「喰らいやがれーーーー!!」
雪之丞の霊波砲がゴーレムを襲う。それは見事直撃して、ゴーレムの動きを鈍らせるのに
は十分であった。
「よくやったわ、雪之丞!! 後は―――」
美神は神通棍を鞭状にして何故かゴーレムの股間部分を狙う。ゴーレムは霊波砲を受けて
体勢を崩していたためそれを避ける事は出来ない。見事に鞭は狙い通りのところに直撃す
る。
「オカルトのプロを舐めたらどうなるか……思い知らせてあげる!!」
美神は股間を押さえてうずくまっているゴーレムに接近して自分の霊力を送り込んでいる
ようであった。
「聞きなさいゴーレム!! おまえの主人は私よ!!」
その直後、ゴーレムは立ち上がり美神に危害を加えることなく美神を自分の腕に乗せた。
「やっとおわ―――何だ!? この霊圧は!?」
雪之丞がホッと一息ついて床に座っていると何処からか巨大な霊圧が立ち昇った事に気付
き思わずその場から立ち上がる。美神もその霊圧の高さに驚く。感覚を研ぎ澄まし霊圧が
立ち昇った場所を探ると、他にも一つ高い霊圧が感じられるのに気付く。
「何!? もしかして横島クンに何かあったの!?」
その答えは実におしかった。何故なら、
横島に何かあったのかではなく、横島のナニに何かあったのだから……
――心眼は眠らない その39――
茂流田はモニターで横島とガルーダの戦いを見物していたが、その戦況はあまりにも信じ
がたいものであった。
「くっ!? 馬鹿な!! 何故、ガルーダが押されるんだ!?」
横島はガルーダに接近を許さず、サイキックソーサーを常に投げつけて、中距離に入られ
たら栄光の手を伸ばして常に展開を有利に進めていた。
『キャー!! 横島さん、素敵!!』
須狩が嬉しい事を言ってくれているが、横島はそれに反応しない。つーか出来ない。
している暇がないのも事実ではあるが、反応してくれないのであった。
『俺は負けるわけにはいかないんじゃーーーーー!!!』
横島が雄叫びを上げる。それがこの戦いにかけてる意気込みを感じさせる。そしてその
勢いはガルーダを徐々に後退させるらしい。これでかかっているものが己のアレでなけ
ればどれほどカッコいいか……
「まずい、まずいぞ!! 他に近くにいるのはは……グーラーか!?」
グーラーとは精霊の一種で見た目は美女であるが、食料として人間を食べる妖魔である。
茂流田は兵士にグーラーを出される指示をマイク越しに伝える。
「はぁ、……これで少しは!!―――何故だ!? 何故ゴーレムが向こうの味方になっ
ているのだ!?」
茂流田が横島のモニターに注目していたらいつの間にか美神がゴーレムを手下にしている
ではないか。何故このようになったかというとゴーレムには”EMETH”という文字が
刻まれているのだが、ここで頭の’E’を消せばゴーレムは滅ぶが、ここで美神はあえて
’E’の文字を削るだけにしてゴーレムの支配力を弱めて自分の配下にしたのであった。
その時の場面を見ていなかった茂流田には何が起こったのかさっぱりであった。
「くっ、考えろ!! このままでは全てがおしまいだ!!」
茂流田が悩んでいる間にも美神たちの進行は止まらない。むしろゴーレムを奪われてから
はその勢いは増すばかりであった。
「そういえば、こっちの方は……来たか!! やれ、グーラー!!」
茂流田はグーラーとガルーダコンビに全てを託すしかなかった。
「あぁぁぁぁぁ!!」
「フォォォォォォォッ!?」
横島は雄叫びをあげてさらに自分に喝を入れる。その顔は必死そのものである。自分が攻
めているはずなのに、まるで今にも死にそうな顔をしていた。
(いやなんやーーーー!!!)
そう、ただ嫌だった。今日帰ってから、美神のシャワーシーンを拝む事も出来ず、
(これだけは、いやなんやーーーー!!!)
