先ほどの戦いから一時間近くの時が過ぎていた。
「メドーサ様、もう大丈夫なんですか?」
「ここは月だからね、地球と比べて回復が早いのさ。」
メドーサとタマモはアンテナの場所から離れた地点でメドーサの傷が癒えるのを待っていたようである。
ただタマモの頭にたんこぶが出来ていたのは、間違いなく狐火のお仕置きだろう。
「……そろそろのはずだね。まさか連中も味方の中に敵が潜んでいるとは思うまい。」
メドーサは体を動かし、戦闘に支障がないか確かめる。
「これが最後の戦いになるはずだからね、準備はいいかい?」
「OKです!!」
気合も高まり、後は月神族の城へのゲートが開く事を待つだけになった二人。
「!! どうやら開いたみたいだね。いくよ!!」
「はいっ!!」
メドーサはゲートが開いた場所にテレポートした。
――心眼は眠らない その46――
美神たちがヒドラからの攻撃を逃れるために入った穴のさきには月神族の城に繋がっていた。
そこは人間界と霊界の境目で亜空間と呼ばれるところに存在する。
「それでは皆さん、どうぞこちらへ。」
迦具夜は美神たちを中に案内しようとするが、
「すんまへん、ちょっと自力で歩くんは無理みたいですわ。」
鬼道は、自力で歩くことも不可能であった。
もしあの時、憑依術で防御力が上がっていなかったら鬼道は宇宙の塵と化していただろう。
「しょうがないわね、横島クン……も自力で立ってるのが精一杯だし雪之丞……?」
「うっ……ぅ……」
雪之丞の体が揺れる。
と、思ったらそのまま倒れだしたのでマリアがそれを支える形にあった。
「ふ〜、二人とも……悪いけど二人の手当ての方、お願いできる。後、鬼道の宇宙服の修復も。」
「わかりました。すみませんがこちらの部屋まで来てくれませんか。」
迦具夜は美神たちを広間の方に案内する。
仕方ないので横島がいやいや鬼道を、マリアが雪之丞を担いでそこまで移動する。
「すみません。この部屋は先ほどの部屋と違い、酸素と窒素の混合気体で満たしていますので呼吸もできるはずです。」
「助かるわ、そろそろ竜気も切れかけていたから。」
迦具夜が連れてきた部屋は何故かメーターが至る所に配置されている部屋だった。
横島がその事を突っ込むと、どうやら迦具夜曰く地球人の好みに合わせたらしい。
「それでは治療の方ですが……朧! 神無! ごあいさつを。」
迦具夜が後ろの何もないところに声をかけると、そこから二人の月神族が現れる。
「迦具夜姫付き官女の朧にございます。」
「月警官の長、神無にございます。」
二人を言葉で表現するとすれば朧は可愛らしい、神無は凛々しいといったところか。
「朧は優れたヒーリングの使い手です。神無、お二方を治療所にお連れして……」
迦具夜が二人に指示を出しているが、こんな美女を二人をほって置く横島ではない。すぐに二人に大声を出して自己紹介する。
「あぁ、ボクも急に眩暈が……神無さん、朧さん、ボクにも手当てをお願いします。」
その後、急に倒れこみそうになる横島であったが、
「まぁ、素敵な方ね♪」
『なっ!?』
「…………」
朧の意外な言葉に横島の時が止まる。
何気に悠闇が失礼だが置いておこう。
「………………え!? ボッボクですか!?」
「うふ、赤くなってかわいい♪」
「よさんか、朧!!」
どうやら月神族には女性神ばかりなので男性に興味があるようである。
横島が大ハシャギしている中、神無と迦具夜が朧を叱る。
「それでは、神無。伊達どのと鬼道どのを治療所の方へ。」
「はっ!」
流石は月警官の長を勤めていることもあって、神無は大の男二人を楽々と持ち上げていく。
朧は月神族の中でも指折りのヒーリングの使い手のため神無に同行する。
『……美神どの。すまぬが横島も治療が必要のため同行してもよろしいか?』
「横島クンまで?……まぁ、かまわないわ。」
