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「狐と狼と青年の生活 8話 (GS+いろいろ)」

ろろた (2005-01-09 23:58/2005-01-10 01:40)
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ベッドの上で一組の男女は絡み合っていた。
男―と言ってもまだ一〇台半ばか、黒髪黒目の日本人だ。
だが見目麗しく美少年と言ってもいい。
少年が腰を振るう度に女性は嬌声を上げる。

攻められている女性は二〇代前半で長い金髪を振り乱し、鳴いていたが心は晴れていない。

(坊ちゃま……。私は、私は……)

しばしして少年が呻くと、彼女に崩れ伏した。
果てたのだ。

「……クリス。アレはどうなっている?」

己のモノを引き抜き、あおむけに寝て少年は問うた。
クリスは彼の横顔を見つめながら答える。

「はい、決行時期も決定しました。例の三人の生活パターンも把握しました。失敗する事はありえないでしょう」

クリスが丁寧に話して行く。立場はどうやら少年の方が上の様だ。

「そうか。早く来ないかな。楽しみでしょうがない」

クククと暗い笑みを浮かべる少年に、クリスは後悔の念を感じながら見つめていた。

(何でこんな事に……。昔は優しい人だったのに……)

クリスは少年の身を案じる。
だが少年には通じていない。
彼女はどうすればいいのか自問すると、あの青年の顔が浮かぶ。

(私は全てを失ってもいい。だから……だから……)

クリスは寝てしまった少年に膝枕をし、柔らかな髪をかき上げながら決心を固めた。


その日、シロとタマモは職員室に呼び出された。

「申し訳ないでござる」

「すみませんでした」

シロとタマモは担任である薮月に深々と頭を下げ、謝罪した。

「反省しているならいいよ。これからは無断欠席をしないように」

「「はい」」

「ではまた明日」

二人は職員室から退室した。

呼び出された理由は昨日、無断欠席をしたせいだ。
横島と色々と張り切った後、昼過ぎからは銀座へ外出し買い物をしてから食事をして帰ったのだ。
タマモが気付いた時には日が暮れていた後だった。

「タマモ、シロ、大丈夫だった?」

職員室から出た二人を待っていたのはクラスメイトで親友でもある蜜子であった。
長い黒髪に楚々とした雰囲気、和風美人と言っていい風貌である。

「大丈夫よ。藪月先生は優しいから」

「でもさすがは人狼、中々の威圧を放っていたでござるよ」

シロは何となく藪月が疲れている様にも見えたが、ここでは言わない事にした。

「そうよね〜。口調は優しいけど、逆らえない雰囲気は確かにあるわね」

三人は喋りながら廊下を歩いて行く。
既に下校時間ではあるが、意外と女生徒は居る。

偶にだがシロとタマモに、嫌悪に近い眼差しを向けるものも居た。

「嫌な視線ね」

蜜子がうんざりとした感じで言った。

「いいわよ。私は気にしていないから」

「左様、拙者もでござる。それに蜜子どのみたいに友も居るから平気でござるよ」

「ありがとう。二人とも」

蜜子は恥ずかしそうに頬を染めた。

シロは人狼、タマモは妖狐、それだけで霊能科の一部の女生徒は嫌悪を抱いた者が居る。
それらは妖怪は退治するものとしか考えていない輩達だ。
だが、いじめというものは起きていない。
何故なら霊能科の罰則は厳しいのだ。
もし発覚したならば、停学以上になるし、下手したら能力封印となる。

必要以上に厳しいのは、霊能を犯罪に使わせない為である。
霊能を使えば完全犯罪を成す事だって出来るのだ。
まあ、オカルトGメンが日本に進出したので、霊能での犯罪は最近では少なくなってきた。
アシュタロス事件で美神達の活躍によりようやく一般にもGSが正しく理解され始めてきたので、ここに来て犯罪などで霊能者のイメージを失墜させるのは非常にまずいのである。
そういった訳で、いじめなどといった人として陰湿極まりない心を持った者の霊能力を鍛える訳にはいかない。

