槍に取り囲まれた俺達。
もう逃げられない絶対絶命の筈なのだが・・・
・・・・・・・みんな何かおどおどしてますけど?
震えてる人もいるんですが?
「横島さん・・・この人たちって・・・」
「だよなー」
死線を嫌というほどくぐった俺達。
殺気の有る無しはすぐにわかるし、相手の技量も把握できる。
そんな俺達から見ると、彼らは「びびって」いるようであった。
「ま、とりあえず『サイキック猫だまし!』」
俺の両手から閃光が迸る
瞬間、おキヌちゃんと俺は隙を付いて囲みを脱出。
閃光手榴弾と同じで、これを喰らうと一時的に
「何も見えない」「何も考えられない」状態に陥る。
すかさず俺は村長の後ろに回りこみ、腰に装着していたラブレスのナイフを首筋に突き立てる。
あ、霊波刀じゃないのは皆に「見せる」ため。
見たこともない霊波刀より、鈍く輝く刃物の力。
それに言葉は不要。いつの時代も変わらない、世界共通の恐怖。
「動くな!」
ようやく閃光のショックから立ち直った武士達に俺は宣言した。
「えーっと村長をぶじにかえしてほしいなら、おとなしくしてくださーい」
おキヌちゃん・・・・・棒読みですがな。
「・・・・・あんさんらの腕はようわかったから、落ち着いてもらえまっか」
「よく言うな、落ち着いて欲しいのはそっちだ」
「気持ちはわかりますけどな、ま、話しだけで聞いてもらえまへんか」
「いいだろう、全員、槍を下に置いて手を頭の上で組め!で、そのままこの部屋から出ろ」
強い口調で俺は命令を下す。
この場を支配しているのが誰か、はっきり認識させるために。
「皆、この兄さんの言う通りしたってや」
「ばってん村長・・・・」
「ええから頼むわ」
渋々村長以外の全員が部屋を出る。
「おキヌちゃん、槍を全部こっちに持ってきてくれる?」
「はい、わかりました」
槍を回収し、俺の後ろに全部積み上げてから、村長に向けたナイフをしまう。
最近、手に入れたこのナイフ・・ラブレスは40万円もしたので、もちろんこのオッサンなんかの血で汚すつもりはない。
美神さんから教わった事。
場合によっては魔族や悪霊よりも、人間の方が余程恐ろしい時もある事。
だから1人の時、2人の時、3人の時・・・・俺達5人はどの組み合わせでも
対人戦闘が出来るように訓練してきた。
ナイフ戦や効果的な脅しのかけ方も含めて。
実際に使ったのは初めてだったが、おキヌちゃんとのコンビはうまくいったようだ。
「で、どういうことなのか教えてくれるか?俺達は何もしちゃいないし、むしろ感謝されてもいいはずだが」
村長と俺は向き合って座っているが、
おキヌちゃんは警戒のため俺の後ろに立っている。
背中は床の間に向いているので、前方に意識を集中できる。
これも美神さんから教えてもらった。
「まず今更ですけど名を言うときますわ。わては千束宗右衛門だす」
「俺は横島忠夫だ」
「氷室キヌと申します」
「キヌはんがルソンて言わはりましたからな。わて何回もルソン行ってますけどそんな布見たことおまへん」
村長が俺のGジャンを見ながら話した。
あっ とおキヌちゃんが息を呑む。
まさかこんな田舎の村長が海外に行ったことがあるなんて、全く想像外だった。
「そんなけったいな格好やから、恩人のふりして入り込んだ刺客かいな思いましたがな」
「今でもそう思ってるのか」
「刺客とは違いますな。今いくらでも殺す機会ありましたがな」
「まあな」
「わかってもらえたところで話戻しますけど、ホンマに兄さん達何者でっか?」
だめだ。
下手な嘘を言ってもこの村長には通用しそうにない。
特に俺とおキヌちゃんでは無理。
美神さんかタマモなら大丈夫だろうが・・・・・
しかし「タイムスリップしちゃいました~♪」などと本当の事も話せない。
だから、こんな時の対処法もくどいほど言い聞かされていた。
「いい?人は信じたいものを信じるの。本当の事に混ぜた『少しの嘘』は見破られにくいのよ」
美神さんは、「これは捕まったスパイの心得なんだけどね」と笑っていた。
「・・・・・俺達は『拝み屋』だ。悪霊の現れるところ何処にでも行く」
「だから日本はもちろん他国へも渡ります」
今度は慎重におキヌちゃんも答える。
「それで妖怪と戦っていたら、ヘマしちまって気が付いたらあそこにいたんだ」
嘘ではない。
言ってない事が多いだけだ。
「で、今何処にいるのかもよくわからねーんだが」
「天草って言われてましたけど、どの辺なんですか?」
村長はう~んと考えているようだったが、
「ま、あの化け物を退治できる力のあるお方や。刺客でもなし、これも神様の思し召しいうヤツですかいな」
せやから兄さん達を信じますわと言って村長は笑った。
兄さん達なら大丈夫でっしゃろ。人見る目はあるつもりでっせ、と。
「しかし、村長も刺客に狙われるような覚えがあるのか?心当たりが無けりゃ、あんなに素早く反応しねーだろ?」
「ま、それもこの土地のせいでしてな」
「と、言いますと?」
「肥後の天草といえば、今やキリシタンが堂々と暮らせる数少ない場所ですわ」
おキヌちゃんが俺にささやく。
「肥後の天草って・・・あの天草四郎が生まれた熊本県の島ですよ!」
「天草四郎って、あの島原の乱かぁ!」
「今がいつなのかを聞きださないと、まずいですね」
確か、島原の乱は凄まじい戦闘だったはず。
巻き込まれたらひとたまりもないし、おキヌちゃんを守るためには戦わなくてはいけないだろうが、できるだけ過去には干渉したくない。
それに、時期によっては≪おキヌちゃんが二人存在する≫というあまり考えたくない事態になってしまう。熊本県だったら、おキヌちゃんが住んでいた村からは遠く離れているから、「ご対面~!」にはならないだろうけど。
しかし、どうやって聞き出すか?