最後に美神たちは竜神の装具のエネルギーの補充をするため、朧に装具を渡す。
こうして、美神とマリア、迦具夜を残して、他の皆は治療が出来る場所に移る。
「では、こちらへ。」
迦具夜は美神をヒドラが移っているモニターの場所に誘導する。
そこで対策を立てるため、とりあえず星の町にいる神族たちと連絡を取るようにしたようである。
『美神さん!! 無事だったんですね!!』
モニターの向こうではおキヌが美神の無事に喜んでいた。
美神はすぐにヒャクメにヒドラの弱点を探すように言う。
『……? 美神さん、横島さんや雪之丞さん、鬼道さんはどうしたんですか?』
「あの男三人衆は一応治療してもらいにいってるわ。安心して、命に別状はないから。」
おキヌは姿の見えない三人、特に横島を心配するが、美神の言葉で少しはホッとする。
その間にヒャクメはヒドラの弱点を見つけたようで、どうやらアンテナの鏡面を撃てば一撃で倒せるらしい。
「残り時間は?」
「予測時刻・1時間20分後。」
タイムリミットまで時間はないようである。
美神は超加速状態で突っ込む事を提案するが、小竜姫が辿り着く前に加速が切れることを指摘する。
「……超高速で接近する方法ですか……」
どうやら迦具夜には何か思い浮かぶモノがあるようだ。
「美神どの、月の石舟をご存知ですか?」
「月の石舟?……舟っていうぐらいだから、おとぎ話で最後に月に帰っていくときのヤツ?」
「そうです。月の舟は、生身の人間を乗せて大気圏への突入はできませんが、速度はあなた方の舟を越えています。」
月の石舟は迦具夜にしか動かせないようで、操縦は迦具夜がすることになり、美神がギリギリまで近づいて超加速を発動させた状態で狙撃することに決まったようである。
また、十分な加速を得るためにも、一度月面を一周する必要があるらしい。
「……とりあえず作戦は纏まったわね。後は治療と、竜気の補充を待つだけか……」
一方、医務室に向かっている横島一同だが、
『……横島、残りの文珠は二つで間違いないな。』
「ん?……そうだけど、それがどうしたのか?」
悠闇は残り二つでメドーサとタマモをどうにかしなければならない策を考えていた。
(二つか……本来なら四つ欲しいところなのだが。まぁ、後は強引にいけば何とかいけるだろう。)
悠闇の対メドーサ戦で必要な文珠は四つ、二つでも出来ない事はないが、万全を尽くすというなら四つの文珠が必要であった。
そして、先ほど感じた違和感。
(……もしそうだと言うなら、逆に利用してやろうではないか。)
悠闇がいつものように己の考えに浸っているとどうやら治療所についたらしい。
ちなみに雪之丞は神無、鬼道は横島が運んできたようだ。
「では、コチラにどうぞ。」
朧がベッドの方に案内する。
「あぁ、近頃の女の子って積極的!!、横島感激!!」
「何を勘違いしているのだ!! 早くヒーリングを施すから患者を横にしろ!!」
横島がボケか本当なのかイマイチ区別がつかない発言をするが、神無がそれを咎める。
神無の今の態度からどうやら、神無はあまり横島たちを快く思っていないらしい。
それは部下を殺されてから時間が経っていないことや、今回の事件も地球側が持ち込んだ事なので、仕方ない事なのかもしれない。
「やめなさい、神無。それじゃ八つ当たりよ。」
「……そうだな。失礼した。」
朧に窘められ、神無は納得していないも横島に詫びを入れた後、迦具夜たちのもとに戻っていた。
「それじゃ、治療に入りますね。まずは、この長髪の方から。」
朧は鬼道、雪之丞、横島の順にヒーリングに入る。
「そういえば、他にヒーリングが出来るコっていないの?」
「いますけど、今は皆、厳戒態勢に入っているので手が開いている者がいないんです。」
ヒーリングをしてもらいながら横島は朧と会話を続ける。
ちなみに雪之丞と鬼道は眠っている。
