第7話 「さらば死神 また会う日まで」
正門から入ってしばらく歩く横島一行の前に土煙をあげながら突進してくるのは、横島の義理の妹になりえた少女パピリオである。
「ヨコチマ~!!」
「右?!いや正面かっ!!」
ひらり
「えっ?きゃあああ!!」
感動の抱擁のつもりが横島に避けられ、きれいなヘッドスライディングを決めるパピリオ。しばらくそのまま地面に寝ていたが、プルプルと震えだすとムクリと起き上がって猛抗議。
「何でよけるんでちゅかっ!!」
「毎度毎度体当たり食らっていてはいくら俺でも死ぬるわいっ!」
「むー…」
むくれるパピリオの頭をポフポフと撫でる。
たちまち蕩けるパピリオの顔だったが、ここでやっと横島の横にいるタイガー達に気がついた。
「お前はあの時の虎男でちゅね。そしてそっちの女どもは……ヨコチマっ!!」
目を輝かせて振り返るパピリオに戸惑っていると横島の手をがっしと掴んだ。
「ヨコチマっ!!ついにロリに目覚めたんでちゅねっ!!」
「誰がやっ!!」
「だって、あれ」とパピリオが指差したのは紅白帽にブルマー、おまけに体操着の唯の姿。
「へう?」
「あんな子供をつれているじゃないでちゅかっ!」
「な、ち、違うっ!あの娘はあんなんでも俺の同級生だっ!!」
(あんなんでもっ?!!)
「嘘でちゅ!!ちゃんと胸に「6ねん」と書いてあるじゃないでちゅかっ!」
「ノウッ!!」
「小学校6年生のわざわざ水に濡れた体操着というマニアックな娘を連れたヨコチマがロリじゃなくてなんだと言うんでちゅかぁ!!」
「違うんやぁぁぁぁぁ!!!信じてくれぇぇぇぇ!!」
「ヨコチマ…それにそっちの女も体操着を着てまちゅ…もう言い逃れは効きまちゃんよ!」
「嘘やぁぁ!!俺は正常なんやぁぁぁ!!」
「待つでちゅ!ヨコチマ。今、パピも体操着に着替えてくるでちゅっ♪」
「違うというとるのにぃぃぃ!!」
脱兎のごとく土煙をあげて走り去るパピリオ。
後に残されたのは「違うんや…」と呆然と呟く横島と、どいうわけかダメージを受けて砂を集めている唯だった。
やがて現れるは竜の姫様。
「横島さん、お早いですね。」
妙にルンルンした様子で横島に話しかけてくる小竜姫に横島も笑顔で挨拶を返す。
「お久しぶりです。小竜姫様。ところでなぜに体操着を装着しておられますか?」
「いつもならもっと遅いはずですものね。ちょっと吃驚しましたよ。」
相変わらず笑顔のままの小竜姫。しかしその頬を伝う一筋の汗。
「ああ、彼女に送ってもらいました。ところでなぜにブルマまでも装着しておられますか?」
アリエスを紹介しながらも質問を繰り返す。ここで誤魔化されては自分のアイデンティティが危なくなる。
「あら貴方は横島さんのお友達ですか?」
「はい。カッパ族のアリエスと申しますわ。龍の姫君様。」
優美な礼とともに答えるアリエスにやはり優美に返礼する小竜姫。
「で、そちらの方は?」
「彼女があの天野唯ちゃんです小竜姫様。ところでなぜに紅白帽までかぶっておられますか?」
「あら?確か横島さんと同じ年だと聞きましたが…?」
「はい。これでも同い年です小竜姫様。ですからなぜに白ソックスですか?」
(これでもっ!!)
