第5話 「出撃!カッパ城!!」
とりあえず次の土曜日に迎えに来ると言い残してアリエスは「準備がありますから…」とカッパの国へ帰っていった。
「んじゃ、次の土曜日に妙神山へ行くかぁ」
「お願いしますケン…」
頭を下げるタイガー。
「ピートはどうする?」と彼の方を向くと真剣な表情で考え込んでいたピートはやがてキッパリと首を振った。
「僕はもう少し先生のところで学びたいと思います。今回のことも含めて自分が未熟であると自覚しましたし…」
「あいかわらず真面目な奴だなぁ…」
苦笑する横島だったが唯の方を向き直る。
「唯ちゃんは決まりだな。」
「へう〜。私も修行ですかぁ…」
「いいや…それは無理…」
「え?」
「唯ちゃんじゃ鬼門には勝てないよ。」
タイガーもちょっと怪しいかもな…とは口に出さない。折角やる気になっているのに水を注すこともないだろう。
「えと…だったら…」
「唯ちゃんの場合は小竜姫様に相談に行くんだ。」
「あ〜なるほどぉ〜」
自分のことなのに能天気なことだ。唯らしいといえばそれまでだが。
「私も行ってもいいかな?」
遠慮がちに愛子が言うのに軽く頷く。
見学が許される場所とも思えないが、これから唯と一緒に住む以上はいろいろと知っておいたほうがいいこともあるだろう。
「その辺も含めて隊長にお願いしてみるよ。」
とりあえず話もまとまって解散することになる一同。
妙神山への出発は次の土曜日。それまで各自英気を養うこととなった。
ちなみに次の日、唯は逆さ吊りにはならなかった。
そのかわり教室の後ろにやたらデカイ蓑虫がぶら下がっていて、ブラブラ揺れながら「えうえう」泣いていたが、学校新聞にも載らなかったため横島のクラスメートと授業に来た教師以外でそれを知るものはいない。
土曜日、横島のアパートの前に集まる一同のもとにアリエスがやってきた。
彼女に案内されて再びカッパ族の住む水の異世界へとやってくる一行。
タイガーは始めての場所だけにもの珍しい様子だった。
やがて前方に横島にとっては微妙な思い出のあるカッパ城が見えてきた。
「しかし本当にあれが動くんかいノー」
「いいえ。あの城は動きませんよ。」
タイガーの疑問にアリエスが答える。
「え?そうなんか?俺はてっきりあれが動くのかと…」
「あの城は観光用ですから。」
「「「観光?!」」」
「はい。」
驚く一同ににっこりと笑うアリエス。
「動くのは対侵略者用のあっちの城ですっ!」
彼女が指差す方を見れば、遠くに全長は1000mはあろうかというやたらとメカメカした雰囲気の城があった。
城というより戦艦といったほうがしっくり来る。いやここが異空間とはいえ水中であるならば海底軍艦と言うべきかも知れない。
その横にどうみても航空母艦としか思えない軍艦が係留されている。
「ではこちらです。」とアリエスが示したのは先ほどのゲートとは似ても似つかないやたらSFっぽいゲート。
「ここから艦橋まで直通の通路が通ってます。さあ皆様どうぞ」
「艦橋って…」
「やっぱり戦艦なのかしら…」
「へう〜。凄いですねぇ…」
「カッパ族ってのは凄いんじゃノー」
「ささ。これに乗ればすぐですわ。」
アリエスに促されゲートに入ればそこにあるのはジェットコースーターのような乗り物だった。
一同が恐る恐るそれに乗った途端、その乗り物は矢の様な速度で走り出した。
「うおおおおお」、「きゃあああ」、「おおおおおっ!!」、「うけけけけ」
悲鳴を上げ続ける一同を乗せた乗り物は10分ほどで停止する。
ふらふらと降りる彼らの前にある扉が開くと、そこは紛れもなく戦艦の艦橋部、メインコントロールルームと思しきところだった。
室内にいるのはいつぞやの女官たち。
ただし皆、女性用の軍服のような制服を着ている。
「さあ、皆様。すぐに発進いたしますわ。席にお付きになってくださいな。」
いつの間にか着替えたのか白い制服を着たアリエスが一段高い席に座っている。
どうやらあそこが艦長席らしい。その周りに用意された座席にすわる一同。
やがてコントロールルーム内の全てのモニターや計器に灯が入った。
女官たちの声が艦橋に響きだす。
「メインエンジン。出力上昇。あと20%で発進可能です。」
「艦内制御機構、問題ありません。」
「一般カッパのシェルター内退避完了しました。」
「火器管制システム。オールグリーンです。」
「レフトアーム・利根。問題なしです。」
「ライトアーム。信濃。発進準備完了とのことです。」
「レーダー異常ありません。」
それぞれの報告を聞いたアリエスが重々しく頷く。
そして立ち上がるとビシッと前方を指さして号令!!
