「実は……オレ、記憶が飛ぶんです……
記憶が飛んでる間のオレ、別人みたいで……いつも女の人にセクハラするらしくて。
一時間位でまた意識がオレに戻るんですが……」
「ふむ……では、話をまとめると……君の中に違う人物が居る……と?」
横島の言葉に神父は「うぅむ」と唸る。
「悪霊憑き……かもしれないねぇ」
「はぅっ!?やっぱり……とりつかれてるんですかぁ!?」
瞳を涙で滲ませ、横島は声を上げた。
「だが……君からは悪霊の気を感じない……」
そう言い残し、神父はテーブルへと向かった。
「じゃあ……じゃあ……精神の方……?」
「まだそうと決まった訳じゃないわよ!中の奴が寝てるだけかもしれないし!」
落ち込む横島の肩を後ろから摩り、美神は笑った。
「ね?」
自分を励まそうとしている美神の笑みに横島は勇気付けられた。
「……そうですね、決め付けるのは早いですし……」
潤んだ瞳のまま、横島は微笑を浮かべ。
「有難う御座います」
儚げな表情に美神の心臓は暴れ出す、まるで表に出ようとしているように……
『なっ……何!?何よ……これ』
「?どうしたんですか?」
熱くなっていく頬に美神は戸惑い、横島から目を離した。
突然顔を背けた美神に横島は首を傾げる。
「あの……?」
背を向ける美神へ軽く手を伸ばす横島だったが……その身に変化が起きてしまった。
小さく身体を震わせ、瞳を閉じる。
風も無いのに髪の毛がゆらり……と揺れる。
「うむ……とりあえず、聖水でも……っ!?」
横島を美神に任せ、神父は聖水を取りに行っていた。
だが、戻ってきた神父の目に飛び込んできたのは……
髪の毛がまるで炎の様に変色した横島の姿だった。
「美人のねぇちゃんやー!!」
「きゃあ!!?」
先程の儚げな表情は一体何処へ行ったのだろう?
勢い良く横島は美神の腰へとダイブしていた。
もしも普段の美神ならば蹴りの一つでもかますのだが……今の美神にその余裕は無かった。
「ちょっ!!何よ!!」
頭を掴み、力任せに押しやろうとする美神。
首の力だけで頭部を美神へ押し付ける横島。
「この……いい加減にしろぉ!!!」
だが、美神の膝が腹に炸裂し……横島は撃沈された。
まだ股間で無い辺り、良かったかもしれない。
「こ、これは一体?!」
「それはこっちが聞きたいわよ!!」
驚き、無意識に手で十字を切る神父に半分切れ気味に美神は答える。
「もしかしたら……これが、言っていた……?」
「挫けず、追撃!!」
「なっ?!」
町内のナンパ男達を瞬殺して来た美神の攻撃。
それを受け、立ち上がれる者は居なかった……だが。
今、ここに立ち上がれる男が……居た。
美神は身の危険を感じ、届く所にあった物を手に掴んだ。
「こっちに……来るなぁ!!!!」
その叫びと共に……手に伝わってくる衝撃。
「……えっ?」
手元を見ると、パイプ椅子が頭部に刺さっている神父の姿が。
美神は自分の手元と神父を見比べ。
「や……やっちゃった」
「おぉ!自ら二人っきりに!!?最近の美人は積極的!!」
まるで獣の様に横島は飛びかかって行く、だが持っていたパイプ椅子を思いっきり顔面めがけてぶん投げた。
「あがっ!!」
直撃。
床に落下し……まるで台所の蟲王の如く、痙攣する横島。
「はぁ……はぁ……こ、これで……しばらくは」
慌てて学生鞄を取りに行こうとするが、その背後で動く者あり。
反射的に振り向くと……
「!?」
「この程度で!!俺の煩悩は止まらない!!」
「止まりなさいよ!!少しは!!!」
頭に巨大なたんこぶがあるが、横島は立ち上がった。
その姿に美神は顔面を痙攣させた。
脳裏を過ぎる……某鮫映画の音楽。
リィン……
大きく一度だけ、鈴の音が鳴り響いた。
『ぐはははははは!!!!見つけたぞ!!か〜らすぅ!!』
鈴の音が聞こえたすぐ後、教会内で大きな声が聞こえた。
「「っ!!?」」
突然の声に驚き、動きを止める二人。
最も、横島は辺りを見回しながら美神に近寄っていたが。
「何!?」
声の主はすぐに姿を現した。
『ぐへへへ!!!』
それは煙の様な姿をした男だった。
美神はその煙の中に浮かび上がる顔に見覚えがあった。
「こ、こいつは……この前先生が祓った奴!?」
「え?な……何がどうして……??って言うかここ何処だ?」
横島はようやく落ち着いたらしく、自分が教会に居る事に気が付いていた。
