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「試しの大地  第5話  (除霊委員シリーズ外伝)(GS)」

犬雀 (2005-01-16 21:20)
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第5話  「サバイバルは突然に…」


土曜日 帯広近郊の温泉峡


「…ここです…」

ズーンと背中に暗い影を背負い、顔一面に縦線を貼り付けた霧香が案内した温泉はかなり離れた山中の渓流の傍にひっそりと建っていた。

早くも暮れはじめた渓谷の周囲には硫黄の匂いが立ち込める。
シロタマには多少きついようだったったが、温泉の持つ独特の開放感と自然との触れ合いとか言う言葉をぶっちぎりで凌駕するかのようなその佇まいに野生の血を刺激されたのか二人の顔には期待の色がある。

「あの…霧香さん?」

「…なんでしょうか…横島さん…」

「さっき、飯、ご馳走になりましたからここの払いは俺達に任せてくれませんか?」

「えっ!いいんですかっ!!もー。そんな!!お姉さん大感激ですっ♪」

「えっと…そこまで喜ばなくても…」

一気に顔中の縦線を吹き飛ばし、今や光り輝く笑顔とともに横島の手を握ってブンブカ振る霧香の様子に微妙に引く横島だったが、そんな彼には構わず横島の手を握ったまま宿へと入っていく霧香に彼の顔にも笑顔が浮かぶ。

シロタマはと見ればとっくに温泉の玄関に立って彼らを待っていた。


「あ、横島さん。ここはですねっ、露天風呂が有名なんですよっ♪」

「そうなんすか?」

「はいっ♪」

彼の手を握ったまま玄関に向かう霧香のどこか子供めいた様子に苦笑する。
悪い気持ちではなかったが…。

とりあえず二部屋とってチェックインする。
部屋のサイズはどこも変わらないのか、何となく皆で横島の部屋に集まった。
夕食まではまだ時間がある…というか流石に今は入らない。
霧香が入れてくれた備え付けのお茶を飲みながら、今後のことをぼんやりと考える横島だったが、霧香の爆弾発言で盛大に茶を吹き出した。

「ここって混浴なんですよ〜♪」

「混浴っすかっ!!」

「嘘っ!!」

一気に煩悩を刺激され声が裏返る横島と焦り捲くるタマモ。シロだけは何やら嬉しげ名様子だ。

「先生と一緒の湯浴みってのも…いいもんでござるな♪」

イヤンイヤンと首を振る愛弟子を見ないフリして、爆弾投下の主を見れば悪戯っぽい笑顔で「てへっ♪」と舌を出す霧香の姿。
なんとなく今までの疲れがどっと出た気がして横島は肩を落とした。

「ち、ちちちち、ちょっとお、混浴って何よっ!」

慌てふためくタマモに霧香はその笑顔のまま「全部のお風呂がってわけじゃないですけどね♪」とあっさりと二発目の爆弾を投下した。
どうやら計算づくだったらしい。

その攻撃にタマモもがっくりと肩を落とす。

「さて…とりあえず浴衣に着替えて一回入ってきましょうか。シロちゃん。タマモちゃん!!」

「え、あ、ちょっとお…」

抗議の声をあげるタマモと赤い顔でどっかに行ったっきりのシロを引きずって霧香が出て行った。

一人、部屋に残された横島はイスに座ったまま目を閉じ、これからのことに思いをはせる。


土曜日  京都高級ホテル


部屋に運ばれた高級懐石を食べる令子とおキヌ。
料理の質は申し分なく、落ち着いた部屋の雰囲気とあいまって安らかな空間がそこにあるか…と言えば彼女らの表情は暗い。

ポツリとおキヌが口を開く。

「あの…美神さん…横島さんから連絡ありましたか?」

「ないわ…本当にあのバカは何やっているんだか…」

「あの…このお仕事ってまたの機会に出来ないんでしょうか…」

「出来ないわね…それに北海道のどこへ行くつもり?」

「え?私は北海道へ行くとは…」

考えていることがバレバレのおキヌの言葉に苦笑する令子だが、その表情を真剣なものに戻した。

「何かあったとしても…あいつのことだから心配ないわよ。ほら、あいつって妙に悪運が強いじゃない。」

「そうでしょうか…」

「そうよっ!とりあえず私達は出来ることをするっ!そのためにはまずエネルギーの補給よ!!」

そう言うと目の前の料理に箸をつける。
おキヌもそれにならう…美味しいはずの料理はほとんど味がしなかった。


土曜日 帯広近郊の温泉峡


宿で出された遅めの食事は美味しかった。
山菜と油揚げの煮しめや、十勝牛と言われる牛肉の料理にはタマモもシロも満足したようだ。
一風呂浴びて床についた横島だったが妙に寝付けない。
ジュースでも買おうと部屋を出たところで宿の主人と思しき男と出会う。

