(集中しろ!!)
横島は今、誰のためでもない。自分のために強敵と向き合っていた。
(ただ勝つだけじゃだめなんだ!!)
出された条件はあまりにも過酷であった。しかし横島は逃げるわけにはいかない。
(今回だけは……今回だけは……)
何故なら、かかっているモノがあった。そのタメならば自分は神とだって戦おう。
(今回だけは―――)
そして今、横島は敵に斬りかかった。全ては自分のために。
(―――ギャグは無しだ!!)
――心眼は眠らない その38――
始まりは美神除霊事務所がリゾート地域開発のため幽霊屋敷の除霊を、南部グループリゾ
ート開発部の茂流田と須狩の二人から依頼されたのがきっかけであった。もちろん美神は
高額の依頼料にノリノリで依頼を受ける事にしたのだが、ここでいつもと違うのは、
”暇だから俺も付き合わせろ”
という事で横島の家で居候していた雪之丞がついて来た事であろう。そんなわけで事務所
のメンバー+雪之丞で今回の除霊に挑むわけだが。
「あ〜ヘリが行っちまった〜。」
館に入るなり茂流田と須狩はヘリに乗ってそのまま帰っていったらしい。横島は美人の
須狩が帰った事と、この館のホラーな空気にテンションが下がりまくってた。
その間に美神と悠闇はこの館がどのような状態にあるのか確かめる。
『……美神どの。一つわかった事があるのだが。』
「えっ!? 何かわかったの?」
美神は館の霊圧が異常に高い事はわかっていたがどうやら悠闇は他にも何か勘付いたら
しい。
『はっきり言おう。今回の除霊は罠だ。』
「罠ですって!?」
悠闇の考察では、今、自分たちがいる部屋にしろかなり最近に人の手が加えられているら
しい。他にも扉の向こうを霊視したところ、普通の悪霊ではなく作られた悪霊だという事
のようだ。
「それじゃ、どうするんすか? 罠って言うんならとっとと帰りましょうよ。」
「むかつくわね。何考えてたか知らないけど、人をコケにして……覚えてなさいよ!」
今回の件を罠と知りこれからどうするかを考えている4人であったが、それを監視してい
る存在がいた。
「どっどうするの!? 始める前からバレてしまったけど!?」
「流石にこれは計算外だね……こうなったらあの部屋の落とし穴を作動して強制的に
戦わせるしか……」
美神たちを監視しているのはヘリに乗って帰ったはずの茂流田と須狩であった。実は今回
の件は茂流田たちが作った未だ登場していないが心霊兵器の性能を美神たちを使って試そ
うとしていたのだ。しかし結果は悠闇に始める前から見破られるという情けない結果にな
ってしまったが。
「待って! 落とすにしても戦力は分散させるべきよ。いきなり私たちの計画を見破るな
んて予想以上だわ。その前に―――」
須狩は美神たちを落とし穴に落としやすくするために美神たちがいる部屋の明かりを強制
的に消す。監視カメラでの映像ではいきなり電気を消されどさくさに紛れて美神にセクハ
ラを働こうとしている横島の姿が映っていた。
「よし、これで後はタイミング良くボタンを押すだけだ。」
監視カメラは暗い部屋でもくっきり4人を写していて、茂流田は手を落とし穴を作動させ
るボタンに手をかける。
「さぁ! とっとと動け!!」
茂流田が4人の動向をうかがっていると突如、横島の体がぶっ飛ばされる。どうやら美神
の胸を触ってそのまま殴られたらしい。横島の顔がえらくご満悦だったのは気のせいでは
ないだろう。
「ますは一人目!!」
茂流田がタイミングよくボタンを押し、横島の飛ばされ先の床が開く。横島は部屋が暗く
そのに気付いていない。悠闇が気付いたようだがすでに時遅く、横島の体が沈んでいく。
その後、すぐに落とし穴の閉じてこれで横島が《飛》《翔》を使おうと帰ってこれる事
はなくなった。
美神は目が暗闇に慣れてから横島がいない事に気付く。
「聞こえるかね、美神さん。」
茂流田は美神の部屋に自分の声が聞こえるようにスピーカーのスイッチを切り替える。
『その声、茂流田ね!!』
「驚いたよ、始まってもいないのにこれが罠だと気付くなんてね。」
茂流田は何とか自分の計画が進められることに安堵しながら美神と会話を続ける。その
口調から優越感が感じられるのは横島を人質に取ったとでも思っているのだろうか。
「これから君たちには我が社が開発した心霊兵器と戦ってもらう。断ったら横島忠夫が
がどうなるかわかっているんだろうね?」