「目標、妙神山!カッパ城発進せよ!!」
「「「「了解!!」」」」
呆気にとられている横島たちをほっといて進む事態。
やがてカッパ城がゴゴゴゴと揺れ始めるとゆっくりと浮き始めた。
「メインエンジン。問題ありません。」
「深度を上げよ!」、「了解!」
あまりに謎の展開に我を忘れていた横島たちだったが、意を決してアリエスに話しかける。
「あの…アリエスちゃん?」
「なんですか?忠夫様?」
「いや…これって…」
「これですか?これこそ対侵略者用戦闘兵器、その名も『風雲!カッパ城』ですわ」
「あの…そのネーミングセンスとかもどうかと思うが…とりあえず…侵略者っているの?」
「はい…恐ろしい侵略者が…」
思い出すのも嫌だとばかりに身震いするアリエス。
「えーと…それは誰?まさか宇宙人?」
「いいえ…彼らの名は…」
ゴクリと唾を飲む一同。
「ブラックバスと言います…」
「魚やんかっ!!」
「でもでも怖いんですのよっ!口なんかこんなに大きくてっ!!」
「魚に負けるなぁぁぁ!!カッパたちっ!!」
「ですから負けないようにこの城がっ!」
「大げさすぎるわぁぁ!!こんなもん作ってからにぃぃ!!」
横島の絶叫に「へ?」って表情を浮かべるアリエス。思わず横島も黙る。
「作ってませんわ…」
「え?じゃあこの城は何なの?」
愛子の質問にまたまたニパッと笑うアリエス。
「ご先祖様が川に落ちていたのを拾いましたの。あ、でも中は私が改造しましたんですのよ」
「へう〜。いいなぁ…」
「いいのかっ!?つーか、拾うなっ!!こんな見るからに危険なものっ!!」
その時、緊迫した声が女官から放たれる!
