横島は呆然とする。
門の外に居たのは居る筈の無い人物であり、ついでに今最も来てほしくない人物その2――
「みか…み、さん?」
――美神令子だった。その1の雪之丞が来たら即殴り倒して冷凍便で郵送する心構えだったが。
「ど、どうしたんスか?」
彼女は笑った。
心の底から、慈母の様な笑みで。
「なんでもないわ――弓さんから、電話が来ているかと思って」
笑う。
横島はその笑いに、強い違和感を感じた。理由と裏も無く彼女が笑うことにではなく。
雰囲気も顔も霊波も後ろにあるコブラも無意識展開心眼による下着透視による選別(猛烈な罪悪感が来たがとりあえず切り捨てた)にも、何の違和感が在ろうかと言うほどに美神だ。
しかし、何かが違う。
「…あんた、誰だ?」
横島が霊気を高める。
「何を言ってるの?雇い主の顔を忘れたんじゃないでしょうね?」
顔を指差し、嗤う。
「違う…あんたは美神さんじゃない――ほら」
ふにょん。
擬音だけで何が起きたのか分かると思うが、横島が無造作かつごく自然に美神のその胸を鷲掴みにしたのだ。
来るはずの衝撃が、来なかった――前からは。
「やはり――だぽっ!?」
「何をやってるんですかっ!!!」
鞘付きではあったが、神剣で思いっきり殴られた。(その後ろでは百合子がかっきりポーズを)
「やっぱりそのくらい大きい方がいいですかっ!?」
小竜姫だって無いわけではない。詳しくは香港編・超加速中参照。
しかしやっぱりGS界で小鳩・年増メドとタメはるきょにう。敵うわけもない。
ひーんと泣きながらも殴る蹴るキル(誤字にあらず)。
「どうせ私なんてー!!」
最初に殴ったときに鞘が吹っ飛んだ――つまり刃が出てしまっていることにも気づかず、ザクザクザク。
…さすがに血が流れすぎかと思われる。既に80%くらいは楽に流れてそうな感じである。
当然死亡レベルなわけであるが、まだまだ血は流れ出ている。さすが元人外、現魔外。
「し…死ぬ…!小竜姫様、俺一応魔族も混ざって…!?」
だが、さすがの彼でも神族武具で滅多刺しにされればキツイようだ。
「誰がプチ隆起ですかー!!」
「んな事言って……あ゛ー……!!!!」
結果。壁は真紅になった。
「気づいたのですが――」
「何だよ?」
これ以上異常が有るたぁ思えねぇぜ、と雪之丞が言外に言う。
「まず一つ。皆さんが順応していること――これは壊れお姉さまを見て一緒に壊れたという説も否定できないのですけど」
「確かにあれは…1週間も続けば異常が飽和して逆に普通になりそうでござるな」
「後のもう一つは――」
その時、声が聞こえてきた。
「ただいまー!」
キヌの声だ。
魔理の声も小さくではあるが聞こえてくる。
「帰ってきたようでござるな…」
シロとタマモが玄関のほうにと歩いていく。出迎えと土産狙いが3対1だ。土産メインではないだけ6年という歳月は無駄ではなかったらしい。
いい機会だ、と雪之丞は立ち上がった。
「とりあえず俺は帰るぜ。美神の旦那が善人になったんなら、それはそれでいいじゃねえか」
「それはそうですけど…」
こきん、と雪之丞は首を鳴らした。
「…もしかしたら、改心したのかもな」
それはありえませんわ――と、言おうとしたその時。
玄関のほうから、ドタンバタンと音が聞こえてきた。
聞こえてくるのは魔理の声――それも、2重にだった。
「何者だ、てめぇっ!!」
「そっちこそっ!!」
一文字魔理が、二人。
霊波カイザーナックル【タイガーファング】が、必殺の威力を持って、先に来ていた方の魔理を襲う。
後から来た方の魔理はそれを避け、同じくタイガーファングで殴り返す。
繰り返される打撃の応酬。
それを止めるのも、やはり二人のキヌ。
「「や、止めて下さい魔理さん!!」」
