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▽レス始

「道程 その5(GS)」

みどりのたぬき (2005-02-11 15:00)
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午前8時40分、徹夜明けの仕事が終わり、よれよれの身体を引きずるようにして
帰って来た横島は、敷きっ放しの煎餅布団の上にばったりと倒れむ。

「あ〜、今日もしんどかったな〜」

手足を投げ出し、着替えるのも億劫だしこのまま寝てしまおうかと考える。

『いい加減この煎餅布団をどうにかしたらどうだ?
 こんなもので寝ても疲れは取れんだろうに』

「そんな金がどこにある、給料上がったとはいえ時給405円の身でそんな贅沢出来るか」

約束どおり給料を上げてくれた美神、なんと150円も?増やしてくれたのだった。
それでも条例で定められた最低賃金に届いていなかったが。

『だから無駄遣いを控えろとあれほど・・・』

説教を始める心眼を遮るように電話が鳴った。

「こんな朝っぱらから誰だよ・・・」

文句をぶちぶち言いながら電話に出ると、切羽詰ったような声が聞こえてきた。

<横島! 頼む、直ぐに来てくれ!>

「・・・どちらさんですか?」

何処かで聞いた事のある声だが、徹夜明けの頭では思い出せない。

<担任の武田だ! 妖怪に生徒が喰われたんだ! お前GSの所でアルバイトしてたよな!?
 その人を連れて来てくれ! 頼んだぞ!>

一方的に言うと電話は切れてしまった。

「連れて来いったってなぁ・・・」

『美神殿も徹夜明けだからな、まず無理だろう』

無理難題を押し付けられて悩む二人、学校に妖怪が出た、確かに大変だ。
だが徹夜明けで熟睡しているであろう美神を起こすのはもっと大変だ、主に自分が。

「あの学校じゃ大した金出せそうも無いしなぁ」

金額次第なら美神もやる気になってくれるのだろうが、それは無理っぽい。

『美神殿の他にもGSの知り合いが居るだろう、そっちに頼んでみたらどうだ?』

「あ、そーか」


「くそー、何でみんな揃って留守なんだよ」

とぼとぼと学校へ向かう道を歩きながらぼやく。
唐巣も冥子もエミも録音メッセージが応答するだけだった。
美神にも一応かけたが結果は聞くまでも無い。

『居ないものは仕方あるまい、だがどうするつもりだ?』

心眼は何の当ても無く学校へ向かう横島を問い質す。
霊力の使い方講座は今も続いてはいるが、心眼では除霊の仕方は教えられない。
ゆえに横島には複雑な手順を要する除霊は出来ないのだ。

『おぬし・・・まさか自分で除霊しよう等とは思っていないだろうな?』

「ん〜、せんせー方を説得してGS協会にでも連絡するさ」

別段気負った様子も無くそう答えた。
そもそもただのアルバイトでしかない横島に電話をかけて来る事自体が間違っていたのだ。


そんなこんなで横島は学校に到着した。
校長室に向かうと、そわそわしながら待っていた校長は喜色を浮かべて横島を迎え入れる。

「おお、横島よく来てくれた。で、お前の上司はどこだ? 姿が見えんようだが・・・?」

「いや、あのですね───」

横島は上司の美神は来ない事、同業者の知り合い達もみな留守であった事を告げる。

「だから、GS協会に連絡するのが一番だと思うんすけど・・・」

「武田先生から話を聞いた時は渡りに船だと思ったんだが・・・無理を言って悪かったな」

そう言って頭を下げる校長、武田先生も横島に期待していたらしく、
がっくりと肩を落としていた。

「横島、後は任せるからGS協会とやらへ連絡してくれないか」

「その前に現場見させてもらってもいいっすか? 相手を確認しておきたいんで」

校長は任せるといっているが、横島は相手がどんな妖怪なのかも分かっていない。
連絡する前に詳細くらいは把握しておきたいと考えたのだった。

「好きにやってくれ、1年6組の教室だ」

それだけ聞くと横島は校長に頭を下げ部屋を出て行った。


『物分かりのいい校長で助かったな』

「シロート判断するよりはいいと思ったんじゃねぇかな」

1年6組の教室へ向かう途中、心眼が話しかけてきた。
学校というのは事を外部に漏らしたがらない閉鎖的空間だと思っていたらしく、
少々拍子抜けしたようだ。
それに答える横島も意外に感じていた。
自分はいわゆる問題児と呼ばれる存在だ。なのにこうもあっさり任されてしまうなんて、
思いもよらなかった。

