(注意)明記はありますが、大した事はありません。
確かに、根性で横島は『雪山』を登った。
だが……雪で体力を削られ、途中で黒髪に戻ってしまった。
何故自分がこんな所に居るのか理解出来ず、錯乱する横島だったが男がテントを作ってくれたのでどうにか事なきを得た。
「うぅ……寒いよぉ」
半泣きで毛布に包まる横島に男は笑顔でコップを差し出す。
『コーヒー出来たっす』
「あ、有難う……」
コップを受け取り、横島は笑顔を浮かべた。
その笑顔に、男は頬を染めた。
「?」
首を傾げつつ、ゆっくりとコーヒーに息を吹き掛けて口へと運ぶ。
「……あつっ……」
それでも熱く、横島は犬の様に舌を出した。
その姿を見、ときめく野郎が一人。
『……横島さん、俺嬉しいっすよ。
死んだ後もこうして男同士で山の夜を過ごせるなんて……』
身体をズイッと横島へ寄せる男。
頬を染めた状態なのでかなり怪しい。
「そうなんだ〜」
飢えた狼へ子羊はニッコリと笑顔を浮かべた。
『………………寒くないっすか?横島さん!』
リィン!!!
今まで無反応だった鈴が大きく鳴り響く、どうやら男を『悪』と判断したのかもしれない。
「わっ!?」
横島に『逃げろ!』と言おうとしているのか、小刻みに鳴り続ける。
「んと……寒いと言えば、寒いけど……」
鈴の気持ち、子知らず……
男の問いかけに素直に横島は答えていた。
『ぐぬぬうぬぬ……男同士暖めあって友情と青春と人生をぉ!!!』
「ふえ!?」
男は鈴の音に耐えつつ、横島へと馬乗り。
コーヒーは既に飲み切っていたので零れる事は無かったが、荷物にぶつかってコップは割れてしまった。
「あっ!仲居さんから借りたのに!」
馬乗りにされているのに、論点はそこらしい。
男はゆっくりと顔を近づけて行く。
『こふー……こふー……こふー……横島さん!!男同士の友情を!!友情をぉ!!!』
呼吸荒く、横島の前髪を躍らせる。
瞳を怪しく輝かせる男に横島は首を傾げ。
「え?オレと友達になりたいの?」
何も分かってない横島は笑顔を浮かべる。
無意識にその笑顔は相手の心を掴んでいた。
一度でも捕まると……もう逃げられない、逃げたいと思いもしない。
ぷっつん♪
『横島さぁあーん!!!!!!!!』
「っ!!?」
タイミング悪く、男が横島の太ももへと手を伸ばした瞬間……
髪の毛に変化が出た。
「ぎゃー!!!!!!!!!!!!!」
『……今度こそ、今度こそやらなきゃ』
遠くから絶叫が聞こえ、昼間の女の子は顔を上げた。
「男は嫌じゃー!!」
『横島さーん!!』
物凄いスピードで山を駆け抜ける男二人を見、女の子は思いっきり。
『っ!えい!』
岩を投げ付けた。
「あがっ!?」
投げられた人間の顔位の大きさの岩、それをまともに頭部へ受け……横島は倒れた。
『お願いします!ごめんなさい!!』
頼みながら謝罪を続ける女の子、その手に持っている岩が血塗れになっても手を止めない。
『ごめっ……っ!!?』
ふと自分の手元と横島を見、女の子は手を止めた。
そのあまりの出血に驚いたのだ。
普通ならば即死だろう、だが……相手は赤髪の横島である。
「ねーちゃんやー!!」
『きゃー!!?』
『横島さーん!』
巫女の女の子、流血少年、髭面男。
不思議な空間がそこにはあった。
共通しているのは……皆、余裕が無い事位だろう。
美神は温泉に入り、ノンビリしていた。
ギャラが安い分を他で補おうとしているのだ。
「ふぅ……横島君が戻ってきたら、水着着てなら背中流しても良いかもねぇ……」
黒髪時ならば精神が幼いので危険は無い。
それに……何故か始めて会った時から……妙に気になっているのだ。
あの笑顔を見ていると、妙に頬が赤くなる。
少しは慣れたが心臓も大暴れをする。
「……何でかしらね」
考え事をする美神の耳に……悲鳴が聞こえる。
だが、特に気にせず温泉に入り続ける。
「ねーちゃんやー!」
『横島さぁーん!!!!!』
『いやぁー!!』
だが、声は近づいてくる。
声の聞こえた方へ視線を向けると。
柵が破壊された。
「っ!?」
周囲を囲う柵を破壊し、風呂へと飛び込んでくる三つの影。
『お願いです!助けて下さい!!』
巫女姿の女の子が美神の背に隠れ、美神の裸体を見て横島は暴走する。
「遂に裸の姉ちゃん!?貰ったー!!!!!」
「ええかげんにしろ!!!」
大事な所は隠し、美神は拳を振り上げた。
元々怪我をしていた頭への攻撃。
それでどうにか横島の暴走は停止した。
生命の活動も停止しそうな勢いがあったが……まぁ平気だろう。
「……とりあえず、そっちの事情は分かったわ」
着物を身につけ、美神は話を聞いた。
と言っても横島はどうしてここに戻って来れたのか分かっていないが。
『うぅ……横島さんが誘うのがいけないっす!男の友情……』
「??オレ誘ったの?何処に??」
頭に包帯を巻いて貰いつつ、横島は首を傾げていた。
「はぁ……で、アンタは何?」
包帯片手に美神は女の子へと視線を向けた。
先程のショックか、女の子はまだ半分硬直していた。
『わ…私……キヌと言って、三百年前に死んだ娘です。
山の噴火を鎮める為に人柱になったんです……普通そういう霊は地方の神様になるんですが。
でも私……才能無くって、成仏も神様も無理で……』
目に浮かんだ涙を拭いつつ、キヌは説明をする。
「確かに……他人と入れ替われば呪縛は解けるけど……何で横島君なの?」
他にも沢山人間は居る、しかもここは温泉がある。
その気になればここの客を殺す事も出来る、だがキヌはそれをしなかった。
『分からないんです……けど、この人ならやってくれるかもって思えちゃったんです』
「ふーん?やっぱり物の怪に好かれやすいからかしら?」
本人にとってはたまったもんじゃないだろうが。
「?」
横島は全く理解していなかった。
「……よろしい、じゃあこうしましょう!髭!!」
『じ、自分っすか!?』
反射的に答えるが、男以外この場に髭面は居ない。
「成仏止めて、山の神になりなさい」
『や、山の神!?』
じぃ〜ん
男は身体を震わせ、涙を流した。
『やるっす!いや、やらせて欲しいっす!愛する山と共に生きるっす!