「お客さん、露天に行かれるんですか?だったら暗いですから…」

そう言って懐中電灯を横島に手渡す。

「え?停電ですか?」

「いえ…この時間なら渓流横の露天に行かれるのかと思いましてね。」

宿の主人が言うには近くを流れる川の脇に自噴している温泉があるとのことだった。
そこに行くのに暗いから懐中電灯が必要らしい。
興味を持った横島だったが懐中電灯は辞退した。
だてにGSはやっていない。夜目には自信がある。
どうせ眠れないことだしと桶を持って主人が教えてくれた道順をたどっていくと、やがて渓流のせせらぎが聞こえてきた。

月の明かりを受け、白く輝きながら穏やかに流れる水の流れと音は彼の心を落ち着かせる。どこかでホウホウとフクロウの鳴く声が聞こえてきた。

そんな川の横で湯気を立てているのが主人の言った温泉だろう…そこに近づこうとした横島は先客が居ることに気がついた。

月の光の中、岩に腰掛け、その白い裸身を惜しげもなく晒し、森に向けて語りかけるように横島の知らない言葉で歌うのは紛れもなく霧香だった。

その幻想的な光景に目を奪われ、得意の流血も忘れて立ち尽くす横島の耳にかすかに聞こえる霧香の歌声…「コタン…コロ…」という音だけが耳に残った。

ふいに霧香がこちらを振り返る。
我に返って体を隠そうかとあたりを見る横島だったがそんな場所はどこにもない。
痴漢呼ばわりを覚悟しつつも言い訳をしようとする横島に対して霧香は動ずる風もなくにこやかに笑いかける。

「横島さんもお風呂ですか?やっぱりお風呂は露天ですよね♪」

「え…えと…あの…すんませんっ!!」

日ごろの習性か、はたまた条件反射かで思わず謝る横島だったが、霧香はその美しい裸身を月の光に輝かせたまま、笑顔さえみせて横島に「一緒に入りませんか?」ととんでもないことを言った。

いつもの煩悩少年の面影もなく顔を赤らめる横島。
何かに操られるかのごとく、浴衣を脱ぐとさして広くもない天然の湯船に身を沈める。

体に湯の熱さが染み渡る。思わず「フー」と年寄り臭い息を吐く彼を霧香は笑顔で見つめている。

「いいところっすね…ここは…」

川面に遊ぶ虫を見ながら誰にともなく呟く横島に霧香が笑いかけた。

「あはっ…何もないところですけどね♪」

「でも、それがいいんじゃないですか?」

「そうですね…ねえ、横島さん?」

不意に放たれた真剣みを帯びた霧香の声に思わず「はい?」と返事をして振り返る。
いつの間にか意外と近くに寄っていた彼女に股間のメーターが反応し始めた。

「何も無いはずなのにここには人が集まる…なんででしょうか?」

「え?」

湯に浮かぶ豊かなふくらみに目が行ってしまうのは男の性だろう…彼の思考はピンクと冷静さとの中間で揺れ続けた。

「本当に何もないんでしょうか?…例えば…」

そう言って川を指差す霧香。湯からまろびでた双乳の輝きに鼻の奥に鉄の匂いを感じ始める横島を知ってか知らずか霧香は話し続ける。

「この川の中には岩魚やカジカなんて魚がいっぱい居ます。釣りをする人から見ればここは宝の川です。」

今度は森を指差す。

「あの森にはフクロウやキツネやヒグマがいっぱい居ます。ですから…」

聞き捨てなら無いことをさらりと言いながら彼に近づいてくる霧香…横島のメーターはすでにレッドゾーンに入りかけている。

「在る無しと言うのは人の主観によるものかも知れませんね…あるいは、在ると無いとは同じことなのかしら…」

もはや甘い息すら彼の身に感じさせるほどに迫る霧香。その指が横島の胸を甘くなぞる。

股間のメーターは彼の腹筋をポンポコポンと叩くまでに振り切っている。鼻に感じる血の匂いはすでに血の味へと変化していた。

霧香の指は彼の胸に刻まれた傷跡をなぞる。
それは蛍を守るため蜂によって刻まれた傷、そして蛍を失う元となった傷、心を蝕んでいた傷は今も眠り続ける少女によって癒されつつある。だが体の傷は癒えたとは言え、その跡はそのまま残り続けた。
その傷を優しくなぞりながら霧香の唇が彼の耳に触れる。彼女が彼の耳に何事かを囁いたとき…彼は不意に激しい睡魔に襲われ、そして彼の意識は闇に沈んだ。

