その女性の夢の中は、暗い森だった。
美神たち6人は、その中の小道を歩いていく。
「何も無いわね」
タマモが言う。シロも頷いている。
はっきり言って、何の気配も無いのだ。女性の霊気しか感じない。
犬神の二人が言うのだから、美神達には異存が在ろうはずも無い。
念の為、前衛である魔理が一人5個ずつ持っている文珠、その1つ――[索]を使う。
…全く反応なし。
文珠でも反応無しとなると、よほど隠行に優れているのか。
警戒しながらも、一行は進んでいく。
何の罠も無く、あっさりと深層意識の場所、巨木へとたどり着いた。
ここに来るまでに1kmほど山道を登ってきたので少々疲れてはいるが…
シロと魔理が前に出る。
少し離れて美神、その後ろにキヌとタマモ、さらにその後ろに弓が付く。
…シロが文珠に[護]を込め、巨木に触れた。
何かがあれば即文珠が発動する。
Aランクの仕事は、例えばパイパークラスの魔族や悪霊を相手にする仕事だ。
単純に霊力はシロの倍近く。
しかし文珠はパイパーより霊力が倍近く違うメドーサすら文珠は拘束してのけた。
少しの恐怖心を彼の武勇伝で押し込め、霊波を放射する。
ババ、バチバチバチッ!!
激しい火花。次いで閃光。
閃光と共に、シロの腹にソレはめり込んだ。
――ソレは、フォークのような槍を持った小悪魔のようなモノ。
ガハ、とシロの口から血が溢れた。小悪魔を弾き、[護]が割れる。
[護]の効果で真っ二つにはされなかったが、シロはもう戦えない。
「一文字さん、シロを下げて!おキヌちゃん、ヒーリング用意!!」
美神が叫び、疾走する。
ナイトメアは、妙にモコモコのパジャマとナイトキャップを被った3頭身以下の子供の姿。某悪Qなら涎を垂らしそうなくらいに可愛い。
――当然、美神達はそんな見かけに騙されない。
「はっ!」
金色の火球がタマモの掌から放たれる。
ソレは美神の伸ばした神通棍、その先端に当たる。
――形はぶっちゃけビームジャベリン。
「極楽に――」
しかし、それは想像外の動きをとる。
鞭と化し、さらに三本に分かれたのだ。
狐火の加速を受けた三本の神通鞭がナイトメアを叩く。
さらに[速]を発動させまわりこんだ弓が、叫ぶ。
「弓式除霊術!裏奥義、千手観音!!」
千の腕を背負う姿。
その手の中に、珠が生まれる。
「開眼!」
美神の鞭が蛇のように動き、ナイトメアを縛り上げる。
そして。
「――お逝きなさいっ!穿光条!!!」
極太の霊波砲が、ナイトメアを灼いた。
神通棍は一本おしゃかになったが、シロも特に大怪我と言うわけでもなく、結果としては上々と言えた。
文珠に[治]と込め、シロの腹に当てる。
発動した文珠は、シロの寝顔を安らかにした。
「…美神、もう完全に気配は無いわ」
「そう――じゃ、各自戻るわよ」
まずは魔理とシロ。[脱]を発動させ、消える。
次にキヌとタマモ。
弓がその次に出て行き、美神が最後に出た。
「――と言う仕事だったのですけど」
「ほう、楽勝だったんだな?」
「ええ。Aランクとは言え、被害はシロさんが腹を打たれた程度。お金もよかったので、お姉様の機嫌は上々でしたわ」
弓の顔は、そこで暗くなった。
「私たちが気付いたのは、今日でした――実際には、その除霊の翌日からだったようです」
シロもタマモも、なんとなく渋い顔で頷く。
「お姉様が――壊れたのは」
――翌日。
「それでは行って参ります」
「ん、行ってらっしゃい――気をつけてね」
弓たち五人は、それぞれ仕事に向かっていく。
キヌ・魔理チームの熱海除霊組。
とにかく時間がかかる除霊で、1週間もかかるが、金もかからず仕事も簡単だ。
だから依頼料は200万。某黒男並みの相場を誇る美神除霊事務所にしては破格の値段だ。
少し妙なのだった。何しろ昨日帰って来てすぐの、特に急ぎでもない依頼を受けたのだから。最低でも美神自身が調べてから受けるはずなのに。
しかし仕事は仕事、と二人は割り切って出て行った。
そして弓・シロ・タマモたちの仕事は、南海の孤島での仕事だった。
一応東京都で、どっかの金持ちの故郷らしい。
こちらは急ぎで、六道家のヘリで行くことになっていた。
