(くっ、先日はなんて無様な真似をしてしまったのだ!!)
時刻は昼過ぎ、横島は珍しくバイトも休みなのでする事もなくテレビを見ていた。
横島がテレビの内容に爆笑中の時、心眼は人狼の里での己の言動を見つめ直していた。
(何が”待ってーーーーい!!”だ。コヤツが何をしようがワレには関係あるまい。
ワレはコヤツの成長を見守るだけの存在でいいはずなのに・・・)
心眼は横島を見つめながら自らの言動を恥じていた。
自分に権限などない。自分はあくまで横島のサポート役に過ぎない。
(待てよ?・・・よく考えたらワレの考えは間違っていないだろう。今のコヤツは
まだまだ女にうつつを抜かしている暇はないのだから。そうに決まっている、
そうだ、ワレは正しい事をしたのだ。)
悩んでいたわりには結局は自分の言いように自己完結してしまったようだ。
その後は折角だから溜まっていたDVDでも見ようとし始めるが、
玄関からノックの音がする。横島が起き上がりドアを開けるとはそこには、
「久しぶりだな、横島。有休をもらったので会いに来たぞ。」
何処か見覚えがある女性がOL姿で立っていた。
――心眼は眠らない その25――
(え~と・・・見たことあるんだよな。この顔は確か・・・いやこの体は・・・
よし、確かめてみるか。)
モミモミ
ドシッ
「ぐぉぉぉぉ、しかしこの感触、間違いなくワルキューレだな!!」
「・・・お前は人の胸を触らねば分からんのか?」
実は春桐魔奈美の姿のワルキューレに合うのは初めてな横島。
確信ができず思わずオイタをしてしまった。半分、確信犯ではあるが。
確認のためワルキューレの胸を揉んだ瞬間、ワルキューレから鉄拳を
横島は現在、頭を抑えうずくまっていた。いくら魔族といえどいきなりは
流石に不味いというものだ。
『で、魔界軍大尉がどうしたというのだ?』
「さっきも言っただろう。有休をもらったから骨休めに横島に会いに来たのだ。」
「俺にか!?・・・そうか据え膳食わぬは漢の恥というもの、母さん!!今日
忠夫は男になります!!」
いきなり暴走し始めワルキューレを部屋に連れて行こうとする横島。
ワルキューレは特に拒みもせずついていこうとする。前回、いつの間にか
うやむやになってしまった借りを返そうとしているのだろう。
『まっ待て!!ワルキューレ、おぬしそれだけで来た訳ではないだろ!?』
「そういえばそうだったな、横島よ。お前があのフェンリルを倒したというは
本当か?」
何故か、慌てて心眼がワルキューレに別の話題をさせようとする。
横島は勢いを止められたため、心眼を睨みながらどうやって倒したかなどを伝える。
「驚いたな、いつの間に文珠を使えるようになったのだ。まぁ何にせよ、
先日の出来事は軍本部でもそれなりに話題になっていたぞ。発信源が竜神界
というのが意外だったからな。」
「へ~ってまぁそんな事はさて置き、早くこっちに!!いざヴァルハラへ!!」
「ふっ、そうせかすな。余裕のない行動は嫌われるぞ。」
もう頭の中では一つの事しか浮かんでいないようだ。
鼻息を荒くさせてワルキューレを布団の方に引っ張っていく横島。
ワルキューレも結構乗り気のようである。しかしここで、
『・・・横島、せめて事に及ぶならバンダナを外してくれぬか?』
「ん?あぁ、確かにそうだなってなんか暗いぞ?」
えらくダークな声を出す心眼を心配そうに声をかける横島。
まぁそれでもバンダナを手際よく外しはしたが。
そんな横島と心眼のやり取りを見つめるワルキューレは何かを悟る。
「横島、期待させておいてすまないが、急用ができたみたいだ。礼はまたの機会に
させてくれ。」
「なっ!!そんな殺生なーーーー!!」
泣き喚く横島をよそに魔族形体に変化して、テレポートするワルキューレ。
最後に彼女が心眼の方を見て笑ったように見えたのは気のせいだろうか?
