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▽レス始

「彼が選んだ道−11−(GS)」

リキミ・スキッド (2005-01-19 23:26/2005-01-19 23:27)
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「では、おキヌを呼び出します。」

道士はそう言うと祠の中にある池の中央に浮かぶ球体に手をかざし、短く言葉を呟く。
それに反応して球体は輝き、そしておキヌがその姿を現した。
突然呼び出されたおキヌは驚いたようにあたりを見渡す。

「おキヌ。今からお前は生き返ることとなる。」
「えっえっえっ? 生き返るって、私幽霊で・・・。」
「しばし眠っておれ。その間に全ては終わる。」

道士は続けて言葉を呟き、おキヌはその言葉に抗えることも無く意識を失った。

「ジョーカー殿。」
「わかっている。死津喪比女は俺に任せておけ。」

道士の視線に横島は頷いて答えると手のひらに文珠を作り出す。
『出』『現』と刻まれた文珠はすぐにその力を発揮し、横島のイメージどおりに死津喪比女の核となる球根を祠の中に具現させた。
死津喪比女の球根の巨大さに早苗は唖然とただ眺めている。

「ジョーカー。もうすぐ任務終了だね。」
「そうだな。簡単な任務だ。」
「と、言うわけで早苗ちゃんは外に行こうな!!」

横島がいざ球根の中から心臓を取り出そうとしたとき、影の中にいた珠姫が姿を現した。
その光景に早苗は小さな悲鳴をあげ、レイドネは驚愕の表情で横島を見る。
横島はいきなり出て来た珠姫に驚くことなく、上半身だけを出してニコニコしている珠姫の脇に手を突っ込み、全身を浮かび上がらせた。珠姫は影の中で服を作ったのか、横島が着ている服と同じ物を身につけている。

「ジョーカー。その子、霊気からして君の使い魔? でも、その額の呪は・・・。」
「使い魔であり、眷属でもある。昨日の晩に上質な魂を手に入れたんでな。作ってみた。」
「ども、珠姫っていいます。ヨロシクッ!!」

そう珠姫は明るく言うと早苗の傍にまで近づいていった。

「今からグロテスクな光景が始まるから外出てようか。」
「ぐっグロ?」
「そう、あの球根から心臓を取り出して食べるって言う光景。」
「たっ食べ?」
「まぁとにかく外に出よう。」

そう言って珠姫は早苗の腕に自分の腕を絡ませひっぱるように祠の外へと向かっていく。
その際にちらりと横島に珠姫は目配せした。
横島はそれに軽く頷くことで返すと改めて球根に向き直った。
珠姫が遠ざかったことで、心を補っているものが少なくなり横島の目から意思の光が薄くなっていく。
横島と珠姫の間にはラインが流れている。
それは全部で三つ。
使い魔としてのライン。
眷属としてのライン。
そして、横島の心が補われるためだけに存在するライン。
感情に関しての問題に深く関わるのは三つ目のラインである。
このラインの働きは珠姫の豊かな感情を真似るようにして横島の消えかかっている感情を増幅するというラインだ。
このラインには距離という制約がついていて、珠姫がはなれるとその効力は弱くなる。

「・・・・・・・・・。」

無言で横島は文珠を発現させ、球根の心臓たる核を取り出す。
霊気と妖気に満ち溢れた核を横島はなんの感慨もなく口にする。
横島が核を一口かじった瞬間、祠内に死津喪比女の悲鳴が響き渡った。

「ギャャャャャャャャヤヤヤァァァァァァア!!」

しばらくして死津喪比女の球根を食べ終える。
体中に改めて血液が流れるように、先ほどとは比べ物にならない力が横島の中を駆け巡る。

「やりましたな。これで、私の役目もようやく終わりを迎えることが出来る。」
「――そうか」


最後に横島はそう道士にそう答えるとと漆黒の霊波刀を掌に出現させる。
その霊波刀に『浄』と刻んだ文珠を発言させ、元の霊波刀に戻しそして呪によって縛られた氷の牢獄を破壊した。
開放されたおキヌの体に、おキヌの魂が吸い込まれるように定着する。
横島は残った霊気を注ぎ込んで『定着』と刻まれた双文珠を出現させるとおキヌの口の中に入れて飲み込ませた。

