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「繋がりの年代記 六話(GS+終わりのクロニクル)」

伏兵 (2005-01-16 01:06/2005-01-16 01:28)
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 ボールペンの突き刺さった人狼の肩、青白い炎が噴き出し煙が出た。
 人狼が苦痛の音を漏らし、ボールペンを引き抜き投げ捨てる。

 ……貴金属が力を持つ、か。

 少女と交わした短いやり取りを思い返し、佐山は頷きを一つ。
 護る対象がおり、戦う意思があり、抗う手段がある。
 ならば、と佐山は両腕を左右に広げた。

「本気で戦うのが悪役の務めだろう。――存分にかかってきたまえ」

 右手に持つのは一本のボールペン。先ほど投じたのと同じスイス製のもので、先端部は銀。
 貴金属だ。
 人狼が視線を走らせる。その対象は二つ。佐山と、そして横島だ。
 佐山も横島に視線を向け、

「教えてあげようゴーストスイーパー。あの人狼には貴金属が有効らしい」
「貴金属……銀か。霊力効かないくせにそんなとこだけ人狼かい」

 愚痴り、横島がリュックサックに手を入れた。
 引き抜いた時に持っているのは、一本の矢だ。
 銀の光沢を持つそれは、

「人狼の里の特産品……フェンリル狼にすら痛痒を与える銀の矢だ」

 横島は霊力の篭手を纏った右手に銀の矢を持ち、左手では幾つかの霊盾を生む。
 佐山は横目でそれを見やり、

「矢だけか。弓はないのかね?」
「この近距離で弓につがえろっちゅーんかオマエは」
「それが矢として正しい使用法だと私は思うのだがね」
「じゃあ俺も言うが、ボールペンは投擲武器じゃないぞ」
「昔から言うだろう、――ペンは剣よりも強し、と」

 横島が溜息をついた。
 納得したか、と佐山は溜息に頷きを返し、こちらを警戒する人狼に笑みを送る。

「再度言おうか、名も知れぬ人狼よ。――存分にかかってきたまえ!」

 言葉と同時、三者が動いた。


                ○


 人狼が先に狙ったのは、青年の方だった。見知らぬ技を使うそちらの方こそを脅威と感じたためだ。
 前を見据える。視界に映る青年が持つのは銀製の矢だ。
 自分は元素の概念的に貴金属と相性の悪い人狼種だ。ゆえにこの概念空間は貴金属が力を持つように設定されている。概念条文によって力を持った矢は、当たり所が悪ければ致命傷になりかねない。
 ならば、当たらなければ良い。
 眼前に立ちはだかる二人の獲物は、いずれも自分より非力なのだから。
 動く。身体を縮めタメをつくってからの跳躍突撃は、疾走というよりは弓から放たれた矢に近い。
 狙いは青年の胸。真っ直ぐに突く右腕の一撃で臓器を突き破る動き。
 対し、青年が動く。左手に生んだ複数の盾をこちらに向ける。
 投擲の構えだが、あれの打撃力ではこちらの動きを止められない。防御に使ったところであの程度ならば容易に貫ける。
 だから人狼は構わずに突撃した。
 爪先に衝撃が来る。
 しかし肉を穿った感触は来ない。
 代わりに来たのは、木々を連続で貫いたかのような裂感だ。

「!」

 見た。右腕全体に淡い輝きが散り、爪先には同じ輝きを持つ盾がある。

「一つで抜かれるなら複数で、だ!」

 青年が叫び、右の手を振りかぶった。
 振りかぶられた右手には、銀の矢が握られている。

「――――!!」

 叫び、退く事を考えるが、あえて人狼は青年の懐に入った。
 腕を引き、振り下ろしてくる青年の右腕に左肘を入れてかち上げる。青年の右脇が開く。
 そして、人狼は青年の左手にある盾を蹴った。
 反発力による動きで右脇のスペースを抜け、地面を転がるようにして距離を取る。
 青年は打撃によって体勢を崩したのか、地面に膝をつき右手で身体を起こしている。
 それよりも早く人狼が左腕で地面を突き、起き上がったところで白が来た。