六道女学院では『責任』というものをみっちりと教えている。
言うなれば“大きな力には大きな責任が伴う”という事だ。

だから六道女学院(霊能科)に入学する際の誓約書にはこう書かれている。

一.霊能力は世の為、弱き者の為に使うべし
一.人として恥ずべき行為はするべからず

など数十にも及ぶ項目があるのだ。
どれも心ある者の道を説いたもので、武士道を重んじるシロは『言われなくても当然のことでござる』と横島とタマモに言った事がある。

ちなみにおキヌに出会う前の弓が一文字に対して行った行為は、後少しいきすぎていれば停学をくらったてただろう。

いじめなんかしても、ばれはしない。そう思う者もいるだろう。
しかし陰湿ないじめなんかすれば、すぐに発覚する。

陰湿な気なんてものは、霊波に敏感であれば感じ取れる。
それにバレンタインの時に令子はチョコの残留思念を呼び出した事があるのを覚えているだろうか?

例えば机やノートに落書き、ロッカーに動物の死骸や誹謗中傷が書かれた手紙。
これらには人を辱める思念がどうしても残る。
そこから霊能科の先生が、残留思念を呼び出せばたちまちばれる。

あの時は途中から愛子が邪魔したが、あれは愛子だから出来たのだ。
愛子は数ある学校妖怪、いや、日本の妖怪の中でも上位にある程の力の持ち主だ(限定とはいえ時空間に干渉できる)。
まだ未熟である女生徒では、到底その真似は出来ない。

そういった理由でシロとタマモの学校生活は、特に問題らしい問題は起きていない。
人が普通に学校生活を送っても、誰かに嫌われる事はままある事だ。

〜〜〜〜♪〜〜〜〜♪

ここでタマモの携帯が鳴る。着信音は流行のアーティストの曲だった。
この曲は―

「あ、タダオだ♪」

タマモの愛しい人物、横島忠夫からの携帯からだ。

「タダオ、どうしたの? うん、そうなの?」

嬉しそうにタマモは話し出す。
一見クールに見えるが、親しい者には素の自分を曝け出すのだ。

「タマモ〜、拙者にも先生と話をさせて欲しいでござる」

携帯はタマモが持っている。
シロにも持たせた事があるが、走り回るために落とすので結局タマモだけが持つ事になった。

「いいわね。私もお兄ちゃんとラブラブしたいなあ」

はあ、と溜息を吐く蜜子。その発言は色んな意味でギリギリだ。
この学校では携帯の持込みは禁止になってはいない。
授業中や朝会など、使用してはいけない時を守ればいい。
六道女学院の校則はそんなに厳しくはない、ちゃんと節度を持ち『責任』ある行動を取れる様にという事でそうなっている。

「うん、うん、分かった。すぐ向かうね」

そう言ってタマモは携帯を切った。

「あ〜、酷いでござるよ。拙者も先生と話したかったのに」

「もう、そんな事言わないの。どうせこれからすぐに会うんだから」

「もしかして助っ人でござるか?」

「そうよ。今から除霊するから手伝って欲しいって」

「そうでござるか、では蜜子どの……」

シロが別れの挨拶をしようと、蜜子の方を振り向くと、

「ああ、お兄ちゃん!! そんな私達、兄妹なのよ!! え!? そんなの関係ないって!? ううん、嬉しいの! 遂に私達は結ばれるのね!! ああん、お兄ちゃんったら大胆!!」

とまあ、いつの間にやら妄想の世界へ突入していた。

「「はあ……」」

シロとタマモは同時に溜息を吐いた。さすがベストパートナーというべきか?

