三人となった美神除霊事務所。俺の主な仕事は書類の整理や厄珍堂へいき除霊道具の受け取りなどの雑用。おキヌちゃんは掃除に電話番、あとお客へのお茶だし。これが予想外に好評だった。そりゃまあ男やきつい性格の女よりも幽霊とはいえ清楚な女の子のほうがいいだろう。
さてさて、それでは本日のお仕事とは……
「きょ…協同作戦!?」
てな事です。
今日もいつものようにでかい荷物を担いで仕事場に行ったら依頼人とは別にお嬢様ルックの女の人が。美神さんはその人、六道冥子さんを知っていたらしくてどうしているのかと詰め寄ったところ、上記の理由であると判明したのだ。
だが美神さんは仕事をするのを嫌がっている。
何故かは知らないが俺は無駄足となるので仕事をしてもらいたいんだが。
『わしも仕事をしたいのじゃが』
と、つぶやいたのは俺が腰に差している妖刀シメサバ丸。先日、除霊道具を受け取った帰りに通り魔に襲われたので神通棍で撃退したところ、その通り魔の刀がこいつであり侍との死合で敗北したからとか何とかいって俺の武器になってくれたのだ。
ラッキーだね。
その後、事務所にて「なんで慰謝料とんなかったのよ!!」と殴り倒された。どうせあんたがそれとるんじゃないですかと言えばさらに殴られた。グスン。
まあ、そんなことがあったので俺とシメサバはもっと困らせてやりたいという思いで助け舟を出してやることにした。
「べつにそんな嫌がらなくてもいいじゃないですか、美神さん」
「そ〜よ〜令子ちゃん。…え〜と〜」
「山田太郎です」
「山田君も言ってるじゃな〜い。一緒にお仕事してよ〜。でないと〜、私〜〜」
「わかった!! やる!! やります!!」
瞳をうるうるさせて泣きそうになったところで美神さんギブアップ。
俺とおキヌちゃんが声をそろえて「優しいですね」といったら右ストレートをかまされた。
「それじゃあ行くわよ。山田君、用意はいい?」
「俺はいいですけど、冥子さんの準備はどうなんですか?」
冥子さんのほうを向いて俺は言った。彼女は神通棍も破魔札も持っていない。
「冥子は十二匹の式神を使役することができるのよ。それじゃあ行きましょう。あ、おキヌちゃんは危ないから居残りね」
「はーい」
妥当な判断だろうな。今回の仕事はマンション内にかなりの数の悪霊がいるから攻撃されるか、もしくはこっちの攻撃の巻き添えになるかもしれないしな。
美神さんと冥子さん曰く、俺たちのすることは最上階の霊を呼び込んでしまう部分に結界を張り霊の進入を止める。そして後は残りを一掃。
千体以上いるっつんならもっと人を呼んだほうがいいと思ったが冥子さんの式神がすごいすごい。バサラって子のおかげで行きの間は全くすることがなかった。
「これから結界を張るから、山田君と冥子は奴らを近づけないでよ」
「はい〜〜〜」
「おし、いくぞシメサバ」
『待ちくたびれたわ』
どりゃーとりゃーおりゃっさー
バッサバッサズバズバズバっと俺はシメサバで切り伏せていく。
これがまた、………っ超楽しいぃ!!
いままで霊能力はあっても攻撃にまわすことできなかったおかげでずいぶんと辛い目にあってきたのだ。
それがいまやこいつのおかげで……っしゃあ!!
「あと三枚で完成よ!」
あっと、いかんいかん、あとちょっとで目的を忘れるところだった。
「いそいでね〜、そろそろみんなバテてきたわ〜」
確かに、バサラの吸引力も弱まってきたしサンチラやハイラもどことなく疲れた表情をしている。仕方ない、俺は冥子さんのほうへ走っていった。殺りあっていてわかったがこいつら多少の知恵が残っている。だから、
「なんだか私を狙いだしたみたい〜」
となるわけである。弱いものを狙うのは当然だ。
「山田君、冥子を守って!」
「言われなくとも!!」
「……絶対に冥子を傷つけちゃだめよ」
いま微かに殺気を含んでいませんでしたか?
っと、さすがに数が多いな。
「そっちにいくんじゃないよ」
二体と俺の守りを抜けた霊をあらかじめ出しておいた糸で捕まえぶった切る。
その繰り返しをしていき少しはましになってきたかなと思ったが、
『グオーッ!!』
増えた、めっさ増えた。もうわっさわっさと襲い掛かってきた。
どういうこっちゃ!?
「バサラちゃんが満腹になっちゃった〜〜」
マジかよっ!!
多勢に無勢という感じでやってくる悪霊たちを限界まで出した糸で捕らえ、サンチラとハイラが殲滅する。俺は力の強いやつに目星をつけてぶった切る。だが、徐々に疲れがたまってきて押され気味になる。と、一匹の霊が糸をすり抜け冥子さんの頬を掠めていった。
かすり傷かとほっとしたのだがなあ………
「あ…血が……」
「あっ…バカ! 泣いちゃだめよ!!」
どうしてそんなに焦っているんだ?
泣くとなにか――――
「ふえ〜〜〜〜〜っ!!」
「グハア!!」
バサラに体当たりを食らった。
「冥子さん、一体な――――!!」
飛ばされて冥子さんを見るとなにがなにやら訳わからんことになっとった。
バサラにサンチラ、インダラやハイラに加えてかなりの数の(たぶん)式神が所狭しと暴れまくっていたのだ。
なんか悪霊どもも巻き込まれている。
「どーなってんすかこれ!」
「暴走よ!! だから傷つけんなっていったのよ! ……あんたあれをどうにかしなさい。でないと給料半分にするわよ!!」
どえらいこといってきやがったこの女!
ああでもこいつ本当にやる、短い付き合いだが金の面でのお情けは出しやしないことは十分にわかっている。
しかしどうしたらいいんだ。
式神式神式神、えーとえーとえーと、式神=鬼だから、えーえーえー………
「お〜にさん、こ〜ちら、て〜のな〜るほ〜へ〜」
パン、パンっと、ぐほ。
「なにすんですかー!」
「ふざけてる場合じゃないでしょう!!」
「ふざけてませんよ。ちゃんと言霊も乗せて叩くときに霊波も出してんですから」
「だからって―――」
美神さんが俺の後ろを見て即座に飛びのいた。
まさか……ちらっ。
ドドドドドドゴゴゴゴゴズモモモモパカラッパカラ
ホントにきやがったー!!
「お〜にさ〜んこ〜ちら〜て〜のな〜るほ〜へ〜」
パンパン
「お〜にさ〜んこ〜ちら〜て〜の〜〜〜〜〜ギャアアアア!!」
パンパンっと。
俺に拍手して。
で、一時間後。
「……山田さん、大丈夫ですか?」
「………いちおう」
ヒーリングのできる式神、ショウトラに舐められながらなんとか返事をする。
「ごめんね〜。私興奮しちゃうと式神のコントロールができないのよ〜」
あははははは、そうですか。
「美神さん、理由がよっくわかりました」
「そう、でもまああんたのおかげで被害も少なく済んだし、良かったわよ」
引きつった顔でマンションを見上げて言う美神さん。
俺も見上げたが最上階の一部が集中的に壊れてるだけだ。つまり俺が捕まった場所。
俺はため息をついてつぶやいた。
「あれだな、目上の人の話はよく聞かないといかんな」
「そうですね〜」
『そうじゃな』
ちゃんちゃん。
BACK< >NEXT