自己紹介をしておこう。
俺の名は山田太郎。ちょっと秘密を持っていて、二十代前後の外見をしている兄ちゃんだ。以上。短すぎるわという声が聞こえてきそうだがいろいろと語れないこともあるので勘弁してもらいたい。
それはともかく今俺は困っている。
どんなことに困っているのかといえば命を狙われているのだ。どうしようか。
ヒットマンの姿形は判明している。
ロングの髪形をした巫女さん衣装の幽霊だ。先ほどから陰で機をうかがっている。
俺は気づいていない振りをしながら相手にとっての絶好のポイントに向かって歩んだ。
1,2,3―――
「えい!」
ひらり。
ひゅー、ぴた。
「なんのようかなお嬢ちゃん」
俺に突っ込んできた勢いで飛んでってしまいそうなのを捕まえてニヒルにそういってやった。馬鹿みたいにでかい荷物を担いでいるので似合わなかった。
「いや、あのその、はうう、持病の癪が! どうかあの薬を…」
あの薬、確かに薬があるな。正露丸と書かれていたりしておもっくそ怪しいが。
「ほらよ」
俺は、中身はともかく欲しがっていたのでそれを渡してやった。
「え、ええ!?」
なぜか困惑している。親切にとってやったのにその態度はあんまりではないのかね?
「そ、それではありがとうございました!!」
叫ぶように礼をしてその子はどこかへいこうとしたが、そういうわけにもいかない。俺はぐいっと引っ張った。
「なんで俺を狙ったのか、道すがらにでも話してもらおうか」
笑ってそういった。
何故泣く。
「ただいま到着しました〜」
「あら、遅かったわね。って、そのこは何なの?」
「途中で出会った浮遊霊ですよ。なんか関係あるかと思ったんで、連れてきました」
いま話しているのは美神令子、世界有数のGSで美人ではあるが俺にとっては一食おごっただけで人を奴隷のごとくこき使い、かつストレス解消の道具として度々シバイてくるまるで鬼のような人物だ。いや、鬼といっては鬼に失礼だ。この女はそれよりも更に下劣で卑劣で極悪でえー、他に悪口が思いうか――げふ。
「な、なぜにいきなし前蹴りを?」
「……なんっかムカついたのよね」
恐ろしい女だ。悪口を本能で察知したこともだが自制せずに蹴りを撃つなど正に――いやすいません。何でもございません。
「ま、それよりも山田君。そのこは関係ないわよ。出てくるのはむさくるしいおっさんですって。だから糸とってやんなさい」
言われたとおりに幽霊、名はおキヌ、に付けていた糸を外した。
この糸は俺の持っている秘密の一つであり、俺が生まれたときから身につけている霊能である。肉眼では見ることができないが、霊感の強い人なら簡単に見ることができるので使うときはなるべく細くしている。ちなみに出し入れ自由だがあまり何本も出すことはできない。
自由になりましたーって騒いでるのがちょっと腹立つな。別に何もしてないだろ。
「しっかし、あんたろくな趣味持ってないわね」
「へ? いったい何のことです?」
「…こんなかわいい子に糸くっつけて動けないようにして……」
おキヌちゃんが「へーん、怖かったですよー」と美神さんに抱きつきよしよしと頭をなでてもらっていた。
なんだかこの空気はまずい。
「というわけで、お仕置きよ」
いや、ちょっ、俺の言い分も……聞くわけねえわな。
ハイキック!
「ほら、さっさと見鬼君を出しなさいよ」
もだえ苦しんでいる俺にそういった。
「もう行くんですか? 休憩は……無しですよね」
ちくしょう、俺はここまでの道のりを自分の体重に近いぐらいの荷物を持ってきたんだぞ。それなのにさっきの仕打ちといい、やっぱあんた――ふべ
見事な裏拳。
心読めてんじゃねーのこの人。
で、なんかが出るという露天風呂にやってきた三人。
俺と美神さんと、どうしてかおキヌちゃん。
「なんでいんの?」
「あたしがくるように言ったのよ。この子のおかげで簡単に終わるかもしれないもの」
いつのまにか仲良しになっちゃってたりするので疎外感を感じる。
おかげというのはおキヌちゃんが人身御供になったけど神様になれずに地脈に縛り続けられているという点だろう。確かにここにでるやつに地脈の縛りを移せば祓う必要もなくなるしおキヌちゃんも成仏できる。いいことづくめだ。
でも、そんな簡単にいくもんだろうか。
数分後、
「これで自分は神様っすねー!!」
うおー、と叫びながら飛び去っていったおっさんの姿があった。
俺の心配も何のその、すぐ後に出てきたワンダーホーゲル部のおっさんに神様になってもらって仕事は終了した。あとはおキヌちゃんのことだけなんだが、
「…あのう、成仏ってどうやるんですか?」
こんなことをいいよった。どうも長年縛られていたおかげで安定してしまっているみたいだ。成仏するには誰かに祓ってもらう必要があるのだが……
「あんたお金持ってる?」
こういうのだこの人は。ちなみに俺は除霊作業はやったことがない。
でまあ、んなわけで
「日給は奮発して30円」
うちの事務所に仲間が増えました。
でもなあ、いくら幽霊で行き場がなくっても俺の時給の約7分の1ってのは安すぎないか。やっぱこの人って守銭奴でごーつくば――あべし