1年6組の教室に差し掛かると、ドアの影から中を覗き込むようにしている女性教師が居た。

「何やってんすか?」

「ひっ!? あ・・・あら、あなた横島君?」

背後から声をかけられ、短く悲鳴を上げ身を竦ませる。振り返るとそこには見知った顔が。
安堵の吐息を漏らす女性教師。

「あ、あなたこそ、ここで何してるの?」

「俺はですね───」

女性教師の問い掛けに校長とのやり取りを説明する。

「そうだったの・・・その机なんだけどね、いつの間にか消えちゃったのよね」

この少年に全てを任せた校長に驚いたが、今はそんな事を気にしている場合じゃないと、
横島に生徒が食われた状況を教えた。たった今、問題の机が何処かに行ってしまった事も。

「逃げたのかな・・・? ちょっと調べてみますね」
(やだなーこわいなーおっかないなー)

横島はそう言って中に入っていく。
実は心臓が口から飛び出そうなほど緊張していたが、若い女性教師の手前、
格好つけていたのである。

「居ないみたいだな・・・」

教室を見回してみてもあるのは散らかった机や椅子だけで、それらしい机は無かった。

『上だ!!』

気配に気付いた心眼が横島に注意を喚起するが、机の行動のほうが早かった。
引き出しから伸びた舌が横島の身体を拘束すると、そのまま中に飲み込んでしまう。


「どわああぁぁぁぁああああ・・・あ?」

トンネルを抜けるとそこは教室であった。

「なんで教室?」

辺りの様子を窺ってみても、何の変哲も無いどこにでもあるような教室だった。
ただ随分と寂れている様子だが。立ち上がり窓の外を調べてみる。

「なんだ・・・!? 異界空間じゃねえか!?」

どこまでも続く荒野、無造作に点在する岩の数々。妙神山で使っていた修行場によく似た
雰囲気だった。ただあちらとは違いその空はマーブル模様だが。

『どうやらあれの腹の中らしいな』

「・・・やけに冷静だな」

『騒いだ所でどうにかなるのか? まずは脱出方法を探すべきか・・・』

この状況にも冷静な心眼に頼もしさを感じながら、確かにその通りだと気持ちを切り替える。
心眼と一緒にいる影響か、横島は素早く気持ちを切り替える術を身に着け始めていた。

