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「除霊部員と死を呼ぶ魔鏡 最終話(GS+オリキャラ)」

犬雀 (2005-02-17 22:36)
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最終話   「魔鏡の見せた闇」 


翌日、平日の昼間にも関わらず横島たち一行は再び城南署を訪れた。
先を歩く制服姿の少年少女たちを見て、自分が社会見学の引率をしているかのような錯覚を感じて魔鈴は微笑む。
「私って教師もやってみたかったのかしら…」
こっそり口の中で呟いてみる。
魔法に関わったため学生時代も、どこかクラスメートから浮いていた覚えのある彼女にとってその想像は心ときめかすものだった。

城南署の署員も唯や横島のことはよく知っているのだろう。
特にとがめだてもされずあっさりと黒岩のところまで行くことが出来た。


「…なるほど…つまり彼女の母親の死は殺人の可能性があるから再捜査しろ…そういうことか、お嬢?」

「はい。無理ですかぁ?」

黒岩は机の上にある煙草から一本抜いて火をつけ、一息だけ吸い込むと山になっている灰皿に突き刺して火を消した。

「無理だ。…特に新証拠が出たわけでもない。そちらの魔法使いのお嬢さんの想像ってだけじゃ令状はとれん…」

「そうですよねぇ…」

肩を落とす唯をサングラス越しにチラリと見やると、今度は胸ポケットから国民的電気ネズミのついたハッカパイプを取り出して口にくわえる。
そのギャップに驚く唯以外を気にもせずハッカパイプをピコピコ揺らせながら黒岩は軽く笑った。

「だがなお嬢。お前とそこの嬢ちゃんは友達なんだろ?」

「えう?…茜ちゃんですか。そうです!」

あっさり断言する唯に茜は一瞬驚くも、すぐにその顔に微笑を浮かべて頷く。

「友達の家に遊びに行くのに令状はいらんぞ…」

「なるほど…。でもそれでしたら、もし証拠が見つかっても何も出来ないのでは?」

魔鈴の問いに黒岩は特に感情を見せずに言ってのけた。

「ちゃんとした証拠が出れば、その時は叩き起こしてでも…な。」

口数の少ない一見やくざなこの刑事は信頼できると魔鈴は思う。

「そうだ…お嬢に渡すものがある。おい!酢堂、あれ持ってこい。」

黒岩に呼ばれてオイッスと暢気な返事とともにやってきたのは、細身ながら鍛えられた体つきをした若い刑事。手には書類袋とおにぎりを持っている。
黒岩は書類袋だけを受け取るとそれを魔鈴にポンと投げ渡した。

「これは?」

「お嬢が来たら親父から渡すように頼まれた。その娘の義父、岡崎圭吾氏に関する調査報告だ。…もちろん非公式だがな。」

「親父…?」

「署長さんのことですぅ…」

横島の疑問に唯も驚いたように答える。

「今、拝見しても宜しいですか?」

「ここでは止めてくれ…。」

書類を検めようとする魔鈴を手で制すると、話は終わったとばかりに後ろを向く黒岩に横島たちは深々と頭を下げた。


茜の家は閑静な住宅街でも一際目立つ立派な家だった。
どこか洋風の佇まいを見せるその家に一箇所だけ不似合いなもの…一つの窓を塞ぐ鉄格子が見える。それが彼女の母の部屋の窓であることは一同にも彼女の表情を見なくても察しはついた。


茜に案内された彼女の母が死んだ部屋。
その部屋に入る時、茜は大きく身震いする。
その手を摩耶が優しく握った。

室内は当時の様子をそのままに止めているかのような澱んだ空気に満ちている。
霊能者たちや人外のものたちは魔の気配や霊の気配を探ってみたが、すえた匂いがするだけで妖しの気配はない。
部屋にはベッドと小さなドレッサー、そして吸血鬼関連の本がぎっしり詰まった本棚がある。