「そうだ! 横島さん、地球に彼女いるんですか?」
ピクッ
横島の動きが止まる。
(彼女がいる。確か雑誌で読んだことがあるぞ。この質問がされるということは朧ちゃんは俺に……)
この後の行動はお分かりであろう。
「お ぼ ろ ちゃ〜〜〜〜〜ん!!!」
どうやって宇宙服を脱ぎ捨てたのか、横島のルパンダイブが炸裂する。
朧も横島のこの行動は予想外であったため、呆然としているのか全く動かない。
問題は誰がこの暴走横島を止めるのかというのだが……
(す〜〜〜〜、す〜〜〜〜〜)
悠闇は体力温存のため寝てるらしい。流石に、メドーサの相手はきつかったらしい。
これで最後の防壁も破られ、横島の邪魔をする者はいない。
「あ、ダメよ。横島さん。でも、ちょっと興味あったりして……」
実にノリのいい神族であった。
ウィィィン
ドアが開く。というよりこの城のドアは自動ドアらしい。
「横島クン、もうだ…い…………」
どうやら、神は横島にそう簡単に美味しい目に合わすつもりはないようだった。
「「「………………」」」
態勢はちょうど、横島が朧を床に押し倒している所。
これでは誰がどうみても横島が襲ったとしか見れないだろう。まぁ実際その通りなのだが。
「……説明してもらえるかしら?」
「みみみみみかみさん!? こここれはっすね!! その……」
横島が大慌てで弁解しようとするが、今の美神は嵐の前の静けさ。
朧はいつの間にか、横島から離れている。どうやらこれからの事を察したらしい。
「……まぁ、いいわ。とりあえず―――」
「ヒッ!?」
美神はパンツ一丁の横島にせまり、
「―――ギャラクティカ・ク○ッシュ!!」
「ぶご!?」
ものごっつい右ストレートが横島の腹に突き刺さった。
横島はそのまま壁までふきとばされてダウンする。
「本当に、人が作戦を練っている時に何、やってんだか!!」
美神は自分でやったというのに、朧に再び横島へのヒーリングを頼む。
(す〜〜〜〜〜、す〜〜!? よ、よせ!?……す〜〜〜〜、す〜〜〜〜)
何の夢を見ているのだろう。
とりあえず、事態も収まり美神は横島たちに作戦を伝える。
『……なるほど。ところで美神どの、その策に付け加えたい提案があるのだが。』
「提案?」
『……とりあえず、ヒャクメ達にも話しといた方がいいだろう。』
悠闇はそう言って、安静にしなければいけない鬼道と雪之丞の二人を残して、治療所から出る。
『横島、美神どの、ここでいい。止まってくれ。』
「アレ、皆と話合うんじゃなかったの?」
治療所から少し離れた所で、悠闇が何故か美神たちを止める。
それに対して、美神は当然の疑問をぶつけるが、
『いや、あそこで話すのだけはまずいのでな。』
「何でよ?」
悠闇はここで自分が感じた違和感とその対処法を美神に伝える。
「……マジかよ。それだとアイツって今回、いいとこ無しだな。」
「でも、それなら突然ああなったっていうのにも説明がつくわね。わかったわ、それでいきましょう。うまくいけば楽にアンテナを壊せるしね。」
横島と美神は悠闇の考えに納得したようである。
「それなら早速、迦具夜に伝えてくるわ。ここは任したわよ。」
そう言ってから美神は朧と共に、迦具夜のもとに向かう。
「なぁ、心眼?」
『なんだ?』
横島は美神たちを見送ってから、治療所が見える場所で悠闇に話しかける。
「いやな、さっきって文珠を五つも使ったのに倒せなかったんだぞ。今は二つしかないんだが、その作戦でうまく行くのか?」
『……いい事を教えてやろう。勝敗というのは、戦う前からすでに決まってる。それを次の戦いで教えてやろう。』
悠闇の自信は、先ほどの戦いでは使えなかった策が今回では使えることらしい。
「まぁ、ようは時間稼ぎをすればいいんだな?」
『左様。敵を倒すだけが戦いの全てではないということだ。』
(俺は……何をしているんだ?)
