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「除霊部員と死を呼ぶ魔鏡 第2話(GS+オリキャラ)」

犬雀 (2005-02-11 18:57)
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第2話    「杭」


目の前に突き出される銀色の凶器。
ピートがそれに反応するより早く、横島が少女の腕を掴んだ。それとほとんど同時に加藤が手刀でフォークのみを叩き落とす。

チャリーン

乾いた金属音が喧騒に包まれつつある店内に異質な音を響かせた。

「何を…」

言いかけて横島は凍りつく。
そこにいる少女の顔は激しい怒りと憎しみに塗りつぶされ形相がすっかり変わっていた。

渾身の力で手を突き出した衝撃からか、パーラーの制服の帽子はどこかに落ち、留められていた黒髪はバラバラに解け顔にかかっている。
その髪の下で光る血走った目と、口元から漏れ出るギリギリと歯を噛む音はまさしく彼女の鬼相とあいまって妖怪じみて見えた。

般若…そう呼ぶのがまさにふさわしいだろう。

少女の姿をした鬼の口から呪詛を含む血の色の叫びがあふれ出る。

「あなたも…吸血鬼の…化け物の仲間なのぉぉぉぉぉぉ!!!」


少女とは思えぬ力で横島の手を振り解いた彼女は一歩後退すると再びピートにその怨念をたたきつけた。

「返しなさいよぅぅぅ!!お母さんを返してよおぉぉぉぉ!!人殺しの化け物ぉぉぉ!!!」


「な…僕は…」

「あんたがぁぁぁ!!お母さんを殺したくせにぃぃぃ…私も殺そうとしているくせにぃぃ「御免!」…っ!!」


素早く立ち上がった加藤の当身を受け崩れ落ちようとする少女を支える横島。

「加藤さん…」

「ああ、手荒だとは思うがこの場はいたし方あるまい…」

「そうっすね…」

呟き抱きかかえている少女の顔を見る。
蒼白になった顔に先ほどの鬼相は無かったが、気を失っている彼女が未だに深い怨嗟に囚われているのが発する気配から察せられた。

「ともかくこの場を収めねばなるまい…。マスター!この娘、我らが預かるが構わぬか?」

「え…でも病院とか警察とかの方が…」

戸惑う店主の言葉を遮る加藤。

「うむ。しかしここにいるピート殿と横島殿は現役のゴーストスイパーでもある。先ほどの件、おそらくはこの娘の勘違いであろう。ならば官憲に委ねるのは気の毒だと思うが?」

加藤の説明に驚きの表情で横島とピートを見るマスターだったが、納得しかねるようだった。
仕方なく懐から出した免許を見せるもまだ疑念の色は抜けない。
とりあえず後のことを考えて一つハッタリをかましておくことにする。

「この人は悪霊に憑かれたかも知れないんす…だからさっきの件はこの人の責任じゃないと思うんですけど…霊的な治療とかも出来ますから、とりあえず俺たちに任せてもらえませんか?」

真剣な横島の表情と後ろで大きく頷く加藤の姿にマスターもようやく納得したのか「お任せします…」と頷いた。


加藤に抱きかかえられた少女と供にパーラーを出ようとするピートに向けられる野次馬の視線。

邪なる好奇心、異種に対する嫌悪、敵意、様々な悪意を込めて放たれる負の感情。

横島たちと出会い、ともに戦い、笑いあう生活の中で、久しく出会うことの無かった負の思念は灼熱の痛みを伴ってピートの心を焼く。
横に佇む摩耶もその余波を受け身を固くしている。
それが尚更彼の心を苛んだ。

ポン

肩を軽く叩かれて振り返るといつもの横島の笑顔。

「気にするな」

ピートの心を見通したのか笑いながら二度三度と肩を叩いてくる。

その笑顔が泣けるほどまぶしかった。

「うむ…気に病む必要なぞない。」

そういうなり加藤はこちらを見る野次馬達を鋭い眼光にて見渡す。

加藤は単純で実直な男である。
それゆえに先ほど「除霊部員」となった彼にとって、ピートはこれからともに切磋琢磨してお互いを磨いていく「同志」でしかない。
彼には横島とは別の意味で「人」と「妖」の区別がない。
いや必要としないのだ。