こちらは一日――長くとも三日で戻ってこれるはずだったのだが。
美神だけは東京での幾つかの簡単な仕事をこなす予定だ。
どうにも彼女の顔が気にかかった5人だったが、とにかく事務所を出て行った。
――そして、今日の朝。
季節外れの台風が島を襲ったのだ。
そのお陰で帰るのが遅れた弓達3人だったが、やっと帰ってきたのである。
事務所に帰ると、美智恵、唐巣神父が居た。
そして出てきたのは…笑顔のひのめを抱いた美神。
「え゛」
ひのめが笑うのは美智恵と横島に抱かれた時くらいなのだ。
いつもはわがままお姫様、といった感じで、姉のことはむしろ目のカタキ。
まず第一の異常。
「あ、お帰り3人とも」
笑顔で言う美神。
その後ろから笑顔の西条とその妻めぐみ――当然ながら旧姓魔鈴――が出てくる。
「それじゃ、美神さん」
めぐみが言う。シロとタマモが少し嫌そうな顔――また喧嘩かなぁ、と思ってのことだ――をした。
「ええ、また」
「「「エ゛」」」
第二の異常。
心の底からの笑顔。横島やキヌですら数回しか見たことの無い。
そして神父が挨拶してくる。
「やぁ、仕事帰りかな?」
その手に持つのは円筒状に丸められた紙。
「何でござるか、それは?」
「これかい?教会の新規設計図、とでも言えばいいのかな。美神君が建ててくれるそうでね――寄付と言う形で」
「「「ェ゛」」」
第三の異常。
美智恵と神父、西条とめぐみは笑顔で去っていく。
「さ、疲れたでしょう?中に入って」
「あ、ハイ」
所長室には、褐色の肌の美女、小笠原エミ。
最近黒くなってきている気がする六道冥子。
その姿があった。
「令子、この紅茶美味しいワケ」
にっこり、と微笑んで言う。
「そう、ありがとう」
美神が。
「「「ゑ゛」」」
第四の異常。
そして、そうだ、という感じで後ろに向き直った。
「シロ、役所にこれ出してきてくれない?タマモはこの口座に振込みを…何よその目は」
「…やばい所に対する物じゃないの?」
「れっきとしたNGO――国連辺りに対する寄付よ。気にしないで」
「「「ヱ゛」」」
第五の異常。
さらに驚愕は連続する。
「…なっ!?」
シロが叫びを上げた。
渡された封筒の中。よく見ると、役所に対する謝罪文やら脱税帳やらだった。
逮捕したら色々とばらす、とは書いてあるものの、なんと脱税額の三倍分の小切手が。
第六の異常。
さらに電話。
弓が取りに行った。
「はい、美神除霊事務所です」
《あ、弓さんですー?》
微妙に間延びした声――パピリオだ。
現在見た目は中学生程度。
《妙神山の施設の改修工事、ありがとうですー》
「え?」
《光ファイバーとか、上下水道とか、寄付って形ですから、サルが喜んでたですよー?》
「寄付って…無償?」
《それで良いって言ってましたけどー?》
「ええぇえっ!?」
第七の異常。
ガチャン、と電話を置き、横島家へと電話をかける。
その電話で思いっきり失礼な事を抜かしているのに、美神もエミも冥子も笑ったままだった。
――第八の異常。
――そして現在に至る。
「…寒気が」
「でしょうね…私も話していて冷や汗が」
「拙者は鳥肌が」
「私は尻尾が出た…」
「えー…この他にもお姉様は六道女学院で特別講師を自ら進んでなさっていますし、うちの事務所なら1億でやる仕事を、全て1000万円以下でこなしています。コブラの走行も1週間全て法定速度以下のようです…そして、話していて気付いたのですが――」
その言葉を聞き、雪之丞の表情が本気で凍る。
夕日が、やけに紅かった。
~その頃の横島家~
恐ろしい圧迫感。
ソレが居間を押し包んでいた。
中心に居るのは大樹と旋々竜夫人。
小竜姫に似た風貌を持つ夫人は、スーツの袖(人界での偽装らしい) から、一本の針を大樹の首に突きつけていた。
「ええと…母上は神魔がまだ争っていた頃は暗殺部隊の長だったので…迂闊な事は止めた方が良いと思うんですが…」
大樹がギギギと両手を上に上げた。
…前からの殺気とは別に、後ろから二つの鬼気。
1つは当然ながら百合子。
そしてもう1つ。横島の物だ。
人の恋人の母親になんてことしとくれとんじゃゴルァ!?印象悪くなるだろうがコノ糞親父がッ!?