彼女たちは特に敵対していない。彼女たちでは操りあいしかできない訳であるし。性格もドッペルゲンガー見たら即喧嘩と言うようなものでもない。
「止めるでござるっ!」
シロが両手から霊波刀を出し、魔理を止めた。
タマモも飛び出し、もう一人の魔理を幻術で庭に追い出す。
呪縛ロープを持った弓と雪之丞が下りてくるのはほぼ同時だった。
「――で、だ。」
雪之丞が、グルグル巻きにされた上でキョンシーのようなお札にA、Bと書かれた二人の魔理を目の前にして言った。
魔理の後ろには同じくA、Bと書かれたワッペンを付けたキヌ。
先に来たほうがAで、後から来たほうがBだ。
「どっちが本物か、なんて野暮な質問は無しにしようか」
雪之丞は事務所に常備されている(月10個以上が送られてくる…これは横島が事務所を辞める条件だった)文珠を取り出し、[真]と込めた。
ふわ、とその文珠は浮かび、二組の間に飛んで行き、ちょうど真ん中で砕けた。
「判別不可能?」
「そのようでござるな」
「もしかすると両方偽者というのもありえますが」
「タイガーでも呼ぶか?考えてること読み取るくらいには役立ちそうだが」
雪之丞が、タイガー――現在は一文字寅吉――を呼ぶ為、電話を手にする。
「止めておきましょう。役に立たなさそうですし」
あっさりと存在意義を否定され何処かで涙する虎男をまったく気にせず。
弓は言葉を続けた。
「間接的にはまったく打つ手はありません。というか、どちらかが本物という確証すらありませんし」
「いやな予感がするんだが」
魔理Aが札の下から言った。
「偽者、あたしもする」
魔理Bも同意。
「そっちが偽者だろうが」
「いやてめぇだ」
「あの、魔理さん達、落ち着いて…」
「そうです」
キヌが二人居れば宥める効果も二倍なのか、二人はすぐに黙った。
弓が素晴らしい笑み(当然ながら目はまったく笑っていない)で彼女たちを見ていたからかもしれないが。
「――ここで、先ほどの話の続きをお話しましょうか」
弓が口を開いた。
「もう一つは、人工幽霊一号です」
「「そういえば…帰ってきてから一言も喋っていないでござるな」
タマモが開きかけた口で悔しそうな表情を作った。
「…たまに自己メンテナンスを行うことはあるのですが、ここまで霊波が無いのはありえません――繋げて考えるのもいささか不自然かもしれませんが、繋げましょう。何故人工幽霊が居ないかと、偽者の存在を」
弓は文珠を手に立ち上がった。
「人工幽霊一号の結界は境界面で効果を発揮するもの、言うなれば病院のCTスキャン。偽者が魔理さんの【皮】を被っていたとしても、弾かれてしまいます。聞くところによると、人間に化けた魔族も通さないとか。だから、もしそれがために人工幽霊を排除したと言うのなら――」
弓は、文珠を発動させる。
「――こうすれば良いわけです」
文珠が光った。
[館]
弓の体が分解され、人工幽霊一号の在った場所を擬似的に満たし、地脈と融合する。
『結界作動…!』
少しだけくぐもった弓の声。
それと同時に、事務所の地下、人工幽霊一号の核とでもいうべき部分から、結界が作動する。
魔理B、キヌAが吹き飛ばされ、壁と結界に挟まれる。
「がはっ!」「きゃぁっ!」
吹き飛ばされ、悲鳴を上げる二人。
「…どちらかは残す寸法だったわけでござるな…!」
シロが霊波刀で魔理の縄を切り、立たせる。
『さぁ――正体を現しなさいっ!!』
結界の出力が跳ね上がる。
びり、と魔理とキヌの表面が破れ、
『カァアッ!!』
黒いモノが飛び出した。
一方は雪之丞へ、もう一方はキヌに結界をぶち破って飛ぶ。
「しゃらくせぇっ!」
雪之丞が魔装術を展開した。
魔装が瞬時に変形し、ポーズをとり、そして叫ぶ!!
