クリスマスと恋心は突然に!?
横島が妙神山から戻って一ヶ月ちょっと。
季節は冬となり。暦は十二月二十四日。
横島がこの時代に来てから初めてのクリスマスである。
彼は(ちょっと頭が薄くなった)唐巣の教会で開かれているミサの手伝いをしながら空を見上げていた。
何処までも、何処までも続く青空を・・・。
「(あの時代の空も、こんな感じの青空だったな。・・・願わくは、皆が幸せでありますように)」
もう自分の事を知る者はいない世界で、自分の大切な人達が幸せな笑顔を浮べている事を、
何処までも続く空を見上げながら横島は願っていた。
そんな横島を少し離れた所から見ている人物がいた。
横島と同じ様にミサの手伝いに来ていた美神である。
「(また、寂しそうに空を見てる・・・。何でそんな顔をしているの?
って、私何考えているのよ!横島クンがどんな顔をしていても私には関係ないじゃ・・な・い。
・・・・・・でも、私達がいるんだからそんな顔しないでよ)」
この時代の美神は、あの時代の美神と同じ様に自分の気持ちを素直に認め様とはしない。
しかし、変わってきている事は確かである。
あの時代では年の近い者は学校の中だけだったが、今は唐巣の所に来ても横島がいる。
そして美神は認めないだろうが、横島といる時の美神はどこか安らいだ表情をしている。
これは、頼れる年の近い男性が近くにいる。
と言う気持ちもあるだろうが、あの時代の想いが関係している事も確かであるし、
高校二年生の時の美神は、まだそれ程まで天邪鬼にもなっていないのだろう。
だから、薄々だが自分の気持ちにも気付き始めていると言うのが大きいだろう。
「どうかしたのかね?」
「あっ、先生・・・。何でもないんです」
「ならいいが。・・・でもね、美神君。自分の気持ちには素直になった方がいいよ?」
「え?先生、それって・・・」
横島を物思いに耽りながら見ていた美神に唐巣が話しかけると、
美神は何でもないと答えるが、あの時代での二人の関係を横島から聞いている唐巣は、
素直にならないと出遅れると言う事を知っている。(ある意味出遅れているが)
だから、娘の様に思っている美神に、去り際に素直になる様に忠告したのだった。
何の事だか分からない美神は唐巣に聞こうとしたが、
唐巣は既に背を向けて、ミサの参加者達の方に行っていて聞けなかった。
「素直になれって・・・先生に声を掛けられる前に見ていたのは横島クンだから・・・」
美神はそこまで考えると、ボンッと顔を真っ赤にしてしまった。
「(えっ?何?つまり、私は横島クンの事を?そ、そんな事無いわ!・・でも・・・)」
自分の気持ちと自問自答している美神に声を掛ける者がいた。
横島・・・ではなく、美神目当ての名も無き男性参加者だった。
この男、年は大学生位で顔はそこそこで。金もそれなりに持っていそうな雰囲気と、
いかにも『遊んでます』と言う雰囲気を放っていた。
「君が美神君かな?僕は」
「五月蝿いわね!今はそれ所じゃないのよ!」
「なっ!?」
「それにあんた誰よ?」
「ぼ、僕の名前は」
「ああ、言わなくてもいいわ。興味無いから。それに、今日はミサに参加する人だけの筈だけど?
あんたの格好はどう見てもそういう感じじゃないわね。何、ナンパ?私を?
御生憎様。私はあんたみたいに暇じゃないの」
自分から名前を聞いておいて潰し、早口で『私、あんたに興味がないから』と伝え切ると、
美神に声を掛けた男は身体を怒りによって震わせていた。
「この、アマ・・・人が下手に出てればいい気になりやがって。
いいか?僕のパパは日本でも有数の財閥の重役なんだ。だから、パパに言えばこんな教会」
「あっそう。親の名前を出す訳ね。なら、帰ってそのパパに聞いてみなさい。
GSの美神美知恵は誰かってね」
美神が男にそう言うと、男は鼻で笑うと言ってはいけない事を言う。
「知ってるさ。除霊中の失敗が元で数年前に死んだ女だろ?