震える声で茜が語りだす。

「この部屋は母が死んだ時のままになってます。さすがに絨毯は替えました。それに…ニンニクとか杭は捨てました…」

淡々と語る彼女の目から溢れる涙がその心情を端的に物語る。
その様子を痛ましげな目で見ながらも魔鈴は話を続けた。

「お母さんが倒れていたのは?」

「この鏡の前です…」

茜が示す先にあるのは枠に古風な意匠をこらした全身鏡。
相応の年代を経たものか鏡の上にある女神の像は茶色く汚れている。

「では…唯さん。この鏡とお話してもらえますか?そう…事件の時のことを聞いてください。」

「はい…わかりましたぁ…」

いつになく神妙な顔の唯は進み出ると鏡にそっと額を押し当てて集中しだす。
無言でそれを見守る一同。加藤や摩耶は始めてみる唯の能力に驚きを隠せないようだ。

「へう?」

「唯ちゃんどうした?」

「あの…この鏡さん…お話してくれません…」

「え?」

意外な唯の言葉にピートも驚いた。

「唯ちゃん…どっか体調悪い?」

もしや昨日の照り焼きの後遺症が…と心配する愛子に首を振る唯。
その様子を得心のいった顔で眺めていた魔鈴は唯に向かい別な指示を出した。

「では唯さん…そのベッドとお話してくれますか?」

「はい…わかりましたぁ」

ベッドの脇に跪きその額を当て、再び集中に入る唯。
その体がほんのりと光りだす。

驚き見つめる茜たちの前で祈るかのように跪く唯の目から涙がこぼれた。
やがて光がおさまりゆっくりと立ち上がり濡れた目で茜に近づくとその手を優しく握った。

「この子はちゃんと覚えてましたぁ…」

「え?何をですか?」

「お母さんの最期の言葉ですぅ…」

「!!」

「唯様…では…ベッドとは会話できましたの?」

驚きのあまり言葉も無い茜のかわりに聞いてくるアリエスへコクリと頷くと唯はタイガーに向いた。

「タイガー君、お願いがありますぅ。私が見たことを皆さんにも伝えてもらえませんかぁ?」

「了解ですジャー」

タイガーは唯の手をとると精神を集中し始めた。
彼の力の拡散とともに一同の頭に当夜の出来事が映り始める。


薄暗い寝室の中、蒼白な顔でベッドに立つ女性は茜の母だろう。
握られた白木の杭はその鋭い切っ先を彼女の手によって心臓の真上にあてがわれている。
血の気とともに正気さえ失ったその顔で一際目立つ赤い唇が言葉をつむぐ。

「茜を殺させるもんか…」

ユラリ…

足がベッドから離れるその刹那、母の最期の叫びが響き渡った。

「私は茜を殺したりしないぃぃぃぃぃぃ!!!」

ドサ…

そこで皆の脳裏から映像が消えた…。

凄惨な光景をまさに脳裏に映し出され言葉も無い一同。
ヨロヨロと崩れ落ちそうになる茜を支えるタイガーと唯の顔にも後悔の色がある。
だが、茜は泣きながらもしっかりと足を踏みしめて立ち上がった。