今はかろうじて誤魔化している状態。
「今は何年でしたかね~」なんて言ったら
怪しさ爆発だ。
「おキヌちゃん、何かいい知恵は無いか?」
自分で出来ない時には、素直に出来る人間に頼む。
それがリーダーの第一歩。
ていうか、俺は自分で自分をスゲェ人間だとは全く思っていないから苦にならないし、おキヌちゃん達を守るためなら何でもする。
「う~ん、天草なら誰か西暦を知っているかもしれませんよ」
あ。
そもそも西暦はそういうものだった!
「キリシタンの方は知っているでしょうし、牧師さんなら間違いないと思います」
「さすがだな~おキヌちゃん!」
俺はおキヌちゃんを褒める。
ていうかバカだな、俺。
一人だったら気が付かなかったろう。
「村長、キリシタンが多いのはわかった。で、あんたはどうなんだ?」
「多いて言うか、今天草にはキリシタンしか居まへんで」
「へ?どういう事なんだ?」
村長の説明ではこうだ。
ここは以前、小西行長が治めていた。
キリシタン大名だった小西行長は、秀吉による伴天連追放令後もキリシタンを保護し、元々この天草を治めていた豪族も皆帰依していたが、関が原で小西行長が没すると侍は報復を恐れ、皆バラバラに逃げ出した。
「だから残ったのは農家や漁師、職人に商人だけですわ。わてかて、元々は商人やし」
次男なので堺の商人に丁稚奉公してたところ、長男が病死したため戻ってきたそうだ。大阪弁もそのとき身に付いたらしい。
「で、しゃあないからこの土地はみんなで神様の教えに従って治めてま」
はー、いわば自治区のようなものか。
こんな時代にもあったんだな~
だからさっきの武士達も槍を構えてみたものの、訓練された侍じゃないからへっぴり腰だったんだな~
「加藤清正さまが一応ここの殿様やけど、今のとこ好きにやらせてもらってますねん。たまに私も協力したりしますけどな」
加藤清正!
知ってる名前が出てきたぁ!
「でまあ一応今でも、キリシタンはご法度いう建前やから、いやがらせに来る方がおっても不思議やおまへん」
ましてや巫女を連れた変な服の男で、奇怪な技を使うとなれば誰だって疑いますがな、と言う村長に「それもそうだよな~」と同意する。
「村長がキリシタンというのはわかった。じゃ、今はあんたらの暦で何年なんだ?」
今なら聞ける。
俺達はいつに飛ばされたのか。
「今でっか?今は慶長9年やから・・・イエス様がお生まれになって1604年ですがな」
あとがき
とみぃです。
一応設定は「ある程度」史実に沿ってますけど、信用しないように願います(笑)
戦闘や交渉法も同様っす。
というわけでレス返し。
法師陰陽師様>
次では残されたキャラを出す予定です。タマモやシロ、美神さん達の力が無くては帰れないのでは、と考えていますから。また例の一揆は微妙な時代に設定してます・・・・・・
時塚様>
おお!本物の天草人ですか!(^^;
私は熊本市なんで「わっどんな」はわかりませ~ん!
金馬の話ですが、実は一部の熊本民話集に載っています。
とはいえ子供の頃に一回読んだきりでしたから、今回資料を探すのに苦労しました・・・・・しかし妙に細かい所がリアルなんですよね。この話。
「炭を3回補給」
「4本の足を杭で固定」
「鼻・口・耳を通気口に」
きっと大王イカ(体長10m程)が流れ着いたのを見た人が考えたんでしょうが、ひょっとして?と想像しちゃいます。
矢沢様>
地元の言葉ながら自分でも文章にしてみると、本当に日本語なんだろうか?と思いますよ(笑)今後この村長などを間に立てて、なしくずしに言葉を変えていく予定ですからご勘弁願います・・・・
MAGIふぁ様>
実は私、MAGIふぁ様のファンですので、こんな作品にレスを付けていただいて本当に光栄です~!
博多弁は問題なくヒアリングできますけど、鹿児島弁は熊本人にも難しいものがあります。暗号や符丁のような側面がありますから>鹿児島弁
また元の時代に帰るため、彼らが何をするのか?が今後の大きなテーマになる予定です。
ではまた来週、日曜ごろ投稿予定です!
(あくまで希望・・・・)