(くっ、なんと情けない。それもこれもコヤツのせい・・・なのか?)
真の敗者とは戦って敗北する者ではなく、戦場に立つ事さえ許されない者である。
キーンコーンカーンコーン
「あら、横島くん。久しぶりに青春しに来たの?」
「うぃ~す、そんな久しぶりか?」
学校妖怪愛子が久しぶりに登校してきた横島に笑顔を浮かべながら話しかける。
クラスメイトも横島の登場に騒ぎだす。曰く、死んだじゃなかったの!?
マグロ漁船に乗ったんじゃ!? 狼に食われたんじゃ!?等など。
一つ二つ真実に近いものがあったという事が横島の人生を物語っている。
「そういえば、今日はタイガーもピートもいないのか?」
「ええそうよ、昨日二人とも除霊があるって言っていたから今日は来ないんじゃない。」
そういうことで今回も出番が消えるピートであった。(タイガーも
「そういえば横島くんが学校に来ていない間にまた変な現象が起きたのよ。
今日の放課後、除霊委員として一緒に調査しない?」
「ん、そうだな。今日はバイトも入っていないし、あ~でも心眼がいないんだよな。」
ワルキューレが横島を訪ねてからしばらく妙に機嫌が悪かったというより
落ち込んでいた心眼。横島はわけがわからなかったが心眼が欲しがっていた
DVDを購入して機嫌をとることにしたようだ。そのため今日は心眼は
部屋でDVDを見ている最中である。
「好都合よ、たまには一人でするのもいいと思うわ。ええぜひそうしましょう!!」
何か、愛子が意味深な事を言ったようがするが横島には聞こえなかったようだ。
横島はあまり気乗りはしなかったが最後は愛子の勢いに負けて了承した。
授業も進んでいいき気がつけば放課後である。
横島からすれば授業中はほとんど爆睡だったので一瞬であっただろう。
「で、どんな現象なんだ?」
「えっ!?ええとこっちよ!」
愛子は何故か慌てた後、結局事件については何も言わず、横島を何処かに連れて
行こうとする。横島と机を背負った愛子、後ろから見たら実にシュールである。
二人が向かった先は音楽室であった。
横島は愛子に急かされ先に音楽室に入る。
ガチャ
何かの音がした後、愛子も横島がいる部屋の中央に向かう。
横島は念のため霊視を始めて部屋を見渡すが、愛子の妖気以外大したものは
感じられない。
「お~い愛子、何も感じねえぞ?」
「・・・え~とね。実は霊現象なんてどこにも起きてなくては本当は横島くんと
二人っきりで話がしたかったの。」
愛子は決心したのか、横島を見つめる。横島は愛子の真剣な顔に後ろずさってしまう。
その横島の行動がおもしろかったのか愛子は笑顔を浮かべながらピアノの所に向かう。
「覚えてるかしら?横島くんがメゾピアノの除霊の際、身をていして私を守ってくれた
事を?」
「んっそういえばそうだったか?まぁ体が勝手に動いただけだからな~。」
横島はあのときはとち狂ったナルシスト妖怪を倒すのに必死であったため
その時のことなどあまり覚えてなどいなかった。いざとなったらピートやタイガーは
ほっといて愛子だけは一緒に連れて逃げようと考えていたのは事実ではあるが。
しかし体が勝手に動く人間なんて、そんな人間世の中に何人いるのかこの男は
わかっているのか?愛子は自分の価値に気付いていない目の前の男に微笑む。
それに反応して、顔を赤くする横島。
「ふふふ、この前のバレンタインでの事覚えている?下駄箱にチョコが置いていたの。」
「あっ!!いっとくがなアレは断じて俺じゃねえからな!!」
その時は美神が横島の自演ということで片付けてしまいおかげで後でクラスの女子から
涙を流され励まされながら義理チョコを大量にもらったものだ。
「知ってるわ、だってアレは私のだもの。」
「へっ?・・・ぬぁんだとーー!!!だったら何で言ってくれなかったんやーーー!!! 俺があん時どれだけ惨めな思いしたかわかってんのかーーーー!!!」
