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▽レス始

「彼が選んだ道−13−(GS)」

リキミ・スキッド (2005-01-31 21:14)
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翌日、山脈にたどり着いた三人が見たものは戦いだった。
三匹の暗黒竜が空を舞い、強硬派と思われる魔族達が山脈の地形を利用して、暗黒竜のせいで空から進入できない為に下から登っていく軍の魔族達を殺している。
指揮系統がしっかりして、個ではなく郡で動く軍の本質は其処には無い。
かろうじて軍としての性質を守っているのはワルキューレが率いる部隊のみだ。

「あれは・・・?」

ワルキューレの部隊の人数は増えていた。
錯乱し、指揮を放棄した隊長を見限った者達がワルキューレの元に集まった所為である。
ワルキューレは集まった仲間たちを三人の基本的なチームにわけているところだった。

「行きましょう。」
「おぅ!」

珠姫とリムルは前の晩に何かあったのか、少しだけ仲がよくなっていた。
二人がワルキューレの元へと向かっていく。
横島はそれにはついていかず空を見上げた。
横島にとって見慣れた光景が其処にはあった。
竜が舞う戦渦の空、血がざわめくのを横島は感じるのだ。

「なにしてんだよ!!」

ついてきていなかった横島に珠姫が叫ぶ。
横島はその声でようやく視線を空からのけて、二人の後を追った。
ワルキューレ達の傍までよると、ワルキューレは当然のことながら横島達の存在を確認し、その横でレイドルは安堵の溜息を洩らしていた。
そして、レイドルが横島の傍に寄ろうとしたとき何故か珠姫が動いた。
横島の所有権を保持するように横島の腕に自分の腕を絡める。
横島としても突然のことで珠姫が何をしたいのかはわからない。
ただわかるのはリムルが困ったように笑っているのと、レイドルの視線が鋭くなったのと、ワルキューレの呆れた瞳が向けられたと言うことだけである。
横島はこれではまずいと珠姫の腕を解いた結果、なんの抵抗もなく珠姫は退いた。

「ジョーカー。」
「はい。大尉。」
「早速で悪いがお前に命令を下す。」
「なんでしょう?」

この状況下での最初の命令だ。
他のものが息を潜めて指示を聞こうとする中、その声はまるで散歩にでも行けという風に発せられた。

「私とそこにいるジークフリード少尉とお前とで上の竜を叩く。」

ざわっと魔族達が騒いだ。
魔界においても竜の脅威は人間が持つ脅威と大差は無い。
無限の霊気に鋼の鱗、それらを最低三匹倒さなくてはならないのだ。
挙句の果てに暗黒竜である。
まだ一匹を三人でならば作戦次第ではどうとでもなるだろう。
だが、今回は三匹同時である。

「わっワルキューレ大尉。そっそんな無茶な!!」

溜まらずレイドルが声をあげる。
実戦なれしているワルキューレそしてジークフリードと比べて、レイドルの中では横島が経験した戦いと呼べるほどの戦いはリムルとの一戦だけと認識されているのだから、当然の言葉である。
だが、ワルキューレもそれを承知しているようで、表情を崩さずに言葉を続けた。

「ここにいる魔族中で竜を倒す可能性を持っているのはジョーカーの持つ文珠だけだ。」
「でもっ!?」
「大丈夫だよ。」

それでも食い下がるレイドルを珠姫が止めた。
どうして、と言う風にレイドルは珠姫に視線を向ける。

「ジョーカーは負けない。」
「どうして! どうしてそんなことが言えるのさ!! 君は最近生まれたばかりで、僕はっ!!」

君よりもジョーカーのことを知っているのは僕だ! という言葉が続けられることは無かった。
珠姫の自信に満ちた瞳がレイドルの言葉を遮る。
そして、恋敵に向けられる嫉妬の色にも似た輝きを瞳に宿して珠姫は言った。

「ジョーカーのことを一番理解しているのは俺だ。」

横島は完全に戸惑っていた。
珠姫の豹変っぷりに心が追いつかないのだ。
昨日までの珠姫であるならばこんな行動は絶対しない。
リムルと相部屋にしたことでなにかしらの影響を受けたのだろうかと横島は思案する。

「今は問答をしている暇はない。ジョーカー。いいな?」
「了解です。」
「よろしく軍曹。」

すっとジークの手が横島に向けられる。
魔族が共に戦う仲間に実力を確かめる前から握手を求めることは珍しいことで、横島はそれに応じながらもこれがジークの甘さかと冷めた部分では感じていた。