どこかでフクロウの羽音が響いた。


翌朝、自分の部屋で目覚めた横島は戸惑いを感じた。
いつの間に自分は部屋に戻ったのだろうか…浴衣を見ても乱れた様子は無い。
彼女が自分を運べるはずはない…と考え込む横島。
自分で戻ったのかも知れない、何しろあの湯とあの肢体だ。
のぼせて訳がわからなったとしても当然だったろう。と思考を打ち切ることにした。
昨夜の霧香の裸身が目覚めのエナジーに満ちる下半身に余計な刺激を与えそうだったから…

自分の浴衣からかすかに立ち上る獣臭は硫黄の匂いにまぎれて彼には届かなかった。

昨夜のことなど何も無かったかのようにほがらかに挨拶する霧香と寝ぼけ眼のタマモと早朝一人で山を駆け回っていたらしいシロとの騒々しい朝食を済ませて、いよいよラワンに向かうべく車に乗り込む彼らを一匹のキタキツネが森から見つめていた。


日曜日 都内Gメン本部


美智恵は休日であるにも関わらずひのめを託児所に預けて出勤している。
道警からの連絡は芳しいものは無い。

とりあえず今日一日連絡が無ければ家出人扱いで捜索願を出そうかと考えている時、自分の携帯が鳴る。

娘からだった。

何の進展も無かったことを告げる。
さりげない様子を装いながらも心配を隠しきれない娘に苦笑が漏れた。
ぶっきらぼうに電話を切った娘の天邪鬼ぶりに嘆息しつつ窓の外を見やる。

「横島君…あなたは今どこにいるの?」


日曜日 ラワン


4WDはラワンの山中にある林道をひた走る。
窓から見えるのは鬱蒼と茂る原始の森とその下に広がるシダ類の植物。
少し開けた場所には横島たちが見たことも無いほど大きなフキが生えている。

「あれは何?」

「あれですか?あれはラワンブキと言うフキです。夏になれば3mを超えるものもありますね。」

タマモの問いに霧香が答える。その常識はずれとも言える大きさに横島は驚いた。

「3mっすか?!」

「凄いでござるな…」

「そうね。この辺ならいいかもね…降りて見てみますか?」

「面白そうね…」

林道に止めた車から降りるシロタマと横島たちはフキ叢の中に入っていった。
その後をトランクから出したカバンを背負いながら霧香が続く。
身の丈を超えるフキをかき分けていくと程なくして小さな川に出た。
タマモでも簡単に飛び越せそうなその川は近くの山の水を集めているのか驚くほど澄み切っていた。深さも20cmもなさそうなその小川に手をつけてみる。
身を切るような水の冷たさに思わず震え上がった。

「魚とかいないでござるかな?」

「こんな浅い川に居るわけないでしょ。いてもメダカとかじゃないの?」

呆れたように言うタマモに霧香が笑いかける。

「あら、タマモちゃん。この川にはもっと大きなお魚が居ますよ。」

そして少し離れた水面を指差す。

一匹のカゲロウが水面に落ちた瞬間、水がはじけカゲロウの姿は消えた。

「え?」

「ニジマスですね。今の波紋なら30cmはあるかしら?」

「そんなでかいのがこんなところにいるんすか?!」

「ええ。居ますよ。ほら…」

と霧香が指差す水面では、流れの中のあちこちに同じような波紋が出来ていた。

「見ようと思って見なければ気づかないですけどね…」

なるほど…とうなずく横島に霧香は優しく微笑みかける。

「ところでここには何の用があって来たの?まさか観光ってわけじゃないでしょ?」

タマモが当然の疑問を発する。ここには人の気配が無い。
かわりに溢れるような自然の息吹が感じられる。
このような場所で誰に会うというのか?その問いは横島の胸中にもあった。

