第6話 「鬼、その戦い」
「妙神山門番!右の鬼門っ!!」
「同じく左の鬼門っ!!」
「「お相手いたすっ!!」」
突発的に始まってしまったバトルに頭を抱える横島だったが、その横でシタッと手を上げる能天気娘がいたりする。
「一番!天野唯行きますっ!!」
「唯ちゃん!!」と引き止める間もあらばこそ鬼門に突貫かますおポンチ娘。
テチテチテチテチ…ベチッ(あ゛うっ!!)………プルプルプル…ムクリ…テチテチテチ…
「唯ちゃんパーンチっ!!」
叫び声も勇ましく繰り出すのは必殺!駄々っ子パンチ!!
ポカポカポカポカ…
「の…のう…横島…」
ポカポカポカポカ…
「なんだ?鬼門…」
ポカポカポカポカ…
「もしかして…この娘…本気で弱いのか?」
ゼーゼーゼー…
「キッパリスッキリ完璧に弱いぞ…。」
ポカ…ポカ…ポカ…ポカ…
「う…うむ…そ、そうか…」
下を見ればすっかり回転の落ちた駄々っ子パンチを放つ唯がいた。
とりあえずそのおでこに軽めのデコピンを一発…。
ピン…「みぎゃっ!」……プ…プルプルプル…「みーみーみー」テチテチテチ…
「みーみー」泣きながら横島のところに戻ってくる唯を呆然と見つめるしかない鬼門だったが、すかさず周囲から沸き起こるブーイングの嵐に固まる。
「酷いですわっ!ブーブー」
「児童虐待ですノー…」
「血も涙も無いわねっ!!」
「あ~あ~泣~かせたっ!い~けないんだったら、いけないんだ。先生に言っちゃうぞ♪」
非難の嵐に晒されてドロドロと汗をかきまくる鬼門。
「右のっ!わしって奴はぁぁぁぁ!!」
振り返るなりうずくまる。どうやら左の鬼門だったらしい。
見れば確かに扉についている左の目から夥しい涙が流れている。
「むう…考えようによっては恐ろしい攻撃だが…それではわれらは倒せんぞ!」
「でも、左の鬼門は戦意喪失してるんじゃがノー」
「なにっ!おおっ。しっかりせんかっ!左のっ!!」
「わしは…わしは鬼なのかっ…あんな童女に…あんなムゴイ仕打ちをぉぉ…」
「いや。鬼だろお前ら…」
「おおっ。確かにっ!!ならば問題無しではないか!」
「横島君!!」
「しまったぁ!」
いらん突込みをして鬼門を立ち直らせちゃった横島に愛子の叱責が飛ぶ。
こりゃなんとか挽回しないとなぁと考えた横島君、一計を思いついた。
「なあ…今からでも「修行」っての無しにならんか?」
「それは出来ん。一度、修行者と言ったからには取り消しはきかんぞ。」
「その通り。久々の出番、失ってなるものかっ!!」
「そ、そっか…だったら俺も「修行」するわ…」
………
「「まあ何事にも例外と言うのはあるわけだし…」」
「待てや…お前ら」
半目になる横島の方を見ようとしない鬼門たちに愛子が話しかける。
「だったら集団戦にしない?」
「どういう意味だ。机の娘」
「あなた達はここの門番よね。そしてタイガー君は修行に来た。でも、唯ちゃんとかはイレギュラーなんだからここは穏便な方法でいったらどうかしら…」
「「どんな方法だ?」」
「うんとね…そっちは二人。こっちはタイガー君、唯ちゃん、アリエスさんの三人で、30分の間に誰か一人でも門にタッチすればこっちの勝ち。阻止できればあなたたちの勝ちってことでどうかしら?」
「しかしその様な方法なぞ…「横島君も修行する?」…平和的で良いではないか、のう左の…」
「うむ。確かに…わしも鬼とは言えあの童女を泣かすのはちょっとイヤだからのう…」
「なら決まりね…じゃあみんな集まって作戦タイムよ」
「おい…愛子…「横島君は黙って見てて!!」…わかりました…」
しばらくの間、もしゃもしゃと打ち合わせする少女たちとタイガー。
やがてそれも終わったのか振り向くとニパっと笑う。
「準備は良いのか?」
「あ、待ってくださいまし…。ちょっと動きやすい格好に着替えてきますわ。さあ唯様行きましょう…」
「はいです!」
待つことしばし、鬼門たちも体に頭部を装備しおえたころ唯とアリエスが戻ってきた。
「あ…あの…二人ともその格好はなんですかいノー?」
微妙に呆れを含んだタイガーの声。横島と愛子もコクコクと頷く。
唯もアリエスも運動靴に紺色ブルマ装着。
さらに上は白い半袖体操服。頭には昔懐かしい紅白帽。
ご丁寧にも唯の胸にはマジックの色も黒々と「6ねん あまのゆい」と書かれたでっけー名札がついている。
(((い、違和感がまったく無い…)))
汗を流す横島たちだったが、アリエスはそんな彼らを気にもせず妙なテンションで唯に話しかけた。
「お待たせしました。さあ始めましょうか…よくって?唯?」
「はいっ!お姉さまっ!!」
「「「お姉さまっ?!!」」」
「何かはしらんが始めてよいか?」
「よろしいわよ。鬼さんたち…」
(アリエスちゃん…またまた人格変わった?)
