第4話 「虎の憂鬱、カッパの怒り」
どういうわけか横島の部屋に落ち着く一同。
少しは片付けておけばよかったと後悔する横島だったがもう遅い。
とりあえず人には見せられないものをまとめて押入れに突っ込む。
招かれ入室した少女達のなかでアリエスはヒクヒクと鼻を動かすと華の様な笑みを浮かべた。
「なんか…落ち着きますわね…この部屋…」
「そうかな?俺の部屋は汚いってんで有名なんだが…」
「ええ…なんというか、この部屋にたちこめる軟体動物頭足網のうちの鞘形亜網ツツイカ目を思わせる匂いが海っぽくてどこか懐かしいですわ…」
「素直にイカ臭いと言ってえぇぇ」
泣き伏す横島だったが彼の不幸はここからが本番だったりする。
「へうっ!とりあえずお茶入れますからそこいらに座っていてくださいっ!」
「何、はりきって仕切っているのよっ!唯ちゃんっ!!」
「いえ…正妻としてお客様の接待を…おひょっ!」
愛子は机突込みを受けて頭から煙を出しつつ沈黙する唯を一瞥した後、室内をグルリと見回すと隅で震える横島とアリエスをビシッと指差す。
「とにかくっ!掃除よっ!掃除するわっ!!」
「「え〜」」((ブーブー))
「何か…?」(ギロリ…)
「「いえ…何でもございませんです…」」
こうして横島の午後は部屋の大掃除で費やされた。
閑話
(唯ちゃん…何やっているの?)
(けけけ…このエッチなビデオの上をですね、この強力磁石でナゾリナゾリと…)
(止めてくれぇぇぇぇぇ!!!)
(では…わたくしはこちらの妙にカピカピした本たちをまとめて水洗いさせていただきますわね…)
(協力するわ…)
(嫌あぁぁぁぁ!!止めてえぇぇぇ!!!人の情けがあるのならぁぁぁ!!!)
閑話休題
突発的に発生した横島ルーム大掃除が終了したころ、ピートがタイガーを伴って訪ねてきた。
「あの…横島さんは?」
「え…彼なら…」
そう言って愛子が指差した先には、部屋のコーナーで真っ白な灰になって虚ろな笑みを浮かべて座っている横島の姿…思わずタイガーとピートの額にも汗が浮かぶ。
「何をやっとるんですかいノー…」
「あ、あはははは…。と、とりあえず横島さん…先ほどは…」
「…ピート…か…」
「え?横島さん?どうしました?」
「終わった…何もかも…」
ガックリと崩れ落ちる横島…。
「わーーーーっ!!横島さーーーん!!」
「どうしたんジャァー!!」
慌てて横島を介抱するピートとタイガーを見つめる少女達…。
「やりすぎたかしら…」
「へう…。やはり『むちむちプリン・牛乳責め』は残した方が…」
「『巨乳王国』も洗わない方がよろしかったですかねぇ…」
「うーん」と考え込む少女たち…彼女らには横島の受けた衝撃を理解することはできないだろう。
ぐっすん…。
窓の外が夕日に包まれるころになって横島はようやく意識を取り戻した。
令子の折檻からほんの数分で復帰する彼にしてみれば復帰まで時間がかかりすぎる。無理も無い話ではある。
「で…」
いつの間にか少女達が用意した夕食を皆で囲んでの話し合い。
テーブルに乗るのは「唯謹製の目玉焼き」、「愛子会心の肉じゃが」、「アリエスお手製のきゅうりの酢の物」だ。
皆で箸をつつきながら話すは昼間の戦いのこと。
横島がタイガーに話を振る。
「で…とは?」
折角だからときゅうりの酢の物をつつきながらピート。
横島は「酢の物食う吸血鬼ってのもありか?」などと考えながら再びタイガーに話しかける。
「いやなあ…何でタイガーは俺と戦おうと思ったんだ?」
「実はですノー…昨日のことなんじゃが…」
「昨日というと…って、お前デートしとったんやないかぁぁぁ!!」
「忠夫様!食事中に大声を出さないっ!!」
「はい…」
ごめんなさいと縮こまる。アリエス嬢マナーには五月蝿いらしい。当然である。
「そうなんじゃが…」
そこでタイガーが話し出すのは昨日のデートでの一件。
「ワッシは魔理さんと待ち合わせして映画に行く予定じゃったんじゃが…」
「ほほう…」
横島の手の中で箸がメキメキと音を立てる。
「やって来た魔理さんの機嫌が悪いんもんですケン、どうしたかと聞いたんジャ」
「へう?それでどうしたんですか?」
「はあ…魔理さんが言うには、六道での実技実習の時に鬼道先生に叱られたらしいんジャ…」
「それはどうしてですか?」とまだ酢の物を食いながらピート。
「何でも訓練用の式神の中でもトップクラスの奴を魔理さんがやっつけたそうなんじゃが…その戦い方がなってないと言われたらしくてノー。」
「えう?どんな風にですか?」
「鬼道さんが言うには単鬼相手に全力で突っ込みすぎる…と言うことジャったらしいんですがノー…」
「それで?…あ、愛子。すまんが肉じゃがおかわりっ!」
