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「狐と狼と青年の生活 9話 (GS+いろいろ)」

ろろた (2005-01-19 23:03/2005-01-21 22:06)
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時間は少し遡り、昼頃―オカルトGメン日本支部にて。
西条輝彦は自分の椅子に座り、疲れた溜息を吐いた。

「お疲れね。輝彦くん」

その声を聞いて、美神輝彦(旧姓西条)は後ろを振り向いた。

「先生こそ……」

そこにはオカルトGメン日本支部長の美神美智恵が居た。
今まで多くの女性と付き合っていた西条(便宜上、旧姓で呼びます)には、美智恵が疲れているかどうかは一目で分かった。
簡単に言うと、化粧のノリが悪いのだ。
疲れてくると肌がかさつき、上手く化粧がのらない。
それに今では一つ屋根の下で住んでいるので、ある程度は分かっているつもりだ。

「そうね。私も、もう若くないのかしら」

はあ、と溜息を吐く。
熟女ならではの艶があり、男なら心が乱されるだろう。

「そんな事はないですよ。先生はまだお若い」

心の底からそう思っている。
西条は今まで美智恵の年でこれほど美しく、聡明な女性には出会っていない。

「ふふふ、ありがとう。でも褒めるのは令子だけにしといてね」

「は、はい」

西条は初心な男の様に顔を赤くする。
多くの女性と付き合ってきてはいるが、深い関係にまでなったのは両手の指の数より少ない。

ナンパなイメージが付き纏う西条だが、意外かと思われるが女遊びというものに嫌悪を感じている。
何故なら、女性をデートに誘うのは日頃の感謝の意味を込めてる部分が多く、異性として認識してるのはあまりないからだ。
とは言っても、誤解される事も多く、修羅場を味わう事も多かった。
ある意味、乙女心を理解していないところもあるのだ。

「それで仕事の話に戻るわね。これがまた送られてきたの」

「これは……」

美智恵から手渡されたのは一枚の便箋。

それは奇妙なものと言えた。
いつもオカルトGメンのポストに入れられており、もちろん相手の住所、氏名は記入されておらず表には“美神美智恵さんへ”とだけしか書かれていない。

美智恵は不審に思い、隠しカメラを仕掛けても誰も映っておらず、残留思念を呼び出そうにも綺麗に消されていた。
これは相手が霊能者、しかもかなりの使い手だとしか推測出来ない。
字から判断するに、多分女性だろうと思われるが、筆跡鑑定をかけてもオカGデータベースの誰にもヒットしない。

西条は便箋を開き、中身を確認する。

「オークション?」

「ええ。そこに記されている場所と日時に妖怪、精霊の売買をするってね。輝彦くんはどう思う?」

内容はその日時に大規模なオークションが開かれ、お金を持った馬鹿者(美智恵視点)が集まるそうだ。

「微妙ですね。これだけだと何とも……」

「やっぱりそうよね」

この便箋はいつも妖怪や精霊の密猟の詳しい日時を教えてくれた。
そのお陰で横島達は相手の出鼻を挫く事が出来、なおかつ妖怪達を救う事が出来たのである。

偶に何もない場合や、どっかから引っ張ってきた敵が待ち伏せをしていただけの事があったが、それ以外に罠らしい罠もなく、これは直前にルートを変えただけだと美智恵達は思っている。

「何とかして証拠を掴んで、しょっぴきたいところね」

「そうですね。それとこの屋敷の持ち主はもしかして……」

「あなたが思っている通りよ」

「そうですか、やっぱりあいつが元締めなんですね」

あいつとは西条達が調査をして、ようやく見つけた相手の事だ。

西条は怒りのあまり、こめかみがピクピクと引き攣っていた。
美智恵は表面上では普通だが、内面は日本海の様に荒れ狂っている。

「ところで輝彦くん。お昼はまだだったわね?」

「は、はい。まだですが……」

急に話が変わったので、西条は驚きながらも美智恵の問いに答えた。
その答えに満面の笑みを浮かべ、どこからともなく大きな弁当箱を取り出し西条に渡した。

「お弁当……令子からですか?」

「もちろん。早く開けてみて」

やたらと重い弁当箱をしげしげと見詰める西条。
ドカベンと呼ばれるもので、スチール製でたくさんご飯が入ることだけが自慢の一品だ。

「うおっ!?」

西条は驚きで目を見開く。
弁当箱の中はパイナップルが詰まっていたのだ。
パイナップルと言っても、果物の事ではない。
MK2、いわゆる手榴弾の種類の一つで、映画ではよく見る形のものだ。