焦点が定まっていない男は一人、城を歩いていた。
しなければならない事がある。そう、命令されているのだから。
(そうだ。穴を、ゲートを……)
月面にゲートを開ければ、後は向こうがどうにかする。問題はどこでゲートを開くかであった。
(アレは?……あそこの歪みなら……)
この月神族の城は亜空間に存在しているためか、空間の歪みが多々見られる。
そのため外部からこの空間に入る事は難しいが、逆に出ることは造作もなかった。
(ここなら……開くか?)
男は誰もいない広間にちょうどいい具合に空間が歪んでいるのを発見する。
(今、開けます……メドーサ様、タマモ様。)
男は右手に霊力を籠めて、その空間の歪みに霊波砲を放つ。
後は、向こうが勝手にリンクしてくれるだろう。
ブンッ
今、月面と月神族の城とが繋がる。
それでも男が生きているのは、神族の装具をしているからであった。
「―――ご苦労様。」
「ありがとうございます……タマモ様。」
空間の先からはメドーサとタマモが現れる。
「それにしても哀れだね、雪之丞。可哀想だし、ここで殺してあげようか。」
そう、この目が虚ろな男は雪之丞であった。
メドーサはそんな雪之丞に右手を向けて、竜魔砲を放とうとする。
ギィィィィィィィィン
「「なっ!?」」
だが、その前にこの広間を囲うように結界が発動する。
と同時に、ゲートが閉じられた。これでメドーサたちは逃げられない。
「ちょっとは周りに人がいない事で怪しいと思わんか?」
『そういうな。まぁ、雪之丞に洗脳をかけたまでは悪くないが、その後はまだまだであったな。』
「「横島!!」」
広間の入り口から現れたのは横島であった。
本来なら鬼道もここにいるはずであったが、傷を治療することはできたかが、霊力の回復までは出来ず、参戦することは出来なかった。
「……なるほどね、どうやら罠にかけられたのはこっちみたいだね。」
『左様。貴様なら必ず、自らここに来ると思っていたのでな。』
悠闇は雪之丞が倒れた時に、タマモに何らかの術がかけた、または何かをしたと判断した。
では次に考えなければならない事は、メドーサ達が雪之丞を使って何をしようとするかであった。
考えられる事は二つ。
一つは雪之丞を使って迦具夜を殺すことだが、いくら雪之丞が強くても、美神達までいるのにそれを実行できるとは思ってないだろう。
第一にメドーサからすれば迦具夜などどうでもいい相手なのだから。
そしてもう一つは、雪之丞を使って自分たちの潜入の手助けをする。
メドーサの性格を考えれば、この月で必ず決着を考えているはずであった。
ならば先の戦闘で決着がつかったための予防策として張っていないこともない。
それにメドーサが潜入して来ないなら、そのまま月の石舟に乗って、横島が邪魔をしに来たメドーサを押さえている間に、美神がアンテナを破壊すればすむだけの話なのだから。
悠闇は様々なパターンを考えた結果、メドーサが雪之丞をどう使おうと、自分たちの不利にならないような策を取った。そうすれば後は、アンテナを破壊して自分たちの勝利なのだから。
「まぁ、いいさ。美神はどうしたんだい?」
自らが罠に嵌められたことなど大して気にしていないのか、メドーサは横島に美神の居場所を聞く。もちろん、素直に答える馬鹿はいないが。
「メドーサ様はこの結界を……横島!! 前回の決着、ここで!!」
「きたぞ!?」
『慌てるな。妖孤ごときワレの敵ではない。』
タマモはメドーサにこの結界を破るのを任せ、横島に迫る。
そして、横島は―――
