幼き子を狙う蜂
遠き天空より、それは来たる
迎え撃つは、風を纏いし超戦士
希望の矢が、敵を討つ。
エピソード十 不可視の矢
「ふぅふぅふぅ、子供はこんなにタフなのか(汗)」
肩で息をしながら呟くきたろう。美神たちが出発した後、既に2時間もの間れーこの遊び相手をしていたのだ。
「お疲れ様です」
そう言って熱い緑茶の入った湯のみを渡すおキヌ。それを受け取ったきたろうはズズズと音を立てながら飲んでいた。
「ふぅ~~~~、やはり日本人は緑茶に限るぜ」
「アンタはワニでしょーが」
部屋に入ってきたタマモがナイス突っ込みをしていた時
≪コツコツ≫
突如窓を叩く音がした。おキヌが窓の方を見てみると
「あれ・・・?鳥がいます」
小鳥たちが止まっていた。それを聞いたれーこは何かを感じていた。
「逃げないわね」
「かわいい・・・れーこちゃんも来てごらん」
タマモも近づいて見ていた。すると突然羽ばたいた。小鳥たちがいなくなった窓を見ると、事務所の前に白いスーツを着た赤毛の女性の姿があった。
「だれでしょうかあの人は?」
「どうやら事務所に用があるみたいね。私が降りて聞いてくるわ」
そう言ってタマモは女性のもとへ向かった。
(ん・・よく眠れたようだ)
横島のアパートの中で心眼が目を覚ました。心眼が辺りを見回すが、そこには誰もいなかった。
(どうやら横島は美神殿のもとに行ったようだな)
心眼がそう納得した瞬間
≪ドクン≫
(な!?なんだ今の邪気は!?)
心眼は突如感じた邪気に驚いていた。そして邪気を発する場所を感じてみると
(マズイ・・・美神殿の事務所か!!)
心眼は驚くのを後回しにしてどうやって現場に行こうか考えていた。すると、
何かを思いついたのかある人物にテレパシーを送る。
(美神殿!!美神殿!!返事をしてくだされ!!)
美神へ必死にテレパシーを送る心眼。すると
(・・・の・よ、・・・んな・・の・!)
電波の悪い携帯電話のような念の声が聞こえてきた。それを聞いた心眼は更に強く念を送る。
(美神殿!!返事をしてくだされ!!)
(誰なのよ、まさか・・・心眼なの!?)
やっとのことでテレパシーが繋がる心眼と美神。心眼は手っ取り早く用件を言う。
(美神殿!!今そなたの事務所に邪気を感じた。魔族か何かがいるかもしれん)
(分かってる、さっきその魔族と戦っていたから。でも心眼、今アンタどこにいるのよ!?)
(横島のアパートだ。すまぬが一度横島をこっちに戻してくれぬか?私と合流してからすぐにそっちに向かう)
(しょうがないわね・・・。分かったわ、でもすぐに合流するのよ!!)
(承知した)
「ったく、こんな忙しい時に!!」
コブラを運転しながらぼやく美神。そしてそのまま横島に指示を出す。
「横島君!今からアパートに戻って心眼連れてきなさい!!アンタの戦闘時の指示を送れるのはアイツぐらいよ」
「分かりました!!・・・美神さん・・・・絶対に死なないでください」
心底心配している横島の言葉を受け
「んな事分かってるわ!!心配なら早く心眼連れて助けにきなさい!!」
横島を送り出す言葉を放つ美神。
「分かりました!!必ず助けにきます!!待ってて下さい!!」
横島はそう言って自身のアパートへと道を変えた。
「失礼ですけど、貴方は?」
事務所から降りてきたタマモが女性に尋ねた。
「こちらは美神令子さんのお宅ですね・・・。私、令子さんに頼まれて子供をお預かりに来ました」
尋ねられた女性は薄く笑みを浮かべながら答えた。
「美神に?」
「ええ、子供の世話は大変でしょう?プロの私に任せてくださいな」
窓際にいるれーこを見ながら答える女性。その様子を見ながら考えるタマモ。
「(何か出来すぎている気がする。ちょっと試してみようか)ちょっと待っていてください。すぐに戻りますので」
そう言って一礼し事務所に上がっていくタマモ。部屋に事務所内に入ったタマモはきたろうに尋ねる
「ねぇきたろう、確かアンタ言霊使いだったわね?」
「それがどうした?」
「あの女は正直怪しい。こんな状況で美神があんな奴を私たちに相談も無しに頼むなんて考えにくいわ」
「だからそれと言霊がなんの関係があるんだ?」
イマイチ真意が掴めないきたろう。そんなきたろうを見てタマモはハッキリと自分の考えを述べた。
「だから、言霊でアイツが言っている事が本当かを確かめて欲しいのよ」
タマモの言葉を聞きやっと理解するきたろう。すると早速
「『あの女の』『言っている事は』『真実か』?」
きたろうはこの声を物質化すると、女性目掛けて投げる(言葉は基本的に不可視なので相手には何かが当たったとしか理解できない)。すると声は女性に当たりきたろうのもとに跳ね返ってくる。それを見たきたろうは
