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「繋がりの年代記 七話(GS+終わりのクロニクル)」

伏兵 (2005-01-22 05:01)
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 白の光が人狼を穿った。

「!?」

 横島は見た。人狼胴体中央を、幅十センチほどの激光が貫いたのを。

 ……狙撃!?

 驚きで文珠の制御が乱れ、投げたソーサーに備えた二つの文珠が効力を失う。
 霊盾は投じられた勢いそのままで、撃ち穿たれ動きを止めた人狼にぶち当たった。何の効果も持たない無字の文珠が二つ、地を転がる。
 衝撃で、人狼が動いた。
 雑多な感情の入り混じる瞳でこちらを見、佐山を見、少女を見て、

「――――――――!!」

 吼えた。
 獣の吼え声は暗く静かな森に響き渡る大音声。
 吼声の中、横島は違う音を聞いた。
 繊維質を断つ音。
 泡の生まれた音。
 その二つの音を立てたのは、刃の鋭さを持つ人狼の爪だ。
 断ち裂く爪の軌跡は己の首筋。
 遠慮なく、肉が地面を打つ音がした。
 獣の巨躯は青白い炎を立てたまま、地に倒れ伏す。
 見れば、佐山が蹴りの為に振り上げた足を途中で止めている。

「な――、っ!」

 な、の一音で疑問を押しとどめ、横島は人狼に向かって駆けた。
 倒れた獣の近くに転がる二つの文珠を拾い上げ、“蘇生”の二字を刻み、

「間に合えっ!」

 人狼に使った。
 文珠が効力を発揮し、人狼の傷を一瞬で修復する。
 しかし、人狼に生気は感じられない。
 佐山が近付き、人狼の腕を取って脈を見る。
 表情を緊にして、

「……貴方が何をしたのかは知らないが、この人狼は生き返らなかったようだ」
「そう、か……」

 がっくりと膝をつく。
 文珠による蘇生は、相手に生きる意思が無ければ果たされない。
 ゆえに、自害したものを無理矢理生き返らせる事は出来ない。
 分かっていたことだ、と横島は己に言い聞かせる。
 理性では理解している。狙撃をした者も、こちらを助ける為に撃ったのだ、と。

 ……俺が、さっさと文珠使って停めてれば……!

 その思考を傲慢だと思い、歯を食い縛る。

「っ……!」

 怒り、憤り、憎しみ、悲しみ、哀れみ、諦め、全ての感情を押しとどめ、無表情をつくる。
 そして右手をポケットに入れ、取り出すのは二つの文珠だ。
 “安息”の二字を刻み、人狼に。

 ……俺は聖職者じゃないから弔えねえけど……

「せめて、安らかに眠ってくれ」


              ○

 佐山が新庄と一息つく場所に選んだのは、彼女に切断された木の根元だった。
 佐山は、横島に身体を支えられつつそこに辿り着く。
 座り込んだ佐山に、肩を鳴らしながら横島が、

「あー、肩凝った。男なんぞ支えるもんじゃないな」
「それはこちらの台詞だ。貴方のようなムサい男に支えられるなど……、恥辱だね?」
「ああそうだな。……腕出せ。応急処置ぐらいはしてやるから」
「いや、自分で出来る。包帯はあるか?」

 ある、と横島が答え、リュックサックから包帯とハサミを取り出す。
 佐山はそれを受け取り、左腕の動脈を圧迫するように手際よく巻いた。
 作業を終え、顔を上げると新庄がこちらを見ていた。口をわずかに開けた顔に、

「驚くことかね?」
「あ、いや、手慣れてるな、って」
「昔、飛場道場という……このちょっと上に行ったあたりにある道場に通っていてね。そこで実践の形で習ったことだ。道場主は文明を知らぬ猿だが野生の力で妙に強い」
「どうも弟子は師に似てるようだな。……新庄、だったか?」
「あ、は、はい」

 横島に名を呼ばれ、新庄が多少緊張しながら答えた。
 横島は少女の持つ水銀灯の淡い光の中、生まれる陰に表情を隠して、

「さっきの狙撃は……、君の関係者か?」
「……はい。多分、もうすぐ救助に来ると思います」

 横島が新庄の答えに一瞬表情を歪めた気がするが、木々の陰影に隠れて良く分からなかった。

「そっか。あ、敬語使わなくていいぞ。堅っ苦しいのは嫌いなんだ」
「あ、はい、じゃなくて、うん」

 縦横縦と首を振る新庄の動作に、横島が微笑を返す。
 そしてこちらの傷を見て、顔をしかめた。

「俺がヒーリング出来ればなあ……文珠で治療すると過程飛ばして結果出すから色々問題あってなー」
「……文珠とは、先ほど人狼に使った……あれかね?」
「ああ、これだ」