暴走する横島。義理チョコを大量にもらったがあの時はもらえばもらうほど何故か
心が寂しくなってしまった。吼えまくった後、ようやく落ち着く横島。
「はぁーはぁー、でも愛子が俺にチョコを?・・・という事はもしかして?」
疑心暗鬼の目で愛子を見つめてしまう横島。
横島に見つめられて青春だわーーーといった顔になる愛子。
深呼吸をした後、
「・・・横島くん、今から青春しない?」
ブーーーーーー
横島の返答には具体的に答えずその代わり準備OKよ、な構えを取る愛子。
肝心の横島はそのセリフによって血の海に沈んでいた。だがすぐに復活する横島。
「あっ愛子ーーーーーーーーーーーーーー!!!」
「あ~青春だわ!!」
「あっ足が滑りました!!」
バタンッ
横島が襲い掛かった瞬間、扉が破壊される。
足が滑ったところでそんな事にはならないだろう?というツッコミはなしに
してもらいたい。
破壊されたドアの方には最近、この学校に転入した一年生、小鳩とセットで貧がいた。
「「・・・」」
「えっと、別につけてきたわけじゃないです!!ただ音楽室に忘れ物があって・・・」
「小鳩・・・」
絶句する横島と愛子。対照的にすごい勢いでしゃべりだす小鳩と涙を流しながら
見守る貧。何はともあれ、横島の貞操は守られたようである。
(折角鍵までかけていたのに・・・やるわね!!次はどんな手でいこうかしら。)
愛子嬢の挑戦は続く。
とある酒場での出来事である。
「マスター~聞いてくださいよ~。」
「お客様、もうそろそろ閉店なのですが?」
今日も元気に酔っ払う客。
その内、商店街のブラックリストに載ること間違いないだろう。
グラスを一杯あおり、ぷは~とした後、客の愚痴が始まる。
「今日、除霊帰りなんですけど、こんな時に限って横島さん学校に来たらしいんですよ~」
客は失敗したな~と呟いた後、さらに酒をあおる。
マスターは何も言わず客のやりたいようにさせる。
こういう仕事帰りの人間にはよくあることだと割り切っているのだろう。
「あ~そうだ、実は最近いろいろ考えた結果なんですけど~実はですね~」
ふふふっと怪しさ爆発でしゃべり続ける客。
「いい事思いついたんですよ!!僕がクラスの女子を噛んで配下に置く。
そしてその彼女たちを横島さんに謙譲するんです!!」
ガッツポーズを決めながらカミングアウトをかます大バカ野郎。
とうとう見境がなくなったのかとんでもない事考え付く。
「そうしたら、何が起きると思いますか?簡単ですよ!!出番が、
待ちに待った出番が来るんですよ!!」
すでにマスターは完全にひいている。しかしこれは客商売だ。
ただ引いてるだけじゃマスター歴20年がなくってもんよ。
「お客様、それはどうかと思いますが・・・」
「なっ!?何を言っているんですか!!あなたは僕がどうなってもいいって言うのですか!?そうなんですか!?そうなんでしょうね!!」
勝手に切れ始めて勝手に自己完結に走る客。
後ろを見てみたらいつの間にか他の客は帰ったみたいだ。
マスターはため息をつきながらこの酔っ払いに話の続きを求める。
「ああそうだ、話の途中でしたね。この作戦にはどちらに転んでも出番が
回ってくるというおいしい戦法なんです!!」
「ほほ~というと。」
客は右手で握りこぶしを作って声高らかに語る。
マスターは店の掃除をしながら適当に相槌を打つ。
「これで横島さんが喜んでくれるならそれで良し。万事次回から横島さんの
片腕として働けることになるんです。ああ、天災軍師、僕に相応しい!!」
「はぁ~そうですか。(字が違いますよ)」
客は段々とヒートアップしていく。今止めたら半殺しじゃすまないだろう。
マスターはすでに諦めの境地に入ったのか、今は掃除機をかけていた。
しかし客の声は掃除機の音をはるかに凌ぎうるさいことこの上ない。
「もし断られたらですって?それはですね~。」
(私は何も聞いてませんが?)