ニヤリ
不敵な笑みを浮かべる。
「どうだったの?」
タマモの問いにきたろうは跳ね返ってきた声を見せる。そこには
『あの女の』『言っている事は』『偽り』
完璧なまでの証拠が存在した。
「・・・遅い。遅いじゃん」
女性は待っていても来ないタマモたちに苛立ちを覚えていた。そしてある一つの結論にたどり着く。
「まさかアイツ等・・・私の正体に気付いたのか?」
女性はその結論に達すると同時に怒りが湧き上がってきた。
「許せないじゃん!!こうなったらあの御方から貰い受けたこの力で・・・」
女性は妖力を開放しハーピーに変わった。そしてそのまま身体に眠る“もう一つの”魂を開放した。
すると、
背中に生えていた翼が二対に変わり
両腕からは何かを射出するような穴の付いた篭手が出現し
全身を黒と黄色で統一し
下腹部に銅色のベルトを持った
蜂、いや・・・蜂と鳥を組み合わせた異形の者へと変貌した。
「凄い魔力じゃん!!これでこんな結界も軽く壊せ・・・がああ!!」
異形の者へと変貌した元ハーピーは、突如身体を掻き毟りながら苦しみの声を上げた。腕の篭手の穴からは蜂が持つ鋭利な針、背中の翼から羽が十数本外れ、空中に浮かび上がる。ハーピーの眼球は赤色に変わった。
何故ハーピーが以上を起こしているか?それは強固な霊基構造を持たないハーピーが邪気の篭った魂を無理やり融合させたためである。そのため蜂の魂とハーピーの魂が相反してしまいこのような変異を起こしてしまったのだ。
(タマモは膨大な霊力のキャパシティを持っており、霊基構造もなかなか強度の高い者だったため変異は無かった)
「ミガミ・・・ゴロズ!!」
ハーピー(変異体)は両腕を上げると
≪バシュン・バシュン・バシュン・バシュン・バシュン・バシュン≫
≪ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン≫
篭手から多数の針を射出し、浮いていた羽をフェザーブレッドに変換させ放つ。
「きゃっ!!」
強力な霊波同士による衝撃波が事務所内に発せられる。幽霊であるおキヌにはキツイものだった。
「まずい!!こうなったら・・・『全ては』『遠き』『理想郷』!!」
きたろうはその言霊を結界に付属させた。すると結界の収束率が急激に上昇した。
「アンタ・・・一体何したの!?」
「一時的に結界を強化する言霊を付属させた。だがあくまでその場凌ぎのモンだ、長くは続かねぇ!!」
タマモの問いにきたろうが顔をしかめながら答える。その時
≪ブロロロロロロロロロ≫
「大丈夫皆!?」
コブラをすっ飛ばしてきた美神が現れた。美神はコブラの後部座席からスナイパーライフル(ドラグノフ)を取り出し、ハーピーに向けて構える。
≪ドシュン≫
放たれた弾丸がハーピー目掛けて向かう。しかし・・・。
「ガアア!!」
フェザーブレッドを数枚合わせ盾にしそれを防いだ。ハーピーは事務所への攻撃を止め、美神に向けてフェザーブレッドを乱射し始めた。
「マズ!!」
美神はコブラを運転させそれを避ける。しかし全部は避けきれず防げなかった一枚がコブラの後輪を打ち抜く。美神はそれを受けバランスを崩しコブラから振り落とされてしまった。倒れている美神をハーピーが狙っていた。
(万事休す・・・ね)
美神は覚悟を決め目を瞑った。ハーピーはそんな美神に対してフェザーブレッドを放つ。しかし・・・。
≪バシュッ!!≫
突如飛来した破魔札がそれを破壊した。攻撃が来ないのを不審に思った美神は目を開いた。するとそこには、落雷の中から現れたロングコートの女性・・・美神美智恵の姿があった。
「娘に手出しはさせません!!」
そう言って美智恵は霊体ボーガンを取り出し、ハーピー目掛けて射出する。放たれた矢はフェザーブレッドの盾を打ち破り、ハーピーの右翼に突き刺さった。
「ガアアアアアアア!!」
苦しみながらハーピーは空中へと舞い上がると、一気に人間の視覚では確認できない高度まで上昇していった。そして右腕の篭手を下にいる美智恵に向けて構える。
≪パシュン≫
静かな音と共に針が放たれた。
「・・・は!?」
第六感により何かを感じた美智恵はその場を飛び退いた。すると、その次の瞬間に針が先ほど美智恵のいた場所に降ってきた。更に飛び退く際にボーガンを落としてしまっていた。
「まずいわね。・・・このままじゃ当たるのは時間の問題だわ」
美智恵はそう言って顔をしかめる。その時・・・。
≪ブオオオオオン≫
バイク音を響かせGCαに乗った横島が現れた。
「遅れました、美神さん!!」
「遅いわよ横島君!!それに心眼!!」
(申し訳ない美神殿!!)
