インデックスに戻る(フレーム有り無し

▽レス始

「彼が選んだ道−14−(GS)」

リキミ・スキッド (2005-02-01 23:12/2005-02-02 00:00)
BACK< >NEXT

「知らないって言ってんだろ。記憶を共有しているからって、俺の生まれる前のことなんかそんなに詳しくなんかしらねぇよ。それに、なんだ、精神破壊とかいうのやってたんだろ? そんな状態の記憶なんてマジでわかるわけねぇじゃねぇか。」
「――そう。」
「そもそもジョーカーの記憶を知ってどうするつもりだよ? 生まれたばっかなんだぞ。」

これは横島達が戦いの翌日へと向かう前の晩のリムルと珠姫の会話。
珠姫は事細かに横島のことを聞いてくるリムルに必要以上に冷たく答えていた。
そもそも、珠姫には横島が精神破壊を受けていたときの記憶があるからこそリムルが嫌いなのだ。
あれほどの絶望を武器として使用するのは、効果があるとは思うのだけどそれでも珠姫にとっては嫌いになるには十分な意味を持つものだった。
珠姫が垣間見た横島の記憶は凄惨にして醜悪な、元々はシリアスの世界に生きられない男を完全にシリアスにしてしまう領域。
確かにあの世界に行きつづければ価値観は変わる。
感情など必要なく、いるのはただ己を戦わせる確かな理由とそれを可能にする技量さえあればそれでいい。
あの道を選んだ横島にとって、あの道を行くことなく幸福をつかめたという情景は死を超える絶望だろう。
そこまで思い出して珠姫はぎりっと歯を噛み締めた。

「絶望の魔眼なんて・・・・・・さいっていな能力だな!」

イラツキは言葉となって叩きつけられた。
リムルは珠姫の言葉に驚いたように目を見開くと、ふっと悲しみの微笑を浮かべた。

「本当に。その通りよ。大尉や軍の仲間達はいい攻撃方法だとか言ってくれるけど、その本質は醜いもの。」
「・・・・・・えっ?」

まさか同意されるとは思っていなかったので珠姫はきょとんとリムルを見る。
リムルはそんな珠姫に視線をあわせることなく言葉を続ける。

「何度この目を抉り取ろうと思ったかわからない。両親をこの目で壊し、その直後に妹すらも壊したこの眼をね。」

壊れた親の最後を看取った後、お腹がすいたと騒ぐ妹に視線を向けたのがいけなかった。
扱いきれない魔眼が解除されてもいないというのに、自分の目の力を体験したばかりだというのにリムルは妹を見た。
びくんっ、と痙攣した妹の体。
そしてそれ以外の感情が消えうせたような壊れた無垢の微笑み。

『おねえたまの目。灰色で綺麗。』

それが呪縛だった。
目を抉ろうとする度に思い出す言葉。
ふと顔を上げると珠姫が物凄く申し訳なさそうにリムルを見ていた。

「ごめん。俺、泣かせるつもりは・・・・・・。」
「気にしないで。いつものことだから。思い出すとこんな目でも涙が流れるの。」

何故自分は他人の使い魔なんかにこんなことを話しているのだろうとリムルは頭の片隅で思いながらも珠姫に微笑んで見せた。
それは酷く悲しそうな微笑で、珠姫は胸を締め付けられるような気になった。

「――――大尉や仲間が言うようにこの眼はいい武器になったわ。破られることなんて無かった。ジョーカーに破られるまでは、ね。」
「・・・・・・リムル。」
「誰もこの魔眼からは逃れられない。だから、両親や妹のことも不慮の事故だって、仕方が無い事だって思い込んでいたのに・・・・・・。」
「もういい。話す。ジョーカーが絶望で何を見たのかを話すから、もう言わなくていい。」

リムルが交換条件を求めて話していなかったということは珠姫にも理解できていた。
だが、これ以上リムルに喋らせておきたくは無かった。
たとえ性別が女になろうとも珠姫は女性の涙に弱いのだ。
割り込むような形で珠姫は危険なカードを切り出した。

「この世界にいるんだけどいない人。そしてその人が笑っている光景。それがジョーカーが見た絶望。」
「・・・・・・いるけどいない?」
「え〜と、なんて言ったらいいんだろうな。」
「親の、こと?」
「あっそれ!」

珠姫はリムルの言葉に喰らいつくと美神達のことを親と例える事で絶望の詳しい内容を話した。

「自分の全否定が、ジョーカーの見た絶望ってことね。」
「そう、そういうこと。」
「そしてジョーカーはそれを認めることができなかった。ある意味では幸せな光景なのに・・・・・・」
「幸せだからこそ、選べなかったんだ。」