「シロ、やっちゃって……」

「……承知」

タマモに言われ、シロはトリップしている蜜子の肩を掴み、大きく息を吸い込んだ。

「喝っ!!」

周りにはちょっとした音量でしかないが、蜜子には大声を張り上げられたかの様に聞こえ、ビクッと体が跳ね上がった。

「大丈夫でござるか?」

「え!? あ、うん。ゴメンね、またやっちゃった」

蜜子が申し訳なさそうに二人に謝る。
これは蜜子の悪い癖で、超ブラコンである彼女はちょっとした事で妄想に耽ってしまうのである。
シロとタマモが蜜子と仲良くなった一つの理由に、シロの一喝だけで妄想から現実に引き戻す事が出来る為だ。
長年蜜子の友をやってきたクラスメイトからは、それはもう大絶賛された。

「じゃ、蜜子。私達は行って来るね」

「うん。またね」

「これにて御免」

シロとタマモは外へ出て行った。


横島忠夫はジーンズにジャケット姿で、富士山TVの門前で待っていた。
梅雨のシーズンだが、今日は晴れており、なおかつ七月だ。それでも横島は涼しい顔をしている。
彼の隣りには男が立っていた。こちらは皮パンにTシャツ、ズボンを抜けば、涼しいそうな出で立ちをしている。
年の頃は横島と同年代だが、オーラと言うべきかその男は生き生きと輝いて見え、顔も目鼻立ちは整っており美形と言えた。
男は横島に声を掛ける。

「なあ、横っち。その格好、暑うないんか?」

ジャケットを見て近畿剛一、本名、堂本銀一は横島に尋ねた。
彼は小学生まで横島と同じ学校に通っていたので、横島とは幼馴染ともいえる存在だ。
それに今では、芸能界に必要な男とまで言われている。
雑誌のよくある抱かれたい男bPであり、高感度ランキングもぶっちぎりの一位。
それで美形な為、女性にも大人気だが、最近では演技が上手いと評判で男性からも人気が出てきた。

「ん? 俺は平気やな。霊力を調節すれば、ある程度は気温が低かろーと高かろーと関係ないし」

その言葉に唖然とする銀一。

「何ていうか、霊能力者って凄いんやな」

「美神さん程じゃないよ」

美神に認められて、GSの本免許をもらえたが、横島自身はまだ師である美神を超えたとは思っていない。

「そんなもんか。それで横っちの恋人達はまだ来ぃへんの?」

恋人と言われ、横島は顔を赤くしたがちゃんと答えた。

「さっき連絡したばかりやから、ここまで来るのに全速力で二〇分は掛かる。六女からここまで、結構離れているんやぞ」

全速力と言う言葉が引っ掛かったが、銀一は交通機関の事だと考え頷いた。

「そうか、なら横っちが今まで何していたか、教えてくれへんかな」

突然の事に横島は眉を顰める。

「俺の事を聞いても面白うないと思うぞ」

「かまへん、かまへん。親友がどう生きていたか、聞きたいだけや」

「……まあ、いいけど、これから言う事はオフレコな」

横島は少し考えた後、頷いた。

「ああ、もちろん。俺の口はダイヤモンドより硬いんや」

「いや、ダイヤモンドは硬いけど、脆いって知っているか?」

「あかんて、そんなマジツッコミは横っちのキャラやないで」

「言うのやめよっかなあ……」

「あああ!? 嘘、今の嘘やから!!」

「はは、分かってるって、銀ちゃんは真面目やなあ」

横島と銀一は実に三年近く、会っていなかったのだ。
二人の再会の切っ掛けとなった『踊るゴーストスイーパー THE MOVIE』が、空前の大ヒットを記録し、銀一はそれから多忙な日々を送ってきた。

横島も横島で一端のGSになる為に修行を積んだり、例の魂が融合してしまったりとこちらも多忙を極めていた。
二人は互いの連絡先を教え、電話では近況を伝え合う話をしていたぐらいなのだ(横島が携帯を購入してからは主にメールになったが)。

