『私たちが至らないばかりに、貴方には本当に申し訳ないことをしてしまいました』
神様っていうのは、もっと偉いもんだと思ってたんだけどな
そりゃ、辛かったさ
それでも頑張ろうって やっと思えるようになったところだったのにな
今になって、あんなこと言い出さなくたっていいじゃないか
はは 八つ当たりだな
頭の中がこんなんじゃ、帰るに帰れない
適当に足の向くまま歩いてたら……どこだ、ここは？
住宅地の入り組んだ道 佐々木野村田中安浦高橋伊藤浅井藤本桜木荒井コーポ藤間……と
ぽこんと、ベンチと砂場とブランコだけの、小さな公園
こんなとこにも、一応名前とかついてたりするんだよな 大抵は第一なになに公園とか随分いい加減だなって思うような あ 自動販売機があるじゃねえか そういや、喉乾いたな
がしょん
間抜けな音 俺コーヒー飲みたかったのか
いや 適当に押しただけだし 今頭上手く回ってないんだよな
ところで、今何時だ さっき鐘がなってたから、5時は回ってるんだろうけど
ぐび
あー 温まる……どうしようかな ほんと
『貴方さえよければ、もう一度やり直してみませんか』
はは さすが神様だ 何でもありだよな
だったら、世の中の不幸せな人々をみんな救ってあげりゃいいだろ何で俺なんだよ
俺はもう二度とあんなしんどいことはごめんだよ
やり直したいなら、あんたが自分でやりゃあいいだろうが って
「……言えないよなぁ……俺はそんなに偉くねえもん」
考えさせてくれって逃げ出して、気がついたらふらふら道歩いてて
ぐび ごくごく ぷは
だけどさ やり直すって 実際は無理だと思うんだよな
だって、俺だぜ
過去に戻ったからって、いきなり生活態度変えて運動勉強頑張りますなんてできるわけないし
……ああ そうか
だから、俺なのかもな
俺程度なら、戻ったところで大して変わらないってことなのかも
神様だし そのくらいのことはお見通しってことか
何だか、気が楽になったな
空き缶を捨てて、立ち上がって尻をはたく
さてと――と、思ったら、いきなり辺りが一変した
『決まったようですね』
「あ、ああ」
ちょっと、びびった
「あの その前に、一つ聞いておきたいんだけど……俺がもし過去に戻ったとしたら、この後、どうなるんだ？」
『どう とは？』
「だからっ 美神さんとかおキヌちゃんとか、どう なっちゃうのかなって……」
俺がいなくなった後……悲しんだり、ちょっとはしてくれるのかな
『横島忠夫がいなくなる ただそれだけです』
「それって……俺が死んだことになるってことか？」
『いえ 最初からいなかったことになります』
……こいつが神様なんて、絶対に嘘だ
だけど、その一言のせいで……俺の中の美神さんたちも、ああ、そんな人がいたなぁっていうくらい、遠くなっちまった……
何ていうか……もういいやって
『どうしますか？』
これで、訊かれたのは、3回目だな
多分だけど、これが最後のチャンスだぞって
膝はがくがく胸はどきどき喉はからから眩暈くらくら
「ああ……たのむ」
皆のため なんてんじゃなくて、ただほんのちょっと、俺に優しい世界に行きたくなったんだ……
小さな小さな箱庭
これが、横島さんの世界
私の声は貴方には届かないけれど
そちらは、どうですか？ 今度こそ、少しでも、あなたに優しい世界ですか？
ヒャクメから聞きました
また、戻ったそうですね
これで3532177643回目ですね ちゃんと数えてるんですよ
……だから、貴方をそこに封じなきゃいけなかったんです
ごめんなさい 本当に、ごめんなさい
だけど、そこにいるのは、貴方一人だから
何度世界を滅ぼしても、罪を犯すことはないんです
私 信じてます
その力も、無限じゃないって……いつかは尽きてくれるって
そうしたら、皆のところに帰りましょうね
それじゃあ、横島さん
また 来ますね
ぱたん
ふと 便利すぎる力って、人の手には余るんじゃないかなって思って
それで、こんな話が頭に浮かびました
これは、慈悲なんでしょうか それとも残酷なのか