幻聴でも聞こえたのであろう。酔っ払いに何言ったって通じない。
チッチッチと指を振りながらもったいぶり次に進める。
「簡単ですよ、これを公然と公表していくんです!!そうすれば
Gメンが動きますよね!?そうしたらあのスケコマシがあの守銭奴に
依頼するじゃないですか!!」
酒の勢いとはコワイものだ。カミングアウト連発で話を進める。
酒によって本当の気持ちをぶちまける。本人はすっきりするだろうが
された方はたまったもんじゃない。
「そうしたら横島さんも動きますよね!?そしたら次は僕と横島さんの
全面対決ですよ!!横島さんとの死闘!!ああなんて甘美な響きだ!!」
もう周りから見たらいっちゃっている人にしか見えない客。
マスターは何処から取り出したかわからないが頭痛薬を飲み込む。
「死闘が終わったあと僕はこう言うんです!!”やっぱりあなたには
かなわないですね・・・さぁ横島忠夫、僕を殺せ!!そして君の心に僕を
刻み付けてくれ!!”ってね。」
いきなりイスから立ち上がったかと思えば、演劇を始める客。
マスターは頭痛薬だけでは足らないようで胃薬を飲み込んでいた。
「そして横島さんはこう言うんです。”バカ野郎!!俺はお前を殺しにきたん
じゃねえ!!お前を止めに来たんだ!!・・・さぁ一緒に帰ろう!!”
ああーーーー横島さん、僕はあなたに何処までも憑いていきますよ!!」
(だっだから、じっ字が違いますよ)
どうやら劇はクライマックスのようだ。ノリノリで劇を続ける客。
マスターは腹を抑えながら、顔を苦痛に歪めそれでも心の中では
ツッコまずにいられなかった。
「おっと、ちょっと熱くなりすぎましたね。あれマスターどうしたんですか?」
客はようやくかえってきたようで周りを見渡す。
マスターはいつの間にか電話をかけていた。
「いえ何でもありませんよ、お話の続きをどうぞ。」
「そうですか、でも僕、Gメン志望なんですよね~、そんなことしたら・・・
ああーーでもそうでもしなきゃ出番が!!」
マスターはもうどうにでもしてくれと言わんばかりの態度をとる。
客は相変わらずわけのわからぬ葛藤を繰り返していた。
カランカラン
店のドアが開いたようだ。
客はそれに気付かず頭を抱え悩んでいる最中である。
マスターは新たな来訪者に天使でも見ているかのような視線を送る。
「もしもし、君?」
「ああーーどうすれ、って何でしょうか?」
来訪者は客に向かってある手帳を見せ付ける。
途端に客は元々白い顔をさらに青ざめていく。
「どうやら、不審な言動を繰り返していたそうじゃないか?なんでも女子を
誰かに献上するとか、殺し合いをするとか、ちょっと署まで来てくれないか?」
「えっ?えっ?えーーーーー!?」
どうやら警察関係の人だったらしい。
客もすっかり酔いが醒めて慌てだす。必死に言い訳を繰り返すが
警察官はそのまま客の腕をとり連行していく。
「ちょっちょっとそんな!!・・・裏切ったな、タイガーと同じで僕の気持ちを裏切ったな!!」
訂正しよう。客は元から酔っていない。
頭がおかしくなってしまったようだ。
某三人目の名ゼリフを残し客は消えていった。
タイガーってそういえばピート差し置いて彼女作ってたしね。
「ふ~・・・かわいそうなひとだったな。」
マスターは客と警官が出て行った後、すぐに玄関に塩を巻いたそうだ。
ちなみに署では客の身元保証人である、最近さらに髪が薄くなった神父が怒っていた。
彼は一体何処まで逝くのだろう?
――心眼は眠らない その25・完――
あとがき
リクエストが来たので今回はワルキューレを出させていただきました。
しかし愛子嬢が一番人気ですか、以外ですな~。
言い訳ですが自分は客が嫌いなわけじゃありません、むしろ好きなほうです。
やっぱり魔鈴と小鳩はまた次の機会に書きたいと思います。
それと前回の黒シロ疑惑ですが、壊れですのでそこんとこよろしくお願いします。
なんとなく壊れが書きたかったので(シロファンの方、すみません。