「小鳩っていう子を探してから、ここから出る方法を探そう」

協会に連絡を取れなくなった以上、自分が被害にあった生徒を救出しなくてはならない。


「脱出方法なんて無いわ」

「!!」

突然聞こえた声に振り向き身構える横島、だが声の主はお構いなしに続ける。

「ここは化け物の腹の中・・・もう外には出られないわよ」

暗い笑みを浮かべながらそう言う少女、よく見るとその制服は横島が通っている高校の物と
似ていた。

「もしかして君が花戸小鳩ちゃん?」

女性教師に聞いていた風貌とは違う気もするが、他にも犠牲になった学生がいる事を
知らない横島は目の前の少女に尋ねる。

「・・・いいえ、私は愛子よ。
 他の皆にも紹介してあげるからついて来て」

愛子と名乗る少女は一瞬眉をしかめるが、すぐに気を取り直して横島に手を差し伸べる。
だが横島は警戒しているのか、その誘いに乗ろうとはせずに問い掛ける。

「他の皆? 他にもあの机に食われた奴らがいるのか・・・
 なぁ、その中に花戸小鳩っていう子はいなかったか?」

「さっきから小鳩小鳩って・・・あなた彼女の何なの?」

自分の誘いに乗ってこない横島に苛立ちを覚えるが、平静を装うと逆に尋ねた。

「何って、同じ学校の先輩だけど・・・それより、知ってんなら教えてくれよ」

「そう・・・でも残念ね。どこにいるのかは分からないわ、私の姿を見るなり何処かへ
 行っちゃったもの。それよりも行きましょ? 皆が待ってるわ」

先程よりも力を乗せた言葉と共に再び手を差し出す愛子。ふらふらと愛子に付いて行こうと
する横島を、この場の空気が異常な事に気付いた心眼が叱咤する。

『しっかりしろ! 気を抜くと取り込まれるぞ!!』

「!」

心眼の声に我に返った横島は大きく飛びのいた。そんな横島に愛子は俯き身体を震わせる。

『そう・・・あなたもなの・・・あなたも私から逃げるのね・・・?』

「こいつ・・・!?」

呟きと共に立ち込める怪しい気配に、横島は脱兎の如く逃げ出した。


『・・・なんか妙やな』

「どうしたの貧ちゃん?」

貧ちゃんと呼ばれたそいつは、メキシカンな衣装を身に纏った貧乏神である。
その貧乏神に問い掛けた少女こそが、花戸小鳩・・・横島の学校で机に食われた犠牲者だった。

『そこらの壁やら床やらから嫌な気配がするんや。
 わいの結界はそんな強力や無いからな、なんかあったらまずいで・・・』

「気配ってどういうこと?」

貧乏神と一緒にいるとはいえ、霊力も無い彼女にはよく分からなかった。
そんな小鳩のために分かりやすく説明する貧乏神。

『つまりやな、建物全部が妖怪の身体かも知れへんいうことや』

「大変! それじゃあどこかに逃げないと!」

『・・・そうやな、ほな行くで』

予感が正しければ結界を張っていてもすぐに居場所を突き止められてしまう、ならば留まる
よりは動いていた方がましだろうと判断して、貧乏神は小鳩を先導するように飛び立った。


「ぐちょぐちょはイヤー!?」

壁から床から天井から、無数に伸びてくる触手の様な肉塊を、霊波を纏った拳で殴りつけ、
こじ開け、引っぺがし、触手がひるんだ隙に先に進む。サイキック・ソーサーは爆発を起こす
ためこの距離では使えない。

『この学校自体があやつの身体か』

「れーせーに分析してなくていーから何とかしてー!!」

際限なく襲ってくる肉塊に纏わりつかれ始めた横島は、心眼に助けを求める。

『・・・仕方あるまい』

横島のかなり切羽詰った感じに心眼は、その瞳から霊波砲を放つ。
放出された霊波は纏わりつき、道を塞いでいた肉塊をなぎ払う。

「そんなん出来るならもっと早くやらんか!」

『私が手助けしてはおぬしの成長にならんからな』

「成長する前に死んでまうわあほー!」

いかなる時にも突っ込みを忘れない横島だった。


「はっ・・・はっ・・・はっ・・・はぁ・・・」

『小鳩! 立ち止まったらあかん! がんばれ!』

危惧したとおり襲い掛かってきた肉塊から逃れるため、走り続けた小鳩の体力は限界だった。

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・んっ」

喉の渇きを癒すため唾を飲み込む小鳩だったが、一旦立ち止まってしまった足はもう動きそ
うに無い。

『・・・すまんなぁ・・・わいがおったせいで』

「そんな事言わないで・・・貧ちゃんは家族じゃない」

小鳩がこんな目にあったのは自分のせいだと落ち込む貧乏神を慰めるように言葉をかける。

そんな彼女に危険が迫り来る事に貧乏神は気付いていなかった・・・


「死ぬ! これ以上は死ねる! もー駄目だー!!」

『霊力が足らんぞ! もっと搾り出せ!!』

どこまで行っても終わらない空間を走り続けて、体力的にも霊力的にも限界な横島だった。

「大体なんなんだここは!? どこまでも続く廊下に階段ってそんなん詐欺やないか!?」

『どうやら霊的な迷宮になっているようだな、おそらく終わりなどあるまい』

心眼の推察どおりここは愛子の意のままに操れる空間だった、ここから出るには愛子が自分
の意思で飲み込んだ人を外に出そうとするか、愛子を殺すしかないだろう。後者は一生閉じ
込められたままになるかもしれない恐れがあるが。