それに三年近く前の時には銀一と横島は小学生の頃を懐かしがっていたので、どうして横島がGSになったのかまでは聞いていなかったのである。

銀一は踊るゴーストスイーパー以来、GSに興味を持っていたので、今は絶好の機会を得たと思っている。
それに噂でしか聞いた事がないが、横島は超一流のGSであり、実力はトップクラスだと聞いていた。
あの時は忍者の幽霊に囮にされていたり、ストーカー幽霊に苦戦していたので、親友とはいえ俄かには信じられなったのもある。

そして横島は語りだした。

先ずはどうして美神除霊事務所のバイトとなったか。

「横っち……」

「やめてくれ、銀ちゃん。その哀れむような目は」

そして幽霊のおキヌとの出会い。

「そっか、そんな事が……」

「ああ、運良く生き返れたんだよ」

そこから横島は時間もないので、口早に語っていく。
そしてアシュタロス事件―
ルシオラ達との出会い。
ペットとしての生活。
ルシオラの想い。
アシュタロス打倒の決意。
南極の事。
東京での大決戦。
究極の魔体との最後の戦い。

勝利したが、ルシオラの命が失われてしまい、生き返らせ様にも、横島の子としてか転生できない事実。
だが高校卒業後、すぐに横島が半人半魔になった為に、極僅かな可能性になってしまった。

全てを聞き終えて、銀一は興味本位で聞いた事を後悔した。
まさか再会する前に、そこまでの事が起きているとは夢にも思わなかったからだ。

「すまん。ホンマにすまん。俺は最低や……」

目に涙を溜めて、銀一は頭を下げる。
それを見て、横島はどうしたもんかと、頭を掻いた。

「あ〜何だ。気にすんなって言っても気にするわなあ。でもさ、考えてみいや。銀ちゃんに言ったって事は、俺がちゃんと乗り越えたって考えられへんかな?」

「でも俺だったら、耐えられへんて」

「確かに銀ちゃんに再会した時―今でもかもしれんけど―まだ完全には立ち直ってへんかったけし、融合した時も荒れたけどさ。でもな……」

「……」

横島が真面目な顔で何か言おうとしているので、銀一は口を閉じた。

「でも……生きるって事は誰かと出会う事だ。出会ったらいつかは別れが来る。哀しいのは俺だけじゃない。辛いのは俺だけじゃない。シロは生まれてすぐに母親が亡くなり、父親は殺されちまった。タマモにいたっては親すら存在して居ない」

銀一は横島の横顔に思わず見惚れる。
それはどんな事にも耐えてきた漢の顔だからだ。

「そいつらが元気に明るく、前向きに生きているんだぜ? それなのに俺がルシオラ、ルシオラ言っていたら恥ずかしくて顔を合わせられないじゃないか。それに落ち込んでいる俺を見たら、ルシオラに怒られちまう」

「横っち……」

「まあ、偶にへこんだりして、励ましてもらっているけどな」

横島は恥ずかしそうに、人差し指で頬を掻きながらそう告げた。

「やっぱ、横っちは凄いわ」

「褒めても何もでぇへんぞ」

横島がおちゃらけて言うと、銀一は笑った。
本当に面白かったわけではない。
何故笑ってしまったのかは、銀一本人でも分からなかった。
つられて横島も笑う。少しの間だが、二人の笑い声だけが響いた。


「おっ、来たな」

横島はある気配を感じ、道路の方を向いた。

「ていうか、何や!? あの速さは!?」

遠くから猛烈なダッシュできたのはシロとタマモであった。
その速さに銀一の度肝を抜かれるのは仕方がない事だ。
何たって車道の車を“走って”追い抜いていたからだ。

銀一は横島がシロとタマモ―人狼と妖孤と付き合っていると、報告を受けたのは約一年前であった。
色々と驚いたが、横島だからと納得した。
銀一から見ても、規格外だからだろう。