このままでは明日の学校では恒例の女子更衣室の覗きも出来ず、
(このまま呪いが続けば俺は―――)
折角の《恋》に成功した須狩の姉ちゃんとも何も出来ず、
(―――ED忠夫とクラスの連中に馬鹿にされるやんけーーーーーー!!!)
愛子とも小鳩の邪魔以来から何も出来ず、
(それに……)
自分の使い魔みたいなはずの悠闇とも何も出来ず、
(女性経験もないのに不能はいやーーーーーーー!!!)
このまま終わるわけにはいかなかった。
ちなみに横島が覗きを行っているのに悠闇が何も言わないのは、それはギリギリ許容
範囲らしい。今回の出来事のように女性に洗脳紛いの事でキレたのは決して日ごろたま
ったストレスの発散ではないと思いたい。それとED忠夫なんてクラスメイトも呼びた
くないに決まっているだろう。
「くたばれやがれーーー!!」
鬼気迫るという言葉があの横島に似合う日が来るとは悠闇も思っていなかっただろう。
そういうわけで流石にやりすぎたかなと思う悠闇であった。
「フゥゥゥッ……ホァッチャッ!!」
ここに来てようやくガルーダが栄光の手を掻い潜り横島に殴りかかる。しかし横島には
全体の防御力が薄い分、驚異的な回避力がある。単発の攻撃など当たりはしない。すぐ
に横に飛んで回避に成功する。
「ちくしょうーー!! このままじゃいずれ喰らっちまう!!」
息子の解放条件は無傷でガルーダを倒す事。横島はそのため迂闊に攻める事ができず、
中々決めに入れなかった。
(……今のおぬしの実力がワレにはわからん。ワレがいない間におぬしには何があった
というのだ。……いや、何があったかなどこの際どうでもよい。今のおぬしの実力を
見せてくれ!!)
悠闇としては別に横島に嫌がらせがしたかった訳ではない。横島がアシュタロスと一緒
に飛ばされたから再会までの間に横島を変える何かがあったのは事実であった。ただ、
横島はそれを語ろうとしない。ならば自分が無理に聞くわけにはいかない。だが、相棒
として横島の今の実力を知る必要があった。おキヌが霊団に追われた事件も結局は不完全
燃焼に終わってしまい横島の実力を見極める事はできなかった。だから今回の出来事は
ちょうどいいと思ったわけである。相手のレベルはどうやら中級魔族クラス、文珠使い
である横島なら十分勝てる相手である。だからこそ無傷という条件をつけたわけだ。
「!! 横島、もう一体近づいてくる。気をつけろ!!」
「なんだとーーー!? こうなったら文珠を使っていいか!?」
横島が未だに文珠を使っていないのは、悠闇から日頃から文珠の使用については条件が
つけられていた。
一つは計画的に使うこと。この計画的というのはフェンリル戦のように戦闘前からの計画
の事を表す。
一つは余裕がある時は使用しない事。といっても余裕が完全になくなってからでは遅いの
でこのあたりのさじ加減は悠闇と相談したりして決める。
一つは悪用しない事。これも一応ラインがあるらしく《覗》程度ならまだ許してくれる
悠闇であったが、今回の《恋》は流石に許してくれなかったようだ。
他にも条件はあるが具体例が挙げられるはこの程度であろう。そんなわけで横島は文珠の
使用を要求する。
「……いいだろう!!」
「おっしゃーーー!! これで焼き鳥にしちゃる!!」
しばらく考えた後、許可を出す悠闇。そして横島が一気に勝負を決めようとした時、
新たな敵が現れる。
「ハーイ、あら、おいしそうなボウヤじゃない。」
『―――やれ、グーラー!!』
見た目は美女の食人鬼女グーラーが茂流田にとってはようやく現れる。茂流田も思わず
叫んで応援する。
「……………………」
横島はグーラーを見つめて沈黙する。横島の目線は上半身裸のグーラーの胸を見つめて
いるようであったが。そんな横島を怪しがりガルーダもグーラーも攻撃を仕掛けない。
「どうした? 横島。」
「…………う…う…」
横島の体が震えだす。悠闇も心配になり横島に近寄るが、
「うお〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!! なんでやーーーーーー!!! あんなねえちゃん がいるのに何で反応しないんやーーーーー!!! あぁ、憎い、憎いぞ!! 反応しない自分が憎い〜〜〜〜!!!」