しつこく聞く横島にさすがに誤魔化しきれなくなったか竜の姫様。
モジモジと下を見ながら小さな声で。
「横島さんがお好きだとパピリオから聞きましたものですから…」
「誤報ですっ!!」
「あ、あらそうなんですか?イヤですね。私ったら…」
「まあ…いいですけどね。「よろしいんですか?!」…いやそうじゃなくって…で、こっちの机を背負っているのが愛子です。タイガーはご存知ですよね。」
「はい。横島さんのクラスメートの机の付喪神さんですよね。で、そちらの大きな方…どこかでお会いしましたか?」
「ワッシはぁぁぁぁ!!!」
タイガー君忘れられていたらしい。
「落ち着けっタイガーっ!!し、小竜姫様もご存知じゃなかったですか?」
「ああ、小笠原さんのところの。失礼しました。ということはあなたが今回の修行者ということですね。」
「ううっ…そうですジャー…」
「とにかく中にどうぞ…あら?あのお嬢さんは何故落ち込んでいるんですか?」
「えうううう…高校生だもん…」
その似合いすぎる体操服では説得力が無いぞ~…と思う一同だったが、落ち込む唯は小竜姫に慰められてヨロヨロと立ち上がった。
「へう…天野唯です…」
微笑ましい目で見つめている小竜姫にペコリとお辞儀する唯を見ていた愛子が肝心なことを思い出す。
「あ、唯ちゃん。小竜姫様にお土産があるって言ってなかったっけ?私に預けたでしょ。ほらこれ。」
「へう。そうでした。これはつまらないものですが…」
「まあ?そんなお気遣いは宜しいですわよ。」
渡された紙袋を物珍しげ見つめる小竜姫。「開けてみてください」との唯の台詞に袋を開ける。
中から出てきたのは金色に輝く布製品。
「これは…ブラジャーですか?」
「はいっ!それはうちの学校の先輩が開発した新型ブラ。どんな貧乳でも谷間が出来るという優れものですっ!」
「あ、えーと…喜べばいいのかしら?」
もしや自分に対する皮肉か?と警戒の表情を浮かべる小竜姫とニパニパ笑う唯の間に横島が割って入る。
「待てっ!それはまさかっ!」
「はいっ!『黄金バスト』ですっ!!」
「そんな危険なものをお土産にするなっ!!!」
「危険…なんですか?」
ブラが危険といわれてもピンと来ない小竜姫。当然である。
「えうっ?!違いますっ!」
「違うって?」
男の横島にはブラの細かな性能差なんぞわからない。
「はい。これは前回の失敗を改良した体に優しい新型。その名も『黄金バスト・改』!!」
「どこが違うの?」
愛子の問いになんとなく自信なさげに唯が答える。
「えとですね…この先っちょに磁石が入っていて血行がよくなるそうですぅ。装着時間も3倍に伸びたらしい…と」
「危険なのは変わらんっ!!」
「あきゅっ!」
横島君鉄拳制裁。さすがに色々と追い詰められて余裕が無いのか容赦なし。
「ワハハハハハハハハハハ」
その時、妙神山にまたまた響くは骸骨の高笑い。しかし今度は近くの木の上で手にした鎌を捧げつつ実体をハッキリ見せている。
「やかましい!!どっから入ったお前はっ!!」
ブン
「ワハハハハハハハ…(ゴン)?!…ハハハハ」
横島の放った赤ん坊の頭大の石は見事に骸骨の頭部に命中する。
「ワハハハハハハハハ」
「あら、結構丈夫ですわね。」
のほほんとしたアリエスの感想の間も笑い続けていた骸骨だったが…
「ワハ…ハハ…ハハハ…ハ………」
ドサッ
次第に笑い声が途切れがちになったかと思うといきなりボテッと落ちた。
地面に倒れながらカクカクと笑い続ける骸骨。
「ワ…ハ…ハ…」
「ああっ!骸骨さんっ!!」
慌てて駆け寄る唯が骸骨を抱き起こすと、骸骨はピタリと笑いを止め「I’ll be back!」と一言言い残し親指を立てながら消えていった。
「えう~。可哀想です…」
「うんうん可哀想だね。だから早く捨てようね。そんな危険物…」
「へうう…タダオ君目が怖いんですけど…」
「小竜姫様もしまおうとしないっ!!」
「は、はいっ!」
いそいそとブラを懐にしまおうとしている小竜姫にも注意する。
なんとなく残念そうなのは気のせいだろうか?