しかも、迷い込んできたガキを庇って負った傷が原因らしいじゃないか」
「っ!?」
そう言われた美神は俯いてしまう。
いくら美神と言ってもまだ高校二年生の少女である。
その少女に、もう吹っ切れて来たとは言え、母親の死の原因を言うとは・・・。
何時の間にか、男と美神のやり取りは周りの興味を引く物となっていて、
当然横島もそのやり取りを少し離れた所から見ていた。
そして、何時もの如く美神が軽くあしらって終わりだろうと苦笑しながら見ていたが、
男が先程言った事と次に行った言葉で切れた。
「まったく馬鹿な女だよな。仕事でやってるんなら、ガキの一人や二人気にしなければいいんだ。
それを、妙な正義感から守るから死んじまうんだよ」
この近くに唐巣がいて、話を聞いていれば横島よりも早く男を叩き出していただろう。
それにこの男、周りからの冷たい視線に気付いていないのか?
唐巣がやっている教会のミサと言う事は、小さい子供を連れた家族も来ているし、
同い年くらいの青年や女性達も来ている。
その家族や青年たちの前で『子供は見殺しにしろ』と言ったのだ。
来ている家族の男親達が男を摘み出そうとし様とした瞬間、男が吹っ飛んだ。
「ぐはっ!」
「・・・・・・・・・」
無言で男を殴ったのは横島である。しかも、瞳に怒りの炎を燈らせて。
「こ、の、ガキ!何しやがる!」
「黙れ、糞野郎」
この時代の横島は中学二年である。ガキと言われても反論は出来ない。
しかし、横島は許せなかった。
美知恵が令子の元を離れ、隠れながら生活をしなければいけない理由。
そして、その事を知らない令子がどれだけ傷付いているのかを知っているから。
もちろん、この糞野郎に知って貰おう等とは微塵も思っていない。
だが、横島はこの糞野郎を許せる訳が無かった。
「・・・お前を俺は許さない」
「けっ!ガキが何を言ってやがる!」
男はそう言うと懐からナイフを取り出すと横島に向かって構えた。
ナイフが出された途端、周りは騒がしくなったが横島は静かに見据えていた。
「怪我したくなかったら土下座して誤りな。そしたら、まだ許してやる」
「ナイフを出したな?つまりは、怪我を負わされても文句は言えないって事だ」
「ちっ、生意気な目をしやがって。もう土下座をしても許してやらねえからな!」
「最初から許して貰おうなんて思ってない」
男はナイフを腰の辺りで固定すると、そのまま横島に向かって行った。
少しはナイフの扱いを知っている様だが、横島に挑み掛かる時点で馬鹿である。
向かってきた男に横島は言う。
「お前は謝っても許さない」
「ぐっ!」
ナイフを持った腕を取ると、そのまま掌底を腹に叩き込む。
「親御さん達の前で子供の事を見殺しにしろ?」
「げふっ!」
掌底によって下がった顎に向かってそのまま肘を繰り出す。
「それに、美神さんや美神さんのお母さんの気持ちを考えないで」
「がはっ!も、もう・・・」
ナイフを男が落とした事で、掴んでいた手を離すとそのままリバーブローを放つ。
俯いていた美神は横島の言葉に反応し、そのまま聞き耳を立て始めた。
「母親の事をそんな風に言うお前は何様のつもりだ?」
「もう、やめ、て」
「言わなかったか?俺はお前を許さない」
「ヒッ!」
しかし、ここで怒りによって暴走した横島を止める人が二人いた。
「横島君、そこまでだよ」
「横島クン!もういいから!私は平気だから!」
唐巣と美神である。
唐巣は声を掛けるだけだったが、美神は後ろから横島に抱き付いて、
横島は拳を振り上げたままの格好で止まり、男の胸倉から手を離した。
「・・・すみませんでした。俺、帰りますね。
こんな日に人を殴った様な俺がいたら、折角のミサも台無しですし」
そう言って、首に回された手を美神に離す様に言ったが美神は離さず、
逆にもっと抱きつく力を籠めた。
「・・・美神さん?」
「ありがとう、横島クン。ありがとう・・・」
美神はそれ程身長差が無い横島の背中に顔を当てて、泣きながらお礼を言っていた。
自分の為に怒ってくれてありがとう。ママの為に怒ってくれてありがとう。
そう言った気持ちを込めて。