「魔理さんにしてみればやっつけたし、自分にもダメージが無かったから誉められると思ったのが、逆でしたもんですケン、それが不満だったらしくてノー…」
「それがどうしてタイガー様と忠夫様が戦うことに結びつきますの?」
「いや…ワッシも鬼道先生の言うことがわかる気がして…魔理さんにそれとなくアドバイスしようとしたんじゃが…」
「話を聞いてくれなかったの?」
横島にご飯のおかわりをよそいながら愛子が問いかける。
「それがノー…だったらワタシと戦って見せろ!となってしまって…」
「戦ったんですか…」
「そうなんじゃが…」
「負けた…と言うことか?」
パクパクと肉じゃがを食いながら聞く横島にその巨体を縮めてタイガーは答える。
「はい…」
「まったく…お前のことだから手を抜いたんだろ。」
「そんなことはしないつもりだったんジャが…」
「精神感応使ったか?」
「それは…」
使わなかったようだ、昔、あのケーキの一件の時は彼女を守ろうと必死に走り回った男だったのに、惚れた弱みか、はたまた一度手に入れた幸せを失うのが怖いのか全力を出すことが出来なかったらしい。
まあ、タイガーらしいと言えばそうかもな…と思いつつ話を促す。
「ふーん。で、何で俺と…?」
「もしかしたらワッシは…GSとしてこの先駄目なんじゃなかろうか…と思いましたもんですケン…」
「それで自分の力を測りたくて忠夫様と戦いたかった…ということですの?」
「そうなんジャー…」
「…忠夫様…」
「ん?どうしたの?アリエスちゃん…」
顔を伏せ小刻みに震えだすアリエスに疑問の声を投げる横島だったが帰ってきたのはとんでもない答え。
「この方…改造してよろしいですか?」
「「改造っ?!!」」
「はいっ!!」
目を光らせてシュタッと立ち上がる!
「ワッシをですかいノー!」
突然よく知らない美少女に改造するなどと言われて仰天するタイガーを、プンスカプンと怒りながらアリエスは弾劾し始めた。
「そうですわっ!!でかい図体してなんて情けないっ!!ご自分が正しいと思うならその女性に手加減するなどもってのほかっ!!あげくに敗北してしまってはかえってその女性の慢心を増徴させるだけと言うことも気づかずに、上辺の優しさだけを取り繕うなどますますもって言語道断!あなたのような方には根本から改造してあげないとわからないのですわっ!タニシ…そうタニシこそがあなたにはふさわしいですっ!!」
「うう…ワッシは…ワッシは…」
「ほらごらんなさい。わたくしのようなか弱い美少女にここまで言われても反論も出来ないその性根…。あ〜!もう!!情けないったらありゃしないですわね。あげくに忠夫様のお手を煩わせるとはっ!!」
(か弱い…でしょうか…)
(怖っ!アリエスちゃん怖っ!!)
(えうぅぅぅぅ…アリエスさん怖いですぅ〜)
(アリエスさん…また人格変わった?…)
「だいたい、そこまで己に自信が無いなら修行の旅でも山篭りでもすればよろしいのですっ!!それが確固たる目的もなく忠夫様と戦ったからといって何を得られると言うおつもりですかっ!!」
ガックリと手をつくタイガーの肩にポンと手を乗せられる手。
おずおずと顔を上げればそこには厳しい目をしたピートが居た。
「タイガー…僕もそう思う…。君は横島さんに挑む前に自分ですべきことをするべきだった…。この人の言うことももっともじゃないかな?」
「ピートさん…ワッシは…」
「んー…つまりタイガーは魔理ちゃんが慢心していると思っているわけだな…」
「そうですノゥ…」
「だったらやっぱりタイガー君がちゃんと教えてあげるべきじゃないかしら?」
「無駄だと思うな…。今のタイガーなら同じ結果になるだろう。」
「ううっ…」
(タニシですわっ!!いえ…トビケラの幼虫もありですわね!!)
(アリエスさん!落ち着いてっ!ドウドウですぅ!!)
「では…横島さんはどうしたら良いと?」
「やっぱしアリエスちゃんの言うとおりだろ…」
「改造ですかっ?!」
「いや…そっちじゃなくて…修行だろうな。」
「どこでですかいノー」
「そうだなぁ…唯ちゃんのこともあるし…一度、妙神山に行こうとは思っていたんだが…。」
「でも…あそこで修行となると紹介状が必要ですよ。」
「あ、それだったら隊長に頼んでみるさ。」
「隊長ですか…でも、急に連絡取れますか?」
「大丈夫ですぅ。私にお任せくださいっ!!」
そう言うなり唯は不思議そうな顔をする一同を置いて窓に近づくと外に向かって叫んだ…。
「若作りのオッパイおばさーーーん!!」
♪チッチチッチ
「はい。天野ですぅ…」
(今、なんとなく殺意の波動に目覚めたんだけど…)
「あああ、みみみ美神先輩ぃぃぃ〜。な、何のことですかぁ?」
((((なんて命知らずな真似をぉぉぉぉ!!!))))