号泣する横島。多分、アレは本気で泣いているのだろう。横島はその場で膝をつき、前倒
れになって四つん這いになって号泣する。そしてそのままの体勢で一定のリズムで拳を地
面に打ち付けていた。
「なっ!? 何をしている!! 横島、前を見よ!!」
「ヒック……ヒック―――へっ?」
泣いている横島の目の前では痺れを切らしたガルーダが詰め掛けていた。そしてグーラー
は悠闇を相手に選んだのか、悠闇に向けて接近する。須狩は一応、茂流田の操作でターゲ
ットに外されているらしい。
「ホォアチャッ!!」
「うぉぉぉぉっ!?」
横島はすぐに起き上がりガルーダの蹴りをかわそうとしたが、回避しきれず攻撃を受けて
しまった。そして、横島の動きはさらに鈍る。
(あ……今、喰らったな。……という事は俺はこれからこの状態で生きていくんか……)
人生悟っちゃいましたって感じの顔をする横島。そのままもう好きにしてって感じで突っ
立ている。
(……モロッコでもいって手術でもしようかな……そしたら合法的に……)
ガルーダが迫ってくるのに避けようともせず、適当に思考に入る横島。合法的に何なのか
知りたいところである。ちなみにモロッコ=性転換というの考えをもっているのは日本人
だけなのでご注意を。
(はぁ〜〜……煩悩減って力が出ないよ〜〜〜〜)
某ヒーローのような事を思い浮かべながらガルーダが攻めてくるのを待つ。力が出ないと
いうより、生きる気力がないらしい。
(まずい!! このままでは……)
悠闇はグーラーの攻めを回避しながら横島を見つめる。端から見れば、どうぞ殺してくだ
さいといっているような横島であった。
「横島、後で呪いは解く!! とにかく今は集中せよ!!」
「!! 本当やな!! 嘘やったら泣くぞ!! 乳揉むぞ!!」
すでに泣いてるじゃねえかというツッコミは置いておき、ちょっとヤル気を、もとい生き
る気力を取り戻す横島。すぐに文珠を取り出し、ガルーダを睨む。
「大体―――何で俺がこんな目に合わなきゃならんのだーーーーー!!!」
(それは自業自得ではないか……)
《爆》
明らかに自業自得なのではあるが、その怒りはガルーダにぶつけられ、見事宣言通りに
焼き鳥にしてしまう。
「ふん!! 文珠さえつかえ―――うぉ!?」
と思いきや流石は中級魔族、ガルーダは《爆》に耐え切り横島に蹴りかかる。いや、ガル
ーダが強いというのも理由の一つであるが、どうやら横島の集中力が全然上がっていな
いようだ。普段の横島なら今の一撃でけりをつけているだろう。
「だーーーー!! 心眼、何かサービスしてーーーーー!!」
「サッ!! サービスって……」
「アタシを無視するなんて―――余裕あるじゃないか!!」
いくら式神に憑依しているとはいえ、グーラー程度の攻撃に当たる悠闇ではなかった。
グーラーを無視しながら横島の泣きの頼みに悩む。
「むむむむ……」
「くそっ!! 何で当たらないんだよ!!」
グーラーは右手で頭を抱えている悠闇にさえ攻撃が当たらず苛立っていた。悠闇は悩みぬい
たあげく決断する。
「……くっ口付けでどうだ。」
《八》《房》
ザザザザザッザンッ
「ケェェェェェッ!?」
ガルーダの体が横島の栄光の手、八房バージョンによって崩壊する。悠闇が小声で呟いた
一言はどうやら聞こえたらしい。あれだけ苦戦していたというのにその言葉を聞いた瞬間
に勝負がついた。
「ガルーダ!?」
『馬鹿な!? 切り札が―――そんな!?』
グーラーも茂流田もガルーダが瞬殺されて驚愕する。そしてその間にも一人の男は動きを
止めていなかった。
「し〜〜〜ん〜〜〜〜が〜〜〜〜ん!!」
「まっ待て!! ちょっと待ってくれ!!」
男、横島である。ガルーダのところにいたと思いきやいつの間にか悠闇のすぐ傍に迫って
来た。そのまま横島は高速ダイブをする。
「キャッ!」
「ふっふっふ……今更、言い逃れはさせん!!」
動転していた悠闇は横島に押さえ込まれる。近くにグーラーがいるというのに実にいい
度胸であるが、グーラーもモニター越しの茂流田も未だ動転しているようで、そんな事
を気にする余裕はないようであった。
「さぁ、心眼……う〜〜ん。」
(まずいまずいまずいぞ……いや、別に横島が嫌いなわけではないが……だからといっ
てこのまま流されるわけには……って左手が動く!?)