「後は早苗ちゃんの家に頼んである。珠姫も事を終えたようだし、帰るかレイドル。」
「そうだね。」
「丁度終わったみたいだな。」

珠姫が早苗と共に戻ってきて、眠っているおキヌを見る。
浮かんだのはやはり優しい笑みだった。
珠姫は嬉しさを隠し切れないようにおキヌの傍まで寄るとその頬に手を触れる。
そこには確かに命の脈動があった。

「これで、いいんだよな。」
「ああ。」

横島と珠姫の二人だけの会話を複雑な感情で見つめていたレイドルは、早苗に肩をたたかれどうしたんだろうと振り向いた。

「せっかく仲良くなれたんだから、もしわたすが東京に行った時は道案内頼むべレイドルさん。」
「えっ?」

レイドルと横島が東京から来たGSというのは、早苗の親に対する嘘であり早苗は横島とレイドルが魔族であることを知っているはずだった。
それ故レイドルは横島と珠姫の目配せの意味を知った。
早苗の記憶を横島と珠姫は改竄したのだ。

「うっうん。わかったよ。」
「それじゃあ、わたすは父っちゃを呼んでくるべ。」

そう言って早苗は駆けていく。それを見送った後にレイドルは横島を睨みつけた。

「記憶をいじったの?」
「――この任務は人間界への潜入。そして死津喪比女の心臓を俺が食う。内容に潜入とかかれているのであれば、極力足跡を残さないのが普通じゃないのか?」
「そうそう。早苗ちゃんとの縁がなくなったわけでもないしな!!」
「それはそうだけど、一応僕にも一言何か言って欲しかったな。」
「すまない。わかってると思ってたんだ。」

そう言ってすまなさそうな顔をする横島に、さっきまで感じていた空虚さが無くなったのをレイドルは確認する。

「まぁいいよ。少し残念だけど、任務だもんね。」
「それじゃあ、魔界に行くとしますか!!」

珠姫はそう言うと、影に入ることなく横島の影へと飛び込んでいく。

「元気な眷属にしたんだね。」
「ああ。その方が賑やかで良いだろう。」

横島は『転』『移』と刻んだ文珠を出すと魔界へと向けて飛びだった。

「いったようじゃな。さて、そろそろ・・・・・・。」

道士の体がゆっくりと消えていく。その視線はおキヌに注がれており、最後に道士は感情を込めて呟いた。

「すまなかったな。おキヌ。」

未熟な力のせいで一人の少女から一人の少女として生きる権利を道士は奪ってしまった。
生き返るからそれでいいという問題ではなかった。
道士が行った術は間違いなく外道の手段。
そんな外道はただ一心に願う。

幸せであれ、と。


―魔界―

「任務ごくろうだったな。」
「いえ、僕はほとんどなにもすることはありませんでしたから。」
「ふむ。しかし任務のほうはちゃんとこなしたのだろう。」
「はい。ジョーカーの監視は怠っていません。」

レイドルは胸が痛むのをこらえながらワルキューレにそう言った。
レイドルにはギルミアから与えられた初任務に行くレイドルの補佐役とワルキューレ個人から命令された横島の監視という任務があったのだ。

「リクル。」

レイドルは自分の使い魔を呼び出す。
レイドルの影から一匹のカラスが姿を現し、ワルキューレの机の上に降り立った。
レイドルが読み取った情報を使い魔の体に内装して届けたのだ。
ワルキューレはそのカラスに干渉するだけで情報を瞬時に得る事ができる。
レイドルの能力の一つである。

「ごくろう。退室を許可する。」

ワルキューレはそう言ったが、レイドルは部屋を出て行く気は無かった。どうしても聞きたいことがあったのだ。

「どうしてジョーカーを監視する必要があるんですか? 生まれたてだからですか? 異常だからですか?」
「生まれたてというのは関係ない。裏切れば殺すだけのことだ。何故監視するのか? それは奴が異常すぎるからだ。」