「よし。我々は空の敵を排除する。その間に、各々のチームは侵入できそうなポイントを探索、発見次第潜入せよ。以上。」
「「「「「「了解!」」」」」」

横島は霊気を操って空を飛ぶ。
翼を持つワルキューレやジークはスムーズに暗黒竜に近づいていき、その巨体に盛大な威力を持った奇襲を仕掛けた。
完全に最初から本気である。
ワルキューレの拳は鱗を突き破り、竜の肉へと到達する。
ジークの攻撃は竜の顎に直撃し、竜の思考を一瞬止めた。
短期決戦である以上、細々とした手は打てない。いかに一撃一撃に力を込めて決定打を与えるかが勝負である。
横島も文珠を発動させて漆黒の霊波刀を強化し竜を攻撃する。

「ほぅ。ワシらに向かってくる馬鹿がおったか。」
「一人はかの有名なワルキューレ大尉ではないか。」
「そして、後は腑抜けの英雄と名も無き魔族か。」

腑抜けの英雄と言う言葉にジークは腰にさした剣をぐっと握り締めた。
聖剣グラム。
竜殺しの剣としては他に並ぶ剣が無いほどの魔具である。
だがそれは今のジークの手に渡ってからは一度も鞘から抜けたことは無い。
過去に剣の主だったからといって今も主と言うわけではないのだ。

「死ぬがいい!!」

一匹の暗黒竜が吼えると同時に一斉に他の暗黒竜が動き出す。
暗黒竜は他の竜族と違い人型になることは出来ない。
それ故、暗黒竜だけが持つ人型に代わる特性をもっていた。
それは個でありながら強大な力を持つ竜にしてみれば異端とも呼べる能力『同調』である。
心を同調させ、数匹で一つの竜としての完全なる調和を実現する。

「くっ。」

どうにか最初に痛手を負わせた竜を最初に倒そうと三人は動くがそれは相手も承知の上で幾度か阻まれる。
横島の文珠も竜の絶対的な力の前には意味が無く、もはやそれは攻撃手段ではなく補佐的役割が主となっている。

「ちぃっ。」

横島はワルキューレを庇うようにして竜から放たれた炎を『冷』の文珠二つで防ぐ。
だが、炎を相殺し終えたところに他の竜の炎が放れた。
横島はちらりとワルキューレを一瞥する。
朝から、もしくは昨日の晩からか、ずっと戦っていたのだろう。
その顔には疲労の色が見え始めている。
かろうじて炎を再び文珠で防ぐ。

「軍曹。」
「少尉。その腰の剣は使えないのですか!?」

先ほどから暗黒竜に反応するように光り輝いているグラムは未だ抜けずにいた。
グラムさえ抜ければ、竜に対して絶大な力を誇るそれが起死回生の一打を放ってくれる可能性がある。
だが、ジークは顔を曇らせて、そして吐き捨てるようにしていった。

「抜けないんだ!! 何回やっても、ぴくりとも動かない!!」
「がはははははっ。故にお前は腰抜けよ!!」

竜の猛攻が激しさを増していく。
横島は必死にそれを防ぎながら反撃の糸口を探しつづける。
そんな時、横島を未知の感覚が襲った。

「なっなんだ?」

それはうねりを上げるようにして横島の体を走り抜ける。
ドクン、と心臓が高鳴った。


―リムル―

その場にはむすっとした雰囲気が流れていた。
レイドルは決して珠姫と視線をあわそうとせず、珠姫に至ってはレイドルがいないかのように動いている。
そんな二人にはさまれながらリムルは溜息をつく。
実は言うと、昨日の晩リムルは遅くまで珠姫と喋っていた。
それは少しでも自分の絶望を破った横島の秘密を探ろうとしてのことだ。
だがそれは、珠姫に自分にとって横島とはなんなのかと言うことを考えさせてしまい、そしてなにかしらの結論に達した珠姫の行動が今までの行動である。
レイドルにとっては自分を理解してくれた唯一無二の魔族。
珠姫にしてみれば自分を生み出してくれた唯一無二の親。
どちらも心を許し、すがれるものは横島しかいない。

「――ジョーカー。」

リムルは自分の中で大きくなりつつある横島のことを思う。
今でも変わらず横島に抱いているのは憎しみだ。
後からやってきて、リムルとワルキューレの間に何の苦労も無く割り込んできたのだから当然だろう。
だが、ふと思うときがある。
何故ワルキューレの趣味や性格を熟知したように振舞えるのかと・・・・・・