《憑》《依》
―――最後の文珠を使用して悠闇に己の肉体を任す。
「―――馬鹿な!? この竜気は……」
メドーサは横島から放たれた霊波の中に、自分が知っている竜気が混ざっている事に驚く。
何故ならそれはありえない事なのだから。だから即座に否定する。動揺して隙を作るわけにはいかないから。
「何だか知らないけど……狐火!!」
タマモは横島から発した霊圧に驚くも、そのまま狐火を放つ。
シュンッ
「えっ!?」
横島の体が目の前から消える。
『とりあえずは……』
トスッ
悠闇は放心状態の雪之丞の背後を取って、首筋に手刀を放って気を失わせる。
そして、戦闘の邪魔にならないような場所に放り投げた。
『やはり《憑》《依》だけでは満足に動けぬか……』
本来、神族は文珠を必要としなくても、意識がハッキリしている人間にも、合意のもとでなら憑依する事が可能であったが、悠闇は不完全とはいえ封印されている身、文珠無しでは精々死人の体を借りる事しか出来ないのであった。
そして、横島は生きているため、高島のように本来の悠闇の姿が現れるわけもなかった。従ってこの状態ではそう満足に戦えるわけはない。
「だったら接近戦で!!」
タマモが距離を詰めるが、
「―――!? また消えた!?」
相手は黒竜将の地位にいた者。
例え、人の身を使おうが―――
『ワレはここだ。妖孤よ』
―――今のタマモは敵ではなかった。
いつの間にかタマモの後ろを取り、そのままサイキックソーサーを放つ。
超加速を使用していないのは、省エネのようだ。
バァァァァァン
「キャッ!?」
サイキックソーサーは見事に直撃して、タマモは吹き飛ばされる。
「くっ……全く幻術が効かないなんて……」
『なるほどな……これが鬼道にかけられた幻術か……』
鬼道が知らない間にかけられた幻術。それは重ねがけによって発動するモノであった。
タマモは前回、幻術が全く横島に通用しなかったのは、幻術の発動させるまでの遅さにあると考えた。
それを改善するにはどうすればいいか?
タマモが出した答えは、発動までの工程を何回にも分ける、つまり相手と何度も目を合わせることにしたのであった。
こうすることによって発動に必要な回数分、目を合わせれば、幻術の発動がいつでも出来るようになるので、前回の不覚を取る事はなくなった。
また、幻術を鍛えるついでに覚えた洗脳であったのが、今回は見事に雪之丞に成功したのであった。
(なぁ、心眼。一つ聞いていいか?)
(何だ? 今は忙しいのだから、手短にな。)
現在は悠闇が横島の体を使っているので、戦闘を眺めている事しか出来ない横島が一つ疑問に思ったとこを悠闇に聞く。
(いやな、始めからお前が戦えば楽に勝てたんじゃねえか?)
(……聞きたいか?)
今の悠闇はすでに天界にバレているため、神族を気にする必要はない。
ならば横島の成長のために自分が出ないという事もあったのだろう。
しかし、もう一つ理由があったのだ。
(何だよ? やけにもったいぶった感じだけど……)
(……怒らずに聞いてくれ。)
ちなみに悠闇は今もタマモの攻撃を避けている途中である。
メドーサはこちらの戦いを気にしているも、結界を破るのが先決なのか、結界の柱を解析していた。
(ワレがおぬしの体を使えば、まずこの妖孤は超加速を使用しなくても楽に倒せるだろう。問題はメドーサだが、間違いなくワレはおぬしの体を酷使する、そうなるつまり……)
(ちょっと待て……嫌な予感がしてきたんだが……)
(憑依状態が解ければ全身骨折……かな?)