そう言ってワルキューレは立ち上がり、レイドルにゆっくりと近づいていった。

「生まれた当初から高い知能を持ち、まもなくして文珠を使い、真に絶望したものしか使えない瘴気ですら扱ってみせる。そして極めつけは奴を強くするためだけの今回の任務だ。奴にはなにかある。」
「それはそうかね知れませんけど・・・・・・僕は・・・。」
「気分が乗らないことはわかる。だがこれは必要なことなのだ。」

ギルミアは魔界軍という組織の中に位置し、命令も和平派である上の言葉どおり下してはいるがワルキューレはどうしてもギルミアが和平を望んでいるとは思えなかった。
証拠など何一つ無いのだが、ギルミアの性格からして和平を望むなどということは考えられなかったのだ。
そしてそのギルミアが急に一人の魔族を可愛がり始めた。

「レイドル。お前とは長い付き合いだから私の考えることなど察しがつくだろう。」
「ギルミア様はジョーカーに何かをさせる気かもしれない。」
「そうだ。そしてそれが和平の為の企みでないと私は思っている。」
「ギルミア様の件に関してはわかりました。他言はいたしません。ジョーカーの監視も続けます。それでは」

レイドルは場の雰囲気が嫌な方向に動いていることを感じとっていた。
これ以上ここにいるの止めたほうがいいと感が叫んでいる。
レイドルはワルキューレに敬礼すると部屋を出ようと背を向けた。

「待てレイドル。お前にジョーカーは触れたそうだな。」

ぴくりとレイドルの肩が震えた。

「監視は続けなくていい。その変わり、ジョーカーの中を覗けレイドル。」

レイドルにとってその命令がどれほど酷な事かをワルキューレは理解している。
寂しそうに目を伏せがちだったレイドルに手を差し伸べた横島の存在がどれほどレイドルの中で大きいのかも理解している。
それでも、和平と新米魔族とを比較すると、即答でワルキューレは和平を選択する。
ギルミアに対する懸念はとり越し苦労かもしれない。
そうなればワルキューレをレイドルは憎むだろう。
そしてワルキューレはそれを仕方の無いことだと割り切ることが出来る。

「嫌、です。」
「レイドル。」
「いくら大尉の命令といえど・・・・・・僕はしたくありません。」
「レイドル!!」
「やっと、やっと僕に触れてくれる人ができたんです!」
「っ!」

悲痛な眼差しだった。
だがレイドルも一人の軍人である。
ワルキューレとて新米の頃は理不尽な命令に耐え、そして今の地位にまでのし上がった。
強さこそが魔界での判断基準である。
誰にも例外は存在しない。

「命令だ。レイドル。」
「――――わかり、ました。」

ワルキューレの上位者としての眼差しにレイドルは顔を伏せて応じた。
レイドルは横島とのラインを開き、横島の内側へと干渉する。
そして、悲しみの気持ちと共に安堵の気持ちがレイドルの中に広がった。
真正面からワルキューレの瞳を見つめ、はっきりと告げた。

「ジョーカーの中には、この魔界で目覚めた以後の記憶しかありません。それに対しても可笑しな所はどこにもありません。ご自分の目で確認してください。リクル。」

レイドルの影からもう一羽カラスが姿を現す。
それをワルキューレの机におりたたせると、レイドルは悲しみと怒りを混ぜ合わせた声でワルキューレに向けて短く告げた。

「ワルキューレ大尉なら、僕をこんな扱いしないと思っていました。僕の勝手な思い込みですけど、失望しました。」
「――少しでも不穏な可能性があるのであれば排除しなくてはならない。仕方のないことだ。わかるだろうレイドル。」
「任務と命令に飼われる存在には僕はなりたくありません。失礼します。」

そう言ってレイドルが退室した後、ワルキューレは疲れたように椅子に腰掛けた。
理不尽な命令を聞くのが上に立ったのだが、ワルキューレはここに来て自分の考えの甘さを痛感した。

