「さてと・・・・。狭霧ちゃんに会いに行って見ようかな。」
授業が全て終わり、尋ねようかと廊下を歩いていると、ちょうどいいタイミングでその相手がかけてきた。
「あの、横島先生。」
「ん、狭霧ちゃん・・・、あ、いや、雨宮さんだったよね?何かよう?」
授業中は気をつけているのだが、気が抜けるとついフランクな呼び方をしてしまいそうになってしまう。慌てて言い換える横島。
「あ、はい、今日の講義の事ですけど・・・・・。」
「んっ?何かわからないとこあった?」
何か失敗しただろうかと不安になる横島。しかし、狭霧は慌てた表情をして首をふる。
「あ、いえ、そうじゃなくて感動しました!!」
「はいっ?」
まさかそんな褒め言葉がくるとは思わず、予想外な展開に呆気に取られ間抜けな顔をする横島。そして少女は顔を真っ赤にして続ける。
「あ、あの、魔族だって生きてるって話、私、凄く共感して・・・・・。」
「あ、そうなんだ。だったら俺も嬉しいな。」
狭霧の言葉に横島は本心から答える。この考えに共感してくれる人が一人でも増えてくれるならそれだけでも教師をやった甲斐があるというものである。
「は、はい、そ、それだけです!!」
言って立ち去ろうとする彼女を横島は慌てて呼び止める。
「待った!!俺もちょっと話があるんだ!!」
「えっ?」
「ちょっと、君の自主訓練の様子を見せてくれないか?」
「え、えーと・・・・・・。」
半ば横島の勢いに押される感じで体育着に着替え、練習場に連れられてきた狭霧。不安そうな面持ちである。
「それじゃあ、見せてもらえるかな?」
「あ、あのー、どうしてわたしだけ。」
「あー、ちょっと伸び悩んでいるみたいだから直接見てアドバイスできる事がないかと思って。やっぱ迷惑だったかな?」
半ば勢いで進めたが強引過ぎたかと反省しようとする横島。しかし、狭霧はぶんぶんと首を振る。
「い、いえ、とてもうれしいです!!でも、いいんですか?私なんかよりももっと優秀な人が・・・・。」
「あー、別にそういうのは気にしなくていいよ。俺はただかわいい雨宮さんが悩んでいるのほっとけなかっただけだから。」
「か、かわいい(真っ赤)」
顔を真っ赤に染める狭霧。それを見てういのー、と笑顔を浮かべる横島。
「んじゃ、見せてもらってもいいかな?」
「は、はい!!」
元気よく答え、普段の練習内容を順番に見せていく狭霧。それを見て横島は驚いた。
(なっ!?凄い完成度じゃないか!?)
実戦経験が足りない所為か動作のつながりはぎこちないが、一つ一つの動作を取って見れば肉体的なものでも、霊的なものでも学園でもトップクラスといえる。例えば収束率などはシロよりも上なぐらいだ。しかし、授業時に見せる彼女のそれはお世辞にも褒められたものではない。つまり、復習による反復によって腕を磨いたということだろうが・・・・・・。
「ねえ、普段どの位自主訓練してる。」
「えっ、一日6時間くらいですけど。」
「な、ぬわにいいいいいいいいいいいい!?」
横島はその答えに驚く。狭霧の霊能科目以外の成績は決して悪くない。学校に通いながら成績も落とさず一日6時間の訓練、それがどれほど困難か考えるまでもない。
「た、大変じゃない?それじゃあ、友達と遊ぶ暇もないでしょ?」
「私、才能ないですから、人より努力しないと・・・・・・・。」
彼女の努力を横島は素直に尊敬した。しかし、同時に辛い事実がわかってしまう。彼女の霊力はあまりに低い。1ヶ月前の測定では23.54マイト。GS試験の一次試験最低ラインはおよそ40マイト。もともと女子の成長期は男よりも早く始まり早く終わる。既にこれだけの努力をしてこの程度しかない彼女の霊力が高校3年間でそこまで伸びる可能性はあまりに低い。
「ねえ、雨宮さん、何でそこまでしてGSになりたいの?」
内申書にはGS以外の霊能職種を進める方針が書かれていた。GS以外なら彼女の力でも十分やっていける。横島も「その方がいいのかもしれない」そう考えた。だが、しかし、彼は直ぐにその安易な考えを後悔することになる。