そんなオーラがビンビンと言うか、背後にシャドウ(8頭身)が巨大扇子でシャドウボクシング――と言うよかシャドウマーダー?その練習をしているのが見えると言うか。
大樹は、久しぶりに、死んだなぁ、と思った。
~ずずず、とセーラー服(注・女子高生のじゃありませんよ?)でお茶を飲む旋々竜でお楽しみください~
ボロクズはほっといて、と横島は[保][温]で暖かいままの料理を運んでいく。
献立は御飯(コシヒカリ、文珠で代用)、若布と芋の味噌汁(味噌は自作だったが文珠で代用)、コロッケ(同じく代用)+自作のソース、微塵切りキャベツ、大皿にサラダ+自作のドレッシング。
[達][人]の効果か、どれも素晴らしく美味い。
あっという間に平らげ(旋々竜は小食だったが夫人は横島並みに食った)、旋々竜の手品を見ていた時。
チャイムが鳴った。
横島が、門を開けにいく。
縁側のスリッパを指で保持し、小走り。
少し重たい門の向こう。
「え…?」
そこに居たのは――
今回はお仕事と怪奇体験のお話でした。
最後に横島君の所にきた人物とは!?
(できれば)待(っ)て(てください)次回!
柳野雫様のレスを受けて思ったんですが、もう少し間隔あけたほうがよかったですかね?
レス返しー。
>LINUS様
似た物夫婦です(キッパリ)
今回の大樹は本気で死に掛けです。
夫人でシリアス結界とでも言う物が形成されてギャグモード治癒が働いていないですから。
実は父親とも母親ともあんまり会ってない子供時代を送っていると言う個人的設定が小竜姫様には。
>MAGIふぁ様
無意味なまでの恐怖を出す事を心がけましたもので。
今回さらに恐ろしいのは唐巣神父たちが順応している事ですが。
>しょっかー様
確かに、平穏ではありそうです。
今回の話でも怪奇を感じてくだされば幸せです。
>紫竜様
何で美神が善行を犯す(笑)と恐怖を感じるんでしょうねぇ。
>ゼフィ様
大丈夫です。
この話の宇宙意思は私ですから――靴下履いて逃げます!(大丈夫じゃないね)
>大仏様
私も学校では避けられてばっかりです。某UCATの老人みたいな事してますから。
美神さんも暫くは孤独を味わうか?
善行を日ごろから行っていると良い事もあるんでしょうけど。
やっぱり今回の真価は何も無い神父たちでしょう。
>犬雀様
ぶっちゃけ貴方(女?)様のファンです。
レスして頂いただけでも嬉しいです!
しかも次回への期待!
…に応えられたかどうかは…う~ん?
>漆黒神龍様
あの美神さんだからこそ怖いんでしょう。
今回頑張ってみました。頑張れって言われるとやる気と汁がどっぱどっぱと出てくる気がしますね~。
>偽バルタン様
それだけの威力があるんです(笑)
悪魔よりも悪魔らしい一面持ってましたから。
>柳野雫様
今回の話で経歴が出てますが…半分彼女の趣味です。
姿は某ジャンプで連載中の死神が出てくる漫画の夜○さんの色白バージョンを考えてください。
その手のキャラクターが結構好きなんですよね、私としては。と言うワケで登場。
さぁ、次回は横島君メインです。
一応伏線張ったんだけど、回収できるかどうか。
お見捨てなきようお願いします。