ビシッ
「なんでやねんーーーーー!!!」
とりあえず自分にそれとも誰かにツッコむ横島であるが閉じてしまったゲートは開かない。
そのまま奥の暗闇に引きずりこまれる一方であった。
さてここで一つ問題が、
「貴様、人間ごときが超加速だと?」
「ぎゃーーーー!!!」
動転してすっかりアシュタロスの存在を忘れていた横島。
逃げようとするが、向こうの方が早く追いつかれる。
「来るんじゃねーーー!!!」
「貴様、何を考えている!!このような亜空間でそのような事すれば―――」
ドォォォン
ドォォォン
横島は高島と半同期状態で霊波砲を連発でぶっ放す。その威力はメドーサでさえ一撃で
倒せるほどのものであるがアシュタロスには足止め程度にしか効いていない。
しかしこのままでは亜空間に異常が生じて何処に飛ぶかわからなくなってしまう。
急いで横島を押さえようとしたがすでに遅く、
グワァアァアァアァン
「くっ、なんとか平行世界に飛ぶことだけは免れそうだな。・・・貴様の顔しかと覚えた
からな。」
シュンッ
アシュタロスは消える寸前まで横島を睨みながら呪いのような言葉を残した。
横島は半同期していたこともあってアシュタロスに睨まれても何とか取り乱
す事がなかったようである。
(そういや心眼、ええチチしとったな〜)
とりあえず現実逃避に走る横島であった。
シュンッ
アシュタロスから遅れる事数秒間、横島の姿も亜空間から消えた。
――心眼は眠らない その31――
辺りは暫くの間、沈黙に支配されていた。
美神は横島が時空の彼方に飛んでいったことが始めは信じられずに放心状態が続いて
いたが、今は少しずつ事実を受け止め始めどうすれば横島を取り戻せるのかを考えて
いた。
(考えなさい!!横島クンをどうすれば探す事ができるのか!?場所さえ分かれば・・・)
メフィストは高島の魂や遺体が消え混乱状態が続いていたがようやく少しは会話がで
きる程度には回復したようである。
(わ・・私は・・どうすれば・・いいの?)
陰陽師たちは状況を把握するのに大分時間がかかったようであるが、今日は信じられ
ないことのオンパレードだった事もあり状況は把握できたようであった。
そして、
「くっ・・・くそーーーー!!!」
悠闇は自分の考えの甘さに苛立っていた。考えれば横島はいつも土壇場に限ってとんでも
ない事をしていた。そして今回は同じ魂を持つ高島もいたのだ。本来ならアシュタロスと
共に行くのは自分の役目であったのに肝心なところで横島に主に助けられてしまった。
これでは何が守護者といえる。あまりの自分の情けなさに拳を地面に叩きつけるが
「ぐっ!?はぁ、はぁ、まずいか!?」
「どうしたのねっ!?」
悠闇の以上に気付いたヒャクメが駆け寄り容態を調べる。悠闇は高島の遺体を借りて
戦っていたがすでに霊力が切れかけていてこのままでは己の存在も維持できないように
なっていた。ヒャクメは急いで対策を考えるが妙案が浮かぶわけがない。
(はぁ、はぁ、まだだ!!まだ消えるわけには行かぬ!!)