誰よりも望んだ世界だからこそ、それを実現するために選んだ道を否定できない。
珠姫は自分と同じ存在である横島のことを思い、そして自分は横島のようには生きられないと悟っていた。
来る日も来る日も魔族化の恐怖に怯え、そしていつしかルシオラを憎むようになっていたのではないだろうか。
否定できないその考えに珠姫は顔を伏せる。
いきなりやってきて自分のその後の世界を奪った横島に対しての憎しみは無い。
逆にほんの少しのありがたさが存在する。
自分が味わうであろう地獄を変わりに味わった横島に対して・・・・・・。

「ジョーカーは、良いご主人様?」
「ご主人、様?」
「そうよ。貴方はジョーカーから生まれたんだから、ジョーカーのシモベのようなものでしょ?」
「そう・・・・・・だけど。俺とジョーカーの関係はそういうんじゃなくて・・・・・・。」

ではどういう関係だ。
珠姫は自分にそう問い掛けた。
全てが終わった後に同化するためだけに存在する関係なのだろうか。

「そんなの、嫌だ。」

胸の中がざわめく。答えの出ない何かが渦巻いている。
苛々して、そのくせ何故か誇らしくて、よくわからない感情だ。
気がつくとそんな珠姫をリムルが面白そうに眺めていた。

「なんだよ。」
「この魔界においてそこまで主人のことを考える使い魔も珍しいわ。強制されているわけでもないのに。」

リムルは思った。強制された信頼関係ではない、培われた信頼関係が珠姫と横島の間にはあると。
二人だけの強固な絆が二人には確かに存在し、それは強制ではなく本人自らが望んだ絆。

「あのイレギュラーを一番理解しているのは貴方かもね。」

珠姫の中で何かの歯車が噛み合った。
胸をしめるもやもやが消え去り、苛々さえも初めから無かったように消滅する。
同化するだけの関係ではない。
心の中で横島と珠姫の関係が、珠姫の在り方が決まっていく。
この世界においてお互いだけがお互いの全ての事情を知っている唯一無二の存在。

「――――あいつは俺がいないと駄目だから。」


「駄目だから・・・・・・お前なんかにかまってられないんだ!!」

珠姫は劣勢に立たされていた。
それも当然のことである。珠姫を人界最強と言わしめていたのは高い凡庸性を誇る文珠があったこそだからだ。
霊波刀の扱いは文珠が使えるようになってからはあまり練習もしていないので、戦いに関しては熟練されている魔族を前にしてはどうしても劣勢になってしまう。
それでも珠姫が負けていないのは相手の魔族に手加減されているからである。
時間稼ぎが目的のようでぎりぎりのところで珠姫にとどめをさしてこない。
相手が自分を殺そうとしないのはラッキーなのだが、珠姫はいつまでも相手の思惑に付き合う気など無かった。
相手の思惑通りに戦っていたら時間を稼ぐためにただでさえ横島との距離を広げられているのにそれがもっと広くなってしまう。
横島と珠姫の間にある絶対の制約である距離。
それを破れば珠姫は消滅することになるのだが、珠姫自身はそのことを少しも心配していなかった。
心を占めているのは横島の心が魔王時のあの空虚なモノに戻ることへの恐怖である。

「はぁっ!!」

横島に対して抱いている気持ちは恋心などではないということは珠姫自身が一番理解していた。
愛するもの達を守るために選んだ道なのに、結果愛するもの達を殺すこととなった破滅への道。
最後にはたった一人で戦いつづけ、安息などという言葉すらも消えうせた日常。

「いいかげんに、しろぉ!!」

その心は悟りを開いたものよりも真っ白で、そこには唯一つの言葉しか存在できない。
珠姫には誰よりも横島が体験した苦しみが理解できる。
唯一理解できる存在だからこそ、同化するその日まで横島を支えたいと思ったのだ。
いつか消え去る気でいる横島を止めようとは思わない。
ただ、消え去る横島が最後ぐらいなんの苦しみも迷いもなく去れるようにと、他の者と一定のラインをひいてやるのが自分の役目だと珠気は思った。
これは恋心ではない。
苦しんだ自分への自分からのせめてものご褒美をしたいと思う気持ちだ。
珠姫は自分にそう言い聞かし、そして両手に具現する霊波刀を振るうのだった。


―横島―

「くっ。やはり無理なのか!?」
「弱音を吐くなジーク!!」
「しかし姉上!!」

上空での戦いは未だ続いていた。
疲労が蓄積しているワルキューレはジークを叱咤するも己の体力が限界に近づいていることを感じていた。
ジークに至ってはもはや諦めの気持ちが心を占め始めていた。苛々するのを隠し切れずに脈動するグラムに手をかける。
全身全霊の力を持って剣を抜こうとするがぴくりとも動かない。

「なんのっなんの為に私の腰にいるグラム!!」
「ぐははははっ。ついには剣に己の無力さをなすりつけるか。」
「黙れ。貴様らも恥ずかしくないのか!! 魔界の最高指導者に貴様らは逆らっているのだぞ!!」
「ではその最高指導者に願うがいい。助けてくださいとな!! 腑抜けよなジークフリード。名も無き魔族にすら劣る!!」