「もーいやーおうちかえるー!」

『みっともない駄々を捏ねるな!! 幼児かおぬしは!?』

漫才のような掛け合いをしながらもその足が止まることは無かった。
恐るべき体力の持ち主である。

『気をつけろ、前に何か居る「かわいいねーちゃん!!」・・・ぞ』

前方に見えた影を知らせようとした心眼の言葉を遮って、横島はその影に飛び掛った。


「かわいいねーちゃん!!」

「えっ?・・・きゃっ!?」

突如そんな声が聞こえたと思ったら小鳩は押し倒されていた。

小鳩は混乱していた。
何故自分は押し倒されているんだろう、何故この男の人は自分に抱きついているんだろう、
この男の人は何者なんだろう、色々な事が頭の中でぐるぐると渦を巻いていた。

『馬鹿者! 足を止めるな!』

「はっ!? 俺は何を・・・? おわぁ!」

どうやら極限状態のところに好みの女性がいて本能が暴走したらしい。
襲い掛かってきた触手を間一髪の所で避け、押し倒していた女性を抱き上げ再び走り出す。

『こら何すんねや! 小鳩を放さんかいワレ!!』

「うわっ! 何だお前はってこの子が小鳩ちゃんか!?」

突然目の前に現れたずんぐりむっくりした変な物体に驚くが、自分の腕の中の少女が探して
いた花戸小鳩らしい事に安堵の息を洩らす。

「えーと・・・花戸小鳩ちゃんだよね? 俺は横島忠夫、君を助けに来た」

腕の中暴れもせずただ顔を赤くしてじぃっ自分を見つめる少女に自己紹介する。

『助けやと? じゃあ出口があるんか!?』

『いや、分からん』

変な物体の問いかけに心眼が答える。

『アホか! ミイラ取りがミイラになってどーするんや!』

「やめて貧ちゃん・・・」

なおも文句を言おうとする変な物体を小鳩が止める。
小鳩は改めて横島を見ると抱きかかえられたまま頭を下げた。

「わ、私・・・花戸小鳩です・・・こっちは貧ちゃんっていいます。
 あの・・・助けに来てくれて・・・その・・・ありがとうございます」

「そんな改まんなくてもいいよ・・・それより貧ちゃん?」

『わいの事や、貧乏神やっとる』

実に礼儀正しく自己紹介する小鳩に好感を覚える横島、こっちの変なのは貧乏神らしい。
追われる身だというのに随分と余裕な4人だった。

だが余裕なのもそこまでだった。いつの間にか前後上下左右、完全に周囲を肉塊が取り囲ん
でいたのだ。

「クソ! ここまでか!?」

ぎゅっと目をつぶりしがみついて来る小鳩を守るように覆いかぶさる。


『いつまでそうしているつもりかしら?』

「!」

聞き覚えのある声に横島は身体を起こす、そこには愛子が腕を組み不機嫌そうに立っていた。
それに辺りの様子がさっきとは違う、どうやら校舎の外に放り出されたらしい。
小鳩を降ろし彼女を背にかばうように前に出る。

「愛子・・・お前何が目的なんだ・・・?」

愛子の言葉を信じるなら、ここには他にも被害にあった学生達がいる事になる。
だが、食うわけでも殺すわけでも無く生かしている理由が分からない。だからその目的さえ
分かればここから出られるかもしれない、そう思ったのだが、