横島は気付いてないがいつの間にか呪いが解けたようであった。どうやら強引に解いたら
しい。悠闇は自らの左手が動く事でその事を悟る。
(……そうだな……仕方あるまい。横島は良くやった。ならばこれは褒美というやつ……
そう、あくまでもこれは褒美なのだ!)
なんとか自分を納得させて悠闇が横島にキスをしようとした時であった。
「横島さ〜〜ん、そんなにしたいなら、わ た し が し て あ げ る。」
「うん? って―――んーーーー!!」
ずっと見ていた須狩が横島に近づき、横島と熱いキスをする。そしてそれを間近で見せつ
けられる悠闇。しかも須狩は悠闇の方を見ながら勝ち誇った顔をする。
(な……何だというのだ!? 何故勝ち誇る!? 何故このような敗北感を感じねばなら
ん!?)
悠闇の目の前の出来事もようやく終わる。余程、情熱的だったようで横島の目の焦点が
あっていない。須狩はそのまま横島に抱き付いて悠闇に勝利の笑みをプレゼントしてく
れた。
「ごめんなさい。何か見ていたらじれったくて、ついつい横取りしちゃったわ。」
「あ……え〜とな……」
須狩とは対照的に横島は何をいったら言いかわからないらしい。何故なら……
ポツッ ポツッ
「な……何泣いてんだよ……?」
「えっ!?」
横島の言葉によってようやく自分が泣いている事に気付く悠闇。涙の一番の理由は自分
でもわかっていないだろう。
「……大したことない……それより、あの男を懲らしめに行こう……」
「あ……ああ。」
悠闇は左手で涙を拭おうとしたが、いつの間にかまた動かなくなっていた。どうやら呪い
は解除されたわけではなく、一時的に効果が弱まっていたらしい。仕方なく右手で涙を
拭う。いくら悠闇の呪いがアシュタロス戦と違い効果が薄いとはいえ、一時的に呪いを
弱めさせた横島に恐れ入る。
「……横島、文珠を二つほど貸してくれ。 」
「お、おう。」
横島は言われたとおり、悠闇に文珠を二つ渡す。そして今まで須狩が近くにいたため攻撃
して来なかったグーラーに向かう。
「!! やっとヤル気になったかい!!」
「……どうやらおぬしは先ほどのガルーダと違い、呪法を解除すればいいだけだな。素人
の呪法などワレにはお見通しだ。」
《解》《呪》
悠闇が今まで攻撃しなかったのはグーラーが作られた者ではなく操られている判断した
ため、どのような呪いがかかっているか探っていたらしい。呪式さえわかれば後は、文珠
を使用して解呪は可能であった。グーラーは見事、自分の意思で動けるようになる。
「なっ何で助けるんだい!? こんな事しなくてももう、アンタたちを邪魔できるヤツ
なんていないのに?」
「……勝負はついたのだ。ならば無駄な殺戮をする必要はあるまい。」
悠闇は暗い声でグーラーに自分の真意を伝える。そしてグーラーを置いて先に進もうと
するが、
「待ってくれ!! アタシも行く!! 安心しな、殺すつもりはないよ。ただ、一発ぐら
い殴らなきゃ気がすまないだけさ。」
こうして一行は茂流田のもとに向かう。その途中、横島は悠闇に声を掛けようと努力する
が、結局それは出来なかった。
「くそーーーーー!! どいつもこいつも役立たずめ!!」
切り札のガルーダを倒させ、グーラーの制御は不可になった。美神たちの方も今の勢い