「リムル中尉。」
「・・・・・・っ! 何? レイドル。」
「今、ジョーカーの事考えてますね。」
「そうだな。リムル。ジョーカーの事考えてるだろ。」

二人は冷めた目でリムルを見る。
互いにぶつけられない心のもやもやがリムルに向けられたのだ。
リムルもそこでそんなことはないと否定すればいいものを、実際に少し考えていたせいで答えに困る。

「やっぱり。」
「いけないの?」
「いけなくはありませんけど・・・・・・。」

だが、矛先を向けたところでそれを突き出すようなことはレイドルには出来ない。
それが見当違いの攻撃であるということがわかるからだ。
だが、珠姫はそうはいかない。
元より感情で動くことが多かいのだから、その口は止まることなく矛を突き出した。

「ジョーカーのことを考えるのはいい。けど、その内側に入ろうとは考えるなよ。」
「内側?」

そこで、珠姫は勝ち誇ったように笑ってみせる。

「俺とジョーカーのラインに割り込むなってこと。」

リムルは盛大に溜息をついた。
珠姫の変貌振りについていけなくなったのだ。
親しい友人ぐらいだったはずの仲がどうしてここまで進展したのか、リムルは昨日の晩に戻って珠姫に聞いてみたいと心から願った。

「そんなの願っても意味は無いわ。お姉さま。」

凛とした声がその場に響いた。
転移してきたのだろう、突然三人の目の前にリムルそっきりの女性とそれに従うようにして二人の魔族が現れた。
リムルに似た女性は妖艶な微笑を浮かべ

「久しぶりですね。リムル姉さん。」
「・・・・・・ライム。」
「何をそんなに驚いているんですか?」
「――――妹が強硬派だったら、大抵は驚くわ。」
「強硬派だなんて、私たちは唯、魔族をあるべき姿に戻そうとしているだけですわ。」

そう言って可笑しそうにライムは微笑むと傍らの魔族二人に目配せした。
その次の瞬間、二人の魔族は珠姫とレイドルにそれぞれ斬りかかる。

「ライムっ!!」
「私、お姉さまと二人で話がしたいの。」

そう言ってライムは無邪気に微笑む。
それは、リムルにとって見慣れた微笑であった。
壊れたものが浮かべる笑顔。

「邪魔者はいなくなったようだし、それじゃあお姉さま――――――」

それはまるで嬉しい出来事を話す幼女のような仕種でライムは告げた。

「――――――私を壊した御礼をするわ。」


―雪乃丞―

「ドクターカオス?」
「そうじゃ。ヨーロッパの魔王ドクターカオス。そして、こっちがワシが作ったアンドロイドのマリアじゃ。」
「よろしく・伊達・さん。」

雪乃丞はマリアに手渡されたカップラーメンを啜りながら、二人がどういう存在なのかを聞いた。

「へぇ、不死を実現してんのか。でも、よくぼけてねぇな。」

雪乃丞の疑問は当然である。
横島のいた世界のカオスがそうであったように、いくら不死を得ようとも進行していく老化には勝てない。
カオスは雪乃丞の疑問に不敵に笑って見せた。

「不死を得る際にそのことについての対処もちゃんとしておる。不死を得るという事は数多の知識を飲み干し、いかなる状況をも予測し、対処しうる事が必要となる。つまりは唯一にして、完全な方式でしか不死は得られん。」
「へぇ。難しいんだな。」
「そうじゃな。いくら老化を防いだところで過去の記憶は薄れていく。今となっては、何故あそこまで躍起になって不死を目指したのか思いだせん。」

そう言って、カオスは寂しそうに笑うのだった。


あとがき
結構な間隔があきました。ども、リキミ・スキッドです。魔界編では戦いが始まりました。豹変した珠姫とその原因を作ったリムルとの会話は次回になりそうです。今回、副題をつけるとすれば『ご主人様は俺の物』って感じですかね。

>D,様  離れた子供とはすぐに会えたけど、子供の隣になにやら怪しい女がっ! レイドルママはやきもきしてます。

>隆行様  横島君。魔界だからこそ切り札である文珠は切り札にはならない。はてさて、どうなるんでしょう。

>無貌の仮面様  ここでのカオスはまともです。ボケ老人ではありません。それとユッキーは生活能力ありません。原作でもそうでしたしね。

>猿サブレ様  なにやらレイドル以外を萌えっ子にしようという企画が動いているようですよ。

>Dan様  萌えマスターの道は長く険しい。時には道を阻むライバルも・・・!

>覇邪丸様  まだ近づきません。少しだけリムルの横島に対する意識改善はされていますが、基本的には嫌いです。
珠姫とはなにかあったようで、仲は少し改善されたようです。

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