「必要であれば、理不尽なことも命令しなければならない。それが強さであるからだ。」

自分に言い聞かせるようにして呟き、ワルキューレはため息をついた。

「任務と命令に飼われる、か。」

その言葉がワルキューレの心に僅かな咎を残すのであった。


―横島―

「干渉されている?」

横島はレイドルの干渉を感じとっていた。
自分の内側を他人に覗かれるという感覚。
決して心地いい感覚ではないが、レイドルの悲しみがラインを通して流れてくるので怒りなどという感情は湧かなかった。
それに覗かれたところで横島が如何こうする必要などはない。
世界にとって横島の記憶は存在しないものなのだ。横島が隠蔽する前に世界が隠蔽してくれる。

「新入り。初任務上手くいったみたいじゃねぇか。」

干渉に気を取られていた横島は最初、自分が話し掛けられているとは思わなかった。
そして、周りの魔族が自分を取り囲んでいることに気づく。

「強くなって帰ってきたみたいじゃねぇか。いったいどんな任務をしてきやがったんだ?」
「初め見たときゃ弱い奴だと思ってたが、結構やるみたいじゃねぇか。」

親しげに話し掛けてくる魔族達に横島はやっと状況を理解した。横島はやっと他の魔族達に仲間として認められる強さにまで達したのだ。
打って変わった魔族達の対応に戸惑いながらも横島は言葉を交わす。
だがそこは横島、その戸惑いもすぐに消えしまう。
そしてしばらく他の魔族と横島が談笑していると一人の魔族が慌てたように言葉を発した。

「おいっ! なんかしらねぇがレイドルが走ってこっちに来るぞ!!」

その言葉を聞いた瞬間、まわりの魔族が横島から離れる。
その様子に横島は眉をしかめるが、次の瞬間にはそんな感情など消えしまった。
体に襲い掛かる衝撃と柔らかく触れるレイドルの肌の感触に横島の心拍数が上がる。
レイドルは任務終了の報告ということもあり、外套を脱いでいたので横島はダイレクトに感触を味わう。

「ごめん。ごめんねジョーカー。僕、僕っ!」

ポロポロと涙を流すレイドルに横島は、干渉してきたことを謝っているのだと理解し、優しくレイドルの頭を撫でた。

「気にすることねぇよ。俺は別に気にしてないし、レイドルの意思でやったわけじゃないんだろ。」
「でも、でもっ! お願いジョーカー。僕のこと・・・!!」
「嫌いになんかならねぇよ。」
「ごめんねジョーカー。」

レイドルはしばらくの間、泣きつづけたのであった。


あとがき
感情が薄くなり魔王の頃の口調になったりする横島君を書くのは難しい。読者も混乱してそうだ。もっと文章力がほしい!! 
と、いうわけで人骨温泉編終了。この後のおおまかな予定は、原作パートは冥子編・カオス編・妙神山編(女子高生編は省く)。
魔界編は魔界任務編・ジーク編となっています。さて、どこから手をつけるか・・・。

>D,様  珠姫が横島に惚れる・・・。それって究極のナルシ・・・ゲホッゴホッ。今回はレイドルに始まり、レイドルに終わったって感じです。

>無貌の仮面様  カオスの人生も決して奇麗事ばかりの人生ではないでしょうから、人間の汚いところとか一杯見てそうです。それでも、あんなに能天気でいられるのは凄いことなのでは。単にボケてるだけなのかもしれませんがね。

>星之白金様  珠姫のおかげです。珠姫がいなかったら、皆を守るためとか言ってしょっぱなからアシュタロスに特攻仕掛けてます。
珠姫と横島の関係は、ナデシコのアキトとラピスのような関係と思ってください。

>隆行様  魔界編希望ですか。ジーク編まで行ったら一つの区切りなんですけどね。

>Dan様  横島君の芯。強いのか、弱いのか。心は確実に弱いんですけどね。

>MAGIふぁ様  後々珠姫は物語に深く絡んできます。珠姫の活躍とわざわざ外に出して、なおかつ女性化した意味が徐々に明かされていきます。指摘ありがとうございます。

>アガレス様  二人がどうなるのか見守ってやっててください。

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