『目的? 私はただ楽しい学校生活がしたいだけ・・・!
 だから・・・この世界のルールに従わないあなた達には罰を与えてあげる!!』

愛子の怒りの篭もった台詞に呼応するように、学校の外壁が一斉にその姿を肉塊に変えて
襲い掛かってきた。

「説得は無理みてぇだな・・・」

『ならば力ずくで捻じ伏せてやろうではないか』

いつに無く好戦的な心眼、逃げの一手しか打てなかったせいでフラストレーションが
溜まっていたようだ。

『小鳩はどーするんや?』

貧乏神の一言で動きが止まる、横島一人ならどうとでも戦えるが小鳩を守りながらだと
そうも行かない。
てゆーか横島は守るための手段を持っていない。結界も張れないし精霊石も持っていない、
無い無い尽くしの横島だった。

「お前なんか出来ないのか? 神様なんだろ一応」

迫り来る触手を次々に打ち落としながら貧乏神に尋ねる。
心眼も霊波を放ち横島が打ち洩らした触手をなぎ払う。
さっき小鳩に抱きついたおかげで煩悩は満タンだ。

『わいにも結界くらいは張れるけどな、あんなもん防げんわ・・・』

貧乏神とて小鳩を守りたいのだが、彼の結界では気配の遮断程度が精一杯だった。
結局、横島と心眼は小鳩を庇いながら触手の迎撃を続けるしかなかった。


『ふふ、困っているようね? その子を見捨てて戦ったらどうかしら。
 私は何も命まで獲ろうという訳じゃないんですもの、安全は保障するわよ?』

愛子は実に楽しそうに決して受け入れられない提案をしてくる。

「ふざけんな! そんな話聞けるかよ!」

『あらそ・・・でもねあなたに本気を出してもらうにはその子は邪魔なのよ!』

「きゃああぁぁぁぁっ!」

『こらあかん!?』

そう言うと愛子は横島からは視認が不可能は場所から触手を伸ばして、小鳩と貧乏神の身体
を絡め取る。

「しまった!?」

慌てて小鳩を捕まえている触手にサイキック・ソーサーを投げつけるが、
その触手を庇うように別の触手が身体を張って止める。

「何のつもりだ!?」

小鳩と貧乏神は校舎の2階部分の外壁に塗りこめられてしまった。

『気が変わったの・・・あなた・・・いえ、横島くんは今までここには居なかったタイプだから』

訳の分からない事を言う愛子に横島は頭が痛くなるが、
その真意を聞き出そうと再び問いただす。

「だからぁ・・・それが俺が本気になる事と何の関係があるんだ?」

『死闘を繰り広げた二人にいつの間にか芽生えた友情! これって青春だと思わない?』

胸の前で拳を握り締める愛子の姿に、横島は気力をごっそり持っていかれてしまった。
最早やる気の無くなった横島は妥協案を持ちかける。

「・・・友達が欲しいんなら今すぐなってやるから、小鳩ちゃんを放してくれよ」

『あらそれじゃ駄目よ』

あっさり拒否された。

「なんでさ?」

『だって・・・燃えないじゃない』

燃えないらしい。

『どうやら何を言っても無駄なようだ・・・』


『話は終わり! 行くわよ!!』

止まっていた触手が再び襲い掛かってきた。

『気をつけろ、あやつ頭はアレだが中々効果的な作戦だ』

「どういう事だよ?」

左右から襲い掛かる触手を後ろに飛んで避け、それが重なった所にサイキック・ソーサーを
投げつける。

『おぬしが霊力を使い果たせば容易く奴の支配下に置かれる、無駄遣いは出来んという事だ』

「どっち道逃げ場も無いしなぁ・・・」

着地して動きが固まっている所に、上と正面から突っ込んでくる触手を心眼がなぎ払う。

『接近戦を苦手としているのを読まれたのか・・・』

「ぶん殴るだけしか出来ないからなぁ・・・」

とにかくあっちこっちから来る触手を、打ち落としなぎ払い続ける。
一見気の抜けたやり取りをしているようにも見えるが横島の顔はいつに無く真剣だった。
小鳩が心配そうにこちらを見つめているのだ、泣き言など言っていられない。