「やめた方がいい・・・。横島先生もそう言うんですね。」
「あ、嫌、そうじゃないけど。でも、GSは危険な仕事だし。高収入の仕事っていうイメージもあるけど思うように稼げないGSとかも結構入るらしいし。」
かっての横島のような存在は例外として、実際、経営難にあえぐGSは多い。何事も華やかな面が目立つがどの世界であってもそれが全てではないのだ。
「お金が欲しいんじゃありません・・・・。私にGSの才能が無いのはわかってます。けど、私はどうしてもGSになりたいんです!!」
「わっ、ご、ごめん。」
「い、いえ、あの横島先生聞いてもらえますか、私がGSになりたい理由・・・。」
「え、もちろん!!美人の頼みは何だってきいちゃうよ!!」
彼女を傷つけてしまったと何とか挽回しようとする横島。そして彼女はポツリポツリと話し始めた。
「私、子供の頃、結構山奥の方に住んでいて、あまり同年代の子がいなくて友達がいなかったんです。けれど、そんな中一人だけ友達がいました。その子は妖怪でした。けど、私の親友だったんです。」
「へえー、そうなんだ。」
相槌を打つ横島、だが、次の言葉に彼は大きなショックを受ける。
「けど、その子殺されちゃったんです。ゴーストスィーパーに。」
「!!」
「私、警察の人に言いました。その人を捕まえてくれって。けど、人が妖怪を殺しても罪にならないんだって、言われました。」
「・・・・・・・。」
横島は美衣やケイの事が思い出された。彼等は人間の一方的な都合で追いやられ、命さえも狙われた。
「私、悔しかった!!私の友達だったのに、生きてたのに!!殺しても罪にならないだなんて信じられなかった!!それで、その後、住んでいた村を離れ、都会の方へ移り住んで、世の中ではそれが当たり前に行なわれてるんだって知ったんです。」
横島はもはや言葉さえ出せず、彼女の話を黙って聞いている。
「私はそれを変えたかった。だからGSを目指したんです。そして私は妖怪を排除するんじゃなくて、人と妖怪の架け橋になるGSになろうって。先生言ってましたよね!?魔族だって生きてるって。だったら妖怪だって生きてますよね!?先生はわかってくれますか!?私のやろうとしてること無理だとおもいますか!?私がGSになろうなんて無駄ですか!?」
興奮のあまり言ってる事が支離滅裂なものになりかけている。彼女は悲痛な叫びをあげ、横島の方を見・・・・・・呆気に取られた。横島は文字道理滂沱の涙を流していたのだ。横島はさけぶ。
「なんて、悲しい話なんやー!!君は何ていい子なんやー!!あー、そんな狭霧ちゃんに対して俺は何てことを言ってしまったんだー!!俺の馬鹿、俺の馬鹿!!」
そう言って地面に何度も頭を叩きつけて土下座する横島。それを見て慌てて止めようと駆け寄る狭霧。すると横島はかばっと立ち上がり狭霧の肩に手を置いていった。
「狭霧ちゃん!!俺は君を必ずGSにしてみせる!!もちろん、その後も協力する!!やってやれんことなんかあるかー!!わいはやるでー!!人と妖怪の架け橋、かならずなったろうやないかー!!」
「は、・・・・はい!!」
一連の行動、横島の普段とあまりにも違う“地”に呆気に取られる狭霧だったが、すぐに横島の言った言葉の意味を理解し、目にうっすらと涙を浮かべ、元気よく頷いた。
ここになんだかよくわからない、が、将来GS業界、ひいては日本社会全体に多大なる影響を与える師弟関係が成立したのだった。
PS.この師弟関係、後にあまりに有名になりすぎて、世間では狭霧が横島の一番弟子として認識されてしまい、シロが大層ぶーたれたそうな。ま、それはまた、別の話。
(後書き)
シリアスな話の後に横島君のこのリアクションはどうかなーと思いましたが、この方が横島君らしい、GSらしいと思ってこうしました。ご意見いただければありがたいです。