茂流田が意気揚々と美神に語り掛けるが対する美神は、
『……ばっかじゃない。おキヌちゃんならともかく何で横島クンのために私が動かないと
いけないのよ。』
「なっ!? それではどうなってもいいというのか!?」
『ご自由に。(第一心眼が付いてるんだから大丈夫でしょうに。)』
茂流田は美神の予想外の返事に愕然としてしまう。その間にも美神はおキヌと雪之丞を
連れて玄関に向かう。どうやら本当に帰るらしい。
「まっ待ちたまえ!! 君には仲間を助けるという思いやりみたいな気持ちはないのか
ね!?」
『悪党に言われる筋合いないわ。それにこれでも私は横島クンを信頼しているのよ。』
『美神さん……』
『うっ嘘だ……』
美神のセリフにおキヌは感動し、雪之丞はこれは夢かと信じられないといった表情であっ
た。茂流田はこうなったら最後の手段として、
「この部屋には依頼料である3億があるのだよ。それでも帰るのかい?」
その言葉に見事反応する美神。それに気付いた茂流田もホッと一息つきここが勝負と一気
にたたみ掛ける。
「無論、3億だけではなくこの部屋の金庫には金塊がたくさんのあるのだがね。君がここ
まで来れたならそれは自動的に君のモノになると思うんだが?」
『!!……いいでしょ。行ってやろうじゃないの!!』
交渉成立のようだ。
「とっとと歩け!!」
落とし穴に落ちた横島は現在、完全武装した兵士に連行されていた。抵抗しようと思えば
できない事でもなかったが、悠闇が自分たちをすぐに殺さない所からどうやら何かに利用
されるらしいと判断したため、あえて向こうの策にのることにしたらしい。
しばらく連行されていると、須狩が現れる。
「横島忠夫、あなたには―――
「何でもするから殺さんといてーーー!!!」
―――いやーーーー!!!」
須狩がいい終わる前に横島のル○ン・ダイブが炸裂する。その速さは正に電光石火。横島
は須狩に接近した際に何かを仕掛ける。
『!! 横島、おぬし何考えておる!!』
「うっ!? 何を飲ませたの!?」
悠闇が何か気付いたらしい。須狩も横島に何か飲まされたに気付き動揺する。そして横島
のみ期待に満ちた目で須狩を見つめていた。
「よ こ し ま―――」
須狩の目がぼんやりとしてくる。その間にも兵士は横島を捕まえようとするが、横島が
須狩の背後を取ったためどうにもできなかった。
「―――愛してるわ!!」
「ああ、かわいいぞ!! 最高やーーーーー!!!」
『―――』
《恋》
どうやら須狩に飲ませたのは文珠であって念じられていたのは《恋》。須狩は文珠の命ず
るままに横島に抱きつく。そんな須狩の変わりように兵士はどうしたらいいかわからなか
った。そして……
『どうやら、ワレはおぬしに肝心な事を教えていなかったらしいな。』
「あ…あの心眼…さん?」
悠闇は怒りの沸点を超えたらしい。それも凄まじく。
そんな悠闇に須狩に抱きつかれて有頂天だった横島も気付く。
そう、自分はここで死んだなと。
「ねぇ、横島さん。こんなむさ苦しい所から抜け出して、私と一緒に……」
須狩が乙女の目をして横島を誘惑するが、今はただひたすら怖かった。その威圧感は流石
は元黒竜将といったところか。あの横島が女の誘惑で暴走していないのだ。その恐怖がど
れほどかお分かりになるだろう。
『……横島、至急式神を作ってくれぬか?』
疑問系のはずなのに、その言葉は拒否は許さんといった感じであった。横島は敬礼をして
すぐに人型の紙を取り出して、術に入る。
「ね〜横島さんたら、聞いてます〜?」
須狩がそれはもう普通の男だったら即KOな誘惑をしてくる。しかし今の横島にそれを
堪能できる余裕はなかった。そのまま式神を作成してバンダナから出た輝く結晶は、そ
れに憑依する。
「ふむ……前回よりいい出来だな、横島。」
「あっありがとうございます!!」
横島が悠闇にここまで敬語を使ったのは初めてではないだろうか。背筋を伸ばしビシッ
と敬礼をする。兵士たちはいきなり現れた悠闇に驚くよりもその発する気に押されて何
もできなかった。触れば殺される。そんな気配を纏っていたのだ。
「……覚悟はよいな?」
「―――」
悠闇がそう口にした瞬間、部屋の時間が止まった。いや、実際には止まってなどいない
のだが皆が絶句状態であった。
そして今、横島が後に最も恐れるお仕置きが発動する。
邪眼・開闢<カイビャク>
「矯正せよ。」
これが後に横島ファーストインパクトと呼ばれる始まりであった。