も見たところ、来るのは時間の問題だろう。ちなみに美神はゴーレム、雪之丞のコンビ
によってお札をほとんど使うことなくぼろ儲けであった。
「後、残すは……だめだ!! もう戦力になるのは……くそっ!!」
茂流田は何かないかといろいろ探すがガルーダが負けた時点で自分の終わりを気付くべき
だろう。
「こうなったら逃げるしか……だめだ、須狩が向こうにいるんじゃ……」
茂流田の残された道は逃亡だけであるのは間違いないが、それも須狩がいては後で自分の
悪事がバラされるだろう。正確にいうと、一連の事件は会社ぐるみで行っていたため、
警察に情報がいけばどの道会社ごと終わりのなのだが。
バァァァァンッ
ドォォォォォンッ
ドアがぶち破られると同時にその後ろから床を突き破りゴーレムの腕が現れ美神たちが現
れる。どうやら美神たちは階段を使うということをしなかったらしい。
「美神さん!? 無事だったんすか!!」
「そっちもね……さぁ茂流田、観念しなさい!!」
「まっ待て! 話し合おう!!」
茂流田からすれば後は美神たちを買収するしかないので必死に美神と交渉する。しかしそ
れは間違いだろう。何故なら美神からすれば報酬としてそれを全て頂けばいいのだから。
「美神どの、すまないが少しコヤツと話させてくれ。」
「えっ? 何かあるの?」
悠闇は先ほどから気になっていた事を茂流田に聞こうとする。須狩でも知っていることかも
しれないが、須狩とはしゃべりたくなかったらしい。
「あのガルーダについてだが―――誰からの入れ知恵だ。」
「ヒッ!!」
悠闇は殺気をだしながら茂流田に質問する。悠闇が聞こうとしている事は人間がガルーダ
のような魔鳥を作れるわけはなく、必ず黒幕がいると判断したのでその事を尋ねる。
「言う…言うから…そんな睨まないでくれ!!……取引した魔族は……確かメドーサとい
っていた……」
「っ!!」
悠闇はメドーサという名に反応してしまう。それはメドーサが自分の古き友かもしれない
からだ。
(もしおぬしが白蛇だというなら……ワレは止めねばならぬのか……)
悠闇が思考に入っていると向こうからおキヌたちが叫んでいた。茂流田は悠闇が見張る事
にして美神がおキヌのもとに向かう。
「美神さん、こっち来てください!!」
「どうしたの、おキヌちゃん?」
横島とおキヌと雪之丞は未だ残っている心霊兵器を須狩から聞き調査している最中であっ
た、そしておキヌが見つけたのはカプセルに入った大量のガルーダの幼生であった。
「こんなに作っとったんか!?」
「ごめんなさい、横島さん。怒らないで。」
ピキッ
「……ずいぶん仲がいいじゃない、横島くん。」
「……本当ですね、悠闇さんがおかしいのも横島さんが何かしたんですか?」
横島に抱きつく須狩を見て、美神とおキヌは横島が何かしたと勘付く。しかしそんな二人
も無視しながら須狩は横島を上目遣いで見つめ誘惑する。そして雪之丞はいつの間にか巻
き添えはいやと退避していた。だがここで横島は美神たちからすれば信じられない事を言
う。
「……はぁ〜〜〜。離れてくれねえ?」
「「えっ!?」」
「え〜〜〜横島さん、酷いわ〜。」
横島が須狩の誘惑に勝つことに美神たちは驚愕する。先ほどまでと違い、今の横島は
アレなため、哀愁漂わせているのだから当然の結果である。
(何でさっきは、大丈夫だったんだ?)