「ブレストファイヤーッ!!!!」
『妙神山に行く時サルに用があると言うのはその為なんですの!?』
弓の突っ込みをものともせず、真っ赤に光り輝く(一応)霊波砲が、いまだ飛び来るモノを襲う。
ズビュウウウウウ!!!!!
なんとなく間抜けな音ではあるものの、その威力は圧倒的だ。
黒いモノは瞬時に蒸発した。
もう一体。
キヌの近くに居たタマモが、それを蹴り上げた。
それは、黒い僧衣を纏った老人のようなモノ。
下半身は黒い煙、顔は影だ。
「せめて、痛くしないでやるよ!」
雪之丞の雄たけびが響く。
「グラビトンッ・ハンマァーッ!!」
雪之丞が右手の魔装を凝り固めた黒球、それに繋がれた魔装の鎖を握る。
鎖を動かし、数回転。手元の操作で動きを変えた黒球は、真上からそれを押しつぶした。
グシャ、と床がひしゃげ、砕けた。
当然ながら黒い僧衣は跡形も無い。
「…終わりか」
雪之丞が魔装を解いた。
部屋のあちこちに残骸がある。
調度品と壁、敵のものだ。
「それじゃ、これで――」
タマモが[浄]を発動させた。
黒いヘドロのようなモノが蒸発し、消えていく。
「終いだな。今度こそ、俺はか」
雪之丞の言葉が途中で切れた。
黒い霧。
それが、雪之丞の胸を貫き、同化していた。
『――儂を、魔族とでも思うたか?』
しわがれた禍々しい声。
雪之丞を、黒い霧は浸食していく。
『我が名はアレクソウル!冥土の土産に覚えておくが良いッ!!」
雪之丞が魔装術を纏い、どこからか赤い人魂が飛来してきた。
その体から発せられるのは、禍々しい神気と霊気。
弓が[館]を解き、呟く。
「最悪ですわ…!!」
はっきり言って、絶望的な戦いが始まった。
偽モノ美神襲来&敵登場&ユッキー操られです。
人工幽霊一号は最初から考えてあったんですよ?決して書き忘れたとかじゃありません(汗)
今回短めですが、文が詰めてあって自分では窮屈に感じたんですが。
開けたほうが良いでしょうかね?
(注)哂・嗤―どちらも「わらう」と読み、嘲笑う、せせら笑うと言った意味。
レス返し〜。
>LINUS様
ご期待ありがとうございます。
育ての親は教育係とお姉ちゃん(激恐)。
サルは武術の師匠で近所の優しいおじさんと言った役どころで。
>マニアック様
そのとおりです。
F○7で腕が銃の親父が着てたのを思い出したので。実は思い付きです。
旋々竜のイメージは肌の白い銃親父、もしくは結構最近までドラゴンマガジンで連載されていた捨てプリのベルケンスのおっちゃんかユーマです。
>しょっかー様
本当にそうだったら良いかもですが…偽者です。
>Dan様
安易と言える【偽者】なわけですが…。
手腕はからっきしですが、精一杯書いていきたいと考えております。
>柳野雫様
ですよね、完璧男でクソガキかと思ってたんですが。
ちょっと前の背中見えたときとかもうイヤンッて感じで。
偽者って展開には拍子抜けされそうだなぁ…。
>偽バルタン様
一応ネタばれなので前半自粛。
まさしく自業自得。今回の話の間、キーやんに面会中です。
>眞様
セーラーは確かについていますがさすがに違います。
水兵の服です。サイズは特注ですが。
次回、操られ雪之丞vsシロタマ弓魔理キヌ、横島家での戦いの予定。
受験なのでしばらく投稿はできませんが、できればご期待のほどを。