悠闇は今回の出来事に責任を感じ横島を救うまでは何としても生きる必要があると自分
に喝を入れる。
「六道どの!!今すぐ、ワレの式神を作ってくれ!!」
「む!!・・・了解した。」
悠闇の気迫が伝わったのか、六道当主は集中力を高め渾身の出来の式神(悠闇)を
作成する。その後悠闇の体が輝き始めその中から、
「たっ高島!?」
高島の遺体が現れて輝く結晶が宙に浮いている。その結晶は先ほど作られたばかりの
式神に接近して、
『ヒャクメ、すまないが協力してくれ。』
ヒャクメは悠闇の指示通りに神通力を送り始める。結果式神は光に包まれていき
暫くするとその光も落ち着く。
「ふ〜、とりあえず応急処置としては十分のようだな。」
「悠闇さま、大丈夫なのね〜?」
元々高島の体を借りていた事さえ無茶苦茶であったようで疲労困憊のようであった。
式神に憑依する形になった悠闇であったがその霊力はすでに一般GS以下まで落ちて
いるほどになっていた。今回アシュタロス相手にあそこまで戦えたのは高島の体と横島
の霊力、そしてアシュタロスの慢心があったからである。
悠闇は罪人とはいえ先代黒竜将の立場であるため一応ヒャクメは敬語でしゃべろうと
する。封印刑を受けたといっても状況を考えれば仕方ない事だとヒャクメも理解して
いたのだ。
「・・・とりあえず横島がどの時代に行ったかを知る必要があるな。ヒャクメ、大体
でいいから推測してくれぬか?」
「アシュタロスを大体4、500年飛ばしたから横島さんもそれと同じぐらい飛んだと
考えられるのね。」
悠闇はそれだと百年の誤差が生じてしまい手間が掛かりすぎると判断する。結論として
まず自分達がしなくてはいけないことは、
「一度、現代に戻る必要があるな。妙神山で猿神に聞けば何か分かるかもしれぬ。」
本来なら悠闇としては妙神山に行くわけにはいかない所であるが、横島の命が掛かっ
ているため手段を選んでいる余裕はなかった。
「でも神通力が足りないから現世に帰れるのはまだ時間がかかるのね・・・」
一度現代に戻る事を提案する悠闇であったがヒャクメの神通力は先ほど悠闇の補助をして
完全に切れてしまっている。回復するのも大分先になるであろう。だがそれでは悠闇の
体が持たない。一刻も早く横島の霊力か強力な神通力を浴びる必要があるのだ。
「ふ〜それに関しては問題なかろう。六道どの、すまないがサンチラを出してくれぬか。」
六道は悠闇の言われたとおりにサンチラを出し次の指示を待つ。悠闇の考えはヘビの
サンチラの能力である電撃攻撃を利用する事であった。もちろんいくら六道当主が
優れた式神使いとはいえ美神が安全に時間移動ができる必要なエネルギーにはそう簡単
に到達しない。しかし今は鬼道と西郷といった優秀な陰陽師のサポート、そして
ヒャクメの座標計算があるため成功する確率は極めて高いであろう。
「じゃぁ、さっさと始めましょう。」
「待って!!私も連れて行ってくれない!?」
高島の遺体を埋めた後に一同が準備に取り掛かろうとした時メフィストが同行を願い
出る。メフィストとしてはこのまま高島とも横島とも別れるわけにはいかない。
何より高島の魂は横島の元にあるのだ。最後の別れだけはしっかり済ませたかったの
かも知れないがその心境はメフィストにしか分からない。
(高島どの、横島どの、このままお別れなんて許さないわよ。)
とりあえず一同は横島を見つけてからもう一度この時代に戻ってくる事を約束する。
「それでは・・・西郷どの、鬼道どのも準備はよいかの?」
西郷、鬼道は六道当主に霊力を送り六道当主はサンチラに全エネルギーを送り込む。
体に負荷がかかり六道当主は呻きながらも詠唱を続ける。
「ぐぐぐぐぐ・・・では行くぞ!!」
ザァァァァァンン
サンチラの強烈な電撃攻撃は美神に直撃しそのエネルギーをヒャクメがうまく操作する。
辺りは光に包まれ、その中に美神たちの姿はなかった。
「・・・さぁとりあえずはわしの館で彼らが帰ってくるまで待つかの〜。」
「そうですね、ご一緒させていただきます。」
「ぼッ僕もですか!?(やったで!!これであの娘に会える!!)」
シュンッ
「うぉっ!?」
パッと見たところ山奥のような所に現れる横島。
辺りは明るいが騒ぎにならなかったという事は人に見られなかったということである。
「はぁ〜・・・んでここどこなん―――が・・がはっ!?」
突然横島の体に異変が起こり始める。横島が苦しみだしたのは高島の魂が横島に吸収
されそうになったのだ。いくら歴史の自動修復機能があるといっても自分の前世を自分