「艦長!!」
「どうしました?!」
「レーダーに敵影が!」
「敵って魚だろうがぁぁ!!」
「迎撃部隊を出して!」
「了解。空母「信濃」、スカル・ケロロ両小隊発進させてください。」
指令とともに右舷に係留されていた空母から発進する小型のロボット。
見た目は丸っこいフォルムで耳のない豚さんのよう。モノアイがマニア心をくすぐる。
「あれは何ですかいノー」
「あれはカッパ族の陸水両用戦闘スーツ『圧壊』です。」
「い、嫌なネーミングねぇ…」
「敵影。消えました。」
「どうやら偵察だけだったみたいですわね。」
「何を魚に偵察されとるんやぁぁ!!」
「それでは行きますわよ。水力エンジン出力全開。ジャンプ航法準備!」
「「「水力っ?!!!」」」
「ジャンプOKです。カウント開始します。10…9………3…2…1…」
「ジャンプ!!」
アリエスの号令とともに眩暈が横島たちを襲う。外の光景が一瞬歪んだかと思うとすぐに平常に復帰した。
「ジャンプ完了。本艦は妙神山近くの川に転移しました。」
「な…なぁ…アリエスちゃん…今のは?」
「このカッパ城は水のあるところならどこにでも転移できますの。もちろん異空間内ですけど…」
「へう?じゃあ着いたんですか?」
「ええ…そしてこれからが最後の仕上げですわ…全艦トランスフォーメーション!!」
「了解。トランスフォーム!」
掛け声とともに垂直に立ち上がるカッパ城。しかし艦橋部はそのままの地と水平を維持している。
「トランスフォーム開始。終了まであと10分。」
「何が起きているんですかいノー!!」
「今、巨大ロボ形態に変形中ですわっ!!」
「「「変形?!」」」
「はい。巨大戦艦と言えばやはり一番の見せ場は主砲発射!「ヤ○トの波動砲」、「ラピ○タの雷」、「ナ○シコのGブラスト」。くう〜燃えますわっ!!ですが、この城は変形しないと主砲の発射が出来ないんですの!!」
「し、主砲ってどこに?」
「もちろん妙神山ですっ!一撃で消し飛ばしてみせますわっ!!」
「目的地を消滅させんなぁぁぁ!!!」
目的と手段がひっくり返っているアリエスにすかさず炸裂する横島のとび蹴り。
「あひゃっ!!い、今のは凄く痛いですわ…忠夫様ぁ…ぐっすし…」
「ちょっと横島君!みんなのいる前でまずいわよ!!」
誰も見てなきゃいいのか愛子ちゃん…。
「あ、ああ…つい…」
辺りを見渡せば仮にも自分の国の女王さまを蹴っ飛ばされていると言うのに妙に冷静な女官たち。
中には横島を見てグッジョブ!とばかりに親指立てている人もいたりして…。
「もしかして…アリエスさん…人望無い?」
「そ…そんなことはないですわっ!そうですわよね皆さんっ!!って何で目を合わせてくれないのぉぉぉぉ!!」
「あ〜やっぱし…」
「と、とにかく主砲の発射は中止っ!!」
と横島が叫べば女官たちは一斉に彼に向かって敬礼する。
この瞬間、カッパ城の指揮権は横島に移った。
「と、とにかく着いたんだから降りるか…アリエスちゃん。降りたいんだけど…」
嫌な汗をかきながら横島がアリエスを呼べば、彼女はコントロールルームの隅っこで壁を相手に「わたくしはいらない女王でしたのね…」と呟いていて、唯にポンポンと肩を叩かれていた。
「ぐす…唯様…わたくしを慰めてくださいますの……ああ、なんてお優しい…その薄い胸には川より深い思いやりが詰まっていましたのね…」
「(ピクッ)…アリエスさん…」
「唯様ぁ…ぐすぐす」
「看板下ろせや…」…ニヤソ…
ガーーーーーーーーーン
衝撃音を背負って硬直するお姫様。そんな光景に横島とタイガーはおののいていた。
「あーーーっ。もういいからっ!いくわよっ!!」
しびれを切らして叫ぶ愛子にコクコクと頷く一同、とりあえず硬直中のアリエスを連れて女官に案内された昇降口から艦外にでた。
「風雲!カッパ城」からしばらく歩き、女官が作ってくれたゲートを通常空間に戻ってみればそこは確かに妙神山近くの川。
なじみの深い光景にやっと落ち着きを取り戻す横島だった。