「せ、先生、只今到着致しました」

「で、どんな仕事なの? ここってテレビ局よね?」

シロは元気良く、横島に挨拶をし、タマモはすぐに仕事の話を切り出した。
だがタマモは珍し気にテレビ局を眺めていたので、あまり緊張感がない。
彼女は娯楽が好きで、テレビもよく見ているのだ。

「まあ、落ち着け。こいつが今日の依頼人だ」

横島が二人を見る。
何となく落ち着きがない様に感じたが、特に何も口に出さなかった。

「初めまして、堂本銀一です。横っちとは幼馴染です」

礼儀正しく、標準語で銀一は二人に挨拶をした。

「こちらこそ、拙者は犬塚シロと申します。先生の一番弟子でこ、恋人でござる……」

“恋人”のところは恥ずかしいのか、消え入りそうな声で言った。

「私は狐野タマモ。タダオとは恋人よ」

タマモははっきりと“恋人”と告げる。
二人の性格の違いに、銀一は苦笑した。

「でも凄いわね。タダオは近畿剛一と友達なんて」

「友達って言っても、再会するまで芸能人をやっているって知らなかったけどな」

「あの時でも、結構テレビに出取ったのに酷いで」

銀一はからかう様に、横島に言うと「うるせ。あん時はテレビ見る暇、なかったんや!」と返す。

「近畿剛一? 堂本銀一どのではござらんのか?」

シロの疑問にタマモははあっと、溜息を吐く。
銀一はまさかこう言われるとは思ってなかったので、ちょっとだけショックを受けていた

「あんたねえ。学校で何しているのよ? いい? 近畿剛一は堂本銀一さんの芸名で、学校の女の子達がいつもドラマとか歌で大賑わいしてるじゃない!」

「おお!! そうでござったな。拙者も何度か耳にしていたでござる」

銀一をよく見て、ぽんっと手を打ち、シロは納得がいった顔をする。

シロはそういった芸能人の事は、とんと疎い。
人間での美形とかの基準も未だによく分からないし、何で他の女性達がそれで騒ぐのかも理解しかねている。
彼女が男(雄)としてみているのは、横島だけだからという理由もあるが。

タマモの方は美形というのがどんなのかは理解しているが、外見で価値観は揺らぎもしない。
それに彼女もやはり男(雄)として見ているのは横島だけで、他の男性は言い方が悪いかもしれないが、路傍の石程にも興味はない。
しかし、彼の男友達は彼女の中では、いい男に分類されており仲間意識はある。

ここまで書くと横島至上主義で、彼の言う事なら何でも聞く様に思われるがそうではない。
もし彼が何か過ちを犯そうとしたら、体を張ってでも、命を賭けてでも止める。
それが愛だと、彼女達は認識しているからだ。

「話はそこまでにしよう。銀ちゃん、行こうか?」

そう言って、門を通り中に入っていく。
すでに銀一の事務所とテレビ局の関係者により、横島はパスを持っているので誰に止められる事もなかった。

「そうやな」

銀一は頷き、シロとタマモは彼らに付いて行った。
彼がが一言で、彼女達も何も言われる事はなかった。


第五スタジオの扉を横島が鍵を指し込み、開ける。
重々しい音を立てて、ドアは開いた。
そして―

「わ〜た〜しがせぇぇかぁぁいぃぃちぃぃぃぃのぉぉ女優ぅぅな〜〜〜の〜〜〜よ〜〜〜!!」

スタジオの中で悪霊は叫びが聞こえてきた。。
姿形が崩れ、よく見ないと女性だとは分からなかい。

「名前は川内由宇(かわうち ゆう)、享年二五歳。彼女は一八の頃、スカウトされアイドルとしてデビュ―。二〇で女優に転身し、一作目でヒットを飛ばしたが、二作目からは途端に売れなくなる。それからというもの何をしても上手く行かず、二五歳の時にここで自殺。それは一週間前の出来事で、ゴシップ雑誌の片隅で報じられただけだ。説得は通じないが、特に凶暴なわけではない」

