タマモは雷撃の閃光の中、おキヌと横島が消えたのを見た。
美神がゆっくりと倒れる。
嘘!
確かに雷撃はなかなかの威力だったけど、人を消し飛ばすようなものではなかった筈だわ。
横島達が気になるけど、それよりまだする事がある。
雷獣はくるりと向きを変え、走り出した。
「バカ犬!なにやってんの!あいつが逃げる」
私は呆けているシロに向かって走りながら怒鳴った。
あわててシロも追いかける。
まだ脅威は去っていない。
美神は倒れ、おキヌもいない。
そして横島も・・・・
だから私とシロでやるしかない。
<誰かが傷ついても、敵への対応がとりあえす優先>
美神から繰り返し聞かされたルール。
<でなきゃ戦力が分散されて誰も助からない事になるわよ>
ま、状況次第なんだけど、とも言ってたけどさ。
「貴様、よくも先生を!」
あ、バカ。
シロが霊波刀を出し、考えもなしに切りかかっていく。
間に合うか?
私はいざという時のために持たされている文珠を握り
「避」「雷」と刻み、シロの前に投げつける。
さっきは、まだ何もしない段階で攻撃をしてきた雷獣が相手。
不用意な攻撃を仕掛けたらそれこそー
「おおっと!」
案の定雷撃が襲ってくるが、文珠が間に合い雷を受け止める。
「すまんでござる!」
「バカ犬!落ち着きなさいよ」
さあて。
雷を封じた雷獣なんて怖くは無い。
でも殺すわけではない・・・・・私達と同じだから。
「『縛』よ!」
「承知!」
シロが文珠を雷獣に投げつける。
一瞬で雷獣は捕縛され、転がった。
私もシロもお札は得意ではない。元々それなりの能力を持っているから、使う必要がないというのもある。けれども文珠だけはどんな霊具より私達に馴染んだ。
だからこんな時には惜しみもなく使う。
昔の美神なら「勿体無い」とでも言いそうだけど、今はなにより安全優先。
さらに念のため「眠」で眠らせた後、シロが雷獣を抱き上げた。
私も覗き込む。
「こうしてると・・・・」
「かわいいものね・・・」
すやすやと眠る雷獣はまるで子犬のよう。
ひのめと一緒だわ。
あの子も起きているときはどうにも手を付けられないけど、
寝ているときは本当に天使みたい。
いつか私も子供を産む時がくるのかも。
それは誰の・・・・・・
「とりあえず美神のところに戻りましょ」
すべてはそれから。
横島達はどこに行ったのか?
美神なら・・・・・何か知っているかもしれないわ。
美神のところに戻ってみたが、まだ彼女は倒れたままだ。
とはいえ、気をうしなっているだけで、たいしたことはなさそう。
シロは美神を舐め、ヒーリングを施す。
「とりあえず、電話するわね」
私はポケットから携帯電話を取り出す。
<私がいない時は横島君の指示に従って。彼もいない時はおキヌちゃん、そしてあんたたちだけになったら・・・・>
そんな場合、当面の危機が去ったらまず電話しなさいと言われた番号に掛ける。世界最高の指揮官、彼女の電話に。
「もしもし、私だけど」
「あら、タマモちゃん久しぶりね」
私は手短に状況を説明する。
「雷撃を受けた後、2人が消えちゃったのね・・・」
「そお。それに美神が目覚めないんだけど、大丈夫かな?」
「令子はたぶん平気だから安心して。それより横島君がないとさびしいでしょ♪」
「何言ってるのよ!!」
「しかもおキヌちゃんだけ一緒なぁんて、うらやましい?」
「・・・・・・」
「これで2人が急接近!しちゃったらタマモちゃんどーする♪」
「・・・・・・あのぅ」
「ああ!今頃2人っきりで熱いひとときかも・・・きゃっ♪」
「・・・・・・・・・・・・・」
このノリにはとてもついていけそうにないわ・・・
とにかく、そっちにオカルトGメンをすぐ派遣するからそれまで待ってて、と電話を切られた。
電話を切った美知恵は先ほどまで浮かべていた笑顔から、一転して厳しい表情に変わる。
「オズプレイの緊急発進準備!ストレッチャーと装備一式も搭載して!」
「緊急派遣チームも準備、5分後に出動します」
「白井総合病院にも支援要請、念のため医療チームを待機させて」
「西条君は本部にホールド、私のいない間指揮をお願いします」
娘の事務所はいいチームに育ってきていた。
だからこそ、こんな事態になった時は反動が怖い。
それで電話では安心させるようにわざとふざけてみた。
いつもならこれは横島君の役目なんだけど、いないものはしょうがない。
・・・・ま、ちょっとだけ探りを入れてみたのもあるんだけどね。
「なんですか一体?隊長みずから出陣するほどの事態って?」
西条君が私に詰め寄る。
「詳しく説明している暇はありませんが、横島君とおキヌちゃんが時空移動した可能性があります」
「なんですって?あれは封印されたはずでは!」
「理由も不明です、最悪の事態を考えて行動してください」
「参りましたね。彼にはまだ車の代金を払ってもらってないんですよ」
苦笑いしている彼も心配しているのがわかる。
大事にしていた車を譲るほどだから、仲がいいのねと以前聞いた時は
「いやいや、嫌がらせしたい相手がいたら車を売れ、という諺がイギリスにあるんですよ」
とはぐらかされたが、最近よく横島君が西条君を訪ねに来ているのも知っている。
西条君にいくつか指示を出した後、デスクの引き出しから通信鬼を取り出す。よく知っている神族に直通でつながるこの通信鬼。
まさかこれを使う事態になるとは、さすがに私も想像してなかった。
しかし、「悪い事態こそあり得る」という法則からすると、今まで使わずに済んだこと自体が僥倖だったのかもしれない。
「・・・・ヒャクメ様、ちよっとお力を借りしたいんですけど・・・ええ、小竜姫様もできれば・・・」
あとがき
とみぃです。
どーにかこーにか書きあがったけど、時代物より余程こっちが苦労しました・・・次はまた過去の話に戻ります。
でも当時の宗教観がいまひとつわかりません。
(というか、カソリック自体がわからなくなってきた@_@)
もう少し調査が必要ですから、今しばらくお待ちください。
さて、西条がちらっと言っていた車の話は、恐れ多くも外伝で書こうかな〜?と思っています。本編も進んでないのに・・・・ねぇ。
でも「自分の車って青春よね!」と愛子が言いそーな話のネタがありますんで。
というわけでレスのお返し。
時塚様>どうも時塚様には全部バレているのかも・・・(汗)タイトルは最後に関わってくる予定です。
Mk-2様>いろいろとご指摘ありがとうございます。今後も「おかしい」と思ったらツッコミをお願い致します。
法師陰陽師様>この年代を選んだのは、おキヌを2人にすると、もう私の文章能力では書ききれないという理由もあります・・・・
Dan様>熊本に加藤清正の業績はいくつも残っています。そのひとつに絡ませる予定です。(あまり広く知られていない物ですが)
MAGIふぁ様>某所の「後ろ向きでも全力で走れ!」全部読んでますよ〜! あの脱力具合が素敵です。
調査はググって出来る範囲程度です。でも次は現地を見ないと書けそうにありません。
矢沢様>村長は意外と加藤清正に近い存在です。側近というわけではありませんが、彼のとある実在した政策には欠かせない人物です。
さて、次は日曜日に投稿できるのか?
ていうか仕事休めるのか?>俺
現地調査に行くヒマあるのか?
色々問題をかかえつつ、次回!