「あの〜、これは?」

西条は冷や汗をダラダラと流しながら美智恵に聞くと、彼女はもう怖いぐらいの微笑を返しながら、一枚の写真を見せた。
そこには西条とオカルトGメンの女性隊員と街中を仲良く歩いていた。
腕を組んで……。

「ち、違うんです。それは決してやましい事ではなく、お礼に食事に誘っただけなんです!!」

「それぐらいは私も分かっているわ。でもね、あなたは令子の夫であり、私の義理の息子でしょ。そういった悪い癖は早く直した方がいいと思うの」

西条の腕を取り、自分の支部長室へ引き摺っていく。
か細い腕からは想像も出来ない力技だ。

「西条先輩! 大変です!」

唐突にドアを乱暴に開けたのは、彼の部下であるピートだった。

「な、何だね」

西条はとんでもない早業で美智恵から逃れ、ピートに言葉を返した。
パイナップル入り弁当箱は後ろ手に隠しながらなので、いまいちきまっていない。

「神社からなんですが、あの子達が逃げ出したそうです」

ピートが慌てながらも説明する。
神社とは保護した妖怪達を預けているところだ。
組織が動いている中、山に返すわけにも行かず、オカルトGメンに面識が深いところに預ける事にした訳なのである。

聞くと、神主達に幻術をかけ、まんまと逃げ出したそうだ。

「な、何だって、それは一大事だ。ピートくん、見鬼君を持って探しに行くぞ!!」

大げさに驚いて西条はピートを連れて、そそくさと出て行った。

「逃げられた……」

取り残された美智恵は、悔しそうに呟いた。


時刻は戻り夕方。

「よし、今日の仕事はこれで終わりね」

令子はとんとんと用紙を纏め、フォルダーにしまった。
美神除霊事務所のオフィスで今日の除霊での会議を行っていたのだ。

「でもかおりさんと魔理さんもだいぶ使えるようになって来たわね」

率直に令子は意見を述べると、かおりと魔理は嬉しさで笑みを浮かべた。

「ようやく、ようやく美神おねーさまから認められて私は嬉しいですわ」

「認められたつーか、普通に出来ようになっただけだろ?」

感激で涙を流すかおりに、魔理は的確に突っ込みを入れた。
かおりの頬が引き攣っているところを見ると、自覚はしているらしい。

「それにしてもおキヌさんは凄いですわね。すぐにおねーさまに認められたのでしょ?」

「まあ、私の場合は幽霊の時からずっと見ていましたから」

「それでもすげーよ。あたしなんか、何回怒られた事か……」

しみじみと魔理が言うと、うんうんとかおりは頷いた。
それを見て、令子は苦笑しながらこう言った。

「おキヌちゃんは真面目でひた向きだから、すぐに覚えたけど、あんた達は何かある度に喧嘩するからね」

からかっているのが分かるが、かおりと魔理は恥ずかしさのあまり顔を赤くした。

確かにこの二人は霊力も高く、度胸もある。
だけどそれだけでは除霊は出来ない。
いくら霊力があっても効果的に使えなければ意味がないし、度胸といっても蛮勇では困るのだ。

どの様な困難な状況に陥っても冷静に見極め、活路を見出さなければならない。
自分達が失敗すれば、命の危険もあるし、依頼者の財産を失わせてしまう。
そして何よりもギャラが入らない(令子視点)!