『ふふふ、真剣な顔・・・
 友達を助けるために危険を顧みず戦う姿! これも青春よね〜!』

愛子は自分の望むものが見れたからかご満悦だった。
しかし、かすかな苛立ちが胸の奥底の方にあることも分かっていた。


「くそ、このままじゃジリ貧だ」

横島は無駄撃ちを止め、霊波を拳に纏い回避に全力を注ぐ。サイキック・ソーサーでは
効率が悪すぎるのだ、当たった瞬間に凝縮された霊力が爆発したのでは触手に防がれ、
愛子まで届かない。心眼の霊波砲も同じ結果に終わった。
敵を切り裂く武器、敵を引き裂く武器が必要だがここには神通棍は無い。

(こやつ・・・?)

心眼はそんな横島の異変に気付いていた。無駄を悟り回避に専念し始めてから少しずつ
霊力が上がっている。この状況では煩悩など生み出せない筈なのだが、煩悩以外の何かが
力を生んでいるのだろうか。


「横島さん・・・」

小鳩は横島の身を案じていた。
初対面でいきなり押し倒されたというのに横島に悪い感情は持っていなかった、
おそらく今まで貧乏だったからこそ、見抜けた横島の本質のせいだろう。
それに、ほんの僅かな時間一緒にいただけの自分を、あんなに必死に守ってくれた彼が
悪い人の筈が無い。
だからこそ心配だった、彼はきっと無理をしてでも自分を助けようとするだろうから。


愛子はじっと横島を見つめる小鳩を見る、あの顔を見れば大体察しがつく。
きっと彼女は彼にに惚れたのだろう、ほんの少しの時間を共有しただけで。
それがますます苛立ちを強くさせる。自分の誘いには乗らなかったくせに、
自分を拒絶したくせに、何故彼には心を許すのだ。
彼も彼だ、自分と彼女の何が違うというのだろうか。

きっと彼は彼女のためなら身の危険も顧みないだろう、図らずもさっき自分が言ったように。
本当は気付いていた。この胸の苛立ちも、自分と彼女の違いも・・・。
彼らが羨ましかったのだ。支配する側とされる側という関係ではなく、
自然とお互いが打ち解けあうその姿が。
だが素直にそれを認められない。自分はその思いでこの身を妖怪に変えたのだ、
いまさら認めるわけにはいかない。

変わりたい、でも変われない・・・そんなジレンマが愛子を襲う。
何かがあれば変われるかもしれない、きっと自分は彼にそれを期待しているのだろう。

だから横島くん・・・きっかけを、下さい。


横島の念が通じたのか、拳に集めた霊波はその姿を新たなる形へと変化させていた。

「何だ・・・これ?」

まるで手甲と鉤爪を組み合わせたかのような霊波の形に横島は戸惑いを覚える。

『霊力を半ば物質化しているのか!?』

心眼も驚く。霊波が高まったかと思えば今度は不完全だが物質化までやってのけたのだ、
驚くなという方が無理だろう。

戸惑いと驚きで動きを止めた彼らを貫こうと触手が直進してくる。

「横島さん!」

その声で迫り来る触手に気付いた横島はその手をそのまま振りぬく。

『なんと!』

触手を切り払ったそれはいつの間にか剣に変わっていた。

「こ、これ・・・思ったとおりに形が変わるのか!?」

始めの状態に戻してみるとそれは思ったように元の姿に戻る。
その特性を掴んだ横島はこの機を逃すまいと愛子目掛けて特攻する。


襲い掛かる触手の群れを潜り抜け、上を通過するそれを下から上に切り上げる。
切断され引っ込もうとする触手を足場にして大きく跳躍。
がら空きの背中を貫こうとするそれを反転しサイキック・ソーサーで受け止め、その反動を
利用して大きく距離を稼ぐ。

愛子まで後十数歩という所まで来たが、肉塊は愛子の前に立ちはだかる壁になる。
サイキック・ソーサーを壁に向かって投げつけるが、一瞬で傷が復元してしまう。
更なる力を込めてサイキック・ソーサーを作り出し、投げると同時に壁に向かって走り出す。

