちに出頭しろ。」
「了解。」

横島が部屋を出て行こうとすると当然のように珠姫もついていく。
レイドルはなにかを懇願するようにジークに視線を向ける。
ジークはそれに気づき、一瞬考えるが別にいいかとレイドルに言葉をかけた。

「レイドルさんが一緒に出頭しても大丈夫ですよ。」

その言葉にレイドルは嬉しそうに微笑むと横島の右――珠姫とは反対立ち横島に寄り添う。
一見して両手に花である。


横島達がギルミアの執務室に入ると妙神山に帰ったはずの小竜姫とリムルを従えたワルキューレもいた。

「ジョーカーをお連れいたしました。」
「ふむ。ご苦労じゃったなジークフリード。して、ジョーカーよ。」
「はい。」
「御主に新たな任務を与える。御主にはハルマゲドンの阻止の為に現在模索されている和平のテストケースとして、そこの竜神の住む人間界に存在する妙神山に留学して貰いたいのじゃ。」
「本来なら私がやるはずの任務だったんだが、ジークフリードとして覚醒し、竜殺しの剣を使えるようになった今では実行は難しい。やってくれるか? ジョーカー。」

横島に断る理由などなかった。
すぐに了承の意を言おうとしとき、くいっと後ろから服が引っ張られるのを感じた。
なんだと思い、視線を後ろに向けると『行かないで』と盛大に訴えるレイドルがいた。
元々女性のこういう視線に弱かった男である。喉まで出て来た言葉を吐き出すのを躊躇する。
すると隣からギンッと鋭い視線が横島に突き刺さる。
珠姫である。
これからのことを考えれば人間界にいたほうがいいということは横島にもわかる。
故に、レイドルの訴えを振り切って――――

「その命令、了解いたします。」

後々考えれば横島に拒否権など存在しないのだが、ギルミアは横島が決断したことに嬉しそうに微笑を浮かべる。

「御主ならそう言うと思っておったわ。で、ジョーカーよ。留学するにあたり御主には付けてもらわなければならないものがある。」

ギルミアはそう言って一つの小箱を机の上に置いた。
横島はギルミアが促すままにそれを手にとり、開ける。
中には呪が刻まれた指輪が一つ。

「これは?」
「反転の指輪といってな。御主の会得した『デリートスキル』を封じる指輪よ。性を反転させ、男という要素によって会得した技を封じるのじゃ。」
「あの、どういう意味で?」
「つまりじゃな。御主が男として生きた日数の間に会得した技は封じられ、女として一から技を会得せねばならなくなるということじゃ。基本的なものはあらかた使えるが、文珠とデリートスキルはこれによって封じることが出来るじゃろう。」
「なんで俺の技を封じなければ?」
「神族側の要求でな。――――のぅ。そこな竜神よ。」
「はい。ジョーカーさんの力は神界から見ても異常ですので、留学するにあたり制限をかけさしていただきます。」
「はぁ。」

指輪をつけるのをためらっている横島にワルキューレは、レイドルへの励ましも込めて声をかける。

「いつまでも留学しているというわけではない。一時的なものだ。」
「・・・・・・まぁ命令ですし。」
「って、待てよ。そうなったら俺もいなくなるんじゃねぇの?」
「安心するがよい。使い魔および眷属はどの魔族でも使える基本的な技じゃ。」
「じゃあ、つけます。」

周りの話が一区切りしたことを見計らって横島はその手に指輪をつける。
本人に他意は無いのだが、つけた指は左腕の薬指である。
カッと指輪が光り、横島を中心に指輪の呪が効果を発揮する。
そして、光りが収まったときに立っていたのは鋭い目つきと長い髪、そして最高のプロポーションを持った女性が誕生した。
知らず内にジークの喉がごくりと鳴る。

「なんか、変な感じですね。」

そう言って困ったように笑う女性―横島は自分の体をしげしげと眺める。
隣の珠姫も変わり果てた横島をただ呆然と眺めている。

「随分と美しくなったものよなジョーカー。では、よろしくたのむぞ。」
「了解しました。」
「では、早速だが妙神山に向ったほうがよかろう。竜神。ジョーカーをさなたに預けたぞ。」
「はい。」

ギルミアの投げやりな言葉にも小竜姫は真面目に頷くと横島に視線を向ける。

「ここから妙神山まではゲートをくぐればすぐですのでそれほど時間はかかりません。行きましょうか。」
「はい。」

横島はそう言って後方の、すなわちレイドルのいる方へと振り向いたときに盛大に頬を膨らませたレイドルと視線があった。
ここが上司の部屋ということでかろうじて怒鳴るのをこらえているが、これは時間の問題だろう。
横島はレイドルの手を掴み、無理やり部屋の外に連れ出す。
そして、ギルミアの執務室を出ると同時にレイドル抱きつかれた。背後から抱きつかれる形となった横島は顔だけを後ろに向けてレイドルを見る。

「どうしてなのかなぁ! どうしてこうもジョーカーに重要な任務がくるんだろぅ!!」
「レイドル。」
「僕が、僕が最初にジョーカーと親しくなったのに・・・・・・!!」

レイドルは横島がいなくなるということで発生する孤独を恐れていた。
今のところ、レイドルに完全に心を開いてくれているのは横島だけなのだから当然だろう。
出世欲などほとんどなかったレイドルは初めて上に立ちたいと願う。
そうすれば、唯一自分を理解してくれた人を傍に置いておくことが出来るのだから――――。

「なにも、ずっと会えなくなるわけじゃない。約束する。俺は絶対レイドルのところに戻ってくるから。」
「――俺も一緒に。」
『となれば私もだな。』

二人の形成するラブラブな雰囲気に耐えられないとばかりに珠姫が割り込む。
ファーブニルも何を思ったのか、普段は干渉してこないくせに言葉を発した。
バチリと三者の視線が交差し、火花を散らす。

「仲がいいんですね。」
「・・・・・・まぁ。」

少し頬を染めながらそう言う小竜姫に横島は苦笑いを浮かべるしかなかった。


あとがき
雪乃丞編導入部。副題「レイドルお母さんとのしばしの別れ」。
まずは横島君に人間界に行ってもらいます。横島君が人間界にさえ行けばそこからは雪乃丞の話となります。
では、予定ではあと三回程で終わる予定です。ではでは〜。


>しょっかー様  ジークは活躍しますよ。そりゃもう、原作とはえらい違いの働き振りです。

>突発感想人ぴええる様  竜神族全てに唇を狙われる横島君。――実現しそうで怖い。

>猿サブレ様  今回はまだ燃えはなし。次回をお楽しみに。

>覇邪丸様  指摘ありがとうございました。完全に僕のミスです。修正しておきました。

>十六式様  美神の護衛ではなく、留学生としていってもらいました。神族も小竜姫のいる場所に竜の天敵はまず呼ばないでしょうから。

>無貌の仮面様  基本的にここでの男陣は原作より多少変化が加わります。

>D,様  女性化したことですし、横島君がメドーサの母親に(ぇ

>MAGIふぁ様  元々はファーブニルですし、属性は完全に『悪』でしょう。

>隆行様  どうもです。こっからは、基本的に原作沿いに話は進みます。

>ミーティア様  それぞれが恋愛感情を持っているのかと聞かれれば首をひねりますけど、ジョーカーは人気者です。

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