これはやはり実戦に慣れていない上に、六道女学院を卒業したという驕りがあった。
そのせいでかおりと魔理はどう除霊するかで、ぶつかり合い仕事に支障をきたす事もあったのだ。
美神には危なっかしい事この上なく、ある意味横島以上に厳しく叱り付けて、この二人を三ヶ月足らずで何とかものになる様にしてきた。

今ある仕事が一段落したら、美神は六道女史に物申さなければならないと思っている。
主席で卒業したかおりがこうだったら、他は一体どうなのか怖くなったのだ。
GSという仕事は信頼第一である。
美神でさえ、依頼人を前にしたら猫を被り、比較的真面目に仕事の話をするのだ。
もしかしたら六女卒業生で、とんでもないバカをしでかした奴も居るかもしれないと思うと、気が気でない。

「それじゃあ、夕飯作りますね」

美神が難しい顔をしたので、おキヌが席を立ってキッチンへと向かって行った。

「それにしても最近のおキヌさん、明るいですね」

「そうだな。一年ぐらい前は、声を掛けられないぐらい落ち込んでいたもんな」

「そうね……」

令子は色々な感情を込め、呟いた。
一年ぐらい前に横島がシロとタマモ、二人と付き合ったのだ。
おキヌは失恋してしまったので、しばらくは何も手に付かなかったのである。

令子はその時には自分の気持ちに決着を付け、西条と付き合い始めていた。
おキヌが横島に恋をしていたのは、誰もが知っていた(横島だけが恋と好意を履き違えていたが)。
だが結局は実る事はなかった。

あの館で告白をしたが、横島が暴走してしまい、なかった事になってしまった。
その時の横島では“恋”や“愛”が、何であるかちっとも分かっていないせいもある。
西条に令子の事を聞かれても、『あの女は俺のもんやーー』としか言えない男だった。

「そりゃあ、男でしょ」

あっけらかんに令子が言うと、かおりと魔理は目を見開いた。

「そうか、でも相手は一体誰なんだろうな?」

「そうですわね。私達に何も言わないなんて……」

「ま、いいんじゃないの。おキヌちゃんは恥ずかしがり屋だし、その内に教えてくれるわよ」

令子がそう言うと、二人は頷くしかなった。


ドゴオオオォォンンッ!!


タマモの紅蓮の狐火とクウカの金色の狐火がぶつかり合い、派手な音を喚き散らす。
川原に敷かれている小石も飛び跳ね、川面も幾重の波紋が広がった。

それが合図となり、六つの人影は一斉に前は飛び出す。


「妖狐対決といきましょう」

「はいはい、熱血は他でやって欲しいわ」

クウカは敢えて同じ妖孤であるタマモに挑みかかった。


シャラン、とタマモの耳に聞こえた瞬間、そこからバックステップで離れた。
瞬間、そこの地面が何かが衝突した様にへこんだ。

「鈴の音!?」

「正解です」

一目見ただけで看破したタマモに、感心した様にクウカが言った。
クウカの両手に一つずつ持っているのは神楽鈴。
神道の祭儀に用いられている鈴で、十二個の小さな鈴を綴って、柄に取り付けたものである。

「それを鳴らして、振動波にするなんて器用ね」

「神楽鈴は邪を祓う為に用いるもの。別に私だからという訳ではありません」

淡々と述べていくクウカ。

「余所見はいけませーーん!」

タマモは咄嗟に屈みと、首が合ったところに一筋の刃が走った。

「勘がいいですねー」

ランが陽気に言っているように見えるが、実際は驚いている。
何故ならクウカと話している最中に、後ろから奇襲したのにそれが読まれていたからだ。

「何言ってんのよ。後ろから不意打ちなんてポピュラーすぎよ。読まれて当然だわ」

タマモはそう言うが、ランは気配を消していたのだ。
まあ、ちょっと前まで横島がギャグをして、令子がその隙を付くという裏技ともいえるのを見ていたせいもある。

「それじゃあ、次はもっと速くいきまーす!!」

「二対一と卑怯ですが、こちらも必死なので」

「いいわよ。それぐらい、いいハンデよ」

フッと鼻で笑い、タマモは挑発をする。
クウカは僅かに顔を歪め、ランはあからさまに目の色を変えた。

(あら? クウカは思ったよりも単純みたいね)