 横島がポケットから、一個の球体を取り出す。
 それはビー玉程度の大きさで、緑色をしていた。
 横島は掌でそれを転がし、

「これに漢字一字を込めると、そのとおりの効果が出る。傷を治したかったら“治”とか“癒”とか」
「便利アイテムだな。使用法に疑問が残るが、治癒に関しての問題とは?」
「治ることは治るんだが、後でめちゃくちゃ痒くなったり痙攣したりする。緊急時以外は勧められねえ」
「便利アイテムかと思ったら博打アイテムかね。ともあれ現状には必要のないものか」
「うわお前俺の存在理由の一つを否定しやがったな。――それを作れる事が俺の中で最も重要なステイタスなんだぞ」
「横島・忠夫。貴方は今自分で自分を卑下している」

 言った言葉が偶然相手の急所を突いた。
 横島が表情を消す。

「……俺は進歩ないからな。五年前からずっと、前に進めてない」

 溜息をつき、空を見上げるその表情は自嘲だ。
 風が吹き、枝葉がこすれ、木々がざわめく。

「今日だって、あの人狼を救えなかった。話し合う事だって出来たはずなのに」
「――それは違う」
「――それは違うよ」

 二つの声が重なり、佐山と新庄は互いの間で驚きの視線を交わした。
 佐山はこちらを見る新庄に、手振りでうながした。先に喋れ、と。
 う、と新庄がうめき、しかし頷きを返した。眉尻を下げた顔で、

「――本当なら、ボクがあの敵に対処しなければならなかったんだ。でもボクの力が足りなかったから、二人を巻き込んで、怪我させちゃって……」

 言葉は後になるほどか細くなり、次第に顔がうつむいていく。

「最後だって、ボクは撃つべきだったのに、撃てなかった」
「それも違う」
「それは違うな」

 二度目の声の重なりに、佐山は横島と視線を交わした。
 見れば、横島の顔に表情が戻っている。
 視線を戻せば新庄が驚きの顔でこちらを見て、そして慌てて言葉を紡ぐ。

「でも。ボクは撃てたのに撃てなくて、少し間違えば佐山君を危険な目に――」

 佐山は新庄に瞳を向けた。真っ直ぐな視線で彼女の言葉を停めると、

「いいかね? ――君は私と敵の命の天秤を迷った。これは正しい事だよ」
「そ、そんな事ないよ。だってボクは迷って何も出来なかっただけで」
「ならば聞こう。なぜ迷ったのかね?」

 こちらの言葉を聞き、新庄が言葉に詰まる。
 代わりに答えたのは横島だ。淡々とした声で、

「誰かの命を奪う時に迷わない奴は悪党だ。迷った挙句に相手を殺しちまう奴はただの間抜けで、迷いの結果で皆を救える奴が“正義の味方”なんだよ」

 言う横島の顔、浮かぶのは自嘲の混じった苦笑。

「俺はただの間抜けだ。昔も、そして今も」

 息を一つ吐いた横島の顔を見やり、思う。
 この男はどんな過去を背負っているのか、と。
 興味はある。しかし、

 ……詮索して良いものではない。

 そして、過去を詮索するような親しい間柄でもない。
 佐山は右手を顔に乗せ、空を見た。暗き闇の中、幾多の星が見える。
 それを視界に入れ、言う。

「――ならば私は悪役だ」

 紡いだ言葉の真意を測りかね、横島と新庄がこちらを見る。
 佐山は口元に笑みを浮かべ、不安そうな顔の新庄に、

「私は悪役であり、間違っている。そして間違っている私はあの時迷わず撃っていただろう。ゆえに撃たなかった君は正しいよ、新庄君」

 顔を覆う右手を退け、その手で虚空を強く握った。視線を新庄にあわせ、

「佐山の姓に誓い、言おう。――君は正しい事をした」

 笑み。
 快い笑みを浮かべたこちらを見て、横島も笑みを浮かべた。

「じゃあ俺も。――横島・忠夫の名において誓う。君はこの場において最も正しい人間だ」
「え、え?」

 困った表情でうろたえる新庄を見て、佐山と横島は笑みを深くした。
 そして吐息を一つ。と、身体から力が抜けた。ぐらりと傾いたところを、

「あっ、――大丈夫?」 

 新庄に支えられた。

「ああ、すまない。――ところで胸を隠さなくていいのかね?」

 え? と新庄が己の身体を見る。
 彼女の着衣、ボディスーツ型の衣服は、胸から臍までを人狼によって引き裂かれていた。
 きゃ、と新庄が悲鳴を上げて腕で胸元を隠す。
 支えを失った佐山の身体が、新庄の脚、崩れた正座の姿勢の腿の辺りに落ちた。