驚き、困惑する二人に煙は丁寧に教えてくれる。
『ぐへへ……確かに俺は唐巣に祓われた……だが復讐の為に地獄から戻ってきたのさ!』
「ど、どうしよう……除霊なんてした事無いし……」
視線を気を失っている神父へ向ける、横島は立っているが……椅子はかなり硬い。
それを頭部に受けたのだ。
普通の人間ならば、しばらく意識は戻らないだろう。
下手すれば……一生戻らないが。
「も、もしも死んだらあんたのせいだからねぇ!?」
「えぇ?俺の!!?」
全く事情を飲み込めていない横島だが、美神の言葉に悲鳴を上げた。
「それはまずい!!経験無しじゃ死ねない!!」
本人は大真面目に叫び、美神を転ばす。
「あ……あんたねぇ……」
『唐巣の仲間も皆殺しだ!!死ね!!』
転んだ状態の美神目掛け、煙は向かう。
見た目はただの煙だが……その攻撃は刃も同じ。
まともに受ければ無事ではすまない。
「きゃっ……」
「危ない!!!」
迫り来る煙の攻撃を予想し、反射的に目を閉じる美神。
だが……衝撃はいつまで経ってもやって来ない。
「えっ……?」
目を開けると、そこには横島の顔があった。
「平気ですか!?」
横島は美神を庇おうとし、その身に覆い被さっていた。
「あんた……」
『ぐるる……』
美神が横島に驚いている時、煙はその手を一匹の獣に噛まれていた。
『ぬっ?!貴様……何処から!?』
霊である煙の手に噛みついていたのは……一匹の狐だった。
『この……』
噛まれていない方の腕を振り上げ、力いっぱい叩きつけた。
「『離れろ!!』」
同時に同じ単語が飛び出した。
一つは悪霊。
もう一つは……美神の声だった。
狐は腕が当たる前に手から口を離し、身を回転させつつ祭壇の上に降り立った。
「わー!!」
「助けようとしたのは分かったし、感謝するわ。
けど……その後のスケベ顔は駄目ね」
まともに顔面を殴られ、横島は椅子に頭から突っ込んでいた。
「うぅ……殺生な……けど、ドサクサに紛れて太もも触れたからラッキー!!」
本人は心の声にしているつもりだろうが、ちゃんと声に出ていた。
「生きてたら後で殺す……こうなったらやってやる!」
横島の叫びに頬を引きつらせながら、美神は神父の横に落ちている聖書を手にした。
美神も横島も目の前の声に夢中で気が付いて居なかった。
先程、二人を守った狐が……既に何処にも居ない事を。
「主、イエス・キリストの御名に命ずる!!
悪魔よ、消え去れ!!」
言葉と共に掌に閃光が走る。
神父に比べて閃光は小さく……そして。
『ぐはは!!!きかぬわ!!修行が足りぬわ!!小娘が』
弱かった。
「って!私クリスチャンじゃないもの、聖書使っても意味無かったし!」
その事実に気が付き、美神は聖書をかなぐり捨てた。
「い……いつか罰当たるんじゃ……?」
椅子に埋もれつつ、横島は呟く。
さり気無く、閃光を放った時に捲れあがったスカートを見ていたりする……
『死ね!!』
煙の中に浮かぶ眼球が怪しく光る、それに合わせて教会の祭壇が爆発する。
「っ!!」
その時、美神の手に何かが飛んできて当たった。
「これは……神通棍?」
丁度自分の手目掛けて飛んできたのは除霊に使う道具だった。
使った事は無かったが……無いよりかはマシだろう。
そう思い、柄から本体を引き出して構えた。
ヴン……
「!?なっ……何?力が……みなぎってくる!?」
神通棍からは眩い光が溢れていた。
リィン……
『っ!!』
光と共に聞こえる鈴の音、その音に煙は全身を大きく痙攣させる。
『が……がぁぁあああああ!!!』
頭を抑え、必死に音に耐えて攻撃を仕掛ける。
先程同様、瞳に力を込めて。
「!」
放たれた力を美神は神通棍で防御する。
まだ動きは拙いが、その『力』はかなりの物だった。
「これなら……行ける!!」
神通棍を持ち直し、美神は大地を蹴った。
『おのれ……おのれ……おのれぇええええ!!!!!!!!』
迫り来る美神を煙は全く見ていなかった。
その眼は……しっかりと横島の方を向いていた。
横島は、鞘から小太刀を抜き……小さく笑った。
「今度こそ、逝け」
そう呟いた時の横島の前髪。
そこは赤でも黒でも無い……銀色を宿していた。
「悪霊退散!!」
そう叫び、神通棍を振り下ろす美神だが……煙は器用に避けてしまった。
「なっ!!」
右半分は消失していた、それでも煙を消し去るには力が足りなかった。