そんな驚いている一同を気にせず横島はさきほど悠闇に突っ込んでいった時は、何であ
そこまで爆発したのか気になっていた。
「だっ大丈夫ですか!! 横島さん!?」
「ん? なんでおキヌちゃん、そんなに慌ててんだ?」
横島は自分の状態に気付いていないらしい。周りの人間からすれば今の横島ほど異常な
事はないだろう。このままでは煩悩魔人という名誉?を返上しなくてはならないのだか
ら。
「……まぁ、横島クンだしおかしくなってもいつもの事だしね。」
美神は見なかった事にしたらしい。
「ね、この幼生ってもう洗脳されているの?」
「……いいえ、まだよ。もう少し育ててから制御装置と呪縛を組み込むの。」
どうやらこのガルーダの幼生は今のところは人畜無害らしい。その事を知ったおキヌが
この幼生を解放してほしいと美神に頼み込む。
「そうはいっても……ホッと置いたら下手な事に―――
「だったらアタシが見張っておけば問題ないだろ?」えっ?」
美神がおキヌの頼みに悩んでいるとグーラーが自らこの島で残ってこの幼生をしつける役
を買って出る。といってもそう簡単に信用するわけにはいかず、グーラーを見極めようと
する美神。
「……本当だったらアタシも滅んでいるはずなんだ。礼には礼を尽くさないとな。」
「う〜ん、っておキヌちゃんもそんな目で見ないでよ。……わかったわ、でももし人間
に危害を加えようとしたら……わかっているわね?」
その一言とおキヌの懇願で、美神は最後に忠告してからこの幼生をグーラーに託すことに
決定した。
ヘリに乗って帰る一行。館は現在、美神たちによって炎に包まれていた。
「とりあえず、帰ったらアンタ達の会社を潰さなきゃね。」
美神は須狩とグーラーに殴られて顔面が変形している茂流田に向かってそう宣告する。
相手は大企業であるが、こっちには西条がいるのだ。Gメンを使えば潰す事は容易いだ
ろう。
「あっ! 向こう、見てください。手を振ってくれてますよ!」
おキヌが見ていた先にはグーラーとゴーレム、そしてグーラーの肩に乗ったガルーダの
幼生がいた。グーラーとゴーレムはヘリに向かって手を振ってくれている。幼生は首を
振って自分たちの帰りを見送ってくれているようであった。
「う〜ん。」
『どうした、横島?』
バンダナに戻った悠闇は先ほどから悩んでいる瀕死状態の横島に問いかける。どうやら
須狩に使った《恋》が美神にバレたらしい。おかげで美神と須狩から酷い目にあったよ
うである。須狩が横島のリンチに参加したのは《恋》を解除するために美神が《嫌》を
横島に使わせたのが原因だろう。
「いやな、”アンタも少しは女心を勉強しな”ってグーラーに言われたんだが、どういうことだ?」
どうやら、横島はグーラーの言った事をよく理解していないらしい。それに悠闇は溜息を
つきながらも返答はしない。
(……いつからだろうな。己の感情が制御出来なってきたのは。)
最近、自分の感情が浮き出す事に戸惑いを覚える悠闇。
(涙か……あの戦い以来、流した事はなかったな……)
思い出すは最後、父に命令された戦いであった。父は自分を犠牲にして天界に、悠闇に勝
利をもたらした。
(メドーサの裏に必ず黒幕、いやアシュタロスがいるはずだ。)
思い出すは平安京での事件。高島が瞬殺された場面だ。
(させん……横島だけは絶対に―――。)
再び己の胸に誓いを立てる悠闇であった。
――心眼は眠らない その39・完――
おまけ
「お願いします、心眼様!!」
悠闇の涙のせいでばつが悪かったのか自分のアレの事を忘れていた横島であったが、事務
所に帰ってようやく思い出した。
「頼むから解いてくれ!!」
『嫌だ、ワレを泣かした罰だ。一週間ぐらいそれでいろ。』
横島が泣いて頼んでも悠闇も譲らない。肉親でもない男に自分の泣き顔を見られたのだ。
これぐらいの罰はあっていいと思う悠闇であった。
「いやーーーーーーー!!!」
『まぁ、そう言うな。案外、今のおぬしの方が女子にもてるかもしれぬぞ?』
悠闇は何気なく呟いた一言が現実になるとはこの時、思ってもいなかっただろう。
あとがき
煩悩のない横島が一番の壊れだと思いました。
サバイバルの館編終了、さぁ次は……