タマモは心の中で微笑んだ。


「……雷撃よ」

ライは雷を右手に集中させて鞭とし、シロに振り下ろすが、霊波刀でそれを弾く。

「貰ったぁっ!! オラオラオラオラオァッ!!」

攻撃を弾いた一瞬の隙を付き、ようこは無数の拳打をシロに浴びせた。

「くっ!?」

シロは倒れ込み、出来るだけ衝撃を逃す事にした。
そのまま倒れるわけには行かず、ようこに足払いを仕掛けたが―

「甘えよ!!」

ようこは左足をシロの太ももに引っ掛け、思い切り上に上げた。
信じられない事にそれだけでシロが宙を舞い、ようこはがら空きの水月に拳を叩き込む。

後方に吹っ飛ばされたが、何とかシロは空中で回転し、着地する。
彼女の顔は苦痛で歪んでおらず、大したダメージはなかったみたいだ。

「ちっ!」

ようこは悔しそうに拳を撫でた。
当たる瞬間に何か硬いもので邪魔されたのだ。

それはサイキック・ソーサーであった。
シロは横島と同じく霊気の凝縮に秀でていたので一番最初に教えてもらったのである。
横島は手の平、もしくは足の先から出せないが、彼女の場合、才能があったのか体のどこからでも発生させる事が出来る。
若干、背中側は苦手であったが、今みたいに正面からなら反射で出せるのだ。

「二対一でござるか。これは面白いでござる」

シロは長い舌で唇を舐めながら、威風堂々とそう述べた。

彼女は武士道を重んじているので、敵がなにをしても「卑怯だ」などとは死んでも言わない。
それを言った瞬間に、自分が負けたというのと同意なのである。

それに彼女は狼なのである。
狼は群れで暮らし、狩りの時は数匹で徒党を組んで行う。
待ち伏せも当たり前に行う上に、何日もかけて一匹の獲物を追い立てる事もある。
そうしないと自分達が飢えてしまうからだ。

だから彼女は何人で襲われようが、卑怯という単語が思いつかない。
基本的に勝たねばならない敵には、集団で襲い掛かるのは当然だと思っているのだ。


川原でシロとタマモが激戦を繰り広げている頃、横島と銀一は駅前のとある居酒屋で談笑していた。
そこは焼き鳥は旨いと評判の店で、まだ夕方に差し掛かった頃なので客はまばらだが、あともう少しすれば賑わうであろう。

「なあ、俺の事ばれておらへんよな?」

銀一は不安げに店の中をきょろきょろと見回した。

「大丈夫やって。ばれておったら今頃大変な事になっとるやろ?」

「そうか……。文珠って凄いんやな」

銀一は何も変装せずに堂々と居酒屋に居るが、誰も騒いでいない。
横島が文珠で『欺』で周りの人達に、近畿剛一だと悟らせていないのだ。

「まあな」

「でも何か視線、感じるんやけど」

自信満々に言う横島に、銀一は気になった事を聞いてみた。
芸能人だけに視線には敏感なのである。

「そりゃあ、仕方ない。銀ちゃんが近畿剛一だと分かれへんでも、美形だから見られてるんや。ほら、あそこの女性客なんてチラチラとこっちを見とるで」

横島が視線で場所を示し、銀一がちらりと見ると確かにこちらをチラチラと見ていた。


「……あの娘達、何か様子がおかしゅうなかったか?」

注文したビールを飲みながら、銀一は唐突に切り出した。
どうもあの時のシロとタマモは、様子がおかしい気がしたのだ。
芸能界で揉まれている銀一は、心の機微に聡いのだ。

「そうやな」

あっさりと横島は頷くと、胸なんこつを食べ始めた。

「そうやなって、ええのか?」

「いいって。シロとタマモが本当に困っていたら、必ず俺に言う筈だ。そんで、さっきは言わなかったので無事に収まる。それだけの話だ」

標準語で横島が語ると、銀一は眩しそうに目を細めた。

「信用してるっちゅー訳か。何か羨ましいな」

「そういえば銀ちゃんは恋人おらへんの?」

そう聞くと銀一は顔を赤くし、視線を逸らした。
横島はそれだけでピーンと来たので、畳み掛ける事に決めた。

「そっかー、銀ちゃんにも春がきたんやな〜」

にやにやとわざとらしく、声を出して横島は言うと銀一は更に顔を赤に染め、ぐびぐびとビールを飲み干した。
これは早く潰れるかもしれない。


タマモは既に気付いていた。
クウカ、ようこ、ライ、ランの四人(匹?)が極度の人間嫌いである事に。

タマモは蘇ってすぐに人間に追い掛け回された。
あの時に横島とおキヌに出会っていなければ、今でも人間が嫌いなままだっただろう。

さすがに全ての人間がいい奴ではないと思っているが、タマモは前よりも人間に好意を持っている。
心が暖かいとういべきか、そういった人間が居るという事を知っている。
だからシロを最高の相棒と思い、横島を本気で愛せる様になった。
前よりも笑顔が多くなった。