それを見ていた唐巣も横島に声を掛ける。
「横島君、何処に行くって言うんだい?ミサはもう直ぐ始めるんだよ?」
「でも・・・」
唐巣は特に何かを言うでもない言葉。
しかし、その言葉の中に『ここにいなさい』と言う想いを横島は感じたが、
人を殴った自分がここにいていいのだろうか?と横島は考えていた。
そんな横島の手を握る存在がいた。ミサに来ていた小さい子供達だった。
「おに~ちゃん。どこかにいっちゃうの?」
「よこしまおにいちゃん、あそんで・・・」
「横兄ちゃん、かっけぇ~!なんか、あの兄ちゃん感じが悪かったんだ!」
「おにいちゃん、おしっこ」
「兄ちゃん、今度またミニ四駆の作り方教えてくれよな!?」
子供達が横島の周りに集まってくると流石に悪いと思ったのか、
美神は静かに横島の背から離れ、真っ赤になった顔と目を隠しながら教会の中へと入って行った。
元来、子供好きな横島は教会の周りにいる子供達の遊び相手をしていた。
時間に余裕がある時だけだったが。
それでも子供と言うのは人の裏表を見抜く天才である。
だから横島の人に優しい心の事に気付き懐いているのだろう。
横島は自分の周りに寄って来た子供達に聞いた。
「俺の事が怖くないのか?」と。
それに対して子供達の答えは簡単だった。
「怖くないよ?」×子供全員
「俺は人を殴ったんだぞ?」
「だってあの人、美神ねえちゃんいじめてたじゃん」
「ゆるせないもん」
子供達の内二人が、美神の事を庇った時に横島は涙が出そうだった。
泣いている所を見せたくない横島は、子供達を全員抱きしめた。
そんな横島に近づく多数の影があった。子供達の親達である。
「君が横島君だね?」
「はい」
「顔を上げてくれないかしら?」
そう言われた横島は恐る恐る顔を上げると、目の前には笑顔を浮べた親達がいた。
「何時も息子がお世話になっているようで、すまないね?」
「い、いえ」
横島は、人を殴った所を見られたのだから、もう子供に近づくな、位言われると思っていた。
しかし親達の口から出た言葉はまったくの逆の言葉だった。
「これからも遊んであげてね?」とか。
「今度内にご飯を食べにいらっしゃいな。子供が横兄ちゃんを呼びたいってうるさいのよ」とか。
「いやぁ~、君が怒ってくれた時は胸がスッとしたね!」とか。
「若いのに確りしているんだね?君みたいな若者ばかりだったらいいんだがね」とかだった。
そう言われた横島が「い、いいんですか?」と聞くと、
「何だい?もう子供達と遊んでくれんのかね?」
と親の一人に返され、それに首を横に振るしかなかった。
「君が気にしているさっきの事だったら気にするな。
それを見ていた子供達も、君を怖がっていないだろ?それが答えだよ」
父親の一人がそう言うと、親達全員が頷いていた。
さて、横島にぼこられた糞野郎だが、横島達に見つからない様に教会を出ると、
何処かに電話を掛け様としていた所で、警官に声を掛けられていた。
「あ~、君かね?教会でナイフを振り回していたのは」
「え?」
「まったく。こんな日にそんな事をするなんてな。
事情は署の方で聞くから、着いて来なさい」
「そ、そんな馬鹿なぁ~~!?」
で、署で素直に美神に言った事を言って、その後横島に殴られた事を言うと、
一週間程、駐留所で寝泊りしたとか。父親?呆れて何も言えなかったそうです。
さて、そんなこんながあったが、無事?にミサが始まると横島の右隣には美神が座っていた。
これだけだったら特に気にする事も無いのだが、美神の左手に注目して欲しい。
・・・
・・
・
はい、見えましたね。そうです。しっかりと横島の右手を握っているんですね。
その様子を前で福音を朗読しながら見ていた唐巣は微笑んでいた。
福音の朗読が終わり、共同祈願では世界平和と自分の周りの幸せを願い。
その後、賛歌の歌を全員で歌い、唐巣がクリスマスについて話し、
拝領の歌を歌いキリストに捧げると、
神様(キーやんだけどね)に感謝の言葉を述べる事で今回のクリスマスミサは終了となり、
会食となった。
会食が始まると、直ぐに子供達に囲まれた横島だったが、
今では子供達も親達と一緒に何かを食べたり、寝ていたりする。