(唯ちゃんもかしら…)
(ワ…ワッシも配置につきますケン…)
「「ならば今から30分。勝負だ小娘たち!!」」
鬼門の気合の声とともに始まる勝負。
アリエスは唯に厳しい目を向けるとキリリと指示を出す。
「あれで行くわよっ!!唯っ!!」
「はいっ!」
言うなり走り出すアリエス。その後ろに唯が続くが、何かが乗り移ったのか先ほどのテチテチした歩調とは段違いの速度で走っていく。
そして二人の口から息のあった叫びが響いた。
「「スーパー!!」」
「「何っ?!」」
驚く鬼門ズ。とりあえず身構える。
「「イナズマ!!」」
「キッ…へっ?」
唯の前を走っていたアリエスがくるりと振り返ると唯の服をガッチリと掴む。
打ち合わせと違うと「?」を浮かべる唯の前からアリエスの姿がフッと掻き消えた。
「巴投げぇぇぇぇ!!!!」
「にょほおぉぉぉぉぉぉ!!!」
突然の投げ技になすすべもなく弾丸のように鬼門に向かって飛んでいく唯。
またまたの不条理展開に横島は愛子に向き直る。
「なんやっ!アレはっ?」
「し、知らないわよっ!!私はただ二人で気を逸らしてって…」
ベチッ!!
「あきゅっ!」
ぶっ飛んできた唯は左の鬼門に衝突するとそのままポテッと地に落ちた。
「だ…大丈夫か?小娘…」
然したるダメージも無かった鬼門が落ちてピクピクしている唯を気遣うと、ムクリと起き上がる、たちまちその目に涙がたまる。
「け、怪我はないか?」
「えう…ぐすっ…ぴ…ぴーっぴーっ!!」
「あああ、泣くでない。ほれ、わしらは怖くないぞ!のう右のっ!」
「そうともっ!ほれ。この飴をやるから泣き止め。」
泣いている唯をおろおろと宥めろ鬼門ズの姿を見るアリエスの顔に邪笑が浮かぶ。
「今ですわっ!緑魔法攻撃魔法が弐「水仙鞭叙!」」
アリエスの呪文とともに鬼門の近くの地面が割れ、そこからあふれ出す激流が鬼門たちに押し寄せる。
思わず体勢を崩しかける鬼門たちだったが何とか踏みとどまった。
「おのれ卑怯なっ!!だがこの程度の水流で我らは流れんぞっ!!」
「へうぅぅぅぅぅぅぅぅ」
「まて。右のっ!」
「どうした?左の」
「あの童女が…」
見れば激流に飲まれて流れていく唯の姿!!
「ぴーっ!!鬼さんっっっ!!助けてぇぇぇぇぇ!!」
「なんとっ!おのれ小娘。仲間を流すとは貴様は鬼かっ!!」
「ほほほほ。そんなことを言っていられる状況かしら?」
「何っ?」
「みにゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
流れていく唯の先にあるのは轟々と水を飲み込む地面の裂け目!!