その同志にいわれなき悪意を向ける者は彼にとって唾棄すべき存在である。
彼が激発しないのは単にこれがピートの怒りでなければならぬと知っているからだ。
彼が怒らぬかぎり加藤はただ耐え続ける。
その身に烈火のごとき怒気を漲らせながら…。

だが物言わぬ加藤の苛烈な眼光に込められた「「人」の本質も見抜けぬ愚者どもが!」との意志は軽薄な野次馬どもあっさりと叩きのめした。潮が引くように静まり返る野次馬達。

「すみません…」と加藤に頭を下げるピートの腕にかかる柔らかな重み。

そちらを見れば申し訳なそうな、それでいてどこか照れた笑みを浮かべて彼の腕を抱く摩耶がいた。

「さ、行きましょ!ピートさん!!」

「は…はい…」


促されパーラーを出たピートは思う。

何百年も生きてきてこれほど嬉しいことはない…友と呼べる存在がどれほど素晴らしいものか…自分よりはるかに年少の友たちの心に輝くばかりの喜びを見いだして彼は微笑む。


もう心を焼く痛みは感じなかった…。


「とは言ったものの…どうすべか?」

外に出るなりいきなり頼りないことを言う横島。
愛子が居れば何か考え付くだろうなぁ…と考えているあたり、やはり副部長というのが分相応なのかもしれない。

「確かに…横島殿どこか当てはあるか?」

少女を横抱きしながら加藤も困惑の表情を隠せないでいる。

「そうすねぇ…やっぱピートのところに行くか?」

「ええ、構わないとは思いますけど…」

「でも…茜ちゃんをそのまま連れて歩くというのは問題ありますよね…」

ピートの言葉を補足するかのように摩耶も言う。
確かに気絶した少女を抱きかかえて移動するなど、怪しさ大爆発といったところだろう。

「じゃあ、どっかで車でも…」

「あら?横島さん?」

唐突に横島の横手にあるブティックから出てきた女性が声をかけてきた。

「ほへ」とマヌケな声を出しつつ、そちらを見ればいつもの魔女服ではなく私服の魔鈴が買い物袋を両手に抱えて立っていた。


「あ、魔鈴さん。お久しぶりっす…」

「ええ、本当に…最近はご飯も食べに来てくださいませんし…」

「ああ、今、横島さんにはご飯作ってくれている……よ、横島さん…?」

いらんことを言うピートの背中に押し付けられる固い感触…それは銃?

「ピート君…余計な台詞は…」

「は…はい…」

先ほど感じた友への気持ちが音を立てて萎んでいく気がして悲しいピートである。

「それは本当ですか?横島さん…」

なんとなく機嫌が悪そうな魔鈴にパタパタと手を振って誤魔化すが、ふと見れば摩耶も半目でこっちを見ている。

「あの…横島さん?こちらの方はどなたですか?凄く美人ですけど…」

「え、ああ、この人は魔鈴めぐみさんって言う天才魔女で美人GSでレストランのオーナーシェフの人だよ。」

「へ〜。凄い人ですねぇ…あ、私、横島さんと同じ部の矢吹摩耶と言います。」

天才とか美人とか言われて機嫌が直った魔鈴にペコリと頭を下げる。

「私も今日より横島殿と同じ部に籍を置くことになった加藤と申します。」

少女を抱いたまま深々と一礼する加藤。
はっきり言って並みの膂力ではない。

魔鈴もペコリと返礼するが気になることが一つ。

「あの?横島さん部活動始められるんですか?」

「ええ…色々とありまして…」

「そんな…横島さんが部活動なんて…まさかセクハラ部!!」

「何ですかっそれはっ!!どんな部ですかっ!ていうかあんた俺を何だとぉぉぉ!!」

「え?だってその女の子…もしかして獲物?」

「いいんや…どうせ俺は…セクハラ大王なんや…」

魔鈴の言葉に力尽き、敷石にのの字を書き始める横島を視線の隅で捕らえながらピートが今までの経緯を説明する。

「実はですね…」

かくかくしかじかとの説明にふむふむと聞いていた魔鈴の顔色がだんだん悪くなっていくのを申し訳なさそうに見ているピート。
そんな彼に話を聞き終わった魔鈴が笑顔を向けて提案してきた。