「そうでしたか…」

一人冷静な魔鈴の呟きが意外と大きな音に感じられる。
だが、彼女の手が小刻みに震えていることは誰の目にもはっきり映った。

「なんすか?」

横島の問いかけに答えず魔鈴は再び唯に指示を出した。

「唯さん…今度はそのイスと話してください…」

「えう?それはイスじゃないですよ?」

イスと言われて魔鈴に文机を示されて困惑する唯。

「イスと思って話せませんか?」

「無理ですぅ…机さんにイスさんって呼びかけても返事は……へう?!」

ピートも魔鈴の言わんとしていることに気がついた。

「魔鈴さん…もしかしてその鏡は鏡ではないということですか?」

「多分…。私はアンティークとかも好きなんですが…この鏡はデザインがちぐはぐ過ぎるんです。まるで枠だけとってつけたように…」

今まで静観していた摩耶がおずおずと進み出た。

「あの…私が調べてみてもいいですか?」

「うん…お願い…」と茜に促されて摩耶は鏡を色々と調べだす。
そして枠の上、女神のレリーフの影を覗き込んで息を呑んだ。

「この穴の中にあるのは小型のカメラですね…この鏡ってもしかしたら液晶テレビか何かじゃないかしら…触った感触もなんか慣れた感じがするし…」

摩耶の台詞に茜が叫ぶ。

「そういえば義父の仕事は新型テレビの開発です!!」

「ええ…そのようですね。先ほど黒岩さんから貰った書類にも書いてあります。車の中で見てきましたが、義父さんは会社の許可を得ずに新型液晶画面の開発をしようとして商品化に失敗してますね。その時に会社の研究費を無断で使っているようです…。」

そして魔鈴は書類のページを捲る。

「会社からそのお金を弁済しないとクビと言われたようですが…お母さんの保険金で弁済されているそうです。ですが彼は未だに研究を止めていない…自費で続けているそうですね。」

「それはどんなものなんすか?」

「それがこれでしょう…スイッチが入ってない時は鏡のように、そしてスイッチが入れば望む映像を流せる。」

「ですが電気はどこから?」

「その鏡の後ろにコンセントがあります!それを置く時にコンセントが使えなくなるって母が言ったのに義父が無理矢理!」

加藤の質問に答えたのは茜だった。その顔には悲しみの変わりに怒りの色があふれ出ている。

「でも…どんな映像を映したのかしら?」

愛子の言葉に「そうね」と頷くと魔鈴はもう一度唯に向き直った。コクリと頷く唯はタイガーの手をとったまま鏡に模した液晶面に額をつける。

再び皆の脳裏に浮かぶ当夜の出来事。鏡が見た景色だろう。
楽しげな様子で外出着を選ぶ母、やがて一着のスーツを選ぶと鏡の前に立つ。
その瞬間、たちまち彼女の顔は恐怖に彩られた。

「止めて!」

魔鈴の言葉に我に返る一同。魔鈴はしばらく部屋を見渡すと一個の人形を認めた。
それを唯に手渡す。

「今の場面からすればこの人形が鏡に何が映ったか見ているはずです…」

「わかりましたぁ…」

人形は伝える…茜の母が恐怖した映像を…。


だが、その鏡には…何も映っていなかった…。


いや…母の姿だけが映っていなかった…。


「どういうことなのだ!」

加藤の叫びに魔鈴は本棚から一冊の本を取り出しペラペラと捲るとその一箇所を皆に指し示した。
蛍光ペンの色に浮かぶ「吸血鬼になったものは鏡に映らない」との文字。


息を呑む一同に魔鈴は語る。茜の母の死の真相を…。

「お母さんにかけられていた暗示、いえ、強迫観念と言った方がいいでしょう。それは二つあったんです。一つは自分が吸血鬼になるというもの。そしてもう一つは「吸血鬼になった自分が茜さんを殺す」と言うものです。」

「!!」

「犯人は数ヶ月かけて薬物を使い、そのせいで意識が混濁しているお母さんに語りかけるなどの手法を繰り返して彼女に強迫観念を抱かせたのでしょう。信憑性を持たせるために傷をつけたり、血を塗ったりしたと思われます。そして機会をうかがっていた。」

魔鈴は続ける。苦いものを吐き出す口調のまま。

「そして…当日。犯人はあらかじめ録画しておいた誰もいないこの部屋の様子をこの鏡に映し出した…これを鏡と思い込んでいたお母さんは何も映さない鏡を見て自分が完全に吸血鬼になったと思い込んだのではないでしょうか?」