横島が悪霊を見て、淡々と説明をする。

「銀ちゃんから見て、彼女はどうだった?」

「そやな。初めて会うた時はえらいべっぴんさんやった。しかし売れた事で天狗になり、スタッフからは受けが悪かったで」

銀一は横島に問われ、真面目に答えた。

「何と申すべきか、分からないでござるな」

「そうね。私は再放送で一作目を見た事があるけど、あの時は本当に凄かったわ。ドラマ自体も面白かったし、彼女自体も輝いて見えたわ。慢心さえしなければ、今頃はトップ女優になれたと思う」

シロは顔を顰め、タマモは残念そうに呟いた。

横島達が普通に会話しているのは理由がある。
先ずこの悪霊は、少しも暴れてはいない。
その証拠にスタジオは綺麗なもので、現われた時からずっとこの様に叫び続けているのだ。
金切り声な為に精神衛生上に、極めてよくない。

次に念の為に文珠による結界を張っている。
『東』『西』『南』『北』と込められた文珠を、それぞれの方角にきっちりと置かれ、それを結界にしているのだ。
これは横島なりに陰陽術を解釈して行っているのだ。
エネルギーを一〇〇%操れる文珠を使用すれば、符などの媒体を使わなくても術もある程度は使える。
だけど研究を始めたばかりなので、まだ少々の術しか扱えない。

さらに人が入らない様に横島がスタジオの鍵を預かり、社長に頼んでここにスタッフが近づかない様にした。
もちろん銀一に『護』の文珠を持たせている。

「そんでどうすんや?」

銀一が横島に聞いてきた。

この依頼は紆余曲折を経て、横島の許に来た。
一番初めに気付いたのはとあるプロデューサーだ。彼は生真面目で、一番早くスタジオ入りをするのを好きなのだ。
悪霊を見て驚いた彼は、腰が抜けながらもスタッフに連絡を入れ、すぐにテレビ局の社長にまで話が伝わった。

被害は何もなく、それで一先ずはホッとしたが、次に依頼料で頭を悩ませた。
テレビ業界もバブルを過ぎ、さらに様々なメディアが進出してきた為に、今までにない不況であった。
そんなお金がない時期に悪霊の出現、社長はGSの依頼料がバカ高い事も知っていたのだ。
悪霊は何とかしないといけない。スタジオ一室を丸々、占拠されたら番組も録れず、被害額もとんでもないものになってしまう。

仕方なく社長が各コネを使ってGSに依頼をしてみようとしたが、やはり依頼料は高かった。
その値段で頼むと赤字なってしまい、他の番組に影響を及ぼす。
さらにGS協会に頼んでも時間が掛かるし、オカルトGメンだと、スキャンダルの問題が出てくるかもしれない。
にっちもさっちも行かず頭を抱えると、社長の頭に一人の男が浮かんだ。

その男の名は近畿剛一。
劇場版踊るGSで彼はGSの幼馴染が居ると、小耳に挟んだ事がある。
友人の頼みなら依頼料や時間を何とかしてくれるだろうと、最後のつもりで頼んだのだ。

そんな訳で銀一が横島に今日、依頼したのだ。
横島はもちろん快く引き受け、今日中に何とかすると約束してくれし、依頼料も懐が痛まない値段にしてくれた。

何故ならシロとタマモには、いい相手になるかもしれないからだ。

「簡単さ。シロ、タマモ来てくれ」

横島が手招きすると、二人は傍に寄った。
横島がこそこそと耳打ちすると、シロとタマモは頷いた。

銀一がここに居るのは、踊るGSの第二作目が決定したので、また見学の為だ。
だが横島が何も教えてくれないのは、少々不満だった。

「OK! まかせて」

タマモがウインクをすると、悪霊に近づいた。
シロもタマモの後ろに付いていき、横島は銀一の隣に立つ。

「……あああああ!! し・あ・わ・せ〜〜〜〜〜〜!!」

悪霊が嬉しそうに叫んだかと思うと、天へと登り成仏していった。
あまりの事に銀一の目が点になり、呆けた顔でそれを見詰めた。
驚くのも無理はない。
これから激しい戦いが起こるかと思われたのに、何もしていないのに悪霊が成仏したのだ。