だがこの四人は心に深い闇を持っている。

クウカはとある神社のお稲荷様だったが、組織によって神社を焼かれ連れ去られてしまった。
ようこは元は飼い犬だったが、変化能力を持ったせいで飼い主から組織に売られた。
ライは山で静かに暮らしていたが、組織によって山を荒らされ捕らわれてしまった。
ランは姉と妹が居たが、組織に命を取られてしまい、自身も捕まってしまった。

そんな絶望の中で現われたのが横島忠夫だ。
彼はこちらからいくら攻撃を仕掛けても、反撃もせず一向に受けているだけだった。
そして最後には「お前の見方」だと、言ってくれた。
思わず泣いてしまった。もう誰も信じないと誓ったのに。

そういった事があり、四人は横島以外、目に入らなくなってしまったのだ。

タマモ、そしてシロも気付いていた。
この四人の瞳は狂信者そのものだという事に。

横島の為ならどの様な命令でも聞くだろう。
横島の為なら命を投げ出すだろう。
横島が狂気に陥っても、ただ付いて行くだけであろう。

だから止めなければならない。
その考えでは誰にも幸せになれない。自分だけでなく周りも不幸にしてしまう。

シロとタマモには覚悟がある。
もし横島が誤った事をするならば、止めようと。
それで蛇蝎の如く、嫌われようともだ。

だけどこの四人には覚悟がない。
嫌われるぐらいなら、なりふり構わず付いていくだけなのだ。

だから止めるのだ。殴ってでも―


「燃えなさい!!」

タマモは狐火を球状にして放つが、クウカの神楽鈴を鳴らす度に迎撃されてしまう。
ランの執拗な斬撃、タマモの間合いから繰り出さられる刃は避けるしかない。
しかも体のどの部分からも鎌の様な刃が生えてくるので、至極読みにくい。

「ふふふ、いい加減に降参したらどうですか?」

口元に残酷な笑みを浮かべ、クウカは告げた。

「ふん! 誰があんたなんかに!!」

「そうですか……」

鈴をシャランと鳴らすと、衝撃波がタマモを襲う。
咄嗟に体を捻って避けるが、ランが待ち構えていた。
不安定な体勢の為に避けそこね、六女の制服が裂かれ胸元が露になるだけで留まった。

「いい格好でーす!」

「ふ〜ん、そんなに私の豊満な胸が見たかったの? ひ・ん・にゅ・うさん」

タマモはわざとらしく胸を張り、見事な乳房を見せる(シロには及ばないが)。
プッツンと来たのは―

「この女狐ーーー!!」

クウカだった。
それは仕方がない四人の中で、彼女が一番小さいので密かにコンプレックスに思っている。
背が一番低いライと同じサイズなのだ。それは気にしてたりする。

「あんたもでしょうが! あ、短気だと小さいって本当かも」

「殺します! ええ、殺しますとも! 冥府まで送り届けます!!」

頭に血が上ったクウカはタマモに飛びこんで行った。

「クウカさーん! 待つでーす!」

慌ててランがとめに入るが、クウカの耳には届かない。
一種の興奮状態に入ったクウカは、何も考えずにタマモの間合いに入る。

「うああっ!?」

「クウカさーん!!」

クウカが目を血走らせて、鈴を鳴らそうとしたがタマモの狐火を喰らい吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。

「お馬鹿ね。こんな挑発に乗るなんて」

嘲る様にタマモは言っているが、本当にバカにしているのではない。
これは演技で、戦いの主導権を握る為にしているのだ。

「お、おのれっ!!」

地面を拳で叩き付け、悔しさを露にするクウカ。
それにランが落ち着かせようと、彼女の肩に手をかけていた。

その様を見て、タマモは当初から思っていた通り、彼女らは戦いに慣れていないと判断した。
少しでも戦いというものを知っていたら、悔しがる暇があるなら体勢を整えようとする筈だ。