「ですが画面に電源が入れば鏡との違いがばれませんか?」

ピートの軽く頷くと先を続ける。

「そのためのカメラだと思います。室内の電気がついていればさほど違和感は出ないでしょうね。犯人はそれを確認するために室内をモニターしていたのではないでしょうか?」

「あのリモコン!!」

「そしてお母さんが鏡の前に立つタイミングでスイッチを切り替え、用意しておいた映像を流した…。有線か無線かはこの鏡を詳しく調べてみなければわかりませんが…」

「なんということですか!」

激昂するアリエスを軽く制する。

「ですが…それだけでは完全ではありませんでした。もし彼女が自分が吸血鬼になると言うことを受け入れてしまえばこの犯罪は成り立ちません。ですから…彼女が死を選ぶためにもう一つの強迫観念が必要だったのです。それが…」

「吸血鬼になってしまえば…私を殺す…ってことですか…じゃあ…母は私を守るために…」

「ええ…娘のために犠牲になる…そういう動機付けが必要だったのです。」

「お…母さん…」

泣き崩れる茜を言葉も無く見守る一同。

加藤の手の中でギシリと軋む竹刀の柄が彼らの心を代弁する。


「いや〜見事な推理ですな…。」

響き渡る軽薄な声。だがその声は紛れもない悪意を秘めたものである。

「だが…証拠はあるのかね?」

「義父さん!」

目に血の色を浮かべて義父…母殺しの犯人を睨みつける茜。
娘を見向きもせず岡崎は魔鈴を睨みつける。

「この鏡が証拠だろうが!!」

叫ぶ横島を憎々しげに睨みつけた岡崎は肩をすくめてあざ笑った。

「私は新型画面を妻にモニターしてもらっただけだ。それが罪かね?」

「でもでもぉ!この子達が見てましたぁ!!」

ベッドを指差す唯を石でも見るかのように一瞥する。

「馬鹿かね…物と喋れるだと?だれがそんなもの信じるんだ?」

「彼女は警察よ!」

愛子の抗議に眉を一つ動かしただけの岡崎は勝ち誇ったように吐き捨てた。

「警察だと?こんなガキがか?…笑わせるな…仮にそうだったらこれは違法捜査だろうが!!」

「おのれ…この人面獣心の外道が!」

「ガキどもがよってたかってほざいてもな。この国では私のような善良な市民は法が守ってくれる。私が犯罪者だと言うなら証拠とやらを出してみろ!物と話せるとか幽霊と会話したとかって与太話じゃなくて物的な証拠だ!!」

「てめえ…」

勝ち誇る岡崎に怒りを燃やす横島。
唯は手を伸ばしてその手をしっかりと握る。
堪えきれない怒りが横島の手を通して彼女の小さな手にギリギリと伝わってくる。

痛かったが…痛くなかった。

横島の…茜の…皆の心のほうが痛むことを知っているから。


言葉を失った一同をあざ哂う岡崎。

「ははははははは。ガキどもが探偵ごっこか。いいかガキども!証拠が無い以上、俺は人の法によって守られているんだ!今は違法なのはお前らとそのイカレた格好をした女だ!!」