「でしたら私のお店に行きませんか?今日は定休日ですし。でもお茶ぐらい出せますよ。」

「え?宜しいんですか。」

「はい」

かくして一同は魔鈴の店に移動することとあいなった。


魔鈴の店のソファーに茜を横たえホッと一息つく一同に魔鈴がお茶を持ってくる。
ハーブの香りが心身を癒すのを感じる。

皆に茶がいきわたったのを確認して魔鈴が席についた。
当然出るのは先ほどの話題。

「つまりこの娘さんがお母さんをピートさんに殺された、と言っているわけですか?」

「そういうことですな。」

クッキーをもふもふと食いながら加藤が頷く。

「んなわけないんすけどねぇ…」

「そうですね…ここ数十年、日本で吸血鬼による被害は公式にはありませんね。」

「公式?…非公式にはあるんですか?」

摩耶の問いに「ええ」と答え悪戯っぽくピートと横島を見やる魔鈴。

「去年だったかしら…南極観測船の乗員たちや米海軍の人たちが…」

「あああああ…魔鈴さんその話は…」

魔鈴の茶目っ気に焦る犯人。彼の師匠とて対空ミサイルをガメているんだから仕方ない。

「あら。ごめんなさいね……横島さん?」

ふと見れば窓の外をぼんやりと見つめる横島の姿。
ここで彼女も自分の失策に気がついた。
たちまちその目に後悔の色が滲む。

「あ…あの…横島さん…ごめんなさい!!」

頭を下げ詫びる魔鈴にポケッとした顔を向ける横島、その顔には魔鈴が危惧するような悲しみの色はない。

「あ、気にしないで下さい。俺も別に気にしてないっすよ…」

「でも…私ったら…横島さんたちより年上なのに…全然そういうことに気がつかなくて…」

「いや…ほんとに気にしてないっすから。そんな頭下げなくてもいいっすよ。」

「でも…」

「いえ。マジで…あの、もしかして年とか気にしてます?魔鈴さんは美人ですからそんなん関係ないっすから…」

年上美人に涙ながらに謝られて混乱する横島は自分でも意味のわからんフォローを連発する。

はっきり言って不器用ながらも、その中に込められた気持ちは魔鈴の顔に笑顔を取り戻させるには充分だった。


「となると、その少女の勘違いか妄想ということになるのだが…」

「コホン」と咳払いして話を戻す加藤に摩耶は反論する。

「でも…妄想癖とかのあるような人じゃなかったんですけど…。物静かな感じでクラスでも目立たない人でしたし…」

「あ、そういえば摩耶ちゃん、この子知っているんだよね。」

「ええ。岡崎茜ちゃんとは中学校の同級生です…あ!!」

「何か?」

「え、ええ。確か卒業式の夜にお母さんが自殺なさったと…私、あんまり親しくなかったんで忘れてました…」

「ごめんなさい」と頭を下げる摩耶に気にしないでと笑うピート。

「自殺かぁ…だったら何で吸血鬼なんだろ?」

「それに先ほど彼女は「私も殺そうとしている」って言いましたよね。」

「うーん。そういやそうだな…。」

「では、このあたりに人に悪意ある邪悪な魔物が徘徊しているということであろうか?」

「いいえ…それはないと思います。」

加藤の疑問をキッパリと魔鈴が否定する

「それはなぜですか?」

「吸血鬼ほどの大妖怪が活動していればGメンが動くはずです。でも、今のところその形跡はありません。それに…」

「それに?」

「この娘さんからは妖気が感じられません。それほどの大妖と接触しているならば妖気のカスぐらいは残るはずです。」

「でもレッサーバンパイアとかはどうです?」

「そんな存在が数年にわたって潜伏し続けるのは無理だと思いますよ。」

「確かにそうですね…」

「なあピート。そのレッサーって何だ?」

「え、ええ。例えば家のクソ親父みたいなのが真祖と言われるバンパイア。言ってみれば大本です。それに対してあの時のエミさんや横島さんみたいに噛まれて吸血鬼化したものをレッサーと呼びます。」