で吸収してしまえば不具合が起きるのは当然であろう。すぐに高島の魂を自分の体から
取り出す。
「はぁっ、はぁっ・・・あっあぶね〜危うく死亡の原因が自分の前世吸収なんてわけ
わからん事になりかけたじゃねえか。」
辺りから見れば怪しい行動と独り言でいっちゃった人にしか見えないのだが幸い近くに
人はいなかった。横島は高島と半同期状態になるまで霊力は底を尽きていたが先ほど
高島の魂から補給したのでそれなりに動けるようになっていた。
「どうすりゃいいんだ、この魂は?」
自分の目の前で浮いている魂を見つめ対処に悩む横島。天に昇っていくというのなら
止めるつもりはないがその様子は見えない。しかたないので持って行く事に決めた
横島であったのが入れ物がない。暫くの間悩み、
「・・・あ〜〜〜・・・う〜ん、これでいくか。」
《魂》
回復したばかりの霊力で文珠を一つ生み出す横島。早速自分が魂の入れ物としてイメージ
して生み出した文珠に高島の魂を保管する。見たところ大分魂が弱っているようなので
もう一度力を借りようとしても無理だろう。
「とりあえず、美神さんが助けに来てくれるまで生きないといけないんだが・・・
その前に何時代だ?」
横島としては自分ではどうする事もできないので美神頼みにしかなるしかなかった。
そういうわけで少なくても今を生きていく必要があり、とりあえず山を降りてこの時代
の服をかっぱらう事を考える。
辺りはすでに夕暮れ時である。
「はぁ〜腹減った〜。」
とりあえず横島は山から降りた後、農家に干してあった服をかっぱらう事に成功した。
平安時代の服装はその時代わりに干したのが交換のつもりであったのだろうか。
そんなわけで時代劇に出てくる丁稚のような服装姿の横島であった。
横島が腹を空かしながら当然ながら全く舗装されていない道を歩いていると、馬の足音
や絶叫が前方から聞こえてくる。
「・・・男の声だしどうでもいいか。」
どうやら悲鳴の主は男のようでそのまま回れ右をして逃げようとする横島であったが、
「そこのおぬし!!ちょっと待たぬか!!」
横島に声を掛けた来た男は中々立派な服装で少なくともこの時代ではそれなりの地位に
いる人物だとうかがわれる。顔も中年で男盛りといったところで立派な髭を生やして
いた。男は深呼吸して多少落ち着いた後、
「この辺りで神社や寺を知らぬか!?早い話妖魔を退治できる僧や住職を探しておる
のだ!!」
横島はめんどくさそうに男の話に付き合う。どうやら男は先ほど妖魔の集団に襲われた
所で自分は上司の命令で命からがらその包囲網を突破し退魔師を探している最中であ
った。
「あ〜おっさん、とりあえず妖怪を追っ払ったらいいんだな?」
「何だ、心当たりがあるのか!?」
横島としてはもう腹も限界なのでとりあえず目の前の男の上司を助けて飯でも食わせて
貰おうと思っただけであったのが。そういうわけで自分が男に退魔師だということを
伝えると、すかさず馬の後ろの乗せて発進する。
「うぉっ!?どぉ!?」
「振り落とされるなよ!!」
馬に乗ることなど初めてな横島は必死に振り落とされないようにする。
トップスピードで走り続ける事段々と前方が騒がしくなってくる。
「あれ・・・か?」
「如何にも!!では頼んだぞ!!」
確かに目の前では妖魔が数体で数十人以上の侍相手に押している。辺りを見渡すとす
でに何人かの人間は動いていなかったが、妖魔の方も何体かは傷ついているようであ
った。状況を見ればどうやら侍達は妖怪退治などしたことがないようで混乱状態であっ
た。それでもその中で一番位が高い人物を中心に円陣を組んで応戦している。
横島は静止した馬からおりてすぐに参戦する。見たところ妖魔の実力は数こそ多いが
一般のGSでも十分対抗できる程度のものだったのですぐにサイキックソーサーや
サイキックブレット、そして栄光の手を駆使して残り一体まで倒し続ける。
「楽勝、俺って結構やるな〜。」
今まで横島が相手をしてきたメドーサ、フェンリル、死津喪比女に比べれば楽勝で当然
である。最後の一体も栄光の手を伸ばしてそのまま切り裂く。
「見事だ。服装だけ見ればただの農民にしか見えぬがそれほどの実力、本当は農民では
なかろう。名を聞かせてくれぬか?」
「(ちっ・・・また美形かよ。)横島忠夫。」
横島に声を掛けてきた人物はこの集団の中で最も地位が高い人物であった。男は西条を
思い出すような長髪で顔は日本風の美形といったところである。どうやら一行の姿を
見たところ鷹狩をしている最中に襲われたようであった。
「横島か・・・礼を言おう。今回の事はぜひとも我が城で持て成させてもらおう。