「そうですね…ここであなた達が誰かに会えるかどうか…それは私にもわかりません。ただ…」

「ただ?」

「ここは精霊の力の強い場所です。古の神々のことを知りたければ…きっとこの地で何かが得られると思いますよ。」

「精霊でござるか?」

「はい…。」

うつむき加減にシロに返事を返した霧香は背中からバッグを降ろすと横島に手渡した。

「え?これは?」

「中身は後で見てください…。」

「え?霧香さんどっか行くんすか?」

「はい。ちょっと用事がありますから…後で迎えに来ます。」

「え?ちょっと待ってよ。私たちまでここに置いていかれても!!」

「ごめんなさいね。タマモちゃん。シロちゃん。でも、あなた達ならそんなに時間はかからないと思うわ。だから…ちょっとだけ我慢してね。」

「何を言っているのよ?」

「うふふ。後で教えてあげる。…では横島さん…また後でね。」

「えーと…良くはわからないんですけど…必要なことなんすね?」

「はい…。では、私はそろそろ行きます…。早く行かないと…郵便局が閉まっちゃいますから!」

「え?!それって…」

「だってぇ〜…お金降ろさないとぉ〜ぐすっ…」

「あ〜はいはい。行ってらっしゃい…」

「待っているでござるよ!!」

「はい。ではまた後で…」


霧香が去ってしばらくその場で川の流れを見たり、川岸に咲く名も知らぬ花を摘んだりと遊んでいた一同であったが、日が中天を越えてもなお彼女は帰ってこなかった。

野生に戻りつつあるのか吠えながら山を走り回って居るシロと違って、タマモはそろそろ退屈してきたのか横島に話しかける。

「遅いわね…霧香さん…」

「そだな…」

「そう言えば、そのバッグの中身って何なのかしら?」

タマモに問われて「おお、そうだ」とばかりにバッグを手に取る。
意外に重かったそれを開けてみると様々な物が出てきた。

「ヨコシマ…これって何?」

「んー。これはライターか。こっちはナイフだな。んで…これはエマージェンシー・ブランケット…か。」

「何よそれ…」

「ん?これか?野宿するときの毛布みたいなもんだ。んでこれは登山用の鍋釜か…お、醤油とか塩もある。」

「ち、ちょっと待って!それって野宿しろってこと?」

慌てるタマモに「まさか」と暢気に答えようとした横島の顔色も変わる。

「え…え…そうなんか?」

「そうとしか考えられないでしょうがっ!私たち置き去りにされたのよっ!!」

「お、安心しろ。タマモ…」

「何よっ!」

「ちゃんとティッシュも入っていたぞ。グハアッ!!」

「蒸し返すなっ!!」


タマモに殴り飛ばされ横島がぶつかった木からクワガタムシがボタボタ落ちた。


後書き
ども。犬雀です。
はい。彼らはラワンにフキを見に行きました。
ラワンブキは本当に3メートルを越しますです。でも食うと柔らかくて美味。
犬はサラダが好きです。
本当に観光ガイドと化していますな。
さて…そろそろ霧香の行動が怪しくなってきました。
次の行き先はどこでしょう?っていうか移動できるのか?


では…

>梶木まぐ郎様
よっぽど腹が減っていたんでしょうねぇ…。本当の豚丼はそんなに高くないです。

>MAGIふぁ様
うーん。描写ですか…犬がんばって文章レベルを上げますです。

>AC04アタッカー様
パシリというか…犬の本州の知り合いは犬が出張で本州に行くたびにカニをもってこいと言うので…逆もありかな…と(苦笑)
飛行機の客室にカニを乗せようとして顰蹙を買ったおばかな犬です。

>紫苑様
請求しません多分。ていうか…出来ない?
美智恵さんの台詞に萌えていただけて嬉しいです。

>ncro様
美味いものはどんどん食いましょう。犬も明日、お昼は豚丼にしようかと…。

>豚丼解説者様
某牛丼屋さんのは犬食ったことないです。あれはこちらでは豚スキ丼ではないでしょうかねぇ…。

>to jack様
あああ、犬またやっちまいました。実はどっちかウロ覚えだったんで検索して見たんです。お恥ずかしい…。次に出すときから直します。
ご教授感謝です。

>柳野雫様
犬の書く西条君はそれなりに横島君のことを理解していると設定してます。
犬猿の仲はそのままですが。

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