(……左手が動かぬか。)
悠闇が邪眼の代償を確かめていると、横島は自分に何が起こったのか少しずつわかって
きたらしい。
「あっあれ? へっ? えっ!? まっまさか……しっ心眼……まさかお前……」
どうやら横島も自分の異変に気付いたらしい。しかし認めたくないのか、悠闇の言葉を
待つ。
「わかっておるだろ? 言葉どおり矯正させてもらった。いわゆる不能というやつだな。」
その言葉に兵士たちも思わずあそこを確かめてしまう。横島は悠闇の言葉を少しずつ理解
していっているようであった。
「矯正? 不能? ED?……………………いやーーーーーーーーー!!!」
「うるさいぞ。」
沈黙した後、全てを悟った横島は咆哮する。それはこの世の終わりを、自分の人生の終わ
りを嘆いているようであった。
「どうしたの? 横島さん?」
相変わらず、横島に恋している須狩は普通に横島の容態を心配する。しかし横島の咆哮
は止まらない。
「お願いやーーー!! 何でもするからこれだけわ!!」
「ふむ、どうするかの。」
悠闇に泣きすがる横島。もちろん、この呪いが永遠に続くわけないが、それを横島が知っ
ているわけもなく必死に謝り続ける。
「まぁ、とりあえずはあの男を懲らしめに行くか。話しはそれからだ、横島。」
「はっはい!!」
とにかく今は悠闇に逆らってはいけないと判断したのか横島はすぐに頷く。そしてその後
から須狩がついてくる。
「道案内の方、頼めるか?」
「何で私があなたの言う事を聞かないといけないのよ。」
須狩は悠闇が嫌いなようで睨みながらそう言い放つ。仕方無しに悠闇は横島を通して須狩
に案内させる事にする。
「横島さんが、そういうなら……では案内させていただきます。……あなたたちはついて
来なくていいわ。」
須狩は兵士たちに退去を命じて横島たちの案内を始めた。
「まずいぞ、このままではこちらに来られるのは時間の問題だ!!」
横島たちをモニターで監視していた茂流田は須狩が敵に回ることなど予想外で大慌てで
あった。ちなみに美神たちが写っているモニターでは雪之丞がゴーレムと戦っているよ
うであった。
しばらく頭を抱えた後、茂流田は切り札を使うことを決意する。
「試作段階ではあるが、しかたあるまい!!」
「ここを曲がったら後少しですよ、横島さん♪」
須狩は悠闇に見せ付けているのか、わざと横島に抱きつきながら会話をする。そして肝心
の横島ではあるが、
「……はぁ〜、胸が当たっているというのに……空しい。」
背中に哀愁を漂わせていた。そんな感じで茂流田がいる部屋に進んでいた一行であったが
悠闇は何処からか高まる霊圧に警戒する。
「横島!! 気をつけろ、何か来るぞ!!」
バァァァァンッ
横の壁を突き破り現れたのは人間と鳥が合体したような怪物であった。
『これが我々の切り札!! ガルーダだ!!』
スピーカーから茂流田の声が聞こえる。悠闇はガルーダという単語にのみ反応して後は
相手の様子をうかがう。
(しまった!! 今のワレではどうしようもない!!)
悠闇は思わぬ強敵に自分が今も式神に宿っていた事を後悔する。しかし後悔している暇
もなくガルーダは悠闇を目掛けて蹴りを放つ。
「ちっ!!」
「心眼!!」
何とか回避に成功して追撃に備えるがそれはやって来ない。
「フォォォォォッ」
ガルーダはブルース・リーような声と動きをしている。
「横島!! 呪いの件だがな。」
「なっ何だ!! 解いてくれんのか!?」
目を輝かせて横島は悠闇の言葉を待つ。
「コヤツに無傷で勝ったら解いてやろう!!」
ゴォォォォォッ
その瞬間、霊圧が立ち昇る。
「……今の言葉、忘れんなよ。」
横島は栄光の手とサイキックソーサーを出して、ガルーダと向き合う。この強敵相手に
無傷。それは厳しすぎる注文だろう。
「フォォォッ」
「……とっとと来いよ。今の俺は誰にも負けん!!」
しかし、今の横島はそれを遂げるしかないのだ。
「フレ! フレ! フレ! よ こ し ま!!」
須狩がチアガールな感じの応援をしているが今は、気にしている場合ではない。
横島は今、大切な人質を助けられるかどうかであるのだから。
(待ってろ、俺の息子よ。今、助けてやる!!)
ここにある意味、本気モードの横島がいた。
――心眼は眠らない その38・完――
あとがき
須狩に《恋》発動。これを予想してた人は凄いです。
外伝もこのための伏線だったり。