「へう〜。この先が妙神山ですか?」
「ああ、そうだよ。」
「とうとう来たんですノー」
のどかな唯と緊張しているタイガーの対比に思わず笑みがこぼれかけるが、肝心なことを伝えていなかったことに気がついて唯に念を押す。
「唯ちゃん。妙神山には門番に「鬼門」ってのがいてね。修行に来る人たちを試しているんだ。唯ちゃんじゃ絶対に勝てないから間違っても「修行」に来たっ言ったら駄目だよ。」
「いえっさ!了解でありますっ!!」
あっさりと納得する唯に一抹の不安を捨てきれない。何しろこの娘は天下無双のドジっ娘だし…。
そしてついに彼らの前に表れたるは妙神山の正門。
さすがに神の住まう地。荘厳な気配が感じられる。
妹分の蝶は元気かと思いながら歩を進めていくと、現れたるは見知ったでかい顔。
妙神山門番、「右と左の鬼門」である。
「よっ!久しぶり」
「おお。横島か。久しいな。」と右が言えば左が「今日は修行と何事かの相談事だと聞いておったが?」と続ける。
「ああ、修行するのはこの「ワッシです!!」、「私もですっ!!」、「わたくしもですわっ!!」…待ていっ!!」
唯の頭をガシっと掴む。
「これは何だっ!帽子の台かっ!!さっき俺が言ったことを忘れたかぁぁぁぁぁぁ!!!」
「いひゃい!いひゃい!メキメキ言ってますぅぅぅぅぅ!!」
「何でだぁぁぁ!!」
「ついタイガー君につられましたぁぁぁぁ!!!」
「アホかぁぁぁぁ!!!アリエスちゃんもっ!!」
見れば影を背負ったままうつむいて暗く笑うアリエスの姿。
「ふふふふ…」
「え?アリエスちゃん?」
「失った人望を取り戻すためっ!わたくし…この戦い参加させていただきますっ!」
「何でそうなるっ!!」
もともと人望なんかなかったんちゃうんか?と思いつつ突っ込む横島だったが
「ふむ…そっちの事情はわからぬが…のう右の…」
「うむ。修行者と一度名乗ったからには相手をせぬ訳にはいかんのう…左の!」
すっかりやる気モードになっている鬼門たちに慌てる。
「待てっ!お前らマジでこんな幼女を虐める気かっ?」
「誰が幼女ですかっ!「唯ちゃんシャラップ!」…うけっ!」
抗議しようとした唯を机によって強制的に沈黙させる愛子に横島はビッと親指を立てた。
「「いかに見かけが幼女でもっ!強い奴は強いのがこの世界っ!!何やら我らが手を下すまでも無く一人死にかけている気もするが…勝負は勝負っ!!」」
「くっ…」
「妙神山門番!右の鬼門っ!!」
「同じく左の鬼門っ!!」
「「お相手いたすっ!!」」
後書き
ども。犬雀です。
これでカッパ城経由で妙神山へは行きやすくなったりして…。
1時間かかるってのは発進と変形プロセスにかかる時間込みでした。
本当はアッと言う間に近くの水源に移動できます…という無茶苦茶な設定。
これで「貧」三姉妹が出しやすくなるかなぁ…なんて考えてますです。
では次回 「死闘!妙神山」(仮)でお会いしましょう。
>Dan様
いえいえ…机睡眠は元々どうしようか迷っていたもんですからフンギリついてよかったです。
はい。アリエスはどんどん悪の首領と化していってます。マヌケですが。
>法師陰陽師様
今回の妙神山でタイガーはパワーアップする予定です。
どうなるかは内緒ですが…。
>紫苑様
危なくアリエスが妙神山を攻撃しかけました…。あの姫様もノリだけで生きているところがありますから…。
>wata様
ふふふ。タイガーが鬼門たちにどうマヌケに勝つか…自己暗示は使えそうですねぇ…。
>見習い悪魔様
ワサビ責めで起きるような娘ですから萌えるでしょうか?うむ。ありえるかもゲフンゲフン
>紅様
おおっ。ムレですか。それは気がつかなかった…奥が深いですな。
犬、履いてみるべきでした (マテ)
>柳野雫様
移動用カッパ城は拾い物だったそうです…。
まだまだ謎がありそうですな。『圧壊』のパイロットとかw
>MAGIふぁ様
うーむ…バレてましたか。名前。
皆様色々と鋭いですな。でも犬はそういう駆け引き結構好きです。