「人の法…ですか…お生憎様でしたわね…」

瞳に怒りを湛えゆっくりと進み出るアリエス。

「わたくしは人ではありませんわ…人の法なぞ私には何の関係ありませんの…妖怪の本能の赴くまま、あなたのような鬼畜を輪切りにするのに何のためらいもありませんのよ…」

アリエスの体から立ち上るのは妖気…それは今まで彼女から感じたこともない魔の気配…。

「ひっ…」

その魔気に怯える岡崎にゆっくりと近づくアリエス。

「待て!アリエスちゃん!!」

「忠夫様…それに皆様…しばし目を閉じていてくださいませんか…。流石に見ていて気持ちのいいものではないですわよ…」

「だから待てって!!俺はアリエスちゃんが人を殺すところなんか見たくないぞ!!」

「え?!」

横島の言葉にアリエスの体から魔の気配が消える。

その時、先ほどの勢いも無く震える岡崎の背後から一人の女性が現れた。

「だ、誰だ!お前は!!」

驚く岡崎に一礼するとポケットから警察手帳を出すボブカットの美女。

「城南署の有川と申します。」

「け、警察が何の用だ!誰に断って入ってきた!!」

青ざめる岡崎に笑顔を向けると有川と名乗る女性は深々と頭を下げた。

「何度、呼び鈴を鳴らしても誰も出ていらっしゃらないので、何か事件かと思って勝手に入ってまいりました。ご無礼はお詫びします。」

「警察だったらこのガキ供をとっとと不法侵入で逮捕しろ!」

「あら?それは出来ませんわ。なぜなら彼女達はお嬢様の招きでここにおられるのですから…」

「なら不退去だ!」

「そうですね。さあ皆さん帰りますよ。」

「でも!」

「いいえ…横島さんここは下がりましょう。」

「魔鈴さんまで…」

「それが宜しいと思います。」

魔鈴の言葉に同意して有川は岡崎に告げる。

「そうそう。お嬢さんですが悪質なストーカーに付けねらわれているとの通報がありましたので警察で保護しますが…よろしいですか?」

最後の言葉は圧力を伴って岡崎に迫った。
思わず頷く岡崎に頭を下げると有川は茜の肩を抱き、少年達を促して部屋を出る。

その無言の威圧感におとなしく従う彼らだった。


いつの間にか夜のとばりが下りている道を無言で歩く一同。
誰も声を発するものは無いが、皆の心にあるのは同じ思いであろう。

横島が重い口を開く。

「結局、何もできんかったんすね…」

「申し訳ありません…私が迂闊でした。おそらくあの部屋は盗聴されていたのかも知れません…。」

あの狡猾さならそのぐらいのことはやるだろう。
あるいは室内に誰かが入ったら自分に連絡が行くようにでもしてあったか…いずれにしろ証拠は潰される可能性が出てきた。いやすでに鏡以外の証拠は消されているのだろう。

「すみません…」

魔鈴の謝罪に少年達の口から漏れる吐息が宙に溶けていく。
だが…

「いいえ…違います…」

茜が呟いた。

「母が…母の気持ちが…わかったんです…。それだけでも…」

言葉が途切れる。


「私のために…」

少女の嗚咽は闇の中に消えていく…。

「くそっ!!何とかならないんかっ!!」

手近の電柱を殴りつける横島。

「横島さん…」

「唯ちゃんの見せてくれた映像!!あれがあるじゃありませんか!!」

「ですが…それが事実であると客観的に証明する方法がありません…。今の裁判制度では霊能力による目撃情報が証拠とされることはかなり難しいです。」

「なにゆえ!!」

叫ぶ加藤に答えるのは魔鈴ではなかった。

「認知されてないからですな。」

振り返る先にいるのはよれよれのコートを着た坂上。
ゆっくりと歩み寄ってくると敬礼する有川に「ご苦労様」と一声かけ、横島たちの前にたった。

「署長さん…どうしてここにぃ…」

「唯ちゃんたちが心配でね。」

細い目をさらに細めて笑う。

「単に行政の問題でもあります。霊能力とは100%発揮できるとは限らん。個人差があるし、同じ個人でも体調で差が出る。言ってしまえば多分に主観的なものですからな。証拠として認知するということに二の足を踏んでいるのですよ。」

そう言えばシロとタマモがGメンで認められたのもあの一件以来だ。
もし、あの通り魔事件が失敗に終わっていたなら、西条とは言え簡単にシロたちに協力を頼むこともしづらくなったのであろう。それは横島にもわかる…わかるが…。

「でも…犯人が分かっているのに手をこまねくのが警察の仕事っすか!!」

「横島君…我々は法の番人でもあります。法によらず人を罰するのは我々にとってテロと同義です。それが出来る存在があるならば神…いや魔の存在でしょうな。」

「でしたら!やはりわたくしが…」

進み出ようとしたアリエスは坂上の眼光に怯んで口ごもる。

「君は横島君と命のやり取りをしたいのかね…」

「そ、そんなこと…」

「ですが人の法は君を邪悪な魔物として討とうとするでしょう。その相手はGS…当然、横島君もその中に入りますな。彼にあなたが討てると思いますか?それとも彼に人を裏切れと?」