「呆気ないわね。でも、来世では迷惑かけちゃダメよ」

タマモが悪霊が成仏した後に、ポツリと呟いた。

「いいぞ。上手くいったな」

横島がそう言いながら念じると、結界の為の文珠が彼の手に飛んで集まった。
それを見ると、大して霊力は減っていない。
手を握り、精神内の引き出しに戻す。こうするとただ持っているより、霊力が早く回復するのだ。

「なあ、横っち。今のどうなったんや?」

「ああ、あれはタマモの幻術でちやほやされている夢を見せたんや。それで満足して、成仏したっちゅーわけや」

「そんなやり方もあるんか」

銀一は「勉強になるわ」と呟き、感心し頷いた。

「タダオ! 上手くできたから褒めて、褒めて」

「そうだな」

瞳を輝かせながら、近づいてきたタマモの頭を撫でる。
タマモは目を細め、喉を鳴らす。

「拙者も! 拙者も!」

「分かった。分かった」

空いた左手でシロの頭を撫でた。
蕩けそうな程に、顔がふにゃけている。

横島が銀一についたのは護衛の為で、シロはタマモの幻術が効かなかった時の切り込み役を任せたのだ。
だからまあ、こうやってシロも褒めている。

銀一は砂を吐きそうになったので、視界を上に向けた。
次の瞬間、彼の携帯が鳴り響たのでそれに出た。
少しの間、話し込む。
視線を動かすと横島はシロとタマモの反応が面白いのか、まだ撫でていた。

「はい。はい。……それでは」

銀一は携帯をズボンのポケットにしまうと、横島達に話しかけた。

「横っち、ちょっとええか?」

「何や?」

銀一に声を掛けられると、ようやく横島は手を止めた。

「半日オフになったんや。これから飯でもどうや?」

「俺はええけど、シロとタマモは?」

横島に聞かれた瞬間、二人はビクッと体を震わせた。
何事かと横島は思ったが、二人が口を開くのを待つ事にした。

「ごめんね。私達これから用事があるの」

「そ、そうでござる。だからお二人で行ってほしいでござる。積もる話もあるでござろうから」

「ん。そうか」

横島は頷くと、銀一が何か言おうとしたが、目配せで制した。

「あ、その前に録っていいかな?」

タマモが携帯を取り出し、銀一に聞くと彼は素直に首を振った。

そして横島と銀一のツーショット。
横島、タマモ、銀一と横島、シロ、銀一の三人ずつ。
シロ、銀一、タマモとの計四回。
さすがに携帯な為に四人全員では録れなかったが、タマモは満足気に頷いた。

「ありがとう。これでみんなに自慢できるわ」

「それはいいけど。仲の良い友達だけにしとけよ」

念の為に横島はタマモに忠告をした。
銀一は今や押しも押されぬスターだ。
この画像が出刃亀根性旺盛の阿呆に見つかれば、たちまちマスコミやら何やらで大騒ぎになるだろう。