ついて来い。」
横島と長髪の男が話をしている間に家来達は死んだ同胞を土に埋めていたようであった。
長髪の男はそのまま馬に乗り横島を連れてきた髭の男に労いをかける。
「よくやった。そちにも褒美を取らそうぞ。」
「はは、ありがたきお言葉です―――
―――光秀様。」
「んなっ!?」
「どうした横島、何をそんなに驚いている?」
そうこの男、歴史上では”主殺し”、”三日天下”と実に不名誉な称号をもらった
明智光秀であった。横島が時間移動で飛んだ先は後にわかるのだが、1582年5月
15日で場所は光秀の根城の一つである亀山城の近くであった。亀山城は現在の亀岡市
にあり京都市からはすぐ近くであった。
横島がこの時代に飛んだ理由はいくつか挙げられる。
一つは亜空間内で霊波砲を連発した際に生じたタイムラグ。
もう一つは当然の事であるが横島の霊力はアシュタロスの魔力を大きく下回るので
その分長く飛ばされたということである。これはヒャクメが行く先も決めずに飛ばした
結果ともいえる。ヒャクメは横島とアシュタロスが同じ時代に飛んだと推測したが
見事に外れていたのであった。
最後の一つは縁である。この時代に横島と何らかの関係があったと考えればむしろ時代が
横島を引き寄せたと考えられる。
もちろんその全てが合わさってこの時代に到達したのかもしれない。
ともかく男の正体が光秀と判明して驚く横島であった。
驚く横島を不思議そうに思う光秀であったが自分や家来の命を助けてくれた人物を無碍に
扱えるわけはなく心配そうに声を掛ける。
「いや、何でも。ただの発作だから。」
内心では今も驚いているがとりあえず馬を借りて一向に同行する横島であった。
「くっ、うぉ!?」
「大丈夫ですかな?」
馬の扱いに苦労する横島であったが髭の男に助けられ何とか慣れ始めていった。
辺りが真っ暗になる前に何とか亀山城に帰還した一行。
横島はとりあえず部屋に案内され他のものが来るのを待っていると障子が開く。
「遅れてすまないな。まずは改めて礼を言おう。先ほどは私は家来の皆を助けていた
だき真に感謝する。」
「あ・・ああ、とりあえず顔を上げてほしいんだが。」
土下座とまではいかないがいきなり頭を下げる光秀にちょっと驚く横島であった。
「しかし横島よ。単刀直入に聞くが・・・お前は何処から来たのだ?」
光秀は先ほどまでの雰囲気とは違い真剣な目で横島を見据える。横島が自分を助けた
以上は暗殺者といった類でないことはわかる。光秀が横島を城に連れてきたの目的の
一つは横島の素性を調べるためでもあったのだ。横島は光秀の目にたじろぐも嘘は
許さないといった雰囲気に、
「あ〜〜〜〜未来から。」
アホみたいに本当の事をぶちまける。光秀は最初自分の耳がおかしくなったのかと
目を点にしたのだが、
「ふっふっふ・・・あはっはっははは―――」
そのまま笑い出す。家来が見ればここまで笑った光秀は初めてというだろうが今この
部屋にいるのは光秀と横島のみ。無用心であるかもしれないが光秀の実力はこの城で
最強なのだ。足手まといはいらないということらしい。しばらく笑い続けた光秀であ
ったがようやくそれもおさまる。
「おもしろいぞ横島。そのような言葉初めて聞いた、傑作だ!!・・・まぁさておき
言いたくないというならまぁいいだろう。お前の挙動を見させてもらったがどうやら
間者とうわけでもない。未来から来たというのなら宿はなかろう。暫くの間泊まって
いけ。」
光秀は横島の雰囲気に後ろ暗さがない事を確信したのか、とりあえず見張りを一人ほど
付けることで収める。その後は光秀は腹も減った事だし女中に食事を持って来させる。
横島は食卓に現れたモノを徹底的に食い続ける。そんな横島の食べ方にまた笑う光秀
であった。
「そうだ、横島。妖魔を倒していた時輝く刀を出したではないか。それをやってくれ
ぬか?」
「ほふ、ほほへへは〜(※は?、しゃあねえな〜)」
横島は食べるのを中断して立ち霊波刀を放出する。その輝く霊波刀に感嘆する光秀。
「・・・横島よ。」
「ん、何だ?」
真剣な顔で霊波刀を見つめる光秀。
「私にそれを教えてくれぬか?」
「はぁ!?」
今日妖魔に襲われて際、何故か光秀の攻撃だけは妖魔を多少なりとも傷つけることに
成功していたのだ。それならば自分にも霊波刀が扱えるのではないかと考えた光秀
であった。横島は心眼もいないのに何かを教えたことなどないので躊躇するが泊める
代わりに教えてくれと光秀が頼んだため渋々了承する。
「別にいいけどうまくいかなくても怒るなよ。」
「やり方さえ教えてもらえれば後は自分で鍛えるさ。」