やれやれと嘆息しつつふと気がつけばパピリオが戻ってきていない。
「あの小竜姫様?パピリオは?」
「ああパピリオなら自室で休んでますよ。」
コメカミに汗をかきながらとぼけつつ目を逸らす小竜姫に横島が突っ込む。
「こんな時間からですか?」
「うっ!」
「?」
何気ない横島の問いに冷や汗をダラダラ流しながら弁明する小竜姫。さりげなく横島から目線をはずしたりして。
「だって…この服一着しかなかったんですもの…」
「そういう理由ですか…」
「そういう理由です…」
「どういう理由なのかしら…」
………
「謎は解けましたっ!」
「「「え?」」」
何やら異様な脱力空間にアリエスの声が響く。
「あの一着を着るために先ほどの少女と竜の姫様とで取り合いになって…姫様が少女を亡き者にしたということですわねっ!!」
「殺めてませんっ!!寝ているだけです!!」
「強制的に…ですか?」
「いえ…物理的に…」
「パピリオぉぉぉぉぉ!!!」
思わず半目で自分を見てくる横島から目を逸らしばつの悪そうな返答をする小竜姫。
その様子に横島はダッシュで妹救出へと向かうだった。
「行ってしまいましたノー」
「さ、さあ…皆様もどうぞ。ひとまず中でお休みになってください。修行はその後と言うことで。」
やや唖然とする代表したタイガーの感想にそそくさと話題を変え、母屋へと案内する小竜姫になんとなく怯えを含んだ目で頷く一同であった。
横島が自室で簀巻きになって「ムームー」言っていたパピリオの猿轡を外したのはそれから3分後ことである。
とにかく母屋の中に入りまずは一服と皆で小竜姫が煎れてくれたお茶を飲む。
不当な拘束を受けていたパピリオは特権とばかりに横島の膝に座っている。
それを指をくわえて見ている少女たちと竜神の姫様。
室内には不可視のフィールドが発生し冷たい火花を飛ばしている。
タイガーはやはりここでも蚊帳の外。しかし今はそれが嬉しい彼だった。
「あの…」と遠慮がちにアリエスが口を開く。
「あの…忠夫様?その幼女はどなた様でしょうか?…もしや忠夫様のお子様?!」
「あ~違う違う。パピは…まあ俺の妹みたいなもんだ。」
「そして恋人候補ナンバー1でしゅ!!」
「「ガガーン!!」」と自らの口から効果音を出しながら驚くアリエスと愛子。
「忠夫様…やはりロリ系妹萌えでらしたんですの……」
「ちゃうわい!まあ…色々あってな。兄貴みたいなことやってる。」
「その割にはちっともここにはいらしてくれませんよね。」
「そうでちゅ!」
「あ、あはは。すんません。小竜姫様。パピもな。夏休みになったら来るからさ。機嫌直してくれんか?」
モシャモシャと乱暴に頭を撫でられてハニャ~ン状態になるパピリオとそれを笑顔で見つめる小竜姫の姿に、他の少女達はますます危機感を募らせた。
再び部屋の空気が軋んだが、当の煩悩少年は気づいておらず余波をくった精神感応者が一人震えている。
「それで今回はタイガーさんの修行と唯さんの力の封印でしたよね。」
「そうっす。」
「修行のほうは私が面倒見ますが、封印は老師様でないと…」
「老師様いないんっすか?」
「はい。今は神界に行っておられます。今晩には戻られると思いますが。」
「んー。そうっすか…だったら泊まりになっちゃうな…。構わないっすか?小竜姫様」
「是非っ!!!」
飛び上がらんばかりの勢いで喜色を表す小竜姫の様子に少女達の危機感はますます高まる。
そんな様子にタイガーはこれ以上忘れられてはタマランとばかりのなけなしの勇気を振り絞った。
「ワ、ワッシはどんな修行をすれば良いのかノゥ…」
「そうですね。正直に言ってタイガーさんの霊力とかは私もまだよく解りませんから…あれを使いましょう。」
「アレってなんですの?」
おしとやかな様子でお茶を飲みながら尋ねるアリエスに真顔になった小竜姫が答える。