「分かってるって」

タマモは横島にウインクをする。
それに横島は苦笑した。彼女は賢い、自ら墓穴を掘ることもないと思ったからだ。

「それでは行ってくるでござる」

「じゃーね」

二人はパッと身を翻すと、テレビ局から去って行った。

「さて行くか、銀ちゃん」

「そやな」

横島と銀一もスタジオから出る。
どこかで食事をする前に、横島は解決したと報告しに行く事にした。


川原―シロとタマモはこの場に再び立つ事になった。

「よく来たわね」

「待ちくたびれたぜ」

「……約束は守らないとダメです……」

「そうでーす。それは人として、ってあれ? 私達は妖怪でしたね。この場合はどう言えばいいのですかー?」

上から妖弧のクウカ、犬のゆうこ、雷獣のライ、鎌鼬のランの順で次々に言い放った。
見るからに四人(匹?)は怒っていた。

無理もない。
果し合いの約束をすっぽかかされ、一日中待たされたのだから。

「はあ。あんた達、何がしたいのよ?」

呆れた様にタマモは聞いた。
今日、横島との待ち合わせ場所に行く途中で出会い、またこの場所で決闘をすると申し込まれたのだ。
シロがこれから約束があるので後でと言うと、あっさりと道を開けてくれた。
案外、心根は優しいのだろう。

「一昨日、申した通りです。横島様を賭けての決闘です」

金色の瞳を鋭く光らせ、クウカは言い放った。
白に近い長い金髪は、彼女の霊力で浮き上がりやる気は満々だ。

「先生は物ではござらん! その言い方は先生を侮辱しているでござる!」

シロは唸り、クウカ達に食って掛かた。
口の間からは鋭い牙が見える。

「そうはいかねえ。あたし達の気持ちは本気だ。それにあたしは不器用でね。ぶつかり合わねえと分かんねえのさ」

肩で切り揃えた黒髪を逆立て、ゆうこは低く唸る。
シロと同じく、口の間から牙が見えた。

「やれやれね。私達に勝ったからって、タダオがあんたらに振り向くと思うの?」

挑発の意味も込めて、タマモは大仰に肩を竦める。
だが金色の瞳は怒りの炎に燃えていた。

「……そうかもしれません。……ですが私達は何もせずにはいられないのです」

ポツリポツリと呟く様に言うライ。
彼女は本気らしくバリバリと放電し、黄色のワンピースの裾がその余波で、はためいている。

「お主らの気持ちは分からないでもないでござるが……」

「はーい、ならば戦いましょーう! それでいいと思いまーす」

ランは既に二の腕から、鎌の様な刃物が飛び出し、今か今かと待ち構えている。
口調は相変わらず明るいが、闘気が溢れ出していた。

「全く、バカにつける薬はないわ」

そう言って、タマモは低く身を構える。
シロは霊波刀を出し、様子を伺っていた。

「「「「「「勝負!!」」」」」」」

こうして夕暮れの決闘は行われる事となった。


あとがき

またもや中途半端。
そして待たせてしまって、すみません。
早く出したいのに中々終わらず、前回から一ヶ月経ってしまいました。
次回はなるべく早く出したいです。
銀ちゃんですが、原作では苗字がなかったので、あのコンビからつけました。

戯言

みなさんはオカルトGメンの女性隊員服を見て、怪しいと思いませんか?
隊員服は美神さん、おキヌちゃん、シロ、タマモといった美神除霊事務所の女性陣全員が袖を通しています。
しかし、どれも出てくるのが異様に早いです。

例えばシロとタマモです。
彼女達は『白き狼と白き狐!!(その3)』の扉絵で身長が分かります。
だいたい152〜3(髪を抜かして)で、女子中学生ぐらいの身長です。
それに加えて彼女達は足が長いモデル体型です(GS女性陣全員にそれが当て嵌まりますが)。

それなのにあっという間に隊員服を用意する西条。
果たしてすぐに用意できるものでしょうか?

答えは簡単。
オカルトGメンの倉庫には、各種体型に合わせた女性隊員服が予め用意されているのです。
多分、上層部辺りが女性には隊員服を着せなければならない!! それに濃い目のストッキングと一緒に!!と考えている人が居るのでしょう。
まさしく漢!! まさしく益荒男!!  
男は情熱と信念を持って生きていかなければならない事を教えてくれます。

以上、馬鹿話でした。
でもどこから持ってきているのかなあ?

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