「よもや、私を忘れてはいないだろうね……!」

 先ほど追いかけていた、獲物と定めた少年だ。それは全身でぶつかるようにして、こちらの懐に突っ込んで来る。
 少年は右手で器用に右袖のボタンを外し、ボールペンを持つ左手で刺突の動きを繰り出した。
 気付いた瞬間、胸にペンが突き立つ。
 痛みと炎と煙が同時に出て、そして人狼はその全てを無視した。
 人狼の腕が、少年に振るわれた。
 軌道は左の肩口から右の腰に至る斜線。
 無理な体勢から放った為に致命傷には至らない。裂いたのは少年の左腕のみだ。
 しかし肉を断つ感触は心地よいものであり、噴き出た血の色彩は華やかなものだった。
 歓喜の笑みをつくる。と、少年と目があった。
 そこに浮かぶ表情、恐れも怯えも無いそれは間違いなく、

「――――!」

 歓喜の表情だった。
 人狼のつくった笑みが消え、代わりに浮かぶのは畏れの表情。
 その感情に押されるまま、人狼は動いた。
 既に両腕は動かしており、人間ならば攻めの手段はなかった。
 だから人狼は動く。両脚に力を入れ、前に。
 顔を突き出し、口を開く。
 噛み付きだ。
 しかし人狼が口を開いた刹那、飛び込んできたものがあった。
 腕時計だ。
 少年が左腕につけていた腕時計、それが今、口内にある。
 思い、思い出すのは時計の意匠。記憶にあるそれには確か、銀のあしらいが施されていた。

「――――ッ!?」

 青白い炎が上がった。

                ○

 横島は銀時計を噛み炎をあげた人狼を視界に入れ、追撃を狙う佐山の襟首を掴むと、強引に引っ張った。
 そして後ろに飛び退き、距離を取る。襟首を掴まれた佐山が抗議の瞳で、

「何をするのかね? 私は今現在非常に忙しいのだが」
「もう下がれよ。怪我してるだろ」

 言った横島の視線の先は佐山の左腕。人狼の爪を受けた傷が、赤いものを流している。
 佐山も同じくそれを見て、

「何も問題はないね」
「いやあるだろありすぎだ。なあそっちのお嬢ちゃん」
「え? あ、ああ、うん」

 急に話題を振られた少女があいまいに頷き、佐山が少女に頷きを返した。

「見たまえ。彼女も同意している」
「ありゃ俺の言葉に同意したんだろーがっ!」

 叫びを返し、横島は人狼に視線を戻す。
 銀のダメージが立ち直った人狼が、こちらに視線を向けている。
 それに対し、横島は一言。

「タフだな」

 人狼が四肢を強張り疾走の姿勢を見せるが、横島は特に構わず自然体だ。既に銀の矢は捨て、“栄光の手”もサイキックソーサーも出さず、ただ人狼の瞳に視線を返す。
 後ろ、佐山が前に出ようとするのを押しとどめ、横島は右手を突き出した。そして握った拳の中指だけを立て、

「――来いよ」

 言った。
 次の瞬間、人狼が駆けてくる。
 走る人狼に対し横島は左の手も前方に突き出し、何かをひっくり返すような動作で叫ぶ。

「サイキック・ちゃぶ台返し!!」

 直後。
 叫びと共に人狼の真下の地面から、亀甲のように組み合わさった霊気の板が跳ね上がる。

「――!?」

 跳ね飛ばされ地に倒れた人狼を、十九枚のサイキックソーサーで構成された板が上から包み込み、ちょうど椀を被せたような形で捉える。仕掛けたのは先刻。突き飛ばされ、右手を地面に付いた時だ。

「見たか対人逃亡用奥義!」

 捕獲を確認し、横島はガッツポーズ。
 通常では霊気で気付かれる為に使えない技だが、霊力を持たぬこの相手は見事に引っ掛かった。
 後ろ、少女が息を呑み、

「嘘。あの敵を……」

 驚きの声に佐山が一つ頷き、

「……ところで、対人用と言っていたがどんな相手に使うのかね?」
「主に絡んできたヤーさんとかに……。いや、そんなことはどうでもいい」

 横島は息を一つ吐き、拳を握る。
 妙な事件だったが、当面の問題は解決した。
 と、そこまで考えて横島は疑念を浮かべた。そもそも何故戦っていたのだろう、と。
 過去を振り返り、振り返りすぎてまた戻り、結論に至る。