(かなって、そんなんいやじゃーーーーー!!! アホかーーーーー!!!)
軽い、軽いおぬしなら大丈夫と気楽な事を言ってくれる悠闇だが、横島からすれば堪ったもんじゃない。
(韋駄天といい、心眼といい何でおのれらはそんなんやねん!!)
(あぁ、そういえば韋駄天と合体した時のオチもそうだったのだな。……いや、二番煎じですまんな。)
(すまんじゃねーーーー!!! しかも謝ってるところが違うぞーーーー!!!)
横島にチョットずれた謝罪をしつつ、タマモの攻撃を見事にかわす悠闇であった。
(む?……そろそろか。話は後だ、それより今はワレの動きを学べ!!)
横島が何か言っているが、悠闇は結界が破られそうになっている事に気付き、タマモをし止めにかかる。
「舐めないでよ!!」
(さて……文珠も無しに妖孤を倒すのは難しいな。やはり、予定通りに事を進めるか。)
先ほどのサイキックソーサーのもらってもタマモは大してダメージを受けているようには見えなかった。
神剣を使えば倒せるのだが、それでは自分の動きを制限してしまうため使わなかったようだ。
シュゥゥゥゥゥゥゥゥゥン
「タマモ!! アンタは横島の足止めをしてな。私はヒドラのもとに戻る!!」
結界の解除に成功したメドーサであったが、どうやら横島と悠闇が足止めであることに気付いたらしい。
そのまま何処かに行ってしまうメドーサであったが、
(予定通り……後はタイミングだな。)
悠闇はそれを追走する。
結界を発動させたのも、メドーサに考える時間を与えて、ヒドラの所に戻らせるためであった。
途中、タマモが邪魔をするが今は相手にしている暇はない。
見失ってしまえば、折角ここまでうまくいっているのが台無しになってしまうのだから。
うまくタマモの攻撃をかわしてメドーサの後を追う事に成功する。
「まっ待ちなさいよ!!」
攻撃をかわされたタマモは、同じく悠闇を追走することにしたようだ。
「ちっ、どういう事だい? この私が人間ごときを振り切れないなんて……」
メドーサは未だに自分を追ってきている悠闇に苛立っていた。
「それにさっきの竜気……アレは……」
いや、本当に苛立っている理由は悠闇の事なのかもしれない。
「いや、今は気にするな……それよりアンテナの発動まで後20分弱か……」
メドーサはあの場所に横島しかいない時点で、美神はアンテナの方に向かったと予想した。そしてその美神がなんの勝算もなく向かうわけがない。
ならば自らが出向く必要があると判断したのだ。
「……いい加減しつこいよ。お行き、ビッグ・イーター!!」
メドーサの髪からビッグ・イーターが三体出現して、そのまま悠闇を襲う。
『今は相手にしている暇はないというのに……』
悠闇はビッグ・イーターを最小限の霊力で仕留めてから、再びメドーサを追う。
無視すれば、城内で暴れるのでほっとくわけにはいかなかったのだろう。
(おい、見失ったんじゃないのか?)
『馬鹿を言うな。仕掛けるにはまだ早いのでな。』
仕掛けるタイミング。
それは美神たちがアンテナを壊す直前でなければならなかった。
(あっ?……タマモじゃねえか。アレはほっといていいのか?)
ようやくタマモは悠闇に追いついてきたようである。
悠闇はタマモを倒そうと思えばいつでも倒せるが、その時の消耗を考えればほっておくのが一番だと判断したのだ。
『覚えておけ、戦いとは常に大局的に見渡す必要がある。』
(はぁ? なんだ、そりゃ?)
『いや……いずれわかる。』
大局的。
悠闇はどの視点で見ているのだろうか?