「どらぁっ!!」

ようこはシロを休ませない様にシロに拳を打ち続ける。
シロはいつもより霊波刀を短くして、そられを防ぎ続けていた。

ようこが息切れしてきたところに、ライがシロに向けて電撃を放って隙を作らない。
先程から拮抗が続き、パターンと化してきた。

(……飽きてきた……)

元来、ライは飽きっぽい性格だ。
この様に同じ動作を続けるのは、苦痛であった。

「ねえ、ようこ……」

「何だ!!」

ライの呼びかけに律儀にもようこは答える、戦いながらだが。

「……交代」

「へ?」

ダッとライは駆け出すと、シロに肉薄する。

「次はお主でござるか!」

ライが作り出した電撃のフラフープを霊波刀で受ける。
バリバリと火花が飛び散り、空気を焦がす。

「おい、それはあたしの役目だろ!!」

ようこが無理矢理割り込んでくる。

「邪魔すんな!!」

「……私も戦いたいの」

二人は口喧嘩をしながらも、シロに攻撃を加え続ける。
当然、先程よりも精度は落ち、隙も多くなる。

「サイキック猫騙し!!」

シロは両手を叩き、閃光を放った。これも横島から教わった技である。
思ってもいない攻撃に二人の視力は一時的に、使い物にならなくなる。

「クソッ!! だがあたし達に目晦ましをしても、意味がないぜ。……そこだ!!」

ようこはシロの匂いを頼りに、後ろに回し蹴りを放ったが空を切る。

「……そこね」

ライも嗅覚でシロの匂いを嗅ぎ分け、電撃を右に撃つがただ地面に穴を開けただけだ。

「動いていないでござるよ」

シロはそう言い、霊波刀で二人を薙ぎ倒され、したたかに地面に叩き付けられた。

「何だと!?」

タフなようこはすぐに立ち上がり、視覚が回復したのでシロを睨み付けた。
華奢なライはまだ膝を付いている。

「秘密でござる」

唇に人差し指を立て、にんまりと笑った。

わざわざ自分の技の秘密をばらす馬鹿はいないが、説明するとシロがやったのは至極簡単な事だ。
霊刀事件で言っていた様に霊波には匂いがある。
それをサイキック猫騙しで目の前で炸裂させたら、嗅覚が鋭いようこ達は麻痺してしまうのだ
つまり誰だってきつい匂いを嗅げば、麻痺してしまうのと一緒という訳なのである。

「くそっ、舐めやがって!!」

「……許さない」

二人はカッとなり、顔を赤らめる。
主導権はシロが握ったようだ。


バシュッ!!

「くっ!!」

鞭を避けるクウカとラン。
もちろん鞭を振るっているのはタマモだ。
神通鞭―神通棍が念に負け、あたかも鞭の様になったそれをそう呼んでいる。
人よりも強大な霊力を持つ、タマモだから令子みたいに出来るのだ。

タマモはその昔、玄翁和尚によって殺生石を砕かれたせいで、前世の記憶と力のほとんどを失ってしまったのだ。
だけどタマモは諦めなかった。
誰よりも努力し、誰よりも知識を吸収してがむしゃらに頑張ってきた。
何故ならば彼女は横島の隣に立ちたい、守られてばかりではなく守ってあげたいのだ。

おぼろげながら覚えている前世の記憶では、彼女は甘えていた。
権力に、男に、そして何より自分に。
だからこそ、こんな事ではいけないと自分を奮い立たせ、頑張ってきたのである。

愛する人を守るその為に―

「きゃあっ!?」

クウカは神通鞭に絡み取られ、地面に押し倒された。
タマモが思った通り、クウカを助けようとしたランに狐火を叩き付ける。
無論、狐火まで意識が向かず、もろに喰らい爆風で吹き飛んでしまった。

