「必ず生きて帰ってくださいね・・・・・・・・・老師、大丈夫なんですよね?」
小竜姫の言葉は空に吸い込まれるように誰の耳にも入ることはなかった。
Legend of Devil vol.6 Counter Attack その2
「ここか・・・・・・・・・」
時刻は午後11時50分、横島は険しい表情で果たし状にあった工場跡地の前に佇んでいた。
「にしても地元ヤンキーがたむろってそうな場所だな」
「よく来たね」
向上の奥から女性の声が聞こえてきた。
「メドーサ!! 約束通り1人で来たぞ! タマモを開放しろ!!」
「それは貴様が俺たちに殺されてからだ」
「そしたら無事に返してやるぜ ゲハハハハ!」
横島の言葉に答えたのはメドーサではなく不適な笑みを浮かべた少年と蠅の魔物だった。
「デミアン!! お前生きてたのか!? それに・・・・・・・・・誰だっけ?」
ブチ!
「人間ごときが!! この蠅の王ベルゼブル様をなめんじゃねぇ!!」
ベルゼブルは横島の言葉に我を忘れたのか小型化(大量クローン化)もせずに横島に飛びかかって行った。蠅故に表情の確認は難しいが怒りが頂点に達していることは分かる。
真っ直ぐに突っ込んでくるベルゼブル。小型化せずともかなりのスピードである。今までの横島(美神除霊事務所勤務時)であればそのスピードに付いていくこともままならなかったはずだ。しかし3ヶ月とはいえ斉天大聖や小竜姫の元で修行を行った横島の体術は数段レベルが上がっていた。
突進してくるベルゼブルをすんでの所でかわしヤツの背中に手を付いた横島は一気に霊気を放出しベルゼブルの体内に流し込んだ。
「「!!!!?」」
その場に立ったまま動きを見せないが険しい表情をとるメドーサとデミアン。
「グハ!! き、貴様、な、何をした!?」
全身に電気が走ったような状態が続きもがき苦しむベルゼブル。対し横島は口の片方を持ち上げながら笑みを浮かべベルゼブルの様子を窺っている。
「お、俺様の霊気構造が、こ、壊れる!?」
ドォ~ン
その言葉を最後にベルゼブルは爆煙と共に消滅した。
「貴様何をした!?」
「“霊空波”俺の霊気をそのままヤツの体に叩き込んだ」
デミアンの問いに真剣な表情で答える横島。ここに横島へ思いを寄せる女性陣がいたならば更に横島株は急上昇していただろう。
「普段は霊を対消滅させる為に使っているがな。 生きているお前達魔族の霊気構造に莫大な霊気を叩き込んだらどうなる? 正常な霊気構造に莫大な霊気、許容量オーバーで反発しあい自我崩壊を引き起こす」
そう、霊の場合体が無い為に許容量が無く、半端な力で霊気を放出すればまんま自分の力として吸収されてしまう可能性があり、一撃で対消滅させることが出来るくらいの力が必要となる。(LoD3その2参照)しかし魔族、いや生物の場合、体に応じた許容量があり、それを超えると反発し、霊気構造の自我崩壊が起こるのである。横島の場合、多くの霊気構造を失いそれをルシオラの霊気構造で補った為、許容量以内だったのだ。
「ば、莫迦な!? 人間にそんなことが出来るはずがない! 変質化しない霊気など空気と同じ、放出した瞬間に四散してしまう筈! 魔族の自我崩壊を誘うまでに枯渇してしまうはずだ!」
「俺にはそれが出来る。 これまでただ遊んでたわけじゃないからな 今ので文殊2つ分くらいだ。 今の俺ならあと5・6発は放てる」
「フン! 確かにアンタはかなり強くなったようだね。 だけど、超加速に付いてこれるほどじゃない!」
メドーサは超加速状態に入り、横島の背後に回り、二股の矛で攻撃を仕掛けた。(勝った!!)と思った瞬間目の前から横島の姿が消え背後から声が聞こえてきた。
「悪いな、超加速が使えるお前がいるのに手ぶらで来るほど馬鹿じゃない」
その声に反応し、距離を置いて向き直るメドーサ。
「小竜姫か!?」
「そうだ。 訳ありでな小竜姫様から竜気のバンダナを借りてきたのさ」
「横島さんこれを」
そう言って小竜姫から渡されたのは竜気の籠もったバンダナだった。
「でも・・・・・・・・・」
自分の力を試してみたい横島にとってそれは反則と言って良いモノであった為受け取ろうとはしなかった。
「横島さん、貴方の今の顔・・・・・・・・・とても怒りに満ちている。 そんな状態では魔力を押さえ込むのは困難です。 これは魔力封じに使ってください。 それに向こうにはメドーサがいます、今の横島さんの力を知れば平気で超加速を使ってくるはずです。 それでは到底勝てません、その時の為に」
「小竜姫様・・・・・・・・・わかりました。 それじゃ行ってきます」
俯きながらバンダナを差し出す小竜姫に笑顔で答え、バンダナを額に巻き付け事務所を後にした横島。ただその場に立ち尽くす小竜姫だけが事務所の玄関に残された。
「必ず生きて帰ってくださいね・・・・・・・・・老師、大丈夫なんですよね?」
小竜姫の言葉は空に吸い込まれるように誰の耳にも入ることはなかった。
「さぁ! タマモを返してもらうぞ!!」
続く
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