次の日、
「では早速頼もう。」
「ん、じゃあ始めは―――」
横島は自分自身で霊波刀を出す手順を口に出しながら放出する。
「右手に意識を集中させる。」
意識が右手に集中していき微妙に霊力に覆われ始める。
「そしてイメージ・・ああ、刀を想像する。」
光秀にも分かるように言葉を選んで続ける。
右手は輝き始め序所に剣の形を形成していく。
「最後は心の内で集中する。これは何でもいいらしいぞ。ようは一つの事に集中できた
らいいらしいし。」
横島はそう光秀にいいながら集中に入る。その栄光の手はいつも以上の輝きを放って
いた。これは霊波刀の放出をしっかりした手順で発動させたのが理由なのかもしれない。
「美しいものだな。私も早く出せるようにしなければ。」
横島の栄光の手に見入られた後、今度は自分の番だと先ほど言われたとおりの手順で
開始する。
「はぁーーーー!!」
「おおっ!?」
光秀は初めてとは思えぬ霊波刀を放出する。その長さはまだまだシロと初めて出会った
時と同じ程度で小刀ぐらいであったがそれでも十分であった。だがすぐに限界が来たの
か光秀は方膝をついて荒く息を吐く。
「・・・これは中々厳しいな。」
「いや、そこまでできたら十分すげーんだが。」
いきなり成功させた光秀に驚く横島であったが、光秀はまだまだ不満そうであった。
しばらく休憩した後に再び挑戦する。横島はその間に馬術などを習い始める。
夕食時、
「いやはや、今日は本当にご苦労であったな。」
「まぁ、俺も退屈しのぎにはなったかな。」
共に飯を食べながら今日の成果について話し合う。光秀は最終的にはとりあえず長さは
日本刀と同じぐらいにはできたのだがまだまだ維持するのが大変そうであった。対する
横島も馬の乗り方を髭の男に教えてもらって大分走れるようになっていた。
「横島・・・一つ聞きたい事があるのだ。」
「何だよ、いきなり真剣な顔しやがって。」
光秀は多少戸惑いながらも箸をおいた後、
「我が主君、信長様についてなのだが。」
「ぶーーーーーー!!!(・・・そういえばいたんだっけな)」
またもや有名な武将の名前が登場し口に入れていたものを噴出す横島。
光秀は嫌そうな顔をしながら続ける。
「妖魔が人間に取り付くというのは考えられるのか?・・・お前を信用していうが
私には信長様が妖魔に取り付かれているようにしか思えんのだ!!」
光秀の生まれ持った霊感がそう告げたのか、光秀は信長に漂う空気に何かを常々
感じていたらしい。そして近頃氾濫する妖魔の類、まるで何かの復活を祝うように。
「う〜ん、会った事もないからわかんねえけど、人目見れば分かると思うぞ。」
「そうか、ならば明日私について来てくれ。信長様が私を呼んでいるのだ。」
光秀は横島の了承をとるも自分の気のせいでいて欲しいと願わずにはいられなかった。
もし信長が妖魔に体を乗っ取られているのであれば・・・
しかしその思いは無惨にも最悪の形で裏切られる。
次の日、正装した光秀と護衛という名目で同行することになった横島は信長が居る
安土城に向かった。現在は信長を中心に壁際に大名らしき人物が連ねている。
横島は護衛といえどその中に入れるわけもなく外で待機していた。
「・・・今、何とおっしゃったのでしょうか?」
「聞こえぬのか?うぬは猿の加勢に行けといったのだ。」
現在、中国地方で戦中の猿、豊臣秀吉の加勢を命じられる光秀。新参者の秀吉の援護を
命じられ武士の誇りを傷つけられるがここは耐えねばならなかった。信長には何か考え
があるのだと自分を納得させ光秀は歯を噛み締めながら了承する。
「―――解散せよ!!」
この一声で大名達はそれぞれ帰宅し始める。光秀は急いで横島の元に向かい信長を
横島に見極めさせようとする。
「そこに居たのか横島って何をしているのだ。」
「うぉ!!!・・・いや別に。」
暇だった横島は手当たり次第の女中にナンパ中のようであった。呆れる光秀であったが
今はそんな事を気にしている暇はなく早速信長が見える場所に向かう。
「横島、見えるか?あの方が信長様だ。」
(はぁ〜すげえな俺って。あの有名な織田信長を生で見れるなんて。)
横島は霊視を始め信長を見る。光秀はそのそこで自分の予感が間違いであって欲しい事
を祈るが、
「・・・アレ、取り付かれているというより魔族だぞ。(というよりあの霊波は・・・)」
「なっ、バカな!?」
自分の予想を上回る結果に思わず叫んでしまう光秀。辺りが何事かと此方を見るが
それ以上の事はして来ない。
(信長様が・・・魔族だと!?操られているだけなら未だしも・・・くそ!!)