「やはり、横島は足止めだったってわけだ……」
メドーサが見つめる先には、月の石舟に乗った迦具夜と美神がいた。
すでにアンテナは試射を開始していた。
本送信まで時間もないだろう。
「これを凌げば、私の勝ちってわけだね。」
メドーサは超高速で向かってくる石舟に向かおうとする。
『―――そして、ワレがおぬしを止めれば、ワレらの勝ちというわけだな。』
「……やはり来たかい。タマモはどうしたんだい?」
だが、悠闇がメドーサに声をかけてそれを防ぐ。
メドーサは左程驚かずに悠闇の方を振り向く。
『さぁな。しかしあの調子だといずれここに来るだろう。余程、横島に執着しているようだからな。』
「……もういい、茶番は終わりにしな。」
メドーサは刺又を取り出し、構えを取る。
「悠闇!! アンタが何故、ココに居るかなんてこの際どうでもいいよ。ただ私の邪魔をするヤツは殺す。それだけさ。」
『相変わらず、気性が激しいヤツだな……白蛇よ。』
もう認めなくてはならない。
横島に憑依している者は間違いなく先代黒竜将であり、自分の悪友だった者だという事を。
『やれやれ……どうせ下らない理由で堕天でもしたのだろう。』
「本当に今、考えると下らない理由はかもしれないね。……まぁそんな事どうだっていいよ。今のアンタなんざ、私の敵じゃないね。次が控えてるんでね、とっとと終わらさせてもらうよ!!」
メドーサは霊圧を高める。どうやら一気に勝負を決めるようだ。
確かに、今のままでは悠闇に勝ち目はほとんどないだろう。
『ふ〜、くさっても白竜将補というわけだな。まぁ……ワレもこの状態で挑むつもりはないがな。』
文珠を使用して憑依する場合、あるメリットが発生する。
それは《憑》《依》の文珠を憑依したときに、ある程度は霊力に変換する事が可能ということだ。
『くっ―――』
そうすることによって、再び文珠を生成できる霊力を確保する事が出来る。
もちろん全ての霊力を還元できるわけではないので、ある程度の消耗は免れないが、今回の目的ならそれで十分であった。
『―――はぁ、はぁ、(横島……おぬしは大したヤツだな。強引に文珠を生成することがこれほど難しいとはな……)』
悠闇の手に握られた二つの文珠。
これで準備は整った。
――超加速・発動――
――超加速・発動――
メドーサは香港の時、小竜姫と対戦している時にこう言った事があった。
”超加速とは本来、韋駄天の技なのに……私以外にも使える竜神がいたとはね!!”
それは天魔戦争で竜族からも多くの死者を出して、超加速を使える竜族は戦争終結時には、メドーサが知っている中では自身と悠闇しか残っていなかったからであった。
「これで終わりだね!!」
そして悠闇は封印刑を受けたため、堕天して小竜姫の事を深く知らなかったメドーサはそう言ったのである。
『悪いが、もう少し付き合ってもらおう。』
悠闇はメドーサの刺又を紙一重でかわして、先ほど生成した文珠を掲げる。
《反》《転》
「なっ!?」
「さて……これなら文句はなかろう。なぁ、白蛇。」
《反》《転》によって本体が悠闇の姿に変わる。
「そうそう、ワレも一時的にではあるが、元に戻ったことだしな。一つ言いたい事があったのだが……いいか?」
これで横島の負担も少しは少なくなるだろう。
悠闇は体を動かし、これならメドーサと短時間なら戦えると確信する。
「その、なんだ―――」
「―――老けたな。」
先代黒竜将 VS 元白竜将補
はとんでもない一言から始まった。
――心眼は眠らない その46・完――
あとがき
今回の雪之丞、ボロボロですがその分強くなってもらいたいと思ってます。
メドーサが白竜将補という高い地位にいるのは、香港の発言から竜族でも相当強いのではないかと思ったからです。
タマモは…メドーサに出番を奪われてしまった感がありますね。