「あ、――ご、御免ね?」
「いや、構わないよ。中々快適だ」

 横島が笑った。

「悪役少年殿はお疲れみたいだな」
「未知との遭遇が連続したからね。――さすがに疲れた」
「じゃあごほーびに俺が子守歌でも」
「男の子守歌は勘弁願いたいね……」
「俺もだ」

 と、横島が新庄を見た。何かを期待した目付きで、

「え……じゃあ、あの、――ボクが歌うの?」
「俺も疲れたしなー。巻き込まれ被害者としては、労働後の快適な睡眠の為に子守歌の一つぐらいは許されるんじゃなかろうか」
「ふむ。私としても、怪我の代償として膝枕に子守歌のサービスが欲しいところだね」

 言われ、新庄が困ったような顔をつくり、やがて苦笑を浮かべた。

「分かったよ。……えー、と」

 と前置きしてから、こちらの前髪を掻き上げ、口を開く。
 歌が紡がれる。初めは小さな震える様な口調で、そしてゆっくりと落ち着いた声で。
 佐山も知っている歌だ。聖歌の、清しこの夜。


 Silent night Holy night/静かな夜よ 清し夜よ
 All's asleep , one sole light,/全てが澄み 安らかなる中
 Just the faithful and holy pair,/誠実なる二人の聖者が
 Lovely boy-child with curly hair,/巻き髪を頂く美しき男の子を見守る
 Sleep in heavenly peace/眠り給う ゆめ安く
 Sleep in heavenly peace/眠り給う ゆめ安く――


              ○

 佐山が目を伏せた。新庄という少女の膝を枕に、聖歌を子守歌にして眠りについたらしい。
 贅沢な奴だ、と思う。自分にああいう事をしてくれたのは、氷室キヌか、修行で気絶した後に小竜姫がしてくれたぐらいの気がする。

 ……あー、でも、神無と朧にも最近してもらったかなあ。そういや高校ん時に愛子と小鳩ちゃんがしてくれたよーな。あと前の事件の時にワルキューレとかも……

 随分してもらってるな、と思い、それぞれの感触を思い出す。
 記憶から掘り起こしたそれらに共通するのは、肌の柔らかさと声にこもる慈愛だ。
 と、気付いた。

 ……美神さんにはしてもらってないな。

 そう思い、そして苦笑する。

「GSとして認められてもないのに、してくれるはずもない、か」

 呟きは小声で、新庄の紡ぐ聖歌に紛れて二人には届かない。
 と、歌に聞き入る聴覚が違う音を拾った。
 足音だ。
 下草や枯れ枝を踏む音は三人分。
 そのうち一つはいやに重く、どこか聞き覚えがある。
 横島は疲労した体を起こし、警戒心をあらわにして立ち上がった。右手に“栄光の手”、左手にサイキックソーサーを生み、

「――誰だ?」

 足音の方に声を放った。
 それにより、軽い金属音と警戒の気色が伝わってくる。
 声が返って来た。

「そっちこそ誰だよ? 部外者は入れねえはずだが――」

 声の元、幅広い長剣を構えた大柄な影と、長い槍を構えた細身の影がある。そして最後尾、無手の一人が両手をあげ、戦闘の意思をないことを示しながら近付いて来た。それはどこか聞いた事のある重い足音の主で、

「マリア――?」
「Tes.。横島さん・また・会いましたね」

 旧知の仲である彼女はそういって両手を下ろし、機械の顔の中に小さな感情を見せて言う。

「事情は・知りませんが・――ともかく・ついてきて・ください」

 横島はとりあえず、頷いた。


             ○


伏兵です。ようやくUCATです。ここまで進めるのに一ヶ月七話かかりました。この調子だと、1巻分終えるより5巻が発売されるほうが早そうです。
今回も滅茶苦茶端折ってます。原作読んでないと何がなにやら分かりません。
まあ良いことですけれど。大本の謎がそろそろ分かってこないと、こちらとしてもストーリーを何処まで変革して良いのか分かりませんから。現状、特に変化はありませんが。

とりあえず、1巻分の登場(見せ場)予定キャラは以下のとおりです。

・美神令子
・氷室キヌ
・唐巣神父
・ワルキューレ
・ジーク

ちなみにカオスに見せ場はありません。
当然ですね?

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