爆発に巻き込まれながらも壁を突破する事に成功した。愛子はもう目の前だ。
右手に霊波の剣を変える。その手を振りかぶり───


愛子はただその光景に見とれていた。襲い掛かる触手を引き裂き、潜り抜け、切り払い、確実

に自分に近づいて来る横島をただただ見つめていた。

自分を守るように出来上がる壁、その壁を強引な方法で抜けた横島の姿はぼろぼろだった。
彼が目の前に立ち、その剣を振り上げる。ああ、これで終わりか。
目を瞑りその時が来るのを待つ。

だがいつまで経っても最期は訪れなかった。


振り下ろせなかった。愛子は自分を殺そうとする相手を前に、呪いの言葉を吐くでもなく、
命乞いをするのでもなく、睨みつけるわけでもなく、ただ黙って静かに目を閉じた。
閉じた瞳から流れる一筋の涙・・・殺せるわけが無かった。

分からない、何故これから殺されようとしているのに微笑んでいるのだろうか?
気でも狂ったのか? 違う。満足したからか? 多分それも違う。では何故?

今までの彼女の様子が脳裏によみがえる。それで唐突に理解した。

ああそうか、この少女は───


ぽんと頭に手を置かれた、わしわしと乱暴に撫ぜられる。痛かった。
自分は許してもらえたのだろうか。彼の顔を見上げる。
親に怒られ拗ねている子供を見るかのような、そんな苦笑いをしていた。


終業のチャイムが鳴り、世界は薄れるようにして消え始めた。


突然目の前に現れた二人の生徒に、その場に集まっていた教師や学生達は驚いた。

「ここは・・・戻ってきたのか」

「本当に帰ってこられたんですね」

疲れた顔の横島と対照的に小鳩は嬉しそうだ。

「花戸君! 無事だったのかね!」

校長の一言で担任の女性教師やクラスメイト達が小鳩に駆け寄る。
横島はその場を離れると、古い机の前に立ちぽんぽんと優しく叩く。
すると愛子が机の天板から姿を現した。
その光景に驚き言葉を失い立ち尽くす一同、愛子は彼らに向かって頭を下げる。

『すみませんでした。他の皆さんも元居た場所に戻っていただきました』

「校長先生、こいつもう悪さはしませんから、このまま机としてでも使ってやれませんか」

横島は頭を下げる愛子をフォローする。受け入れてもらえないかもしれない。
それでも仕方が無い。妖怪なのだから。
でもできれば受け入れてほしい。それが彼女の夢だったのだから。

『生徒にはなれなくても、せめて備品として授業を聞いていたいんです。お願いします』

愛子はそう言って再び頭を下げる。横島も一緒に頭を下げる。

「あの・・・校長先生、私にこの机を使わせてください、お願いします」

いつの間にかこっちに来ていた小鳩も頭を下げて御願いする。


「駄目だ」

校長の言葉に周りの学生達からブーイングが飛ぶ一部の教師からも飛ぶ。

「彼女は妖怪だ、何かあっても我々には対処できん」

その言葉に愛子は俯く。ブーイングが収まる。代わりに険悪なムードが漂う。一触即発だ。

「だから横島に面倒を見てもらう事にしよう」

『え?』

「よかったですね、愛子さん!」

我が事のように喜ぶ小鳩、愛子の目から涙がこぼれる。今度のは嬉し涙だった。
教室中で校長コールが巻き起こる。

『みんな・・・ありがとう』


その後、実は留年が決定していた横島には、特別に補習を受ければ進級を認めるという
事件解決の報酬が贈られるのだった。


後書き

書きたい事をだらだら書くのではなく、短く纏められる力量が欲しいと思う今日この頃・・・
こんにちわ、みどりのたぬきです。

愛子と小鳩の登場、横島のパワーアップをお送りしました。
すいません、話が長すぎですね。

作中の貧乏神は既に年季が明けている設定になっております。
それなら何で消えないんだよ! という突っ込みはご容赦ください。

次回はたぶんパイパー編です。

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