横島は戦いつづけていた。
少しでも本調子ではないワルキューレと今一頼りにならないジークの為に竜二匹を相手にしているのだ。
もはや何個文珠を使ったのかすらも横島にはわからない。
漆黒の霊波刀を何度も降り、竜の鱗に傷をつける。
文珠の重複使用によって常に万全の状態に保っているが、精神的な疲れは徐々に体を蝕んでいる。

「なんだってんだ。」

横島は自分の体の変調に愚痴を洩らした。
先ほどから心臓の心拍数が上がっており、体が燃えるように熱くなっている。
滴り落ちる汗をぬぐい、襲い掛かる竜の炎を避ける。
その様子を確認したワルキューレは急いで横島の傍へと近づいた。

「ジョーカー。お前・・・!!」
「どうしたんですか大尉?」
「すぐに撤退しろジョーカー。霊気の使い過ぎで命を削り始めている。」

いくら文珠を多数使えるようになったからといって横島の霊気の量が格段に増えたと言うわけではない。
戦いを開始してそれほど時間はたっていないが、横島は自分だけでなくワルキューレやジークの補佐をしていたので文珠の減り様も三倍だったのだ。

「ここは私とジークに任せろ!!」
「そうだ軍曹。君は・・・・・・。」
「任せられません。」

横島は滝のように溢れる汗を感じながら余裕の表情で三人を見る竜を睨みつける。

「いささか飽きてきたぞ。遊びは終わりじゃ死ね。」

三匹の竜が同時に炎を吐き出す。ジークはすぐにその場から飛びのくが、疲れが出ていたワルキューレが一歩出遅れる。
横島は加速する体温を認識しながらも文珠を展開させる。

「ジョーカー。」
「大尉は俺が守ります。絶対に・・・・・・!!」

二人の様子を見ながらジークは己の不甲斐なさに奥歯を噛み締めた。竜殺しと謡われた自分の滑稽さを思うと腹が立つ。

「抜けろ。抜けろグラム!!」

剣に手をつけるがやはりぴくりとも動かない。

「やっ役に立たない剣なんて、いるものかっ!!」

ジークは己の愛剣を腰から取ると投げ捨てた。
諦めが支配しかけている心を無理やり奮い立たせるとジークは竜へと突っ込んだ。

「うぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおお!!」
「無駄なことを!!」

一匹の竜の首がジークに向けられる。冷静さを失っていたジークはまともに炎をその体に受けた。

「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」

ジークの体から力が失われ、大地へと落下していく。
ドスンッと大地に叩きつけられ、その衝撃で肺の中の空気が一斉に外へと放出される。

「かはっ。ごほっ。」

空気に送れて血液がジークの口から零れ落ちる。

「くっくそっ!!」

力の入りにくい腕を支えにして上半身を起き上がらせると、ジークは空を見上げた。
そして、ジークの中を完全に諦めの気持ちが支配した。
離れてみれば一目瞭然だ。
暗黒竜のなんと強く、なんと巨大なことか。
竜にとって魔族など脅威にはならない。
数多くの武勇伝を誇る姉であるワルキューレですら歯がたたないのだ。

「勝てるわけなんて・・・・・・くっ。」

悔しさで涙が零れた。
傍らに突き刺さっている投げ捨てた聖剣グラムがそんなジークを嘲笑うようにその脈動を続けるのだった。


あとがき
珠姫変貌の理由を明かして見ました。ある意味珠姫は、横島に対して断罪の気持ちを見つけたのでしょう。そしてジーク。
あまりにも不甲斐なくヘタレています。名誉挽回できるのだろうか・・・・・・。

>Dan様  今回の主役は珠姫です。いつか消え行く横島の為に頑張ってレイドルとの仲を薄くしようと頑張ることでしょう。

>D,様  近々再びママと彼女がバトルらしいですよ。

>隆行様  不死を実現したカオスが老化のことを考えてないなんてありえないっすからね〜。ここでのカオスはできる爺さんですよ。

>無貌の仮面様  ママは彼女にどれだけ対抗できるのか!? お楽しみに

>リョウ様  珠姫の気持ち種明かし。断罪でした。すいません色気の無い答えで。

>アガレス様  修羅場は徐々に広まっていきます。意外な人も加わる予定です。

>猿サブレ様  まかされました。ふふっ誰もが屈する萌えっ子を作ろうではないか!!(ぇ

>紫竜様  変わらなかったら究極のナルシスト誕生です。そこんところは考えているので大丈夫ですけどね。

BACK< >NEXT

△記事頭

▲記事頭

PC用眼鏡【管理人も使ってますがマジで疲れません】 解約手数料0円【あしたでんき】 Yahoo 楽天 NTT-X Store

無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 ふるさと納税 海外旅行保険が無料! 海外ホテル