『こうなったら……せめてお前だけでも!!!!!!』
おぞましき声を上げ、横島へと体当たりを仕掛ける。
「あっ……危な!!」
「査」
小太刀を構える横島は身体を低くし、煙の攻撃を避けた。
『ぐおおおお!!!』
煙の周辺に白い線が走る、線が円状に繋がるのを見届け……横島は小太刀を振り上げた。
逃げようと身体を動かそうとするが、それよりも前に鈴の音が鳴り響いた。
リィン……
音を聞いた瞬間、身体は硬直した。
小太刀は身を引き裂き……煙はそのまま消えて行った。
「……お、終わったの?」
「その様だな」
足から力が抜けて行く美神、横島は小太刀を鞘の中に締まった。
また聞こえる鈴の音。
「あんた……本当に何者なのよ、幼かったり変態だったり……」
神通棍を構え、美神は問う。
床に座り込んでいる状態なので威圧感は無かったが。
「……我か?我は……」
しばし考え、横島は笑った。
その笑みは長い時を生きた老人に似ていた。
「我は……横島忠夫、それで良いでは無いか……」
そう言い残し、ゆっくりと倒れて行った。
「ちょっ……ちょっと!?」
教会に残されたのは唯一気を失って居ない美神だけだったが……
「あっ……もう駄目、限界……かも」
すぐに美神も力尽き、倒れてしまった。
「……かさん……み……」
「ん……んん?」
誰かに呼ばれ、美神は唸った。
「美神さん!起きて下さい!!美神さん!!」
目を開けると、そこには見知った顔の少年が立っていた。
「あっ……横島君?」
「疲れてるんですか?これから仕事行くんでしょう?」
そう言って自分の肩を摩る人物、横島は大きな鞄を指差した。
「私……寝てたの?」
「はい、途中魘されてましたけどね」
目を擦る美神の問いに横島は子犬の様な笑顔で答えた。
「ん〜……久しぶりに横島君と出会った頃の夢見たわー」
「ほえ?……もう止めて下さいよぉ!」
照れて頬を抑える横島に美神は笑いながら立ち上がる。
自分は覚えて居ないとはいえ……美神に襲い掛かった事を聞かされたのを思い出した様子。
「今日の仕事、何処だっけ?」
「えっと……確か工事現場に立て篭もった悪霊です」
あの後、教会内の除霊を知り……横島は美神同様に唐巣神父の弟子になった。
と言うより……させられた。
横島の中に居る銀髪の存在。
これから免許をとって事務所を構えた時、役に立つ!!
そう思い、二人を言い包めたのだ。
片方は『困っている子羊を見捨てるの!?』
片方は『私が中の奴を消し去る方法を見つけて上げる!』
その言葉に横島も神父も感激した。
「美神君……君も、遂に慈悲に目覚め……くぅ」
「有難う御座います!美神さん!!」
『それに、あのスケベ野郎のタフさは囮に使えるかも……
一人分の給料で一気に三人の助手ゲット♪』
内心ではそんな事を考えていたりした……
知らぬが仏。
「んじゃ、今日もバリバリ仕事するわよ!!横島君!」
「は、はい!!」
今日も……美神除霊事務所は繁盛していた。
陰界第一話 終
レス、有難う御座います!!
色々な人の作品を見、レスを見て思ったのですが、やっぱり感想を貰うのって嬉しいですねぇ……
嬉しくて第一話の後半を書き上げてしまいました。
サキ様>つかみはOKですか!?やった!
ショタ属性にしたのには一応理由があります。けれど……それを作中で説明するのはまだです。
それまでにキャラをちゃんと固めねば!と思います。
ただ、この話のヒロインがウッカリすると横島になりそうです。
早くヒロインを決めねば!!
柳野雫様>脳内支配をした横島君を書いた柳野雫様からの感想だ!(ハイテンション)
こっちの横島の方が可愛い……?何を仰います、兎さん!(?)
何とクロスかはまだ分かりません、なので今はまだGSと思って読んだ方が良いかもしれません。
もしも分かったら超能力者です!!(一部に熱狂的ファンが居るんですがマイナーとも言える作品なので……)
紫苑様>可愛いと思って貰えて嬉しいです。
実際に美神を横島が落とすかはまだ分かりません。
なんせ……美神ですから。こちらの思惑通りに動いてくれません。(ただの力不足)
話を進めて行ったら西条とくっついていた!という展開も……あるのか?
少しでも皆さんに楽しんでいただけれる様に頑張って書かせて頂きます!!
なので……拙い文ですが、見捨てないで欲しいです(おい)