俺達は街に住めないっすよ!遠き山に陽は落ちるっす!!』
「多分そう言うと思ったわよ、そっちも良いわね?」
早口で暴走する男に半分呆れつつ美神はキヌへと視線を向ける。
『はい!!』
皆の合意を得、美神は立ち上がる。
「この者を捕らえる地の力よ!
その流れを変え、この者を解き放て!!」
力ある言葉に答え、キヌの身体に光は走る。
光は真っ直ぐ男の身を貫き、その姿を変えて行った。
男の服は白装束へと変化してその手には弓が握られていた。
『こ、これで自分は山の神っすか!?』
「とりあえずはね、けど力をつけるにはまだまだ永い時間と修行が必要よ」
その言葉に感極まり、男は叫ぶ。
『うおお!!!遥か神々の住む巨峰に雪崩の音がこだまするっすー!!』
「頑張ってねー」
自分を押し倒した男へ横島は心からの声援を送った。
『うおお!!!横島さん、好きだー!!!!』
「うげっ」
『……』
「あう?」
とんでもない言葉を残し、男は雪山へと消えて行った。
美神は頬を痙攣させ、キヌは呆気に取られ、横島は首を傾げるだけだった。
『……えっと、有難う御座います!これで私もじょうぶ……』
満面の笑みを浮かべ、礼を言うキヌだが。
『……??』
「どうしたの?」
辺りを見回し、キヌは困った表情で問いかけた。
『あっ……あのぉ……つかぬ事を伺いますが、成仏ってどうやれば良いのでしょうか??』
その言葉に二人はこけてしまう。
「ゆ、幽霊って満足したら自然と成仏しちゃうんじゃないんですか?」
「う〜ん……多分だけど、長い事地脈に縛られてたから……安定しちゃったみたいねぇ……
こりゃ祓って貰うしか無いわ」
こけた瞬間、乱れてしまった前髪を直しつつ……美神は逃げ笑いを浮かべた。
『あ……あの……それってやって貰えないんですか?』
恐る恐る問いかけるキヌへ美神は笑う。
「お金、持ってる?」
『……うぅ』
そりゃ無理でっせ、姐さん。
「う〜ん……こっちも商売だもの、お金を貰わなきゃねぇ……」
「美神さん、オレのこの鈴じゃ無理ですか?」
ポケットに入れている小太刀を見せる、だが美神は首を振る。
「今までその鈴が反応してたのは悪意がある霊だけよ、この子には反応してないでしょう?
期待は出来ないわね」
さっきは男に物凄い反応していたが……まぁ、あれは特例かもしれない。
『うぅ……』
涙目になるキヌを見、横島も泣きそうな顔になってしまう。
もしもキヌが泣き出しては横島も泣くかもしれない。
女の子の涙に弱い美神だが……それ以上にこの横島の涙にも弱い。
「……っ!それじゃあこうしましょう?」
「『う?』」
泣く寸前にある案が浮かび、美神は笑う。
「貴方、うちで料金分働きなさい!日給は三十円!たまったらお祓いしてあげる!」
『っ!!はい!!頑張ります!!!』
「それじゃ……一緒に働くんですね!!」
喜ぶ二人だが……美神の仕事料金はひたすら高い。
日給三十円では一体いつ成仏出来るか……分からない。
だが、この場に居る者は誰もそれに気が付かない。
『従業員、一人ゲットv』
一人気が付いている美神は……隠れてブイサインをしていた。
第二話 終
そういえば……ワンダーホーゲルはこっちの世界の人でした。
そんな事を思い出しながら書いたのですが……微妙ですね。
こいつが再登場した時……どんな事が起きるのか、今からドキドキです。
レスは脳への栄養!つまりは砂糖!!
本当に有難う御座います、レスのお陰で今日も生き残っています。
紫苑様>守銭奴よりも鬼の方が美神には似合う気がしまして……
子供横島は基本的に皆とほのぼのする予定です。
その相手の頬は大抵真っ赤だったり……(にやり)
純粋なのには色々理由があるので……そこが早く書きたいです。
柳野雫様>ハマッて下さった!やった!!!(サムズアップ)
黒と赤を一緒にしたら……すぐに止めちゃいますから。
ワンダーホーゲルは泣かせませんでしたが、レッドを泣かせました。
ピートの方向性は後に明らかに。壊れるか?壊れないか?西条さんの方は確実に態度変わりますね!