そう言うと横島は両手を下腹部に当て、銀色のベルトを出現させた。そして・・・。
「変・・・身!!」
声と共に
緑の空牙へと
“変身”した。
「な、なんじゃ!!横島のやつイキナリ姿を変えやがった!!」
事務所の窓から様子を見ていたきたろうが驚きの声を上げた。おキヌとタマモは空牙を知っているためその言葉を聞き安心する。
(頑張ってよ・・・ヨコシマ)
(負けないでください。横島さん!!)
「く!やっぱりまた緑なのか!!」
空牙はまた緑になった事を悔やんでいた。そんな空牙に心眼が言葉を掛ける。
(落ち着け横島!!この姿になった以上、何か特殊な能力が備わっているはずだ。この姿になって何か変わったことはないか?)
「確か・・・沢山の音が同時に聞こえたような気がする」
その言葉を聞きピーンとくる心眼。
(どうやらそなたのその姿は、感覚を研ぎ澄ます能力だ。おそらくは狙撃等に向いた能力だろう。何か狙撃に使えるものはないか?)
心眼の言葉を聞き周りを見渡す空牙。すると、あるものが彼の目に飛び込んできた。それは、先ほど美智恵が落としたボーガンだった。
「・・・これなら!!」
空牙はボーガンを拾い上げると、感覚を研ぎ澄ましハーピーを探しながら上空に向けて構える。その瞬間、霊体ボーガンは古代文字の彫られ、緑と金の色彩を持ったボーガンに変わった。
(ち!うまく標準が定まらない!!)
しかしまだ不慣れなこの姿での狙撃は空牙に取って困難を極めた。そんな中、突如事務所から声が上がる。
「横島!!今からワシの言うことを良く聞け!!」
声を聞いた空牙はきたろうの方を向く。
「いいか?今から簡単にお前に言霊を使用する方法を教える!!まず自分が念じたい言葉を頭に思い描け!!そしてそれを物質化させると念じるんじゃぁ!!」
きたろうの言葉を聞き空牙はある言葉を頭に思い描く。それは・・・
『俺は』『この矢を』『外さない』
というものだった。そして空牙はその言葉を物質化させ言霊にすると、ボーガンに付属させる。
「・・・っと、その前に」
構えながら何かを思い出した空牙は頭の中でもう一つ言葉を作っていた。
(何をしておる横島!!早く撃たねば我々がやられる!!)
「ちょっと待て心眼!!どうしてもこの言霊を作らなきゃいけないんだ!!」
そう言って横島はある言霊を作成した。それは
『アイツの』『心が』『知りたい』
だった。それを見た心眼はため息をつく。
(また・・・救う気か?)
「あたりめえだ!!アイツだって好きであんな姿になったわけじゃねえはずだ!!」
そう言いながら空牙はその言霊を発動させる。すると、頭の中に現在のハーピーの心の声が聞こえてきた。そこから聞こえる声は痛みや苦しみ、そしてなにより、自我を失う恐怖が伝わってきた。それを聞いた空牙は拳を握り締める。
「心眼・・・ぜってぇアイツ救ってみせる」
(同感だ。あの邪悪な魂を破壊しろ!!)
空牙は構えていたボーガンのレバーを引いた。するとボーガンの先端に風の精霊が持つ浄化の風が収束しだした。そしてそれは一本の“不可視の矢”に変わる。
「いっけえええええええええええええええええええええええええええ!!」
救世の気を宿した矢は、一直線にハーピーに向かって放たれ、外れる事なく命中した。その瞬間、辺りは閃光に包まれた。
「はあ~、何でこうなるのよ~」
デスクで美神は一人頭を抱えていた。あの後、美智恵に横島が変身した空牙の事、時間移動のことで説明と追及の嵐が美智恵が帰る時まで続いていた。
だがそんな事で悩む美神ではない。では何故か?
それは・・・美智恵が横島に言ったある一言だった。
「ねえ横島君。令子を嫁に貰わない?」
これを聞いた美神は顔を赤く染めながらあたふたし、横島に関して言えば、
「俺なんかじゃ美神さんとは釣り合わないっスよ」
と苦笑しながら答えていた。
ところであのハーピーはどうなったかというと・・・。
「いつか貴方様の助けになるために参上します」
そう言って姿を消した。更に驚きな事だが、魔族だったハーピーは空牙の浄化の力を受け、魔族から反転し神族へと変わってしまったのだ。
「横島君・・・覚悟はいい?」
「横島さんの・・・バカーーーーーーーーーーーーー!!」
「浮気は許さないわよヨコシマ」
これにより横島は女性の嫉妬によるお仕置きが三日ほど続いたらしい。
「なんでやーーーーー!?理不尽やーーーーーーーーーーーー!!」
嫉妬する女性は怖いものである(汗)
あとがき
風邪の菌が胃に入ってしまい書くのが遅れたweyです。
いや~ハーピー戦はムズイっスね!!原作とどうミックスさせるかにメチャクチャ悩みました。
ちなみに次回ですが、ちょっと驚くべき展開を生む人間の登場の予定です。といっても原作読んでる方なら知っていると思います。
ではまた次回まで、さらばです。