「こんなもの……」

なおもランは立ち上がるが、それは出来なかった。
いつの間にか、足に金色の縄が絡まっていたからだ。

「これは何ですかーーー!?」

刃を振るって斬ろうとする前に、あっという間に全身を拘束されて身動きが取れなくなってしまった。

「ランさん!?」

クウカは神通鞭からすぐに出られたが、ランを見ていたせいで地面から生えてきた金色の縄に気付かず、捕らわれてしまい彼女の名を呼ぶ

のが精一杯だった。

「ホントにバカね。よく見れば分かるでしょうに」

今度こそタマモは呆れてしまった。
金色の縄はタマモの髪であったのだ。
見てみると髪が伸び、地中を潜っていた。

本当はこっちを囮にするつもりだったのだ。
地中から攻撃を仕掛けて二人が地面に気が取られている瞬間に、幻術で分身を作りその場に待機させる。
そして自分は髪を操りながら後ろに下がり、相手の出方を待つ。
そこで単純な二人は地中からの攻撃を相手にするのは厄介だと判断し、髪を操り身動きが出来ないタマモ目掛け跳躍し攻撃を加える、とそう読んでいた。
その時は空中で無防備な二人に、神通鞭と狐火で叩き落とそうと思っていたのだ。

だが結果は髪の存在すら気付かず、蓑虫の様になり果て転がっている。

(物足りないわ)

等と思われる始末だ。


「新技、お披露目でござる」

ようことライがこちらに来る前に集中させ、両手に二振りの霊刀を取り出した。
それはSFにある様な光り輝く剣であった。

霊波刀というものは実は非常に使いづらい。
何故なら腕の先に刀をつけている様なものだから、どうしても動きに制限が出来るのだ。
そこでシロは知恵を絞り、霊波を使い易い刀にしたのである。
横島みたいに変幻自在に形を変える事が出来るならば問題はないが、シロには精々長さを変えるぐらいしか出来なかった。

これならば物心付く前から父から教わった剣術が振るえるし、また一歩、師匠であり恋人でもある横島を守れる牙となれると思いシロは気

に入っていた。
シロは横島には返しても返しきれない恩がある。
物取り紛いの自分を許してくれた。
自分に霊波刀を教えてくれた。
父を失った悲しみを乗り越える事が出来た。

だからシロは横島を守る為に牙となると誓ったのだ。

「……雷撃」

ようこは驚いていたが、ライは大して関心を持たず左手から雷を纏った一直線のビーム砲―雷撃砲を放った。

「甘いでござる!」

シロは跳躍し、あろう事か雷撃砲の上を滑る様に駆ける。

「な……」

「……に!?」

二人の口から驚愕の声が漏れる。
これはただ単にサイキック・ソーサーを足の裏に作っただけの事である。

「はっ!!」

珍しくライは大声を上げ、右手から雷撃砲をシロに向けて撃った。
すっとシロの目が細まり、霊気を練り上げる。

「雷切!!」

裂帛の気合と共に右の霊刀で雷撃砲を斬り付けた。

雷切―戦国時代の武将、立花道雪が使っていた刀の銘である。
その刀は前は千鳥と呼ばれていた。
由来は夏のある日、雷が突然彼を襲った。道雪は咄嗟に千鳥を抜き放ち、その雷を切ったのである。
そこから千鳥から雷切と名を改めたのだ。

その名の如く、ライの雷撃砲を見事、縦一文字に斬り裂く。
その後、一瞬で近づきライが驚いている隙に『パッカーン』と間抜けな音ながらも、叩き伏せた。
さすがに本当に斬るわけにも行かないので、霊気を押さえ峰打ちにしたのだ。