それを壁に寄りかかりながら、ノンアルコールのシャンパンを飲んでいた横島に、
美神が近づいて行った。
「横島クン」
「? どうしたんですか、美神さん」
「さっきは、本当にありがとう」
「気にしないで下さいよ。俺が許せなかっただけですから」
「それでもよ」
「じゃあ、ありがたくお礼の言葉を頂いておきます。
・・・あ、そうだ。これ、美神さんにクリスマスプレゼントです」
「私に?・・・開けてもいいかしら?」
「どうぞ」
横島が美神に渡したのは、長方形の箱だった。
そして、その中から出てきたのはブレスレットだった。
「うわぁ~、ありがとう。・・・ん?これは?」
美神が聞いたのは、ブレスレットに付いている緑色の珠だった。
美神が知らない理由は、まだ見せてないから。
「付属品ですよ。俺が創ったんで、大切にしてくれると嬉しいですね」
「そっか、横島クンが創ったんだ・・・」
「(雪菜や小竜姫達にも届いたかな)」
同じ物を雪菜達に送っているとは知らない美神は喜んでいた。
横島が自分に創ってくれた物だと言う事で。
美神はブレスレットを腕に付けると、横島に似合っているか聞いた。
それを見た横島が良く似合っていると言うと、美神は突然悩みだした。
「どうしたんですか?」
「まさか、横島クンからプレゼント貰えると思ってなかったから、私は何も用意してないのよ」
「気にしないで下さいよ」
「そう言う訳にもいかないでしょ?・・・・・・そうだ!え、えっと横島クン」
「? 何です?」
「ちょっと目を瞑って、横を向いてくれないかしら?」
「いいですよ?」
美神にそう言われた横島は素直に目を瞑って横を向くと、突然頬に柔らかい何かが当たる感触がした。
「なっ!?」
「エヘヘ。さっきのと、このプレゼントのお礼ね。じゃ、じゃあ、私そろそろ帰るわね!」
顔を真っ赤にした美神はそう言うと走って教会を出て行き、
後には唖然とする横島とそれをからかう男親が残っていた。
「あ~、恥ずかしい。で、でも、頬にするキスくらい普通よね?
そ、そうよ。特別な意味なんてないんだから!」
誰に言うでも無く、そう言いながら走る美神を周りにいる人達は好奇な目で見ていた。
・・・未だに認めない美神。ある意味可愛い。
あとがき~
今回のヒロインは読めばわかりますよね?美神です!
俺は美神が原作の時から好きなんですよ。
絶対に横島が好きだって認めないけど、横島といい雰囲気になって慌てる所とか、
未来の横島が来て帰る時に真っ赤になっている所が。
と、言う訳で、少しだけ素直にしてみた美神でした。
可愛く書けたでしょうか?書けていたらいいんですが。
レス返し~
weyさん、傍観者さん、nackyさん、D,さん、紫苑さん、渋さん、大神さん、
レスありがとうございます。
weyさん。
いえいえ、全然気に障りませんよ。むしろ当然な疑問だと思います。
で、ですね、オーディンは北欧神話の主神ですよね?
つまりは、アシュタロスと同じ様に魂の牢獄に囚われていると思ったんです。
ですので、生きている訳です。
傍観者さん。
そうですね。確かにグングニルは投擲武器です。でも、投擲槍は普通の槍と同じ様に使う事が出来ます。
真名を発動して投げれば、全てを消し去る稲妻の槍となるんですが、
グングニルは通常に使うのでも、確か最強の分類に入ったかと。
nackyさん。
えっと、ジークが攻撃された理由ですか?
ワルキューレは横島と結婚はまだしていませんよね?
誰もが最初に結婚したいと思うのは当然だと思うんですよ。だからです。
まあ、女子高生と言っても美神ですから。
D,さん。
いっぱいのワルキューレですか?
どんな作品だ?w ちょっと見てみたいですね。
紫苑さん。
神父の頭はちょっと薄くなりました。
此処だけの話し、横島が唐巣に送ったのは超強力育毛剤だったとか。
小竜姫とワルキューレを可愛く書けてて良かったです。
渋さん。
まあ、知らない女性にナンパは出来ませんね。
あの時代の女性は許容範囲内なんで平気ですけどね。
大神さん。
まったくです!
恋する乙女に常識を当て嵌めたら馬鹿を見ますw