「くっ!今行くぞっ!!」
「待て!左のっ!我らの使命を忘れたかっ!!」
「なっ…しかし落ちようとする童女を見捨てるなど人として出来ん。すまんっ!!右のっ!!」
言うなり激流に飛び込む左の鬼門。
「今、助けるぞっ!!」
「うきょぉぉぉぉぉぉ!!」
貫き手をきって水をかき、瞬く間に唯に追いつくが裂け目はすぐそこまで迫っていた。
「ぬおぉぉぉぉぉぉ!神よ。仏よっ!せめてこの童女だけでもっ!!」
渦巻く流れの中、必死に唯を差し上げた両手がガッチリと誰かに掴まれる。
彼を支えるのは笑顔を湛える右の鬼門の姿。
「右のっ!!」、「左のっ!!」
ふんぬっとばかりに右の鬼門は二人を激流から救い上げた。
「タッチしたんじゃが…」
申しわけなさそうな声に思わずそちらを見れば、冷や汗をかきながら門の前に佇むタイガーの姿。
「これは…」
「わしらは…負けたのか?」
「そ、そうだな…だが右の!」
「うむ。左の!!」
「「われらに悔いはないっ!!」」
何やら唯を交えて肩を組み爽やかな笑顔で空を見つめる鬼門たち。
その様子にどうやら無事に鬼門の試しを突破できたと安堵する横島はタイガーに近づいた。
「なんか色々とあったが…あの幻覚は真に迫っていたぞ。腕をあげたじゃないかタイガー」
「そ、それが…ワッシが使ったのは自分が隠れる幻覚だけなんですジャー…」
「え゛…」
意外な展開に愛子に振り返ると、目に涙をため頭をブンブンと横に振る愛子の姿。
「ち、違うのっ!!わ、私はあんな指示はしてないのっ!お願いっ!信じてよおぉぉぉぉ!!」
じゃあアレは…とギギギとアリエスの方を見れば、言い合いをしているアリエスと唯の姿。
「ひ、酷いですっ!!私まで流すことはないじゃありませんかっ!!」
「すみませんでした唯様…ですが…「敵を流すにはまず味方から」と申しますし…」
「えう~。それなら仕方ないですねぇ…」
あっさり納得する唯に脱力する横島。
こうして彼らは無事に鬼門を突破することに成功したのだった。
ギギギギと重い音を立てて開かれる妙神山の門。
その前に立つ横島たち一行。
GSとしての実力は未知数ながら、一部の者には「大戦の英雄」して知られる横島忠夫。
精神感応能力は高いがその性格ゆえに「張子の虎」と言われるタイガー寅吉。
机の付喪神。学校妖怪から主婦の道をまっしぐらの愛子。
カッパ族の女王。緑魔法の使い手ながら人望無し。ノリがすべてのアリエス。
そして「パーフェクトロリっ娘」、「永遠の小学生」天野唯。
今、彼らの前に妙神山の道は開けた。
門の中に進んでいく彼らを見送る鬼門ズ。
その前にテチテチと走り寄ってくるのは唯。
「えう…鬼門さん」
「「なんだ?娘」」
「ちょっとしゃがんてもらえますか?」
「「む?こうか?」」
チュッ×2
鬼門ズの頬にキスをして横島たちのあとを追う。
残された鬼門ズは…
「右の…」
「左の…」
「「これが『萌え』というものか…」」
ちょっと危ない趣味に目覚めかけていた…。
後書き
ども。犬雀です。
今回は対鬼門戦だけで終わっちゃいました。
それにしてもタイガー…影薄っ!!
いえ…ちゃんとタイガーにも対小竜姫戦という見せ場は用意してますです。
さて、次回はいよいよのあの人?たちが登場します。
横島たち一行とどうからむか…。犬はキャラを書ききれるのか?
次回予告に意味はあるのか?ゲフンゲフン…
では次回でお会いしましょう。
>一条輝様
覚えていますか~♪…懐かしいですな。
>法師陰陽師様
人望は無理そうです。何しろ今回もこんなことしてますし…
>quick様
カッパ城の場合は「利根川アタック」と言うそうです。
>紫苑様
今回の鬼門、格好よかったでしょうか?
>Dan様
ある意味、鬼門もはっちゃけました。
>見習い悪魔様
はい。その場のノリがアリエスの信条でございます。
>MAGIふぁ様
補助金は申請中とのことですが…駆除率は低そうです。互角に戦っているという噂もありますし>カッパとバス
>柳野雫様
結局、勝負はますますアリエスの人望を失わせる形で決着しました。
>ミーティア様
タイガー…本当に犬も困っております。
なんで食われちゃうのかなぁ…。