「ちっくしょう!!」

ようこが激昂し、シロに殴り掛かってきた。
シロは冷静にそれを見詰め、左手の霊刀を投げつける。

霊刀を弾こうと、ようこは走りながらも身構えた。
弾いた時に隙が出来るが、ようこ自身は自分の瞬発力は並じゃないと思っていたのだ。

それは過信であった。

霊刀は空中分解し、霊波の雨がようこに降り注ぎ数秒だが、彼女の動きを止める事が出来た。
その隙をシロは見逃すはずもなく、霊刀で昏倒させる。

霊刀は物質化していないので、シロの手から離れれば霧散してしまうのである。
シロはこれを弱点かと思ったが、今の様に使えば相手の隙を作ることが出来ると気付いたのだ。


「はい。私達の勝ちね」

タマモがそう言うと、クウカ達は項垂れた。
完膚なきまでの敗北。どの様な言い訳も出来ない。

「拙者らにも勝てないで、先生の傍に立つなど一〇年早いでござる」

さらにシロが畳み掛ける。
少しばかりシロも怒っているのだ。
敬愛する師匠で恋人の横島を、賭けの対象にしたのであるから。

「……分かりました。もう二度とその様な事は申しません」

唇をきつく噛み締め、クウカはそう述べた。

「でも、あたし達は諦めきれない!」

ようこが涙目で悔しそうに、言い放つ。

「いいわよ」

「「「「へ?」」」」

タマモの言葉に四人が素っ頓狂な声を上げる。

「誰かを好きになるなんてそれこそ自由。だからあんた達がタダオを好きでもいいわ」

「でも……」

ライが何か言おうとしたところをシロが遮った。

「お主達が本当に心の底から好きなら、拙者達が何を言っても無駄でござろう」

「そうね。でもあんた達は、タダオが好きかどうかはまだ区別が付いていない様に見えるの」

シロの後をタマモが続ける。

「わたし達は本気でーす」

「そうだぜ」

「私も本気でお慕い申し上げているのです」

「……私も」

ラン達は馬鹿にされたと思い、声を荒げた。
その様子を見てシロとタマモは苦笑した。

「憑き物が落ちたみたいね」

「そうでござるな。良い顔になったでござる」

「どういう……」

「見つけたぞ!!」

クウカが言い切る前に男の怒声が川原に響き渡った。

「西条どの?」

「そうね。ピートも居るわね」

西条とピートは車から降り、斜面を駆け滑ってきた。

「困るよ。君達は保護されていないといけない身分なんだぞ」

西条が言うとクウカ達四人は、顔色を変えた。
どうやら無断で出てきたみたいだ。

「そうですよ。あなた達はまだ組織に狙われているかもしれないんです」

ピートも珍しく怒っていた。
彼は彼女達と近い存在な為に、本当に身を案じているのだ。

「西条さん待って、彼女達は私達の友達なの」

タマモは思わず口に出していた。
しかし西条はタマモに顔を合わせようとしなかった。
ピートも同じだ。

「何でこっちを向かないのよ!!」

「タマモ、胸がまだ出ているでござるよ」

耳打ちでシロはこっそりとタマモに言う。
タマモは見る見るうちに顔を赤らめ、両手で胸を隠す。
シロは仕方なくネックレスの文珠で『繕』を発動させ、タマモの服を元通りにした。

「西条どの、ピートどのいいでござるよ」

「そ、そうか。だが君達全員、汚れているが何かあったのかい?」

クウカ達がさらに顔を青くする。
暴れていたのがばれたら、最悪の場合は除霊処分されるからだ。

「それは拙者達と特訓をしていたのでござるよ」

この言葉にクウカ達がはっとするが、タマモはアイコンタクトで黙る様にと釘を刺した。

「……分かった。これから出かけたい時には、僕や先生に一言頼むよ」

「そうですね。その時は僕が同行します」

西条とピート、二人は分かっていたかの様に笑顔でこう返した。
それを見てシロに見せる様にタマモが肩を竦める。
どうやら一目見て、何が起きていたのか分かっていたらしい。


「今回の事はありがとうございます。いつかこの借りを返しますので」

クウカはそう言い残し、車に乗り帰って行った。
他の三人も似た様な事を述べていたが、シロとタマモはそれを何だか微笑ましく感じた。

「さて、帰りましょうか」

「そうでござるな」

二人はすっかり日が暮れた道を歩いて行った。


「やれやれ。もういいみたいですね」

少し離れた茂みから出てきたのは藪月だった。
彼は昨日、クウカ達の存在を感じてここまでこっそりと尾いてきたのである。

万が一シロとタマモに何か危ない事があったら(をしたら)、止めるつもりだったのだ。
だがそれは杞憂に終わった。

藪月が思っていた以上にシロとタマモは強く、優しかったのだ。

「私は私が思う以上に、人……ではなかったですね。妖怪を見る目がなかったみたい……へっくしょん!! うー、もう七月だというのにくしゃみとは夏風邪かな?」

そう藪月は昨日も一日中、ここで二人を待っていたのだ。
しかしクウカ達とシロタマに気付かれないでいたとは、藪月という人狼も只者ではない。

「医者の不養生という言葉もありますから、今日は早めに寝ますか」

彼は月を見ながら帰路に着いた。


あとがき

ろろたです。
最近、本当に執筆スピードが落ちて来ました。
もっと早く書き上げたいんですが、何とも忙しかったりして上手くいきません。
次回はエロです。

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