「そんなことは思ってませんわ!!」

「ならばここは人の法に従ってください。」

すごすごと引き下がるアリエスの肩は震えている。
その震えを押さえるかのように横島の手が彼女の肩に置かれた。

その様子を微笑ましく見ていた坂上は懐の財布から数枚の一万円札を取り出すと魔鈴に手渡す。

「え?」

驚く魔鈴に目に温厚な光を湛えて坂上は笑う。

「こんな時に大人はヤケ酒を飲むもんですがね…未成年にはそういうわけにもいかんでしょ…聞けばあなたのところは美味い料理を食わせてくれるそうですな。それで彼らに何か食わしてやってください。それとも…今日はご無理ですかな?」

「いえ…そんなことはありません。私も軽率でしたし…彼らに謝らなくては…」


「「「「そんなことないです」」」」

魔鈴を気遣う少年達を微笑みを伴って見つめる坂上と有川。

夜の闇はますます濃くなっていった。


横島たちと別れ一人になった坂上は一軒の古びたバーのドアを開ける。

客のいない店内には似つかわしくない美人のママが所在なさげに自動ピアノの演奏を聞いていた。
手を上げて挨拶するとカウンターに座る坂上。
妖艶な美女という形容がぴったりするママは注文も聞かずに彼にブランデーを注いだ。

「お久しぶりですね…」

「ああ、2年ぶりぐらいかな?」

「今日はどんなご用件かしら?」

「何…たいしたことじゃない…伝言を頼みたいんですよ…」

「伝言?…誰にかしら…」


カラン…グラスの中で氷が転がる。


「…わかったわ。すぐにでも…」

「報酬は…」

「いただいてますわ…20年前のあの時にね…」

「そんなになりますかな…」

「ええ…」

坂上に寄り添い、美女はにっこりと笑った。
その唇は血のように赤かった。


数日後、東京駅のホームに集まる横島たち。
その顔は一様に暗い。
一人、明るいのは岡崎茜である。

摩耶が茜にジュースやお菓子の入った袋を渡しながら手を握る。
その手に横島が、ピートが、タイガーが、加藤が、アリエスが、愛子が、そして唯が手を重ねた。

「わざわざ見送りしてもらって…」

「いいのよ…」

「えう…そうですぅ…」

「九州でしたっけ?お爺さんのところは…」

ピートの言葉に笑顔で頷く茜。

「何もそんなところにいかなくても…」

横島に首を軽く振って答える。

「いいんです…あの男とは一緒に暮らせませんし…有川さんが色々と手を打ってくれて、今までのホテル代まで署長さんが出してくれて…それでお爺ちゃんと暮らせるようにしてくださったんです…私は感謝してます…それに…皆さんのおかげで母の想いも確かに伝わりましたから…」

「また会えるわよね…」

おずおずと聞く愛子。

「ええ。会えますよ。でも…皆さんも会いに来てくださいよ。」

「うむ!薩摩の地は一度踏んでみたいと思っていたのだ!是非行かせて貰うぞ!!」

「カッパ城で一飛びですわ!」

「うふふ…待ってますね。」

ピリリリリリリ

発車ベルが鳴る。
ゆっくりとドアが閉じ列車は動き出す。

その窓の中で茜の口が「また戻ってきてもいいですか?」と動くのが見送る一同にははっきりと見えた。

だから…


「「「「帰ってこいよ〜。ずっと待っているぞ〜!!」」」」

去り行く列車に向かい、少年達の思いがはじけて消えた。


除霊部員と死を呼ぶ魔境    完


後書き…かな?