「『天雷相試鏡』と言う宝貝でして、それを覗いたものに最もふさわしい修行相手を選んでくれるというものです。」
「へう?それってこれですか?」
唯が部屋の片隅に置かれた銅鏡を指差す。
「唯さん。覗いては駄目ですっ!!」
「う?」
「それを覗いたものは写った物と戦わないと魂が吸い取られますよ。」
「えうぅぅぅぅぅ。さっきからずっと見てましたぁぁぁぁ…」
「たまに大人しいと思えば何をやっているのよっ!あなたはっ!!」
「えう~愛子ちゃん~ごめんなさい~」
「マジっすか?小竜姫様…」
オロオロと慌てだす唯に愛子ちゃんマジギレ。横島の顔色も悪い。
「は、はい…必ず一度は戦わないと…」
「唯様は本当にそそっかしいですわね。ところで何が写ったんですの?」
うろたえる唯の近くにトテトテと近づいていったアリエスがヒョイと鏡を覗き込む。
「あら?何も写ってませんね…ああ、出てきましたわ。…こ、これはっ!!」
「何が写ったんですかいノー」
「おほほほほほほほ。これってクワガタムシじゃありませんか!!」
「「「はあ?」」」
突然、今までのおしとやかさを吹っ飛ばすアリエスの爆笑と意外な台詞に呆れる一同。
「唯様!あなたクワガタムシと同レベルってことですわよっ!!」
「えう…違うもん…」
「だってここに確かに写ってますわよ?」
「あの…アリエスさん?それってあなたの相手じゃないかしら…」
「え゛…」
恐る恐るといった感じの愛子の指摘に硬直するアリエスに唯がポツリと止めを刺す。
「…私が見たのはカブトムシだもん…」
「そんなっ…で…では、わたくしが…クワガタムシと同レベル…あ、あは、あはははははは…」
笑いながら崩れ落ちるアリエスとガックリと膝まづく唯の姿を見た横島はコメカミに汗を貼り付けながら小竜姫に聞いてみた。
「あの…小竜姫様…取り消しって効きますか?」
「それが残念ながら…でも戦えばいいんですから…それに負けても命を失うわけじゃありませんから…」
部屋の隅で影を背負い三角座りする唯とアリエスを見て「戦う前に、人(カッパ)としてとてつもない物を失ってしまったんじゃなかろうか…」と汗する横島たちだった。
後書き
ども。ちょっとプライベートな事情でモチベーションが下がりまくりの犬雀です。
「ネタ帳は家族に見つからないようにキチンと保管しましょう」と言う尊い教訓を得ました。
これで犬もSS書きとして一つ成長したんでしょうか?
仕事帰りに浴びせられる妙に優しい家族の視線が心に痛い中での今回のお話。
妙神山に入るだけで一話使っちゃいました。
いつになったらタイガーの修行が出来るんでしょうかねぇ…(遠い目)
次回は唯とアリエスが強敵「カブトムシ」と「クワガタムシ」相手に修行のための戦いをいたします。
では次回で………
>法師陰陽師様
パピ&小竜姫様と唯のトリオは色々と考えてます。
今回は顔見世程度ということで。
>義王様
タイガー…今回も影薄かったです。この面子では無理もないのかなぁ…。
>紫苑様
基本的にアリエスは唯と似たもの同士ですので横島君は嫌いになるかどうか?何しろカブトムシとクワガタムシですからねぇ…w
>ムギワラ梟様
もう唯にはとことんヘタレになってもらおうかと…と言いつつ一応修行ですのでカブトムシに勝てれば霊力は上がるはずです。でも役に立つのかなぁ?
>wata様
悪役といってもレベルは唯と同程度ということが今回あっさりと発覚しました。でも彼女も勝てば霊力が上がります。きっと…
>MAGIふぁ様
実は犬もあの場面を想像しました。あのCMは色々と好きです。
>Dan様
鬼門が萌えに目覚めることでアリエスとのフラグが立つかも…嘘です。ごめんなさい。
>ミーティア様
貧乳合戦は修行後のお風呂のシーンにとっておこうかと思って今回はあっさり目です。変わりに彼が登場しました。戻ってくるんでしょうか?