「え?横島さん吸血鬼だったこともあるんですか?」

「あ、ああ…昔、噛まれて…」

驚く摩耶にばつの悪そうに頭をかく横島。
そんな彼らを見ながらピートは続ける。

「もっとも一概に吸血鬼と言っても色々な種類がありますが…真祖クラスのバンパイアが動けば確かにICPOなどが黙ってないでしょう。それに活動すればそれなりの魔力が感知されます。しかし、魔力の弱いレッサーが数年にわたって一家族だけを狙うというのも…」

「確かに彼らの本能からすれば考えにくいですね。」

ハーブティを一口含んで魔鈴が考え込む。その表情は険しい。


「それに…もし彼女の母親が吸血鬼に殺されたとするなら、その時にGメンが動いていたはずです…」

「うーん…だったらGメンに記録とか無いかなぁ…」

「調べてもらいましょうか?」

「あの…彼女の話を聞いてからの方がよろしいのではないですか?」

魔鈴の台詞に答えるかのごとくソファーに横たわる少女が意識を取り戻し始めていた。

「あ、私が話を聞きますから皆さんは隣の部屋で待っていてください。声は聞こえるように戸を開けて置いてくださいね。」

「あの…私もですか?」

「ああ、あなたはこの子と知り合いでしたよね。でしたら居てもらった方がいいわね。」

「はい」

「んじゃ俺たち隣に行ってます。」


横島たちが部屋へ向かうのを確認して魔鈴は少女の傍のイスに腰掛けた。
うなされているのか滝のような汗を流す少女…その握り締められた手に爪が食い込んでいく。

そして少女はカッ!と目を見開いて跳ね起きた。


「イヤァァァァァァァァァァァ!!!」


夢…


知っている…これは夢…


あの夜から何度も見た夢…


卒業記念…


久々の家族での外食…


「お母さん調子はいいの?」
「ええ。大丈夫よ…」


久々に見るお母さんの笑顔…


自室へ着替えに行ったお母さん…


待つ私…


待ちくたびれたかのようにリモコンでテレビを変えてばかりの父…


何かの倒れる音がして…


急に不安になって二階に駆け上がる私…


何度ノックしても返事が無くて…


かわりに…中から…お母さんのうめきが聞こえて…


後ろから駆けつけた父が…扉を…開けようと…


鍵のかかっていた扉…


父が無理矢理壊して…


中に…


いたのは…


床にうつ伏せに倒れるているお母さん…


お母さんのまわりが真っ赤に染まっていて…


背中から…飛び出た…木の杭が…そこだけ白くて…


「イヤァァァァァァァァァァァ!!!」


後書き

ども。犬雀です。
今回、久々のダーク指定となりました。
もちろん後から唯もその他のメンバーも登場します。
今回は久々に一作目のメンバーにも出てもらおうかなぁ…なんて考えております。
さてさて…どうなりますやら…。

ではでは…


>法師陰陽師様
この学校は色々と謎が深いですねぇ…。
担任も謎ですし…。
今回は元祖マヌケ時空のネタでございました。

>極楽鳥様
お久しぶりでございます。
新兵器の登場はまだ後ですね。
ちょろちょろとヒントは出すつもりではおります。

>梶木まぐ郎様
んー。この展開だと魔鈴さんがコーチになるかも…。
実はまだ決まってません。犬、大丈夫でしょうか?

>義王様
いえいえ気にしてません。感謝しておりますです。
ピート君、濡れ衣っぽいですな。

>wata様
今回は唯嬢、真面目になるやも知れません。
しかし彼女は作者すらマヌケに巻き込むので断言はいたしませぬ。

>通りすがり様
ミッシーですか…確かに「相沢・天野」と言えばそうですよねぇ。
相沢先生の嫁さんは実は何回か登場してました。
特に描写してませんけど。
もうバレバレですな。

>うにぃ様
斜め上。最高に嬉しいお言葉です。
犬は予想とかをはぐらかして見たいという願望を持っておりますので。

>紫苑様
はい。以前にご指摘されたとおりあの相沢くんがモデルです。
しかしみんな彼が重婚してるって思っているんですね〜。
否定はしませんが…。(笑)

>黒川様
さて今回はシリアス唯ちゃんを書きたくなりまして…って言うかピートのフォローです。
六女編は事件が解決してからとなりますです。

>Yu-san様
当然、無敵のあの方もいます。
本編にからむことがあるやも?無理かな?(おいおい)

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