ども。犬雀です。
トリックの正体は新型テレビでした。テレビで何を映したか(実際には母だけを映してませんが)が肝でございました。無論、ビデオは加工して左右が変わってます。
これは比較的簡単に出来るのであえて書きませんでした。

というわけで正解は

二重の強迫観念・鏡型モニター・何も映さない画面

ということになりますです。


すんません…電気を切ると鏡っぽっくなる新型液晶なんて反則ですよね。
平謝りでございます。


さて、次話からいよいよ六女との対抗戦になりますが。またまた皆様のお知恵を拝借したく…。
えー。六女のメンバーなんですが一文字さん、弓さんは確定なんですけどあと一人が決まりません。ちょうど該当の巻が手元に無くて名前も不明でございます。
出来れば誰がいいかお知恵をお貸しくださいませ。
もちろんおキヌちゃんでもかまいせん。
カードとしては弓vs唯、魔理vsタイガー、もう一人はそれぞれ未定なんです。
どないしませう…


ではでは…次話 「除霊部員と秘密の部屋」でお会いしましょう。

>ザビンガ様
いえいえ。参考にさせていただきます。

>瀬能様
「朝」はあしたですか…うむ。勉強になりました。メモメモ

>ATS様
ほとんど正解でございます。
何を映したか…犬が一番悩んだところです。

>Dan様
色々と香ばしいでしょうなぁ。今度は酢でしめてみましょうか?w
足田くんもいいですな。メモメモと

>黒川様
犬は古典的なドラキュラをイメージしましたです。
さて茜嬢は救われたんでしょうか?

>紫苑様
まあ、あの二人は象が踏んでも死なないでしょうからねぇ。
ご安心を。

>wata様
おお。そういや91もありましたな。
んーむ。金家堂?恋人は背尻?
あかん…スランプです。

>法師陰陽師様
マジで出たいですかぁ?どんな目に合わされるかわかったもんじゃないですよ。次は壊れですし。
トリックの方はほとんど正解であります。
確かに犬の解答も無理がありますです。

>義王様
下手をすればお尻に嬲られまくりますが…出たいですかぁ?w
犬、今、邪笑を浮かべてます。

>片やマン様
暗示というか強迫観念ですね。
その辺を詳しく書いたんですが…会話ばかりになっちゃったんで消しました。
結果的に自分のためではなく娘のために死を選ぶという形が唐突すぎたかと反省しきりであります。

>シシン様
少女達には共通の盟約と同時に競争があります。
詳細はいずれ…。

>ほんだら参世様
おお。読んでいただけていたのですね。犬、感激であります。
そちらの唯様とは月と貧乳(へうぅぅぅぅ)ぐらいの差がありますです。
犬も横島唯ちゃんのような可愛い少女を書いて見たい!!(殺気を感じて逃走)

>通りすがり様
ほとんど正解です。
アリエスですねぇ〜困ったもんだ。
次はいい扱いになると思いますよ。相対的に…
もっと酷い扱いになる人が…ゲフンゲフン

>梶木まぐ郎
いえいえ。「香ばしい」の一言から「キッコ・ウーマン」が生まれたのです。感謝感激であります。
皆様のレスが犬のネタ元であります。


さて、それではおまけの話を続けるといたしましょう…


応接間で酒を飲みながら岡崎はほくそえむ。
警察はあれから何も言っては来ない。
ただ自分が知らぬ間に娘が祖父のところに引き取られることになったのは計算外だった。
いつの間にか編入の手続きまでとられていて、親権者として口を出す暇もなかった。
あの有川と名乗る女の手際だろうと思う。
争う気になれば出来たが、そんな面倒くさいことをするつもりは無かった。