 ……この空間。

 異質な、結界にも似たこの空間に好奇心を持ったからこそ、文珠を使って侵入したのだった。
 そしてその好奇心の答えを知る者は、

 ……この子か。

 振り返り、見る。
 白の黒のドレスにも似た服を纏った少女。
 あの人狼に対する武器を持っていた少女。
 佐山という少年は、恐らくは自分と同じイレギュラーだ。
 全ては少女が知っている。
 だから横島は少女に向き直った。身を屈め、目線を合わせ、視線を交わす。
 少女の瞳に映る感情は、困惑。そして怯えだ。
 怖がられてるか、と思い、表情を崩す。戦闘の残滓による緊張を捨て、笑みをつくった。
 口を開き、問いを放とうとしたところで、

「――横島・忠夫」

 佐山が警句を放った。
 直後、吼声が響く。

「―――――!!」

 人狼が檻を破り、吼えたのだ。

「ちっ、――こうなりゃ直接縛るか」

 左腕を一振りすると、袖に隠しておいた呪縛ロープが手の中に落ちてくる。
 右手はズボンのポケットに入れ、文珠を掴む。刻む文字は“縛”か“捕”か“停”か。
 無数の選択肢は逡巡を生む。
 迷う隙に佐山が飛び出した。一歩目からスピードの乗った疾走で、檻から脱した獣に走り向かう。
 佐山の視線の先、人狼の胸に突き立ったままのボールペンがある。姿勢から見て、それを蹴り上げるつもりだろう。
 横島は迷った。どう動くかを。
 それで佐山の飛び出しを許した逡巡は無為になり、また新たに逡巡の時を必要とする。

 ……これだから文珠は……!

「止まれぇ――――っ!!」

 右手をポケットから引き抜きサイキックソーサーを生む。GS免許取得の時より慣れ親しみ、練磨した技だ。
 今ここで人狼が全力で動けば、少年は己の攻撃ごと潰される。
 その事をどうしようもなく理解し、投擲の為に腕を動かす。
 だが。
 佐山の蹴り。人狼の動き。そのどちらよりも絶望的に遅い。
 だが、と横島は思う。

 ……何もしないよりはいい!

 投げる。
 その瞬間に、

「駄目だよ……っ!!」

 金属音。少女の叫び。
 二つの音に目だけで振り返る。後ろ、少女が杖を構えていた。その指は引き金らしきアンカーに掛けられている。
 だが、

 ……この子には、止められないな。

 少女の瞳に映る怯えと逡巡と嘆きと悲しみとそれ以外の全てを見て、冷静に思う。
 目を戻し、今度こそ投擲しようとして、横島は人狼に表情を見た。
 抗議。憤り。諦め。嘆き。怒り。そして哀れみ。
 それらのどれもであり、どれでもない表情が、獣の顔に浮かんで歪みとなった。
 そこで気付く。相手は毛色は違うが人狼で、人と感情を持ち、話し合いの効く相手なのだと。

 ……止めなきゃな……!

 もはや少年を救う為ではなく、少年と人狼の二人の二人を救う為に。
 佐山が動き、人狼が身を震わせる。
 どちらも攻撃の初動と思われる動きだ。

「だ、駄目……!」

 少女が声をあげ、再度の金属音が響く。しかしあの少女は、

 ……そういう事の出来ないタイプだ!

 胸中で勝手に決めつける。
 横島は再度ポケットに手を突っ込んだ。掴み上げる二つの文珠に刻む文字は“速”と“停”。
 相反する二つの文字だが、

「“速”で飛ばして“停”で止める!」

 二つの文珠をサイキックソーサーに備え、今度こそ投げつける。
 背後で鎖の音が鳴った。少女の指が杖のアンカーから外れた音だ。
 それでいい、と横島は思う。

「そういう判断が出来る奴が大事なんだよ……!」

 文珠を載せたソーサーが横島の手から離れた瞬間。
 人狼の身体を、いきなり、白い光が真横から貫いた。


          ○


伏兵です。間を空けた分いつもより多く書いています。あー戦闘シーン書いてるの楽し(ry
では今回のびっくりどっきり技解説ー。

○サイキック・ちゃぶ台返し
対人逃亡用奥義。組み合わせて板状にしたサイキックソーサーを地面にしかけておき、相手が上に来たところでひっくり返す。転ばせたら椀を被せるようにして檻に移行。
ただし、神魔妖霊には霊気で気付かれるので本当に対人・もしくは霊気に気付かない相手限定の技。
類似技に、ソーサー一枚ですっ転ばせるだけの『サイキックテーブルクロス引き・失敗』、畳の裏にしかける『サイキック畳返し』などがある。もちろん神魔妖霊には(ry


次回はようやくUCATと邂逅でしょうか。

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