壁際に固まってビビリまくる一同。美智恵を知らないはずのアリエスも電話から漏れてくる殺意の波動?に愛子と抱き合ってガクガクと震えている。
やがて通話が終わると唯はぺとりと崩れ落ちた…。
「唯ちゃんっ!!」
駆け寄って抱き起こす横島を焦点の霞んだ目で見ながら彼の手を握る唯。
「タダオくん…私…頑張りました…よ…ね…」
「ああっ!頑張ったさっ!!だから…だから…」
「えう…タダオくん…どこですか…」
「唯ちゃんっ!もう…もう目が…」
「へう……タダオくん…最後にお願いが…」
「ああっ!言ってくれ!俺で出来ることなら…」
「…明日…起こしてくれますか…」
「すまん。無理」
唯はポテっと抱き起こされていた手を離されて床に落ちた。
ガバッと跳ね起きて抗議一発!
「ひ、酷いですうっ!!」
「だって女の子の部屋に勝手に入るわけにもいかんだろ…それに愛子がいるじゃん…」
彼の上司が聞いたら「ほお〜。私の部屋からは勝手に下着を持ち出すのにねぇ…」と折檻確実なことを言ってポリポリと頬を書く横島。
妙なところで義理堅いというか奥手と言うか。
見守っていた愛子も思わず溜め息を漏らす。
「あの…横島君。私、今日は学校に戻るわよ。」
「ええぇぇぇぇ!!私、明日遅刻すると逆さ吊りなのにぃぃぃ!!」
「いきなり引っ越すわけにもいかないでしょっ!先生とかに許可もあるし…それに…」
すーっと深呼吸する愛子。
「ちっとは自分で起きる努力をしなさいぃぃぃぃ!!!」
「そんなぁ…」
畳に「の」の字を書き出す唯にピートが肝心のことを聞く。
「あの…それで…隊長は紹介状を書いてくれそうですか?」
「いえ…でも連絡はしてくれるそうですぅ。いじいじ…」
「そっか…なら今度の夏休みでもいって見るか…」
「それでは遅すぎませんか?」
「だって行くだけで二日は潰れるぞ。俺だけならともかく…」
そう言うと唯とタイガーを見やる。
確かにタイガーはまだしも、100m走でまともにタイムを取れたことが無いと
言う唯には無理そうだった。
「うーむ」と考え込む一同に対して、突然、アリエスがピシッと天を指差して宣言する。
「わたくしにお任せくださいっ!皆様を送り届けるなど造作も無いことですわ
っ!」
「本当か?」と半信半疑の横島ににこやかな笑みを向けるともう一度天を指す。
「はいっ!わたくしのカッパ城の移動能力を使えば妙神山など1時間でいけますわっ!!」
「え?本当に動くの?!あの城…」
驚く愛子に当然とばかりに胸を張ってうなずくアリエス。
カッパ城…まだまだ謎は深いようだった。
後書き
ども。犬雀です。
今回はタイガー君の理由ですが、はっきり言って情けないです。
まあ一度手に入れたものを手放すというのは勇気が要りますが…。
そういう意味でタイガー君と横島君では霊力以外の部分で相手になりません。
今回の理由つけでこの話の次が決まりかなとは思ってます。
やっぱりあそこに乗り込まなきゃならんでしょうねぇ…。
そろそろおキヌちゃんとかも書きたいですし。
では次回…「出撃!カッパ城」(仮)でお会いしましょう。
あ、それと今回は「大地」と連投になります。すみません。
>秋斗様
ブルマは履いて寝るかと思います。
起こすのは大変ですねぇ…きっと…。
>wata様
文珠で起こしてもまた寝るような…。何しろあの唯ですから。
>紫苑様
愛子は寝るときどうするんでしょうね?机に戻るのかな?
風呂とかそういう私生活部分…これから考えます。
>見習い悪魔様
補習地獄はこのままですと確実です。愛子の頑張りに期待が集まりますが…さてどうなることやら。
>法師陰陽師様
はい。手を抜かない横島と手を抜くタイガーという対比になりました。
今回はタイガーの成長も考えてます。最初は妙神山にいかせるつもりは無かったんですが、こうなったら小竜姫様と戦わせちゃいますです。
>梶木まぐ郎様
実は最終的にあのアパートを占拠しようという目論見が犬にはあります。
出来れば既存のキャラでやりたいですな。猫の親子とか。
>MAGIふぁ様
ギクギクです。タイガーVS小竜姫戦…お楽しみください。
>Dan様
うーむ。やはり机で寝るのは却下しましょう。うん。今決めた♪