元々、あの娘は邪魔だったのだ。

母親と同じように殺すつもりは無かったが、あの目とあの顔で見られると死んだ女に見られるかのようでイライラした。

だから脅してこの家から出るように仕向けた。

さすがに同じ手で娘まで殺すつもりは無かった。

深入りは身を滅ぼす。

どうせこのままでもこの家の資産の半分は合法的に自分のものなのだ。

法は善良な市民に優しい…。

善良ではない無いと証明できないうちは…。


「ククククク…ハーハハハハ…」

哂う岡崎の目が真上の天井にとまる。

そこにはどす黒い染みがゆっくりと広がっていた。

ポタリ

その染みから一滴、雫がしたたる…。
手に落ちたそれを見て岡崎は驚いた。

「血?!」

あの霊能者と名乗るガキどもが嫌がらせにでも来たのか…岡崎はいつでも通報できるように携帯を片手に二階に怒鳴り込もうと立ち上がった。

今度は不法侵入である。
法を犯したのはあのクソガキ供だ。

犯罪者には罰を与えねば…あのガキの女どもには興味が無いが、一緒に居たイカレタ格好をした女ならば…自分を楽しませてくれるだろう。

邪悪な欲望を身に纏った善良を自称する男は静かに応接室のドアを開ける。

だが彼に気配も感じさせずドアの前に立っていたのは、あのクソガキたちでも、魔女の格好をした美女でもなかった。

そこにいたのは黒いマントを羽織り、青白い顔に紅でもさしたかのように真紅の唇を持ち、目を閉じて立つ長身の男。

「………?!…!!!!!」

驚愕する岡崎の口からは悲鳴が出ることは無かった。
いや正確には悲鳴を上げるべき重要な器官が失われていた。

ゴポリ…

悲鳴の代わりに肺から溢れた空気は口腔に溢れる血に押し戻されて逆流する。

男の手にはいつの間にかピンク色の肉片が握られていた。
ゆっくりとその目を開ける。
そこにあるのは血の色をした赤だけ。


やがて男は口を開く。その口に光るのは獣の牙を思わせる鋭い歯。

「貴様か…我が一族の名にこの汚らしい舌で汚物をなすりつけたのは…」

手にした肉片を汚らわしげにほうり捨てる。
捨てられたそれは灰になって消えた。

体の一部を失った痛みが全身を駆け巡る。
だが、男の目を見たとたんに岡崎は動くことも悲鳴を上げることも出来なくなっていた。

「貴様の薄汚い欲のため…我が名を利用するとはな…その罪、死をもってしても贖えると思うな…」

ズブリ…

胸に手が食い込んでいく痛みが岡崎の体を灼く。
だかどれほどの痛みを与えられても、彼はのた打ち回ることも悲鳴を上げ続けることも出来なかった。

引き出された男の手に握られるのはビクビクと痙攣する肉の塊。

グチャリ…

自分の心臓が握りつぶされ灰になって消えていくのを見る岡崎。
ぽっかり明いた胸の穴に忍び込む夜の空気が彼の痛覚を責めさいなむ。

「お前には何も与えられぬ…死ぬことも狂うことも…何もだ…。お前に許されるのはその痛みを抱いたまま、永劫の時を私に捧げることのみ…。」

バサリ

巨大な鳥が羽ばたいたかのような音ともに男も岡崎も消えた。

役目を果たせなかった携帯電話だけが、そこに主が立っていたことを教えていた。


岡崎邸の外、街灯の下に佇む古びたコートの男。

胸から取り出した煙草を口に咥え、火をつけようと体をまさぐってライターを捜す。

その口元にふいに突き出される白い手。

一瞬、驚いた顔をした男だが黙礼すると女が差し出す炎に煙草を近づける。

「あなたはなぜここにいるのですかな?」

「私ですか?私は占いの結果を見に来ただけです。」

「そういうあなたは…」と目だけで問う。

「わたしはね…若者に私のような間違いをさせたくなくてね…。」

「間違うのは一人だけで充分です」と自嘲気味に笑う男の腕を取る女。

「こういう時は一杯ご馳走してくださるんですよね。」

「美味いおでん屋があるんですが、かまいませんかな?」

手をとったまま笑顔で歩き出す奇妙なカップル。

その女のかぶる大きな帽子から一枚のカードが落ちる。


誰もいなくなったその場で古いカードは風に吹かれ、骸骨の絵と13という数字を一瞬だけ明かりに晒すとどこかへ飛んでいった。


                完

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