葛藤する光秀。それもそのはずで自分は今まで魔族の命令で民を苦しめてきた事に
なるのだ。それではあまりにもやりきれない。信長が天下を取り、それで戦は終わる。
その事だけを夢見て信長に従ってきたのだがこれではどうしようもない。
(私は・・・私は・・・するしか・・・ないのか?)
何かを思い浮かべる光秀であった。だがそれを行うには今は機ではない。確実に成功
できる機会を待たなければならなかった。信長の家来がまわりにいないという条件、
自分がいつでも動かせる軍勢がいるという条件、この二つが最低条件であった。
何かを考え始めた光秀とまた横島も何かに気付いたか思いにふけながら光秀のもう一つ
根城であるの坂本城に帰還した。
自分は信長が魔族と知った日から時間を見つけては横島に霊波刀を教わり続けた。
そう、全ては信長を自分の手で討つため。
そのためには自分が魔族を倒せるほどの力を持たなければならない。
横島に頼む?
始めから誰かに頼むぐらいなら信長を討つなど考えはしない。
これは自分達の問題である。ならば自分達で、そして知ってしまった自分が行わなければ
ならない。
この世を魔に染めるわけには行かない。
ならば自分のすべき事はヤツを、信長を倒す事。
そして時は訪れる。1582年6月1日。もうすぐ次の日を迎える時刻であった。
「やっぱ、やんのか。」
「私は信長を止めなければならない。そしてこの役目は私のものだ。」
亀山城で今にも出発しそうな雰囲気の軍勢、兵は未だに出発先が本能寺とは分かってい
ない。横島はもしかして自分がこれから起こる出来事の引き金を引いたのではないかと
少し反省気味であったがこれは間違いである。もしこのまま魔族である信長が天下を取
れば世がどうなったかなど考える必要もないだろう。
「・・・短い間であったが横島。私はお前を友と思っていたのだぞ。」
「はぁ?」
もうすぐ合戦というのにそれにふさわしくない言葉を続ける光秀。
「腹の探り合いをしなくてよい。これがどれほど心地よかったか・・・横島よ。
もしお前が私の主であったなら私はお前のために命を捨てることも出来たであろう。」
「おっおい。何最後の言葉みたいなこと言ってんだよ。」
光秀は聡明であった。もしここで信長を討てても秀吉、家康がいる。どのみち自分の
命運は終わりであろう。
「横島、お前はここに残れ。お前に殺しは似合わん。」
「いや、もとからそのつもりだけど・・・」
だからといって止めれるのか?
いや、止めるわけにはいかない。
自分が天下を目指したのは何だと思っている。
「そうか、やはりお前らしい。」
全ては民に平穏を、
部下たちには安らぎを、
「我が敵は―――」
後世で自分は悪名高き主殺しと呼ばれるであろう。
・・・だがもう迷わない。
「―――本能寺に在り!!」
1582年6月2日、本能寺の変。
――心眼は眠らない その31・完――
あとがき
それでは本能寺の変、開始です。
光秀の姿は戦国○双を参考にしています。
>破れ傘さん
ごめんなさい!!大ボケかましてしまいました。年号を修正しました。